第036話 ONE FOR ALL ALL FOR ONE◆SzP3LHozsw
「恵ちゃん、大丈夫かな……」
樹の根元に蹲っていた八木塔子が、幼馴染の身を案じて独り言のように呟いた。
向かい合って座っている新庄慶はその声を耳にしたが何も言わず、ただ黙々と手元の作業に没頭している。
答えを求めたわけではなかったが、新庄が黙っていては会話にもならず、塔子は所在なげにその作業を眺めるしかなかった。
作業と言ってもそう大袈裟なものではない。
直径にして約10cm、長さにして1mちょっとの棒の先端を、塔子の支給品である『ダイバーズナイフ』で削るだけのことである。
新庄に言わせると支給武器が『碁石』だったためそれでは心許なく、万が一を考えての用心なのだそうだ。
だが塔子にすればそれはとりもなおさず殺人の凶器を作っている気がして、あまり良い気分はしなかった。
新庄もそれを察知してるからこそ余計な口は一切利かず、さっさと作業を終わらせてしまおうとしているのかもしれない。
向かい合って座っている新庄慶はその声を耳にしたが何も言わず、ただ黙々と手元の作業に没頭している。
答えを求めたわけではなかったが、新庄が黙っていては会話にもならず、塔子は所在なげにその作業を眺めるしかなかった。
作業と言ってもそう大袈裟なものではない。
直径にして約10cm、長さにして1mちょっとの棒の先端を、塔子の支給品である『ダイバーズナイフ』で削るだけのことである。
新庄に言わせると支給武器が『碁石』だったためそれでは心許なく、万が一を考えての用心なのだそうだ。
だが塔子にすればそれはとりもなおさず殺人の凶器を作っている気がして、あまり良い気分はしなかった。
新庄もそれを察知してるからこそ余計な口は一切利かず、さっさと作業を終わらせてしまおうとしているのかもしれない。
「……少し寝るんだな。暗いうちは人目につきにくい。休むなら今だぞ」
非難めいた視線が気になったのだろうか。新庄はじっと見入っていた塔子に手短に言った。
朴訥とした口ぶりだが、そこに悪意のないことはニコガクのマネージャーを務める塔子にはよくわかる。
塔子は「うん」と返事をしたものの、とても眠れそうにないと思った。
とりあえず素直に身を横たえて眼をつぶる。
背中の下の枯れ枝や小石が気になったが、何度かもぞもぞ動くうちにそれも馴染んだ。
眠れるわけがなかった。
身も心も疲れてはいたが、二度も無理やり寝かされたあとでは眠気が兆すはずもない。
それでも新庄の言うとおり休めるのは今だけかもしれないから、申し訳ないとは思ったが、この際、お言葉に甘えてしまうべきなのであろう。
朝になって動けないのでは、それこそ新庄に迷惑を掛けてしまう。
朴訥とした口ぶりだが、そこに悪意のないことはニコガクのマネージャーを務める塔子にはよくわかる。
塔子は「うん」と返事をしたものの、とても眠れそうにないと思った。
とりあえず素直に身を横たえて眼をつぶる。
背中の下の枯れ枝や小石が気になったが、何度かもぞもぞ動くうちにそれも馴染んだ。
眠れるわけがなかった。
身も心も疲れてはいたが、二度も無理やり寝かされたあとでは眠気が兆すはずもない。
それでも新庄の言うとおり休めるのは今だけかもしれないから、申し訳ないとは思ったが、この際、お言葉に甘えてしまうべきなのであろう。
朝になって動けないのでは、それこそ新庄に迷惑を掛けてしまう。
「新庄くんとあえて本ト良かったよ」
塔子は目をつぶったまま率直な感想を述べた。
――あれは小一時間ほど前のことだ。G-07の林道で新庄と偶然にも行きあうことができたのは。
知っている人間にあえたのは僥倖というやつだろう。
こうして山に分け入り、暗い森でじっとしていてなお安心できるのは、やはり新庄という心強い味方が居るからこそだった。
これが一人きりであれば、眠るどころか横になるのだって難しいのは明らかだった。
――あれは小一時間ほど前のことだ。G-07の林道で新庄と偶然にも行きあうことができたのは。
知っている人間にあえたのは僥倖というやつだろう。
こうして山に分け入り、暗い森でじっとしていてなお安心できるのは、やはり新庄という心強い味方が居るからこそだった。
これが一人きりであれば、眠るどころか横になるのだって難しいのは明らかだった。
「ありがとね。一緒に居てくれて」
「いいんだ、気にするな」
無駄口を叩かないところはいかにも新庄らしかった。
「いいんだ、気にするな」
無駄口を叩かないところはいかにも新庄らしかった。
「……恵ちゃん、大丈夫かな……?」
自分でも意識せず、塔子はさっきと全く同じ言葉を口にしていた。
自分でも意識せず、塔子はさっきと全く同じ言葉を口にしていた。
「――――わからない」
少し間があったあと、今度は新庄も答えてくれた。
しかしその答えは塔子を満足させるものではなかった。
塔子が不満そうな顔をしていると、その気持ちを察したのか、新庄は短く言葉を継ぎ足した。
少し間があったあと、今度は新庄も答えてくれた。
しかしその答えは塔子を満足させるものではなかった。
塔子が不満そうな顔をしていると、その気持ちを察したのか、新庄は短く言葉を継ぎ足した。
「心配しなくていい。あいつが死んだりするかよ」
そう言って、不器用そうに口角を僅かに持ち上げて微笑む。
そうした気遣いが、塔子の胸を締め付けた。
状況を掴めていないのは新庄だって同じなのだ。仲間を想う気持ちも塔子と変わりないだろう。
余計なことを言ってしまったと塔子は少し悔いた。
そうした気遣いが、塔子の胸を締め付けた。
状況を掴めていないのは新庄だって同じなのだ。仲間を想う気持ちも塔子と変わりないだろう。
余計なことを言ってしまったと塔子は少し悔いた。
「……新庄くんって、変わったよね」
話題を転じる。
話題を転じる。
「…………?」
「昔はすごく恐くて近寄りがたかったから。今みたいに笑ってるところもあまり見なかった」
「フッ。きっとそれは川藤のせいだろうな。俺も他の奴らも、みんなあいつに変えられちまった」
「そうだね、みんな先生に変えられちゃったよね」
「昔はすごく恐くて近寄りがたかったから。今みたいに笑ってるところもあまり見なかった」
「フッ。きっとそれは川藤のせいだろうな。俺も他の奴らも、みんなあいつに変えられちまった」
「そうだね、みんな先生に変えられちゃったよね」
塔子はさも可笑しいという風にころころ笑った。
川藤という不思議な教師のことを改めて思い返した。語り尽くせないほど様々な思い出がある。
新庄にしても、安仁屋にしても、他のニコガクメンバーにしても、そしてまた塔子にしても、川藤という教師の存在は限りなく大きい。
それだけに、数時間前のあの川藤の姿が網膜に焼き付いてしまっていて消えてくれなかった。
川藤という不思議な教師のことを改めて思い返した。語り尽くせないほど様々な思い出がある。
新庄にしても、安仁屋にしても、他のニコガクメンバーにしても、そしてまた塔子にしても、川藤という教師の存在は限りなく大きい。
それだけに、数時間前のあの川藤の姿が網膜に焼き付いてしまっていて消えてくれなかった。
「……その先生も……変わっちゃったね……。まさか先生があんなこと……」
死体を詰めた籠を押し運んでくる川藤の姿が残像のように浮かび上がった。
塔子は心底嫌なものを見たという風に激しく頭を振る。何かの間違いであって欲しかった。
死体を詰めた籠を押し運んでくる川藤の姿が残像のように浮かび上がった。
塔子は心底嫌なものを見たという風に激しく頭を振る。何かの間違いであって欲しかった。
「……何か事情があるはずだ。あいつは馬鹿だが、あんなことを平気でできる人間じゃない」
新庄は棒を削る手を止めて、きっぱりと言い切った。
新庄は棒を削る手を止めて、きっぱりと言い切った。
「でも、でも……!」
先生は死体を運んできたんだよ、怯える私達を見て笑ってたんだよ。
そう言おうとしたが、言葉が喉に張り付いて声にならなかった。
先生は死体を運んできたんだよ、怯える私達を見て笑ってたんだよ。
そう言おうとしたが、言葉が喉に張り付いて声にならなかった。
「お前の気持ちはよくわかる……。――――だが、俺は川藤を信じてやりたい」
「……先生が助けてくれると思ってるの?」
「さあ……どうだろうな。助けてくれるかもしれないし、助けてくれないかもしれない。もしかしたらお前が心配してるように、
マジであいつは変わっちまったのかもしれないな。けど、それでも俺は川藤を信じたい。あいつを裏切るような真似はしたくないんだ」
「新庄くん……」
「……先生が助けてくれると思ってるの?」
「さあ……どうだろうな。助けてくれるかもしれないし、助けてくれないかもしれない。もしかしたらお前が心配してるように、
マジであいつは変わっちまったのかもしれないな。けど、それでも俺は川藤を信じたい。あいつを裏切るような真似はしたくないんだ」
「新庄くん……」
それは塔子とて同じだった。だからこそ新庄の気持ちが理解できた。
しかし、それは単なる願望であって、奇麗事に過ぎない。
川藤のあのような姿を見てしまったあとでは、信じたくても信じきる自信が塔子にはなかった。
しかし、それは単なる願望であって、奇麗事に過ぎない。
川藤のあのような姿を見てしまったあとでは、信じたくても信じきる自信が塔子にはなかった。
「心配するな。もし本気で川藤の馬鹿がイカれちまってたら、そんときは俺があいつを見つけ出してブン殴ってやる。
昔、あいつが俺を変えてくれたように、今度は俺があいつを変えてみせる」
新庄が視線を上げた。まるで自分自身に言い聞かせてでもいるように、塔子に語って聞かせた。
それは新庄なりの決意にも感じられた。
昔、あいつが俺を変えてくれたように、今度は俺があいつを変えてみせる」
新庄が視線を上げた。まるで自分自身に言い聞かせてでもいるように、塔子に語って聞かせた。
それは新庄なりの決意にも感じられた。
「――明るくなったら安仁屋たちを捜しに行く。眠れなくてもいい、それまで休んどけよ」
新庄はダイバーズナイフをシースに収め塔子に放った。手の棒は見事に槍の形を成している。
新庄はダイバーズナイフをシースに収め塔子に放った。手の棒は見事に槍の形を成している。
「新庄くんは?」
投げられたナイフを胸元で受け取りながら塔子が訊いた。
投げられたナイフを胸元で受け取りながら塔子が訊いた。
「ここで見張ってる。お前に何かあったら安仁屋や平塚のアホがうるせーからな」
「ごめんね、迷惑掛けちゃうね」
「『ONE FOR ALL ALL FOR ONE』。一人はみんなのために、みんなは一人のために。それが俺たちニコガク精神だ。そうだろ?」
そうだった。それがニコガクだ。
忘れてはならない、仲間との絆。
「ごめんね、迷惑掛けちゃうね」
「『ONE FOR ALL ALL FOR ONE』。一人はみんなのために、みんなは一人のために。それが俺たちニコガク精神だ。そうだろ?」
そうだった。それがニコガクだ。
忘れてはならない、仲間との絆。
「お前だって俺たちの仲間なんだ。遠慮なんてすんじゃねえよ」
「うん」
「うん」
塔子は涙が出そうになるのを堪え、なんとか返事をした。
それから塔子は横になり直した。
早く朝になるよう願いながら、再び瞼を閉じる。
また野球はできるだろうか……。甲子園は目指せるのだろうか……。
不安なことは一杯あった。
それでも新庄と話して安心したからか、気分は少しだけ晴れていた。
なんだか少しだけ眠れそうな気がした。
それから塔子は横になり直した。
早く朝になるよう願いながら、再び瞼を閉じる。
また野球はできるだろうか……。甲子園は目指せるのだろうか……。
不安なことは一杯あった。
それでも新庄と話して安心したからか、気分は少しだけ晴れていた。
なんだか少しだけ眠れそうな気がした。
【F-07/森/1日目・午前2時半ごろ】
【女子14番 八木塔子@ROOKIES】
状態:健康
装備:ダイバーズナイフ
道具:支給品一式
思考:1.朝になったらニコガクメンバーを捜しに行く(安仁屋優先)
状態:健康
装備:ダイバーズナイフ
道具:支給品一式
思考:1.朝になったらニコガクメンバーを捜しに行く(安仁屋優先)
【男子18番 新庄慶@ROOKIES】
状態:健康
装備:棒で作った槍
道具:支給品一式 碁石@ヒカルの碁
思考:1.塔子を守る
2.朝になったらニコガクメンバーを捜しに行く
3.川藤を信じる
4.川藤が本当にイカれてたら力づくで止める
状態:健康
装備:棒で作った槍
道具:支給品一式 碁石@ヒカルの碁
思考:1.塔子を守る
2.朝になったらニコガクメンバーを捜しに行く
3.川藤を信じる
4.川藤が本当にイカれてたら力づくで止める
| 初登場 | 八木塔子 | ちょっと考えれば分かる事 |
| 初登場 | 新庄慶 | ちょっと考えれば分かる事 |