おす(押・推)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞 [一] 向こうにむけて力を加える。
① 物に力を加えて向こう側へ動かす。br;(イ) 力を加えて物を前へ進ませる。
※書紀(720)崇神八年一二月・歌謡「味酒三輪の殿の 朝門(あさと)にも 於辞(オシ)開かね 三輪の殿門(とのと)を」 押・圧・推
(ロ) (櫓は押して使うところから) 櫓を使って舟を進ませる。 ※源氏(1001‐14頃)玉鬘「例の舟子ども『唐泊(からとまり)より川尻をすほどは』と謡ふ声の」
② 行動や意志のさまたげとなるものを排除する。
(イ) 相手の勢いを圧倒する。打ち負かす。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「右の大臣(おとど)の御勢(いきほひ)は、物にもあらずをされ給へり」
(ロ) 誘惑や困難に打ち勝つ。がまんする。 ※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「千の誉を抑(オシ)て他に譲り」
※隣語大方(18C後)一「私も病気を推して罷出ませふ」
(ハ) 道理に従って行動し、推測する。また、道理が通用する。 ※日葡辞書(1603‐04)「リノ vosu(ヲス) トコロ」
(ニ) やり方などを変えず、そのまま物事を進める。 ※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「住さんの性根で押(オシ)て行なされ」
(ホ) 軍勢を進めて攻撃する。 ※太平記(14C後)一三「名越(なごや)式部大輔を大将として、東海・東山両道を押(ヲシ)て責め上る」
(ヘ) ((ホ)から転じて) 大勢で遊里へ繰り込む。 ※浮世草子・傾城色三味線(1701)鄙「すこしもはやくと駕籠をいそがせ、三枚肩にておさせける」
③ 安定したものに向けて力を加える。
(イ) 体重をあずけてもたれかかる。
※源氏(1001‐14頃)花宴「勾欄に背中をしつつ、〈略〉遊び給ふ」
(ロ) 物にはりつける。 ※宇津保(970‐999頃)蔵開上「きじの皮をはぎて〈略〉松の作り枝につけて、はしにかくつけてをしたり」
(ハ) 確かかどうか確認する。 ※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初「客のくるかこねへかを茶屋に念をおすことまでしょうちしちゃア」
④ 他に抜き出た位置につくようにする。
(イ) 指導者として仰ぐ。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「咸(ことごと)くに神武を懼れ大位(みかど)に推(オシ)尊ぶ」
(ロ) すぐれたものとして推薦する。 ※史記抄(1477)一八「史遷を高く推さふとてぞ」
⑤ 放送や仕事などが立て込み時間的にさしせまっている。遅れぎみである。 ※マイクとともに(1952)〈藤倉修一〉修業はつらい「二分余るはずなのだが、ドンドン押して、余るどころかハミ出しそうである」
[二] 上から下へ向けて力を加える。
① 上から重みを加えて動かぬようにする。
※書紀(720)神武即位前「圧、此をば飫蒭(オス)と云ふ」
② 色や模様を他の物に移す。
(イ) 模様を写しとるため、布などを載せて摺りつける。
※書紀(720)敏達元年五月(前田本訓)「高麗(こま)の上れる表疏(ふみ)、烏(からす)の羽(は)に書(か)けり。〈略〉帛(ねりきぬ)を以て羽に印(オシ)て悉くにその字を写す」
(ロ) 印に朱や墨などをつけて、その形を紙などに写す。 ※聖語蔵本成実論天長五年点(828)二二「観は印を印(オス)が如し」
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「身どもに証文(せうもん)書かせおぬしがをした判(はん)が有」
(ハ) 印刷する。 ※天草本平家(1592)「コノ イチクヮンニワ ニッポンノ ヘイケトユウ Historia ト、〈略〉 Europa ノ Esopo ノ Fabulas ヲ vosu(ヲス) モノ ナリ」
(ニ) (「押韻」を訓読して) 漢詩の毎句または隔句の末尾に同じ韻の字を使う。韻を踏む。 ※史記抄(1477)五「飾が韻ぞ。又服と三句めにふんだぞ。極と押したぞ」
③ 物の活動を制御する。
(イ) 謡や語り物の発声で、低音に下げる。
※音曲声出口伝(1419)「竪(じゅ)の声をばおしてつかふべし」
(ロ) 相手をしいたげる。 ※浄瑠璃・栬狩剣本地(1714)二「此道斗(ばかり)はけん付に、おせどおされぬ茨(いばら)の枝」
(ハ) 相場の値が一時下落気味となる。
広辞苑 他動詞 密着して圧力を加える意。
➊事物を上・先へ進めるように他から力をいれる。
①力を加えて前へ進ませる。
崇神紀「うま酒三輪の殿の朝戸にも―・し開かね」。
栄華物語きるはわびしとなげく女房「肥りたる近江守などは人に―・されなどして歩みゆくもをかしくなん」。
「荷車を―・す」
押す・圧す・推す・捺す
②(()は押して使うところから)櫓を操って舟を進める。 源氏物語玉鬘「例の舟子ども、 唐泊 (からとまり)より河尻―・すほどはと謡ふ声」
③《推》(人をその地位へ)すすめる。推挙する。推薦する。 大唐西域記長寛点「神武を(おそ) 大位 (みかど)(オシ)尊ぶ」。
「クラス委員に―・される」
④《推》それにもとづいて考察を進める。推論する。おしはかる 天草本伊曾保物語「道理の―・すところを人に教ゆる」。
「この点から―・して、成功は確実である」
⑤(自動詞的に)相場がしだいに下落する。
➋物に触れて上や横から力を加える。
①上や横から重みをかける。圧する。押さえつける。
東大寺諷誦文稿「或いは剣の輪に(オサレ)(おら)び叫び」。
新撰字鏡8「圧、於須」。
「扉を―・す」
②(多く「―・して」の形で)照らす作用などを、上から一面におし及ぼす。 万葉集7「春日山―・して照りたるこの月は妹が庭にもさやけかりけり」
③ものの側面に何かを強く当てる。押し当てる。 源氏物語常夏「 勾欄 (こうらん)に背中―・しつつ侍らひ給ふ」
④(布などに模様・しるしなどを)強く圧してつける。 栄華物語歌合「(かね)の常夏の花―・したる船二つに乗りて」
⑤捺印する。印に肉をつけてその形を紙・布などにつける。 日葡辞書「インバンヲヲス」。
浄瑠璃、曾根崎「二十五日に落した判を八日に―・されうか」。
「スタンプを―・す」
⑥(ものをしっかりと)はりつける 大鏡伊尹「壁の少し黒かりければ…みちのくに紙をつぶと―・させ給へりけるが」。
平家物語1「上は鞘巻の黒う塗つたりけるが、中は木刀に銀箔をぞ―・したりける」
たしかめる 「念を―・す」「駄目を―・す」
⑧語り物などで、低音に下げて終りを押さえる語り方をする。 浄瑠璃、伽羅先代萩「人人はヲスただうつとりとフシながめいる」
⑨漢詩の毎句または隔句の末に同じ韻の字を用いる。 「韻を―・す」
➌威力をもって圧迫する。
①圧倒する。やっつける。
源氏物語澪標「かの明石の船此のひびきに―・されて」。
大鏡道長「かかる運に―・されて、御兄達はとりもあへずほろび給ひにしにこそおはすめれ」。
「気迫に―・される」「―・しぎみの試合経過であった」
②軍勢をおし進める。また、多人数で繰り込む。 太平記13「東海・東山両道を―・して攻めのぼる」。
好色一代男4「夢山様の御望み、島原へ―・せ」
③強いてする。障害をおしきってそのまま事を進める。無理をしのんでする。 浄瑠璃、大経師昔暦「暦のことは―・されぬと、減らず口して帰りけり」。
浮世風呂前「しかしおまへの浄瑠璃は、やつぱり住さんの性根で―・して行きなされ」。
「病を―・して出勤する」
④(連用形が他の動詞の上に付いて接頭語となる)
㋐「むりに」「しいて」の意。
徒然草「はては許さぬものども―・し取りて」
㋑語調を強める。 「―・しいただく」
大言海 他動詞 (一){力ヲ用ヰテ、 彼方 (カナタ)ヘ遣ル。 天治字鏡、十 十五 「押、於須」 押・推
(二){艪ヲツカヒテ、舟ヲ()ル。 源、廿二、玉鬘 十四 「例ノ舟子ドモ、からとまりヨリ、川尻おすホドハ、ト謠フ聲ノ、云云」
(三)軍陣ノ語。軍勢ヲ進ム。進軍 甲陽軍鑑、十一、上、品第三十五「其(アト)ニツキ、山縣(昌景)(オサ)ヘ候ヘバ、山縣ニツキ、七頭モ 岨傳 (ソバヅタ)ヒニおす」(武者押、押前、押太鼓ナド云フ語モ、是レナリ)
「押し寄ス」押しテ行ク」
(四)紙ヲ、糊ニテ押シ()ル。 禁腋祕抄、殿上ノ()(フダ)ニ「名ノ下ニ紙ヲおしテ、上目ヲツク」(押紙ト云フモ、是レナリ)
(五)上ヘ推ス。イタダク。仰グ。推擧 「推しテ大將トス」
(六) (ナゾラ)オシナブ 「其外ハ推しテ知ルベシ」己ガ心ヲ推しテ、人ニ及ボス」
(七)漢詩ノ每句、又ハ、隔句ノ末ニ、同ジ韻ノ字ヲ用ヰル。((ヰン)ノ條ヲ見ヨ)押韻
(八)究メ考フ。推究 「理ヲ推ス」
(九) ()。無理ニナス。 新六帖、五「イタヅラニ、マダ手モ觸レヌ、ソリマ弓、人ハおしタル、ハリ事ナセソ」
「押し入ル」押し賣リ」
(十)敢ヘテ爲ス。强忍 「前ヲ押す」風波ヲ押す」
動詞活用表
未然形 おさ ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 おし たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 おす べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 おす も、かも、こと、とき
已然形 おせ ども
命令形 おせ

検索用附箋:他動詞四段

附箋:他動詞 四段

最終更新:2024年02月19日 21:52