要とかなめ
「ひやぁー助かった助かった」
「保健室送りがけっこう出たな……」
「あれ? ライダーは?」
「ライダーも保健室」
「まじか」
「保健室送りがけっこう出たな……」
「あれ? ライダーは?」
「ライダーも保健室」
「まじか」
鹿と馬は、いつもと同じ静かな教室で昼食をとる。
開け放たれた窓から吹き込む風に踊るカーテン。
読書をする者。宿題に着手するもの。昼寝をする者。携帯をいじる者。
こういう何気ない時間が幸せなのかもしれないと鹿は思った。
調理実習の戦慄を乗り越えたいまだから言える。 平和だ。
開け放たれた窓から吹き込む風に踊るカーテン。
読書をする者。宿題に着手するもの。昼寝をする者。携帯をいじる者。
こういう何気ない時間が幸せなのかもしれないと鹿は思った。
調理実習の戦慄を乗り越えたいまだから言える。 平和だ。
「噂によると俺とおなじ名前の奴がいるらしいぜ、どっかのクラスに」
「くるすちゃん?」
「かなめだよ、来栖は苗字だから」
「おまえ、かなめって言うのか」
「ん、意外と知られてない」
「ライダーの名前知ってっか? 2ちゃんねるの管理人と同じなんだぜ」
「違うだろ、それはひろゆき。ライダーはゆきひろ」
「くるすちゃん?」
「かなめだよ、来栖は苗字だから」
「おまえ、かなめって言うのか」
「ん、意外と知られてない」
「ライダーの名前知ってっか? 2ちゃんねるの管理人と同じなんだぜ」
「違うだろ、それはひろゆき。ライダーはゆきひろ」
得意げに間違える馬に呆れつつ、鹿は先端が少し欠けた角をさする。
毎年思う。自分はいつもどおりの食事しかしていないのに、春に抜け落ちたはずの角がこうやってちゃんと生えてくる。
飯がどうやって胃で消化されて、体内でどんな化学変化が起こって角を生成するのか、まさに神秘だ。
その神秘のたまものが欠けてしまって、ちょっと悲しい。
毎年思う。自分はいつもどおりの食事しかしていないのに、春に抜け落ちたはずの角がこうやってちゃんと生えてくる。
飯がどうやって胃で消化されて、体内でどんな化学変化が起こって角を生成するのか、まさに神秘だ。
その神秘のたまものが欠けてしまって、ちょっと悲しい。
「かなめ」
「……」
「おい」
「なに?」
「名前で呼んでも返事しねぇじゃん」
「すまん、気づかなかった」
「……」
「おい」
「なに?」
「名前で呼んでも返事しねぇじゃん」
「すまん、気づかなかった」
夏が暑すぎてボーっとしていることが最近多い。
涼しそうな塚本(シャツが破けてはだけている)や、この気温ですら寒がっている鎌田がうらやましいときがある。
ただ、先ほどの調理実習のような惨事で肝を冷やすのは嫌だ。
恐怖で本当に嫌な汗をかき背筋が凍った。
実は、この夏の暑さのほうが幻覚で、あのとき感じた温度が本物かもしれない。
だとしたら、鎌田が寒がりなのは、いつもあの「本物の寒さ」を味わっているからで……
涼しそうな塚本(シャツが破けてはだけている)や、この気温ですら寒がっている鎌田がうらやましいときがある。
ただ、先ほどの調理実習のような惨事で肝を冷やすのは嫌だ。
恐怖で本当に嫌な汗をかき背筋が凍った。
実は、この夏の暑さのほうが幻覚で、あのとき感じた温度が本物かもしれない。
だとしたら、鎌田が寒がりなのは、いつもあの「本物の寒さ」を味わっているからで……
「大丈夫か、おい、来栖?」
「ん? 呼んだ?」
「目が死んでたぞ。 具合悪いのか? 吐くのか?」
「なんでもないよ」
「まさか、恋!」
「いや、それはない」
「わかった!」
「ん? 呼んだ?」
「目が死んでたぞ。 具合悪いのか? 吐くのか?」
「なんでもないよ」
「まさか、恋!」
「いや、それはない」
「わかった!」
塚本がいやらしい馬面になった。何を考えている。
嫌な予感がする。
調理実習も悲惨だったし、宿題もやってないし。
弁当の卵焼きもすこし納豆みたいな臭いがしたし、きっと今日は厄日なんだ。
厄日のときは、むやみにあらがわず、運命に身を任せよう、そうしよう。
嫌な予感がする。
調理実習も悲惨だったし、宿題もやってないし。
弁当の卵焼きもすこし納豆みたいな臭いがしたし、きっと今日は厄日なんだ。
厄日のときは、むやみにあらがわず、運命に身を任せよう、そうしよう。
「来栖、その『かなめ』って子が気になってんだろ」
「え? 気になってないよ別に。顔もしらない。性別もわからない」
「おうおう、わからねぇから気になってんだろう~?」
「いや……」
「え? 気になってないよ別に。顔もしらない。性別もわからない」
「おうおう、わからねぇから気になってんだろう~?」
「いや……」
語弊があるが、気になっているのは図星である。
「かなめ」という名前は珍しい。
自分と同じ名前をつけられた奴がどんな奴なのか、どんな種族なのか。
「かなめ」という名前は珍しい。
自分と同じ名前をつけられた奴がどんな奴なのか、どんな種族なのか。
「よし、その『かなめ』って子を探してやる!」
「ちょっやめてくれ、仮に見つかったとして、どうすんだよ、失礼だろ」
「はずかしがんなよ、行動しようぜ」
「ちょっやめてくれ、仮に見つかったとして、どうすんだよ、失礼だろ」
「はずかしがんなよ、行動しようぜ」
まずい。この馬はなにをするつもりなのやら。
でも、ほんの少しだけ「かなめ」という奴について調べてみたい気もする。
本来なら、引っ込み思案の自分は、思い立っても悩んでいるうちに機会を失うか飽きるかして、結局やらずじまいになる。
実を言えば、塚本がいなければ自分は何も行動できない性格かもしれない。
失敗が怖いのか、それとも能が無いのか。考えすぎなのか。
でも、ほんの少しだけ「かなめ」という奴について調べてみたい気もする。
本来なら、引っ込み思案の自分は、思い立っても悩んでいるうちに機会を失うか飽きるかして、結局やらずじまいになる。
実を言えば、塚本がいなければ自分は何も行動できない性格かもしれない。
失敗が怖いのか、それとも能が無いのか。考えすぎなのか。
なんの話してるの?」
鎌田が戻ってきた。
助かった。三人いてこそカマロだ。
自分には、この暴れ馬を抑制する技量が無い。
こういう面で常識人の鎌田に頼りっぱなしかも知れない。
助かった。三人いてこそカマロだ。
自分には、この暴れ馬を抑制する技量が無い。
こういう面で常識人の鎌田に頼りっぱなしかも知れない。
「ライダー! 無事だったか!」
「鎌田、シロップくさいぞ」
「御堂がベトベトだったんだよ、それで保健室とか掃除手伝わされた」
「大変だな」
「鎌田、シロップくさいぞ」
「御堂がベトベトだったんだよ、それで保健室とか掃除手伝わされた」
「大変だな」
鎌田も幸が薄いな。でも、直面するどんな問題にもひたむきに立ち向かう姿は健気だ。
見習わなければ……
見習わなければ……
「角大丈夫?」
「こんなの平気だよ」
「こんなの平気だよ」
うそです、へこんでいるんです、内心。
「ライダーよぉ、こいつ、好きな子ができてモジモジしてんだよ」
「なんだってー? 花子先生じゃなくて? だれ?」
「なんだってー? 花子先生じゃなくて? だれ?」
曲解してる、話が飛躍してる。
何でも面白いように話を持っていく馬、止められない自分鹿、あわせて馬鹿。
カマキリよ、どうか助けてくれ。
何でも面白いように話を持っていく馬、止められない自分鹿、あわせて馬鹿。
カマキリよ、どうか助けてくれ。
「来栖! だれに恋したの!」
「それはね『かなめ』っていう子なんだよ」
「誰、だっけ? なんかどっかで聞いたことあるような名前な気がする」
「来栖の下の名前とおんなじなんだ、これが!」
「あ、そっか」
「それはね『かなめ』っていう子なんだよ」
「誰、だっけ? なんかどっかで聞いたことあるような名前な気がする」
「来栖の下の名前とおんなじなんだ、これが!」
「あ、そっか」
声がでけえ。教室中にこの誤解が知れ渡ったら厄介なことこの上ない。
恥ずかしい、やめて。
恥ずかしい、やめて。
「来栖、赤くなってる! 本当なの?」
「ひゃっははは、ウブな鹿のためにも協力しようぜライダー」
「よし、正義のために! 協力するよ来栖!」
「まずはだな、校内掲示板に『かなめへ』って感じで、ぐへっへへへへwww」
「名前が同じってロマンチックだね。結婚したら同姓同名になっちゃうよ!」
「おっ、ガキが生まれたら大変だな、ママもパパもおんなじ名前って傑作ぅひゃっひゃっひゃwww」
「でも字が違うかも。女の子だったらひらがなかも」
「ひゃっははは、ウブな鹿のためにも協力しようぜライダー」
「よし、正義のために! 協力するよ来栖!」
「まずはだな、校内掲示板に『かなめへ』って感じで、ぐへっへへへへwww」
「名前が同じってロマンチックだね。結婚したら同姓同名になっちゃうよ!」
「おっ、ガキが生まれたら大変だな、ママもパパもおんなじ名前って傑作ぅひゃっひゃっひゃwww」
「でも字が違うかも。女の子だったらひらがなかも」
「何を楽しそうにしているのかは知らないが」
大柄なリザードマンが鹿と馬の背中に手をかけた。
ゴツゴツと鍛え上げられた腕の重みがのしかかる。
握力がハンパなく痛い。猛は怒っている。
ゴツゴツと鍛え上げられた腕の重みがのしかかる。
握力がハンパなく痛い。猛は怒っている。
「友達を裏切って、自分たちだけ助かろうとしたよな」
「……っはい」
「俺は怒ってないよ、昔のことをネチネチ言うほどつまらない男じゃないけれども」
「……う」
「友達として言いたい事があるから、いまからトイレ行こうぜ」
「……っはい」
「俺は怒ってないよ、昔のことをネチネチ言うほどつまらない男じゃないけれども」
「……う」
「友達として言いたい事があるから、いまからトイレ行こうぜ」
胃が凍るようだ。
寒い。全身が助けを求めている。
夏なのに体温がどんどん下がっていく。
小便に行きたい。でも、このままトイレにつれていかれたくない……
寒い。全身が助けを求めている。
夏なのに体温がどんどん下がっていく。
小便に行きたい。でも、このままトイレにつれていかれたくない……
猛はきっと、友達として大切なことを教えてくれるのであろう……、拳で。