くま(隈・阿)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 [ 一 ] 他と境界を接する地点、奥まった場所をいう。
① 道や川などの折れ曲がっている所。曲がりかど。
日本書紀(720)仁徳三〇年九月・歌謡「川区莾(クマ)に 立ち栄ゆる 百足(た)らず 八十葉(やそば)の木は」
万葉集(8C後)一・一七「山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま) い積るまでに つばらにも 見つつゆかむを」
隈・曲・暈・阿
② 奥まったところ。物陰。かたすみ 常陸風土記(717‐724頃)行方「山の阿(くま)に伏せ隠し、賊(あた)を滅さむ器(つはもの)を造り備へて」
③ へんぴな所。片田舎。 源氏物語(1001‐14頃)橋姫「山里めいたるくまなどに、おのづから侍るべかめり」
④ ( 形式名詞的に用いて ) ところ。点。打消「なし」を伴って、全体にわたっている意にいう。 源氏物語(1001‐14頃)末摘花「少しゆゑづきてきこゆるわたりは、御耳とどめ給はぬくまなきに」
曾我物語(南北朝頃)一「くまもなくまちけれども、案内者にて、おもはぬしげみ、道をかへ」
[ 二 ] 色や影の濃い部分。また、色の重なった部分。
① 曇り。くらがりかげ
源氏物語(1001‐14頃)賢木「月の少しくまあるたてじとみのもとに立てりけるを知らで」
② 心の中の暗い部分。心中に秘めたこと。隠していること。秘密。悩み。 後撰和歌集(951‐953頃)秋中・三二三「秋の夜の月の光は清けれど人の心のくまは照らさず〈よみ人しらず〉」
③ 色と色、光と陰が接するところ。色や光と陰などが重なりあってぼけた部分。 舞姫(1906)〈与謝野晶子〉「かきつばた白と紫くまなして流るる水に鯉の餌(ゑ)かはむ」
④ 疲労や不眠などにより目のまわりにできる黒ずんだ部分。 地獄変(1918)〈芥川龍之介〉一二「何だか睫毛(まつげ)が重くなって、眼のまはりに隈がかかったやうな」
[ 三 ] 「くまどり(隈取)」の略。 桐の花(1913)〈北原白秋〉ふさぎの虫「長い瞼毛(まつげ)の周囲(まはり)を青インキで濃く隈をつける」
広辞苑 名詞 ①道や川などの湾曲して入り込んだ所。 万葉集13「道の―八十―ごとになげきつつ」 隈・曲・阿
②奥まって隠れた所。すみ 源氏物語明石「かの浦に静やかに隠らふべき―侍りなむや」
③色と色とが相接する所。光と陰との接する所。ぼかし 陰翳 (いんえい)(うん)。陰。くもり 源氏物語賢木「月の少し―ある」。
「目の―」
④秘めているところ。隠していること。 後撰和歌集秋「秋の夜の月の光は清けれど人の心の―は照らさず」
かたすみ。へんぴなところ。 源氏物語常夏「さる田舎の―にて」
⑥欠点。 源氏物語浮舟「そのことぞとおぼゆる―なく」
⑦歌舞伎で役者の顔に施す色どり。くまどり
大言海 名詞 (オク)()ノ上略カ(おとなふ、となふ。おもや、もや)(コモリ)ト通ズト云フ、爾雅、釋地篇「 隩隈 ()」疏「隩、一名隈也、隈、卽、厓內 深隩 ( クカクルル)之處也」玉篇「阿、水岸也」字鏡 七十四 「隩、藏也、久牟志良」〕
(一)曲リ入リ、隱レテ見エヌ處。道ニモ、川ニモ云フ。
神代紀、下 我當於 ( レマサニ) 百不足 (モモタラズ) 八十 (ヤソ)(クマヂ) 隱去矣 (カクレナム)」隈、此云 矩磨埿 (クマヂ)」((クマ)()ナリ)
萬葉集、一 廿九 長歌「 川隈 (カハクマ)ノ、 八十 (ヤソ)(クマ)落チズ」
同、十三長歌「 道前 (ミチノクマ)、八十阿每ニ」
字鏡 三十六 「𫶂、曲岸也、久万」
隈・阿
(二)(コモ)リ、隱ルルトコロ。物蔭 (モノカゲ)隱處 源、十三、明石 十一 「カノ浦ニ、靜ニ(カクロ)フベキ 侍リナムヤ」
同、四十四、橋姬 三十三 「山里メイタル ナドニ、オノヅカラ侍ルベカンメリ」
 、四「(ウヘ)ノ、ワタラセオハシケルハ、 何處 (イヅク)ノ ニカト、サシノゾキ」
古今集、十九、誹諧「思フテフ、人ノ心ノ、 ゴトニ、立チ隱レツツ、見ル由モガナ」
後撰集、六、秋、中「秋夜ノ、月ノ光ハ、淸ケレド、人ノ心ノ、 ハ照ラサズ」
(三)不明。クモリクラガリワダカマリ 源、二、帚木 十一 「 ナキ物言ヒモ、イト定メカネテ、イタク打歎ク」
同、三十四、上、若菜、上 三十二 「恨ミ(ソネ)ミタマフナルヲ、云云、オイラカナル人ノ御心トイヘド、イカデカハ、カバカリノ ハナカラム」
同、四十八、寄生 五十一 「イト ナキ御心ナラヒニ、(オモ)シ知ラルレバ」
(四)トコロ。場所。 顯季集「イヅコトモ、()カヌ櫻ノ、花ナレバ、尋ネ至ラヌ、 ノナキカナ」
源、七、紅葉賀 廿四 「到ラヌ ナキ心ニテ、マダ、思ヒ寄ラザリケルヨ」

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最終更新:2024年06月19日 20:55