『いみわかんねえ』
ここに来て最初に思ったことであり、今なお心の中で連呼している言葉である。
何もかも理解不能。
先の“
ルール説明”も、今こうしてこの場に放り出されたことも、何もかもが意味不明である。
(くそ、マジで意味わかんねえ)
頭を掻き毟りながら毒吐きたい衝動にかられる。
しかし舌打ちすら堪え、手元の銃へと視線を移した。
撃っちゃいないが、パッと見たところ、この銃は限りなく本物のようである。
そんなものが平然とバラ撒かれている状況で、迂闊に音など立てられない。
(どーなってんだよ)
木に背を預け、人影がないことを確かめる。
自分自身の心音が風の音を掻き消して聞こえやしないかヒヤヒヤする。
何せ、こんなこと――殺し合いなんて、人生初の経験だ。
(いきなり知らねえ連中と殺し合いだなんてよォ……)
彼女――清水比呂乃(女子十番)は、人を殺した経験がない。
当たり前だろ、と言われてしまえばそれまでだし、大半の者は当たり前としか感じないだろうが――
しかし、比呂乃のことをよく知る者なら、少なからず意外に思うかもしれない。
比呂乃は所謂不良であり、学内でのいじめ・恐喝をはじめ、クスリに援助交際まで何でもござれの札付きである。
クラスメートの相馬光子(出席番号十一番)とつるんでおり、彼女の“組織”に身を置いているため、
そこらの並のチンピラよりもよっぽど悪行を犯していると言っても過言ではあるまい。
光子の手にかかれば敵対組織の頭を轢き逃げさせることくらい何てこと無いとすら言われる。
それほどまでに大きな組織で、凶悪極まりない組織で、光子のクラスメートとして、一応の右腕として君臨しているのだ。
しかしながら、直接的に人を殺した経験が、比呂乃にはない。
それどころか、リンチすら未経験だ。
気に入らない女に嫌がらせをしたり、金をせびるため数発ぶん殴るのと、死の可能性を孕む行為とはわけが違う。
比呂乃は、『誰にも迷惑をかけていない』という大義名分を掲げていたからこそ、奔放に生きられたのだ。
多くの者を巻き込み、多くの者を失わせる“人殺し”は、比呂乃にとっては禁忌であり、近寄りたくないものだった。
(……夢か何かか?)
だがしかし――人を殺さねばならないと、考えたことはある。
と、いうか、比呂乃でなくても、彼女と同世代の少女なら、一度は考えたことがあるだろう。
勿論、それは、中学三年生のクラスが殺し合うというトチ狂った法律のある、大東亜共和国の国民に限った話だけども。
とにかく、比呂乃は、人を殺すシチュエーションを考えたことがあった。
もしも万が一殺し合いに――プログラムに巻き込まれたらどうするのか。
しかし答えはいつも出ず、ただ漠然と誰も信用できないという結論に終わる。
そして、結局は、プログラムに選ばれるなんて極度の不運は縁がないと、適当に頭の中からその考えを追い出していた。
(プログラムの存在のせいで、ナイーブにでもなってんのか?)
その『プログラム』と呼ばれるクソのような殺し合い実験に、この殺し合いは似ているような気がする。
詳細はさっぱり知らないが、最後の一人になるまで殺し合いという点は同じ。
それに、武器が配られるという点も、国民に知らされている数少ない情報のものと一致する。
珍しくニュースを見ていたら(家電量販店で、垂れ流しになってたものだ)プログラムのニュースに行き当たったから、
それが心にこびり付いていて、こんな夢を見せているということだろうか。
(……関係ねぇ)
しかし――夢かどうかということは、もはや比呂乃にはどうでもよかった。
目覚めようと頑張っても起きられなかった時点で、夢かどうかに拘る意味など消滅している。
夢だろうが何だろうが、生き残るしか道はないのだ。
(死んでたまるかよ、くそったれ)
しかし、自ら殺して回るつもりなんてない。
だから、比呂乃にとってのベストは、誰とも会わないことなのだ。
勝手に自分の知らぬ所で殺し合いが進むことなのだ。
「――――――!?」
だが、そうは問屋が卸さない。
体を隠した木の向こうに、ちらりと人影が見えた。
長い髪しかまともに見えなかったが、人であることに間違いはない。
(くそっ、マジかよ!)
もっと近付いて先手を取れれば、いとも容易く少女(性別不明だが、あの長さは多分女だ)を殺せるだろう。
しかし、比呂乃の倫理(大分、常人とはずれているが、倫理は倫理だ)がそれを拒否する。
(こっち気付くなよ……!)
となればもう、去っていくのを待つのみである。
相手が動かず陣取るようなら、こちらから去るつもりだが、どうやら相手も移動中。
ここは音を立てずに待って、見えなくなったら別方向に移動するのが得策だろう。
「貴女、さっきから、私を見て何をしているのかしら」
気付かれた。心臓が早鐘のように鳴る。
全身から吹き出す汗を感じながら、追いつかない思考を置いていき反射だけで振り返りながら、比呂乃は引き金を引いた。
「何……ッ!?」
そう、“振り返りながら”引き金を引いたのだ。
後ろから声が聞こえたから。
いつの間にか、視界から少女が消えていたから。
確かに後ろ姿でイメージした通りの少女がそこに存在して、銃弾は明後日の方向に飛んでいって。
「躊躇0での発砲。外しても、再び撃つべく銃を構えるその姿勢」
再び少女は姿を消し、今度もまた背後にいた。
首筋に、冷たい刃物の感覚がする。
かつて散々オヤジどもに突きつけたからよく分かる。
これはナイフというものであり、この突きつけ方は、手馴れてる奴のものだ。
多分、ちょっと歯向かえば、死なない程度に痛さを感じて血が出るよう薄皮を切られるだろう。
「単なる恐怖心からくる勢いの発砲ではない」
少女は否定しているが、はっきり言って、これは勢いでの発砲だ。
だから狙いもガタガタだったし、自分でも何をしたのかイマイチ理解できなかった。
だがしかし――首にナイフを突きつけられて未遂に終わった第二射は、確かに単なる勢いからくるものではない。
明確な、殺意と意思によるものだ。
不意をつかれたから、襲われそうになったから、命の危機を感じたから――
つまりはこれは、正当防衛と言えたから。
だから、そんな大義名分の元、場が収束する前に、もう一発撃とうとしたのだ。
『しょうがない』という言葉に甘えた、消極的な殺意を乗せて。
「でも、背後から不意をついて撃つことはしていない」
汗が頬を伝ってナイフへと垂れる。
唾を喉に通したいが、その動きでスパっと喉がイキそうで、それすら満足に出来ない。
「要するに、中途半端なクズね」
優位に立つ少女――暁美ほむらは、比呂乃の存在にずっと早くから気が付いていた。
常に気を張り戦ってきたこともあるし、比呂乃がほむらに気付いた後殺気や気配を隠さなかったというのもある。
勿論気付かれないよう息は潜めていたのだが、「さっさと消えろ」と呪詛のように心の中で連呼しながら念でも送るように睨んでいたのが良くなかった。
とにかく、とっくにほむらは比呂乃に気付き、いざというときに時間を止められるようにして、比呂乃の出方を窺ったのだ。
「殺し合いに乗る度胸もなく、かといって武器を棄てる勇気もない」
その結果、下した結論。
比呂乃という人物を、殺し合いの場でどうするかという判定。
「貴女は、生かしておくだけの価値がない」
比呂乃は、殺し合いをかき回す役には向いてない。
人を殺して回れるほど吹っ切れていないのだから。
巴マミのように暴走出来るほど狂えてもいないのだから。
「そして――わざわざ殺す程の価値もない」
かといって、殺し合いに抵抗する役にも向いてはいなかった。
声をかけるわけでもなく、ただじっとして嵐が去るのを待つだけというスタンス。
それでは、徒党を組んで殺し合いの成立を阻む役どころにもなれないだろう。
「貴女はいわば路傍の石。
居ても居なくても問題のない、爪楊枝の溝にも劣る存在ね」
その言葉は、少なからず比呂乃の神経を逆撫でする。
それでも比呂乃は何も言わない。殴りかかれない。
突き付けられたナイフの感覚が、比呂乃の反抗する気力を奪い去っている。
「だから特別に、生かしておいてあげる」
淡々と、ほむらが告げる。
助かった――にも関わらず、比呂乃の心に安堵は未だ訪れない。
ほむらの言葉には、安堵を許さぬ何かがあった。
「私は、貴女をいつでも殺せる。貴女に私は殺せない」
一度や二度では、ほむらの時止め能力について知ることも、ほむらの強さを知ることも出来ない。
だがしかし、急に視界から消えて背後から現れたことは、比呂乃の心に『よく分からないがヤバい』として刻み込まれた。
ほむらは、強い。自分では殺せないほどに。
頭ではともかくとして、少なくとも心では、比呂乃はそう思っている。
だからこそ逆らえない。
「だから盾として生かしてあげる。手足として生かしてあげる」
ほむらの弱点は、魔法少女としての火力に劣ること。
そして時を止めても避けられないような攻撃を受けることだ。
しかし前者は、“数”で押すことでカバーが出来る。
後者は、“盾”を常に持ち歩くことで対処できる。
この2つは、“便利な人間”を連れていれば、ある程度カバー出来る。
その“便利な人間”は、反抗されても困らない程度の弱者が相応しい。
そして、他の役どころでは使いようのないくらいの無能者がいい。
だからこそ、比呂乃だった。
マミのように単独行動をさせて役に立つ気がしないからこそ、
マミのように反抗されたら手こずりそうな気がしないからこそ、
比呂乃をソレに選んだのだ。
「だから、参加者を殺しなさい。私のために殺し続けなさい。
逆らえば――――」
それに、不意打ちをしやすくするためには、目を引いてくれる囮がいた方がいいから。
髪の毛をツンツンに立てて目立つ風貌をした比呂乃は、打ってつけの人材と言えた。
「わ、わかったよ」
ほむらが若干ナイフを離す。
それを見て、苦々しげに言葉を発した。
喋ることが出来るようにナイフを離しただけであり、解放するためではない。
それが分かっているからこそ、この状況で逆らえるはずなどなかった。
「やればいいんだろ、やれば」
殺人は、比呂乃にとって、禁忌である。
だが、しかし――自分の命と秤にかければ、あっさりと吹き飛ぶ程度の禁忌だった。
脅されたという大義名分も大きい。
いつか爆発するというだけの悠長な首輪と違い、今にでもサクッと殺してきそうな殺人鬼の命令だ。
従ってしまったとしても、正当防衛の一環と言えるだろう。
「そう。分かっているなら、いいわ」
比呂乃は、クズだった。
自ら人を殺すほどは腐ってなくても、
仕方ないと言い訳出来る状況ならば迷わず人を殺せる程度に腐っていた。
「……ああ、それと。これは私が預かるわよ」
「なっ……!」
そう言うと、ほむらは比呂乃の手にしたベレッタを奪い取った。
ほむら自身の火力を上げる意図もあるし、メインウェポンを奪うことで比呂乃の戦力を下げることも意図している。
「他にも武器は配られたでしょう?」
忌々しそうに顔を歪め、比呂乃は支給品であるデリンジャーを取り出す。
至近距離で当てられればそれなりに威力は高いが撃ち合いには向かないので、ポケットにしまっていた。
上手くやれば隠し通せそうではあったが、失敗した時処刑される可能性を考えると、ここは素直になるしかない。
(ちっ、ふざけやがって……!)
比呂乃を支配下に置くという点で、ほむらの策は成功している。
恐怖によって、心に刻んだ上下関係によって、比呂乃を逆らえなくする。
それは、確かに、ある程度の効果を発揮していた。
現にこうして比呂乃はほむらを憎む気持ちをグッと押し込めさせられている。
(絶対、ぶっ殺してやるっ……!)
ほむらに誤算があったとすれば、それは比呂乃を侮ったこと。
そして比呂乃のクズっぷりをあまりに過小評価したこと。
比呂乃が人を殺さなかった理由は、前述の通り己の中の倫理に従った結果だ。
そしてその倫理観は、大義名分によりいとも容易く覆る。
『命を握られ命令された』という大義名分を得たことで、人を殺せるようになった。
それと同じで、『命を握って脅迫してくる、殺し合いに乗ったクズ』という大義名分を得た今――――
比呂乃は、ほむらを殺すのに躊躇しない。
だって、『仕方がない』のだから。
ほむらは殺されても仕方がない奴なのだから。
「それじゃあ、行きましょう」
ほむらはそれに気が付かない。
比呂乃という“使われる立場の人間”の腹に抱えた想いになど気が付けない。
今まで人との繋がりをほとんど持ってこなかったことの弊害である。
「……ああ」
ほむらは安全に殺し合いを進めるため、まずは手駒を手に入れた。
その手駒が自らの命を奪う可能性なんてものは、微塵も考慮していない。
するはずない。だってそれはほむらにとってはありえないことなのだから。
反撃してくる度胸も力もないからこそ、手駒に選んだのだから。
そんな驕りがほむらの未来をどうするのかは、まだ、分からない。
【一日目/黎明 /G-7 森】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ほむらのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、バタフライナイフ@現実、ベレッタM92F(14/15)@バトル・ロワイアル
[所持品]基本支給品一式、9mmパラベラム弾×60発、ランダム支給品×1
[思考・行動]
0:まどかを救うために、聖杯を獲る
1:基本は不意討ち。危険は侵さないようにする。そのために比呂乃を利用
2:美樹さやか、佐倉杏子には警戒。巴マミも頃合を見計らって排除する
※十一話、ワルプルギスの夜戦前からの参加です
※時間停止は数秒しか出来ません、また、時間を遡ることは不可能です
【清水比呂乃@バトル・ロワイアル】
[状態]健康
[装備]二十二口径二連発デリンジャー(2/2)@バトル・ロワイアル
[所持品]基本支給品一式、22口径予備弾丸×20、ランダム支給品×1
[思考・行動]
0:生き残る。積極的に殺すつもりはないが……
1:当面はほむらに従い人を殺す。やりたくねーが、こうなったら仕方ないだろ。
2:ほむらもいつかぶっ殺す。この悪魔は、殺すしかない。
※原作登場以前からの参戦です
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最終更新:2013年03月18日 10:56