しむ(染(自動詞イ))

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 自動詞 ① ある色や濁りなどに染まる。 万葉集(8C後)八・一六四四「引き攀(よ)ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入(こきれ)つ染(しま)ば染(しむ)とも」 染・沁・浸・滲
② 液体に十分ひたる。また、液体がぬれ通る。しみこむ。しみる。 万葉集(8C後)三・三四三「なかなかに人とあらずは酒壺に成りにてしかも酒に染(しみ)なむ」
③ におい、味などが深く入りこむ。また、よごれなどが付着してなかなかとれない状態になる。しみる。 古今和歌集(905‐914)春上・三五「梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる〈よみ人しらず〉」
④ 深く心に感じる。しみじみと心にはいりこむ。しみる。 源氏物語(1001‐14頃)浮舟「心細さは、いと深うしみにければ」
⑤ 強く心を寄せる。また、繰り返し行なって親しむ。 源氏物語(1001‐14頃)夕顔「我心ながら、いとかく人にしむ事はなきを、いかなる契にかはありけん」
⑥ 刺激がからだにこたえる。また、液体や塩分の刺激で痛みを覚える。しみる。 枕草子(10C終)一九八「暁に格子、妻戸をおしあけたれば、嵐のさと顔にしみたるこそ、いみじくをかしけれ」
⑦ なじみになる。ほれこむ。夢中になる。しみる。 甲陽軍鑑(17C初)品一三「氏康にしみ、此君の用にたち、討死仕る命、少も惜からずと」
⑧ しみじみと落ち着いた雰囲気(ふんいき)になる。その場にしっくり合う。 古今著聞集(1254)五「管絃のよくしみぬるときは、心なき草木のなびける色までも、かれにしたがひてみえ侍なるやうに」
⑨ 物事が佳境に入る。興が増す。また、うちとけてよい気分になる。しみる。 弁内侍日記(1278頃)建長四年七月二六日「連歌ひとをりかかせむとて発句せさせおはします。兵衛督殿ぞ書き給ひし。弁・少将ただ三人なればいとしまず」
⑩ 陰気になる。しんみりと沈みがちになる。 談義本・つれづれ睟か川(1783)四「すべて遊びといふときは、鬱散が第一なれば、何事もうちわすれて、さわぐのが茶屋のならひ、たいこもちもしまぬが上手」
他動詞 ① 色に染まるようにする。色をつける。 歌経標式(772)「秋山の黄葉(もみちば)自牟留(シムル)白露のいちじろきまで妹に会はぬかも」
② においなどを深く入り込ませる。 枕草子(10C終)三六「香の紙のいみじうしめたる、にほひいとをかし」
③ 深く心に感じさせる。十分わからせる。また、強く思う。 源氏物語(1001‐14頃)若菜下「昼はいと人しげく〈略〉心あわたたしければ、夜々なむ静かに事の心もしめ奉るべきとて」
④ (心を)対象に深く入れこむ。うちこむ。 源氏物語(1001‐14頃)若紫「あぢなき事に心をしめて生ける限りこれを思ひなやむべきなめり」
[補注]近世になると上一段活用の「しみる」が並用されるようになるが、連用形は四段活用と同形で区別しにくいので、近世の文語体の例は四段活用、口語体の例は上一段活用として扱った。
広辞苑 自動詞 染色の液にひたって色のつく意から、あるものがいつのまにか他のものに深く移りついて、その性質や状態に変化・影響が現れる意。
①色が何かにそまる。色づく。
万葉集8「折らば散るべみ梅の花袖にこきれつ―・まば―・むとも」 染む・沁む・浸む・滲む
②液体がぬれとおる。 万葉集3「なかなかに人とあらずは酒壺になりにてしかも酒に―・みなむ」。
浄瑠璃、冥途飛脚「…と泣き―・みづきて語るにぞ」
③香りなどがうつりつく。 源氏物語宿木「かの人の御移香のいと深う―・み給へるが」
④よごれなどが付着して、なかなかとれなくなる。しみこむ。しみつく。 日葡辞書「キルモノニアカガシウダ」
⑤影響を受ける。感染する。 玉塵抄13「心も胆も鉄のやうにこはうて物も―・まずなまけぬ心ぞ」。
「濁りに―・まぬ心」
⑥強い印象を受けて深く感じる。いつまでも心にのこる。 万葉集4「韓人の衣―・むとふ紫の心に―・みて思ほゆるかも」。
大鏡道長「いみじと身に―・みて思ふ給へし罪も今に失せ侍らじ」
⑦繰り返し行なって親しんでいる。 源氏物語若菜下「斎院はたいみじう勤めて、紛れなく行ひに―・み給ひにたなり」
⑧しみじみと落ち着いた雰囲気になる。 筑波問答「一座の―・まぬ時は思ふやうならぬ事も侍るなり」
⑨気に入る。興に入る。佳境に入る。 日葡辞書「コンニチノダンギ、即ち、フルマイガシウダ」。傾城禁短気「はなしが―・まば軽い吸物して酒を出せ」
⑩なじみになる。 傾城禁短気「三浦の太夫職花紫に色濃くも―・みつき」
⑪感覚を強く刺激されてからだにこたえる。また、痛みを覚える。 源氏物語宿木「いつと侍らぬなかにも、秋の風は身に―・みてつらう覚え侍りて」。
日葡辞書「カゼガミニシウダ」「クスリガシム」
他動詞 ①そめつける。色をつける。 万葉集7「紅に衣―・めまく欲しけども着てにほはばか人の知るべき」
②香りなどをしみこませる。 源氏物語末摘花「陸奥紙の厚肥えたるに匂ひばかりは深う―・め給へり」
③深く覚えさとらせる。しっかり身につくようにする。 源氏物語若菜下「昼は…心あわただしければ、夜々なむ、静かに事の心も―・め奉るべき」
④心に深く刻みこむ。思いつめる。 源氏物語匂宮「かの紫の御有様を心に―・めつつ、よろづの事につけて思ひ出で聞え給はぬ時のまもなし」。
源氏物語総角「心に―・めたる方のことは、うち出づることもかたくて」
⑤(主に「…に心を―・む」の形で)心をうちこむ。心を奪われる。 源氏物語薄雲「春のあけぼのに心―・め給へるもことわりにこそあれ」。
源氏物語総角「世の中に心を―・むる方なかりつるを」
大言海 自動詞 (一){(ウルホ)ヒ、(トホ)ル。ソムソマル 萬葉集、三 三十一 「中中ニ、人ト有ラズハ、酒壺ニ、成リテシカモ、酒ニ(シミ)ナム」
古今集、三、夏「蓮葉ノ、濁しまヌ、心モテ、何カハ露ヲ、玉ト欺ク」
「水、しむ」油、しむ」色、しむ」
(二)染ミテ、痛ム。刺滲 「藥ガ、(キズ)ニしむ」(ツメタ)イ風ガ、目ニしむ」
(三){深ク、感ズ。(トホ)ル。感觸 感染 萬葉集、廿 四十五 「鶯ノ、聲ハ過ギヌト、思ヘドモ、之美ニシ心、猶戀ヒニケリ」
枕草子、二、第十八段、心ときめきするもの「頭洗ヒ、化粧ジテ、香ニしみタル衣着タル」
源、廿八、野分 十四 「大方ニ、荻ノ葉過グル、風ノ音モ、憂キ身一ツニ、しむ心地シテ」
同、四、夕顏 十七 「我ガ心ナガラ、イトカク、人ニしむ事ハ無キヲ、イカナル契ニカハアリケン、ナド思シヨル」
「心ニしみテ忘ラレズ」
動詞活用表
未然形 しま ず、ゆ、る、む、じ、す、しむ、まほし
連用形 しみ たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 しむ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 しむ も、かも、こと、とき
已然形 しめ ども
命令形 しめ
動詞活用表
未然形 しめ ず、らゆ、らる、む、じ、さす、しむ、まほし
連用形 しめ たり、き、つ、ぬ、つつ、たし、ても
終止形 しむ べし、らし、らむ、ましじ、まじ
連体形 しむる も、かも、こと、とき
已然形 しむれ ども
命令形 しめよ

検索用附箋:自動詞四段
検索用附箋:他動詞下二段

附箋:下二段 他動詞 四段 自動詞

最終更新:2025年02月23日 21:12