いしもちしせつなさいご

「空に月。黄金に近い白の輝きを放つそれは、埼玉の地に立つ教会をほんのりと照らしていた。
 どうやら時刻は深夜らしかった。自ロワの始まりも深夜だったなあ、なんて、◆KYvXVVXDTEは感慨にふける。
 小さな教会の内装は、ずいぶんと質素なもの。古ぼけた長椅子が申し訳程度に並べられて、赤や青、黄に緑の色を付けられた光にその姿を暴かれている。
 光に色が付いているのは、教会の窓が全てステンドグラスで出来ているからだ。様々な色を持った月光が交錯する教会の中は、幻想的な雰囲気に満ちていた」

「突然何を言い出すんだ、教会の悪魔。あと、大体のロワは深夜から始まると思うが」

「何って、自分の登場話を考えているんだよ、ラビットクラッシャー兄ちゃん。
 ロワ行きの切符なんて、滅多に手に入れられるものじゃないでしょう? どうせなら最高の登場話で、僕の存在をアピールしようと思ってさ」

「ふん、こんな場所に連れてこられて喜んでいるというのか、お前は。勝手にしろ」

「な、なんだか恐いねラビクラ兄ちゃん。外見も自ロワの主催だし、やっぱり纏うオーラが違うみたいだね……にゃはは」

「ん? ほう、笑い方は椎名桜子なのだな」

「うん。基本の口調はチェスワフ・メイエル君に似てるみたいだけどね。
 名前の元になった話で殺した2人が口調になるなんて、皮肉が効いてるよ……と、教会の悪魔は自嘲する」

「いきなり文に戻るな、どこの妹達かと思ったぞ」

「あ、ごめんね。続けられそうだったから、つい。
 教会の悪魔はラビットクラッシャーにそう言うと、再び中を確認した。
 ステンドグラス、祭壇、長椅子、壁から天井に至るまで。まるで自分の想像した通りの内装がそこにはある。
 パロロワに来たのだ、という実感が、教会の悪魔の脳髄をごぽごぽと満たしていく」

「ごぽごぽ? その文は少しおかしくはないか」

「あ、そうかな? じゃあごぽごぽは消して――並々と、とか?
 まだおかしい気がする……うーん、語彙不足は深刻な問題だよね、ラビクラ兄ちゃん」

「………………」

「……どうしたの? 急に黙っちゃって」

「………………」

「なんか恐いよ、さっきとは別の方向で。ねぇ、続けていい?」

「――なあ、教会の悪魔」

「なぁに?」

「私は一つだけ、確認しておきたい。なぜお前の姿はそれなんだ?」

「…………嫌だな、急に」
「すまない。だが」

「それは僕の内面をスプーンでえぐるようなものだよ。出来れば触れないでほしかったなー、にゃははは」

「気になるものは、仕方ないだろう。
 なあ、なぜ、お前の外見は――“教会そのもの”なんだ? 教会の悪魔」

「…………」

「お前はもうオールロワで、カラオケボイス◆KV/CyGfoz6と同じ10作を書いている。
 書いたキャラは30人。なのに、なぜ書いたキャラにならなかった?
 自ら書いた帝@竹取物語でも、ロリ化させた高嶺響@カオスロワでも、この話で活躍させたL字ブロック@テトリスでも。候補はたくさんあったはずだ」

「ラビットクラッシャーのその言葉を機に、教会の中は、教会の悪魔の中は静まり返った。オールロワが書き手二人が揃っていながら、なんだか変わらぬその中を照らす月が色を、えっと」

「文に逃げないでくれないか」

「………………」

「意外性、新たな方向性として“喋る施設”は確かにそれなりのインパクトだ。
 だが、出オチではないか? 施設である以上お前は動けない。誰かが来るのを待つしかない。
 偶然か運命か私はここに入ってきたが、このままでは放置されるだけだろう。……その姿にお前がなったのには、他に理由があるんじゃないのか?」

「………………言って、いいのかな」

「聞こう」

「実はさ、僕」

「ふむ」

「キャラへの愛着ってやつが、ないんだよね」

「………………は?」

「キャラ愛・作品愛が無いのさ、圧倒的なまでに。
 アニメとか小説とか見て『楽しかったな』『これはすごいな』って思っても、どうしても好きにはなれないんだよね」

「ま、待て待て。ならお前がその姿になったのは、」

「そうだよ――僕が自ロワの、パロロワのキャラ全てに対して“どうでもいい”って思ってるからなんだ」

「な……!?」

「僕がアニメや漫画を見て得る感情は、賞賛でも感動でもないんだよ。羨望なんだ。
 ただ『自分もこんな話が書きたいな』って思うだけでさ。恨み妬みこそすれ、愛しはしないんだ。
 元々、好きな漫画や小説を買うほど裕福じゃなくてね。CDやDVDも一枚も買った事がない。
 『好きになったものに金を使うなら、自分で作ったものを好きになって節約しよう』なんて下らない考えをガキの頃に持っちゃった結果がこれだよ」

「……だから、オールロワなのか。把握せずともある程度許され、かなりのオリジナル展開を作ることが出来、ほとんどのキャラを平等に扱える。
 お前のような書き手に取っては、天国だろうな」

「察しがいいね、ラビクラ兄ちゃん。まあ、パロロワに嵌って色んな作品に触れて、最近少しは改善されてきたんだけどさ。
 “作品を素直に楽しめない”ってのは、書き手である以上避けられない。それって、悲しいよね」

「まあな。オール書き手らしくないシリアスな話になってるが」

「にゃはは、確かに……らきロワでもシリアスしてるとは聞くけどね、うちからの参加者。
 ねぇ、ラビクラ兄ちゃん。この際だから一つ、お願いがあるんだけど。聞いてくれるかな?」

「何だ? 食堂車はないから皆殺しは出来んぞ」

「えっと、ね。――君の持ってる“忘却の力”で、僕からメタ視点【◆KYvXVVXDTEは書き手である】を奪ってくれないかな?」

「…………な」

「メタ視点に囚われてあれもこれも出来なくなるのが、嫌なんだ。
 僕はこの物語を、作り手じゃなく参加者として楽しみたい。そうすることで見えてくるものが、あるような気がするんだ」

「……何故分かる? 私が忘却の力を持っている、と」

「だって、ラビクラ兄ちゃんの状態表が僕には見えてるもの」


【1日目 深夜/埼玉県 古びた教会内】

【ラビットクラッシャー@オールロワ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品0~3
【思考】
■■■■■■
■■■■■■■■
■■■■■■■
【備考】
※吉業ひとみの忘却の力が使えます。技や記憶を忘れさせられますが、体力が大幅に減るので連発はできません。

「ラビクラ兄ちゃんは僕の中にいるからね。大体のことは分かっちゃうんだよ。思考欄までは読めないんだけど」

「そういうことか。……まあ、読めてもお前には何も出来ないから、大した意味は持たないんだろうが」

「そういうこと。それで、どうかな? 消してくれる?」

「消すのは、別に構わないのだがな……」

「だけど、何?」

「それは書き手である自分から逃げてるだけなのではないか、と思うのだ」

「はい?」

「…………私が書いた鈴木万吉は、自分が登場人物に過ぎないと知っても尚、画面の向こうにいた私達に喧嘩を売ってきただろう?」

「ああ、あれは恐かったよ。でもそれとこれとは話が別だと思うな」

「いいや、同じだ。自分がどうしようもなくメタ視点に支配されてると分かって、それでもあいつは逃げなかった。
 だが、お前は逃げる気だ。“書き手だから作品を素直に楽しめない”と決めつけて逃げようとしている」

「……」

「メタ視点を持ってたら、何だというんだ?
 マニュアル通りに行動すれば生き残れるなら、原作バトロワの生徒らはみんなこぞってメタ視点を手に入れようとしてたんじゃないのか」

「屁理屈だよ」

「そうかもしれない。だが、私は諦めたくないのだ。
 “メタ視点に縛られない”という目標は、メタ視点を捨てずとも出来ると証明したい」

「つまり、死亡フラグを気にしないとかだろう? そのスタンスは2ndで」

「出ているか? 果たして本当に?
 自分が登場人物だと知らされた後でも、画面の向こうのことを少しも考えずに行動していた書き手が?」

「…………」

「少なくとも、最終戦時にはいなかった。
 対主催側はあの時点での“私達”のために死を覚悟していた。
 主催側――666もまた、現実世界の666を殺そうとしていたらしいじゃないか。
 あの場所に“主催がバトロワを開始したこと”を憎んでいる対主催は存在しなかったはずだ。バトロワが開かれなければ、そもそも彼らは存在しえなかったのだから」

「だからラビクラ兄ちゃんは……“本当の対主催”になる、と」

「そういうことだ」

「………………」

「お前は、どうするんだ、教会の悪魔? 全て忘れて舞台装置になり下がるのか、私と共に本当の対主催になるか」

「………………」

「決められないのなら、それでもいい。私に至っては外見すら曖昧だからな。
 ラビットクラッシャーの名の通り、ウサギはどうしても壊してしまうだろうが、それ以外では本当の対主催に――」

「…………ごめん、やっぱり、無理だ」

「む?」

「もう一つの道と意見をぶつけ合ってみたけど、面倒になっちゃった、僕。
 もう自演は疲れたんだ、ラビクラ兄ちゃん。さっさと忘却の力を使って、舞台装置にでもなるとするよ」




――――――ここまで、教会の悪魔による自演――――――





「……あ、れ? ちょ、なんで僕、施設? なにこれ、ちょっ、どうなってるの?」

 教会の悪魔◆KYvXVVXDTEの異能『教会の悪魔』は、教会……自らの中に入ってきた参加者に取り憑く能力である。
 ラビットクラッシャーの状態表を見れたのも、思考欄が見れなかったのもなんのことはない、
 この取り憑く能力でラビットクラッシャーの体を借りていたから出来たことに他ならない。
 しかしその能力を、教会の悪魔が戯言をぶつけ合うために使うことはもう無いだろう。

「あ、祭壇のとこになにか書いてある……“しばらく経つとこの教会の中に旅の扉が開きます”?
 なんのことだろう。っていうか、僕はそもそも――誰だっけ?
 それになぜか、無償に本が読みたい気がする……ああもう、どうなってるんだよ!」


 教会の悪魔は既に、パロロワに関する知識を全て失ってしまったのだから。


【1日目 深夜/埼玉県】

【教会の悪魔@オールロワ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品0~3
【思考】
1:ここはどこ?僕は誰?
2:旅の扉ってなに?
3:なんか本とか読みたい
【備考】
※外見はオールロワMAP「古びた教会」、口調はチェスワフ・メイエル+にゃははです。
※能力『教会の悪魔』で教会内に入った参加者一名に取り憑けます。
※パロロワに関する知識を全て失いました。もはや変な能力が使えるだけの喋る教会です。


「くそ、結局ずっと奴に体をのっとられ、台本を読まされていただけだったぞ……」

 教会外。くたびれた様子のラビットクラッシャー◆rc417qeK9oは、教会の壁によりかかって愚痴を吐いていた。
 のっとられてる間も薄く意識は残っていたから、余計辛い。いったい、どれだけ時間を無駄にしたのか。

「と言うか、俺の外見はキングハートじゃないぞ……ウサギに止めを刺したのはヤムチャだ。
 だから俺の姿も、ヤムチャに決まってるだろうが」

 どうにかして教会の悪魔に仕返ししたいが、一人ではまたのっとられて終わり。
 仕方がない、ウサギを刈りつつ、都合が悪くなったら忘却の力を使って、仲間を集めるか。
 ラビットクラッシャーはそこまでを数秒で考えると、無理矢理起き上がって歩き出した。

(……本当の対主催、ねぇ。奴が俺に言わせたってのは腹が立つが、少し参考にさせてもらうか。
 要は“物語の完成度より勝利を取れよ、これは殺し合いだぜ”ってこった。
 確かにその方が生き残れるだろうし、オールのヤムチャは残忍な優勝狙いのキャラ。
 俺がそれに倣っても、何ら間違いはねーだろ?)


【1日目 深夜/埼玉県 古びた教会外】

【ラビットクラッシャー@オールロワ】
【状態】疲労(中)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品0~3
【思考】
1:物語の完成度より勝利を選ぶ
2:ウサギは刈る
3:仲間を“無理矢理でも”集めて教会の悪魔に仕返しする
【備考】
※外見はヤムチャ(初期ドラゴンボール)です。
※吉業ひとみの忘却の力が使えます。技や記憶を忘れさせられますが、体力が大幅に減るので連発はできません。命と引き替えにも使えます。

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ラビットクラッシャー Gate of Royale ALTERNATIVE
教会の悪魔 そして教会はなくなった

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最終更新:2009年03月23日 20:22
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