古泉ネームレスは、気が付くと橋の上にいた。
当初は自分が置かれた状況を理解できなかった彼だが、放送が流れてきたことで自分が気絶している間に旅の扉をくぐったことを理解する。
そして放送はネームレスに現状を理解させると同時に、彼に悲しみももたらした。
仲間として信頼しあった男。そして共に書き手ロワを進めてきたかつての同志。
彼らの死は、ネームレスの心を鋭く突き刺す。
もっとも正確に言えば、死んだのは外部介入者のヨッミーATであり参加者のヨッミーは生還しているのだが。
それを敢えて死者として発表させたのは、主催者の悪意であろうか。
(しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにもいきませんね……。NIKU氏やロニーさんはまだ生きているはず。
それに、空気王氏もです。まずは、彼らとの合流を目指しましょう)
悲しみをこらえ、ネームレスは歩き出す。進行方向は北。目指すはガーデンエリアだ。
◇ ◇ ◇
数十分後。ネームレスは早くも、探し人の一人である空気王と対面を果たしていた。
ただし、相手は死体と化していたのだが。
「空気王氏……」
全身をハチの巣にされ無惨な姿をさらす戦友を目の当たりにして、ネームレスは力無く地面に膝をつく。
空気王の顔は、驚愕にゆがんでいた。おそらくは不意打ちで反撃する間もなく絶命したのだろう。その無念、察するに余りある。
「申し訳ありません、空気王氏……。せめて僕がもっと早くたどり着いていれば、あるいは……」
懺悔の言葉を口にしながら、ネームレスはデイパックからある支給品を取り出す。
それは、浄玻璃の鏡。対象の過去の所業を映し出すアイテムだ。
ネームレスはこれを使い、空気王殺しの下手人を暴こうと考えたのである。
(仇だけでも討ちましょう、空気王氏。ですから、犯人の姿はしっかり確認させてもらいますよ)
やがて、浄玻璃の鏡には映像が映り始めた。
◇ ◇ ◇
そして、さらに数分後。浄玻璃の鏡は、映像の再生を終えていた。
「……ッ!」
無言で、ネームレスは自らの拳を地面に叩きつける。
叩きつけられた拳は脳に痛みの信号を送るが、ネームレスはそれを意に介さない。
それほどまでに、彼は怒り狂っていた。
(まさか……。犯人が僕だとはね……!)
そう、浄玻璃の鏡が映し出した犯人の姿。それは紛れもなく、オールロワ書き手としてのネームレス……
Prince of Killerだった。
確かにオールロワでの彼は、多数の参加者を死に追いやっている。無差別マーダーと化していても、なんら不思議はないと思っていた。
だがまさか、自らの盟友まで手にかけていようとは。いくら自分でも……いや、自分だからこそ許せない。
「この落とし前は……必ずつけてもらいますよ、Prince of Killer!」
絞り出すような声で、ネームレスは呟く。
「いけませんねえ。復讐鬼古泉といったら、どちらかといえば僕にふさわしい役回りなんですが」
そこに突然響くのは、ネームレスとまったく同じ声。とっさにネームレスが振り向くと、そこには
29NIKUマニアの姿があった。
「NIKU氏! ご無事でしたか!」
「無事と言えるかどうかは微妙ですけどね。申し訳ありません、体力の回復を優先していたもので、合流が遅れました」
さわやかな笑顔でそう言うNIKUの頬には、ご飯粒がついている。牛丼喰ってたな、こいつ。
「ああ、どうやらもう一つ謝らなければならないようですね。もう一人の僕がふがいないおかげで、あなたに不快な思いをさせてしまったようです」
「あ……」
そこでネームレスは気づく。NIKUにとっての空気王は、自分にとってのPrince of Killerと同じ存在。
すなわち、他ロワ書き手としての自分の姿だ。
「……謝るのはこちらの方です。本当に申し訳ない」
「なぜあなたが謝るのですか? もう一人の僕が死んだことに、あなたは何の責任も負っていないはずです」
「いえ、たった今支給品で確認しました。空気王氏を殺したのは……オールロワの僕です」
「……そうですか」
ネームレスの告白に対し、NIKUは短く言い放った。
「憎くないんですか、自分の分身を殺した僕が」
「元が同じ書き手でも、分裂してしまえば別人格。他でもない書き手ロワの書き手であるあなたなら、よくわかっているでしょう?
あなたを憎むのは筋違いもいいところです。空気王もそう思っていることでしょう。
ただまあ、殺した本人であるPrince of Killerが憎くないといえば嘘になりますね。
ですが……」
「ですが……何ですか?」
「正義超人の教えにこんな物があります。『いかなる戦争においても自分のために戦うな。人々のために戦え』。
僕もいちおう、正義超人を名乗る者。私怨で戦うことは許されません」
「なるほど……。どこまでも正義を貫くのが、あなたの信念ですか」
「僕の正義なんて、たいしたものではないかもしれませんけどね」
そう言うと、NIKUはどこか寂しげに笑う。
それはパロロワという不謹慎な物語を書いておきながら、正義を名乗ることに対する自虐なのだとネームレスには感じられた。
「まあ、私情を押さえて戦うことと、マーダーを退治することは矛盾しません。
どうでしょう、ネームレス氏。一緒に戦いませんか?」
「それはつまり、二人でPrince of Killerを倒そう。そういうことですね」
「ええ、そのとおりです」
抵抗はある。何せ、相手は自分自身なのだ。だが、それでも彼女の行った行為は許せない。
「もちろんです。共に戦おうじゃありませんか」
「では改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人の古泉が、がっちりと握手を交わす。
「さてと……。とりあえずは、彼女を埋葬してあげましょうか。さすがに、自分の死体が野ざらしになっているのは気分が悪いですしね」
「待ってください。それなら、少し試しておきたいことがあるんです」
NIKUを制止すると、ネームレスは空気王の亡骸の上に手を置いた。
「何を?」
「まあ、見ていてください。『意思×支給品=影丸』」
ネームレスが呟くと、空気王の遺体は光に包まれた。そして、みるみるうちに縮小していく。
光が消えた時、そこには機械的な外見を持つコウモリがいた。
「キバットバット3世ですか……。空気王氏が登場させ、僕が破壊したアイテム。
僕が空気王氏から作り出すアイテムとしては、妥当なところかもしれません」
「ですが……。動きませんね?」
NIKUの疑問はもっともだ。本来のキバットなら、そこら中を飛び回ったりやかましく喋りまくったりするはずである。
しかしたった今作り出されたキバットは、飛びも喋りもせずただそこにいた。
「僕の力では、魂まで宿らせることはできなかったようです……」
切なげに呟きながら、ネームレスはキバットを自分のポケットにしまい込む。
「変身アイテムとしての機能は問題ないはずですが……。たしか書き手ロワ2nd設定では『杉田の力』を持つ人しか使えなかったはずです。
もっとも原作設定だとしても、普通の人間には使えないんですが。
一般人が使えるとしたら、Chain-情がオーガギアを使ったように死に際補正でもかかった時限定でしょうね」
「残念な話ですが、戦力としては微妙ですか……」
「そういうことになってしまいますね。ですが、この際有用性はあまり重要ではありません。
空気王氏の形見として残るものがある、これが一番重要なことなのです」
「ですね」
二人は、共にうなずき合う。
「それでは、そろそろ行きましょうか」
「了解しました」
そして彼らは歩き出す。前へ足を進めながら、ネームレスはふいに呟いた。
「覚悟していてください、Prince of Killer。あなたは……『俺』が殺す」
その言霊に、深い憎しみを乗せて。
「だから、それはむしろ僕のキャラだと……」
「ははは、失礼しました」
こうして、二人の復讐劇は幕を開けた。
果たして彼らの復讐は果たされるのか、それとも志半ばで閉幕となるのか。
それは、誰にもわからない。
【一日目 朝/ガーデンエリア】
【再結成! ダブル古泉】
【古泉ネームレス@書き手ロワ2nd】
【状態】健康
【装備】クラールヴィント@書き手ロワ2nd、バリアジャケット(機動六課の制服・男性用)
【道具】支給品一式、浄玻璃の鏡(あと2回使用可能)@LSロワ、キバットバット3世@書き手ロワ2nd、不明支給品0~1
【思考】基本:対主催
1:Prince of Killerを倒し、空気王の仇を討つ
2:ロニーさんと合流
※外見は古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱です
【29NIKUマニア@
kskロワ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、牛丼一週間分(14/21)@書き手ロワ2nd、たこルカ@
ニコロワβ、カリバーン@アニ2、不明支給品0~2
【思考】基本:正義超人として主催者打倒!
1:Prince of Killerを倒す。
2:ロニーさんと合流する。
※外見は古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱、身体能力はキン肉万太郎@キン肉マンⅡ世です
※リオとサンヨ@
戦隊ロワの技が使えるようになりました
※たこルカは牛丼音頭、BRAVE PHOENIXをマスターしました
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年06月19日 21:38