も(亦)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 助詞 [1] 〘係助〙
[一] 文中用法。
① 文中の種々の連用語を受ける。
(イ) 同類のものが他にあることを前提として包括的に主題を提示する。従って多くの場合、類例が暗示されたり、同類暗示のもとに一例が提示されたりする。類例が明示されれば並列となる。単文の場合は活用語を終止形で結ぶ。
※古事記(712)上・歌謡「太刀が緒母(モ) いまだ解かずて 襲(おすひ)を母(モ) いまだ解かねば」
(ロ) 主題を詠嘆的に提示する。 ※古事記(712)上・歌謡「沖つ鳥 胸見る時 羽叩ぎ母(モ) これはふさはず」
(ハ) 願望の対象を感動的に提示する。 ※書紀(720)雄略一二年一〇月・歌謡「我が命謀(モ) 長くもがと 言ひし工匠はや」
② 同じ語の間にはさみ、強調の意を表わす。
(イ) 「AもA(だ)」の形で同じ語(名詞または形容動詞の語幹)を受けて、一般的なAではなく特別な、程度の甚だしいAである、ということを表わす。→折りも折り
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)三「下へ来て居さっしゃる客は、田舎も田舎、箸の持様も知らぬ、野暮助のたわいなしでござりまする」
(ロ) 「AもAだが(なら)BもBだ」の形で人を表わす名詞を受けて、AもBも共に常軌を逸していてあきれるほどである、の意を表わす。→何方(どっち)もどっち ※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一〇「是を二十五円で売りつけられる阿爺(おとっさん)も阿爺だが、それを又二階迄、えっちらおっちら担ぎ上げる御前も御前だね」
(ハ) 「…も…たり」(「たり」は完了の助動詞)などの形で、同じ動詞の連用形を受けて、その動作が激しく、あるいは長時間にわたって行なわれた、ということを、驚きの気持を込めて言う。→揃いも揃う ※史記抄(1477)三「をほへもをほへたり、云も云たりそ」
③ 対照的な二つの語に添えて強調の意を表わす。
(イ) 「…も…ないもない」の形で同じ語(動詞・形容詞)を受け、…するか(…であるか)どうかを論ずるまでもない、ということを表わす。
※金色夜叉(1897‐98)〈尾崎紅葉〉続「容すも容さんも有るものか」
(ロ) 「AもBもない」の形で対照的な意味の二つの語を並べて、AとBの区別をする場面・状況ではない、という意を表わす。 「ここでは先輩も後輩もない。みんな平等なんだ」
※桜桃(1948)〈太宰治〉「いや、何もお前、医学的な話ぢゃないか。上品も下品も無い」
(ハ) 「Aもへったくれ(くそ)もない」「Aも何もない」などの形で、この状況ではAなぞ本来の意味・価値をもたない、また、Aが存在しない、必要ない、ということを強めて言う。 ※浄瑠璃・小野道風青柳硯(1754)四「イヤ置け置け、断(ことはり)もへったくれも入らぬ」
④ 詠嘆を表わし、間投助詞的に用いられる。
(イ) 間投助詞に上接して軽い詠嘆を表わす。
※古事記(712)下・歌謡「置目母(モ)や淡海の置目明日よりはみ山隠りて見えずかもあらむ」
(ロ) 形容詞の連用形・副詞・数詞・接続助詞「て」などを受け、また複合動詞の中間に介入して詠嘆的強調を表わす。 ※古事記(712)上・歌謡「うれたく母(モ) 鳴くなる鳥か」
⑤ 係助詞に上接して副助詞的に用いられる。→もこそもぞもやもか
[二] 文末用法。文末の終止形(文中に係助詞がある時はそれに応ずる活用形)およびク語法を受けて詠嘆を表わす。体言を受ける場合は同じく詠嘆を表わす他の係助詞が上接して「かも」「はも」「そも」などの形となる。終助詞とする説もある。 ※古事記(712)中・歌謡「はしけやし 我家(わぎへ)の方よ 雲居立ち来母(モ)」
[2] 〘接助〙 活用語の連体形を受け、また「ても」の形で確定の逆態接続を表現する。 ※源氏(1001‐14頃)橋姫「心ひとつにいとど物思はしさ添ひて内裏へ参らむと思しつるも出で立たれず」
[3] 〘終助〙 ⇒(一)(二)
広辞苑 助詞 ➊(終助詞)活用語の終止形(係結びでは結びの形)、ク語法に付いて、詠嘆の意を表す。体言には「かも」「はも」などの形で用いる。なお、「かも」は平安時代には「かな」に代わる。→かもかな 古事記中「はしけやし我家の方よ雲居立ち来―」。
万葉集3「みつみつし久米の若子がい触れけむ磯の草根の枯れまく惜し―」。
万葉集4「()も寝かてにと明かしつらく―長きこの夜を」。拾遺和歌集恋「わが背子がありかもしらでねたる夜はあかつきがたの枕さびし―」
➋(係助詞)体言・副詞・形容詞や助詞などを受ける。「は」と対比される語で、「は」が幾つかの中から一つを採り上げる(それ以外を退ける)語であるのに対し、「も」はそれを付け加える意を表す。格を表す語ではなく、主格・目的格・補格など種々の格に当たる部分に使われる。「も」を受けて結ぶ活用語は、意味に応じて種々の活用形となるが、通常は終止形で結ぶ。
①ある事態がそれに及ぶことを示す。…もまた。
万葉集1「 熟田津 (にきたつ)に船乗りせむと月まてば潮―かなひぬ今はこぎ出でな」。
源氏物語桐壺「やうやう天の下に―あぢきなう人のもてなやみぐさになりて」。
新古今和歌集秋「心なき身に―あはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮」。
平家物語11「浪の下に―都のさぶらふぞ」。
歌舞伎、好色伝授「お好ならば野郎餅―御座います」。
「私―参加します」「これ―読むといい」
②どれか一つに限定せず同種の物事を列挙するのに用いる。 万葉集1「君が代―わが代―知るや磐代の岡の草根をいざ結びてな」。
源氏物語帚木「あしく―よく―相添ひて、とあらむ折―かからむきざみを―見すぐしたらむ中こそ契り深くあはれならめ」。
平家物語9「心ある―心なき―、皆鎧の袖をぞぬらしける」。
「この人―あの人―賛成している」「野―山―花盛りになる」
③願望表現と呼応して、願望の中心にあるものを示す。 万葉集5「竜の馬―今も得てしか青丹よし奈良の都に行きて来むため」。
万葉集8「たな霧らひ雪―降らぬか」
④最も実現しにくく、条件としては最高のものであることを示す。…まで。 源氏物語桐壺「かかる人―、世にいでおはするなりけり」。
「世界新記録―出た」
⑤最も実現しやすく、条件としては最低のものであることを示す。…さえ。…でも。 万葉集14「信濃なる千曲の川の 小石 (さざれいし)―君し踏みてば玉と拾はむ」。
源氏物語若紫「世を捨てたる法師の心地に―いみじう世の憂へ忘れ、よはひ延ぶる人の御有様なり」。
平家物語7「あやしの鳥けだもの―恩を報じ徳をむくふ心は候ふなり」。
「慣れ親しめばがらくた―宝である」
⑥譲歩または許容する意を示す。 万葉集9「海つ路の()ぎなむ時―渡らなむ」。
源氏物語末摘花「かくたのみなくて―過ぐるものなりけり」。
滑稽本、素人狂言紋切形「アイかして―上げやうが、あれは読むばかりに」。
「教えてあげて―いい」
⑦係助詞「こそ」あるいは「ぞ」が接続して「もこそ」「もぞ」の形で危惧の感情を表すことがある。…するといけない。 源氏物語若紫「はしたなう―こそ思せ」。
新古今和歌集恋「玉の緒よ絶えなば絶えね長らへばしのぶることの弱り―ぞする」
⑧用言の連用形、副詞などに付いて詠嘆を表す。 万葉集1「国はし―(さわ)にあれども」。
万葉集4「 許多 (ここだく)―狂ひに狂ひ」。
源氏物語松風「若君はいと―いと―うつくしげに」
⑨(意外なものにまで及んだの意から)意味を強める。 源氏物語桐壺「また見奉らでしばし―あらむはいと後ろめたう」。
蒙求抄1「人を人と―思はぬ物」。
歌舞伎、好色伝授「濡れました事はちつと―大事御座りませぬ」。
浮世床初「あの又かかし(嚊)―かかしだ、コレ早く起きなせへと言へ」。
「少し―恐ろしくない」「難しい球を取り―取ったり」
⑩(それ一つではないの意から)意味を和らげる。 いろは文庫「無理にとめ―致しますまい」。
「一時は辛く―あろうが、必ず幸せになれる」
⑪不定称の語に付いて、全部を総括した意を表す。 人情本、花筐「お前は誰に―言ておくれぢやアあるまいと思ふから」。
「誰―が知っている事実」「何―食べていない」
➌(接続助詞)
①動詞的活用の語の連体形に接続して譲歩の気持から、逆接を表す。…でも。…のに。
万葉集4「来むといふ―来ぬ時あるを来じといふを来むとは待たじ来じといふものを」。
源氏物語橋姫「心一つにいとど物思はしさ添ひて内裏へ参らむと思しつる―出で立たれず」。
堤中納言物語「月にはかられて夜深くおきにける―思ふらむ所いとほしけれど立ち帰らむも遠き程なれば」。
平治物語「矢は当らざりし―痛手は負ひぬ」。
「泣く―認められず」「期限は今日に迫りたる―準備は未だ成らず」
②仮定の逆接条件を表す。…ても。…であっても。 「何等の事由ある―議場に入る事を許さず」
大言海 天爾遠波 第二類ノ天爾遠波。物事ノ同ジ狀ナルヲ竝ベ合ハスル意ノ語。 古事記、下(雄略) 三十九 「今日母カモ、酒ミヅクラシ」
萬葉集、三 十九 「妹()()、一ツナレカモ、三河ナル、二見ノ道ユ、別レカネツル」(古義ノ訓)
後撰集、十五、雜、一「コレヤコノ、行クも歸ルも、別レツツ、知ルも知ラヌも、逢坂ノ關」
「人も去リ、我も去ル」善クもアラズ、惡シクも無シ」父トも思ヒ、師トも思フ」

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最終更新:2023年08月30日 18:51