夜。都市部にしては乾いた風に、鮮やかな布が揺れた。
闇に黄をにじませる街灯の色は、直下に立つ男の衣装を彩るそれとよく似ている。
鳥と太陽の意匠が凝らされたマントに、頭頂部から円錐形の尖りをのぞかせる帽子。布に埋もれて素顔は知れぬが、子供が身につけるような緑と黄色、生地に十分な遊びをもたせた衣装が与える印象は、道化。
鍵盤を並べた楽器を手にしていることで、はじめて詩人か何かとあたりがつく程度だ。
「星明かり。星が星たる心が街の灯に霞む……か。
自分で登場話を書いておいてなんだが、奴には及ばんな。あの男は、もっと突き抜けていく」
伝承が無いなら“つき~のあかり~”とでもがなりたてて、無理矢理に同行するのが奴だ。
顔の見えない“奴”=詩人の姿をした
サガロワ書き手。
◆FzZ4PxBZ76:
猛撃のエーデルリッターは、低い声でひとりごちた。
その響きが、外見の印象を覆す。低いがよくとおる声。それだけならば詩人に似合いだが――
「内部電源・補助電源、ともに異常無し。機能はすべてグリーンか。
私が書ききった彼からは考えがたいコンディションだが、これも主催者のサガだろう」
己の性能を確認するかのようにつぶやく響きは、閑散とした街路のように無機質だ。
加えて、動きを阻害するマントを背中へと捌いた彼の指は金属質な輝きを放っている。
刹那、機械の体を持つ男はよどみなく行動した。蹴り脚が三日月の形に地を擦り、横溢した闘気が天を割り裂いてゆく。
それはムーンスクレイパー。悪の組織・ブラッククロスに作られたヒーローの影が得意とする広域攻撃であり、戦闘の描写に長けるFz自身が作中の大乱戦で描写した技だ。
目の前にあった自動ドアを警備のセンサーごと破壊した彼は、無駄のない動作へ満足げに息をつく。
場所は鳥取県庁前からほど近い、田舎じみて小さなバス停の示す建物。
戦士は様々な資料のあるだろう県立図書館を頭から無視して、隣のホールへ入っていった。
ムーンスクレイパーから逃れ得たコンサートの看板によれば、その建物は鳥取市・鳥取県民文化会館。
県が誇れそ……失礼。県が誇る名産品から、梨花ホールとも呼ばれる場所であった。
* * *
流石に、公共施設の地図は親切極まりなかった。
目的とした部屋、コンサートホールにはすぐにたどり着ける。
存在感溢れるグランドピアノに備えられた椅子にかけて、男は思索にふけっていた。
『24作。登場話、繋ぎ、考察、バトル。燃えに鬱。詩人から小物まで書いてきたが……私の芯は、武人か』
これまでに己が生み出した物語を回顧しながら、金属の手を音もなく握り締める。
確かに、生きざまを貫くために死んでゆく者の描写は、書くうちに愛着も沸いていた。
加えて、ロワに参加した読み手とも言うべき詩人にかけた閃きと熱情は言うに及ばない。
ある意味では彼自身、詩人となって神の見えざる手を読んできたのだから――
「だが、奴は読めんな」
書き手として、“彼”は今、自分と数の面で肩を並べた。
それがメカの機能とそぐわぬ実感として、詩人の部分を宿した精神へ伝わってくる。
◆69O5T4KG1c:遊撃のハートシーカー。放送以降の投下率は5割に達する、サガのトップタイ書き手。
仮にもサガロワの同率トップであるのなら、自分が呼ばれて69がいない可能性は低いと言えよう。
しかし、相手のデータを参照した先輩格の男は、諦めまじりにかぶりを振った。
――奴は、時間合わせの繋ぎから始め、速い筆速で放送を手がけていった。
リレーのコツを掴んだらしい7作目で、初めて明らかな死亡フラグを繋いでバトルを書いた。
14作目、20作目に至っては、他の書き手が戦闘以外に書かなかった一話複数死亡も手がけている。
得意と評された……いや。現存する書き手≒読み手数からして、自ら得意分野と評したのだろう考察や、時に残酷なキャラの掘り下げ、補完。一気に状況を動かす腕は、それなりの形をなしている。
また、SSの投下に加えて挿絵支援、迅速なwiki編集――
総評するなら、後輩書き手はそつがない。少なくともデータの上では。
だが、こうした情報の群れは、Fzが普段感じる相手への印象とことごとく乖離していた。
『奴は、出来ることは何でもやる。やろうとする。
だからこそ燃えにも鬱にも振り切れず……ほぼいつも、レスに謝りの言葉を添えていた。
まるで、同じロワで物語をつむぐ自分達に見捨てられることを恐れるかのように。
あるいは、自分達が69という書き手を信頼しないと信じているかのようにだ』
そのくせ、耳触りも口当たりも良い言葉を豊富に持ち合わせる点が、また読めなかった。
丁寧な態度で一線を引きつつ、その反面で大胆に、貪欲に集団を拾う、奴は決して素顔を、核を見せない。
カタリナ。騎士の仮面を壊されたくないがために奉仕マーダーとなった、自ロワの殺害数トップのようにだ!
「危険、極まりないな」
実際、69の書く奉仕マーダーは、彼の作品では珍しく迷いが無い。
といって、自分やサガロワが奉仕の対象になるかと言えば、断言も出来ないのだ。
身内にとんでもない爆弾を抱えていることに気付いたFzは、肩をすくめながら――
『……そうか』
幻のような頭痛を消せる考えにたどり着いた。
確かに、遊撃のハートシーカー。◆69O5T4KG1cは危険な輩だ。
相手がここに存在する可能性が少しでもあるのなら、それは認識すべき事実である。
だが、危険だからといって捨て置くのは、自らの肉体をなすメタルアルカイザーが何より重んじた“もののふの心”に反するだけではなく、精神の一部に巣食ってやまない詩人の、詩作に向かう意欲さえ否定してしまう。
『69。お前ではない私は、決して謝らんぞ。
何よりも再現したい詩人の精神構造を、演奏と詩作のセンスを、この機会につかみとってみせる。
いるかどうかも判らんお前を、物語の演出に使ってもだ。それこそが詩人の行動方針だっただろう?
そして、それを最後まで貫くのが、私の……お前が言う“エーデルリッター”の精神だ』
よい詩を作るために、ならば、最初に求めるべきは同行者だ。
詩人の十八番はフィドル……ヴァイオリンの一種だが、幸い、素晴らしい楽器に恵まれた。
その楽器とは、生来の資質に加えて“思い”がなければ弾きこなせないとの説明が添えられた、フォルテール。
戦士の顔をもつ詩人か、その逆か。◆FzZ4PxBZ76は強靭な思考を裏切るような柔和さで鍵盤に指を運ぶ。
ややあって、かすかな旋律が。色のない静寂へ、確かに反響した。
【1日目・深夜 鳥取県・東部/鳥取市・鳥取県民文化会館】
【◆FzZ4PxBZ76:猛撃のエーデルリッター】
【状態】健康
【装備】フォルテール@GR2
【持ち物】基本支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:詩人の心をつかむため、詩作に励む
1:フォルテール&他の参加者に興味。もののふの心を持つ者を探したい
2:◆69O5T4KG1cの存在を警戒するが、演出に使えるようなら利用する
※外見は詩人@ロマンシングサガ3。素顔はメタルアルカイザー@サガフロンティア1です。
※同ロワでの経験から、◆69O5T4KG1cの危険性をある程度読んでいます。
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最終更新:2009年03月21日 23:55