一通り二人をからかってから、
「そろそろマズイかもな」
近くを飛んでいた相棒に向かって鋭く口笛を吹いた。
何事かと思いながらマルーは悠々と舞う鷹を見上げたが、
リンファは既に厳しい表情で身構えている。
「さすがにこれだけ騒いでちゃね~」
声音は明るいままだったが、
油断なく周囲を警戒していた。
さすがにマルーも気づいたか、しっかりと剣を構える。
沈黙の流れる場に、ふいに何か白いものが現れたと同時
リンファが素早くそれを切り捨てた。
間髪いれずに視界の端に何か捕らえたが
そっちは相棒が急降下して、鋭い嘴と爪で迎撃する。
相手も様子を伺っているのか、すぐには出てこない。
少しずつ出てきたのを片付けてる内に、
もともと周囲に満ちていたモンスター達の殺気が段々と濃くなっていた。
「・・・・・・・・・・・・」
再び訪れた静寂を破ったのは、やはり場にそぐわない
リンファとマルーの明るい問い掛けの声だった。
『・・あのさぁ、ジル兄?』
「なんだ?」
お互い背中を合わせるように迎えうっていたので
表情まではわからなかったが、
『なんでさっきから弓で攻撃しないの??』
二人のそろった声に
手を広げて肩をすくめてみせる。
「矢がないからに決まってるだろう?」
今また通路の奥に敵を認めたのか、
先ほどから自分の代わりというように敵を蹴散らしていた相棒が
そちらの方へと勢いよく飛んでいった。
「え?? えっと・・・・?」
「矢がないって? どうやって戦うつもりなの??」
自分の方に顔を向けて、困惑の表情を浮かべる二人に、
今度はわかるようにゆっくり言った。
「矢が、切れたから、戻る、途中だったんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
二人とも何か考えるように、それから目を合わせた。
答えがでたのだろう。小さくぽつりと呟いた。
『・・・・・・・戻ろうか』
「それが賢明だな」
この人数で、ましてや負傷した騎士に武器のない狩人。
囲まれたら到底、無事にはすまないだろう。
「ジル兄と合流できたら平気かなって思ってたのになぁ」
「居もしない他人を当てにするなよな・・」
呆れたように目を細め、リンファとマルーに
先に逃げるように促す。
「武器がないんだから先に逃げるのはそっち」と口を揃える二人だったが。
先ほど休憩していた時に、壁際に置いておいた大きな袋から
自分が矢の束を取り出すのを見て、驚いたのか軽く目を見張った。
「ジル兄、そ――」
「全部使ったとは言ってないだろ? いざという時の為に非常用にとっておく。
狩人でなくても基本だぞ。それでも出口へ行くまでぐらいの本数しかないんだから
――ぐずぐずしないで先に、早く行ってくれ」
二人の言葉を途中でさえぎり、
矢を弓につがえて視界に入った敵に撃ち込む。
相棒も援護しているのをみとめて、リンファがひたと目を見据えた。
ここで一緒に行こうと言われたら、どう説得しようかと頭をよぎったが、
「わかったけど。すぐ後追ってきてね?」
こっちの意図をちゃんと汲んでくれたようだった。
マルーが何か言いたげに眉根をよせたが、大人しくリンファに従っている。
「俺が死ぬようなヘマするわけないだろ。誰かさんと違って」
「だ、誰かって?!・・・むぅぅ、後で問い詰めちゃるから~!!」
「こっちこそ何考えて押しかけたか問い詰めちゃる」
「無事に二人が戻れたらな」と笑うと、安心したのか。
リンファとマルーが踵を返して、来た道へと駆けてゆく。
二人の横から飛び出そうとしていたモンスターに矢を撃ち込むと、
マルーが礼でも言ったのか手を振るのが見えた。
「手を振るんじゃなく剣を振れって・・・・」
嘆息とともにこぼしながら、矢をつがえる。
周囲を警戒しながら二人が消えた方向へ移動し、下階への地点までくると
敵の姿がないことを確認してから、袋から矢の補充をする。
辺りの殺気は膨らむばかりだったが、まだ動くことは出来なかった。
「まだ二人とも出口まで辿りついていないだろうし」
敵の気配を肌で感じながら、これだけの数が下階に流れたら危ないだろうと
出来る限りの時間稼ぎをするつもりだった。
二人がこなければとっくに逃げているところだ。
(・・・・あの二人が出口まで、か)
矢の残りを数えながら、ふと
筋金入りの方向音痴なリンファがいるのを思い出し、
「お前も貧乏くじ引かせて悪いな」
主人を気遣うように
腕に止まった相棒に苦笑をもらした。
承知していると言わんばかりに翼を羽ばたかせ、
鷹が一声大きく鳴いた。
最終更新:2009年01月25日 22:23