15年秋のイベントの新規艦娘、練習巡洋艦鹿島のSSです
こちらは人間=艦娘設定です
キャラ設定に独自設定も含まれている上に
予想以上に長くなってしまいました
NGは『リボンに包まれた本当の気持ち』でお願いします
403 :リボンに包まれた本当の気持ち:2015/12/25(金) 22:40:47 ID:F.hV5l7U
「昇進試験合格おめでとう!これであなたも提督ね」
「ありがとうございます鹿島先生。
あなたの指導のおかげで私が試験に合格出来ましたから」
「私のおかげですかか…照れますね…えへへ…」
感謝されて照れ臭そうにしながらも
アイドルのようなかわいい顔を更に魅力的にするはにかんだ笑顔が素敵な、
銀髪を紅白のチェックと黄色と赤のボーダーのリボンで
それぞれツーサイドアップにした娘は、
香取型練習巡洋艦二番艦鹿島の艦娘である。
ちなみに彼女自身の苗字も鹿島であり、
誕生日も軍艦鹿島の進水日と同じく9月25日である。
残念ながら月星座は軍艦鹿島とは違っていたが、それ以外での共通点が多く、
彼女は艦娘となる運命だったと言えるだろう。
「でも気が早いですよ鹿島先生。試験に合格しただけで、
まだ正式な辞令を受けてはいないわけですし…」
「大丈夫ですよ。もうあなたが提督になることは内定していますよ」
「っ…か、香取…先生…出張だったのでは…」
背後から急に声をかけられて振り向いたら出張していたはずの香取先生がいた。
彼女は艦娘練習巡洋艦一番艦香取の艦娘である。
彼女の場合本名がカトリーヌなのが艦娘となる運命を表していたのかもしれない。
え?何故外国人っぽい名前なのかって?
それは彼女達がクォーターだからである。だから彼女達は銀髪なのだ。
そして軍艦と同じく鹿島とは実の姉妹だ。
ちなみに彼女達は四人姉妹の長女と次女で、
まだ下に妹が二人いると聞いた事がある。
三女は香取型練習巡洋艦香椎の艦娘ではないかと言われているが、
今は香椎の艦娘がいるのかどうかそのものが不明な為わからない。
四女は今の所は完全な一般人である。
というのも史実では香取型練習巡洋艦は三隻までしか建造されず、
四番艦になるはずだった橿原は建造されなかったのである。
今の所は、というのは造られなかったはずの橿原、
その艦娘が将来的に現れる可能性もあるのではないかと言われているからだ。
あくまでも可能性なので現れないと考えた方がいいだろう。
存在した香椎、その艦娘が現れる可能性の方が高いだろう。
しかし香取型練習巡洋艦は三隻だが鹿島家は四人姉妹である。
四人目は生まれて来れなかったというのなら、
鹿島家自体が色々と運命にひかれているのではないかと更に思えるが、
さすがに神様もそこまで過酷な運命を辿らせはしなかったか。
それとも存在しなかった『香椎』が艦娘として現れるとでもいうのか…
グラーフ・ツェッペリンの艦娘の場合は艦船の進水はした為、
竣工しなかったとはいえ艦娘となってもおかしくはないが。
まあそんな事は今気にしてもしょうがないか。肝心の今気にする事は……
「提督になれるという事が内定しているとはどういう意味ですか?
私はこの前の昇進試験に合格して少佐になったばかりです。
提督とは本来は将官階級に使われるもので、
佐官階級である私が提督と呼ばれるには、
鎮守府か泊地で艦隊司令官にならなければそう呼ばれる事に相応しくないのでは?」
俺は疑問を率直に聞いた。
「今度新しい泊地が出来るのを知ってますね?
あなたはそこの艦隊司令官に選ばれたのよ」
「な、なんです…と……私は少佐になったばかりの人間です。私のような者が…」
意外な理由だった。正直今の俺が艦隊司令官になれるとは思っていなかったからである。
「少将からの推薦もあるわ。
あなたは日頃の激務の中でも欠かさず勉学に努めていたでしょう?
そこを評価されたのですよ。
あと新しい泊地は激戦区ではないですから提督としての経験を積むためにもいいですし」
「そうですか…しかしこの鎮守府の最高責任者である少将が私に目をかけて下さるとは…」
「あの人を色々とサポートして下さったでしょう。
あなたを見ている機会はいくらでもありましたよ。
あなたも鹿島から勉強を教えてもらうだけでなく、
あの人の仕事ぶりを見て学んだこともたくさんあるはずですよ」
「確かに…」
少将を支えるいち士官でしかない俺だったが、
将来的に艦隊司令官になる事を考えたら、
今の内に艦隊司令の手際等を学んでいてもよいと思っていた。
だがこんなにも早く小さな泊地とはいえ艦隊司令官になれるとは思っていなかった。
「ありがとうございます……」
「年末ということもあるから正式な辞令は年明けになるでしょうけどね。
それと、私や鹿島を先生と呼ぶのはもうやめなさい。
あなたは階級がどうであろうと私達艦娘よりも立場が上になるのですから」
「そうですよ。それに…あなたの士官学校時代の担任だった香取姉はまだしも、
私が先生って言われるのは少し恥ずかしいですから」
「先生というものはいつまでたっても先生ですよ。勉強教えてくれましたし。
年上の人が年下の人から学ぶ事だってたくさんあるわけですから」
「それはそうだけど…でも私は練習巡洋艦とはいえ、専ら艦娘を鍛える方ですし…
まだ私は次代の提督候補生を育てる程には到っていませんから…」
「っと、いけない、本来の目的を忘れるところだったわ」
「本来の目的ですか?私に新泊地の艦隊司令官内定の話を伝える為ではなく?」
「それはあなたと鹿島の会話の流れでつい言ってしまったのよ。
本当は鹿島に伝えたいことがあったのよ」
「私に?」
「ええ。今日の夜に港で行われる花火大会の海上警備、あなたも選ばれていたわね。
今年も去年と同じようにするはずだったけど、
私の出張が早く終わったから急遽あなたの代わりにすることになったわ」
「香取姉が?でも香取姉がすることになったからって、私もいても…」
「あなたはまだ若いから本当はクリスマスを誰かと普通に楽しみたいでしょ」
「そんなことないわよ!私は艦娘であることに誇りを持っているのよ!
命令で自分の時間がなくなったって、構わないわ!
「ならあなたが海上警備から外されるという命令も聞きなさい」
「……了解…………クリスマスを一緒に過ごしてくれる人なんて
いなかったから艦娘としての任務をしていてもよかったのに…」
鹿島の少し悔しそうな声が小さく響いたのだった。
「これからどうしますか?」
「私は今日の午後から日曜まで休日だからな。
でも予定がいつ変わるのかわからないから遠出はできないから、
外出せずにネットでもやってるさ。ちょっと寂しいけどな…」
「じゃあ私と一緒に出かけませんか?
私も今日の夕方以降の予定はなくなって暇になりましたから」
「私と外出?つまらないと思うが……」
「え?いいじゃないですか、提督さん…」
「提督さんと呼ぶのは…まだ正式な辞令は出てないから
せめて他人の前ではやめてくれ」
「了解」
「……実は私は女性と付き合った事がなく、
流行にも疎いから君を楽しませられないと思うぞ」
「そうなんですか?意外です」
「一応中学生の頃に女の子二人と何かの時に一緒に出かけた事はあったが、
割とほったらかしで一人でいたという、今にして思うと……って感じの事が…」
「わかってるんだったら直しましょう。私で…女性との付き合い方の、練習…」
「いいのか?」
「私は一応提督さんの先生だし、練習巡洋艦の艦娘よ」
「私が女性の扱いが下手だったら、君も何を言われるかわからない、という事か?」
「それよりも新しい泊地の艦娘は提督さんとは初対面になるわけだから、
信頼関係を築くのがうまくいかなくて、
艦娘たちのモチベーション低下による弊害があるかもしれないわ。
逆に信頼関係をうまく築けたなら、
艦娘は普段以上の力を引き出せる機会が増えるのよ」
「戦いで敵を全滅させたり、大活躍した艦娘は精神的に高揚し、
普段以上の力を発揮する……それらの現象は今までも見てきた事だけど、
艦娘への対応能力がないとせっかくの高揚状態も途切れてしまう事もあるのか」
「そういう事です」
「ん……じゃあせっかくだし君の申し出を受けさせてもらうよ」
「本当!?」
鹿島が若干興奮気味に強く反応した。
「あ………うん、それじゃ、私はこれから準備してきますからね。
もうこんな時間だから早くしないと……
提督さん、時間がないでしょうけどデートのプラン、少しは考えておいてください」
すぐにいつもの落ち着きを取り戻した鹿島は、準備の為に部屋に戻っていった。
しかし鹿島は自分から誘っておいてデートのプラン考えといてと言うなんて…
あと鹿島からの意外な申し出だからつい受けてしまったが
冷静に考えたら艦娘とのコミュニケーションで
特定の艦娘とデートとかしてるのは自分は見た事ないから
艦娘とのコミュニケーションでデートをやるというのに少し首を傾げたが、
恐らく俺が女性との交際経験がなくて女心がわからないと考えた鹿島が
『相手がどうすれば喜ぶのか、相手の気持ちを察しながら考えられるようになろう』
という事を言いたかったのかもしれないのだろうと思った。
俺はこんな時間からなら
どのようにデートをすればいいのかと考えながら準備していた。
「提督さん。本日は私、鹿島がデートの練習相手を務めさせていただきますね?」
そんなわけで女性との付き合い方の練習のデートを鹿島と行おうとしていた。
鹿島は少し大きめのランチバッグを持っていた。
おそらくサンドイッチが入っているのだろう。
だとしたらサンドイッチの食べ歩きは今回はダメか……
良さそうなプランがダメになったっぽい事に俺は少しだけ暗い気持ちになった。
「…うふふっ、嬉しい?」
「あ、ああ……」
「…提督さん、もう少し嬉しそうにしないと……
もしかして、私が練習デートに誘ったの、いけなかったかな……?」
「違う、そんなわけじゃない」
そう。そんなわけはない。鹿島と練習とはいえデートが出来てとても嬉しい。
だけどその気持ちをおおっぴらにするのが恥ずかしく、
また、好きという気持ちが知られたら関係がギクシャクするんじゃないかという
小中学生みたいな不安を感じていた。
「ちょっと緊張して…目茶苦茶な事してしまわないかと思ってしまって…
女の子とこうやって一緒にいるのは楽しいけど、あまり経験ないから…」
「…提督さん、これは練習だからもう少しリラックスしてください。
問題があればその度に私が指摘しますから、その時に直しましょう」
「わかったよ」
しかしそうは言っても好きな子と一緒にいる以上悪い所を見せるわけにはいかず、
良い所を見せようと思ってしまうものである。
これがあまり気にしていない女の子相手だったとしたら……
気になる人に見られて誤解されたり、
気になる人に相手から変な情報行くんじゃないかと不安にこそなるが、
そんな事すぐに忘れてしまうくらい自然に振る舞えるのだが。
「で、どこに行くのですか?」
「駅に行って、そこにある展望台で夕焼けを見ようと思うんだけど、いかがかな?」
『夕焼けって綺麗ですね。本当にずっと見ていたいわ。
最後のスッと日が落ちる瞬間が私は好きなんですよ』
俺は昔鎮守府屋上で鹿島とたまたま一緒に夕焼けを見ていた時に
彼女が言っていた言葉を思い出していた。
デート前には彼女が好みそうなものや場所を必死に考え、
見つけた答えの一つがこれだった。
「あ……いいですね。うん、とってもいいです。それじゃ行きましょ」
よかった。喜んでくれたみたいだ。考えた甲斐があった、というか覚えておいてよかった。
「早くぅ」
急かす彼女を落ち着かせながら俺達は駅にある展望台へ向かったのだった。
「提督さん。夕焼け、見られなかったですね…………」
「すまない…………」
俺達は夕焼けを見る事が出来なかった。
昼過ぎまでは晴れていたのに夕方になる頃に急に曇りだし、
小雨もパラついてきたからだ。
天気予報ではそう予想されてなかったのだが……
「本当にすまない。せっかく楽しみにしていたというのに、こんな…」
「あなたは悪くないですよ。お天気なんて予報通りにいくとは限らないわけですから。
でもせっかく私の話を覚えてくれてたのにこんなことになっちゃうなんて…
私が急にあんなこと言い出して慌ただしい中で頑張って考えてくれたのに……」
鹿島は申し訳なさそうな顔をしていた。君は何も悪くない。なのに……
俺は悪くないと言われても見通しの甘さを悔いた。
「提督さん、うまくいかなかったからって落ち込まないでください。
ほら、珈琲でも飲んで元気を出してください」
「あ、ああ…」
そう言ってランチバッグから水筒を取り出し、珈琲を注いだ。
その時にランチバッグの中にサンドイッチがあるのも見えた。
サンドイッチに関しては予想通りだったが、まさか珈琲まで持ってきていたなんて……
サンドイッチの食べ歩きも、珈琲の飲み歩きも、どちらもダメだろう。
彼女が作ってくれたサンドイッチや、煎れてくれた珈琲とどうしても比べてしまうだろう。
じゃあ本屋にでも行くか?駄目だ、初デートの時は本屋はNGと聞いた。
もし明石とデートをしているのなら電気屋というのもあるだろうが鹿島は明石ではない。
師しょ…日向なら瑞雲でも買うとか言って玩具屋に行ってもいいが鹿島は日向でもない。
考えても答えが浮かばず、ストレスがたまってしまう。
ストレス発散にカラオケにでも行きたくなるが、カラオケも初デートでは駄目と聞いたし、
そもそもストレス発散とか考える時点で駄目だろう。
公園でサンドイッチを食べながら会話するのもこんな雨では無理である。
俺はどうしようもなく考えあぐねていた……
「あの……あまり別に私に気をつかいすぎなくてもいいですよ」
「えっ……」
意外な言葉だった。デートの練習なら練習といっても
デートと同じように考えなきゃならないのに……
「デートの練習って言ってしまった私にも責任がありますけど、
別に仕事仲間と遊びに行くとか、
そういう考え方をしてもいいですよ。
それだって人付き合いの一つであるわけですから。
突き詰めるのも大事ですけど、もし考えに詰まったのなら、
別の視点から考えることも時には必要ですよ」
「すまない……」
俺は少し情けなかったが、鹿島のその言葉に甘える事にした。
「カラオケ屋さん、部屋が空いていてよかったですね」
「ああ」
というわけで俺達はカラオケで日頃のストレスを発散する事にした。
デートというよりは仕事仲間との付き合いである。
まあよくよく考えたら提督と艦娘は男女の関係ではなく
(そういう提督と艦娘がいないわけでもないが)
上官と部下、仕事仲間なわけだからデートとかの必要はなかっただろう。
何にせよ、他人と出かける時に自分の都合を第一に置いていた事を考えたら
相手の事を第一に考えるデートというのは、
俺に相手の事を考える力を付けさせる為のものだろう。
「ねえ、私から歌ってもよろしいかしら?」
「構わないよ」
俺は鹿島に先に歌わせた。相手の歌う歌を聴いて自分が何を歌うのかを考える為だ。
もちろん相手の歌もちゃんと聴いてあげないと会話が出来ないから聞かなきゃいけないけど。
鹿島が構えながら何を歌うかと思っていたらなんと
厨二的言動なリアル中学二年生アイドルの曲を歌った。
驚きながらも俺はちゃんと感想を言う為にきちんと聴いた。
「ふぅ~、どうでした?」
「よかったよ。可愛らしくて。物真似選手権に出ても優勝狙えそうだよ」
「ふふっ、ありがと」
正直な感想だった。いつも可愛らしい印象の彼女だったが、
アイドルの歌を歌っている時の彼女はもっと可愛らしかった。
物真似選手権で優勝狙えそうと言ったのも
鹿島が原曲を歌っていたアイドルと見た目が似ていたからだ。
「もう一曲歌わせてね」
彼女が続けて歌うのは俺に歌わせる歌の方向性を決める為か。
そう考えながらも聴く準備をしていたら彼女は今度は電子の妖精の歌を歌い出した。
時代が古くなった上にアニメの曲である。
鹿島は電子の妖精と似てなくもないが、髪型による印象が大きく、
顔付きや性格は響の方が近いだろう。
そういや白露がタイトルに1番という文字が入っているという理由だけで
この歌手の曲を歌っていたけど、歌い終わった後に失恋ソングと知ってへこんでいたな……
そんなわけで鹿島は意外ともいえる歌を歌い終わった。
「あぁ…やっぱりカラオケはストレス発散にいいですね」
「ああ、最近あまり気が休まる時がなかったからな」
「それじゃ次は提督さんの番ね」
そう言われてマイクを手渡された。
彼女が最近のポップソングを歌ったなら俺も同じような歌でも歌っただろう。
彼女が歌ったのはアイドルの曲とはいえどちらかというとサブカル方面なものだし、
電子の妖精なんて90年代後半のアニメだ。方向性が掴みにくい。
俺を気遣かっての『何でもいい』というサインで、
無理をさせてるのではないかと思ってしまったり…
ええい面倒!考えても答えが出ない。
ならば俺が歌いたい曲を好きなように歌ってやる!
「ルルルールルールールーールールールルールールー」
「??」
曲が歌の部分に入ったのに歌い出してなく、
スキャットをしているのなら怪訝な反応されても仕方ない。
結局最後までスキャットをし続けたのだった。
「……どうしてスキャットしてて歌わないのかしら?」
「この歌が使われた映画のクライマックスで使われたアレンジ曲を真似たんだ。
次はちゃんと歌うよ。だからもう一回」
そして同じ曲を流し、今度は歌詞を見ずに歌ったのだった。
「凄いですね。全く歌詞を見ていなかったのに何一つ間違ってませんでしたよ」
「昔何回も何回も聞いたからね。その時はCDもカセットもなかったから
ビデオを何回も何回も再生したさ。
おかげでラストシーンとエンドロールが頭の中に入っちゃったよ。
その映画を見たのは17年前の金曜日のクリスマスの夜だったからさ、
映画のTV放送の前にやっていたバラエティ番組の生放送と合わせて
ビデオに録画してどっちも何回も見たものだ」
今年のクリスマスも金曜だけどやるのは超有名SF映画のエピソード1。
最新作を上映中である関係上仕方ないが残念である。
もし今年のクリスマスも17年前に放送していた映画をやっていたなら
大佐が『人がゴミのようだ!』と言ったシーンでハモっただろうに。
「映画のエンドロールだと歌詞のテロップがなかったから、
歌詞の音はともかく詩の字で間違った認識をして、
後年CDを買っても歌を覚えているからあまり歌詞カードを見なくて、
最近歌詞を見返して間違いに気が付いたよ」
「どんな間違いですか?」
「たくさんの【ヒ】が、っていう歌詞があっただろ?」
「ありましたね」
「それの【ヒ】をたくさんの日々という意味で認識していたんだ。
たくさんの思い出深い日々、それが懐かしいのは
そのどれか一つに君がいるから、っていう感じでね」
「でも実際は日々の日ではなくてあかりという意味での灯でしたよね」
「当時はそういった発想はなかったからね。
最近正しい歌詞を知って、今この歌詞のようになる運命とかを考えたら…」
「どんな運命ですか?」
「鎮守府を離れるのが夜になるのかどうかわからないけど、
夜だったら明かりとかがついてて、
それを見てきっと懐かしく思うんだろうな、って」
「そっか……」
「……ごめん、つい話しちゃって」
「いいんですよ、提督さんの昔話が聞けて楽しかったですよ」
「俺も喋ってる内に色々と思い出したさ。
当時見ていたロボットアニメのプラモデルを買って、組み立てて、
それで遊びながらテレビを見てさ……
イブも含めたクリスマスで一番楽しかったのは17年前のクリスマスの日さ。
いつまでも過去にとらわれちゃいけないんだろうけどさ」
「でも、幸せな昔の事を思い出せるのはとてもいいことだと思いますよ」
「そう言われるとありがたい。ところで鹿島はクリスマスに何か思い出は…」
「ありますよ。楽しい思い出というか、
どうして艦娘になったのかっていう理由が」
「理由?それは何だ?」
「うふふ…それは後でね」
「今教えてくれてもいいじゃないか」
「今カラオケに来てるんですから歌わないと」
「そうだった!話し込んでいてすっかり忘れていたよ」
「会話が楽しかったから仕方ありませんよ。残り時間、歌いましょ!」
その後吹っ切れたのか、俺は自分の歌いたい曲を歌いまくったのだった。
「雨が降っていたせいか湿っていて暖かいな」
「ですね…」
カラオケの後、俺達は花火大会の会場となる港に来ていた。雨は止んでいた。
「それにしても花火大会の時間になって雨が止んでよかったよ。
雨天決行とはいえ雨が降りながらじゃ花火に集中出来ないからな」
「確かに…」
「…鹿島、少し落ち着いたらどうだ?」
「…あ、ごめんなさい、本当は今日私が花火大会の警備にあたるはずでしたからつい…」
「仕方ないな…」
「職業病みたいなものですから。今日だって普通に誘ってもよかったのに、
練習巡洋艦としてのサガなのか練習とか言っちゃいましたし…」
「まあ花火大会までまだ少し時間があるからいいよ。
今警備にあたっているみんなを信じよう」
「そうですね。あの時みたいに香取姉ぇが頑張ってくれるでしょうし」
「あの時?」
「え?ああ、あなたには言ってなかったわね」
「どんな話か気になるな」
「さっき言っていたクリスマスが思い出深い理由も気になるけどな」
「まさにそれなんです。実は私が艦娘になった理由は、
数年前のクリスマスの時の花火大会で香取姉が守ってくれたからなんです。
その花火大会もここと同じく港で行われていたのですが、
深海棲艦が攻めてきて、大騒ぎになって……
会場警備をしていた香取姉が深海棲艦を何とか引き付けていましたけど、
一瞬の隙を狙って私のいる客席に攻撃が飛んできて、
もうダメだと思ったその時に香取姉ぇが私たちを庇って攻撃を受けて守ってくれたんです。
その時の香取姉の命がけでみんなの未来を守った行動にとても感動して、
私もみんなを助けられるような人になりたいと思って艦娘になる決意をしたんです」
「それは知らなかった」
「当時の私は艦娘とは違う道を歩んでましたから艦娘になるには苦労しましたよ」
「でも今は艦娘になったんだから夢が叶ってよかったな。
もっとも、艦娘になるだけで終わっちゃいけないけどね」
「ええ。それに、艦娘になった後に世界を回っていた時にまた別の夢が生まれましたから」
「別の夢って?」
「それはですね…」
ヒュ~~~~…………ドーン!
「あっ、花火大会が始まりましたよ」
「っと、始まったか」
「……きれい……」
花火大会の開始時間になった。俺達は会話をやめて花火に魅入っていたのだった。
「花火、とってもきれいでしたね」
「ああいう花火大会に個人の立場で行ったのは久しぶりだったしな」
俺達は立場上中々個人でお祭りに行く事ができなかった。
艦娘なんかはいつ緊急出動する事になるのかわからない以上、
完全な休暇を取る事が出来る者は一度に少数だけだった。
完全休暇が取れても海関係のイベントには勤務している艦娘が警備に関わっている以上、
非番とはいえ艦娘が働かない事がバツが悪いのか行く者はあまりいなかった。
「このケーキ美味しいですか?」
「ケーキも美味しいな」
俺達は花火大会が終わった後、鎮守府に戻った。
そしてどういうわけか俺の部屋でケーキを食べる事になった。
「特製サンドイッチケーキ、喜んでもらえてよかったです」
「ケーキもサンドイッチか。君は本当にサンドイッチが好きなんだね」
「うふふ」
「今日食べたサンドイッチもとっても美味しかったよ」
「喜んでもらえて嬉しいな、えへへ……」
俺に褒められて笑顔を見せる鹿島は本当に可愛かった。
こういう素直なところも彼女の魅力である。
初めて見る人は結構見た目から彼女をS的な性格と見てしまう人が多いが、
実際は素直で優しく、気が利くいい娘である。
俺の場合会う前から『Sっぽく見えて実は素直』という事を聞いていたからか、
彼女の第一印象にSっぽさは感じなかった。
精々Sっぽいと言われてそう見えなくもないなと思うくらいである。
「今日は楽しかったですか?」
「女の子と二人で出かけるなんてなかった事だったから、楽しかったよ」
「でも、もしかしたら気を遣わせたかもしれないと思うと…」
「大丈夫だって。それに色々と悩んでも、
今後の為に役に立つ事と思えば無駄じゃないさ」
「よかった……じゃあ…こういうこと………しませんか……」
「え…………」
彼女は俺のベッドに腰掛け、服をはだけさせ、
着やせしていたと言わんばかりに豊かな胸を見せ、
リボンを取ってツーサイドアップを解いた。
「今日はイブだし……こういうことだって……」
「……どうして……」
何をするのか何となくだが予想は出来た。
しかし、だとしたら何故するのかという理由がわからなかった。
「提督さんは女性とお付き合いをしたことがないのでしょう」
「ああ、生まれてこの方、全く経験はないな。
誰かと男と女の関係になった事もね」
「…………だったら私で練習してください…」
「は?」
あっさりと認めた俺に彼女は一瞬戸惑ったが、
お返しに発せられた言葉はそれ以上に俺を戸惑わせた。
「これから提督として新泊地に赴くのでしょう?
そこで艦娘達と慰安目的で男女の関係になる可能性もあるでしょうし」
提督と艦娘が肉体関係を持つ事は珍しい事ではない。
もちろん艦娘とは上官と部下の関係でしかない提督もいるが、
一人の艦娘しか愛さない者、多数の艦娘との間で板挟みになる者
半ば自らの欲望を満たす為に抱く者、艦娘の性欲の為に渋々抱く者
はたまた、両方の利害が一致して刹那的に求め合う者……
様々な理由が存在するのである。もっとも、中には噂話程度のものもあるが、
それらはスキンシップの行き違いによるものからついた尾鰭背鰭だろう。
「別に私はそういう趣味はない……ただ快楽だけが目的な艦娘には尚更だ」
「…でも艦娘としなくても生きている上でいつかはしなきゃならない事でしょう」
「それはそうだが……」
そのいつかはしなきゃいけない事をしたい相手は今、目の前にいるのに……
「だけど君は…」
「私も経験ありませんけど……でも提督さんの未来のためなら頑張れます。
私は練習巡洋艦ですから、これくらいは割り切って…………」
…………は?どういう…まさか鹿島も……?だけど……
「……だがな、こういう事は、そう簡単にしていいものではないと俺は思う。
俺には割り切ってやれる自信があまりない……」
俺は何故受け入れないのだろう。相手は恋慕していた女性である。
しかもおそらくはまだ男を知らない。
相手がもしただの練習相手となる事しか考えていなくても、
あるいは相手がこれから『練習巡洋艦』としての経験を積むためか、
どちらにしろ割り切って抱いてしまってもいいのに。なのに…………
「…………提督さんは私のこと、どう思ってるんですか?」
「どう思ってるって……」
「私は……提督さんのこと……好きなの……」
「…………な…」
あまりにも…あまりにも意外過ぎて反射的にさえ反応出来なかった。
「…どうして……」
恐らく…いや、聞けるなんて生涯かけても無理と思っていた言葉だ。
自分がそんな事を言われるような男と思えなかったからだ
「………提督さんは、地上の愛と正義のために、全力で頑張っているから…
そんなあなたを見ていたら、少しずつ心が動いていって…
それに香取姉じゃなくて私にいろんなことを聞いてきたのは、
もしかしたら私のことを好きなんじゃないかと思って……」
鹿島に聞いたのは香取が忙しかったからというのもあるが、
鹿島に好意を抱いていたのが理由でもある。だけどどうせ無理だろう半ば諦めていて、
ほぼ純粋に地上の愛と正義の為に猛勉強に励んでいた。
「だから提督になったら私に勉強を教えてもらったお礼に
私をデートに誘ってくれるかもしれないと恋愛漫画みたいなことを考えてました」
「それはすまない…」
「誘われなかった時、本当は私が誘いたかったのに、
私が誘って、もし断られたらと考えたら自分の気持ちを出せなくて……
だから『練習』という形にして、あなたを誘ったんです。
楽しかった……本当に楽しかったです。
新天地に不安になっていたあなたが元気になった姿を見て、私も嬉しくなりました」
俺も鹿島の笑った顔を見ていたらとても幸せな気分だった。
「…そして、私の好きなものを覚えてくれていたこと、本当に嬉しかったです…
…そうしている内にどんどん気持ちが高まっていって、
今日はクリスマスイブだからあなたにもしかしたら誘われるかもしれないと
期待していて、それでも誘われなくて、だから…………」
誘わなかったのは鹿島の気持ちが推し量れなくて自分に自信がなかったからだ。
まあ誘おうとしてもどうせ宿泊施設はどこも満室だろうと思って
どの道ホテルには誘わなかっただろう。
「だから本気でいった……いったつもりだったのに…
つい自分の気持ちを偽ってしまって……
あなたに気付いてほしいって願ったのに……
でも、自分の気持ちを偽ってあんなこと言った罰ですよね……
自分の素直な気持ちを言わない私には…」
「……今わかったよ。君がいつも付けていたリボン……」
風呂に入るとき以外つけてるらしいという事を青葉から聞いた事は黙っておいて。
「国際信号旗を基にしたリボン……UYのリボン……
それを君が外した意味、そして俺を誘った行動の真意……
君の真意に気付けなくて、下手に怖がってしまって、
それで君を傷つけてしまって、本当にごめん……」
「提督さん……」
「だけど君の本当の気持ちを知って、もう俺の気持ちに迷いはない。
鹿島、君の事が好きだ…大好きだ。本当に……大好きだ。
こんな俺だけど、一緒にいてくれ。ずっと……ずっと…………」
練習なんて一度もした事はない。ほとんど出たとこ勝負の告白だ。
相手の気持ちがわからなければとても言えなかったものだから少し情けないが、
だけど、ありったけの本当の気持ちだ。
「…………」
「…………」
沈黙が走る…………
「…………ぁぁ……ありがとう……本当に…ありがとう…!」
最初は言葉にならないような声だったが、少しずつ、はっきりと俺に伝え返した。
「こちらこそ…な」
俺も言葉を返した。
「…………」
「…………」
再び沈黙が走る。だが先程までの沈黙とは違い、
張り詰めたものではなく穏やかなものである。
やがて鹿島は目を閉じた。何かを期待するかのように。
それがわからないほど俺は馬鹿ではない。
気持ちが伝わった今、恐れるものは何もない。
俺も目を閉じ、自分の顔を鹿島の顔に近付けた。
キンコンカンコーン!
「!?」
急に館内放送が流れた。
『少佐、少佐、香取から話があります。今すぐ提督室に着てください。』
「一体何だ!?」
俺に呼び出しがかかった。
そういや今この鎮守府に少佐はつい最近昇進した俺しかいなかったな。
もっと言うと提督である少将の下に佐官はいなかったという状況だ。
「香取姉が……何かしら……」
いいところで邪魔されてすっかり不満顔の鹿島である。
「何かは知らないが呼び出しを受けた以上行かなきゃな」
「……後片付けは私がしておきますね」
「任せるよ」
そう言って俺はサンドイッチケーキを一つ食べてから提督室に向かった。
「お疲れ様です」
走ってきた俺を大淀が迎えた。この鎮守府に今まで佐官がいなくても
色々とやっていけるのは彼女の存在が大きい。
「それにしても君はよくあの放送で来たな」
「言ったでしょ、少佐って言うだけで来るって」
「何かは知らないですけど……香取は何の用で私を……?」
「私たちも知らないわ。ついさっき聞いて、
たまたまいた日向さんと一緒にこうして集められたの」
「まだ香取は来てないみたいだけど……」
香取はまだみたいだ。俺は待っている間に服と息を整えていた。
「おまたせしました」
そうこうしている内に香取がやって来た。
「みなさん揃いましたね。日向さんもいましたか」
「少佐や大淀、明石を呼んだ理由は何だ?」
「それは…」
「香取姉っ!」
「鹿島!?」
香取が話し始めようとした時、鹿島が入ってきた。
ツーサイドアップはリボンではなくゴムバンドで止められていた。
「鹿島、一体何なの…」
「香取姉っ、私を提督と一緒にいさせて、お願い!
どんな手段を使ってでも……私と提督を一緒に…」
「提督!?」
大淀達が驚いた顔をした。彼女達は何も知らされていないようだ。
「……いいわよ」
「え…」
あまりにもあっさりと認められて鹿島は拍子抜けしていた。
「…………やったあっ!提督さん、新泊地へ行っても一緒にいられますね!」
「あ、その話ですけど、それはなくなりました」
「えっ!?」
「大淀達には伝えていなかったけど、
新泊地の提督に先日少佐になったばかりの彼を派遣しようとしていたの。
でも新泊地の近くに強力な深海棲艦の巣が発見されて…
それで内定していた少佐の代わりに少将が行くことになったの」
「それは賢明な判断です」
正直艦隊指揮未経験の俺に強力な敵と戦えとか無理である。
つーか香取が鹿島の頼みをあっさりと聞いた理由はそういう事だったのか。
「じゃあこの鎮守府の指揮は誰が執るのですか?」
「少佐が執るのよ」
「なんですって!?待ってください。私のような新米提督が、
このような大所帯の鎮守府を指揮するなど…」
「大淀がついているわ。ね」
「え、あ、はい…」
大淀も困り気味だった。
「この鎮守府は艦隊決戦担当ではないから大淀がサポートすれば充分動くわ」
「で、ですが…」
「これは正式な辞令よ」
香取から辞令を見せられた。そこには新泊地の部分が訂正されて
この鎮守府の提督に俺を任命すると書いてあった。
「俺が……この鎮守府の提督に……」
「不安か。だが心配することはない。
この鎮守府には大淀以外にもたくさんの優秀な艦娘がいる。
君は一人で抱え込みかねないが、もう少し他人を頼ってくれ。
頼ることは悪いことではないからな」
「……日向、俺の不安を見抜いていたのか……
そして俺の不安を消すように道を示して後押ししてくれた……
…やはりあなたは師匠だ…」
日向は一見瑞雲マニアな変人という印象を受けるが、
要所要所で人に的確なアドバイスができる。
師匠と呼ばれているのも、ネタにしている意味ではないのだろう。
「どうやら受けてくれるみたいですね。ではこの鎮守府と鹿島を頼みましたよ」
そう言って香取は一足先に新泊地へ行った少佐のサポートの為に鎮守府から出て行った。
「サンドイッチケーキ、本当になくなっていた……」
「今度作ってあげますから」
香取が出て行った後、俺達は明石に冷やかされた。
サンドイッチケーキを一緒に食べていただけという多少の事実を伝え、
これ以上詮索されないように、逃げるように自室に戻った。
「いや、よくもあれだけのケーキ食べられたなあと思ってな」
「女の子にとってスイーツは別腹なんです」
「まあそう言われてるな」
「別腹ですから、今だって他の物を食べられますよ……」
「……何だその目は?」
「さっきは邪魔が入っちゃって、途中までしかできませんでしたから、
今から続き、しましょ。うふふっ」
「続きか……」
「嫌なんですか?」
「そんなわけはないさ。ただ、こういうのは、なんというか、
結婚してからする方がいいんじゃないかと思ってて……」
「さっきは乗り気だったじゃないですか」
「それはそうだけど……」
「そんなに言うんなら、結婚しちゃいますか?」
「は?」
何を言ってるんだと言いたくなる。
いくら俺が恋愛と結婚を完全に一直線に見ていたとしても、
気持ちが通じ合ってすぐに結婚とか、周りから見たら色々言われそうだし、
鹿島と付き合いが物凄く古いならまだしも、
出会ってからで考えてもそんなに年数は経ってないし……
「あの時は余裕がありませんでしたから結婚してなくても、
って思ってましたけど、今はもう気持ちが通じ合っていて大丈夫ですから」
「大丈夫と言われても……そりゃあ俺は結婚には反対じゃない……
つーかむしろしたいのだが、準備とか結構……」
「じゃあ籍だけでも入れましょう。それでいいでしょ」
「あ、ああ……」
まさか彼女がここまで積極的になれたなんて。
「本当に後悔しないな」
「大丈夫です。私の心の天秤は既にあなたに傾いていますから。
たとえ困難な道だとしても、今の私に迷いはありません!」
自分の星座を基にした殺し文句だ。
俺も自分の星座に関係するようなカッコつけなセリフとかを言ったりした事もあるが、
彼女はそんな俺を見てそういう言葉が好きだろうと思ったのだろう。
ぶっちゃけ誰が聞いてもほとんどの人はそう思うだろう。
でも後半のセリフはどう考えても蠍座のあの人のセリフが大元だと思うが……
「明日は……じゃなかった。日付が変わりましたから今日ですね」
「今は12月25日……クリスマス当日だな」
「お休みですからその時に色々と調べておきましょう。
あなたが提督としての仕事をするのは、年明け以降になるでしょうからね。
それまでは大淀さんが頑張ってくれますよ」
大淀、すまぬ……
「それじゃ今日はもう寝ますね。おやすみなさい」
「おやすみ……ってせめて部屋に戻ってくれ!」
俺のベッドでしれっと寝ようとした鹿島を無理やり引き起こし、部屋に戻らせたのだった。
「やっとあなたと一つになれるのですね……私……嬉しい……」
25日、クリスマスの夜、俺はついに鹿島と一つになるのだ。
とりあえず入籍は婚姻届さえ出しておけば、不備さえなければ一応受け止めてくれるものらしい。
必要な戸籍なんかも届け出て『その日に入籍しました』とするだけなら絶対必要ではないらしい。
ただ戸籍等がないとその後の手続きに困る為、なるべくなら一緒に出した方がいいものだ。
しかしなんというか無茶なものである。無茶は俺の専売特許になるだろうと思っていたが、
この鎮守府には俺の予想を遥かに超えた無茶な方々がゴロゴロいた。鹿島もその一人だ。
まあ他のみんなからすれば俺も随分無茶してるなと思うだろうけど……なんだかなぁ……
「もう…恥ずかしいんですか?これからもっと恥ずかしいことになると思いますよ」
「そうだな、もう迷ってなんていられない。
俺は心が燃えている限り進み続けるって決めたんだ。だから!」
「ふふっ」
鹿島が微笑み、そして目を閉じた。ここから先は練習なんか出来るものではない。
少なくとも、今からする事は、今からの一回しか出来ない事である。
今度は邪魔されないだろう。いや、邪魔されたって……
俺も目を閉じ、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
とても柔らかくて、暖かな感触が唇に伝わった。
ただ唇を重ね合わせるだけ。だけどそれだけでもとても心臓がドキドキした。
この時の気持ちはもう二度と味わえないだろう。
正真正銘初めての、一番最初のキスである。
数を重ねていく内に今のような気持ちは薄れていくかもしれない。
だけどどんなに小さくてもこのときめきを感じる心だけは持ち続けていたい。
俺はそう思いながら彼女をそっと抱きしめたのだった。
「んっ…………これが……キス……か……」
鹿島から唇を離した。彼女は
『お前の言う言葉じゃないだろそれ』
って突っ込みたくなるような事を鹿島は言った。
彼女はこれも初めてという事か。俺に緊張が走った。
「次は……こっちにお願いね……」
彼女は少し恥ずかしそうに胸を寄せて上げた。
あんな無茶やっておいてこれは恥ずかしいのか。
まあ『それはそれ、これはこれ』なんだろうけどさ。
俺は左手で彼女の右腕を揉みながら彼女の既に固くなっていた乳首を咥えた。
「ん……」
彼女の声は少し艶かしかった。
俺は唇とは違った柔らかさと暖かさを持った乳房を弄りながら、乳首を口で刺激した。
「んん……」
声が先ほどよりも艶かしくなった気がした。俺は右手で彼女の秘部を優しく触れた。
「ひゃっ!?」
誰にも触らせた事のないところを触られたのだ。
反応しないのがおかしい……のかもしれない。
俺は彼女の声がどんどん艶かしくなっていると気付き、刺激を強くしていった。
乳首を吸うだけではなく、舐め回したりつついたり、唇で少し強く甘噛みしたりし、
右手は少し大きくなってきていた固いものを強く刺激しないよう気をつけて刺激した。
正直言って自分は女性経験なんてない。そういう店にも行ったことはないし、
そもそも女性の裸を生で見た事さえもない。
練習とか全くしてなくて全て手探りだった。今の所それが好調なようだが……
「きゃあっ!」
彼女から悲鳴にも近い声が上がった。もしかしたら強く刺激しすぎたかもしれない。
俺は固いところの刺激をやめ、穴の部分を攻めようと小指を使った。
彼女も未経験である以上中指も人差し指も無理だろう。
俺は少し湿り気を帯びてきたそこを手探りしつつ、
凹んでいる場所を発見し、そのまま小指にゆっくりと力を入れた。
「あ、なん…か、入って……っ」
それなりに濡れていたのか、少しずつだが入っていった。
俺は進まなくなるまで突っ込み、引き出す事をゆっくりとだが繰り返した。
それを繰り返している内に水気が増え、音もたってきた。
「やあっ……なんか……うぅ……」
彼女の声が一層艶かしくなった。その声が俺の挿入欲を引き立てたが、
今彼女に突き入れてもおそらくただ苦しめるだけだろう。
俺は我慢して、彼女の秘部を口で刺激することにした。
「ああっ、ちょ……っ……そこは……」
普段おしっこする所を舌で舐められているのだ。驚くのも無理はない。
俺もどちらかといえば潔癖な方ではあったが、今の俺にはそんな気分はなかった。
ただ彼女の穴という穴……不浄な穴も、清らかなヴェールに包まれた穴も刺激し続け、
極上の珈琲豆でさえも足元に及ばないような雛豆を味わった。
「もう……これ以上は……っ!!」
鹿島は強い力で俺を引き離した。
彼女は艦娘とはいえ艤装がなければただ身体能力の高い娘であった。
普通の女性相手なら不意を突かれても堪えられただろうが
鍛えた女性相手では構えてなかった事もあって簡単に離された。
「ッ、鹿島っ!?」
「私ばかりしてもらうだけじゃ……いや……今度は…私も……」
そう言って彼女は既に大きく張り詰めていた俺のちんちんを握り、口で咥えようとした。
「待ってくれ!」
「え…どうしてですか?気持ちいいと思うのに…」
「確かにそうだと思う。けど、今この瞬間は今しかないんだ。
初めてなのだから、せめてここに全部……」
俺は彼女のお腹を指差した。生命の源が本来吐き出され、受け止められる場所……
せめて初めての時だけはそこに全てを出したかったからだ。
「…………来てください。もう、大丈夫ですから……楽になって……」
そう言って彼女は俺のちんちんを自らの秘部に触れさせた。
彼女は恐れているのだろうけど、それ以上にもう我慢しきれない俺を心配していた。
「…………わかった。それじゃ……力を抜いてくれ……」
恐らくまだ十分ではないかもしれないが、もう限界に近かった。
これからする事ははじめてどうしがする事。
練習なんて本当にできない。精々イメージトレーニングするくらいで、
実践的な練習なんてできない。
『練習』してしまえばそれはもう『本番』なのである。
二度とやり直しのきかないものだ。
失敗するかもしれない……というか成功するなんてほんのひと握りだろう。
それでも……それでも俺達は…………
俺は彼女に導かれるままにちんちんを挿入していった。
「くうっ……ぁ……ぁ……」
彼女は一瞬力を入れたようだったが、すぐに力を抜こうとしていた。
俺を簡単に受け入れる為だろう。しかしあまり力が抜けているようには思えなかった。
しかしそれで彼女を責めるのは酷だろう。彼女は初めてなのだ。
緊張して硬くなってしまうのも無理はないだろう。
俺だって我慢するのがかなり難しい。しかし男のそれと女のそれは一緒にはできない。
「あくっ……ぅぅ……」
彼女の声からは艶めかしさが消え、苦しむような感じだった。
なかなか入らず、俺も限界に近づきかけていた。
「……すまない、一気に行かせてもらう……」
「……はい、来てください」
彼女も苦しみから逃れたいのか、
それとも苦しむ自分を見せて俺も苦しめたくないのか……
このままでは埒があかず、彼女が望んだのなら、
もう躊躇う必要はないかもしれない。
俺は覚悟を決めて力を込め、彼女に突き入れた。
ブツッ!!
「!!ッーーーー!!?!」
何かを破ったような音と感覚がして、彼女の声にならない、
…いや、出すまいとした叫びが聞こえた。
結合部を見るとそこから赤い雫が流れ落ちていた。
俺のちんちんは彼女の純潔を破りさり、奥深く入っていった。
そこは今まで感じたことのないくらい気持ちが良かった。
暖かくて湿った感触、締め付けがもたらす快感。
「ごめん…もう……」
「っ……きて…くださ…ぃ……」
痛みに耐えながら精一杯受け入れようと声を振り絞る彼女。
彼女の許しを得たと思ったとたん、俺の限界はあっさりと訪れた。
ドクンッ!ビュクンッ!ドビュルルルッ!!
自分一人で欲望を吐き出す練習をしていた時とは比べ物にならないくらい気持ちよかった。
ドロドロした熱いものが、勢いよく、大量に彼女の中に吐き出された。
430 :リボンに包まれた本当の気持ち:2015/12/25(金) 22:57:37 ID:F.hV5l7U
「ぁぁ……」
「んん…………熱いのが……ビクビクって……ぶつかって……」
体内に迸るものを彼女は感じていたようだ。
彼女のあらゆる一挙一動が、俺の射精欲を更に高める。
ビュルルル!ビュルルル!ビュルル!
女の子と、それもとても大好きな子と一つになるというのは
これほど気持ちのいいものだったのか。
本当に…本当に今まで感じたことがないくらい気持ちよかった。
「はぁ……はぁ……」
「うぅぅ……」
どれくらいの時間が経ったのだろう。気がつくと射精は終わっていた。
そして彼女は俺をおぼろげな目で見ていた。
「……」
俺は何も言えなかった。自分だけ勝手に気持ちよくなってしまって……
「ぁ……あの……気持ち良かった…ですか…?」
「…ああ」
自分一人だけ気持ちよくなったなんて許せない事だが、
ここで否定してしまえば彼女を傷つけることになってしまう。
俺は気持ちを素直に伝えた。
「よかっ…たぁ……」
彼女の顔からかすかに笑みがこぼれた。痛いだろうに、苦しいだろうに……
それでも俺を気遣ってくれた彼女の心が俺を苦しめると同時に有り難さも感じさせた。
「…ふふっ、あなたの顔、とても気持ちよさそうでしたよ」
「ああ……」
「……よろしければ…もっと動いても…いいですよ」
自分が苦しくても俺の事を考えてくれる。
だがいくら甘えられたとしても、甘え過ぎる自分を許せそうにない自分がいて、
俺は動こうとしなかった。ちんちんが小さくなっていたのだから動きようもなかったけど。
「あ……」
「髪…とても綺麗だな……少しクセっ毛だけどサラサラで、ずっと触っていたい」
俺は動かず、彼女を抱きしめ、暖かさと鼓動を感じながら髪を撫でていた。
「嬉しい……髪を褒めてくれて……本当に………ありがとう……」
彼女の声からは苦しみが薄れ、万感の思いで感謝しているようだった。
俺は動く事なく、彼女を体全体で感じていた。
やがてまた彼女の中に入れていたちんちんが固くなってきた。
「また…私の中に……感じます……もっと、動きたいですか……」
「許されるならね…」
「いいですよ…私で気持ちよくなって…ください……ね」
「わかった。やらせてもらうよ」
あまり気遣いすぎても逆に彼女を暗い気持ちにさせるだけだ。
だったら彼女の言葉を信じよう。
最初に入れた時はすぐに出してしまい、動く事ができなかった。
動くのはこれが初めてである。俺は腰を前後に動かした。
じゅぷっ……じゅぷっ……
しばらく入れられていた事により馴染んだのか、
彼女の精神的な悦びが愛液を分泌させていたのか、
多分処女を奪ってすぐに動かしてしまうよりもなめらかに動いていたかもしれない。
粘膜と粘膜が擦れ合う感触がとても気持ちよくて、
動かすたびにそれが増幅していき、どんどん腰の動きが激しく早くなる。
「かぁっ……ん……くっ……」
彼女は恐らく必死に耐えていた。最初の時とは違い馴染んできていたとは言え
それは完全ではないだろう。まだ彼女にある緊張感が快楽よりも勝っているようだった。
そして俺が彼女を気遣おうとする気持ちよりも自分が快楽を得ようとする気持ちも……
明朗さを失いながらも人を想う気持ちを失っていない彼女に俺は甘えているようだった。
そして二回目もまもなく訪れた。もうこらえきれないと感じ、思い切って腰を打ちつけた。
ビュルルルルーーーーッ!!
一度目の時とは違い、粘度が少なかったのか、勢いよく放出される感覚だった。
ビュルルーーーッ!ビュルルーーーッ!!
どろりとした感覚とは違う、勢いがもたらす感覚は一度目とはまた違った感覚を与えていた。
「ッーーーーー!!」
彼女は脚で俺の腰を挟んでいた。まるで絶対に逃がさぬかのように、
全てを絞り尽くそうとするかのように、強く。
ビューーッ!
永遠とも感じた射精感に俺はまた快楽に酔いしれていたのだった……
「俺だけ気持ちよくなってしまった……」
「初めてだから、仕方ないですよ。男の子ですから。
女の子が最初から気持ちよくなるなんて、
やっぱりそんな都合よく行きませんね」
「それはそうだろうけど…」
「セックスの練習なんてしてませんし、
そもそもはじめてどうしなんて練習のしようがありませんもの」
「まあ、確かに」
「でも私の中にあなたの熱い想いがたくさん……とても嬉しいです」
行為が終わり、彼女は徐々にいつもの明朗さを取り戻していた。
「受け止めてくれて…ありがとうな…」
「えへへ…………これからももっとしていきましょうね。
していけばきっといつか二人で気持ちよくなれますよ」
「そう信じるよ」
「……ねえ。いつか平和な海が戻ったら、一緒に遠洋航海に行きたいですね」
お腹を優しく撫でながらうっとりとした目で微笑んでいた。
もしかして今日はその日だったのか……
いや、後悔なんてない。父親と母親を早く安心させたいし、
それにもし二人の愛の結晶が実ったのなら、
きっと未来への希望がもっと沸くはずだ。
「行きたい所いっぱいあるんです!きっと…きっと行きましょう!」
「ああ、一緒に行こう。俺はインドア派だけど、
でも君と一緒だったらどこにでも行けそうだよ。
俺達の手で、地上の愛と正義を守り、静かな海を取り戻してみせるさ!」
「うふふ、期待できそう。私、楽しみにしています」
鹿島の柔らかな笑顔が俺に勇気を与えてくれる。
君がいるから、どんな困難にも踏み出していける。
若さに任せて色々と突っ走ってきたけど、
もしかしたらいつか壁に当たってしまうかもしれない。
それでも未来を信じて生き続けようとする意思が、
新たなる時代を作り出していくと信じている。
世の中練習じゃどうにもならない事、練習なんてできない事、
そんな事が沢山あるだろう。
だけど生きてきた中でやってきた事から糸口を見つけ出し、
そして希望を信じる事で前に踏み出していく。
そう、未来を作り出していく為に――――
―終―
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後書き |
434 :名無しの紳士提督:2015/12/25(金) 23:03:46 ID:F.hV5l7U
以上です
鹿島は大鯨とは違い一目惚れではありませんでしたが、
色々見ていく内に大鯨や鳥海に匹敵する存在となっていました
今回のイベントはスルーのつもりでしたが、
鹿島の波動に魅入られてしまい、12月に入ってからたったの二日、
時間にして7時間くらいでクリアして鹿島を迎え入れたほどです
ちなみに鹿島を迎え入れた時の第二艦隊のMVPは鳥海でした(どんな活躍だったかは覚えていない)
長々と失礼しました。それではまた
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これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
最終更新:2016年09月15日 16:49