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2009 12/15(火) 天候:晴


去年から使い続けていた日記帳が一杯になったので。
今日の下校中に、大通りの中宮文具店で新しい日記帳を購入した。
これからこの日記帳には何が記されて行くか、楽しみでたまらない。

さようなら、古い日記帳。
そして初めまして、新しい日記帳。

2009 12/16(水) 天候:晴のち曇

何時もならば私と顔を合わせるなり憎まれ口を叩く姉さんが、今日は妙に上機嫌だった。
何も姉さんの話では、なんと自分のファンがここ最近、急増したのだと言う。 
はて? 横暴かつ自己中心的で、とても誰かに慕われるとは思えない性格の姉さんにファンが増えるとは……。
これは一体如何言う事だろうか? 槍どころか流星雨でも降り出すのだろうか?

如何言うことか少し気になったので、更に姉さんから詳しい話を聞いてみると、
ファンはこぞって姉の写真を取りたがり、中には姉さんの肉球形を取る人もいるとの事。

……え、ええっと、それはまさか……いや、深くは考えない様にしよう。

追記:その十日後、私の懸念は最悪の形で的中する事となる。

2009 12/17(木) 天候:晴時々曇


今日は週一の飛行機同好会の活動日。今回は以前から設計していたブルースカイⅩⅣの製作を始めるとの事。
私は自分の体格と力を生かし、大きな部品の組み立てを手伝う事にする。
そろそろ冬将軍が近づいているのか、部室の中にも関わらず毛皮寒く感じる。空子先輩も寒そうに羽毛を膨らませていた。
毛皮のある私や空子先輩でさえも寒く感じるのだから、毛皮のない人間である風間部長はさぞ寒かろう。
ああ、出来ることならば寒さに震える部長を私の体で……何を考えているのだ、私は。

と、私が一人自己嫌悪していた所で、
風間部長が「そろそろアレの出番か」と言って、おもむろに作業室隣にある休憩室の和室に引っ込んでいった。
当然、私も空子先輩もその後に続こうとするが、即座に風間先輩から「暫く待ってろ」と止められてしまった

訳の分からぬまま空子先輩と雑談する事、約十数分後、「入って良いぞ」との風間部長の言葉。
中に入った私と空子先輩を待っていた物、それは冬の風物詩と言える暖房具、炬燵!
風間部長が言うには、この炬燵は今の作業小屋が祖父の道場であった時から使われていた物で、
使うのはもう少し先にする予定だったのだが、寒さに震える私達の様子を見かねて、今日から使い始める事にしたらしい。
何と優しい心遣い、思わず感動の余り部長へ抱きつきそうになったが、なんとか自制する事に成功。危ない危ない。

早速、私と空子先輩は部長の言葉に甘え、炬燵に入る事にした。
外の寒さが厳しかった分、炬燵の暖かさがより身体へ染み入る気がする。無意識にぐるぐると鳴る喉の音。
そんなネコ科の動物の本能なのだろうか、温かい場所に身体を落ち付けている内に私はついうとうとと……

目が覚めると、時刻は夜の七時を周る所だった。
……部長、役に立てなくてごめんなさい。

2009 12/18(金) 天候:曇


今日の昼休み、空子先輩と番場さんの二人と話をする。
話題は自分の体格に合ったお洒落な服が見つからない事について。
やはり空子先輩も番場さんも、恵まれ過ぎる体格を持つ私と同じ悩みを抱えている様である。
特にブラジャーに関しては、自分の体格に合う物となると大体が高価で、学生の身分ではとても手が出ないとの事。
番場さんが言うには、自分に合うサイズのブラジャーが無いので代わりにサラシを巻いているのだと言う。

……私もサラシ、試してみようかな?

2009 12/19(土) 天候:曇のち晴


昨日、番場先輩が話していた事を早速試そうと、
今日、私はサラシに使えそうな適当な布を探すべく、隣町の洋品店へと赴く事にした。
……実際の所、わざわざ隣町に行かなくとも私の家の近くにも洋品店はある事にはあるのだが、
以前、其処でクラスメイトの飛澤さんに出くわした苦い経験があり、隣町の洋品店を使う事にした次第である。

しかし、私は飛澤さんの行動範囲を甘く見ていた。

……そう、店内でまた出くわしてしまったのだ、彼女と。
おまけにその時の私の手にはサラシに最良と見繕った布が、何と最悪なタイミング。
更には、飛澤さんはその鋭い観察眼で、私が洋品店にいた理由を一発で見抜いてしまった!
(ひょっとすると昨日、番場さんと話をしていたのを見ていた可能性も?)

結局、前の時と同じく、私は飛澤さんに身体測定の形で弄ばれる事となった。
……この後、どんなデザインの服が送られてくるのかと考えると、正直怖い。

2009 12/20(日) 天候:快晴


今日は朝から天気が良いので、軽く20キロほどジョギングした後で自己トレーニングに励む事にした。
女子プロレスを辞めた今はもう鍛錬する必要は無いのだが、何時また姉に勝負を挑まれるのか分からないのだ。
だからこそ、今でも鍛錬は欠かせない。

しかし、女子プロレス部を辞めてしまった以上、女子プロレス部の機材を借りる事は当然出来ないので。
今、トレーニングする場所はもっぱら河川敷傍の飛行機同好会部室兼作業小屋裏手の空き地である。
ここにはタックルや打ちこみの練習に良さそうな、樹齢約数百年はあろうかと言う太く大きな樫の木が生えているのだ。
私くらいの大柄な身体となると、通常のトレーニング機材や普通の体格の相手では役不足になる事も多い。
しかし、ここの樫の木は私がいくらタックルや打撃技を決めても、その力強い幹でどっしりと受けとめてくれる。
何とも頼もしいスパーリングパートナーである。

そうやって何時もの通り打ちこみの練習していた所で、私は誰かの視線を感じた。
何気に視線の方へ目をやると、築堤上の遊歩道からこちらを見下ろす同級生の瀬戸はやみ…だったか?
私の白虎と同じくらい希少なイリオモテヤマネコ族なので、彼女の事は良く憶えている。
しかし、彼女は私のトレーニングなんぞ見て何が面白いのだろうか?

その理由を尋ねようと声を掛けようとしたのだが、そうする前に彼女は踵を返し、さっさと立ち去っていってしまった。
随分と熱心に見ていた様だが、一体なんなのだろうか?

2009 12/21(月) 天候:雨


今日は昨日と打って変わって朝から空が泣き出す天気。
その所為か、毛皮を持つ私でさえも外の空気が毛皮寒く感じる。これからもっと寒くなるのだろうか?
そんな登校中、道に転がる変な物に気付いた。何だろうかと近づいてみると、それは同級生の鎌田君だった。
話を聞くと、どうやら降雨による予想以上の気温低下によって身体が動かなくなったらしい。昆虫の人は難儀な身体である。
無論、私は鎌田君を放っておく訳にも行かず、寒さに身体を震わす彼を背負って学園の保健室へ。
ちょうど良いタイミングと言うべきか、保健室ではストーブが室内を小春日和に変えていた。
「またか」とぼやく白先生へ蒲田君を預け、後はもう大丈夫だと判断した私は何時もの教室へ。

しかし、其処で待っていたのはニヤニヤ顔でこちらを見る塚本君と、呆れ顔で塚本君を見る来栖君の姿。
どうやら、鎌田君を背負って学園へ向う私の姿を見て、塚本君が変な勘違いをしている様だった。

……結局、この誤解が晴れるのは放課後の事だった。

2009 12/22(火) 天候:曇時々晴


授業が終わり、これから帰りに洋品店でも物色しようかと考えつつ正門へ向っていた矢先、
唐突に響いた、ズドォン、と言う大きな爆裂音が私の耳を震わせた。

一体何事か! と音のした方へ掛けつけてみると、其処は雑多な同好会が並ぶ通称、エリア16.
(何故エリア16と呼ばれているかと言うと、部屋が16ある事の他に、色物との語路合せでイ(1)ロ(6)と読んでいるそうだ)
その中ほどに位置する狩猟同好会の部室の窓から黒煙が立ち上っていた。恐らくここが爆発の出元なのだろう。
爆発の威力はかなりの物だったらしく、狩猟同好会の部室だけではなく隣の忍者同好会の部室にまで被害が出ていた。
そして、その爆風によって部屋の窓から吹き飛ばされたのか、近くの地面に中等部の美弥家 加奈が突っ伏していた。
見た所、衣服(いや、鎧と言うべきか?)や毛皮が所々コゲてはいるが、思ったよりも怪我は軽そうである。

その傍で加奈と同じくコゲた状態で呆然と佇む、中等部のネコの少女(名は三島 瑠璃と言っていた)に事情を聞いてみると
何も、冬にも関わらず部室に出現した黒い悪魔Gを美弥家さんが退治しようとした所、
うっかり部室においてあった大タル爆弾を叩いて起爆させてしまったそうだ。

……待て、そもそも大タル爆弾ってなんだ? 
というか叩いて爆発するような危険な物を作ってるのか、狩猟同好会は。
しかし、恐らく巻き添えを食っただけの被害者である彼女にそんな追求が出来る筈も無く、
この時の私はただ、苦笑いを浮かべて頷くしか出来なかった。

と、そうしている間に、何処からか騒ぎを聞きつけた保険委員(本名不明)が「爆発事故発生ッスか!?」と騒がしく登場。
「猫タクでキャンプ送りは嫌ニャっ!」と意味不明な事を喚く美弥家さんを問答無用でリアカーに乗せて、
とっとと保健室へ緊急搬送していった。相変わらずこう言う事となると彼(いや、彼女か?)は手早い。

その際、三島さんが「あーあ、これで1乙にゃ」とか漏らしていたが、
生憎、その言葉が如何言う意味を指しているのかは、私には理解できなかった。

追記:この事件が後々になって飛行機同好会に影響を及ぼすとは……。

2009 12/23(水)(祝日) 天候:快晴


雲一つ無い青空広がる今日、私はあるイベントに参加する為、少しおめかしして姉さんと共に出掛ける事になった。
行き先は中央大通りに面する市内で一番大きい公園、佳望中央ふれあい公園。
其処で行われるイベントこそ、私たち虎族にとって12年に一度行われる祭、牛(丑)から虎(寅)への干支引継ぎ記念祭である。
私達が来た理由こそ、そのイベントのメインとなる引継ぎ式の干支引き継ぎ役として、何と私達姉妹が選ばれたのだ!
選ばれた理由としては、虎族の中でも希少な白虎であり、しかも双子である事が一番の理由だそうだ。

前回に行われた干支引継ぎ式典は、私と姉さんがまだ幼稚園に入るか入らないか位の頃、
親の肉球を握り締めながら、前年の干支の人から干支の引継ぎをする壇上の引き継ぎ役の女性を羨ましく思ったものだ。
それから時は経って十二年、まさか私と姉さんがその栄光ある大役を任されるとは……。
世の中、本当に何があるか分からない物である。

そんな大役を与えられて期待に胸躍らせる私に対し、
姉さんはと言うと何時もの態度は何処へやら。尻尾を垂らし耳を伏せてガチガチに緊張している様子だった。
心配になって声を掛けてみると、何時も強気な姉さんにしては珍しく、「鈴鹿……私だけ帰って良いか?」と弱気な発言。
そう言えば、姉さんは自分で考えて行動する分にはまだ問題はないのだが、
周囲から大役を任されると、途端に弱気になってしまう弱点があったな。
全く、変な意味で世話を焼かせる姉さんである。

帰りたがる姉さんをなんとか宥めつつ、もよりの電停から歩く事数分、ようやく公園のイベント会場に到着。
其処で私たちを待っていたのは、なんと数千人近い同族の群、群、群!
予想以上の人数に思わず絶句する私。姉さんの方へ目をやれば、姉さんは既に泣きそうな顔をしていた。

そして私立ちの到着を待っていたかの様に盛大(?)な和楽器の演奏と共に始まる、干支の引継ぎ式典。
アナウンスの誘導に、今年の干支の引き継ぎ役だった牛(丑)の牛沢先生が壇上に上がり、続けて私と姉も壇上へ向う。
直ぐさま私と姉さんへ注がれる様々な感情を入り混じらせた視線、視線、視線! その凄まじさに逆立つ私の毛皮。
姉さんの方へ目をやれば、耳はぺったりと折り畳まれ、目には涙が浮かび、尻尾は完全に股の間に隠れていた。
このままでは今にも逃げ出しそうなので、私は「後で「連峰」のケーキを奢りますから、今は我慢してください」と必死に宥める。
その必死の努力がなんとか通じてくれたのか、姉さんは唾をごくりと飲むと、ギクシャクとした動きながらも一緒に来てくれた。

緊張に堪えられず逃げようとする姉さん、その尻尾をさり気に握って姉さんを止める私、その様子を前に苦笑する牛沢先生。
そんな多少のひと悶着を起こしつつも、私と姉さんはなんとか今年の大役を勤め上げる事が出来た。

その後、立ち寄った「連峰」にて、同じ白虎である学友の立花さんと話をする。
彼女は私や姉さんと同じ白虎であるものの、今年この佳望市へ越して来た為、残念ながら引き継ぎ役に選ばれなかった。
それもあって彼女は今年の引き継ぎ役に選ばれた私達姉妹の事を大変羨ましがっていた。

「次こそは立花さんの番ですよ」と謙遜する私に対し、
姉さんはケーキをぱく付きながら「これくらい出来て当然の事だ」と胸を張ってのたまう。
……姉さん、式典の時は怯えた子猫の様に毛皮を逆立てて身体を震わせてた人は誰ですか?
私が居なければ式典どころじゃなかった人は誰ですか? 式典が終わった後、誰よりも安心していたのは誰ですか?

余りの恩義知らずな姉さんに少しだけ腹が立ったので、後で姉さんへ伝えるつもりだった事は黙っておく事にした。
そう、来年末の虎(寅)から兎(卯)への干支引継ぎ式にも、私達は参加しなければならないと言う事を……。
姉さん、後で文句を言っても、私は知りませんよ?

2009 12/24(木) 天候:晴のち曇

今日はクリスマスイヴ。イブではなくイヴである。
今までは23日頃までには終業式を終えて、家でのんびりしていたものだが、
今年はインフルエンザが猛威を振るった影響により、終業式が28日に延期となった為、この日も登校日である。

教室の生徒たちの話題はクリスマスムード一色、話を聞いている私も自然と期待に尻尾を立ててしまう。
そんな中、サン先生は余程クリスマスに期待しているのか、授業中にも関わらず尻尾を振りながらクリスマスの話題を話す。
この様子だと、サン先生は英先生に自重を求められるまで、クリスマスへの期待に胸を躍らせていそうだ。
それに反し、げっそりとした表情を浮かべているのは来栖君。彼は「クリスマスか、やだなぁ……」とぼやいていた。
確か、来栖君は去年のクリスマスに来栖マスツリーにされた挙句、トナカイ役にもされてたのだな。
まあ、そんな事されたら、誰でもクリスマスが嫌になるのも無理からぬ話だ。

しかし、そんな来栖君の予想に反し
今年のツリーにされたのは、交換留学で佳望学園にやってきたフィンランド出身のトナカイ、ルドルフ君。
おまけに彼は「日本のクリスマス、楽しそうデス」と言って、自らツリー役に名乗りをあげたとの事。世の中は広い。
相手が嫌がらない物だから、サン先生はノリノリでルドルフ君に飾り付けをしていた。

その様子を前に、来栖君が少し寂しそうな目をしていたのは、私の気の所為だろうか?

追記:当然の事ながらその後、サン先生はクリスマスプレゼントではなく英先生の説教を貰う事となった。

更に追記:この日は飛行機同好会の活動日にも関わらず、部活が行われなかった。
その理由は、この翌日に知る事となる。

2009 12/25(金) 天候:曇のち雪

今日は朝から毛皮寒い一日、天気予報では今夜はホワイトクリスマスになるとの事。
北方に祖先を持つアムール虎である私や姉さんにとって、これくらいの寒さは大して気にならないのだが、
他のケモノや人間にとって、この日の寒さはさぞ堪える事だろう。特に爬虫類や昆虫の人は辛かったかもしれない。

そんな事は兎も角、今年の何時もの通りの授業は今日で最後。そう思うとなんだか感慨深い。

と、今年最後だからなのか、今日は少し奇妙な事と嬉しい出来事があった。。
奇妙な事と言うのも、何時もはオカンと呼ばれる位に、面倒見の良く落ち付いた性格の永遠花さんが少しおかしかったのだ。
まるで今日び高校生になったばかりの新入生の様に、スカートがめくれてパンツが見えるのも構う事無くはしゃぎまわり、
寒さで動きの鈍い利里君の尻尾にじゃれ付いてみたり、サン先生を抱き締めてみたり、授業中も落ち着きがなかったり。
挙句、クラスメイトの私とはもう初対面ではない付き合いであるにも関わらず、
彼女はまるで初めて出会ったかの様に、「うわ、大きい!」と私の体格に驚いていたのだ。

……そう言えば、永遠花さんが私に話しかけた時、彼女と小さなネコの女の子がカブって見えたような……?
しかし、放課後を過ぎた頃には彼女は何時もの『オカンの永遠花』に戻っていた為、
それが何だったのかは最後まで分からずじまいだった。

そして嬉しい出来事と言うのは、放課後の事。
急に携帯のメールで部長から呼び出され、首を傾げながら飛行機同好会部室兼作業小屋に入ると、
先に部室に来ていた風間部長と空子先輩が妙によそよそしい感じで私を見ていた。

何だろうか?と頭に疑問符を浮かべつつ風間部長に声を掛けると、
風間部長は「これから何されても、俺が良いと言うまで目をつぶってろ」と私に妙な命令を下した。
頭一杯に疑問符を浮かべながらも私が部長の言葉に従って目をつぶっていると、尻尾に奇妙な感触を感じた。
其処で「良いぜ」と部長に言われ、目を開けて尻尾を見ると、取り付けられていたのは夢にまで見た尻尾アクセ!
何と、お洒落がしたいと言う私の悩みを知った風間部長が、私の為にクリスマスプレゼントを用意してくれていたのだ!
道理で昨日は部活を行わなかった筈だ。風間部長は空子先輩と一緒に探しに出ていたのだ、私へのクリスマスプレゼントを。
「鈴鹿さんの尻尾サイズに合う物を見つけるのに結構苦労しちまって、結局一日遅れになったけどな」と、苦笑する風間部長。
ああ、なんと言う風間部長の優しさ、何だか熱い物が胸に込み上げて……。

気が付いた時には、私はベアハッグで風間部長を締め落としてしまった所だった。
その後、必死に謝る私へ笑って許してくれていたけど。風間部長、空子先輩、本当にごめんなさい。そして本当にありがとう。
お二人から頂いたこのクリスマスプレゼント、ずっと大事にします。

2009 12/26(土) 天候:曇のち血の雨(実際は曇)


私が懸念していた事が遂に現実になった。
姉さんのファンが増えた理由が、姉さんの知る所となったのだ。

その理由と言うのも何てことはない、来年の年賀状の素材に姉さんがうってつけだったのだ。
ただ、それを姉さんがファンが増えた物と勘違いしていたのだ。
虎族の中でも珍しい白虎で、しかも来年の干支の引継ぎ式にも出ていた姉さんを素材に使いたいのも分かる。
だが、姉さんにとってこれが面白い訳がない。どうせなら私を使えば良いのに……。

当然、怒り狂った姉さんは頭の毛を逆立てて「あいつら! 今すぐ叩きのめしてやる!」と、飛び出そうとする。
今の姉さんをみすみす見逃す事は、怒り狂った野獣を野に放つのと同じ。私は決死の覚悟で姉さんの前へ立ちはだかる。
「お前は私の邪魔するつもりか! 鈴鹿!」と、更に猛り狂う姉さん。しかし私も皆の為、一歩も引く気はなかった。

……結局、今年最後の姉妹喧嘩は何時もの通り、お互いにへとへとに疲れて戦意を喪失した事で終了した。

2009 12/27(日) 天候:曇のち晴

昨日、姉さんと大喧嘩した事もあって今日は家に居る気にもなれず、朝から自己トレーニングをしに何時もの場所へと向う。
以前から私は、姉さんに「お前は文科系のクラブに入ってから弱くなった」と良く言われ、その度に聞き流していた。
しかし昨日の大喧嘩の中で、私は自身のカンの鈍りを嫌でも認識する事となった。
避けられる筈の攻撃を食らい、当てられる筈の攻撃を避けられる、それは格闘家にとって致命的な物。
昨日の大喧嘩の時こそは、姉さんから正常な判断力が失われていた為、何とか引き分けに持ち越せたが、
今のこの調子では次もそう行くとは限らない。下手すれば、またあの姉さんの言い様にこき使われる暗黒時代へ逆戻り、
――いや、それどころか風間部長や空子先輩にも迷惑がかかってしまう……そう、弱くなった私の所為で。

……そう言えば、姉さんは私に対してこうも良く言っていた、
「虎は孤高だからこそ強くある。しかし、一度虎が群れてしまったら最後、虎は虎ではなくなる」と。
……私は、風間部長と空子先輩と一緒にいるから、弱くなってしまったのか?
私が弱くなってしまったら、風間部長も、空子先輩も、そして彼らと過ごす暖かく優しい時間も、守れなくなってしまう。
……ならば、私はどうすれば良いのだ? いっその事、彼等から離れた方が良いのか……?

そう私が、心の内で自問自答しながら、己の拳を部室裏の樫の木へぶつけていた矢先、
私の背に「ねえ、そんな無理にやったら拳痛めるよ」と、誰かの声が響いた。
声の方へゆっくりと振り向き見ると、其処にいたのは以前、遊歩道から私のトレーニングを眺めていた瀬戸さんだった。
はて? 彼女はいったい私に何の用だろうか? 頭に目一杯の疑問符を浮かべる私へ、瀬戸さんは真剣な面持ちで言った。
「鈴鹿さん、今日はどうかしたの? 何か悩みがあるのなら私が相談に乗るよ」と。

……瀬戸さんは何故、私が悩んでいるのが分かったのだろうか? この時の私にはそれが分からなかった。
確かに、瀬戸さんとはお互いに珍しい種族のケモノだという認識はあったが、
それこそ交友なんて、たまに校内で顔を合わせる程度の浅い物しか無かった筈だ。
当然、私が悩んでいる事を誰かに打ち明けた覚えも無い。……ならば何故?
そうやって私の心中で浮かんでは消えて行く疑問、それが私の尻尾に見えていたらしく。
若干慌てた様子の瀬戸さんの説明によると、彼女は以前から部室傍の築堤上の遊歩道をジョギングコースにしており。
その遊歩道から自己トレーニングに励む私の姿を良く見掛け、その度に私の様子を眺めていたと言う。
(1週間前に私を見ていたのも、恐らくはそれなのだろう)

更に瀬戸さんが言うには、何時もの私は動きも鋭く、穏やかながらも覇気に満ち溢れていた、らしい。
しかしこの時の私はと言うと、何処か動きに精彩に欠け、今まで感じていた覇気もまるで感じられなかったと言う。
それで瀬戸さんは、多分私に何かがあったのかと思い、勇気を振り絞って話しかけたのだそうだ。

……私はなんと情けない。本当に情けなくて自分自身で悲しくなる。
自分が不甲斐ないばかりに、何ら関係のない瀬戸さんにまで心配を掛けさせてしまうとは……。
もし、この時の私の目の前の地面に大きな穴が口を開けていたなら、私は迷わず中へ飛びこんでいた事だろう。
無論の事ではあるが、私とて気高い虎である。瀬戸さんに心配かけさすまいと「私は大丈夫、気にしないで」と気丈に振舞う。
しかし、それがどうも余計に彼女の心配を煽ってしまったらしく、「良いからわたしに何でも話して、鈴鹿さん」と私へ迫る。

結局、私は彼女の勢いに圧される形で、今の悩みを打ち明けてしまった。
未だに続く姉さんとの確執。自分の強さへの不安。風間部長、空子先輩に対する想い……。
瀬戸さんは最後まで、尻尾をくねらせる事も無く真剣な面持ちで私の話を聞いていた。
しかし、私が話し終わった後も彼女は黙っている物だから不安で仕方が無い。
たっぷり十秒ほどの沈黙の後、瀬戸さんは「大丈夫、鈴鹿さんは全然弱くないよ」と笑った。

瀬戸さんは言う、自分自身の弱さに向き合えるのも、それは「強さ」なんだと。
そして、大切な何かを守りたいと願い、努力する鈴鹿さんはとってもとっても強い、と。
それに、こんな太く大きな木を斜めに傾けてしまう鈴鹿さんが弱い筈がない! と樫の木を指差す。
……言われてようやく気付いたが、樫の木は彼女の言う通りに、横から見ると約15度ほど斜めに傾いていた。
確か、私がここでトレーニングを始めた時は真っ直ぐに立っていた筈だが……私がやったというのか。これを。

そして更に瀬戸さんは言う、私もちょっと前に小さな事で悩んでて全てが嫌になった事があった、と。
けど、そんな時、たまたま出会ったある人に励まされ、わたしはとっても助けられた、と。
だから、あの時のわたしと同じ様に思い悩んでいる誰かを、今度はわたしが助けてあげたい、と。

……やれやれ、ここまで真っ直ぐな瞳で励まされてしまった以上、私も何時までもうじうじと悩んでいる訳にも行かない。
早速、私はもう大丈夫だと言うことを瀬戸さんへ分からせる為、私は樫の木への全力タックルを披露して見せる。
だが、流石に樫の木も怒ったのか、タックルすると同時に落ちてきた枝が頭へ直撃、痛かった。瀬戸さんは笑っていた。

2009 12/28(月) 天候:晴


今日は終業式の日。わが校舎へ足を踏み入れるのも今年は今日で最後。なんだか感慨深い。
とは言え、この日にやる事といえば、体育館で校長の長話を聞いて、泊瀬谷先生から通知票を貰うだけ。なんだか味気ない。
私の通知票の結果は上々、前より成績が上がっていた。対する姉さんはと言うと、通知票を前に尻尾をくねらせて難しい顔。
この様子だけで、何が書かれてたかが分かり易い。多分、もっと落ち付きましょう、くらいは書かれていたのだろう。

その帰り道、大通りを歩いてると何処からか聞こえる騒ぎ声。
見ると、裏路地へ入る脇道に見えるは同級生と見られる兎の少女、そしてそれを囲む見るからにガラの悪そうな男達数名。
様子を見る限り、男達はナンパ目的、あるいはそれ以上の事をするつもりで少女に絡んでる模様。全く、迷惑な。
無論、放っておく訳にも行かないので声を掛ける。男達が喧嘩を売ってきた。買った。軽く叩きのめし路地裏に積んでおいた。

その後、大丈夫かと少女に声を掛けようとして、私は驚いた。
何せ、絡まれている少女は、学校では真面目で通っている委員長の因幡さんだったのだ。
しかも、その時の彼女の格好はと言うと、コンタクトなのかメガネを着けていない今風の小洒落た格好。
おまけに、その手にはキャロットブックスと印刷された紙袋が……。

何時もは地味なイメージしかなかった因幡さんの意外な姿に、思わず言葉を失う私。
その間に因幡さんは耳の内側を赤く染め、文字通り脱兎の如く走り去っていってしまった。
……余程恥かしかったのか、私へ助けてもらった礼すら言う事もなく。

はてさて、あれは一体なんだったのだろうか? 
来年、学校が始まった時に如何言う事かを直接本人に聞きたい気もするが、
あの時の因幡さんの態度から見て、あれは彼女にとって他の人に知られたくない一面なのだろう。
この日の事は本人から接触でもされない限り、私の心の内にしまっておく事にする。

2009 12/29(火) 天候:曇、風強し


家で大掃除がてらのストレッチに励んでいる最中、私の携帯にメールが届く。
差し出し人は空子先輩。題は『緊急事態発生!』、本文は『今すぐ部室に来て!』との事。
一体何事だろうか? 余りに危急的なメールの内容に若干の不安を覚えつつ、私は部室のある河川敷沿いへ急ぐ。

部室前に到着すると、其処には困惑顔の空子先輩と難しい顔の風間部長。
そして、風間部長と睨み合う美弥家さんと忍者同好会の伊賀野さん。その傍で呆れ顔で佇む三島さんと張本君。
……なんだこの状況は? 何が如何言う事があってこんな事になったんだ?

早速、私の到着に気付いた空子先輩へ今の事情を聞いてみると、
空子先輩が言うには、何も風間部長と空子先輩が部室の大掃除をしていた所、
美弥家さんと伊賀野さんが「飛行機同好会だけ立派な部室を持ってて不公平よ!(ニャ!)」と、直談判しに来たのだそうだ。

更に張本君の話によれば、事の発端は先週の爆発事故によって狩猟同好会と忍者同好会の部室が半壊した事で。
両同好会は半壊した部室の補修が完了するまでの間、当分は部室無しで部活動をせざるをえない状態となり、
それから数日間は、伊賀野さんは部室半壊の原因となった美弥家さんと良く言い争っていたのだと言う。
しかし、そんな言い争いが六度目となった時、何故か槍玉に上がったのがわが飛行機同好会の事。
同好会にも関わらず、他のクラブとは比べ物にならない規模(建坪約50坪)の部室を持つ飛行機同好会。
部室が半壊した事で寒風吹きすさぶ中、部活動をしている美弥家さんと伊賀野さんにとってそれが面白い筈も無く、
気がついた時には、二人の言い争いは飛行機同好会に対する愚痴へと切り替わっていたと言う。
そして、何時しか二人は意気投合、その場の勢いとばかりに飛行機同好会に殴り込み、もとい直談判しに行ったのだそうだ。
(尚、三島さんと張本君は二人を止めるべく追って来ただけとの事)

……なんと言うか、完全なまでにとんだとばっちりである。
そもそも、忍者同好会と狩猟同好会の部室が半壊したのは、全て美弥家さんが持ち込んだ爆発物が原因。
おまけに、その爆発物を起爆したのも美弥家さんなのだ。張本君と三島さんが呆れるのも当然である。
しかし、例え私がそれを指摘したとしても、この一触即発の空気が漂う中で二人が話を聞き入れてくれるとはとても思えない。
だが、だからと言ってここで私が迂闊に動いてしまえば、それこそ話が余計にややこしい事になりかねないだろう。
結果、その時の私に出来る事は、今の状況が悪い方へ傾かない事を天に祈るしか他が無かった。

それぞれ大剣とクナイを構え、尻尾をピンと立てて風間部長と睨み合う美弥家さんと伊賀野さん。
何時でも二人を止めれる様に身構える張本君。何があっても良い様に携帯を用意する三島さん。
不安げに尾羽を広げる空子先輩。ずっと沈黙を守りつづける風間部長。
そして、何も出来ず事の成り行きを見守るしか出来ない私。

そうやって、永遠とも思える時間が流れた後、風間部長が遂に沈黙を打ち破って口を開いた。
「別に部室使っても構わねーぜ、どうせ広すぎて持て余し気味だったし」、と。

思いもよらぬ言葉に、美弥家さんと伊賀野さん呆然、空子先輩は唖然、呆気に取られる張本君と三島さん。
私が如何言う心変わりかと風間部長へ尋ねると、部長は「困った時はお互い様ってやつさ」と笑っていた。
そんな風間部長の寛大さに私が感動したその矢先、部長は美弥家さんと伊賀野さんをピシィと指差し、言う。
「その代わり、部室の大掃除は手伝ってもらうからな?」

……結局、その場にいた全員が部室の大掃除を手伝わされた。

2009 12/30(水) 天候:晴時々曇


今日、来年に向けた御節作りの最中、宅配便の小包が届く。
年末にも関わらず、こんな寒い中働く配達員さんには毎度頭が下がる。
それにしても、こんな時に誰からだろうと思いつつ、荷札に書かれている差し出し人の名前へ目をやると、
其処には「飛澤 朱美」の四文字が……。

一瞬、私は小包の中身を見ずに窓から放り捨てたくなったが、
流石にそれは飛澤さんに悪いだろうと寸での所で思い止まり、半ば嫌々ながらも小包を開封する。
中に入っていたのは、何やら丁寧に折り畳まれた艶やかな模様の布のような物。
恐る恐るそれを広げてみると、それは私のサイズに合わせて作られた振袖の着物!
それも、一人で着用できるワンタッチ着物と呼ばれるタイプの物だった。

小包に同封されていた手紙によると、
『以前、空子ちゃんから、自分に合うサイズの着物が無い事に鈴鹿ちゃんが悩んでいると聞いて。
先日に取った採寸を元に、鈴鹿ちゃんのサイズに合うように作りました。喜んでくれると嬉しいです』
……どうやら、この着物は十日ほど前の身体測定を元に、飛澤さんが自作した物のようである。
以前に作ってもらったゴシック&ロリータファッションの服といい、そしてこのワンタッチ着物といい、
このような複雑な構造の服を、あの翼の手で作り上げる飛澤さんの技術と器用さには、ある種の感服を憶えてならない。

そして私は、部活に行っている姉さんがまだ帰ってない事を確認した後、早速とばかりに着物を試着してみる。
相変わらず飛澤さんの採寸は精確らしく、何処かが緩かったり締め付けられたりする様な着苦しい物を何ら感じさせない。
幼稚園の頃の七五三に着て以来の着物に、心踊る感覚を感じた私は上機嫌に尻尾立てつつ鏡の前でポーズ。

直後、「鈴鹿、お前……何してるんだ?」 家に帰ってきた姉さんの声が私の背中を叩いた。

……この日の夕食が気まずい物になったのは、最早言うまでも無いだろう。

2009 12/31(木) 天候:快晴


行く年来る年。今年2009年は今日で最後。そう思うとなんだか……と、これは前も書いたな。
そんな大晦日である今日の夕方、私は飛行機同好会部室改め、忍者・狩猟・飛行機同好会共同部室へ足を運ぶ。
着ている服は何時ものジャージではなく。昨日、飛澤さんから送られた着物。手には肉などの鍋の食材の入った手提げ鞄。

私がこんな格好で部室へ赴いた理由、
それは大晦日は部室で楽しく年越しをする事で親交を深めようと言う、部長の発案による年越し会に参加する為である。
参加資格は部室を利用している人。そして持ち込む物は鍋の材料、年越し蕎麦、皆で出来るゲーム等など。
会の内容は参加者達で鍋パーティーを行った後、楽しくゲーム大会を行い、そして年越し蕎麦を食べて年を越す予定で、
去年の今頃は一人寂しくテレビを見ていた私にとって、今年の大晦日は特に楽しい物となること間違い無しだ。
(尚、姉さんはと言うとプロレス部の皆と大晦日恒例の闇鍋パーティーを行うそうだ。……果たして、犠牲者は何人出ることか)

私が到着した頃には、先に到着していた風間部長と空子先輩が鍋の準備を始めようとしている所であった。
二人は大晦日と言う事もあってか、風間部長は古風な袴姿、空子先輩は鳥人用の着物姿をしていた。二人ともお似合いです。
私は早速とばかりに、到着して早々、部長達の手伝いを行う事にする。

それから少し経って鍋の準備が整う頃、狩猟同好会の美弥家さんと三島さんが到着。
如何言う訳かごてごてとした装飾の鎧姿の美弥家さん、そしてその隣で恥かしそうに耳を伏せる着物姿の三島さん。
何ソレ? と呆れ顔で問う空子先輩に、美弥家さんは「年末の晴れ着と言ったらこれに決まりニャ!」と、胸を張る。
恐らく、ここに着くまで鎧姿の美弥家さんに付き添った三島さんは相当恥かしい思いをしたのだろう……同情します。
因みに、三島さんが言うには「狩猟同好会には他の部員が何人か居るけど、その人達は用があって来れないニャ」との事。
他の部員とやらが如何言う人なのか、顔くらいは見ておきたかったのだが、来れないとは少々残念である。

それに少し遅れて忍者同好会の張本君、そして伊賀野さんが到着。
何処か動き易そうな感じをさせる着物姿の伊賀野さん。そして黒の紋付袴が良く似合っている張本君。
ここで私は、張本君が若干疲れ気味に尻尾を垂らしているのに気付き、如何したんですかと問いかけてみると。
何も伊賀野さんは忍者装束で会に行こうとしたそうで、数時間に渡る説得の末に何とか思い直させた、との事。
と、其処まで話した所で、張本君は同じく若干疲れた様子で炬燵に入る三島さんに気付き、
「お互いヘンな部員もつと大変だな」 「お互い苦労してるニャ」と、互いの境遇に共感しあっていた。

そして、部室の休憩室に全員が揃った所で、風間部長が年越し会の開始を宣言、
……する前に鍋が茹で上がったらしく、殆どなし崩し的な形で第1回目となる年越し会はスタートとなった。

早速、思い思いに鍋を突付き始める年越し会の参加者達。
張本君は鍋奉行なのか、勝手にモチを入れようとする伊賀野さんへ「それを入れるのはまだだ」と尻尾を立てて一喝。
その隙を見計らって美弥家さんが肉へ箸を伸ばすも、直前で三島さんの箸でブロックされ、美弥家さん毛皮を逆立て憤慨。
それを横目に風間部長はうどんを取ろうとするが、取る傍からうどんが箸から滑り落ち、眉根寄せて悪戦苦闘、
結局、見かねた空子先輩に「仕方ないわね」と取るのを手伝ってもらい、風間部長はばつの悪そうな表情一つ。
そんな目の前で繰り広げられる光景を微笑ましく思いつつも、私は手早く自分の分を確保してゆく。
多人数のケモノとの鍋物や焼肉は弱肉強食、うかうかしていたら自分の取り分は無いと思え。
これは今までの経験則による私の教訓である。この教訓を得るまで私は過去に何度、鍋物や焼肉の度に涙を流した事か。
……しかし、そんな私の予想とは裏腹に、何ら諍い無く和気藹々と進行してゆく鍋パーティー。
どうやら、肉一切れで血みどろの争奪戦を繰り広げていたのは、私達姉妹と女子プロレス部だけの事だった様で。

そうして皆が満腹になった所で鍋パーティーは終了。お次はゲーム大会へ移り変わる。
やる事はやはりトランプゲーム。五目並べに大富豪、そして基本中の基本のババヌキに少々カルトなインディアンポーカー。
開始前、美弥家さんが「お年玉を賭けるニャ」と言い出すも、即座に全員から「賭け事はダメ」と返され、尻尾をしょんぼり。
ババヌキ中、三連続でババを引いた伊賀野さんが「煙遁の術」と煙幕を張って即座に張本君に叱られ、同じく尻尾をしょんぼり。
風間部長、背が低いから横の私から見るとカードが丸見え、だけど私は敢えてババを取る。そしたらドンケツになった。
結果、罰ゲームとして顔中に洗濯バサミを付けられる事になってしまった……優しさが仇になったか。
けど、私が尻尾をしょんぼりさせていたら、風間部長が「済まんな」と私の背中をさすってくれた。やっぱり優しくして良かった。
と、そうしている間に時刻も夜の11時を周ったのでゲーム大会は終了。結果は三連勝した張本君が総合優勝。
その賞品として工具セットを授与されて、張本君は「こんなの、何に使うんだ…」と微妙そうな顔。けど尻尾は振っていた。

いよいよカウントダウンが近づいて、私と空子先輩は台所で慌しく年越し蕎麦の準備に入る。
台所を見て「調合が一杯出来そうニャ」と美弥家さん。部室の壁を前に「どんでん返しがあったら面白そう」と伊賀野さん。
美弥家さん、部室で爆弾を作らないでください。そして伊賀野さん、勝手にどんでん返しを付けないでください。お願いします。
そんな祈りを心の内で捧げている内に年越し蕎麦は完成。そばつゆのカツオ出汁の香りが辺りに広がる。

蕎麦を載せたお盆両手に、私と空子先輩が休憩室に戻ると、張本君と風間部長が何やらひと悶着。
三島さんに事情を伺ってみると、何も二人は年越し蕎麦を何時に食うかについて言い争っていた模様。
風間部長は「年越し蕎麦は年越し直後に食う物」と主張、伊賀野さん、三島さんがそれに賛同。
対する張本君は「年越し蕎麦は年越し直前までに食う物」と反論する。これには空子先輩、美弥家さんが賛同。
そんな中、私はと言うと、どちらの味方になる事も出来ず、只おろおろとうろたえる事しか出来ない。ああ、情けなや。
そうして白熱する議論、深まる対立、このままでは年越し会が年越し前にご破算になるかと思われたその時。
付けっぱなしのTVの年末特番が『年越し蕎麦は年越し直前までに食う物』と豆知識を披露。これにより議論は終結。
「俺が間違ってた!」と、全面的に非を認めて謝る風間部長。「分かれば良いさ」と尻尾を振る張本君。
やれやれ、一時は如何なるかと……。場合によってはどっちかを締め落さなければならなかったかもしれない。

そして差し迫るカウントダウン、皆は年越しまでに年越し蕎麦を完食するべく蕎麦を啜る。
しかし、そばつゆの熱さが容赦無くネコ科の私、美弥家さん、三島さんの舌を蹂躙する。熱い、辛い!
その様子を見かねたのか、風間部長が私や美弥家さん、三島さんへ冷たい水の入ったコップを寄越してくれた。
そんな風間部長の心遣いに感動しつつ、コップの水を一気に呷ったら激しくむせた。皆笑っていた。

やがて遠くから響く除夜の鐘の音。部室に満ちる穏やかで優しい空気。
ふと、私は身体に重みを感じて目を向けると、横に座っている風間部長が私にもたれ掛り、寝息を立てていた。
私がどうする事も出来ず、思わず空子先輩へ目をやると、空子先輩は苦笑しつつ「そのまま寝かしときなさい」との一言。
そして部室の皆がカウントダウンを始めるTVに釘付けになる中、私は風間部長のぬくもりを嫌が応に意識してしまう。

分かっている筈だった、私の想いは決して通じない事を。
既に覚悟した筈だった、私にとっての初めての感情が無駄に終わる事を。
なのに如何して、そのぬくもりと、優しさを身体に感じる程に、私はますます風間部長へ恋してしまうのだろうか?
空子先輩を愛している風間部長へ私が恋した所で、確実に無駄に終わるのが目に見えて居ると言うのに。

……しかし、それでも私は願ってしまう。
今感じているぬくもりが、少しでも長く感じていられる事を。

そんな私の煩悩へ染みいる様に、除夜の鐘の音は深く、遠く響いていた。




「ほらソウイチ! 佳望神社に初詣行くわよ!」
「あー、分かってるよ白頭……けど、まだ少し眠たくてな……」
「ソウイチったら、あれだけ寝ておいてまだ眠る気なの? もう少ししゃきっとしなさい!」
「ほらほら、風間。彼女が怒ってるぜ? 目なんか擦ってないで早く行ったら如何だ?」
「わーってるよ、張本。流石にアイアンクローはご免だしな…ふぁ…」
「飛行機部の部長さんは寝ぼすけだニャ! お目覚めすっきりなボクを見習うニャ!」
「そりゃ真っ先に寝てれば、目覚めもしゃっきりするのも当然だニャ。加奈ちゃん」
「あー! 瑠璃ちゃん、それは言ったらダメニャ!」
「あれ、所で虎宮山さんは何処なの? さっきから姿を見ないけど」
「虎宮山って…ああ、あの大きな白虎の鈴鹿さんの事か? さっきまで何か書いてたみたいだが」
「済みません、皆さん。待たせてしまったみたいですね」
「鈴鹿さんったらもう、何してたのよ! 皆待ちくたびれちゃってるわよ!」
「まあまあ白頭、そんなにトサカ立てるなって。鈴鹿さんにもやる事があったんだろ?」
「む……まあ、ソウイチに言われなくたってそれは分かってるわよ。ほら、初詣に行くわよ、鈴鹿さん」
「ええ、それじゃあ皆さん、初詣に行きましょうか」

2010 1/1 天候:晴


謹賀新年。西高東低空高く。朝から青空広がる一日。

……この日、私は夢を見た。
それは、私が風間部長と空子先輩、そして皆と何時までも楽しく笑い合って過ごす、何ら特別な事の無いごくありふれた夢。
だけど、一歩足を踏み外せば、たちまち泡の如く壊れてしまいそうな、儚い夢。

この夢を壊したくない、失いたくない、と願う私がいる一方。
この夢が何時までも続くとは限らないと、何処か覚悟している私もいる。

……果たして、それらのどっちが正しいのか。
それは今も、そして今後も分からないままだろう。

ただ、一つだけ言える事がある。
……今の、この私の想いはこの日記帳の中だけに留めておく。
それが今の私に出来る、最良の選択である事だと。

追記:尚、女子プロレス部の大晦日恒例闇鍋パーティーは姉さんを含めた5名の犠牲者を出して終了した。
ほぼ全員が入院を余儀なくされた2008年に比べ、だいぶマシな結果である。

―――――――――――――――――了――――――――――――――――――――

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