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スレ2>>772-775 1ヵ月後の憂鬱

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スレ2>>772-775 1ヵ月後の憂鬱



「どうした? 来栖? 顔が青いぞ?」

いつものように馬が、座っている鹿の肩を豪快に組む。
細身の鹿は押され気味になりながら、肩を組み返す。

「呼び出し食らった」
「だれに?」
「サン先生」

来栖は食べかけの弁当をしまい、机に突っ伏した。

「来栖?」
「いやだ、職員室に行きたくない」
「どうしたんだよっ! サン先生なら怖くないだろう、梟と違って」
「怖いわけじゃないさ。だいたいこの時期になると呼び出される」
「え? 何? テストの点なら俺の4倍だっただろ? 何を恐れている?」
「ほっといて…」

塚本は塞ぎ込んだ来栖をどうすることもできず、
窓際のヒーターの鎌田に相談するのであった。

「おい、起きろ」
「おきてるよ」
「来栖が変なんだ、ライダー! 何があったのか知らないか?」
「ああ、来月のクリスマス会じゃないの? 来栖はトナカイにされるんだよ、毎年ね」
「なるほど」
「サン・タクロースの載った台車(そり)を引く来栖は、絵になってると思うんだけど
 来栖はさ、人前に出るのがあんまり好きじゃないみたいだしねぇ」

「トナカイ、聞いたぞ!」
「うるさいなって」
「いやいや言ってたって始まらないだろう、職員室行くぞ!」
「……はいはい」

~~~

廊下に出ると、冬の空気。
鹿馬ロの三人は職員室に向けて出発した。

「寒いよ、なんで僕まで」
「俺たちは鹿馬ロだ、寒さごときでヘコタれるな、丹前!」
「もー、丹前とかライダーとか」

鎌田はブツクサ言いつつも結局ついてくる。
来栖は肩を落としたまま。

「塚本、やっぱり嫌だ。 帰る」
「逃げるのか? 男だろ!」
「塚本には、分からないよなっ! あの惨めな気持ち」
「怒んなって」

職員室までの遠く冷たい道のりを、三人は進む。
曇った窓ガラスに、あざけ笑うような落書きがされてある。

沈黙を、鎌田が破った。

「最近の初等部がえげつないのは、知ってるよね」
「そうか?」
「塚本って、忘れっぽい?」
「いや?」
「まぁいいや、話を戻すね。 これは利里から聞いた話なんだけど、
 来栖は毎年、鹿だ鹿だって雪ぶつけら」
「いうな!! 散々だよ。 ガキはもう勘弁だから」

震えた声が廊下にこだまする。
視線を集める鹿馬ロ。

「ちょい待ち、なぜに利里がそんなこと知ってるんだ?」
「ああ、妹でしょ。 保護者同伴、みたいな?」

~~~

「サン先生、連れてきやした」
「いやぁ、ご苦労」

体に似合わない大きな椅子にチョコンと座ったサン先生は
コーヒーを飲んでくつろいでいた。

「先生、勘弁してください。 トナカイいやです」
「だって来栖、トナカイじゃん」
「鹿です! 似て非なる存在です!!」

職員室に悲痛な叫びが響き渡り、昼休みの聴衆はクスクスとざわめいた。

「じゃあさ、こうしよう。 来栖は数学の成績が上から四番だったよね」
「は、はい?」
「でもこの前のテスト、ものすごく初歩的なミスを犯しているから本当は0点でしょ」
「うぁ……それは」
「トナカイやってくれないなら、0点に戻しちゃうよ。そんで、名前欄書き忘れたこと、みんなに言いふらしちゃうから」

後ろで「ぶはっ」と噴出する塚本。
無言でヒーターにあたる鎌田。
もうお終いだ。 来栖は全身から魂が抜けるのを感じた。

「トナカイ役は、来栖が一番型にはまってるの。頼りにしてるよ」

サン先生は、大きな三角定規と名簿を持って行ってしまった。
笑いの止まらない塚本と、ぬくぬくしている鎌田と、放心状態の来栖。
しばらくして、昼休みの終了を告げるベルが儚く校内に響き渡った。


「がんばれよ、トナカイ!」
「……」

日常は変わらない。 ただ、
テスト前になると毎回教師陣から、
名前欄をしっかり確認するように注意が喚起されるようになった。




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