提督×那珂7-246

253 :246:2014/02/02(日) 18:45:01.24 ID:rTJJ09XO
『深海棲艦』と呼ばれる謎の幽霊船団と人類との開戦からおよそ一年が経過した、皇紀2602年。

精強な帝国海軍による度重なる撃沈戦果にも関わらず、次々と海底から甦る屍鬼共が相手では打つ手無し、人類はやがて破局に向かうかと思われたそのとき。
姿を顕し始めた軍艦の守護神――『艦娘』たちの加護が戦局を覆しはじめた。
彼女らの現れた艦は連戦連勝、乗組員たちは自分の乗る艦に『艦娘』が顕現するのを今日か明日かと心待ちにしていた。

これはこんな時代に生きた一人の艦長と、その艦娘の物語である。



「…おい、いま艦長なんかニヤニヤしてなかったか?」
「女の事でも考えてたかな」
「そりゃねーよ、あのお固い青年将校サマが。また昇進でも決まったんじゃね」

南方海域への艦隊行動中、時刻はヒトナナサンマル。
波濤に揺れる狭い軽巡の艦内通路、敬礼ですれ違った兵士たちの戯れ言が背後から追いかけてきた。これほど反響する場所では小声も筒抜けだ。
いつもなら叱責のうえ便所掃除でも言い渡すところだが、今回は特別の慈悲をもって聞かなかったことにしておく。
――そもそも、その予想は大きく外れてもいない。

(あれが噂の『艦娘』か…)
たった今、初めて実物を見てきた。
あの奇妙な女提督の元に集った戦艦『長門』、空母『加賀』、いずれも凛々しく知的で美しく礼儀正しく、まさに帝国海軍の艦船の化身に相応しい偉容だった。

――さて。長らく苦楽を共にした当艦の『艦娘』はどのような者が現れるのか。艦長である以上、当然気になる。
見た目など美しくなくてもいい。聡く、礼儀正しく、いざというときには作戦や指揮を補佐できる能力があり、
良き相談相手として常に傍らにいてくれればそれだけで戦場の空気は大きく変わるだろう。
そのうち共に酒でも酌み交わし――いやいや、公私の区別はきちんとつけなければな――。
思わず緩む口許を意識して引き締めつつ、艦長室のノブに手を掛ける。

さあ、どんな姿で現れる。
我が愛艦『那珂』。

ドアを引き入室した、その瞬間――

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!よっろしくぅ!!」
「うおッ!?」
痛って!!腰が!ドアノブに!!

「な、なんだお前は!どこから入った!?」
目の前で唐突に奇声を上げたのはおよそ軍艦には不釣り合いな、奇妙な服を着た若い女。

「どこからも何も!ここが那珂ちゃんで、私が艦娘の那珂ちゃんだよー!昭和平成そしてこの皇紀の世界へと、時空を超えた那珂ちゃんワールドツアーも三拠点目!
さぁ張り切っていくよー!準備はいーかなー!?」
ぱたぱたと動き回りながら叫ぶ謎の娘。なにかこんな動物が居た気がするが思い出せない。いやそんなことより聞き捨てられないコトを今さらりと言った。

「ちょ、ちょっと待て!『艦娘』?!お前が?!」
「そーだよー!みんなのアイドル那珂ちゃんでーす!でも今夜だけは一人の普通の女の子なの!え、なぜかって?」
いや、聞いてない!なんだそのポーズは!

「なぜなら艦娘と愛の契りを交わしたとき、その加護の効果は何倍にもパワーアップするという寸法なのです!こんなステキなプロデューサーさんで那珂ちゃん感激ー!
異存なんてあるワケありません、那珂ちゃんの一番大切なものをあげちゃいます!じゅてーむ、ダーリン!」
「待て!離せ!俺はプロデューサーだかじゃない!」
「マネージャー?」
「横文字使うな!!大佐!艦長!!」
「あっ、でもでもこれは艦娘としての真剣なお役目の姿でもあるんだから、那珂ちゃんがホントはエッチで軽い子だとか勘違いしちゃダメなんだからね??
おおっとそのまえにご挨拶の一曲目!戦争なんてくだらねぇぜ、那珂ちゃんの歌を聴けー!」
「お前が俺の話を聞けッ!!このバ艦娘ッ!!!!」
「心を込めて歌います、恋のニーヨンイチゅっ!」
俺は考えるより早く江田島仕込みの体落としで、目の前の不審者を艦長室の床に叩きつけていた。

「波が出てきましたね」
「ううぅ……シクシク……」

数分後、軍艦の夜間指揮所――羅針艦橋。日没直後の空と同色の海は、嵐の兆候を示していた。

「ただの時化ならどうということはない――が」
敵艦は夜間、悪天候でも出没するので油断はできない。
「那珂ちゃんは……那珂ちゃんはアイドルなのに…顔面から床に…ひどすぎる…」

「…あの、艦長?」
「何か。副長」
「さきほどから艦橋の隅っこで膝を抱えているあの娘は、もしかして我が艦の…」
「密航者だ。次の港で棄てていく」
遠慮がちに話し掛けてきた副長に、キッパリ疑問の余地なく応える。

「ひっどー!自分の艦から放り出される艦娘聞いたことないし!」
わざわざ立ち上がっての抗議の声は無視する。なんと言おうが、俺はお前を認めない。

「わーたしーはあーわれーな ばーかんむす~…
じーぶんのふーねかーら すーてられる~…」

「やかましい!口尖らせて歌うな!航海中に女の歌など縁起が悪いだろうが!!」
「なーんでよー!那珂ちゃんは艦娘のなかでも三番目か四番目くらいに歌が上手いんだぞー!」
一番じゃねぇのかよ!
「そんなことはどうでも良い!いいか、俺の艦で二度と歌うな。艦長命令だ」
「そんなの…あ、艦長立ったら危ない!なんかに掴まって!」

何?
と思った次の瞬間。

艦が、大きく左に傾いだ。

「な、なんだ?!」
「敵襲か?!」
ざわめく艦橋。思わずバランスを崩しかけたが、辛うじて指揮台に手が届き無様な転倒は免れた。艦体もすぐに轟音を放ちながら水平に戻る。
艦影は見えなかったが…まさか、潜水艦
「ううん、ただのおっきな横波だよ。この辺の海域は深海棲艦の影響を強く受けてるから、急にお天気悪くなることがあるんだ」
確かに、普通の海にはあり得ない不自然な波だった。バケモノ共の悪影響、そんなことが判るということは…

…非常に不本意だがやはり本物、こいつでファイナルアンサーということか。なんてことだ、さらば我が理想の艦娘……。
――だが今は、打ち砕かれた願望にショックを受けてる場合ではない。

「副長。念のため各部の整備点検と――」
「…っと、大変だー!ファンが那珂ちゃんを呼んでいるーー!」

唐突に艦娘・那珂が艦橋の外へと飛び出した。
くそっ、今の傾斜では予想される事態ではあったが…!

「那珂!どっちだ!」
「艦尾!」
「副長、機関緊急停止!探照灯と、短挺を艦尾へ!あと点呼だ!」
ぽかんとした顔の副長に指示を終わると同時に、俺は那珂を追って艦橋を飛び出していた。


全艦挙げてのクソ忙しい騒動も一段落し、後を副長に任せて自室に戻った俺はとりあえずズブ濡れの服を脱ぎ、軽く湯に当たって下着姿の半裸のまま寝台に腰掛けた。
夜服もまとわず、官給品のタオルで髪を拭く。

「けーそつー。艦長が一番最初に飛び込んじゃうなんて」
「それはもう副長に散々言われた。あと最初に飛び込んだのは俺じゃなくてお前だろう」
本来なら誰も居ないはずの室内、声のした方を見もせず答える。不本意ながら、慣れてきた。

艦から転落した兵を救うため、こいつは躊躇なく高波轟く海へと飛び込んだ。
『那珂ちゃんステージだーいぶ!』の声を伴った誇り高き後ろ姿とその後の見事な平泳ぎは、俺の脳裏に印象強く焼き付いた。

「で。なんでお前はここにいるんだ。しかもそんなはしたない格好で」
「…チャンスかな、と思って」

――そんな顔で、らしく無い事を言うな。

先ほどとは違う白基調に統一された、西洋のドレスのような華々しい服装。
白の膝上丈タイツにまるで大輪の花びらを思わせるひらひらの襞付スカァト、そして純白の手袋。ただしこれらの部分から上半身に予想される豪奢な服は一切何も纏っておらず、片腕でその裸の胸元を覆っているのみ。
…本気で俺に襲われに来たらしい。または、襲いにか。
決意と期待と不安と恥じらいが入り混じったような女の表情、どれもこれもこいつらしくない。

「あいつは無事かな」
「医務室にいるよ。水はいっぱい飲んだけど、生命に別状はないみたいだね」
ほぅ。分かるのか。
「那珂ちゃんは艦内のことならなんでも知ってるよ。明日の朝ご飯のメニューとか、みんなが当直をこっそりサボってる場所とか」
便利だな。艦内粛清に協力させるか…。
「艦長の、毎晩の秘密の読書タイムとか――」
「!」
「読んでる本のタイトルは、『好かれる上司、嫌われる上司』!」
「だ、誰かに言ったら貴様、貴様…」
「きゃーこわーい!でもざーんねん、那珂ちゃんを消すにはこの船が沈没か退役するしかありませーん!」
「なんだ、そうなのか。つまらん。心配して後を追って損した」
「え?心配してくれてたのー?」
「お前じゃなくて部下のな。勘違いするなよ」
ちぇーこのツンデレ~とまたワケの分からないことを言って口を尖らせる那珂。――だが。

「とりあえず、お前の迅速かつ勇気ある行動で一人の兵の生命が助かった。…艦長として、礼を言う」
「えへへ。お礼なんていらないけど…。那珂ちゃん、偉かった?」
「…ああ」
「…ごほうび、もらえる?」
恥じらうように、あるいは高鳴る鼓動を抑えるように右腕で裸の両胸を隠したまま、視線を逸らして確かめるように呟く那珂。
頬を染めたその姿が意外にも艶めかしく、俺も思わず視線を逸らして、その場つなぎに演技のため息をついた。

「なんでそんなに抱かれたいんだ。お前が艦娘で、俺が艦長だからか」
「那珂ちゃんは、艦長のことが好きだから。それだけだよ」

あぁ、全く。
最初の印象が最悪だっただけに、こういう言葉は疑う余地もなく心にまっすぐ届いてしまう。

「――お前はずっと本気で、常に誠実で、自分に正直な奴なんだな。傍からは非ッ常に分かりにくいが」
「艦長も。ね」
那珂ちゃんはみんな知ってるよ、という裏表のない笑顔。作られたものではない、本心そのもの。

――俺も、今だけは自分の心に従うべきなのかもしれない。
きっと魔が差すのは、今夜が最初で最後のはずだ。きっと。多分。

「…わかったよ」
根負けだ。それに今夜の功労者に、恥をかかせるつもりもない。
俺はゆっくりと那珂を抱き寄せ、唇を合わせた。

「ん…む……あん……ちゅ…………ぷは…」

寝台に腰掛けたまま、長い長い接吻。柔らかな唇、甘い舌と唾液を遠慮会釈もなく絡め味わって、離れた間に銀の架け橋が掛かる。
「…はぁ……」
口の端に滴らせたままの熱いため息、とろんとしたその瞳は完全に幸福感に酔いしれていて、俺に好意を抱いていたという事実の証明ともいえた。
「…あまり女に慣れてるワケじゃないからな。過剰な期待をするなよ」
「ううん、艦長は…いいの。そのままでいて、那珂ちゃんが全部するから」
そういうと那珂は手袋のまま、俺の裸の上半身を撫で、やがて下着のみの下半身へと到達する。
「…那珂ちゃんは、ひとに喜んでもらうのが好きなんだよ」
下着の上から股間のモノを撫でられる妙な感覚に、それでもそこに血が集まっていくのを感じる。…こんな小娘相手に、人間の身体というのは正直だ。
お返しにと軽く那珂の髪を撫でてやると、那珂は幸福そうに目を細め、やがて俺のモノを露出させると手袋のままで上下にさすり始めた。
「おい、汚れる…」
「へーき。艦娘は、汚れないの」
理屈は分からないが、そう言われると任せるしか無い。純白の手袋のなめらかな感触、なにより清楚で清潔なそれを淫らに汚す征服感が、感覚を高ぶらせてゆく。
「…ちゅ」
両手でいかにも大切そうに扱かれる甘い感覚に加えて、その先端に温かくぬめる舌先の感触が追加される。
「…っ」
ぴちゃぴちゃという淫靡な音。片手で軽く袋部分を持ち上げられたまま、竿先をついばむような唇の感触、裏筋を舐め上げる舌の快楽に、思わず腰が震え、吐息に混ざって声が漏れる。
反応に気を良くしたのか、しごき上げる白手袋の速度が上がる。
「…おい。もう…」
「…んふふ。那珂ちゃんセンター、一番の見せ場です!」
もともとハダカだった胸を近づけ、左右の乳房で俺のものを挟み込もうとして――
「はさめない…バカな…ッ?!」
「…胸ないな、お前」
ここまであまりじっくり見る機会がなかったが、相当平らである。そう詳しい方ではないが、おそらく同年代の平均的成長度を大きく下回っているであろうことは想像に難くない。
「がーん。…でもいいもん、先っちょだけイジメてやる」
そういうと那珂は俺のものをしっかりと握り、先端をその未成熟の果実のような自分の右乳首にすりすりと擦りつけはじめた。
柔らかくも固く尖った肉芽の独特の感触、そして自分も乳首で感じているのか時折「んあっ…」と鼻にかかった甘い声を上げながらぴくりと身をはねさせるその姿をしばらく味わう栄誉は、ある意味で豊満な乳肉に挟まれるよりもずっと扇情的だった。

「那珂…」
「かんちょぉ……那珂ちゃん、もう我慢…できなくなってきちゃった…よ…」
…こちらもだ。
濡れた瞳になんとなく全面同意するのが癪で、小声でそう答えた後、俺は那珂の脇の下に手を伸ばし、強引に自分の膝の上へと対面の形で座らせる。
「挿れて…いい?」
「ああ」
照れたような顔が近い。スカートを履いたまま下着を降ろし、持ち上げられた那珂の腰が、しっかりと握った俺のものに狙いを定め――
「う…あああああはぁっ……」
「……っ」
か細い腰が一気に降ろされた瞬間、熱く柔らかい感触がスカートの中で俺を飲み込んだ。
那珂が甘い息を荒げながらも懸命に腰を上下させ、ふっくらと勃ちあがった乳首が俺の前で僅かに揺れるたび与えられる快感、快楽。だが。

――そんな動きでは、全然足りない。
そう思った瞬間、脳の中で何かが弾けた。

挿さったまま那珂を抱え上げ、体制を変えて寝台のほうに押し倒し、脚を広げて転がした那珂の中央に、突き入れる。卑猥な水音が、大きく室内に響く。
「あぁん、艦長、艦長…!気持ちいい、気持ちいいよぉ……!くひぃッ…!ふぁぁんっ!!」
「…歌うなと…言ったはずだ……!」
思わず口をついて出た嗜虐的な言葉に、那珂は必死で従おうと片手の甲を口に当てる。その姿が苛立たしく、いじらしく、苛め抜き愛し抜きたいという衝動が更に加速する。
「…くっ…那珂…出すぞ…‥!」
「……~~!ん…はぁっ…!だめ……こ…え、でちゃ…ぅょぅッ!!ーーぁあんッッ!!」

――やがて耳朶を打つ雌の喘ぎ、突き抜ける絶頂感と共に、俺は那珂のスカートの中、汲々と締め上げる膣内に、熱い本能を幾度も、幾度も解き放った。

「はぁ、…はぁ…」
危うく下にいる那珂に覆いかぶさりそうになり、同時に絶頂に到達したらしいそこにひくひくと締め付けられたままのそれをぬるりと抜き去って後ろに倒れこんだ。
神聖な職場で至上の快楽を味わったそれは、精を散々に放っておきながらいまだ高さを失わず天を向く。…やれやれ、無様だ。

「…アンコール?」
「…好きに、しろ」
好奇の視線を伴った質問に対し、投げやりに答えた言葉に対する反応は、嬉しそうに再度それを口に含むという行動だった。


「那珂ちゃんは、明日でアイドルを辞めます」
それから何度か身体を合わせた後。寝台に二人並んで天井を眺めながら、那珂は前触れもなくそう言った。

「この姿で現れるのは、艦長はあんまり好きじゃないみたいだし。以後は人目につかないようにするよ…あ、でもでもちゃんと艦は護ってるからね!戦闘に支障は出さないよ――出しません」
「そうか。まぁ、そうして貰えるなら、艦内風紀に影響もない…」
唄い女など、別に軍艦の上には必要でない。戦闘に支障がないというのなら、理屈の上では娘の姿などどうでも良いことだ。……その、はずだ。
「ちゃちゃーん。最後に、アイドルの那珂ちゃんから艦長にひとことアドバイスのコーナーだよ~」
「…何だ」
「――艦長がいつでも一生懸命、仕事もカンペキで頼れるカッコ良い人だっていうのは、もうみんな知ってるから。ちょっと可愛いところか、面白いところを見せるのが、愛されるコツなんだよね」
そうしたらみんな、艦長のことがもっともっと好きになるんだよ。そんな言葉が、妙に優しく懐かしく耳に響いた。

以前に同じことを、誰かに――あぁ、母さんに――…
「覚えておこう――」
まぁいい…もう眠い。今日は疲れた。

――明日のお昼、お別れライブだけやらせてほしいな。
そう言った那珂に、眠りに落ちる直前の俺がどう答えたかは、覚えていない。


「今日は集まってくれてありがとー!こんなにたくさんのファンに囲まれて歌うことができて、那珂ちゃんはいま、とってもハッピーでーす!」

「ふあん??おい、フアンとは何だ?」
「よく分からんが、後援会みたいなものではないか?」
「なる!小官も、那珂ちゃんのフアンに成ります!」
「コラ、第一号はオレだ!」

『那珂』艦内のほとんどの人間が集合してるのではないかと思われるほど密度の高い昼の食堂室から、甲高い声と将兵の野太い声が外にも漏れ出している。
…まったく。人心掌握術だけは本当に完璧だな。昨日男と寝たとは誰も信じまい。

「みんなありがとー!でもね、今日は那珂ちゃんから重大なお知らせがあるの…」
言いながら俯いた那珂にどよめきが上がったところで、室内に足を踏み入れる。全員の視線が、突如現れた艦長――俺を見た。俺は遠慮なく口を開く。
「何をしている貴様ら。勝手な集会は軍規違反だぞ」
冷厳な艦長が、また文句を言いに来た。せっかくの楽しみを奪いに来た。視線に込めたお前たちの予想は的確だ。
昨日までの、俺ならば。

「…慰問会は週に一回までの開催を許可する。事前に参加者と会場、演目の届けを出せ。…もっとも、どうせ歌うのは一人だけだろうがな」
俺の台詞に那珂を含めた全員の眼が、驚きの色に変わる。
「…艦長…?!…那珂ちゃん、また…歌っていいの?」
「それと」
ざわめきを一蹴する。一瞬で水を打ったように静まり返った室内で、全員の目が俺の次の発言を待つ。

「…第一号は俺だ。…あとは、好きに決めろ」
頬が熱くなるのを意識ながらもそれだけ言い放って食堂を出た俺の背後で、しばらくの後、大歓声が爆発した。

どうだ、最高の冗談だろう?那珂。
だから――

だから。
そんなボロボロと涙を流して、それでいて幸せそうなくしゃくしゃの笑顔を、俺の中に残すんじゃない。

「………本気で、惚れちまうだろうが……」

――それこそ、冗談じゃない。


やがて軽巡洋艦『那珂』は人望高き艦長のもと、まるですべての将兵が一体となったかのような最強の連携を誇る軍艦として、歴史に残る様々な戦闘を乗り越えてゆくことになるが――
それはまた、別のお話である。
(Fin.)
最終更新:2014年02月06日 14:32