かく(掛)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞 [一] ある場所、ある物、人などに付けて事物や人をささえとめる。また、あるものにかぶせたり、もう一つのものを加えたりする。
① ある所に物の一部をつけてぶら下げる。つりさげる。ひっかける
※古事記(712)下・歌謡「斎杙(いくひ)には 鏡を加気(カケ) 真杙(まくひ)には 真玉を加気(カケ)」
※永日小品(1909)〈夏目漱石〉クレイグ先生「近眼の所為(せゐ)か眼鏡を掛(カ)けて」
掛・懸・賭・架
② 物の表面に覆いかぶせる。また、(自動詞のように用いて)霞や霧がかかる。 ※源氏(1001‐14頃)夕霧「わけゆかむ草はの露をかごとにてなほぬれぎぬをかけむとや思ふ」
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「葉山は火燵蒲団を剥いで、柳之助に被(カ)けて」
③ からだや物の端の部分を他の物の上にのせたり、側面にもたれさせたりする。手の場合は、つかむように触れることにもいう。 ※蜻蛉(974頃)下「すだれに手をかくれば」
※源氏(1001‐14頃)帚木「廊のすのこだつものに尻かけて」
④ 馬や牛を、車につなぐ。 ※蜻蛉(974頃)中「車かきおろして、馬ども浦にひきおろして冷しなどして〈略〉さて車かけて、その崎にさしいたり」
⑤ 碇(いかり)をおろしたり、岸につないだりして船をとめる。 ※日葡辞書(1603‐04)「ミナトニ フネヲ caquru(カクル)」
⑥ 開かないように、鍵や錠でとめる。また、取れないように、金具などでとめる。 ※狭衣物語(1069‐77頃か)二「妻戸あららかにかけつる音すれば」
※浅草紅団(1929‐30)〈川端康成〉二六「ボタンをかけてなかった外套」
⑦ (竿秤(さおばかり)にぶら下げることから) はかりにのせる。目方をはかる。 ※古今六帖(976‐987頃)五「かけつればちぢのこがねも数知りぬなぞわが恋のあふはかりなき」 〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑧ 高い所につるしたり、とりつけたりする。掲げる。また、掲げて人に見せる。さらす ※枕(10C終)一六四「風はやきに帆かけたる舟」
※平家(13C前)八「主従三人が頸をば、備中国鷺が森にぞかけたりける」
⑨ (鍋など上からつるしたところから) 煮たきをするために、火の上に置く。 ※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「燗をつけるやら、鍋を懸けるやら、瞬く間に酒となった」
⑩ ひとりで二つ以上の働きや役目をする。兼ねる。 ※伊勢物語(10C前)六九「国の守(かみ)、いつきの宮のかみかけたる」
※日葡辞書(1603‐04)「フタミチヲ caquru(カクル)〈訳〉ひとりの男がふたりの女と、またはひとりの女がふたりの男とまじわっている」
⑪ 一つの語句に第二の意味を帯びさせる。掛け詞を用いる。 ※古今(905‐914)物名・四六八・詞書「『は』をはじめ、『る』をはてにて、『ながめ』をかけて時の歌よめと人のいひければよみける」
⑫ 数量、力、重みなどをあわせ加える。 ※浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂「家財かけて三拾壱貫五百目の大臣北浜の根づよい名題男と」
[二] ある機能を持つもののはたらきの支配下に置く。そのはたらきの対象にとり入れる。
① 心や耳目にとめて関心事とする。
(イ) 単独に用いる。
※万葉(8C後)二〇・四四八〇「かしこきや 天(あめ)のみかどを 可気(カケ)つれば 哭(ね)のみし泣かゆ 朝よひにして」
(ロ) 「心(耳・目)にかく」などの形で用いる。 ※万葉(8C後)四・六九七「わが聞きに繋(かけて)ないひそかりこもの乱れて思ふ君が直香(ただか)そ」
※日葡辞書(1603‐04)「ヒトヲ シリメニ caquru(カクル)〈訳〉横目で見る」
② 言葉に出して言う。言葉に表わす。
(イ) 単独に用いる。
※万葉(8C後)一四・三三六二(或本歌)「武蔵嶺の 小峯見かくし 忘れゆく 君が名可気(カケ)て 吾をねし泣くる」
(ロ) 「口のはにかく」「言葉にかく」の形で用いる。 ※後撰(951‐953頃)雑二・一一七九・詞書「おのれが上はそこになん、口のはにかけて言はるなる」
③ 関係づけて言う。かこつける ※古今(905‐914)仮名序「さざれ石にたとへ、筑波山にかけて君をねがひ」
④ とがった物や、囲み込むような物で捕えて、自由に動けないようにする。特に、獣、鳥、魚などを、わな、網、針などで捕える。 ※石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「之亮、僚属等と皆獄に繋(カケ)られて惶り懼く」
※日葡辞書(1603‐04)「トリヲ caquru(カクル)〈訳〉飛びあがろうとしている鳥の上に網を投げる」
⑤ (④の比喩的用法) 仕組んだ計画にはめこむ。だます ※大乗掌珍論承和嘉祥点(834‐849)「自ら雪めて道理を立つること能はぬをもちて、他を誣(かこ)ち罔(カケ)て言はく」
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉五「忍(しのび)巡査が地方人の風をして甘(うま)っく奴をかけたンです」
⑥ 力を持つもので危害を及ぼす。
(イ) (刀、きば、ひづめなどで) 傷つけたり殺したりする。
※保元(1220頃か)中「人手に懸けて御覧候はんより、同じくは御手にかけ参らせて」
(ロ) (魔法・催眠術などで) 判断力を奪う。 ※夜長姫と耳男(1952)〈坂口安吾〉「オレはヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思った」
⑦ 問題になるものとして裁判、会議などに持ち出す。 「裁判にかける」
※日葡辞書(1603‐04)「クジ サタヲ caquru(カクル)〈訳〉訴えをおこす」
※憲法講話(1967)〈宮沢俊義〉一「法律は帝国議会にかけなくてはならなかったが」
⑧ 材料、素材などを機械、器具などで処理する。 ※子を貸し屋(1923)〈宇野浩二〉一「それらの切れ屑をすぐにミシンにかけられるやうに裁つこと」
⑨ 権威のあるものや、大切なものを約束の保証にする。 ※平中(965頃)三四「いつはりをただすの森のゆふだすきかけて誓へよわれを思はば」
[三] 生命や財産など大切なものを、相手やなりゆきにまかす。
① 神仏や人や物事に、希望、生命などを託する。あてにしてまかせる。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「渋き菓、苦き菜(くさびら)を採(つ)みて危命を係(カケ)」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)草加「若(もし)生て帰らばと、定なき頼の末をかけ」
② 医者に診察や治療を頼む。 ※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「よいよいがかって、一としきりぶらぶらしたのを治さしったって、功者な噂だからかけて見たが」
③ 勝負事などで、負けた者が勝った者に金品などを払うことを約束する。また、問題を解いた者、くじに当たった者、勝った者、ある要求をみたした者などに賞を出す。 ※宇津保(970‐999頃)内侍督「『なにをかくべからん。まさより、むすめ一人かけん。〈略〉』『かねまさは、侍るにしたがひて、なかただをかけ侍らん』など、これかれ子どもをかけ物にて」
※露団々(1889)〈幸田露伴〉二〇「当港同家の支店長しんぷるなる者が賞を懸(カケ)て亢龍を索(もとむ)るの文なり」
④ 大切なものを代償にする。 ※大和(947‐957頃)八四「をとこの『わすれじ』とよろづのことをかけてちかひけれど」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「命をかけて、なにの契りにかかる目を見るらむ」
⑤ 一定期間の後に代金をもらう約束で、物を売る。 〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑥ 費用、時間、人手などを用いる。 ※和英語林集成(初版)(1867)「カネヲ kakete(カケテ) コシラエタ」
※家(1910‐11)〈島崎藤村〉上「何を倹約しても斯娘(これ)には掛けたいと思ひまして」
⑦ ある定まった期間ごとに、納める金銭を出す。掛け金を払う。 ※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉投機「保険満期を十ケ年として満期まで掛続いたものには」
[四] 相手を作用の目標にする。また、その相手に影響力の大きい作用を及ぼす。
① あるはたらきかけを相手に向ける。
(イ) 心をそれに向ける。めざす
※万葉(8C後)六・九九八「眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸(かけ)て漕ぐ舟とまり知らずも」
(ロ) 相手に反応を求めるような作用を及ぼす。しかけを発する。 ※徒然草(1331頃)一〇九「『あやまちすな。心しておりよ』と言葉をかけ侍りしを」
※行人(1912‐13)〈夏目漱石〉友達「其処へ電話を掛(カ)ければ君の居るか居ないかは、すぐ分るんだね」
(ハ) (芸妓を)呼び出す。 ※雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下「下女を手招きして次の間に至り、何か私語(ささや)き座に返るは跡の芸妓(げいしゃ)を掛けしと知られたり」
② ある場所、時期から他の場所、時期にまで及ぼす。また、ある時期の初めに至らせる。 ※古今(905‐914)春上・五「梅が枝に来ゐる鶯春かけてなけどもいまだ雪は降りつつ」
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉一「縦横に本郷から下谷、神田を掛(カ)けて歩いて」
③ 湯、水などを浴びせる。また、(自動詞のように用いて)雨や波が物の上にかかる。 ※枕(10C終)三〇六「船に浪のかけたるさまなど」
※更級日記(1059頃)「なにさまで思ひいでけむなほざりの木の葉にかけし時雨(しぐれ)ばかりを」
④ あるものに支配的な影響を及ぼす。 ※宇津保(970‐999頃)俊蔭「七人の人〈略〉いささかなる法をつくりかけつ」
⑤ 情愛、恩恵などを他に及ぼす。また、目下の者に祝儀を与える。 ※落窪(10C後)一「我に露あはれをかけば立ちかへり共にを消えようきはなれなん」
※人情本・恩愛二葉草(1834)三「余所(よそ)ながら、彼奴めが恵みを懸(カ)けたるに疑ひなし」
⑥ 好ましくないこと、迷惑、苦労、損害などを与える。 ※源氏(1001‐14頃)蜻蛉「女郎花みだるる野辺にまじるとも露のあだなをわれにかけめや」
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉一〇「他(ひと)に迷惑をかけながら」
⑦ 強制力を加える。 ※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉上「車に税を掛(カ)けることなどは止めて呉れるだらう」
⑧ (建物、船、山などに)火をつける。 ※平家(13C前)四「白河の在家に火をかけて焼きあげば」
⑨ 機械、道具、薬品などにその機能を発揮させる。 ※日葡辞書(1603‐04)「イタ ナドニ カンナヲ caquru(カクル)」
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇「殆んど布巾をかけた事がないのだから」
⑩ 掛け算をする。 ※日葡辞書(1603‐04)「ククヲ caquru(カクル)」
⑪ 交尾させる。 ※コブシ(1906‐08)〈小杉天外〉前「一ト口に馬って云ふけれど、本当に大抵な物ぢゃありませんやねえ…。一回(ど)交尾(カケ)るに何百円だなんて」
⑫ (多く「…にかけては」「…にかけると」の形で用いる) 関する。関係のある事柄となる。 ※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「そこにかけちゃアしらくらなし」
※門(1910)〈夏目漱石〉一一「此点に掛(カ)けると、東京へ帰ってからも、矢張り仕合せとは云へなかった」
[五] 造作や設備をある場に作り設ける。
① 両端を支えて間に渡す。糸、なわなどを張り渡す。橋、電線などを架設する。
※書紀(720)雄略一三年・歌謡「あたらしき 猪名部の工匠 柯該(カケ)し墨縄」
※拾遺(1005‐07頃か)恋四「中々にいひもはなたで信濃なる木曾路の橋のかけたるやなぞ〈源頼光〉」
② (なわ、紐などを)他の物の回りに巻きつける。 ※万葉(8C後)五・九〇四「白たへの たすきを可気(カケ)」
※浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)上「申分け仕るか、すぐに縄をかけうか」
③ (「罫(け)かく」の形で) 碁盤の目や行間の線などを引く。 ※源氏(1001‐14頃)鈴虫「けかけたる金の筋よりも、墨つきの上にかかやくさまなども、いとなむめづらかなりける」
④ 張りめぐらしたり、組み立てたりして作る。 〔日葡辞書(1603‐04)〕
※山椒大夫(1915)〈森鴎外〉「二郎は三の木戸に小屋を掛(カ)けさせて」
⑤ (小屋を組み立てて行なったところから) 芝居、演芸、見世物などを興行する。また、ある出し物を上演する。 ※落語・初夢(1892)〈三代目三遊亭円遊〉「まだ寄席の高座へ一度も掛けませんが」
[六] 他の動詞の連用形に付けて補助動詞的に用いる。
① 上の動詞の表わす動作や作用を、ある物に向ける意を表わす。
※伊勢物語(10C前)七〇「昔、をとこ〈略〉斎宮(いつきのみや)のわらはべにいひかけける」
② 上の動詞の表わす動作や作用を、始めそうになる。また、始めてその途中である意を表わす。 ※浮世草子・好色一代女(1686)三「しどけなく帯とき掛(カケ)て」
※坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉六「一番大に弁じてやらうと思って、半分尻をあげかけたら」
広辞苑 他動詞 事物の一部分を何かに固定してつながらせ全体の重みをそこにゆだねる、また、全体の動きを制約する意。
➊ある物・場所などに事物の一部をささえとめる。
①物につけてぶらさげる。つりさげる。
古事記下「真杭には真玉を―・け」。
「軒先に(すだれ)を―・ける」「博識を鼻に―・ける」
掛く・懸く
②重みをあずける。ものの端の部分などを他の物の上にのせたり、側面にもたせかけたりする。 宇津保物語国譲下「脇息に尻―・けてかき抱き上げ給へば」。
徒然草「枝を肩に―・けて…二棟の御所の高欄に寄せ―・く」。
「腰を―・ける」
③すべてを託する。手にゆだねる。 竹取物語「さりともつひに男あはせざらむやはと思ひて頼みを―・けたり」。
「医者に―・ける」「神仏に願を―・ける」
④離れたり動いたりしないように固定する。鍵や錠などでとめる。 宇津保物語蔵開上「世になくいかめしき錠―・けたり」。
狭衣物語2「妻戸あららかに―・けつる音すれば」。
「ボタンを―・ける」「杭に手綱を―・ける」
⑤船を泊める。碇泊させる。 日葡辞書「ミナトニフネヲカクル」
竿秤 (さおばかり)にぶらさげる。目方をはかる。 宇津保物語国譲下「かの箱なりし物を―・けて侍りしかば、三千両こそ侍りしか」。
古今和歌集六帖5「―・けつれば千々の黄金も数知りぬなぞ我が恋の逢ふはかりなき」
⑦上にあげる。高く掲げる。 土佐日記「風よければ 檝取 (かじとり)いたく誇りて、舟に帆―・けよなど喜ぶ」。
平家物語12「その首を獄門に―・けらる」。
「看板を―・ける」
⑧問題として取り上げる。議題にする。 「会議に―・ける」「裁判に―・ける」
⑨(鍋などを上からつるして火にあてたところから)火の上に置く。 「釜を火に―・ける」
➋事物を曲がった物・とがった物・張った物・仕組んだ物などでとらえる。
①物にひっかけて離れないようにする。止める。
万葉集10「天の海に月の船浮け 桂楫 (かつらかじ)―・けて漕ぐ見ゆ」。
宇津保物語吹上上「牛どもに(からすき)―・けつつ」。
新古今和歌集釈教「南無阿弥陀仏の御手に―・くる糸のをはりみだれぬ心ともがな」。
平家物語11「御ぐしを熊手に―・けて引きあげ奉る」
②鳥などを網でとらえる。 日葡辞書「トリヲカクル」
③仕組んでおとしいれる。だます 古今和歌集六帖5「今来むといひしばかりに―・けられて人のつらさの数は知りにき」。
(わな)に―・ける」「ペテンに―・ける」
④手をくだして処分する。また、手ずから扱う。 平家物語9「直実が手に―・け参らせて後の御孝養をこそ仕り候はめ」。
「手塩に―・けて育てる」
⑤見せる。 「お目に―・ける」
➌事物を他におおいかぶせる。ふりむける。
かぶせるおおう
源氏物語夕霧「わけゆかむ草葉の露をかごとにてなほ濡れ衣を―・けむとや思ふ」。
「布団を―・ける」「メッキを―・ける」
()きそそぐ。あびせる 後拾遺和歌集哀傷「ゆかしさに包めど余る涙かな―・けじと思ふ旅の衣に」。
日葡辞書「ミヅヲカクル」。
「塩を―・ける」
③恩恵・情愛などを他に及ぼす。また、目下の者に祝儀などを与える。 源氏物語柏木「なげのあはれをも―・け給はむ人のあらむにこそは、一つ思ひに燃えぬるしるしにはせめ」。
貞丈雑記16「蜷川記に云、勧進能などに、申楽に花を―・け候時」
④迷惑・損害などをこうむらせる。 源氏物語蜻蛉「女郎花乱るる野辺にまじるとも露のあだ名をわれに―・けめや」。
日葡辞書「ハヂヲカクル」。
浄瑠璃、曾根崎「いづれも御苦労―・けました」。
「留守にして家族に不自由を―・ける」
⑤費用・労力などを負担させる。課する。また、費やす。 「重い税を―・ける」「金を―・けて建てた家」「三日―・けて行く」
⑥日掛・月掛・年掛などの金を出す。 「保険を―・ける」
➍(「架ける」とも書く)事物をある所から他の所までわたす。
①両端をもたせかける。わたす
拾遺和歌集恋「なかなかにいひは放たで信濃なる木曾路の橋の―・けたるやなぞ」
②糸・縄などをかけわたす。張る。 雄略紀「猪名部の 工匠 (たくみ)―・けし墨縄」。
日葡辞書「ユミニツルヲカクル」
③縄・ひもなどを他の物のまわりに渡す。 宇津保物語国譲下「たすき―・けていとをかしく肥えてはひありき給ふ」。
平家物語12「蔵人の頸に縄を―・けてからめ」
④張りめぐらしたり組み立てたりしてつくる。設ける。設置する。 古今和歌集秋「山がはに風の―・けたるしがらみは」。
日葡辞書「コヤヲカクル」。
曠野「うで首に蜂の巣―・くる二王かな」(松芳)。
「巣を―・ける」
⑤(芝居小屋を仮設することから)芝居や映画を上演・上映する。
⑥兼ねる。かけもつ 伊勢物語「国の守斎宮のかみ―・けたる」
⑦水を引く。 玉塵抄16「(みぞ)が多くて民田に―・けて利が多くできたぞ」
⑧ある語を文脈上別の語に続ける。 「副詞を動詞に―・ける」
⑨ある場所(時間)から他の場所(時間)にまで及ぼす。 宇津保物語楼上下「寝殿と西の対と渡殿、北の廊―・けて居並みたり」。
蜻蛉日記上「みな月ばかり―・けて雨いたう降りたるに」。
「東京から横浜に―・けて」「春から夏に―・けて」
(けい)を引く。 源氏物語鈴虫「()―・けたる金の筋よりも、墨つきの、上に輝く様なども」
⑪その数に入れる。あわせ加える。 浄瑠璃、丹波与作待夜の小室節「お供―・けて三人ぢや」
➎他にむけてある動作・作用を及ぼす。
①ある作用を相手に向ける。施す。
宇津保物語俊蔭「日本国まで送り奉るべき人を候はせむとのたまひていささかなる法をつくり―・けつ」。
平家物語7「侍どもに矢一つ射―・け候はん」。
徒然草「あやまちすな。心して降りよと言葉を―・け侍りしを」。
「知らない人から声を―・けられる」「電話を―・ける」「催眠術を―・ける」「夜襲を―・ける」
②言葉に出して言う。言及する。 万葉集5「―・けまくはあやにかしこし」
③ある語に他の意味をあわせ持たせる。掛け詞を用いる。 「春に張るを―・ける」
④(「目を―・ける」の形で)気をつけて見る。また、(好意をもって)見守る。 平家物語11「物の具のよき武者をば判官かと目を―・けてはせまはる」。
「末長く目を―・けてやって下さい」
⑤ある事柄をとり上げる。 浮世床初「そこに―・けちやア 白黒 (しらくら)なし」。
「品質に―・けては他にひけをとらない」
⑥交配させる。 「スピッツにテリアを―・ける」
⑦道具・機械などにその作用を行わせる。 日葡辞書「イタナドニカンナヲカクル」。
「アイロンを―・ける」「ふるいに―・ける」「エンジンを―・ける」
➏ある事物に対して心をむける。
①思う。慕う。
万葉集20「畏きや天の帝を―・けつればねのみし泣かゆ朝(よい)にして」。
古今和歌集恋「千早ぶる加茂の社のゆふだすき一日も君を―・けぬ日はなし」
②目標にする。 万葉集6「阿波の山―・けて漕ぐ船泊り知らずも」
➐ある事柄に他の事柄を関係させる。
①引合いに出す。
馬内侍集「逢ふことを今日とな―・けそ鵲のはし聞くだにもゆゆしきものを」。
「私の名誉に―・けて嘘はつかない」「神仏に―・けて誓う」
②(「賭ける」とも書く)
㋐負けた者が勝った者に金品を払うことをあらかじめ約束して勝負を行う。賭け事をする。
宇津保物語初秋「此の御文御許なると、兼雅が許なると比べむに、まづ物―・け給へ。…何を―・くべからむ」
㋑強い決意を示すために、失敗した時に失う物として最も大事な物を引合いに出す。 源氏物語夕顔「命を―・けて何の契にかかるめをみるらむ」。
「交渉成立に首を―・ける」
③即金でなく後から代金をもらう約束で物を売る。かけ売にする。 醒睡笑「やがて返弁に及びなん、此の度は―・けられよ」
➑ある物の上に他を加える。
①正当な値段以上のものを加える。かけねをする。
「原価に五割―・けて売る」
②掛け算をする。 「5を―・ける」
➒(他の動詞の連用形に付いて)物事を始めた情況にあるの意を表す。
①…しそうになる。…し始める。
好色一代女3「しどけなく帯とき―・けて、もやもやの風情を見せければ」。
猿蓑「渡り―・けて藻の花のぞく流れかな」(凡兆)。
「日も暮れ―・ける」
②…し始めてその途中である。 「読み―・けた本」
大言海 他動詞 (一){物ニ着ケテ()グ。釣リテ垂ラス。 古事記、下(允恭) 二十三 齋杭 (イクヒ)ニハ、鏡ヲ 加氣 (カケ)、眞杭ニハ、 眞珠 (マタマ) 加氣 (カケ)
(二){ (ワタ) 拾遺集、十四、戀、四「ナカナカニ、云ヒハ放タデ、信濃ナル、木曾路ノ橋ノ、かけ(言ヒ切ラザル意ニ云ヒカク)タルヤナゾ」
「橋ヲかく」梯子ヲかく」
(三){兼ヌ。 (ワタ)ラス 伊勢物語、六十九段「國ノ守、(イツキ)ノ宮ノカミかけタル」
「此事ヲ彼事ニかく」官ヲかく」行末ヲかく」春かけテ」かけ持ツ」
(四){注ギ()ク。 天智紀、二年五月「福信卽(ツバキハキカケテ)於執得曰」
「水ヲかく」鹽ヲかく」粉ヲかく」
(五)釣リテ晒ラス。 保元物語、一、義朝弟被誅事「獄門ニハ懸ラレズ」
(六){高ク揭グ。揭グ。 土佐日記、正月廿六日「風ヨケレバ、檝取イタク誇リテ、船ニ帆かけヨナド、喜ブ」
「額ヲかく」
(七)載セテオク。 「腰ヲかく」
(八){賭事ニ、物ヲ出ス。 宇津保物語、初秋「此ノ御許ナルト、兼雅ガ許ナルト比ベムニ、マヅ物かけ給ヘ、云云、何ヲかくベカラム」
「命ヲかく」
(九) 掛算 (カケザン)ヲナス。
(十)放ツ。付クル。放火 保元物語、二、白河殿攻落事「敵モ堅ク防テ、破リ難ク候、今ハ、火ヲ懸ザラム外ハ、利有ベシトモ覺候ハズ」
(十一)費ヤス。用ヰル。消費 冥途飛脚(正德、近松作)上「高駄賃かくカラハ、大事ノ家職」
「月日ヲかく」錢ヲかく」
(十二)着ス。カブス。被ラス。 冥途飛脚(正德、近松作)上「芥子程モ、御損かけマセヌ」
「蒲團ヲかく」(ナサケ)ヲかく」賴ミヲかく」
(十三){思フ。慕フ。 允恭紀、七年十二月「天皇之志、(カケタ)(マヘリ) 通郞 ()
萬葉集、三 三十五 長歌「 懸而偲 (カケテシヌ)ビツ、日本島根ヲ」
古今集、十一、戀、一「一日モ君ヲ、かけヌ日ハナシ」
(十四){欺ク。タバカル 六帖、五、下「今()ムト、言ヒシバカリニ、かけラレテ、人ノツラサノ、數ハ知リニキ」
(十五){襲フ。向クル。(熟語ニ用ヰル) 「言ヒかく」問ヒかく」攻メかく」
(十六)言ヒテ、答ヘヲ求ム。 「問ヒヲかく」謎ヲかく」
(十七)始ム。 「讀ミかく」()かく」
(十八) (トド)泊舟 「船ヲかく」
(十九) () () 狹衣、二、上「妻戶荒ラカニ、かけツル音スレバ」
(ジヤウ)ヲかく」かきがねヲかく」
(二十)()(ガケ)、月掛ノ錢ヲ貯フ。( () (ガケ)ノ條ヲ見ヨ)
(廿一)立ツル。 () 「電報ヲかく」電話ヲかく」
動詞活用表
未然形 かけ ず、らゆ、らる、む、じ、さす、しむ、まほし
連用形 かけ たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 かく べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 かくる も、かも、こと、とき
已然形 かくれ ども
命令形 かけよ

検索用附箋:他動詞下二段

附箋:下二段 他動詞

最終更新:2024年03月10日 23:16