荒木と太田に魔の手によって始まった殺し合いの舞台C-3地点、霧の湖。
その北方、ジョースター邸よりやや離れた川沿いに、一人の少女が川面を横目で見ながら
霧の湖を目指して走っていた。
少女はかなり小柄で青色の短めのツインテールと瞳、機械整備士の作業着に似た服を着ていた。
少女の名は
河城にとり。
殺し合いの参加者にして、河童という人ならぬ水棲妖怪だ。
「周囲に誰もいないよな」
にとりは湖から2メートル離れた所で立ち止まると、息を荒げながらそう呟いた。
彼女は地面に胡座をかきつつ、ポケットの中から『エニグマの紙』があるのを確認する。
紙を開封し、その中身の量に軽く驚きながらも、通背が無かったのに彼女は落胆する。
「……ちっくしょー」
通背とはかなり大きめなリュックサックといった外見だが、リュックと違って入れ物以外の用途があり、
多くの場合河童の高い機械技術を詰め込んだ武器でもある。
殺し合いの説明に準すれば没収されて然るべきなのだが、当然にとりの心中は穏やかでは無い。
基本的に河童の身体能力は陸上においては人間並みで、独自の道具を使わなければ妖怪の中でも弱い部類だ。
にとり自身、最近の異変に大きく関わったこともあり、戦闘経験は十分にあるが、
これから先、鬼や神や天狗といった強い種族とやり合うと可能性があると思うと
生還は至難の業と感じられた。
「あー、服も光学迷彩仕様じゃ無くなっているじゃないか」
服を引っ張ったりして、姿を消せる便利な装備でない事もにとりは確認する。
今、彼女が着ている服は河童製の服だが、特に何の力も無いものだ。
通背を留める鍵型の留め金の付いたバンドは残されていたが、別に利点にはならない。
心細さを抱えながら、なおもにとりはポケットを探って『エニグマの紙』を探す。
そしてさらに紙を見つけた。
「……二つか」
基本支給品以外の紙は二枚。
せめて河童製のアイテムであるのを祈りつつ早速にとりは紙を開けた。
ゴトッと重い物が落ちる音がした。
にとりはすぐにランダムアイテムとその説明書を拾って見ると、軽い驚きで目を見開いた。
「うお……これって」
それは幻想郷の外にある武器、それも近代に制作されたものだった。
説明書を読むにつれにとりは興味に口をゆがませる。
そんな時だった、前方から水しぶきが上がったのは。
にとりは慌ててランダムアイテムと説明書をエニグマの紙に仕舞った。
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気が付けば霧が立ちこめる湖の浅瀬に
フー・ファイターズと呼ばれる存在はいた。
フー・ファイターズもまた多くの参加者と同様に殺し合いの舞台に転移させられ、
状況をある程度でも把握した上で支給品を確認し、今後の方針について考えを巡らせた。
フー・ファイターズは覚えている。
気を失う前の、荒木と太田という男から殺し合いの催促と説明をされた事を。
その前の事も覚えている、の二人の女性と戦っていた時の事を。
フー・ファイターズは会場に連れてこられる前、二人の女性に追い詰められ、頭だけの状態になっていた。
今は五体満足だが、それで気が晴れるわけでは無い。命が惜しいのとは少し違う。
自らを生み出したスタンド『ホワイトスネイク』から警備を任された20枚を超えるスタンドDISCが無かったからだ。
フー・ファイターズはホワイトスネイクによって生成された、スタンドDISCと記憶DISCによって、
自我と知性とスタンド能力を与えられた微生物の集合体である。
フー・ファイターズにとって、それらのスタンドDISCは自らの存在の証でもあり意義でもあった。
生物学上、プランクトンに高い知性と自我はない。集合したとして何も変わらない。
それ故に人と変わらない知性を与えてくれたDISCに強い愛着をも持っていた。
だから所持品を全て没収されたと聞かされた時は
(会場に連れてこられる直前にエルメェスに持ち去られようとしていたが)焦っていた。
だが、すぐ側に浮いていた、エニグマの紙入りビニール袋を認めると、丁寧に慎重に中身を確認し、
ひとまず安堵した。
全てではないが、ランダム支給品は自分が守護していたスタンドDISK八枚だったからだ。
説明書もついておりそれによれば、他のスタンドDISCもランダム支給品として、
他の参加者も所持しているというではないか。
つまり最悪でも優勝さえすればスタンドDISCを全て取り戻せる。そう、希望を抱けたのだ。
正直、勝手に没収されて、不快な気持ちもあるが、元々あの徐倫達に敗れかけていた事を
考えるとある程度許容できる。
より一層、奪還する意欲が湧くというものだ。
参加者名簿を見る限り知った名は、さっきまで戦っていた(はずの)二人の女性――空条徐倫と
エルメェス・コステロのみ。
そもそも敵同士で殺害に抵抗はない。
しかし同時に困惑したこともあった。
それはランダム支給品の説明書にスタンドDISCとは関係ない、荒木と名乗る男のメッセージが
書かれていたからだ。
意味の無い言葉の羅列ではないし、フー・ファイターズにとっても参加者にとっても
有益になると取れる内容だが、意図が読めなかった。
フー・ファイターズはとりあえず結論を後回しにし、支給品をエニグマの紙に仕舞った。
紙をビニールに再び入れ、湖の近くに隠す。
そして湖に潜み、参加者を待ち伏せしようとした矢先、偶然視界に小柄な人影を見つけた。
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水面から突き出た二本の黒い腕はにとり掴もうと迫っていた。
だが早く反応したにとりは後ろに飛んで距離を取た。
腕の動きが止まった。
「何のつもりだよ!」
ドスの効いた声で威嚇するにとり。
しかし腕は動きを止めたまま反応は無い。
にとりは視線をそらさず両手を前にかざす。
妖力によって弾幕を射出する準備だ。
突如、両腕が伸び、しなるようににとりへ迫る。
にとりは更に後方へ跳んで回避し、水色に輝くエネルギー弾を4発弾かれたように撃つ。
狙いを定めなかったからか、いずれの弾も当たらない。
そして黒い両腕は何とぽとりと腕だけ地面に落ちる。
狙いを付けようとしていた、にとりの表情が軽い困惑に変わる。隙ができた。
次の瞬間、大きな水しぶきが上がり、黒い大きな人型が現れ、高速度でにとりに迫る。
「ひっ」
悲鳴を上げながら、横っ飛びにタックルをにとりは回避する。身体の前面が地面に落ちる。
強い風と死の匂いを感じた。
視界の橋に入ったのはにとりが見た事のない、出目金の様な顔をした黒っぽい細い人形。
河童から見ても明かな異形だった。
にとりは恐怖に身体を震わせながらも慌てて身を起こす。もう一度、攻撃されれば回避する自信は無い。
あのスピードだと力も強いかも知れない。通背がない今、掴まればアウトと彼女は恐怖を押し殺し攻撃を即断。
そして土埃に構わず最速かつ全力の、十を軽く超える数の弾の通常弾幕を射出する。
それは幻想郷で奨励される決闘法『弾幕ごっこ』を度外視した、いわゆる美しくない弾幕。
今のにとりには余裕が無い。だが、それだけに、あくまでそれなりの速度と威力はある攻撃。
それに対し、『異形』は慌てる様子もなく高速度のパンチの連打で、弾幕を破壊しようとする。
だが――
「ギャアアアアアーーーーーー!」
十を超える小規模の発光と炸裂音と共に『異形』の両腕は黒い粉をまき散らしながら半壊し、
顔と胴体にも傷を負う。
「よっし!!」
にとりは笑みを浮かべて下がり距離を取った。
実体のある弾幕と勘違いしたんだろう、そうにとりは解釈した。
にとりは弾幕に水や発明品の攻撃を取り混ぜる事があるが、基本的に弾幕は低威力ながら実体のないエネルギー体。
単純な(実は今のはあまり単純では無いが)物理攻撃で払いのけられるものではない。
にとりは弾幕で追撃をかけようとせず、ランダムアイテムが納められた紙を取り出し、使用する準備を始める。
弾幕では相手を倒しきれないと判断したからだ。
にとりは恐怖に身体を震わせながらも慌てて身を起こす。もう一度、攻撃されれば回避する自信は無い。
あのスピードだと力も強いかも知れない。通背がない今、掴まればアウトと彼女は恐怖を押し殺し攻撃を即断。
そして土埃に構わず最速かつ全力の、十を軽く超える数の弾の通常弾幕を射出する。
それは幻想郷で奨励される決闘法『弾幕ごっこ』を度外視した、いわゆる美しくない弾幕。
今のにとりには余裕が無い。だが、それだけに、あくまでそれなりの速度と威力はある攻撃。
それに対し、『異形』は慌てる様子もなく高速度のパンチの連打で、弾幕を破壊しようとする。
だが――
「ギャアアアアアーーーーーー!」
十を超える小規模の発光と炸裂音と共に『異形』の両腕は黒い粉をまき散らしながら半壊し、
顔と胴体にも傷を負う。
「よっし!!」
にとりは笑みを浮かべて下がり距離を取った。
実体のある弾幕と勘違いしたんだろう、そうにとりは解釈した。
にとりは弾幕に水や発明品の攻撃を取り混ぜる事があるが、基本的に弾幕は低威力ながら実体のないエネルギー体。
単純な(実は今のはあまり単純では無いが)物理攻撃で払いのけられるものではない。
にとりは弾幕で追撃をかけようとせず、ランダムアイテムが納められた紙を取り出し、使用する準備を始める。
弾幕では相手を倒しきれないと判断したからだ。
「うわ……あ……」
逃げようにも足も思うように動かない。
『異形』が両腕を広げ、にとりに掴みかかろうとする。
死の予感がにとりの顔色を白くさせる。そして……
「……!」
前触れも無く『異形』の指先が崩れた。
「フーフォ……?」
『異形』は困惑した様子でしばし崩れた指を眺めていたが、
気を取り直したかのように今度は右足を1歩踏み出す、踏み出した足先が崩れた。
「フォ……フォッ!??」
「何だこりゃあ!?」
にとりはじりじりと後ろに下がりながらエニグマの紙を手に取る。
『異形』は視線をあちこちに向けながら何もできないでいる。
その隙に調子を戻したにとりは、ランダムアイテムの入ったエニグマの紙を開封する。
出てきたのは携帯放射器。現代日本の自衛隊にも使用されている火炎放射器だ。
にとりは初めて使用するとは思えないほどの動きで、放射器の照準を『異形』へ合わせる。
『異形』は顔を止め、回避しようとする。
それと同時に放射器は発動した。
「ギャアアアアァアアーーーーーースッ」
『異形』の上半身へ放たれた炎はすぐさま着火し、瞬く間に全身に燃え広がる。
にとりは油断せず、火炎放射器を構えながら、徐々に後退する。
水しぶきの音がした。
それに構わず炎をさらに『異形』へと放つ。
「……ッ、……ッ」
炎にまかれ『異形』の形が崩れ、縮み消えてゆく。
『異形』の背後にあった物体も、動きを止めている。
「……」
にとりはしばし足早に後退していたが、踵を返し全力で逃げた。
何かが一つ、高速度で顔の横を通り過ぎたが、構わず逃走に専念した。
もう一体の『異形』は追ってこなかった。
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フー・ファイターズは微生物の集合体。
水分さえあれば、ほぼ本能のみで動く存在だが、自立行動ができる分身を作り出すことができる。
スタンドの力を持った新生物といっていい存在で、分身を使役するのに距離に影響は受けない。
だが、ここでは……
「これが制限か……」
己の分身の燃えカスを遠目に見ながら、分身と比べて端整な顔立ちの
フー・ファイターズの本体は冷静に自身と戦闘の分析を行っていた。
「本体であるわたしから7メートル離れた途端、分身が崩れ始めた。
本来ならあり得ない。そして……」
深く息を吐くように胸を上下させる。
水分は十分補給しているのに、何故か少し身体が鈍い。
水分を失ったのとは異なる、生物の身体に寄生し動かしていた時に僅かに覚えた感覚。
「これは疲労……か」
制限は二つ、分身の有効行動範囲の短縮、そして大増殖によるスタンドパワーの消耗。
「参ったな……」
フー・ファイターズは有機体――人間等の生物に寄生する能力を持っている。
フー・ファイターズはスタンドDISCの所持の有無の確認と肉体の乗っ取りの為、
あの青色服の少女――河城にとりを分身に襲撃させたのだ。
痛めつけて動きが鈍くなってから相手の肉体と精神を乗っ取る算段だった。
むき出しのプランクトン集合体のままでは、活動がかなり制限される。
水が無ければ増殖が不可能な上に、本体の維持も困難だ。
乾いた地面を歩くだけで徐々に足が崩れていくくらいだ。
このままでは殺し合いからの生還は非常に難しい。
だからこそ、あの少女の肉体がほしかったのだ。
生物の水分を使って自由に活動する為に。
「……墓場を目指すのも選択に入れた方がいいかもな」
ランダム支給品の説明書には支給品であるスタンドDISC八枚についての
『このDISCを頭に差しても、スタンド能力は使えません。外れです。
ただし全部集めると良いことがあるかもね』などの説明文と
『墓場の墓をよ~く調べると君達の……みんなじゃないけど、勝ち残りに有利なものが
見つかるかもね』という、スタンドDISCとは関係の無い記述があった。
どういうつもりでランダム支給品にそういう事を書いたのか見当が付かなかった。
死体を操れるスタンド使いが複数参加しているのだろうか?
そう疑問に思いながら、フー・ファイターズは湖に身を躍らせた。
自らの支給品を取りに行くために。
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河城にとりは妖怪の山の麓にある玄武の沢を目指し、川沿いに歩く。
目指すはあるかも知れない河童のアジト。
にとりは殺し合いの舞台が幻想郷そのものとは思っていない。
ただ、わざわざ幻想郷に実在する施設を同名のものを用意するという事は、
ある程度でも元の幻想郷に似せようとしているからだと推測している。
支給品に相当するアイテムは無くとも、工具や製造機械があるかも知れないという
淡い期待を抱いての行動だ。
当てが無い状況だった。
だが絶望はしていない。
さっきの異形がまた襲撃してきても切り抜ける自信ができたからだ。
にとりのもう一つの支給品、銀の円盤らしきもの――F・Fの記憶DISCから
さっきの異形を初めとする外の世界の情報をいくつか得た。
会場にて参加者の中に外の世界らしき男が何人もいたのをにとりは覚えていた。
所謂幻想郷における外来人は、ほとんどが妖怪の獲物として人知れず消えていくが、
会場にいた連中は見るからにただ獲物にされるだけの弱者には見えなかった。
その中には記憶DISCにいた人間も混ざっているに違いない。
得た情報を上手く活用できれば、利用できる人材を得られるかも知れない。
そう彼女は思っていた。
河城にとりは進む。
参加者の中に真に親しい者がいなくても。
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【C-3 霧の湖内/深夜】
【フー・ファイターズ@【第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:プランクトン集合体(むき出し)、疲労(小)
[装備]:なし(本体のスタンドDISCと記憶DISC)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集める。基本手段は選ばない。
1:水中に隠した基本支給品とランダム支給品を取りに行く。
2:DISC回収と寄生先の遺体の確保の為、隙のある参加者を中心に襲撃する。
3:墓場を目指すか、あるいは……
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇すれば決着を付ける。
[備考]
※ 基本支給品とランダム支給品は比較的浅い湖の底に隠しています
※隠しているランダム支給品は『ジャンクスタンドDISCセット2』と
『不明支給品(現実)』です。
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5~10メートル以上離れられないのと
プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
【D-3 廃洋館付近/深夜】
【河城にとり@東方風神録】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲(軽度)
[装備]:火炎放射器
[道具]:基本支給品 、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:自分から殺し合いはしないが、危険が減るなら殺害も視野に
2:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する
3:通背を初めとする河童製のアイテムがほしい
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼にとりルート終了後です。
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
<携帯(火炎)放射器・ロワ仕様>
河城にとりに支給。
現代、自衛隊で使用されているM2火炎放射器の改良型。
外見が従来の物とは少し異なるが、性能に大差は無い。
異能力はない。説明書付き。
<F・Fの記憶DISC(最終版)>
河城にとりに支給。
プッチ神父に殺され奪われたF・Fの記憶DISC。
プッチ神父が化けた偽ウェザーに襲撃されるまでの記憶が残っている。
<ジャンクスタンドDISCセット2>
フー・ファイターズに支給。
フー・ファイターズがエートロの遺体に寄生する前から守っていたスタンドDISC八枚。
プッチ神父がスタンド使いを殺害しながら生成したきたもの(数えてみたら全部で二十三枚あった)。
参加者の誰が使用してもスタンド能力は利用できない仕様。
説明書付き。
それぞれの説明書かスタンドDISC内に、主催者から参加者にとって
(ゲーム進行に置いて)有益な情報が一つ入っている。
このDISCセットには墓場についての情報が記載されている。
全部集めた人には何か良いことが(荒木談)
最終更新:2013年12月29日 21:03