獣人スレ @ ウィキ

スレ10>>244-250 牛乳会

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silvervine222

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牛乳会


 「みんなで飲めば大丈夫だニャ」

 ミケ、クロ、そしてコレッタの仲良し三人組がそれぞれ牛乳瓶を持ってお昼休みの教室に固まっていた。きんきんに冷たくなった
牛乳瓶は冷や汗をかきながら、佳望学園・初等部のお子たちの手に収まる。じわじわと彼女らの浅い手の毛並みを濡らしてゆく。
 勝気なクロ、マイペースなミケ、そして不安げなコレッタ。彼女らが挑まんとする相手は『牛乳』。そう、白くて舌触りのまろやかな
地上に生きとし生ける者が口にする『しろいえきたい』。くんくんとにおいを気にするのは白い子ネコのコレッタだ。
 みんなで牛乳を飲もうね。彼女らが始めたのが『牛乳会』であった。会の始まりのきっかけはコレッタだった。
いくら瓶の口のにおいを気にしても仕方がないことは分かりきっているのに、コレッタはくんくんと鼻を鳴らす。それをバカにするのは
決まってクロだ。クロはコレッタに焼いてか、上履きの足でコレッタのすねを蹴る。『しろいえきたい』を零さぬように、しっかりと
牛乳瓶を握り締めるコレッタだが、どうしても牛乳を飲むことができない。

 「コレッタが『苦手な牛乳を飲みたいニャ』って言うから、『牛乳会』を作ったニャよ」
 「でも、でも……」
 「ほら、コレッタ。葉狐ちゃん」

 クラスメイトの子ギツネ、二葉葉狐(ふたばようこ)が窓際で彼女らを眺め、自慢の尻尾をいじりながらけらけらと笑っていた。
夏に入りかけた、皐月のおわり。クラスの子たちの制服はみな薄くなってきた。そのなか一際目立って、子供を感じさせない子がいた。
それが二葉葉狐だった。明るい髪を短くまとめ、たわわな尻尾を揺らす姿は大人顔負け。噂によると、小学生向けのファッション誌への
読者モデルへの推薦が密かにあったらしい。あくまで噂なのだが、それさえ真実として受け止められるスタイルは評価されるべきものだ。
 白いワイシャツに映える赤いリボン。胸元は女子の自慢なんやで、と葉狐はスカートの裾を握る。ちらりと見せる太ももがキツネ色。
日に日に濃くなる影が床に映る。まだまだ年端のいかない子供なのに、かどわかされても仕方がないとしか言いようがない色気。
彼女の明るい性格が周りに夏の花を咲かせる。葉狐が笑えば、つぼみやって咲かせてみせるや、と。
 「もう、夏なんやな。今年も水着でみんなの視線、集めたるねん」
 彼女独特の関西風味の訛りも、人をひきつける魅力の一つであった。

 「コレッタ!」
 「ニャ、ニャ!!」
 「いくニャ!せーのっ」

 純然たる『ろりっ娘』体型を気にしてか、牛乳会の趣旨をすっかり忘れてしまったコレッタ。気が付くと、ミケとクロは既に牛乳瓶を
口につけてごくちごくりとのどを鳴らしながら飲んでいた。たらりと白い筋が黒ネコのクロの口元を汚す。白と黒の不協和音。
牛乳瓶はガラスで出来ているので一気飲みには不都合だ。微妙に瓶の口を開けて空気を入れながら体の中に流し込む。体を揺さぶって
流れるように牛乳を飲み込むテクもある。それは、給食をバトルに変えてしまうお子さまな男子がやる手法だ。女子には女子の頂き方。
品よく、誰からも愛される頂き方をしなくてはならない。未来のれでぃーたちはタイヘンなんですニャ!とクロは語る。
しかし、淑女と呼ぶには何千メートルと遠すぎるクロは、ぎこちなく飲んでいるだけで絵になるのであった。
 コン!と机の音が響く。飲み干して空になった牛乳瓶の底が机にあたる音。はあ、とクロが吐く息は牛乳の香りがした。
無意識に口元をぬぐうクロの手は、少し牛乳くさい。牛乳会・リーダーということを差し引いても、残念なこと。いや……。
それがむしろ、よいではないか。という御仁もいらっしゃることだろう。誰とは言わないが。

 「にゃはははは!コレッタたら、お子さまだから牛乳飲めないんだニャ!」
 「の、飲めるニャよ!お子さまじゃないニャ!」
 本当か、コレッタ。お前の牛乳瓶は未だに満たされてるではないか。
 「じゃあ、わたしたちの前で飲んでみるニャよ」
 「うぐぅ……」
 クロに遅れて牛乳を飲み干したミケがぺろりと口元をなめる。クロよりかは上手に頂いたようだった。
コンという瓶の音がいくばくか控えめ。ごちそうさま、とお辞儀をする姿が大人に近づく。

 「美味しかったニャ!ね、コレッタ」
 「ぎゅ、牛乳なんか飲めなくても……せくしーになれるニャね!葉狐ちゃん……あれ」
 「コレッタ。葉狐ちゃんは呆れてどこかに行ったニャよ」
 目を潤ませながらコレッタは尻尾を揺らしていると、それを手に付いたにおいを気にしながらクロが笑う。
ミケが気をとられてクロの指先を甘噛みしようと首を伸ばすと、すかさずクロはミケをねこぱんちした。
机の上には空の瓶が二つと、牛乳が満たされた瓶が一つ。教室はのんびりとした昼休み。雲が日に日に厚くなる。

 その頃、コレッタは一人で保健室に走っていた。
 理由はない。とにかく、誰かにすがりたい。はっと思いついたのは保健室の白先生だ。同じネコ同士だから
自分のことを理解してくるかもと、勝手な解釈で動くからだを止めることが出来ず、ぱたぱたと廊下に足音を響かせる。
金色の長い髪がふわりと舞う。尻尾を立てて走る。廊下の隅っこを駆け抜ける。職員棟にたどり着き、保健室近くに来ると
足が止まった。にゅうっと尻尾がよれてゆく。聞き覚えのある声がするではないか。

 「あの声……ニャ」
 耳を立てる。上靴と靴下を脱いでそっと肉球を踏みしめて扉に近づく。音を立てないように。

 「もうすぐ、コレッタがやって来るさかい……白先生、お願いすんで」
 「二葉、分かった。とびっきり美味いカフェオレ作ってやるから安心しろ」
 「全くコレッタったらお子さまや!」

 あまーい、あまーいカフェオレなんかよりも、牛乳が飲めなかったことよりも葉狐がコレッタの行動を見透かしていることに
コレッタは目を丸くしていた。くやしいから保健室の扉に爪を立てようとしたけども、大人な『れでぃー』を目指すコレッタは
それを控えることにした。よく見ると、扉には思ったより多くの爪の跡が残っていた。誰もが通る道なのか。
 扉に耳を当てると葉狐の声が聞こえてきた。おしゃべりな葉狐はどこにいても目立つ子だ。

 「お願いやけど、コレッタにはあたいがここに来てたことを教えんといてくれへんやろか」
 「ほうほう」
 「コレッタは紛れもなく牛乳を飲んだんや、カフェオレでやけどな。でもそれを白先生が見た言うたらそれ証言になるし、
  あたいがノータッチ言うたら証拠も残らへんしな。空の牛乳瓶見せたらええやろ。頼むで、白先生。いや、白おねーさん」
 ぺろっと舌を出しながら、葉狐は自慢の胸を白先生の腕に当てていた。


 「全く二葉は。どこでそんな知恵付けたんだ」
 「そんな作戦、100年前から考えとったわ!」
 むしろ、嬉しそうな声色で白先生はコーヒーを沸かし、同時に保健室の冷蔵庫から取り出した新鮮な瓶詰め牛乳を鍋で温めていた。
IH調理器にかけられた鍋に牛乳がくるくると、その側ではサイフォンからはドリップされた褐色のコーヒーがこぽこぽと。
一滴、一滴しずくをたらす様子を葉狐は目で追っていた。大人びた視線ではなく、見るものすべてが新鮮な子供そのもの。
白先生「お前にブラックはまだ早いよ」と葉狐をからかうと、すかさず「ウチは宇治茶が好きなんや!」と返す。
その表情がなんだか嬉しかったのか、白先生はにまにまと笑っていた。それでも、ただでは起き上がらない葉狐。

 「でも、白先生もコレッタが来るからやる気出したんやろ?」
 「う、うるさいっ」
 「白先生、赤くなったで!ほな、あたいは教室に帰るさかい……」
 と、噂をすれば影。保健室の扉を開くと、金色の長い髪のネコと出会った。

 「葉狐ちゃんニャ」
 「ウ、ウチはな……ぽんぽんが痛くなっただけや!」
 その割には元気すぎるとコレッタが疑う隙を与えずに、ぺろっと舌を出した葉狐は保健室からたわわな尻尾を揺らしながら
駆け出していった。一方、裸足で立ちすくむコレッタに白先生は心ときめかせていた。サイフォンがのどを鳴らす音だけが響く。
白い制服、白い毛並み、高級なシルクのような金色の髪。白先生を惑わす一人の子ネコ。ささ、美味しいカフェオレがお待ちですぞ。
 「なんだか、いい香りがするニャ」
 「コレッタ、牛乳苦手だろ。カフェオレ作ってやるからな」

 『牛乳』の一言でコレッタの脳裏に牛乳会のことが甦る。
 「ぎゅ、牛乳なんて温めなくても飲めるニャ!」
 「うそつけ」
 「『うそつけ』って……。でも、どうしてそんなこと知ってるニャね?」
 南無三。
 白先生、葉狐の口調を思い出しながら、頬を赤くして。

 「100年前から知っとる……わ!」
 コレッタは目を白黒させながら、コーヒーの香りに包まれる。

 教室に戻った葉狐を待っていたのはクロとミケだった。
 二人の間では、すっかり牛乳会のことはお開きになっていた。ミケが持ってきた小学生向けのファッション誌を捲りながら
夏の洋服についてクロとお話している途中だった。このスニーカー、かわいいニャとか。お泊り会したいニャとか。
それよりも、二人が気になっていたのは葉狐の胸だった。実際、近くで見ると大きい。同じ小学生同士なのにと、収まりが付かずに
自分のものと比べてしまう悲しさ。それさえ手に入れれば、ファッション誌のようなコーディネートで友達から差をつけられるのに!
 「葉狐ちゃんニャ……」
 「牛乳会はどないしたん」
 「きょうはおしまいニャ」
 残念そうな素振りを見せながら葉狐はポンと手を打った。

 「そうなんや。あたいも牛乳会に入りたかったわ」
 「ニャ?」
 「あたいも牛乳、苦手なんや」と言いながら、ぺろっと舌を出した。


 おしまい。

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