さす(刺)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 他動詞 [ 一 ] ( 刺 ) 細い物で物を貫く。比喩的にも用いる。
① 先の鋭くとがった物を突き入れる。突き通す。また、刃物で突いて殺傷する。
古事記(712)中・歌謡「水たまる 依網(よさみ)の池の 堰找(ゐぐひ)打ちが 佐斯(サシ)ける知らに」
読本・椿説弓張月(1807‐11)後「つと走りかかりつつ、妖怪をぐさと刺(サス)」
刺・螫・挿・注・点・鎖
② 針を突き入れて縫う。 万葉集(8C後)一六・三八八五「韓国の 虎といふ神を 生け取りに 八頭(やつ)取り持ち来 その皮を 畳に刺(さし)」
源氏物語(1001‐14頃)若菜下「高麗の青地の錦の、端さしたるしとねに」
③ ( 螫 ) 虫などが、皮膚にくいついたり、針を突き入れたりする。 大智度論天安二年点(858)二「昔一国王有りて、毒蛇に齧(ササ)れたりき」
俳諧・ひさご(1690)「花咲けば芳野あたりを欠廻(かけまはり)〈曲水〉 虻にささるる春の山中〈珍碩〉」
④ 糸、ひも、針金、串(くし)などで、貫き通す。 源氏物語(1001‐14頃)浮舟「おどろきて御ひもさし給ふ」
⑤ 舟を動かすために、棹(さお)を水底に突きたてる。また、棹や櫓(ろ)を使って舟を進める。 万葉集(8C後)一八・四〇六一「堀江より水脈(みを)引きしつつ御船左須(サス)賤男(しづを)のともは川の瀬申せ」
太平記(14C後)一七「貞国大に忿(いかっ)て、人の指(サス)櫓を引奪て、逆櫓に立」
⑥ もちざおで、鳥やトンボなどを捕える。 日葡辞書(1603‐04)「トリヲ sasu(サス)」
いさなとり(1891)〈幸田露伴〉二九「我等蜻蛉(とんぼ)さして遊びし頃より大の仲好し」
⑦ 針で入れ墨をする。 俳諧・風俗文選犬註解(1848)二「風俗は婦人生涯眉を刺す」
⑧ 心や鼻、舌などを強く刺激する。 黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉五「叔母さんが〈略〉云った言葉は、敬二の胸を刺(サ)した」
蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉七「葉巻の匂ひと大蒜(にんにく)の匂ひとが、むっと鼻を刺すばかりに交ってゐた」
⑨ 鋭い皮肉などを意地悪く言う。風刺する。 読本・春雨物語(1808)海賊「筆、人を刺す。又人にささるるれども、相共に血を不見(みず)」
⑩ 野球で、塁に入ろうとする走者をアウトにする。 最近野球術(1905)〈橋戸信〉内野篇「遊撃手は常に二塁に入りて一塁よりの走者を、此所に刺さんとす」
[ 二 ] ( 挿 ) ある物を他の物の中にはさみ入れる。
① 刀剣などを帯の間に入れる。
枕草子(10C終)八七「衣二ゆひとらせて、縁に投げいだしたるを〈略〉腰にさしてみなまかでぬ」
徒然草(1331頃)二二五「白き水干に、鞘巻(さうまき)をささせ」
② 花や櫛などを頭髪の間に入れる。 古事記(712)中・歌謡「命の 全(また)けむ人は 畳薦(たたみこも) 平郡(へぐり)の山の 熊白檮(くまかし)が葉を 髻華(うず)に佐勢(サセ) その子」
③ 木や花を、土や器などに入れこむ。さし木、または、さし花をする。 万葉集(8C後)一四・三四九二「小山田の池の堤に左須(サス)楊(やなぎ)成りも成らずも汝(な)と二人はも」
枕草子(10C終)四「おもしろくさきたる桜をながく折りて、おほきなる瓶にさしたるこそをかしけれ」
④ 物の中にはめこむ。物の間に入れこむ。 枕草子(10C終)二三「御草子に夾算(けふさん)さしておほとのごもりぬるも」
[ 三 ] ( 注・点 ) ある物の中に他の物を加え入れる。
① ある物に他の物を入れ混ぜる。また、付け添える。
万葉集(8C後)一二・三一〇一「紫は灰指(さす)ものそ海石榴市(つばきち)の八十のちまたに逢へる児や誰」
徒然草(1331頃)二一三「浄衣をきて、手にて炭をさされければ」
② ある物に液体をそそぎ入れる。 咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「此貝は目の薬ぢゃと申が、目がしらにさし候か、目じりにさすか」
それから(1909)〈夏目漱石〉二「今しがた鉄瓶に水を注(サ)して仕舞ったので」
③ さかずきなどに酒を入れて人に勧める。 伊勢物語(10C前)八二「歌よみてさかづきはさせ」
雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下「竹村は猪口を国野に献(サ)しながら」
④ ある物に色を付け加える。いろどる。また、(顔に)赤みや熱を加える。 太平記(14C後)三四「面には朱を差たるが如く」
⑤ しるし、朱点などをつけ加える。
⑥ 火をともす。また、火をつける。 万葉集(8C後)一七・四〇二三「婦負川(めひがは)の早き瀬ごとに篝(かがり)佐之(サシ)八十伴の男は鵜川立ちけり」
⑦ 灸(きゅう)をすえる。
[ 四 ] ( 鎖 ) ( [ 一 ]から ) 門、戸口、錠、栓などをしめる。また、店などを閉める。 日本書紀(720)神代上(兼方本訓)「乃ち、天の石窟(いはや)に入りまして、磐戸を閉着(サシ)つ」
徒然草(1331頃)一二一「走る獣は檻にこめ、くさりをさされ」
文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉二「隣の見世(みせ)がさしてあるので」
広辞苑 他動詞 ➊《刺》こことねらいを定めたところに細くとがったものを直線的につらぬきとおす。
①つきこむ。つきとおす
古事記中「 堰杙 (いぐい)打ちが―・しける知らに」。
万葉集20「群玉の(くる)に釘―・し固めとし」。
日葡辞書「ハリサスホドモナイ」。
「釘を―・す」「寸鉄人を―・す」
刺す・挿す
②刃物で人をついて殺傷する。 平家物語11「景経が鎧の草摺ひきあげて二刀―・す」。
日葡辞書「トドメヲサス」。
「短刀で腹を―・す」
③針をつきこんで縫いつづる。針で結びつづる。 万葉集16「 韓国 (からくに)の虎とふ神を 生取 (いけどり) 八頭 (やつ)とり持ち来その皮を畳に―・し」。
日葡辞書「タタミヲサス」。
刺繍 (ししゅう)を―・す」
④(「螫す」とも書く)虫が針をからだにつきたてて、毒を入れたり血を吸ったりする。 伊曾保物語(天草本)「蜂はその主を散々に―・いたれば」。
「蚊に―・される」
⑤糸・紐・串などでつらぬき通す。 字鏡集「銭、セニサス」
⑥(「差す」とも書く)棹を水底につきたてて船を動かす。船を進める。 万葉集18「夏の夜は道たづたづし船に乗り川の瀬毎に棹―・しのぼれ」。
万葉集18「堀江より 水脈 (みお)びきしつつ御船―・す賤男のともは川の瀬申せ」。
日葡辞書「フネニサヲヲサス」
⑦もちざおで鳥などを捕らえる。 日葡辞書「トリヲサス」
狂言、鶯「身共が秘蔵の鶯をなぜ―・すぞ」
⑧針で、からだにいれずみをする。 「腕にいれずみを―・す」
⑨野球で、塁を離れた走者にボールをつけてアウトにする。 「走者を二塁に―・す」
⑩感覚器官を強く刺激する。 「臭気が鼻を―・す」
➋《挿》あるものを他のものの中にさしはさむ。
①(「差す」とも書く)刀剣などを帯の間にさしはさむ。 ()びるわきばさむ
平家物語1「水干に立烏帽子、白鞘巻を―・いて舞ひければ、男舞とぞ申しける」。
「刀を腰に―・す」
②髪の間に入れ頭をとめる。 古事記中「くまかしが葉をうずに―・せその子」。
大鏡三条「挿櫛を左に―・されたりければ」。
「かんざしを―・す」
③挿し木をする。 万葉集14「 小山田 (おやまだ)の池の堤に―・す柳なりもならずも()と二人はも」
④挿花をする。 古今和歌集春「染殿の后のおまへに花がめにさくらの花を―・させ給へるをみてよめる」。
「花瓶に―・す」
⑤さし入れておおう。鞘の中にさしこむ。 平治物語「左右の 籠手 (こて)を―・し」。
日葡辞書「カタナヲサヤニサス」
大言海 他動詞 〔指しテ突ク意〕
(一){突キコム。
萬葉集、三 十三 「久方ノ、天行ク月ヲ、綱ニ刺し、我ガ 大王 (オホキミ)ハ、(キヌガサ)ニセリ」(盖ヲ、月ト見做シタリ、盖ニ、綱ヲ刺シ入ルルナリ)
「針ニテさす」槍ニテさす」
(二){毒蟲ガ、(ハリ)ニテ、毒ヲ入ル。 字鏡 六十七 「螫、佐須」
狂言記、苞山伏「アッタラケタヲ、蜂ガさす」
(三)縫ヒツヅル。(針ニテ刺す)繡刺 (ヌヒモノ)ヲさす」
(四)結ヒツヅル。(()(バリ)ニテ刺す意) 「網ヲさす」
(五){疊ヲ作ル。(針ニテ刺し締ム) 萬葉集、十六 廿九 長歌「韓國ノ、虎、云云、其皮ヲ、多多彌ニ刺しテ」(皮疊ハ、絲ニテ刺貫キテ作ル)
(六) (ツラヌ)。(穴ニ刺しトホス意) 「緡ヲ、錢ニさす」
(七){ ()ワキバサム。(帶ノ閒ニ刺し入ルル意) 六帖、五「 七子 (ナナツゴ)ノ、鞘ノ口口、ツドヒツツ、我レヲ刀ニ、さしテ行クナリ」
(八){ハサムサシハサム 古事記、中(景行) 五十五 長歌「隈橿ガ葉ヲ、 髻華 (ウヅ)ニ佐勢」
「櫛ヲさす」簪ヲさす」花ノ枝ヲ、瓶ニさす」
(九){締ム。結ブ。(插しコム意ナラム) 宇津保物語、藏開、中 三十三 「帶、云云、調ゼサセテ、さし侍ラム」
源、七、紅葉賀 十二 「御帶、云云、ささセ奉リタマフ」
同、九、葵 三十三 「シドケナク、打亂レタマヘルサマナガラ、紐バカリヲ、さしナホシタマフ」
動詞活用表
未然形 ささ ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 さし たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 さす べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 さす も、かも、こと、とき
已然形 させ ども
命令形 させ

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附箋:他動詞 四段

最終更新:2024年09月04日 21:17