すた、すた、すた。
コリジョン・ナンバーズは歩みを進める。
深夜の街中をただ1人。暗闇の中でただ1人。
小さな身体の小さな胸に、確固たる信念を抱きながら。
ふと、不意に足を止め、暗い足元へと視線を落とした。
歩道と車道を隔てる鎖。その片方のフックが外れ、アスファルトの上に転がっている。
――繋ぐ。
彼女の願いのその1つ。
たとえそれが何であろうと、隻眼に映るものは全て繋ぐ。
その場に静かにしゃがみこむと、コリジョン・ナンバーズは無言でフックを元のポールに引っ掛けた。
彼女のなすべき役割は繋ぎ。
それがただの物であれ、あるいは人の命であれ、全てを平等に繋いでいく。
フラグがあればそれを繋ごう。他人のものでも自分のものでも、更なるフラグを立て、より強固なものとしよう。
情報があればそれを繋ごう。自分の耳で聞き届けた、その情報を語り継ごう。
消えかけた命があるのなら、それすらもこの手で繋いでみせよう。
「さて……」
立ち上がり、周囲を見回す。
このバトルロワイアルが始まって以来、自分はまだ誰とも会っていない。
自分の繋ぎという使命も、対象がなければ果たせない。
「当面の目的は人捜し、というわけだが……」
そう呟きかけた。
その、瞬間。
「――ッッ!」
ぞわり。
突如迫り来る悪寒。
全身の体毛が一気に粟立ち、びくりと身体を震わせる。
本能的に察した危険。戦うために生み出された、戦闘機人の身体故の感性か。
まずい。危ない。何か来る。
己が直感に従い回避。
どこから来るか分からない。何が来るのかすら分からない。
だが、この場に立ち尽くしているのはとにかくまずい。
素早く横っ飛び。一瞬の判断。タイムラグは0コンマ3秒。
刹那の直感の元に逃れたその場所から。
「やはり……!」
びゅん。
突如として現れる、影。
すなわち襲撃者の証。
ヒトガタをなす1つの影が、コリジョン・ナンバーズのいた場所へと現れ虚空を裂く。
凄まじいスピード。高速戦闘を得意とするタイプか。回避が遅れていたら死んでいた。
何より、その殺し屋は。
「ほぅ……よくかわしたな」
“地面から突然飛び出してきていた”。
闇夜に二房の金髪が踊る。見事な金糸のツインテール。
瞳に宿した色は真紅。死者の撒き散らす血液の赤。
顔に身に着けたのは黒揚羽。極彩色のパピヨンマスク。
その手にしたのは鋭き長刀。小柄な幼女の背丈すら凌ぐ、五尺あまりの物干し竿。
魔法少女リリカルなのはのキャラクター――フェイト・テスタロッサの姿。
その姿をした何者かが、突如足元からその剣を突き出してきたのだ。
さながら機人6番のディープダイバー。水中より飛び上がるイルカのごとく。
「フェイトの姿……まさか、最初に会うのがなのはキャラとはな」
「
なのはロワが◆HlLdWe.oBM。
無常の騎士」
「
ロボロワのコリジョン・ナンバーズ。トリップは◆c92qFeyVpE……これが意味することは分かるだろう」
「成る程、噂に名高きリリカルクラッシャーか。我ながら厄介な相手を選んだものだ」
にやり、と笑う襲撃者。
前述通り、ロボロワの◆c92qFeyVpEといえば、一流の繋ぎ師として有名な職人だ。
だが、彼女にはもう1つの顔がある。
恐らく今フェイトの姿をしてる無常の騎士にとって、最も危険で厄介な顔が。
――壊す。
繋ぎを本分とするコリジョン・ナンバーズの、たった1つの例外。
自身が扱いを得意とするなのはキャラの精神を、完膚なきまでに破壊すること。
チンクの誤解。ノーヴェの疑心暗鬼。そして何より有名なのが、リリカル・ナカジマ・カワイソス。
なのはキャラの姿をした者にとっては、最悪の悪魔とでも言うべき相手だ。
「そういうお前は、見たところこのロワに乗っているようだな」
「左様。貴様が繋ぎ師であるように、誤解と暗殺こそが我が領分」
その手の日本刀を構える、無常の騎士。
いわゆる熱血ロワに分類されるであろうなのはロワにおいて、彼女は異質な職人であった。
フィールドを破壊するほどの大規模バトル。マーダーと対主催の、真っ向からのぶつかり合い。
そうした王道展開が流行するなのはロワにいながら、彼女が手がける展開は、主に奇襲と疑心暗鬼。
そしてそこへ、一撃離脱の奇襲スタイルに適した、フェイトの身体が与えられた。
更にアサシンのクラスを与えられた、佐々木小次郎の剣がある。ならばこの道を選ぶのは必然。
もっとも、彼女にパピヨンマスクを装備させたのは自分ではなく、確か◆7pf62HiyTEだったはずなのだが。
まぁ、大した違いでもなかろう、と、無常の騎士は内心で苦笑する。
「……まぁ、お前がどの道を選ぼうと関係ない。なのはキャラは壊すだけだ」
デイパックの口を開け、コリジョン・ナンバーズが手を突っ込んだ。
壊すというのは肉体的な意味というより、精神的な意味を持っているのだが、この際細かいことは言っていられない。
戦闘機人のチンクの身体は、普通の身体よりも強靭だが、得意とするスタイルは投擲による中距離戦。
敵の能力が見た目通りなら、高速戦闘を得意とする無常の騎士から、逃げおおせられるはずもない。
「ならば今度こそ、その目でしかと見届けるがよかろう。我が異能――『XANADO』を」
だが、その刹那。
「!?」
無常の騎士の姿が消えた。
正確には消えたのではない。突如足元へと“潜った”のだ。
フェイトの小柄な身体が一瞬、影のごとき黒へと染まったかと思うと、突然そのままアスファルトへと吸い込まれた。
さながら水中に飛び込むかのように。さながら闇に溶け込むかのように。
成る程こういうことだったのか。
こいつはロボロワの見せしめ・セインのそれに似た、足場に潜り込む能力を持っているのだ。
思えば自ら暗殺者を名乗った彼女が、何の策もなしに、敵と正面からだらだらと会話するはずもなかった。
奴はどこだ。どこへと消えた。そしてどこからやって来る。
あるいは、また足元からの襲撃か。
「それなら……」
デイパックから取り出したのは雷神の槍。当然、破壊力は十分。
ぐさり、と勢いよく、その穂先を地面へと叩き込む。
アスファルトを貫通。地面へと差し込まれる槍。
これで足元からは迂闊に攻撃もできるまい。
デインの追加効果を使えば、電撃で中の敵を攻撃することができたかもしれないが、あいにくと地面には電気は通らない。
いまどきポケモンでも取り上げられている当然の知識だ。そこだけは残念だった。
だが、これで真下からの襲撃は回避できる。
出てくるとしたら、自分の右か左か。はたまた後ろの足場からか。
視線を下へと落とし、襲撃へと備えようとしたが、
「くぅっ!」
左肩を襲う、激痛。
反射的に回避行動を取ることこそできたが、完全にかわしきることはできなかった。
血塗れの物干し竿が姿を現した場所は――壁。
油断した。
まさかそこからも出られるとは思わなかった。
連続使用できる能力であるからには、足場限定などの制限があっても、おかしくはないと思っていたのだが。
振り返ったその先には、歩道へと着地した無常の騎士の、不敵に笑う姿がある。
「読みが浅かったようだな。言ったはずだ……私の領分は暗殺であると」
「暗殺……?」
「我が異能・XANADOの効果範囲は“闇”……それが影であれ宵闇であれ、そこが暗闇であるならば、それすなわち我が足場よ」
要するに、こういうことか。
こいつは床であろうと壁であろうと、どこへでも好きに移動できる。そこが通常よりも暗い場所である限り。
成る程、暗殺とはよく言ったものだ。闇に紛れて敵を討つなら、これ以上に相応しい能力もあるまい。
幻想的な名称として扱われるXANADO(ザナドゥ)も、この奇跡の技には合っているといえば合っている。
「だが、ザナドゥの最後の文字は『O』ではなく、『U』のはずだぞ」
「仕方があるまい。由来となったHELLSINGでは『O』だったのだからな」
言いながら、互いに獲物を構える2人の幼女。
銀髪の娘はリリカルキャラを壊すため。
金髪の娘は殺し合いを制するため。
コリジョン・ナンバーズの目的は精神の破壊――されど、一騎討ちでは材料が足りぬ。
無常の騎士のもう1つの通称は疑心暗鬼職人――されど、ここには誤解を抱かせる相手がおらぬ。
ならばこうして相対すれば、刃を交えるのは必然のこと。
嗚呼、もはや語る言葉もない。
ただ己の意志を貫くべく、目の前の敵を滅殺するのみ。
引き下がることなどできぬ。屈するわけにもいかぬ。
ただ、己の存在をかけ、刃を重ねる。
それだけだ。
【一日目 深夜/千葉県】
【コリジョン・ナンバーズ@ロボロワ】
【装備】雷神の槍@DQロワ
【所持品】支給品一式、不明支給品0~2
【状態】左肩に裂傷
【思考・行動】
1.無常の騎士を壊す
2.いるのならば◆o.lVkW7N.A氏の運命を繋ぐ
3.全てのものを繋ぐ
4.なのはキャラになっている者は――壊す
【備考】
※外見はチンク@リリカルなのはStS
※繋ぐ物の優先順位は命>その他
【無常の騎士◆HlLdWe.oBM@なのはロワ】
【服装】パピヨンマスク@なのはロワ
【状態】健康
【装備】物干し竿@アニロワ
【持ち物】デイパック、基本支給品、ランダム支給品0~2
【思考】
基本:殺し合いに優勝する。
1.コリジョン・ナンバーズを殺す
2.基本スタンスは暗殺と扇動マーダー。主に後者を優先
【備考】
※「XANADO」:無常の騎士の持つ異能。暗闇の地形に潜ることができる。
ただし、地形に潜れるのは10秒前後。再度潜るまでにもしばらく間を置かなければならない。
※外見はパピヨン@武装錬金のマスクをつけたフェイト@なのはA'sです
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最終更新:2009年03月21日 11:48