つ(了)

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日本国語大辞典 助動詞 (活用は「て・て・つ・つる・つれ・てよ」 下二段型活用。活用語の連用形に付く完了の助動詞)
① ある行為が実現したこと、ある行為を実現させたこと、または動作、作用が完了したことに対する確認の気持を表わす。…た。…てしまった。…てしまう。
※古事記(712)中・歌謡「新治(にひばり) 筑波を過ぎて 幾夜か寝都流(ツル)」
※古今(905‐914)恋二・五五三「うたたねにこひしき人をみてしよりゆめてふ物はたのみそめてき〈小野小町〉」
※土左(935頃)承平四年一二月二七日「かぢとり〈略〉おのれし酒をくらひつれば、はやくいなんとて」
② 動作・作用が完了したこと、またはある行為を実現させることに対する強い判断を表わす。たしかに…する。ぜひ…する。きっと…する。 ※万葉(8C後)一八・四〇四〇「布勢の浦を行きてし見弖(テ)ば百磯城(ももしき)の大宮人に語り継ぎ氐(テ)む」
③ ある事実に対する確認の気持を表わす。…た。 ※万葉(8C後)一・三〇「ささなみの志賀の辛崎幸くあれど大宮人の船待ちかね津(つ)」
④ 「…つ…つ」の形で二つの動作が並列して行なわれていることを表わす。 ※平家(13C前)三「僧都、乗ってはおりつ、おりてはのっつ」
※太平記(14C後)一三「夜昼三日まで上げつ下しつ拷問せられけるに」
[語誌](1)語源については、「うつ(棄)」を想定する説がある。一般に完了の助動詞として、「ぬ」と対照されることが多い。上代から中古にかけて、和歌や散文などに広く用いられた。中世以降は日常語には用いられなくなった。
(2)「つ」「ぬ」の違いについては、主に以下のような違いが明らかにされている。(イ)(上接する動詞) 「ぬ」は非意志的、自然推移的動作を表わす動詞につき、「つ」は意志的、人為的動作を表わす動詞につく。(ロ)(上接する助動詞) 「つ」は受身の助動詞「る」「らる」にはつかず、使役の助動詞「す」「さす」につく。一方、「ぬ」は受身の「る」「らる」につくが、使役の「す」「さす」にはつかない。以上のような傾向が認められているが、厳密な法則とまでは言えない。
(3)接続助詞「て」は、「つ」の連用形と形態的、意味的につながるところから、「つ」と同源であった可能性がある。
(4)④の「…つ…つ」の形に固定した用法では、これを「降りみ降らずみ」の「み」、「見たり聞いたり」の「たり」のように並立の助詞として扱うこともある。それまでの段階としては「今昔‐五」の「象を船に乗せて水に浮べつ。沈む程の水際に墨を書て注(しるし)を付つ。其の後、象を下(おろ)しつ。次に船に石を拾ひ入れつ」などのような例もみられる。なお、この用法は「行きつ、もどりつ」などのように現在も残っているが、一般には完了の助動詞「たり」を起源とする助詞(「行ったり、来たり」等)を用いることが多い。
(5)「金刀比羅本保元‐中」の「心のはやるままになまじひなる事はいひちらしつ、伴(ともなふ)者は一人もなし」や「方丈記」の「心、身の苦しみを知れれば、苦しむ時は休めつ、まめなれば使ふ」などは接続助詞として扱う説もある。
(6)近世には「雨月物語‐菊花の約」の「あるじと計りて、薬をえらみ、自方を案じ、みづから煮てあたへつも、猶粥をすすめて、病を看ること同胞のごとく」など「つつ」とほぼ同意になった例も見られる。
広辞苑 助動詞 (活用は下二段型。活用語の連用形に付く。[活用]て/て/つ/つる/つれ/てよく)動詞「棄うつ」の約という。動作・作用が話し手など当事者の意図に基づき、作為的・意志的に成り立ったことを表し、無作為的・自然推移的意味で使われる「ぬ」と区別がある。室町時代からは用法が限られ、口語では衰える。→たり
①動作・状態が完了する意。…してしまう。…した。後に推量の意味が続いた時は、強意と解釈されることもある。
古事記中「 新治 (にいばり)筑波を過ぎて幾夜か寝つる」。
万葉集8「沫雪に降らえて咲ける梅の花君がりやらばよそへてむかも」。
保元物語「あはれ、取りもかふる物ならば、忠実が命にかへてまし」
②した人を責める思いを込めて、動作・事態の完了をいう。 伊勢物語「みそかに通ふ女ありけり。それがもとよりこよひ夢になん見え給ひつるといへりければ」。
源氏物語若紫「雀の子を犬君が逃がしつる」
③自分に責任があるという思いを込めて、動作・事態の完了をいう。 万葉集5「手に持てる()が児飛ばしつ世の中の道」。
古今和歌集恋「飛鳥川淵は瀬になる世なりとも思ひそめてむ人は忘れじ」
④(終止形だけの用法)対照的な動作を並列的に述べる。口語では並立助詞とする。 中華若木詩抄「舞せつ歌せつする」。
天草本平家物語「泣いつ笑うつせられた」
大言海 助動詞 ()ノ轉カ〕
動詞ノ連用形ニ連續シテ、動作ノ現在ニ完了セル意ヲ云フ助動詞。(ホボ)たりニ同ジ。
「行キつ」受ケつ」落チつ」見つ」

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最終更新:2024年05月10日 20:25