――気分が悪い。
木原加群は鉄のように冷たい表情で、闇に包まれた会場を闊歩する。
やるべきことを決めたとはいえ、やはり何処か抜けてしまっていた。
積年の復讐を遂げたことで、自分の中にあった、彼を動かしていた一つの歯車が完全に錆び付いているのを実感させられる。
手前勝手な理屈で宿敵と相討った瞬間を見せつけられたかつての教え子は今、何処で何をしているだろうか。
無事、バケージシティから帰ることが出来たのだろうか。
そうであってほしいと加群は切に願う。
どうせ生きる意義さえも失ったこの身だ、恐らくもう二度と彼女の前に現れることはないだろうが、気掛かりではある。
彼女を傷つけてしまったのも、一人の少年が人生を終えることになってしまったのも、元を辿れば一人の男が悪いのだ。
木原加群が『木原』らしからぬ歩み方をしたからだ。
そのせいで、いろんなものが随分と狂ってしまった。
「……『木原』、か」
木原数多、木原病理。
このような殺し合いに関与させるには危険すぎる人材はどちらも此の世には居ないし、二人の名前は名簿にはない。
あるのは木原円周、取るに足らない落ちこぼれだ。
そう、文字通り取るに足らない存在である。
あの狡猾で悪辣なる病理に比べたら、愛玩動物といったっていい。
にも関わらず自分の心をこうも刺激するのは、これもまた過去の記憶、円周との思い出がどこかで呵責を覚えさせるからなのか。
「どちらにしろ、やることなど何も変わらないのだがな……」
弱者を虐げる悪を殺して、殺し合いを終わらせる。
その先に自分のいる未来がないことは承知の上で、加群は決めた。
先程はどうやら相当な手練れらしい男に襲撃されたが、自分のとある魔術の恩恵と『木原』の頭脳をもってすれば、問題はない。
問題はない――のだが。
果たしてこの、錆び付いているといっても過言ではないほどに鈍った感覚で、本当に並み入る強豪を退けられるのか。
加群には正直なところ、自信がなかった。
『怨敵への復讐』という目的地を越えてしまった現在、加群に与えられた二度目の生はどうしても空虚なものに見えてしまう。
現実味がない、といってもいい。
病理にやったように、バケージシティで暗躍した時のように。
苛烈なる『木原』のように、振る舞えるのか。
「まったく、不甲斐ないことだな」
自嘲するように加群は笑みを浮かべる。
あれほど苛烈に復讐を求めてきた男も、牙が抜ければそれまでか。
教師だった頃の誠実さも失い、木原としての異常な性など持ち合わせず、グレムリンとしての一心不乱さすらも欠けている。
彼は脳裏に一人の同僚の面影を再生する。
その名前はマリアン=スリングナイヤー、自分のような俄仕立てとは違う、生粋の魔術師である黒小人だ。
彼女なら、迷わないだろう。
殺し合いに乗るでもなく、ただし全て守るなんて綺麗事はぬかさない。
彼女も自分と同じく、殲滅する。
自分に害を成す存在、殺し合いに乗った存在、殺し合いを掻き立てんとする存在、その全てを殲滅する。
マリアンは強かった。
半端者の自殺志願者なんかより、ずっと。
復讐という目的に酔い、そこに死を求めた愚か者よりもずっと強い。
ふっ、と。
喫煙者のような溜息を漏らしたところで、加群は漸く気付いた。
戦士として研磨された彼にすれば、気付けないのはらしくなかった。
だって前方から聞こえてくる少女の少し高い声は、別段静かにしようと気を配っている風でもなかったのだから。
「え、えぇ? ちょ、なにこれ!」
その声に含まれる感情の色は、明らかな困惑。
加群の表情が強張る。
万が一の最悪の可能性が脳裏を不意によぎった。
再生されるのは、忌まわしき女に仕組まれた一つの悲劇。
自分がこの手で破壊した少年の憧憬が、まるで写真のように頭の中へ写し出され、気付けば加群は駆け出していた。
これまでの無気力ともいえる様子とは一線を画した真剣な表情。
それは、彼がまだ教師であった頃のものに近かったかもしれない。
「な、なにこれ……?」
結論から言うと、加群の心配は単なる杞憂に終わった。
そこにいた金髪の少女は、水銀らしき銀色の球体を前に慌てている。
確かにあれは、自然界では起こり得ない現象、作り得ない物質だ。
恐らく魔術師が用いる礼装の類だろう。
ふむ――加群が声を漏らす。
少女が彼の方を見た。
数秒の間が空いて、少女は――
「う、うわあああああああ!!??」
――見ている側が愉快になるほどの慌てっぷりを見せてくれた。
確かに、加群の顔は俗に言う優男とは異なっている。
どちらかというと強面に部類される、暗闇で見たら吃驚する程度の人相だ。
決して不細工というわけではないが、深夜の宵闇、それも殺し合いゲームの真最中ともなれば話は別である。
せめて声くらいは掛けてから近寄るべきだったか。
曲がりなりにも教職者であった身なのに、子どもに不審者と間違われるとはなかなかに不名誉なことだと思う。
しかし加群は踏んでいる場数が違う。
この程度の想定外に冷静に対応できないようでは、復讐者は勤まらない。
極めて冷静に加群は両手を挙げる。
敵意がないことの意味合いを示して、まずは少女の警戒を少しでも和らげる。
どうやら喚いて逃げ出されるほど不審とは見られていないようで、少女はまだ少し不安そうな瞳で加群を上目遣いで見上げる。
「――”それ”は魔術礼装といってな」
自己紹介をする前に、加群は水銀の球体にそっと近付く。
もはや慣れたものだ。科学の世界で生きていた頃には信じられなかった不条理・魔術に一切の疑念無く適応している。
俄仕立てとはいえ魔術師の端くれ。一つの魔術組織の中で、結構な実力者にカウントされるくらいの力量は持っていた。
数秒間を置くと、水銀は加群に反応するように波打つ様子を見せる。
どうも操ることは出来るらしい。少女が差し出してきた『説明書』なるものを見て、とりあえず操ってみることにする。
何事も、理解するには実演が一番だ。
「”月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)”か。この礼装はどうも、術者の意図次第で形を変形させることが出来るようだ」
水銀が鞭のようにしなり、地面を叩く。
同じく鞭のようにしなり、今度は鋭い鋼糸のように地面を切り裂く。
少女と自分を取り囲むように展開しての防御態勢。
周囲の存在を探知させる自動索敵――驚いた。これは結構な品だ。
この殺し合いを潰すために戦う中で、この月霊髄液の多彩な守備範囲と攻撃範囲は、実に大きなものをもたらしてくれる。
何より、加群の天敵となるごく小さなダメージを完全に封殺してくれるのが一番ありがたい――これで、事実上の絶対防御が実現された。
「す、すごい! でっかいはぐれメタルがばーんって!」
「……はぐれメタル? これは水銀だな」
「すい……ぎん? え、えーと……ちょ、ちょっと待ってください! もうすぐ、もうすぐ出てきますから……!!」
どうやらこの少女は頭が残念な少女らしい。
警戒を解いては貰えたようだが、この学力はちと不味そうだ。
こうして加群が黙っている間にも、新しい炭酸飲料だとかマニキュアの新製品だとか、信じ難い答えが聞こえてくる。
「水銀とは、その名の通り流動体の銀だ。……唯一液体で存在する金属だと、中学校で習わなかったか?」
「え、いやー……あはは」
曖昧に目を反らす少女。
やはり相当壊滅的なようだ。
「ところで、だ。私は木原加群という者だが、君は?」
「如月桃、です……その、アイドルの如月桃っていえば」
「いや、すまないが知らないな。少し事情があってな、そういう社会の事情には疎いんだ」
「そ、そうですか!」
どうしてか嬉しそうな表情を見せる少女――モモ。
加群は知らない。
眼前の少女が長年抱えてきた悩みが『人の目を奪うこと』であり、アイドルになったことで知名度が更に広がり、ちょっと前までは人気者がゆえの『目立ちすぎる』という悩みを抱えていたことを。
その両目に宿る、学園都市の超能力と比較してなお謎に満ちた能力のせいで、悩み多き人生を余儀なくされていたことを。
「モモ、君の知り合いはいるか」
「……五人」
「そうか」
あくまで機械的に、加群は取り出した名簿をモモへ見せる。
彼女が指差した名前を、黒のマーカーで囲んでいく。
友人の安否が知れないのは心細いだろう、彼女をその友人の元へ送り届けてやるに越したことはない筈だ。
「その、ありがとうございますね、加群さん」
「いや、気にするな」
冷静に応じながら、加群は心中で葛藤する。
何をしているのだと。自分の決めた道に従うならば、彼女にこれほど過剰なお節介を焼くことは間違いなくやりすぎだ。
明るい日常に生きてきた子どもに、自分の殺しを見せるというのか。
わからない。自分が何をしたいのか、わからない。
(案外、私はまだ――――)
その先を考えるのは、やめた。
【一日目/深夜/Fー4・森】
【如月桃@カゲロウプロジェクト】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品2(武器は無し)
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。帰りたい……。
1:加群さんと行動する。みんなを探す。
※遊園地で遊び終えた頃からの参加です
※『目を奪う能力』に制限はありません
※加群から礼装についての知識を大まかに得ましたが、まったく理解はしていません。
【木原加群@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]コンバットナイフ@ひぐらしのなく頃に、月霊髄液@Fate/Zero
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・行動]
0:危険人物を排除し、実験の打倒に貢献する
1:あまりに強大な敵が居た場合は、相討ち覚悟で仕留める
※死亡後からの参加です
※魔術に制限はありません
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最終更新:2013年02月09日 13:57