提督×大鳳・祥鳳 序章1-807避

806 :クズ ◆MUB36kYJUE:2014/07/06(日) 20:55:04 ID:WPQREMKw
以前浜風が無理やりフェラして吐く長編を書いた者です。
上の方でトリップつけたほうがいいというような議論があったみたいなのでつけさせていただきます。

祥鳳って前付き合ってた男の事をずっと根に持ちそうだなという発想から大鳳との修羅場ものを書きました。
  • 長編未完
  • エロ薄い(後の話でもっとがっつり塗れ場を書きます)
なので苦手な方はスルーをお願いします。

行間詰めすぎとの事だったので台詞前後に空行を入れます。

序章

 吸い込んだ空気は容赦なく、喉を炙るように通り過ぎた。肺腑凍てつき、背筋には槍の刺さったような痛みが走り、彼は思わず真白
い吐息に手をかざした。波の岸壁に打ちつけるごぅごぅという音が、厭に大きく厭に不気味に、辺りを猛然と駆け巡っている。
 正月飾りの取り払われた玄関には、寂寞と孤独が横たわっている。目前にあるはずのアスファルトは夜の闇に解け消えて、灰色の石
段だけがくっきりと浮かび上がった風であった。未開拓の無人島にぽつねんと取り残されたような、そういった凄まじい哀情が沸いて
きて、彼は居た堪れなく焦って足を動かし始めた。吹き荒ぶ海風に当てられた耳が裂かれたかのような痛みを発し、頬は一歩踏み出し
た途端に真っ赤になる。外套のポケットに突っ込んだ掌は、それでも隙間から入り込む冷気によって一向温まる気配もない。鳥肌立っ
た背中が肌着と擦れ、ぞっとしない感触に肩が震えた。
 少しでも中から体を暖めようと、彼は足を速め岸壁沿いを進んで行く。
 寒風荒ぶ夜の中この提督が外へと繰り出したのは、何も酔狂によるものではなかった。元来風来坊の性質を持って生まれたために、
確かに周りからは変人という肩書きを与えられていた彼ではあったが、今回のこの行動に限って言えば、常識の範疇内の理由による外
出なのだと説明できる。
 腕時計を見、現在時刻が体感のものより大分遅れている事を、彼はどこか安堵した思いに受け止めた。意外にも、執務室を飛び出し
てからまだそんなには経っていない。眇めた眼にて用心深く辺りを見渡し、人の気配の無いのが分かるとまた足を速めてゆく。
 秘書艦である祥鳳が、鎮守府宿舎から出て行った。その情報の執務室へ転がり込んできたのが、つい五分ほど前のことである。
 それは当直の警備に当たっていた妖精が報告したものであった。息を荒らげ興奮気味に戸を抜けたそれは、提督に宥められつつ叫ぶ
ようにしてあらましを説明した。
 曰く、怪しい人影がふらふらと危うげな足取りにて歩いていた、そのシルエットは大きな二つ結びで確証はないにしても
祥鳳らしき事、声を掛けようとしたものの背後から発せられていた徒ならぬ雰囲気に怖気づいてしまい、結局は黙って見送ってしまっ
た事。大雑把にそんな内容である。
 日はとうに西に沈み、月とクレーンの航空障害灯だけが静かに闇を照らす時分。霧のようにぼんやりとした白光を赤い明滅が彩る様
は、途方も無く寂しいものである。秘書仕事を終え部屋に戻ったはずの彼女が、今こんな時に外出するなど俄か信じがたい事であった。
急ぎ内線で門の警備に連絡を取った所、一切外へ出て行った者はないとの返答。恐らくは、鎮守府の敷地内を放浪しているらしかった。
 そこまで差し迫った危険性は無いと分かったにしろ、やはり憂慮せずにはいられない。もしかしたら余計なお節介なのかもしれない
と、そう思う気持ちもありはした。しかし、胸を締め付ける気遣わしさには到底敵うわけがなく、提督はラックに掛かった外套へ急ぎ
袖を通したのだった。
 彼女の赴きそうな所に、幾つか当てはあった。事の報告をした妖精は他の艦娘にも協力を仰ぐよう提言したが、すかさずにそれは却
下された。この破滅的行動は間違えなく心内の問題から発生してるのだろうし、だとしたら解決しやすいのは自分であると、提督には
そういった自負があったのだ。
 何も自惚れであるとか、過剰な自意識によるものではなかった。客観的に見ても、彼の考えは実に妥当なものだと言えた。おおよそ、
その鎮守府の誰もが知りえない秘密が、二人の間には確かに存在していたのである。
 即ち祥鳳と提督は、実に三ヶ月ほど前より恋仲にあった。秘書と直属の上司という間柄は、厳重な秘匿の元で時に男女の関係に変化
していた。その律儀さたるや、噂好きの幾らかの艦娘にさえ、未だ疑われもしていないほどである。
 決して公に睦まじくすることはなかった。両者とも、絶対に第三者に知られてはならないと固く信仰しており、その無言に交わされ
た約定のような制限が、決して外れぬ楔となっていたのだった。
 彼らは、立場ゆえの関係の掩蔽に烈しい刺激を見出してもいた。仕事の関係から外れたたまの逢瀬は、痛く思えるほど耽美に過ぎ、
それは当人達でさえ思い出すだけでも頭を抱えたくなるような代物だった。それだけの慈しみがこもっているからこそ、提督は決して
捜索に仲間を募らなかったのである。
 凍えに凍えた空気は、しかし幾ら取り込んだところで煮えた頭を少しも冷ましてはくれない。一番近しい所にいたくせに、彼女にこ
んな事をさせてしまった事。まったく何にも気が付かなかった自身の鈍感さが恨めしく、歯痒かった。地団駄の踏みたいのをぐっと堪
え、提督は後悔と贖罪の意を胸に、暗闇に目を凝らしていった。

 幾らほど歩いたか。やたらに早まっている体内時計を鑑み、およそ五分は経った頃か。提督は視線の先に薄ら女性の輪郭を捕らえる
ことができた。鎮守府の敷地内でもっとも大きな防波堤の末端。海水のぶつかった飛沫がかかるのを意にも返さず、ぽつねんと体育座
りに腰掛ける、大きな三つ編み二つ結びの影である。
 彼女は身じろぎ一つせず、物思いに耽っているのかただ暗晦な海面を見つめている。暗がりからぼぅと影が浮き出た様には身の毛の
よだつ程の凄みがあって、事情を知らぬ者が見たならきっと心霊の類と見なすだろう。そう思えるほどの気味の悪さが漂っていた。
 かっぽりと削り取られるようにして作られた防波堤の階段。その小さな段を一歩ずつ昇り、とうとう彼女と同じ地平に立つ。乱雑に
詰まれた波消しブロックの、海水のぶつかる度に降りかかる霧が、途端提督をしっとりと濡らした。
 氷のような冷たさを湛えた霧である。海に向かって進めば進むほど、それはより濃くなっていった。耳の感覚は消え失せ、指先や膝
が独りでにがたがたと震え始める。

 「祥鳳!」

 防波堤の中腹、ちょうどくの字に曲がるその起点にまでたどり着いた頃、提督は彼女の名を自棄になったように叫んだ。前髪の毛先
がシャリシャリに凍り、それがちょうど眉間を叩くから不快な事この上ない。足先や指先の感覚が、末端から溶ける様に消えていた。
 かちかちと歯が鳴った。顎を震わせている姿を想像すると、何とも無様で格好の付かない様に思われ、彼は無理やり飲み込むように
してそれを収めた。状況として、決して彼はそう意図しているのではないが、どうしてもこの先颯爽と登場するようになってしまうの
だから、最低限瀟洒な風情を漂わせようと思ったのである。
 情けなく震えた叫び声を耳に入れ、祥鳳は途端無意識に背を跳ねさせた。
 すぐ近くにまで寄ると、彼女はゆっくりと振り返る。その佇まい、髪は濡れ唇は青白く瞳はどんよりと濁り、それでも微塵も震えて
はいないその様子には薄ら寒い気持ちを抱きもした。提督は彼女の頭を撫で

 「帰ろう。皆心配している」

 開口一番にそう言った。
 何故ここに来たのかだとか、何故こんなことをしたのかだとか、そういったことを聞くのはやはり憚られた。話したいのならば自分
から口を開くだろうから、今はただ何時もらしくに接すればいい。提督はそう結論付けると、あとは濡れそぼった彼女の髪をひたすら
指で梳くだけになった。
 それ以上両者から、何も言葉は発されなかった。静けさに耐えられなくなったか、祥鳳はしばらくの後、彼から目を逸らして再び海
面に視線を向けた。
 触られることに抵抗しない様子を認め、とりあえずは彼女を立たせようと、提督は地に置かれた小さい手を取ろうとした。冷えて感
覚も希薄になった掌は、それでも祥鳳に比べればまだまだ血の気は通っているらしく、握った手は吃驚するほど冷たく思えた。
 華奢で骨ばっている為か、まるで氷に厚手の布を巻いたかのような感触である。戦闘時には何時も弓の弦を引き絞っているから、人
よりも皮膚が厚くなっているのかもしれない。幾回も体を重ねその度に指を絡ませていたにも拘らず、今初めて知った事実であった。
 きっとそういう鈍感さだからこそ、今まで彼女の仔細な機微にも気が付かなかったのだ。そういった自嘲の念がわだかまり、彼は頭を
抱えたくなった。
 今すぐにでも額を地につけ、ひたすら謝罪をしたかった。彼女の望む事なら何でもこなしたい、仮にこの海に飛び込めと言われたな
ら喜んでその命に従うだろう。そういった悔悟はじくじくと胸を痛ませたが、果たしてそれが免罪符にならないことも知っていた。
 今この段階ではとにかく帰ることが先決だと、そう思い直して腰を上げる。掴んだ掌を引っ張ってみると、まるで釣り上げられるか
のようにして彼女も立ち上がったのだった。
 提督は自身のコートのポケットに、掴んだその掌を入れ、更に指を絡ませて握った。服越しの体と掌で挟みこみ、少しでも暖かいよ
うにと体を寄せる。カイロや、何かそういった類のものを持ってこなかった事が、今更になって悔やまれた。

 一歩、恐る恐る足を踏み出してみると、彼女も続いて歩を進めた。足取りは覚束なかったが、抱える必要があるほど衰弱しているわ
けでもなさそうである。ゆっくりと歩くべきか、冷えるから足を速めるべきか。気遣うという同じ源泉から湧き出した背反する思いは、
何とも煩悶たるものであった。

 「寒いね」

 「上のケチ共は資材上限を絞っているんだな、まったく」

 「新たにレ級なんていう敵も発見されたらしい。物騒なことだよ」

 帰路につき、そのようなことをポツリポツリと話しかけてみても、まったく何も反応はなかった。彼女はただ顔を伏せ、半歩遅れて
ついて来るだけである。握り返してくれている手の感触だけが、唯一の繋がりを示す楔に思えてきて、感じられる存在の気配はどんど
んと希薄になっていく。やがて話題のストックが消え果てると、提督もただ黙々と足を動かすだけになった。
 来た時よりも大分長く感じられるアスファルト舗装の道は、それでも何時しかその終端には辿り付けるのだった。ずっと先に見えて
いたはずの光の粒が、今でははっきりと鎮守府の窓から漏れる灯りだったのだと認識できる。そのぼんやりと浮き出た建物の影に、ど
こか安堵を覚えた。
 彼はつと祥鳳の方へ視線を向けた。もうすぐ着くぞと、そう言いたかった訳であるが、思い返せば手を握ってから彼女の顔をきちん
と見てはいなかった。腕の触れるほどすぐ近くにいたために、寧ろ何時もより様子を認めるのを怠っていたのだ。普段外では大っぴら
に、恋人のように寄り添って歩くこともままならなかったわけだから、変に緊張していたのかもしれない。だがこの時まで、祥鳳のそ
れにまったく気がつかなかったのは、間抜けとしか言いようのない愚鈍な過ちだった。
 彼女の顔を見て、提督の口からは吃逆のような音が漏れ出した。祥鳳は空いていた方の手でひたすら目元を拭い、よく耳を澄ませば、
波飛沫の音の狭間に、小さな嗚咽も聞く事ができる。歯を食いしばり、時折肩を跳ねさせながら、手の甲を湿らせている。そういった
状況を認識するのにも時間が掛かり、顔を向けてから十秒は経った頃、ようやく

 「どうした?」

 そう一言訪ねる事ができた。
 言ってしまってから、何て気の利かない言葉だろうと思った。訪ねたということは、察す事ができなかったと宣言しているようなも
のではないか。そう気が付くと、腹から脳天へ悔恨がさぁっと駆け抜ける。

 「ごめんなさい」

 搾り出すようにして吐き出された謝罪へ、提督も慌てて反応を寄こす。

 「いや、別に気にしていない。……だから、泣くのは止めなさい。何も責めないし、言いたくないことは言わなくていいんだから」

 「違うんです! そうじゃなくて……それ以外にも、私、謝らなくちゃいけないんです」

 過呼吸気味に途切れ途切れ言葉を紡ぐ彼女の様子は、とても痛々しいものである。彼女はここまで言い切ると、後から堰を切ったように漏れ出す嗚咽に、続きを言う事ができなくなった。

 気まずい間が開いたが、提督は決して先を急かすような事をしなかった。そんな事のできる権利はないと思われたし、悪意はなくとも結果的に追い詰める事になってしまうのは厭に思えた。
 気が付けばポケットの中に手は無く、いや向かい合っているのだからそれも当然な訳であるが、掌に残っている温もりの残滓が寂寞
を掻き立たせてならなかった。一抹の不安感が足元を通りすぎ、胃がきゅうと縮み上がる。ぞっとしない感覚に、提督は思わず生唾を飲
みこんだ。

 「一つお願いがあります」

 意を決した風に、祥鳳は彼を見つめた。纏う雰囲気からいうならば、睨むと形容してもおかしくは無い。語気は冷静沈着なれど、滲
む凄みは紛れも無く、高ぶった感情のそれである。

 「うん。何?」

 「私と、別れてください」

 提督の口からは、再び引き攣った吐息が漏れだした。
 意外にも、その言葉を聞いたときに何かショックを受けるような事はなかった。ただ厭な予感が的中してしまったと、そういった納
得のようなものが漠然と心内に広がっただけである。一旦は流れを止めた彼女の涙も、だがすぐに眼は潤みだす。それをぼんやりと眺
め、しかし頭はそういった視界の状況さえ処理できないほどだった。真っ白に、虚無が果てまで伸展する。

 「ごめんなさい。理由は聞かないで。……ごめんなさい」

 やがて彼女は泣きながら、走って提督の横を通り過ぎた。
 その場に立ち続けていると、今更遅れて防波堤で座るという行為の意味を理解できた気がするのだった。極寒が自身を罰してくれ、
しかも地平線に広がる闇は思考を煮詰めてくれる。
 一体自分は、彼女の何を分かっていたというのか。
 自嘲の念は何時までも、彼の心に纏わりついていた。


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最終更新:2015年01月05日 02:43