こち(此方)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 代名詞 ① 他称。話し手側の方向をさし示す(近称)。助詞「へ」や「に」を伴わないで用いられた。⇔あち
(イ) こなたの側。こっちこちら
古事記(712)下・歌謡「日下部(くさかべ)の 許知(コチ)の山と 畳薦(こも) 平群(へぐり)の山の」
源氏物語(1001‐14頃)浮舟「母ぞこち渡り給へる」
此方
(ロ) 自分の家。また、その家にいっしょに住むもの。 歌舞伎・傾城壬生大念仏(1702)中「『小さい子は銀(かね)を持たぬ物じゃ。俺が持て行てやらふ』『そんならこちの所迄連立て行ませふ』」
(ハ) ( 中国に対して ) 日本。わが国。 六物図抄(1508)「こちのひらつつみのやうにして掛に異にせんためぞ」
(ニ) 時間的に今に近い時。 史記抄(1477)三「黄帝からこちへの事どもをしるしたぞ」
② 自称。男女ともに用い、対等またはやや上位の相手との話に用いる。私。手前。自分。また、私ども。われわれ 史記抄(1477)一五「軽重不得とは、彼は我と重して、こちを軽し、こちも我と重してあれをは軽するほどに」
滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「こないなあばづれいふと、いかう気づつながるさかい、こちが付込むぢゃ」
[語誌]古くから用例があるが、古代には同様に方向を表わす「こなた」の方が多く用いられた。室町時代以降用例が多くなり、「こちら」「こっち」等の形態を派生した。現代共通語では「こちら」「こっち」に勢力を譲って、「こち」はほとんど用いられなくなっている。
広辞苑 代名詞 ➊①「これ」と指せる方。こちら。↔おち 古事記下「くさかべの―の山」。
源氏物語明石「とかくまぎらはして―参らせよ」
此方
②「こちへ来よ」の略した言い方。 源氏物語若紫「―と宣ふを」
③(「こちの人」の形で)話し手の身近の存在であるあなた。→こちのひと
わたしわれ 蒙求抄5「そちもひとり―もひとりぢやほどに」
大言海 代名詞 此路 (コチ)ノ義カ、 彼路 (アチ) 其路 (ソチ)(イヅ)()ニ對ス〕
(一){最モ身ニ近キ方位ヲ指シテ云フ、代名詞。コノカタコナタコチラコッチ
萬葉集、四 四十三 彼此 (アチコチ)兼ネテ、言ヒハ言ヘド」
榮花物語、十一、莟花「其頃、土御門殿ニ渡ラセタマヒヌ、云云、ソレモ、東三條院ニ出デサセタマヘリシヲ、 其處 (ソコ)ノ、燒ケニシカバ、こちニ渡ラセタマヘルナリケリ」
宇治拾遺、十一、第九條「(ツド)ヒタル者ドモ、こち押シ、アチ押シ、ヒシメキアヒタリ」
此方
(二){ 此方 (コチ)ヘ。(()ヨ) 宇津保物語、俊蔭 五十三 行縢 (ムカバキ)ヲ解キテ、苔ノ上ニ敷キ、こちトテスヱ、我レモ()タマヒテ」
(三)我レヲ指シテ云フ、代名詞。コノハウ。 狂言記、二人大名「其方ガ(イソ)ガバ、こちモイソグ」
「こちノ人」

検索用附箋:代名詞一人称指示詞

附箋:一人称 代名詞 指示詞

最終更新:2024年07月27日 16:02