ドライヴに行きませんか?

「グチャグチャのミンチにして、その汚ねえ肉片をこの丘にバラ撒いてやるぜッ!!」


獰猛。その言葉を似つかわしくした車を、目の前で呆けたように立ちつくす女に向かって、猛スピードで向かわせた。
車のサイズはトラックに等しく、車体は鉄よりも堅く、タイヤに生えたスパイクは岩をも容易く貫く。
その固まりをアクセル全開でぶつけるのだ。それはまさしく死の導きに相応しい。


「な、なにィィィィッ!!」


確実な未来を前にして、不思議と疑問の声が口から飛び出た。が、それも当たり前の話だ。
衝突寸前に、女がいきなり消えたのだ。驚くなという方が、無理なことだろう。
もしかしたら、車の下敷きになったかもしれない。そんな考えが頭にちらつくが、車にぶつかったのなら、何かしら手応えがあって然るべきだ。
しかし、そんなもはどこにもない。慌てて車を止めて、女の行方を探るべく、何度も首を左右に向ける。
そしてすぐさま女の居場所が、明確な形となって知らされた。眩いほどの光弾が横から勢いよく飛んできて、サイドガラスから出していた顔にぶつかったのだ。


「ひでぶッ!!」


衝撃により鼻と口から血が溢れ、痛みにより情けない悲鳴が漏れ出た。
それでも反撃を、と即座に攻撃が来た方向にハンドルを切るが、肝心要の女の姿はこちらを嘲笑うかのように消えてなくなっていた。
種も仕掛けも分からぬ不可思議な現象。だが、この車を前にして隠れ通すなど不可能なこと。
その証拠にと、異形と化した車が、更なる変形を行う。


突如として、車のヘッドライトが両サイドのドアに浮かび上がり、テールランプもヘッドライトのように眩しく輝やきだした。
僅かな時間で、これほどの車の改造は不可能なことだ。しかし、それを可能にし、車を自由自在に変化させることができる。
これこそドライバーであるズィー・ズィーのスタンド――運命の車輪(ホイール・オブ・フォーチュン)の能力。
夜が告げる暗闇を車の無数のヘッドライドで縦横無尽に隙間なく照らし出す。果たして女はどこに行ったか。


「あら、見た目に反して座り心地は良いわね」


疑問の答えはすぐに分かった。何故なら、女はいつの間にか車の助手席に座って、こちらに聞こえるようにシートの感想を述べていたのだから。
このクサレアマがッッ!! いつ忍び込みやがった!! さっさと下りやがれ!! 加齢臭がシートに移るだろうがッッ、このボケッ!!
そんなことを捲くし立てたかったが、残念ながら口から出てきたのは、こんな哀しい言葉だった。


「ひっ、ひぃ~~~、勘弁して下さい。もう逆らいません。だから、命だけは取らないでぇ~~」


事は単純だった。文句を言おうと女を睨みつけた瞬間、反対に女によって射竦められてしまったのだ。
冷徹さと残酷さを兼ね備えた女の鋭い目。絶対的強者にして、純然たる支配者。
ただ女の冷たい視線を受けただけで、そこにある圧倒的な隔絶にズィー・ズィーは気がつかされてしまった。
この女には勝てない。どうあがいても、蟻を踏み潰すように簡単に殺されてしまう。
それを悟ってしまった瞬間、化け物の如き巨大な車は、風船がしぼむかのように小さくなっていき、薄汚いランドクルーザーに変わり果てた。


「……精神を具現化した自動車? 中々面白い能力を持っているわね、人間」

「はい、そ、そうですぅ~」


ズィー・ズィーの心境の変化に連動した車の状態から、スタンドのことを見て取ったのだろう。
その様子からして、正確な呼称を知らないと見えるが、別段間違っていることでもないし、女の機嫌を損ねまいとズィー・ズィーは笑顔で何度も頷く。
それが功を奏したかは分からないが、次に彼の耳に入ってきた言葉は、大分険の取れた優しい口調のものであった。


「なら、ちょうどいいわ。自分で歩き回るというのも手間だと思っていたし……貴方、私の運転手になりなさい」


初対面にして随分な物言いだが、ズィー・ズィーは躾けられた従順な犬が主人に向かってするように勢いよく尻尾を振ってみせる。


「はい、喜んで~」

「良い心掛けね」

「あの、それで、どちらに向かえば?」

「そうねえ……」


女はそう言って、手に持っていた扇子の先端を唇の先につけ、憂いをのせた思案顔を見せた。
長く垂れ下がった金色の髪で影となっているせいか、よくは表情は窺えない。だけど、そこには美人と評せるだけのものが、既に散りばめられていた。
肌荒れなど知らぬとばかりに白磁のような透き通った白い肌があり、その上には幽谷に飾られる月のように円(つぶ)らな瞳が妖しく佇んでいる。
綺麗に鼻筋の通った下には一切の穢れは知らないという風に柔らかな唇が静かにかしこまっている。絶世の美女であった。
そんな至上の絵画にズィー・ズィーが見入っていたのに気がついた女は、程なくしてその顔に子供のようないたずらな笑みを浮かべて、からかうようにこう言った。


「……どうしましょうか?」


ドクン、と心臓が跳ね上がった。女の笑顔を見た瞬間、ズィー・ズィーの中にあった血は躍動し、顔を真っ赤に染め上げた。
それは常にはない、異様ともいえる変化だ。だけど、そこに嫌な感情は決してない。それどころか逆に歓喜が心に広がっていく。幸せが全身に染み渡っていく。
後に八雲紫と名乗ったこの女性。当初は、それこそ胡散臭いクソババアだと思っていた。だが、本当のところは違っていた。


この人は間違いなく運命だ。世界を正常なものとして作動させる己の運命の車輪なのだ。
自分は、この人と出会うために、この人と一緒に同じ道を歩くために、この世界に生れ落ちたのだ。
ズィー・ズィーは神託を受けた巫女のように、厳かに、静かに、そして喜びと共にその事実を受け止めた。


ズィー・ズィーの胸の高鳴りに伴って、再び車は変形を始める。
無骨なランドクルーザーはメリーゴーラウンドの馬車のような形となり、その車体には夢の国のナイトパレードのように派手なイルミネーションが飾られた。
そして仕上げとばかりにリアバンパーから糸がぶら下がり、その先では無数の空き缶がぶつかり合い、音を鳴らし合っている。


ズィー・ズィー。運命の出会いを迎えた彼は、この悲惨なバトルロワイアルの中で、まさしく幸せの絶頂にあった。


【E-2 平原/深夜】
【ズィー・ズィー@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:鼻血ダラダラ、口から血がドボドボ、喜びで胸が一杯
[装備]:ランドクルーザー@第3部(ガソリン残量 99%)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:運命(八雲紫)に従う
1:幸せ~~ !!
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲紫を運命の相手だと思っています



【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:さて、どうしようかしら?
1:目的地の選定
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。

<ランドクルーザー>
ジョースター一行がズィー・ズィーとの対決の際に乗っていた車。
パワーと耐久性で世界に名を馳せたSUV。

021:水妖 投下順 023:北風と太陽
021:水妖 時系列順 023:北風と太陽
遊戯開始 八雲紫 051:廻る運命の輪
遊戯開始 ズィー・ズィー 051:廻る運命の輪
最終更新:2013年11月05日 22:18