走る(すべる)見事に(ころぶ)

 さらさらと流れる川の音。
 静かに流れるその水は、雄大に広がる長良川。
 東海の大自然の代表格・木曽三川の一翼を担う、とにかく巨大な大河川だ。
 ふと頭上へと視線を向ければ、満天の星空が広がっていた。

「いやぁ、絶景かな絶景かな」

 ぽつり、と響いた声が1つ。
 見れば川にかけられた橋に、1人の少女が佇んでいた。

「……まぁ、ここが殺し合いの場じゃなかったらの話だけど」

 ふぅ、とため息をつく。
 無限に広がる星の海、圧倒的な自然の水流。もしも平時に見られたものなら、感動もひとしおだっただろう。
 しかし、今この状況は普通でない。
 この長大な橋の上を、一台も車が通らないのが異常の証。

「むー……まさか、あたし自身がバトロワに参加させられることになるなんてなぁ」

 少女の名はルル×スバラバーズ――それもインターネットの掲示板の、他愛のない語らいから生まれた通称だ。
 誰が名付けたのかも分からない。もちろん、自分で名乗ったわけではない。
 ともあれこの場においては、それが彼女を指す名前だった。
 ルル×スバラバーズとしての彼女の身分は、パロロワ企画に参加する書き手である。
 漫画、アニメ、特撮に小説。数多のジャンルの作品からキャラを集め、互いにしのぎを削らせる殺し合い。
 生き残りを賭けたサバイバルを描く、バトルロワイアル形式のリレー小説企画――それがパロロワというもの。
 彼女はその中でも、リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルという、一風変わった企画に参加していた。
 テレビアニメ・魔法少女リリカルなのはシリーズ。
 そのクロスオーバーSSという、言わば素人の二次創作から、参加者を集め立ち上げられたもの。

「にしても……」

 ひょい、と。
 身軽な動作で身を乗り出し、月夜に照らされた水面を凝視。
 そこに映し出されたのは、今のルル×スバラバーズの姿だ。
 まず最初に、目を引くのはその衣装。
 漆黒のロングコートを纏った、全身黒ずくめの風貌。
 鋼の肩当てが月明を反射し、素肌に羽織ったコートの胸元は、大胆にへそほどの位置まではだけられている。
 クロスするベルトに押さえつけられた、豊かなバストが印象的だ。
 さながら宇宙の闇を切り裂き、仕立て上げたかのような衣服は、片翼の天使と謳われたある男の服装である。
 続いて、その背に伝う後ろ髪。
 黄色いリボンで結ばれたそれは、さながら犬か狐の尻尾か。
 腰ほどの長さのその髪は、冷たき機械の身体を持った、戦闘機人の砲撃手の特徴。
 そして、その顔は。
 晴天のごとき青色の髪に、エメラルドを彷彿とさせる瞳は。

「あたし自身がスバルになっちゃうなんてなぁ」

 時空管理局機動六課の若きフロントアタッカー――スバル・ナカジマの顔だった。

 彼女を指す名前は1つではない。むしろこの場での名前よりも、もう1つのそれの方が有名であろう。
 パロロワ書き手、ルル×スバラバーズ。またの名を――“反目のスバル”。
 あるリリカルなのはのSS投稿スレッドで、数々の作品の連載を持っていたネット作家である。
 彼女もまた、自らのロワへとキャラを提供した、素人の一人だったのだ。
 ちなみに彼女は少し前に、ある事情でそのSSスレを離れている。
 現在は自分のサイトを立ち上げ、細々と作品を更新する日々を送っていた。

「バトロワじゃなかったら、大満足だったんだけど」

 むにっと頬をつまんでみる。
 柔らかい。マシュマロみたい。
 ああ、やっぱり実物は可愛いなぁ。
 大体そんな感想が浮かぶ。
 数多くのリリカルなのはキャラの中でも、彼女は特にスバルを気に入っていた。
 現に異名の由来にもなっている「反目のスバル」はスバルが主役の作品だし、その後の作品でもスバルをよく活躍させている。
 絵に描いたり、ロワでも書いたり、他人の書いた可愛いスバルに萌えたり。 
 彼女のスバル愛はスレにおいて、様々な形で知れ渡っている事実。
 そうしたスバルへの入れ込みぶりが、今の彼女の容姿を象ったのだろうか。

「服はセフィロス、後ろ髪はディエチ……これ、あたしがよくロワで書いてたキャラだよねぇ」

 くるりくるりと身をよじり、自分の容姿を確認する。
 セフィロスは己が連載SSの主人公。ディエチは好んで書き続けたキャラクター。
 どうやらこのバトルロワイアルにおける参加者の容姿は、元の世界での執筆傾向に左右されるようだ。
 そういえばスバルのことも、自分はよく書いている。

「……さて、と。そろそろ支給品を確認しないと」

 容姿のことが分かったところで、しゃがんでデイパックの口を開ける。
 自分の身を守るため、支給品の確認は抜かりなく。バトロワにおける基礎中の基礎だ。
 そして鞄の中のアイテムの中でも、一際彼女の目を引いたのは、

「おおーっ! ウィルナイフだー!」

 緑色に輝く、1本のナイフだった。
 ルル×スバラバーズの愛するロボットアニメ、勇者王ガオガイガー。
 その主人公・獅子王凱が、生身で戦う時に扱う勇者の武器。
 加えて言うなら、あのなのはロワにおいて、自分が書いたSSにも出したことのあるアイテムである。

「えへへー……がががっ、がががっ、がーおがいがーっ♪」

 そのウィルナイフが支給されたのだ。否応なしにテンションは上がった。
 主題歌の歌詞を口ずさむ声。このルル×スバラバーズ、ノリノリである。

「……っと、いけないいけない。早いとこ行動しないと」

 と、そこでようやく我に返り、デイパックを背中へ担ぐと、彼女はすっと立ち上がる。
 この殺し合いの場において、彼女が選ぶ行動は。

「よぅし! 愛と勇気と熱血パワーで、この殺し合いを止めてみせるぞー!」

 言いながら、一直線に駆け出した。
 彼女の好む展開は熱血。鬱や繋ぎもこなす傍ら、「バトルが書きたい」と嘆いたこともあった。
 現に彼女の連載の大半は、王道熱血バトルモノで占められている。そんなルル×スバラバーズが、殺し合いになど乗るはずがない。
 そして同時に、彼女には速筆という特徴があった。
 思い立ったが吉日。目標目掛けて一直線。いつもいつでも全速力で。
 彼女がスバルを好きなのは、波長が合っているからなのかもしれない。
 さながら本物の若きストライカーのように。反目のスバルの名が指し示すように。
 主催に反目しこの殺し合いを止めるため、ルル×スバラバーズは大地を蹴った。













 ところで、彼女の特徴は、何も熱血好きと速筆だけではない。
 行動の早いルル×スバラバーズは、よく修正を要求されるドジっこでもあった。

「……あだっ!」

 橋を渡りきったその場所で、派手にすっ転ぶルル×スバラバーズ。
 そして、ここからが第二のドジ。
 彼女の失念していたこと――ルル×スバとは、すなわちルルーシュ×スバルの略称。

「……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……あ゛ー、苦しい……」

 彼女の身体を構成しているのが、スバルとディエチとセフィロスの要素だけではなかったことに、今の今まで気付かなかったのである。



【一日目 深夜/岐阜県 長良川川辺】

【ルル×スバラバーズ◆9L.gxDzakI@なのはロワ】
【服装】セフィロスの服(黒いロングコートに黒いズボン。胸元が大きく開いている)
【状態】疲労(小)
【装備】ウィルナイフ@勇者王ガオガイガー
【持ち物】デイパック、基本支給品、ランダム支給品0~2
【思考】
 基本:とにかく熱血対主催!
 1.はぅ……疲れた……
 2.いるとしたら、同じなのはロワの書き手を捜す
【備考】
 ※外見はスバル@なのはStSの身体、ディエチ@なのはStSの後ろ髪とリボン、セフィロス@FFⅦの服装です。
 ※正確な運動能力は不明ですが、少なくともスタミナはルルーシュ@コードギアス並です。

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ルル×スバラバーズ 047:ぶっちゃけステルスマーダーって対主催みたいなもんじゃね?

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最終更新:2009年03月26日 14:58
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