うつ(打・撃)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞
四段
[一] 物に物を強く当てる。また、たたくような動作をする。強く刺激を与える。
① 物を、物に向けて強く当てる。たたくぶつぶつける
(イ) 手や、鞭(むち)、杖(つえ)などの手に持った道具で、物をたたく。
※万葉(8C後)一四・三五三六「赤駒を宇知(ウチ)てさを引(び)き心引きいかなる背なか我がり来むといふ」
※説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)中「いたはしやつし王殿は、今は姉御を、うつかたたくかさいなむか」
打・討・撃・撲・拍・擣・搏・伐・射
(ロ) 雨、風、波、雷などが強くうちつける。自動詞的にも用いる。 ※古事記(712)下・歌謡「笹葉に宇都(ウツ)や霰(あられ)の」
※土左(935頃)承平五年一月二六日「追風の吹きぬるときはゆく船の帆手うちてこそうれしかりけれ」
(ハ) からだなどをあるものに強くぶつける。 ※虎明本狂言・神鳴(室町末‐近世初)「あいたやなふ、ああいかふこしをうったよ」
② 火を出すために、火打ち石をたたく。 ※貫之集(945頃)八「をりをりにうちて焚(た)く火のけぶりあらば心ざす香をしのべとぞ思ふ」
③ 楽器や手を鳴らす。
(イ) (拍) たたいて鳴らす。
※万葉(8C後)四・六〇七「皆人を寝よとの鐘は打(うつ)なれど君をし思へば寝(い)ねかてぬかも」
(ロ) 弾いて鳴らす。弾ずる。 ※続日本後紀‐承和九年(842)八月甲戌「天には琵琶をそ打なる」
④ (擣) つやを出すために、砧(きぬた)で衣をたたく。また、柔らかくするために、藁(わら)などをたたく。 ※枕(10C終)二七八「葡萄染(えびぞめ)の織物の直衣(なほし)、濃き綾(あや)のうちたる、紅梅の織物など着給へり」
※山椒大夫(1915)〈森鴎外〉「安寿は糸を紡ぐ。𢊍子王は藁を擣(ウ)つ」
⑤ 弓の弦(つる)をはじく。 〔色葉字類抄(1177‐81)〕
⑥ 古綿や繰り綿を綿弓ではじく。 ※浮世草子・日本永代蔵(1688)五「打綿の弓〈略〉もろこし人の仕業を尋ね、唐弓といふ物はじめて作り出し、世の人に秘(かく)して横槌にして打(ウチ)ける程に」
⑦ 球戯で、球をたたいて飛ばす。 ※学生時代(1918)〈久米正雄〉選任「つづいて第二球が来た。彼は此度は曲らぬ前を打たうと思って」
⑧ (撲・搏) 相手と引っ組む。ぶつかり合って争う。 〔名語記(1275)〕
⑨ 製品を作るために、材料を鍛えたりして手を加える。
(イ) 金属を鍛えて、刀剣などを作る。
〔日葡辞書(1603‐04)〕
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)出羽三山「此国の鍛冶、霊水を撰(えらび)て爰に潔斎して剣を打(うち)」
(ロ) 弓、沓(くつ)、面などを作る。 ※申楽談儀(1430)面の事「面ども打(うち)て、近江申楽(あふみさるがく)に遺物(ゆひもつ)しけるが」
(ハ) 練り固め、たたいて、そば、うどんなどを作る。 ※俳諧・古活字版中本犬筑波集(1532頃)雑「是非ともに又も来らばうちやせん うどんたらいでかへすきゃくしん」
⑩ たたいて伸ばす。 「金箔をうつ」
※太平記(14C後)一四「錦の御旌(はた)を指し上げたるに、俄(にはか)に風烈しく吹いて、金銀にて打て著けたる月日の御紋きれて」
⑪ (たたくような動作をするところから) 田畑を掘り返す。耕す。 ※古事記(712)下・歌謡「山城女(やましろめ)の 木鍬(こくは)持ち 宇知(ウチ)し大根(おほね)」
※万葉(8C後)一一・二四七六「打(うつ)田に稗(ひえ)はしあまたありといへど択(え)らえし我そ夜をひとり寝(ぬ)る」
⑫ (むちでたたくことから) 馬を走らせる。馬に乗る。 ※今昔(1120頃か)二五「然ば前(さき)に打(うち)て渡れ。頼信其れに付て渡らむと云て、馬を掻(かき)早めて打寄ければ」
⑬ 物事のきまりがついたことを祝って、手をたたく。手をしめる。 ※歌舞伎・伊勢平氏栄花暦(1782)三立(暫)「『目出度く顔見世の御祝儀に打ちやせうか』『よいよいよい、よいよいよい』ト手を拍つ」
⑭ (「金を打つ」という形で) 刀の刃、鍔(つば)、小柄(こづか)などをうち合わせて誓約する。金打(きんちょう)を行なう。 ※今昔(1120頃か)一六「観音の御前にして、師の僧を呼て、金打て事の由を申させて」
⑮ しるしを付ける。
(イ) たたくような動作で、しるしを付ける。銘を刻む。
※徒然草(1331頃)一六三「太衝(たいしょう)の太の字、点うつ、うたずといふ事」
(ロ) 墨縄で、まっすぐな線を付ける。 ※万葉(8C後)一一・二六四八「かにかくに物は思はじ飛騨人の打(うつ)墨縄のただ一道に」
(ハ) さお、縄などで、土地を測量する。 「検地をうつ」
※日葡辞書(1603‐04)「サヲヲ vtçu(ウツ)」
⑯ (太鼓を打つところから) 芝居、相撲などを興行する。また、巡業する。 ※浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)五「三つの恵みも鎮常(とこしなへ)打てばはづさぬ陣太鼓」
※滑稽本・続々膝栗毛(1831‐36)三「寺勧化(くゎんげ)のために芝居を興行(ウチ)てへといって」
⑰ 針を突き入れる。また、注射をする。 ※虎寛本狂言・神鳴(室町末‐近世初)「今の様にうごかせられては針が打(うた)れませぬ程に、動かぬ様に被成て被下い」
⑱ キーをたたいて操作する。
(イ) (キーをたたくところから) 電報を発信する。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉一〇「一通の祝電をうった」
(ロ) タイプライター、ワープロ、パソコンなどを操作して文字を入力する。 「ワープロをうつ」
⑲ (鐘、太鼓をたたいたり、時計が打ったりして) 時を知らせる。 〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕
※不言不語(1895)〈尾崎紅葉〉二「床の間の置時計十時を打てば」
⑳ たたくように動かす。ばたばたさせる。 ※別天地(1903)〈国木田独歩〉下「無心の鴎(かもめ)は其白き翼を搏(ウッ)て彼方此方を翔け廻って居る」
㉑ 心や感覚器官に刺激や感動を与える。 ※めぐりあひ(1888‐89)〈二葉亭四迷訳〉二「貴嬢(あなた)を見て美に撲(ウ)たれないものはない」
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉六「一歩踏込めば、臭気鼻を撲つ」
㉒ (自動詞的な用法) いやな経験をして閉口する。気がふさぐ。 ※洒落本・古今三通伝(1782)「そう気どられては、ちとうつね」
[二] たたいたり、はったりして、ある物を安定させる、固定する。また、ある状態に作りあげる。
① くぎ、くいなどを、たたいて入れこむ。
※古事記(712)下・歌謡「泊瀬(はつせ)の川の 上つ瀬に 斎杙(いくひ)を宇知(ウチ) 下つ瀬に 真杙(まくひ)を宇知(ウチ)」
② 額や札などをうちつける。掲げる。とりつける ※保元(1220頃か)中「黒糸威の鎧(よろひ)に、鍬形(くはがた)打(うっ)たる冑(かぶと)を着」
※徒然草(1331頃)一六〇「門に額かくるを、うつといふはよからぬにや。勘懈由小路二品禅門は、額かくるとのたまひき」
※火の柱(1904)〈木下尚江〉二「何がし学校の記章打ったる帽子」
③ 紙や、膏薬などをはり付ける。 ※右京大夫集(13C前)「ほうぐえりいだして、料紙にすかせて、経かき、またさながらうたせて」
※歌舞伎・芽出柳緑翠松前(1883)大詰「数ケ所の疵所(きずしょ)へ膏薬打ち」
④ (荷物などを)積み加える。 ※万葉(8C後)五・八九七「ますますも 重き馬荷に 上荷(うはに)打(うつ)と いふことのごと」
⑤ 物をうちつけたりして、仮に作り設ける。
(イ) 桟敷(さじき)、梁(やな)、屋根などを構え作る。
※万葉(8C後)三・三八七「いにしへに梁打(うつ)人の無かりせばここにもあらまし柘(つみ)の枝はも」
(ロ) 幕や綱などを張る。 ※大和(947‐957頃)一四七「生田の川のつらに、女、平張(ひらばり)をうちてゐにけり」
⑥ 門などをしめる。とざす 「城戸をうつ」
※浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)三「表御門、裏御門両方打たる館の騒動」
⑦ (かたちが整うように)添える。 ※浮世草子・西鶴織留(1694)四「先(まづ)椀(わん)折敷(をしき)に箸(はし)までうって、皿、小道具までを三人の請取にて出せば」
⑧ ひも、縄、むしろなどを編む。組む。 〔日葡辞書(1603‐04)〕
※俳諧・曠野(1689)員外「大勢の人に法華をこなされて〈越人〉 月の夕に釣瓶縄(つるべなは)うつ〈傘下〉」
⑨ 罪人などに縄をかけたり、枷(かせ)をはめたりして動けなくする。 「縄を打つ」
※浄瑠璃・出世景清(1685)四「足を牢より引き出だし左手(ゆんで)右手(めて)へ取ちがへ、山だし七十五人してひいたる楠の木にてあげほだしをうたせ」
⑩ 型に流し込んで固める。 〔日本建築辞彙(1906)〕
※岬(1975)〈中上健次〉「掘り方を終えると、すぐ、コンクリを打つ作業にかかるはずだった」
[三] 手、または道具を使って遠くへ飛ばす。また、投げるような動作で、あることを行なう。
① (撃・射) 投げる。放つ。発射する。また、当てて傷つける。
(イ) 物を投げる。道具から発射する。
〔日葡辞書(1603‐04)〕
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉風呂の後「蛸(たこ)の大頭を目懸けて短銃(ピストル)をポンポン打つんだが」
(ロ) (投げたり、発射したりして)当てる。当てて傷つけ殺す。 ※宇津保(970‐999頃)蔵開中「南のおとどより、かうじを一つなげて、大将をうつ人あり」
※宇治拾遺(1221頃)三「庭に雀のしありきけるを、童部(わらはべ)、石をとりて打たれば」
② 投げ広げる。撒(ま)く
(イ) 物を投げ広げたり、撒いたりする。
※虎明本狂言・福の神(室町末‐近世初)「いざさらばまめをうたふ」
※雑俳・もみぢ笠(1702)「それぞれに風呂敷打って侘花見」
(ロ) (網を投げて)とらえる 〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ (身を)思い切って投げ捨てる。ほろぼす ※浄瑠璃・生玉心中(1715か)下「命惜しいほどなら高で身をうつこともない」
④ ばさっと落とす。 ※日葡辞書(1603‐04)「イカリヲ vtçu(ウツ)」
[四] 武器などで、傷つけ倒す。
① たたいたり切ったりして傷つけ殺す。
※古事記(712)中・歌謡「久米の子らが 頭椎(くぶつつ)い 石椎(いしつつ)いもち いま宇多婆(ウタバ)良らし」
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)上「討(うっ)て捨(すつ)ると刀の柄に手をかくる」
② 攻撃する。相手の弱点をつく。
(イ) (討・伐) 攻める。攻め滅ぼす。
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「兵を興し衆を動して咀叉始羅国を伐(ウツ)」
(ロ) (駁) 非難する。他人の意見などを攻撃する。 ※浮世草子・傾城禁短気(1711)一「てれん上人といふ此宗旨の尻持、強(あなが)ちに女道宗を破して〈略〉諸の流身派の女道門をうつ事」
③ たたき切る。切りとる。 ※万葉(8C後)一四・三四七三「佐野山に宇都(ウツ)や斧音(をのと)の遠かども寝もとか子ろがおもに見えつる」
[五] 時機を失しないである事を行なう。すばやく動作する。たたくような動作に関係する場合が多い。
① 碁(ご)、すごろくなどの遊戯をする。
※古今(905‐914)雑下・九九一・詞書「まかり通ひつつ碁うちける人のもとに」
※談義本・世間万病回春(1771)三「かのよみかるたうつ人の」
② ばくち、遊びなどにふける。 「どらをうつ」
※徒然草(1331頃)一二六「ばくちの負きはまりて、残りなく打ち入れんとせんにあひては、うつべからず」
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉八「拳を打ったり歌を唱ったり」
③ 強盗などをはたらく。 ※言継卿記‐大永七年(1527)五月六日「事外世上盗人夜々打候。此御所へも可打由雑説あり」
④ 総金額のうち、いくらかを渡す。また、品物の交換などで、不足金を支払う。 「手金をうつ」
※歌舞伎・桑名屋徳蔵入船物語(1770)三「『庄六。替へんかい』『なんぼううつぞ』『やみぢゃ』『滅相な。たかでまたげの仕事にやみ打ってたまるもんかい』」
⑤ 祝儀などを与える。心づけをやる。 「花をうつ」
※浮世草子・俗つれづれ(1695)五「お衆さまがた持あはせが御座らばすこしの露をうたしゃりましょ」
⑥ ある手段をとる。 「にげをうつ」「なげをうつ」「ストをうつ」
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「敵の上手(うはて)をうたんと申し候ひつるは、ここ候ふぞ」
⑦ 急激にひっくり返るような動作をする。 「もんどりをうつ」「なだれをうつ」
〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「枕に就いて二三度臥反(ねかへ)りを打ったかと思ふと」
[六] 周期的、もしくは等間隔に繰り返される動作・状態についていう。
(イ) 「…をうつ」の形で用いる。
「脈を打つ」
※全九集(1566頃)一「左右の三邪ともに一向に脉うたざるをば双伏といへり」
※倫敦塔(1905)〈夏目漱石〉「肩を揺り越した一握りの髪が軽くうねりを打つ」
(ロ) (自動詞的な用法) 等間隔で動きを繰り返す。 「心臓がうつ」
※それから(1909)〈夏目漱石〉一「動悸は相変らず落ち付いて確に打ってゐた」
(ハ) (自動詞的な用法) ずきずきする、どきどきするような動作にいう。 〔日葡辞書(1603‐04)〕
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「頭痛がうったり脚病がしたりするのは」
広辞苑 他動詞
四段
➊ある物を他の物に瞬間的に強くあてる。
①《打・撃》勢いよく当てる。
古事記下「ささのはに―・つや霰の」。
大鏡伊尹「手をはたと―・ちて」。
日葡辞書「カヲヲウツ」
打つ・討つ・撃つ
②たたいて鳴らす。 万葉集4「皆人を寝よとの鐘は―・つなれど」。
土佐日記「舟子どもは腹つづみを―・ちて」。
日葡辞書「ツヅミヲウツ」。
「時計が3時を―・つ」
(きぬた)でたたいて光沢を出す。 源氏物語野分「朽葉のうすもの、今様色の二なく―・ちたるなど引き散らし給へり」
④石などを強くたたいて火を出す。 貫之集「をりをりに―・ちて焚く火の煙あらば」。
日葡辞書「ヒヲウツ」
⑤強い感動を与える。 「心を―・つ」「胸を―・つ」
⑥むち打って、馬を走らせる。 平家物語9「二日路を一日に―・つて」
⑦電報を発信する。 「電報を―・つ」
⑧舌をならす。 日葡辞書「シタツヅミヲウツ」
⑨綿弓ではじく。 「古綿を―・ち直す」
⑩たたいて伸ばす。 「金箔を―・つ」
⑪材料を鍛えて製品をつくる。 大鏡頼忠「かねの御器ども―・たせ給へりしかば」。
日葡辞書「ウマノクラヲウツ」「ユミヲウツ」。
仮名草子、国町の沙汰「近江が―・ちし紫檀の三味線」
⑫そば・うどんなどをつくる。 日葡辞書「キリムギヲウツ」。
ひさご「うどん―・つ里のはづれの月の影」(荷兮)
たがやすすきかえす 古事記下「木鍬もち―・ちしおほね」。
日葡辞書「タヲウツ」
⑭土地を測量する。 日葡辞書「サヲヲウツ」
⑮墨縄を使う。 万葉集11「飛騨人の―・つ墨縄のただ一道に」
⑯伐り採る。 万葉集14「佐野山に―・つや 斧音 (おのと)の遠かども寝もとか子ろが面に見えつる」
➋《打》
①釘や(くい)をたたきこむ。
古事記下「こもりくの初瀬の川の上つ瀬に 斎杙 (いくい)を―・ち下つ瀬に真杙を―・ち」。
大鏡師輔「胸に釘は―・ちてき」
②針などをさし入れる。 狂言、雷「之を痛い所へ―・ち込みまする。…―・つてくれい」。
「注射を―・つ」
③釘を打つなどして、とめる。はりつける 平家物語1「御墓所の廻に我寺々の額を―・つ事あり」。
日葡辞書「ウラヲウツ」
④筆などで印をつける。 「点を―・つ」「番号を―・つ」
⑤非難する。なじる 「非の―・ちどころがない」
➌《撃・討》きずつけたおす。
①武器などで打撃を与え、敵をたおす。ころす。斬る。
古事記中「久米の子が 頭椎 (くぶつつ)い石椎いもち―・ちてしやまむ」。
日葡辞書「ヒトヲウツ」。
「首を―・つ」
②矢・弾丸などをあてて殺す。 「獣を―・つ」
③敵を攻める。攻めほろぼす。 日葡辞書「テキヲウツ」。
「不意を―・つ」
➍《打》(遠くへ投げる意から)
①投げてあてる。投げる。
宇津保物語蔵開中「南のおとどよりかうじを一つ投げて大将を―・つ人あり」。
宇治拾遺物語3「石を取りて―・ちたれば当りて」。
日葡辞書「ツブテヲウツ」
②投げ広げる。 日葡辞書「ナゲアミヲウツ」
③網で鳥をとらえる。 日葡辞書「トリヲウツ」「ウチアミ」
まく 狂言、文相撲「水を―・たせて置け」
おろす 日葡辞書「イカリヲウツ」
⑥(「射つ」とも書く)発射する。 日葡辞書「テッポウヲウツ」
纏頭 (はな)などを与える。 浄瑠璃、心中二枚絵草紙「いつやらの紙花も思の外に遅なはり面目ない…今改めてこりやばつと―・ちなほすわ」
⑧身を、なげだす。すてるほろぼす 浄瑠璃、生玉心中「命惜しい程なら高で身を―・つ事もない」
⑨巡礼する。 歌舞伎、傾情吾嬬鑑「西国を―・つ気はないか」
⑩〔仏〕伝法灌頂をうける。
➎《打》物を組み合わせる。
①仮に構え設ける。門・幕などを、とざす。しめる
宇津保物語藤原君「賀茂川の辺にさじき―・ちて」。
奉公覚悟之事「幕之事…常は張るといふべし。敵を見かけては―・つといふべし」。
浄瑠璃、仮名手本忠臣蔵「表御門裏御門両方―・ちたる館の騒動」
②ひも・糸状のものを組む。編む。 日葡辞書「ムシロヲウツ」「ヲヲウツ」
③罪人になわをかける。
➏《打》転じて、あることを行う意。
①芝居や相撲を興行する。
「芝居を―・つ」
②碁・将棋・すごろくなどの遊戯を行う。 古今和歌集雑「碁―・ちける人のもとに」
③ばくちをする。 徒然草「ばくちの負けきわまりて残りなく―・ち入れむとせんに相手は―・つべからず」
④ある方策を行う。手段を講ずる。 「新しい手を―・つ」「広告を―・つ」
⑤物事のきまりがついたことを祝って手をたたく。手をしめる。
⑥総金額のうち幾分かを渡す。品物の交換などの場合、不足金を補いはらう。 「手金を―・つ」
⑦あるしぐさをする。 狂言、瓜盗人「夜瓜を取るにはころびを―・つて取るものぢや」
⑧勢いよく動く。進んで事を行う。 「文壇に―・って出る」
自動詞
下二段
(打たれるの意)
①打撃を受ける。押しつぶされる。
太平記13「五百余人一人も残らず(おし)に―・てて死にけり」
②負ける。 古今著聞集16「又よりあひて取るにこのたびは壇光―・てにけり」
③誓約を破って罰を受ける。 平家物語12「起請には早くも―・てたるぞかし」
④気を呑まれる。けおされる。 浄瑠璃、五十年忌歌念仏「大坂の娘子達に交りても―・てずおされず」
⑤承服する。納得する。合点がいく。 浄瑠璃、心中天の網島「さすがの武士も―・てぬ顔」
⑥魚などが腐る。
大言海 他動詞
四段
(一){强ク當ツ。タタクブツ 古事記、下(允恭) 廿 長歌「(ササ)葉ニ、 宇都 (ウツ)ヤ霰ノ、タシダシニ、寢ネテム後ハ」 打・擊
(二){打チテ、火ヲ出ス。 景行紀、四十年十月「王(日本武尊)知欺、則、以(ヒウチ) 出火之 (ウチイダシ)、向燒而得免」
(三){打チテ、鳴ラス。敲ク。 萬葉集、四 三十二 「皆人ヲ、()ヨトノ鐘ハ、打つナレド、君ヲシ思ヘバ、イネガテネカモ」
「半鐘ヲ打つ」
(四){槌ニテ、タタキコム。 古事記、下(允恭) 二十三 長歌「コモリクノ、ハツセノ河ノ、上ツ瀨ニ、伊久比ヲ宇知、下ツ瀨ニ、麻久比ヲ宇知」
「釘ヲ打つ」
(五)釘ニテ、打チ付ク。 平家物語、一、額打諭事「東大寺ノ額ヲうつ、云云、興福寺ノガクヲうつ」
徒然草、百六十段「門ニ額カクルヲ、うつトイフハ、ヨカラヌニヤ、勘解由小路二品禪門ハ、額カクルト宣ヒキ」
「表札ヲ打つ」
(六){墨繩ヲツカフ。カクル。 萬葉集、十一 廿七 「飛驒人ノ、打つ墨繩ノ」
(七)スキカヘス。耕ス。 素性法師集「三月ニ、田うつヲ」
「畠ヲ打つ」
(八)タタキ延ベテ、作ル。 「箔ヲ打つ」
(九)取リ着ク。着ク。 「鍬形ニ打ッタル兜」紋所ヲ打つ」
(十){斬ル。殺ス。 古事記、中(神武)長歌「クブツツイ、石ツツイ持チ、宇知テシヤマン、云云、クブツツイ、石ツツイ持チ、イマ宇多バヨラシ」
「首ヲ打つ」仇ヲうつ」
(十一){攻ム。襲フ。征伐ス。 欽明紀、五年二月「唯庶克濟多難(ウチホロ)(ボサム)强敵
「敵ヲ擊つ」謀叛人ヲ討つ」
(十二)放ツ。發ス。發射 「鐵砲ヲ打つ」
(十三) 射當 (イア)テ、殺ス。擊殺 「鳥ヲ打つ」
(十四) ()。(打乘ル意カ) 名目抄「 葛折 (ツヅラヲリ)、御幸之時、馬打つ樣」
(サキ)ヲ打つ」一騎打」
(十五) 綿弓 (ワタユミ)ニテ、(ハジ)キ分ク。 「綿ヲ打つ」
(十六)批難ス。 (ナジ)
(十七)鍛ヘ作ル。 唐船噺今國性爺(享保、近松作)中「祕密ヲ盡クシ打つ劔」
「刀ヲ打つ」
(十八){構フ。張ル。 宇津保物語、藤原君 四十九 「賀茂川ノ邊ニ、サジキうちテ」
「幕ヲ打つ」假屋ヲ打つ」
(十九){打チツク。投グ。 宇津保物語、藏開、中 四十二 「南ノオトドヨリ、 柑子 (カウジ)ヲ一ツ投ゲテ、大將ヲうつ人アリ」
「石ヲ打つ」 飛礫 (ツブテ)ヲ打つ」
(二十)組ム。編ム。 「紐ヲ打つ」打紐」マルうち」ヒラうち」
(廿一)搦ムル。 「罪人ニ繩ヲ打つ」
(廿二)撒ク。投ゲ下ダス。 狂言記、文相撲「鞠ヲナサレウホドニ、カカリヘ水ヲうたセテオケ」
「網ヲ打つ」
(廿三)撿地ニ、竿、繩ニテ、段別ヲ量ル。丈量
(廿四){博奕、碁、雙六ナドヲ爲ス。 源、三、空蟬「碁うたセ給フ」
(廿五)蕎麥切、饂飩ナド作ル。
(廿六) 打金 (ウチキン)ヲスル。(打金ノ條、見合スベシ)
(廿七)芝居、見世物ヲ興行ス。(太鼓ヲ打つナリ)開場
(廿八)締メ切ル。閉ヅ。 「城戶ヲ打つ」大門ヲ打つ」
(廿九)送ル。 「電報ヲ打つ」
(三十)他ノ動詞ノ上ニ、熟語トシテ、意ナク、或ハ、稍、意ヲ强クシテ用ヰル。 「打ち連ル」打ち任ス」打ち聞ク」打ち絕ユ」打ち出ヅ」打ち忘ル」打ち亂ル」打ち續ク」打ち開ク」打ち遣ル」打ち過グ」打ち渡ス」
動詞活用表
未然形 うた ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 うち たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 うつ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 うつ も、かも、こと、とき
已然形 うて ども
命令形 うて
動詞活用表
未然形 うて ず、らゆ、らる、む、じ、さす、しむ、まほし
連用形 うて たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 うつ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 うつる も、かも、こと、とき
已然形 うつれ ども
命令形 うてよ

検索用附箋:自動詞下二段
検索用附箋:他動詞四段

附箋:下二段 他動詞 四段 自動詞

最終更新:2024年05月31日 21:57