真夜中のビル街の中。
その開けた一角に広がる、寂れた公園にて。
藤原肇の姿をした心奥の使者Pは、ただ、石像のように立ち尽くしていた。
彼女の目の前に転がるのは、かつて女性と呼ばれていたもの。
モバマスロワの主催者、千川ちひろの死体。
いや、正しくは、千川ちひろの姿をした誰かの死体。
その、何者にも染まらぬ魂の抜け殻。
恋色アイドルPの亡骸を前にして、心奥の使者Pは――
「そうなのですね。貴女は、貴女は自分から死を選んだんですね」
淋しげな笑みを浮かべた。
恋色アイドルPが自殺に使った凶器は、既にカウントガールズPに持ち去られていた。
その彼女も去り、ここには遺体しか遺されていない以上、心奥の使者Pに、何があったのか、正確に計り知ることはできない。
でも、他殺であれ、間接的なものであれ、恋色アイドルPは、“死を選んだ”のだと心奥の使者Pには思えた。
だって、女性の顔は、あまりにも空虚で、無表情で。
何かをやり遂げた達成感も、生きようと足掻く生命の輝きも、死に恐怖し下手人を憎む激情も、何一つ感じることができなかったから。
ここには、何もなかった。
恋色アイドルPの死体だけで、何一つ、想いが遺されていなかった。
(ああ……)
心奥の使者Pの心に、納得という名の感情がすとんと落ちた。
それは余りにも恋色アイドルPらしいというふうに思えたから。
(貴女は、どこまでもモバマスロワの>>1なんですね)
恋色アイドルPにとって、書き手ロワなんてどうでもよかったのだろう。
他ロワの書き手も、他ロワの読み手も、自ロワのファンも、自ロワの書き手さえも、どうでもよかった。
この人はモバマスロワの>>1だから。俺ロワの>>1だから。
もとより、誰に頼るでもなく、読まれることも求めず、自分独りで大好きなアイドルたちの物語を書ききり、完結されようとしていた人だったから。
恋色アイドルPは完璧な書き手だった。完成された器だった。一人で独りのモバマスロワの>>1だった
結果的には、モバマスロワには多くの書き手と読み手が集まってきたけれど。
きっと、その誰もが去って尚、この人は、独り、物語を書きるのだろう。
(なんだか、藍子さんみたいですね)
高森藍子。
恋色アイドルPが特に手塩にかけてプロデュースしていたアイドル。
真っ直ぐに、愚かしいほどに。
強すぎて、眩しすぎるほどに。
アイドルであろうとしているのではなく、アイドルな少女。
アイドル過ぎるアイドル。アイドル以上でもアイドル以下でもなく、アイドルでしかない少女。
そんな、藍子にそっくりだと言うのなら。
この人が“死を選んだ”のまた強さ。
モバマスロワの本編でだけ語ることを、本編を完成させることだけに、全てを注ごうという強さ。
恋色アイドルPの、孤高のすゝめ
(だったら、ふふっ、仕方ないですね)
執筆スタイルは人それぞれ。陶器のねり方だって十人十色。
だから、そう。悲しいことではあるのだけれど。
(私はこの人を見送ろう)
恋色アイドルPを。彼女が選んだ道を。笑って、送り出そう。
それくらいはさせてくれてもいいじゃないか。
何も遺さず、何一つ受け取ることなく逝ってしまった人だけど。
せめて、おせっかいくらいは焼かせて欲しい。
「知ってますよね、貴女なら。子は親に似るものなんです。あなたが藍子に似ているように。私だって肇ちゃんに似ているんです。
だから、貴女が何を想おうと、頑固一徹、私は私を貫かせてもらいます」
心奥の使者Pは恋色アイドルPへと歩み寄っていた。
彼女の抱く“強さ”への畏れはなかった。
孤高の花である彼女に、それでも同じロワの書き手として、今なにが出来るだろう。その思いだけがあった。
何かがしたい。何かを、しなければならない。
自分が、自分らしく、為すべきこと。
心は、決まっていた。
「恋色アイドルPさん」
心奥の使者Pは、恋色アイドルPの亡骸に語りかけた。
返事はあるはずもない。それでも続ける。
今必要なのは、彼女への意思表明と同時に、自分の心への誓いだった。
「貴女には興味ないことだと分かってます。私が何をしようとも、あ、はい、そうですかって、気にもとめないことでしょう。
だからきっと、私が今からしようとしていることは余計なお世話です。
それでも私は、やっぱり思ってしまうんです」
彼女、自分なのだと。もうひとりの自分なんだと。
彼女だけではない。たぶん、この書き手ロワにいる全員が。
それどころか、これまでパロロワに携わった住民たち、誰もがもうひとりの自分なのだと。
(同じ夢に憧れ、そうありたいと願い、そして目指した。私達は同じ土から生まれた器なんだ……)
心奥の使者Pは、今この時、[夢の使者]でありたいと思った。
それが自分と恋色アイドルPたちで描いた、アイドル・藤原肇の姿だったから。
一人の書き手としてこの現実に向かい立つための、自分らしい形だから。
「私はこの先も、この書き手ロワで死んでしまった書き手たちを弔って行こうと思います」
この身はただの少女のそれだけど。特殊な力なんて一切ないけれど。
そんな自分にも、誰かを弔い、埋葬することはできるから。
彼ら彼女らの物語を読み、感じ、そんな書き手がいたことを覚えておくことはできるから。
魔改造されてチートな力で対主催をしたりするよりは、ずっと、ずっと、モバマスロワ書き手らしい。
「またいつか、恋色アイドルPさん。私が私として貴女と出会えることはもうないかもしれません。……だけど、忘れません」
心奥の使者Pは、時間を欠けて恋色アイドルPを埋葬すると、感傷を振り切るように一歩を踏み出す。
決して足取りは軽くなかったが、その一歩には意志の力があった。
大丈夫だ。歩いていける。前に進んでいける。
その事実に僅かに安堵し、しかしその緩みを戒めるように心奥の使者Pは大きく深呼吸した。
「気取らず、気負わず、モバマスロワ書き手としての私らしく……心奥の使者P、参ります!」
そして彼女は、決然と前を向く。
【一日目・深夜(黎明直前)/A-4】
【心奥の使者P(◆n7eWlyBA4w) 】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】基本:[夢の使者]でありたい
1:書き手ロワで死んでいった書き手たちを弔い、埋葬して歩く。
※外見設定は藤原肇@アイドルマスターシンデレラガールズです。
※恋色アイドルPの死体はA-4のどこかにきちんと埋葬されました。
最終更新:2013年06月08日 19:53