の(之)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 助詞 [1] 〘格助〙
[一] 連体格を示す格助詞。体言または体言に準ずるものを受けて下の体言にかかる。→語誌(1)(2)。
① 下の実質名詞を種々の関係(所有・所属・同格・属性その他)において限定・修飾する。
(イ) 修飾される実質名詞が表現されているもの。
※古事記(712)上・歌謡「山処(やまと)能(ノ) 一本薄(ひともとすすき)」
※源氏(1001‐14頃)常夏「このごろ世にあらむことの、少しめづらしく、ねぶたさ醒(さ)めぬべからむ、語りて聞かせ給へ」
(ロ) 修飾されるべき、下の実質名詞を省略したもの。準体助詞とする説もある。→語誌(3)・名詞「の」。 ※仏足石歌(753頃)「薬師は 常乃(ノ)もあれど」
(ハ) 下の名詞(人を表わす体言)を省略して、呼びかけに用いる。近世に現われた用法。 ※歌舞伎・油商人廓話(1803)四「コレコレ若いの」
※歌舞伎・敵討天下茶屋聚(1832)三「時に、占ひの。〈略〉店を頼みますぞや」
② 下の形式名詞の実質・内容を示すもの。→語誌(4)。
(イ) 形式名詞が表現されているもの。
※万葉(8C後)五・八九二「綿も無き 布肩衣の 海松(みる)乃(ノ)如」
(ロ) 実質を示されるべき、下の形式名詞「ごと(如)」を省略したもの。…のように。 ※古事記(712)上・歌謡「朝日能(ノ) 笑み栄え来て」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「例の急ぎ出で給て」
[二] ((一)①(イ)の同格を表わす用法から転じて) 「…であって」の意を表わす。 ※源氏(1001‐14頃)桐壺「帝王の上なき位に登るべき相おはします人の、そなたにて見れば乱れ憂ふる事やあらむ」
[三] 体言を受け、形容詞語幹に体言的接尾語「さ」の付いたものを修飾する。 ※万葉(8C後)五・八六三「松浦河玉島の浦に若鮎(わかゆ)釣る妹らを見らむ人能(ノ)ともしさ」
[四] 主格を示す助詞。

(イ) 従属句や条件句など、言い切りにならない句の主語を示す。
※古事記(712)上・歌謡「天なるや 弟棚機(おとたなばた)能(ノ) 項(うな)がせる 玉の御統(みすまる) 御統に」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「御けしきのいみじきを見たてまつれば」
(ロ) 連体形で終わる詠嘆の文や疑問・反語・推量文中の主語を示す。 ※万葉(8C後)一・一七「しばしばも 見さけむ山を 心なく 雲乃(ノ) 隠さふべしや」
※枕(10C終)一「むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる」
(ハ) 言い切り文の主語を示す。→語誌(5)。 ※古今(905‐914)哀傷・八五四「ことならば事のはさへもきえななむみれば涙のたぎまさりけり〈紀友則〉」
② 好悪の感情や希望・可能の対象を示す。 ※万葉(8C後)一一・二五五四「相見ては面隠さるるものからに継ぎて見まく能(ノ)欲しき君かも」
[五] 他の格助詞の用法に通ずるといわれるもの。→語誌(6)。 ※万葉(8C後)三・四一九「岩戸割る手力もがも手弱き女にしあればすべ乃(ノ)知らなく」
[2] 〘終助〙 文末にあって活用語の連体形を受け、文全体を体言化し、詠嘆をこめて確認する。下に間投助詞「さ」「よ」「ね」がつくこともある。上昇の抑揚を伴えば質問文になる。 ※天草本平家(1592)四「サテサテ ナガナガシイ コトヲ タイクツモ ナウ vocatariattano (ヲカタリアッタノ)」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「さうなさるのがいいのさ」
[語誌](1)(一)(一)の用法の多くは格助詞「が」の用法と重なる。「が」との違いには、形態上、その受ける語が品詞的に「が」の場合より多種であるにかかわらず、活用語の連体形を受けないこと、意味機能上、関係構成の種類が「が」より多いこと、および待遇表現上、古く「が」が親愛・軽侮・嫌悪などの情を含む表現に用いられるのに対し、「の」は疎遠な対象(崇敬の対象にはある距離を保ち、形の上で疎の扱いをするのが常である)に用いられたなどの点が指摘される。待遇表現の問題については、日本人にとって重要な「うち」と「そと」との区別意識の面から説明しようとする説がある。すなわち「が」は自己を中心とする「うち」なる領域のものに付く助詞、「の」は自己の領域外なる「そと」の部分にあるものにつく助詞であるとする(大野晉「日本語をさかのぼる」)。
(2)中世中頃、漢文訓読の場から、「あざむかざるの記」と書くような用法が成立する。連体形は連体格表示機能を有するから、その下にさらに連体格助詞「の」を用いることは本来あり得ないが、漢文の字面を離れても置字のあることがわかるようにとの配慮から、朱子新注学を奉ずる人々が従来不読の置字であった助字「之」を読んだところから生じたもの(小林芳規「『花を見るの記』の言い方の成立考」〔文学論藻‐一四〕)。
(3)「万葉‐二三六」の「いなといへど強ふる志斐能(ノ)が強語(しひがたり)此の頃聞かずて朕恋ひにけり」の例も普通(一)(一)①(ロ) の用法とされるが、「万葉‐三四〇二」の「日の暮にうすひの山を越ゆる日は背な能(ノ)が袖もさやに振らしつ」、「万葉‐三五二八」の「水鳥の立たむ装ひに妹能(ノ)らに物言はず来にて思ひかねつも」などとともに、人を表わす名詞に付いて親しみの意を添える接尾語とする説もある。
(4)「万葉‐三五三五」の「己が命(を)を凡(おほ)にな思ひそ庭に立ち笑ます我(ガ)からに駒に逢ふものを」の例に見られるように、活用語の連体形を受ける場合は(一)(一)②(イ) の用法でも助詞「が」が用いられる。
(5)(一)(四)①(ハ) の用法は中古仮名文に現われ、近世には多数見られるが、助詞「が」のように自由な主格助詞となり切ることはなく、後には再び衰える。なお中世の抄物では、聞き手を意識して念を押す助詞「ぞ」の下接した「…したぞ」の形で終わる文が圧倒的に多く、「た」までが体言的にまとめられていることが知られ、また近世の例はすべて感動表現であって本質的にはやはり(イ)(ロ)の用法と同様である。
(6)格助詞「を」が撥音「ん」の直後に付いたため音変化した「の」がある。能・狂言・平曲などに多くみられる。「虎明本狂言‐宝の槌」の「こなたのいよいよ大名にならせられて、御ふしんのなされう御ずいさうに、ばんじゃうのをとがいたす」など。
広辞苑 助詞 ➊(格助詞)
①連体格を示す。前の語句の内容を後の体言に付け加え、その体言の内容を限定する。現代語では「の」の前後の内容に場面の差がない時に使われ、その差がある時は「…からの」「…までの」のように、その差を示す語を補って使うが、古代語では場面から理解できれば「…の」だけで使えた。後に付く体言が省略され、体言に準じて使われることもある。
㋐場所を示す。…にある。…にいる。…における。
皇極紀「 彼方 (おちかた)―浅野―(きぎし)」。
万葉集7「巻向―桧原の山を」。
土佐日記「(あがた)―四年五年果てて」。
古今和歌集序「大空―月」。
平家物語9「宇治川―先陣」。
「東京―おじさん」
㋑時を示す。…における。 万葉集2「秋―月夜は」。
万葉集12「(よい)―物思ひ」。
「昨日―出来事」
㋒位置・方角を示す。…に対する。 万葉集2「御井―上より」。
万葉集4「餓鬼―(しりえ)にぬかづくがごと」。
「都―西北」
㋓向かって行く時・所を示す。…までの。…への。 万葉集15「会はむ日―形見にせよと」。
伊勢物語「都―つとにいざといはましを」。
源氏物語若紫「朱雀院―行幸あるべし」
㋔対象を示す。…への。…との。…についての。 源氏物語手習「山ごもり―御羨み」。
源氏物語玉鬘「故少弐―仲悪しかりける国人」。
「自動車―運転」「夫―操縦法」
㋕所有者を示す。「が」に比べ敬意をこめて使われると捉えられることもある。…のものである。…が持っている。 古事記中「をとめ―床の辺」。
万葉集1「采女―袖」。
源氏物語葵「若君―御乳母」。
史記抄「晋文公―夫人は繆公―女ぢや」。
「私―本」「あなた―家」
㋖所属を示す。…に属している。 万葉集1「 珠裳 (たまも)―裾に」。
万葉集5「玉桙の道― 隈廻 (くまみ)に」。
万葉集5「天の下申し給ひし家―子と選び給ひて」。
竹取物語「駿河の国にあなる山―頂き」。
平家物語1「神祇官―官人」。
「本校―生徒」「腕―付け根」「子供―手を引く」「5月―5日」「東京―世田谷」
㋗同格の関係であることを示す。…である。…で。…であり、かつ…である。 万葉集9「見てしかといぶせむ時―垣ほなす人の問ふ時」。
今昔物語集31「若き女―年二十余ばかりにていと清げなる出で来たり」。
蒙求抄10「歩兵の官の人―厨に営む人あつて」。「弟―三郎」
㋘原料・材料を示す。…でできた。 古事記上「玉―みすまる」。
古今和歌集春「 白𣑥 (しろたえ)―袖ふりはへて」。
「毛糸―セーター」
㋙資格や置かれた状態・状況を示す。…である。…という。 万葉集3「わが背―君」。
源氏物語桐壺「帝王―上なき位」。
徒然草「希有―狼藉」。
「博士―称号」「入ったばかり―新人」「交戦中―国」
㋚固有名詞による限定。…という(名の)。 古事記上「八千矛―神」。
万葉集1「大和―国」。
堤中納言物語「中将― 乳母 (めのと)
㋛思い浮かぶもとを示す。 「天神様―北野」「津―伊勢」
㋜体言・形容詞語幹・副詞・句などの属性を持つことを示す。 万葉集2「おそ―みやび男」。
万葉集18「あはれ―鳥と」。竹取物語「猛―者」。
源氏物語夕顔「わざと―声」。
新古今和歌集恋「忘れじ―行く末まではかたければ」。
平家物語9「あなむざん―盛長や」。
「急―話」
㋝形式名詞に先立ってその実質・内容を示す。 万葉集2「朝露―(ごと)、夕霧―如」「波―(むた)か寄りかく寄る」。
万葉集20「大君の(まけ)―まにまに」。
竹取物語「御心ざし―程は見ゆべし」。
源氏物語桐壺「右大弁の子―やうに思はせて」
㋞比喩を示す。…のような。→ 「花―都パリ」
②後の体言が省略されたもの。(古くは体言のみを受けたが室町時代以後は活用語の連体形をも受ける。口語では頻用され、準体助詞として別扱いする説もある)
㋐先行する名詞を省略。
仏足石歌「仏は常―もあれど」。
土佐日記「とかく言ひて前の(かみ)も今―ももろともにおりて」。
四河入海「世間にある兎は皆雌也。月中―は雄兎ぞ」。
「この万年筆はどなた―ですか」
㋑体言の代用をする。…のもの。…のこと。…の人。 狂言、 絹粥 (ひめのり)「それがしが好いて読む―は源氏平家の物語」。
浄瑠璃、ひらかな盛衰記「これ申し、お隣り―」。
「できた―をもらう」
③体言を受け、連用修飾語を示す。
㋐(多く、和歌の序詞の技法)上の語句の内容を比喩・例示とするもの。…のように。
万葉集2「()の下隠りゆく水―吾こそ増さめ御念ひよりは」。
万葉集5「鳴きゆく鳥―()のみし鳴かゆ」。
源氏物語夕顔「例―急ぎ給うて」
㋑(「もの―」の形で)1㋗の同格の用法から転じて、矛盾した状態の共存を示し、逆接の接続助詞的用法となる。 源氏物語夕顔「つれなくねたきもの―忘れがたきにおぼす」。
源氏物語明石「をかしきもの―さすがにあはれと聞き給ふふしふしもあり」
④もたらした主体を示す。
㋐従属文での述語の表す内容をもたらした主体を示す。…が。…のする。主文で「が」を使うのに対し従属文では「の」を使うとする考えもあったが、現代語では、従属文でも「が」で表すことが多い。現代語では「の」を受けた文末は詠嘆止めとなる。
古事記中「命―全けむ人は」。
万葉集10「にほふ 黄葉 (もみち)―散らまく惜しも」。
伊勢物語「栗原のあねはの松―人ならば」。
古今和歌集序「春のあしたに花―散るを見」。
蒙求抄3「氷―はる時分」。
毛詩抄「成王―もつてきて、近比辛労ぢやと云て」。
天草本平家物語「宰相殿―さてござれば」。
「あなた―読んだ本」「こぼれた後にまた露―置く」
㋑疑問・反語・詠嘆の文で、もたらした主体を示す。 万葉集1「心なく雲―かくさふべしや」。
万葉集7「巻向山は継ぎ―よろしも」。
古今和歌集恋「思ひつつ()ればや人―見えつらむ」
㋒言い切り文の主体を示す。中古の詠嘆文に始まり、室町・江戸期に多くあるが、そのほとんどが感動・強調などの表現。 古今和歌集哀傷「見れば涙―たぎまさりけり」。
曾我物語3「梶原殿―(きた)れり」。
東海道中膝栗毛3「 外聞 (げえぶん)―わるい」
㋓対象を示す。述語は体言と同等になるために連体格と同等にも考えられる。 万葉集3「手弱き(おみな)にしあればすべ―知らなく」。
万葉集5「妹らを見らむ人―(とも)しさ」。
万葉集11「妹が目―見まく欲しけく」。
蒙求抄10「酒―飲みたき時ゆく也」。
浮世風呂前「とつさまが曲つた事―(きれえ)な人だのに」
⑤撥音ンで終わる体言に助詞「を」が付き、 連声 (れんじょう)によってノとなったもの。目的格を示す。 狂言、烏帽子折「油断―させまいといふ事ぢや」。
浄瑠璃、凱陣八島「哀憐―垂れ、通さんこそ本意ならめ」。
東海道中膝栗毛2「しからば六十二文―つかはそうか」
➋(並立助詞)(室町時代以後の用法)
①事物を並べあげて問題にする。同類を集めたり、反対のものを比較したりする。
史記抄「日本には、裳―、ひの袴―なんどと云て」。
浄瑠璃、大経師昔暦「宿賃―、米―、味噌―と算用したら」。
「貸した―借りない―と言いあっていた」「行く―行かない―、迷って決められない」
②ある活用語とその否定形とを重ねて上の語の意味を強める。 「いやもう、面白い―面白くない―って」「走った―走らない―、ものすごい勢いだった」
➌(終助詞)
①会話の中で、語調をやわらげつつ、聞き手を意識しての感動を示す。
狂言、釣狐「其狐を釣る物をちと見たい―」。
狂言、吟じ聟「鈍な奴―」。
浄瑠璃、女殺油地獄「ア、ざはざはと何ぢや―」。
浮世風呂2「ヲヤおばさん、お早かつた―」。
「わたしはこれが好きな―」「私、何とも思っていません―」
②疑問文の末尾の「か」を略したもの。 「何を話している―」「京都へはいつ行く―」「もう御飯は食べた―」
➍(間投助詞)文節の切れ目に付いて聞き手に軽く念を押しながら話を進める。江戸語に多く、遠慮のいらない聞き手に対して用いる。…ね。 浮世風呂2「いま―、お前の所へ寄つたら―」。
仮名文章娘節用「アノ、内に居る様におこると―、をばさんが泊めて下さらないヨ」
大言海 天爾遠波 第一類ノ天爾波。名詞ト名詞トノ關係ヲ示スモノ。而シテ、其意、種種アリ。
(一)所有ノ意ヲ示スモノ。
「大君の御世」人の國」
(二)由ル所、係ル所ヲ示スモノ。 「櫻の花」海の水」山の上」世の中」
(三)に、ノ意ヲ示スモノ。 古今集、二、春、下「志賀ノ山越ニ、女の多ク遇ヘリケルニ」
赤染衞門集「同ジ道ニ、恥カシゲナル男の行キアヒタリシカバ」
(四)にて、ある、ノ意ヲ示スモノ。 「コレの歌卷」
(五)に、ある、ノ意ヲ示スモノ。 (コシ) 白山 (シラヤマ)」阿波の鳴門」
(六){と、ノ意ヲ示スモノ。 萬葉集、五 十四 「アメツチ()、共ニ久シク、言繼ゲト、此クシミタマ、シカシケラシモ」
伊勢物語、第六段「女の心合ハセテ盜ミ出デ」
(七)と、いふ、ノ意ヲ示スモノ。 「富士の山」陸奧の國」
(八)の如き、ノ意ヲ示スモノ。 「花の顏」露の命」
(九){の如く、ノ意ヲ示スモノ。 神功攝政前紀「 率吾君 (イサアギ)、五十狹茅宿禰、タマキハル、內ノ阿曾ガ、 頭槌 (カブツチ)ノ、痛手負ハズ、鳰鳥()(カヅキ)セナ」
古今集、十一、戀、一「吉野川、岩浪高ク、行ク水の、早クゾ人ヲ、思ヒソメテシ」
同、十一、戀、一「夏ナレバ、宿ニフスブル、蚊遣火の、イツマデ我身、シタモエニセム」
(十)ん、ノ音ノ次ニ、を、トアルベキヲ、ソノ約リタルモノ。 駿臺雜話、三、杉田壹岐「御恩の報ジ奉ル志ノシルシト存候ハン」
(十一)種種ノ語ノ末ニ添ヒテ、上下ノ語ノ係屬ヲ示スモノ。 「結ブの神」口惜シの事」面白の夜」幾何の數」都ヨリの 音信 (オトヅレ)」明日マデの命」

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最終更新:2024年05月10日 21:16