第一部「ナースの門」

第一部「ナースの門」


「たぶぅー!」「たぶねぇ!」「たぶぅ~♪」

大きな部屋にたくさんのベビンネ達がひしめきあっています。その数はざっと見ても百匹
以上、ベビンネ達はそこでヨチヨチ走り回って遊んだり、昼寝をしたり、二匹で戯れ合っ
たりと思い思いに過ごしています。

ここは病院で働くナースタブンネの育成場、ここではタブンネを卵から立派なナースへと
育て上げ、イッシュ地方各地の医療施設へと送り出しています。

このベビンネ達は少し前に卵から産れたばかりの個体です。これからナースとして必要な
教育を受け、優秀なナースタブンネに成長していくのです。
ですがその前にある作業があります。

「たぶぅ?」
ベビンネ達がいる部屋の壁がグィーンという機械音をたてて動き出しました。そしてその
反対側の壁が開き、そこからベルトコンベアが現れます。
壁に押し出されたベビンネ達はコンベアの上に落ちます。しかし然程の高さはないので痛
みを感じることはありません。
「たぶ?」
コンベアの上で不思議そうな顔をするベビンネ達、昼寝をしていたベビンネはキュッキュッ
と目を擦って周りを見回します。
やがて、コンベアがゆっくりと動きはじめるとベビンネ達は楽しいのか「たぶねぇ♪」と
はしゃぎます。
少し進んだところには数台のアーム型ロボットがあり、ベビンネ達はそこでナースに適し
ている「いやしのこころ」と適していない「さいせいりょく」に分けられるのです。
いやしのこころベビンネはそのままコンベアで先に進みます。そして、さいせいりょくの
ベビンネはロボットに掴まれ、別のコンベアに乗せられます。

では、ナースに適していないさいせいりょくのベビンネ達はどうなるのでしょう?
「たぶぅ♪」「たぶねぇ~♪」
さいせりょくのベビンネ達はいきなりロボットに掴まれて驚いたものの、やはりコンベア
が楽しいのか、小さな手足をパタパタと動かしてはしゃいでいます。これから自分達が
どうなるかも知らずに…
しばらく進むと、さいせいりょくベビンネ達の耳は鋭い機械音をとらえました。それと
同時に「たぶぅぅっ!!」と、コンベアの最前列にいたベビンネの悲鳴が響きます。
コンベアの先にはフードプロセッサーがあり、さいせいりょくベビンネは次々とミンチに
されていきます。

「たっ!たぶぅぅぅ!」「たぁぶぅーーー!!」
ベビンネ達は慌ててヨチヨチ走ってコンベアの動きに逆らいます。しかし産れて間もない
ベビンネはすぐに転んでしまい、抵抗空しくみんなミンチにされました。
さいせいりょくベビンネ全員の処分を終えると、フードプロセッサーからはニュルニュル
とミンチになったベビンネの肉が出てきます。
これは、後にベビンネを生産するママンネの餌になるのです。

数か月後、仕分けられたいやしのこころベビンネ達は一回り大きくなって子タブンネに成長
していました。

「たぶね♪」「たぶたぶぅ~♪」
ベビンネ達が過ごしている部屋に育成場の職員が大きなスクリーンを持って入ってきました。
餌の時間と勘違いした何匹が職員に向かって甘えた声で鳴きますが、スクリーンを設置し
た職員はすぐに出て行ってしまいました。
職員が出て行ってすぐ、スクリーンに何かが映ります。

『タブンネちゃんお怪我を治してくれてありがとう!』
『たぶねぇ♪』

流れている映像は、病院で働いているナースタブンネの仕事風景です。

『タブンネ、この患者さんのお世話をたのむよ』
『たぶぅ♪』
『やっぱりタブンネは頼りになるなぁ』
『タブンネちゃんは働き者でいい子だね~』
『たぶねぇ~♪』

映像の中のタブンネは周りの人たちに温かい言葉をかけられながらとても楽しそうに仕事
をしています。子タブンネ達は映像に興味津々です。

『タブンネ、急患だっ!』
『たぶっ!』

今度は大怪我をしたポケモン達をナースタブンネがいやしのはどうや、いやしのこころを
使って手早く治していきます。
子タブンネ達はそれを見て「すごーい!」「かっこいいーっ!」等と声を上げます。
これがこの映像の目的です。
こういった医療の現場で活躍するナースタブンネの映像を見せることで幼いうちからタブンネに
ナースに対しての憧れ、興味を持たせるのです。

『タブンネ、みんなを助けてくれてありがとう!』
『さすがナースさんだね』
『たぶぅ♪』

そして最後に、急患をすべて治したナースタブンネがみんなから褒められて頭を撫でても
らっているところで映像は終わりました。

そんなナースタブンネ達の映像をひと月程子タブンネ達に見せ続けます。
何日かした頃には、子タブンネ達のナースに対する興味や憧れも大きくなり、いやしのはどうを
出そうと手をかざして頑張る者や、ナースごっこをして遊ぶ者等が現れます。

しかし、中には映像を流している最中に昼寝をしたり遊んでいたりと、ナースに全く興味
を示さない者も何匹か出ます。そういった者は他の者に悪影響なのですぐに職員がどこか
へ連れて行ってしまいます。


そして一か月経った頃、また職員が餌やり以外の目的で部屋に入ってきます。
「おーいタブンネ達!」
「たぶ?」「たぶね?]
「キミ達はあの映像のようなナースタブンネになりたくないかい?」
職員はニコニコしながら子タブンネ達に訊きます。
「たぶぅ!」「たぶねぇ!」
子タブンネ達はみんな大きく頷きました。
「よしっ、これからキミ達は立派なナースになるんだ。いっぱい勉強をしてみんな頑張っ
て優秀なナースタブンネになろう!」
子タブンネ達は憧れのナースになれると聞いて、青い瞳をキラキラと輝かせて喜びます。

ここから、ナースになるための教育が始まるのです。
まずはそれをいくつか紹介しましょう。

「たぶぅ…たぶぅ…」
子タブンネ達は手先に全神経を集中させて何かをやっています。その手には、小さな針と
糸が握られています。
今、子タブンネ達がやっているのは針の穴に糸を通すという作業、一見ナースとは
何の関係もないように思われますが、これはとても大事なことなのです。

ナースというものは不器用ではいけません、うっかり危険な薬品を落としてしまったり、
医療器械を壊してしまったりしては大変ですからね。
なのでこうしてタブンネ達の手先を鍛えているのです。
「たぶぅぅ……」
しかし人間でも難しいこの作業、指が太いうえ不器用なタブンネには至難の業です。
この日の糸を通す針のノルマは30本、ノルマは日に日に増えていきます。
「たぶぅ…たぶね…」
小さな針の穴に何とか糸を通そうとプルプルと震える指先で奮闘する子タブンネ、なかなか
うまくいきません…
「たぶぅぅぅぅっ!!」
こちらの子タブンネはどうやら自分の手に針を刺してしまったようです。ハートの肉球からは
ぷくっと赤い血が浮き出ています。
「たぶんねぇ」「たぶ~たぶ~」
痛みにえぐえぐ泣いている子タブンネを他の子タブンネ達が励ましてあげます。まだ、
いやしのはどうが使えないので肉球をペロペロ舐めてやることしか出来ませんが、痛みは
大分楽になったらしく怪我をした子タブンネは笑顔でちょこんと頭を下げてお礼を言います。
そしてまた、子タブンネ達は作業を再開します。

夕方頃、作業をする子タブンネ達の元に職員がやってきました。
「たぁぶ…」「たぶねぇ…」
すると急に子タブンネ達は怯えだしたり、慌てだしたりします。
「やぁ、タブンネ達、今日もしっかりノルマは達成できたかな?」
職員はニコニコしながら子タブンネ達を見て回ります。
「おや?」
足を止める職員、その視線の先の子タブンネはブルブルと震えながら申し訳なさそうに
職員に対して「たぶぅ…」と鳴きます。
「キミ、26本しか糸を通してないじゃないか、いけないね~ノルマは30本だろ?」
「たぶ…」
「26本だから足りなかった分4発だね」
そう言って職員はその子タブンネの頭をポカリポカリとげんこつで4発殴りました。

子タブンネは頭を押さえて涙目になりますが、構わず職員は別の子タブンネに目を向けて
「キミは17本だから13発だね」と13発殴ります。

時間内にノルマを達成できなかった子タブンネは足りなかった分だけこうしてげんこつを
浴びせられるのです。
少々厳しいかもしれませんが、何せナースは命を取り扱う現場で働く重要な役割、手緩く
いく訳にはいきません。

「ん、キミ、何を隠してるんだ?」
「た…たぶぅ…」
どうやらこの子タブンネは自分の尻尾の中に針を隠して、無くしてしまったことにしよう
としていたようです。

「ずるいことをするとどういうことになるかわかるよね?」
すると、今度は真っ赤に焼けた鏝を持った職員が入ってきました。
「たぶ…!たったぶぅ!たぁぶねぇぇ!!」
子タブンネは慌てて「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしないからゆるして!」と必死
に懇願します。
しかし「もう遅いよ」と一言言って職員は子タブンネを押さえつけました。
「たぶっぅ!たぶぅ~~!!」
涙を流して逃れようと身を捩じらせる子タブンネ、もう一人の職員はそんな子タブンネに
鏝押し付けます。
「だぷぅーーー!!たぶっ!ぶぅーーーーー!!」
ジュ~ッと肉が焼ける音と共に子タブンネの絶叫が響きます。他の子タブンネ達は目を
キュッとつぶって耳を押さえています。
鏝が離されると子タブンネのふっくらした黄色いお腹には痛々しい焼印が残りました。
「た…ぶぅ……」
子タブンネは空ろな目をしてポロポロと涙を流しています。

この焼印は、ナース失格を意味するもので、主にこの子タブンネのように反則行為をした
り、何度注意されても同じ失敗を繰り返したり、匙を投げたりした者に対してナース失格
と判断されて押されます。
焼印を押されたらもう一生ナースにはなれないと教えられている子タブンネ達にとって、
焼印を押されることは何よりも辛いことなのです。

焼印を押された子タブンネは、職員がどこかへ連れて行ってしまいます。

この糸を通す作業が終わると、次に行われるのは体力作り。
ナースは、夜中に急患が出て徹夜をしたり、患者をベッドに寝かせたり降ろしたり、
リハビリをする患者を支えたりと意外にも力のいる仕事です。

子タブンネ達は技マシンでかいりきを覚えさせられて、自分の体重より二倍の重さのある
患者に見立てた人形を担ぎ、職員監視の元何時間も歩かされます。
「たぁ……ぶぅぅ……!」
人形を背負ってヨタヨタと歩く子タブンネ達、どの子タブンネも辛そうに顔を歪めていま
す。
かいりきを覚えさせられたといっても、自分の二倍の重さがある人形を何時間も運ばされ
ては、子タブンネの体力ではとてももちません。
「たぶぅ…ねぇぇ…!」
しかし人形を落としたり降ろしたりしたらげんこつです。そしてそれを5回以上やったら
あの焼印を押されてしまいます。

「たぶ!たぶねぇぇ…!!」
少し小柄なこちらの子タブンネは必死な顔をして踏ん張っています。頭の5つのコブを見
る限り、もう次落としたら後がないようです。
「ねぇ……っ!たぶぅぅ……!!」
プルプルと全身を震わせながら一歩一歩進んでいますが今にも倒れてしまいそうな子タブ
ンネ…時折他の者に助けを求めますが他の子タブンネ達もそれどころではありません。
出来ることはせいぜい「がんばって!」「もうすこしだよ!」と声をかけてやることくらい
です。

「たぶっ!」
とうとう子タブンネは人形を落としてしまいました。地面に人形が転がると同時に子タブ
ンネの顔が絶望に染まります。
「たぶっ、たぶねぇ…」
「タブンネ、大切な患者さんを何度も落としちゃダメじゃないか、キミ、ナース失格だよ」
職員は先端が赤くなった鏝を取り出します。鏝自体に恐怖心を抱いている子タブンネは固
まって動けません。
「たぶぅぅたぶねぇぇ!」
子タブンネは目に涙を浮かべて謝りますが職員は容赦しません、問答無用で鏝を押し付け
ます。
「たぶゃぁアあああああ!!」

「これでキミはナースになれないよ、一生ね」
そう言って職員はイヤイヤと首を振って現実逃避しようとする子タブンネを連れて行きま
した。

このように、子タブンネ達はナースになるために勉強だけでなく、とても厳しい訓練も受
けるのです。
紹介したこの2つ以外にも子タブンネ達は様々な教育や訓練を受けます。
患者に対しての対応、薬品や医療器械の使い方、患者の症状の見分け方等々…

朝から晩まで子タブンネに休んでいる暇などありません、くる日もくる日も医療関係の物
とにらめっこ…過酷な訓練…人間でも耐え難いものです。

しかし子タブンネは、ナースになりたい!病気や怪我の人を救ってあげたい!その一心で
それを耐え抜きます。
子タブンネ達は職員の教育を受けるうちに、「タブンネにとってナースになることは
すべて、ナースになれないタブンネは廃ポケ同然」という意識が
形成されていたのです。

一年が経ちました…子タブンネ達はもうすっかり子タブンネではなく、成体のタブンネに
なっていました。
そこまでの間に、何十匹ものタブンネ達が焼印を押されて去っていき、ナース教育を始め
た頃に比べてタブンネの数は半分近くに減っていました。

「さて、タブンネ達、キミ達ももう立派な大人だ。いよいよナースタブンネとして必須の
技、いやしのはどうを教えよう」
「たぶねぇ~♪」「たぶ~♪」
職員が言うと、タブンネ達は歓喜の声をあげます。一年も一所懸命勉強をして、やっと
あの憧れの技を教えてもらえるのですからその喜びも大きいでしょう。
タブンネ達の脳裏にあの、いやしのはどうを使って患者を次々と治していくナースタブンネ
の姿が浮かびます。

「キミ達にいやしのはどうを教えてくれるのは実際に病院で活躍している現役のナース
タブンネだよ」
そう職員が説明すると、一匹のナースタブンネがタブンネ達の前に歩み出ました。
「たぶね♪」とチョコンとナースキャップの乗った頭を下げて挨拶するナースタブンネ。
タブンネ達は、ナースタブンネと、その頭に乗っているナースキャップに目を輝かせて
尊敬と憧れの視線を送ります。

そしていよいよナースタブンネ指揮の元、いやしのはどうの練習が始まりました。
「たぶぅぅ~~!」「たぶ~~!!」
両手を前に出して力を込めるタブンネ達、ナースタブンネは「あまり力を入れすぎないで、
患者さんのお怪我が治りますようにって願いを込めて!」と手取り足取り指導していきま
す。

練習を始めて数日後、一匹のタブンネの手先から小さな波動がふわりと出ました。
「たぶっ!」
それはほんの小さなものでしたが、タブンネ達にとっては大きな一歩です。
「たぶねぇ~♪」「たぶぅ~!」「たぶねー♪」
そのタブンネを囲んで他のタブンネ達は「すごいねー!」「やったね!」とまるで自分の
ことのように喜んでいます。

こうして、徐々にタブンネ達はナースタブンネの指導のおかげでいやしのはどうを使える
ようになっていきます。中には、なかなか覚えられずに泣いてしまうタブンネもいますが、
職員とは違い、ナースタブンネは優しい言葉をかけて励ましてくれます。
その甲斐もあり、それから数日もするとタブンネ達は全員いやしのはどうを使えるように
なりました。

「たぶたぶ~♪」「たぶねぇ♪」
お互いいやしのはどうを出し合って喜び合うタブンネ達、これでもう自分達は立派な
ナースタブンネだ!どのタブンネもそれを確信していました。


しかし、まだこの育成場ではナースになるための最終試験が残っているのです。
タブンネ達がいやしのはどうを使えるようになってすぐにそれは行われました。

「タブンネ達、これからこの育成場を卒業するための最後の試験を行う!」
「たぶ?」「たぶねぇ?」
「一年間の苦労はすべてこの試験にかかっている!これに合格をしたらもうキミ達は立派
なナースタブンネだぞ!」

「たぶぅ…!」「たぶ…」
これに合格をすればナースになれる…しかしすべてがこの試験にかかっているという重圧…
タブンネ達は皆、緊張の面持ちを浮かべています。
「じゃあまずは内容を説明するぞ」
と職員は近くにあった大きな箱を機械で傾けて中からボロボロの何かを大量に出しました。

「たぶっ!?」「たぶねぇぇぇ!?」
タブンネ達はそれを見て悲鳴に近い声を上げます。
そのボロボロの何かとは、自分達と同じ「タブンネ」だったのです。
ボロンネ達はみんな、みねうちで徹底的に気付けられていたり、毒や火傷を食らっていた
りと、わずかに「たびゅ……たぶ……」と弱々しく呼吸しているだけでほとんど瀕死の状態です。

タブンネ達がさらに驚いたのは、ボロンネ達のお腹にあのナース失格の焼印が見えたから
です。
そう、このボロンネ達は今までに焼印を押されてどこかへ連れて行かれた曾ての同士達だ
ったのです。

「この重傷を負っているタブンネを治療して治す、それが最後の試験だ。もし治せずに
死なせたりした者はナース失格と見なして焼印だ、もう二度とナースにはなれない」
職員は説明を終えるとボロンネ達の前に出るようにタブンネ達に言います。
「それじゃあ…試験スタート!」


「たぶぅ、たぶねぇ!」
タブンネ達は慌てて触覚を胸に当ててボロンネの状態を確認します。やはり状況は最悪、
早く処置を施さなければ死んでしまいます。
「たぶねぇぇっ!」
触覚を胸から放すと、タブンネ達はいやしのはどうやいやしのこころでその状態に適した
治療をしていきます。

手際のいいタブンネは素早い判断で的確に治していきますが、うまくいかないタブンネも
何匹かいます。
「たぶ……!たぶねぇっ!」
このタブンネは火傷を負ったボロンネを治そうとしていますが、なかなかいやしのこころ
を発動できないでいます。どんなに「この子の火傷が治りますように」と願ってもボロンネ
の火傷は治りません…
「た………ぶ……ねぇぇ!」
ボロンネは「うぅ…苦しいよぉ……早く治してよぉ…」と苦悶の表情を浮かべてはぁはぁ
と喘いでいます。
「たぶぅぅ~~!」
仕方なくいやしのはどうを使おうとしますが、焦っているせいかボロンネに命中しません。
「た………びゅ………」
モタモタしているうちにボロンネは力尽きてしまいました。

「たぶぅぅぅぅんねぇぇぇっ!!」
触覚でボロンネが死んでしまったことを感じ取り、ワッと泣き崩れるタブンネ、
そんなタブンネの耳を職員は乱暴に掴みます。
「まともに治療もできない奴なんてナースにはなれないよ」
「たぶぅぅぅぅぅっ!!」

普段こういう時の対処法も教わっているタブンネ達ですが、それと、実際にやってみるこ
とでは大きな違いです。

他にも、毒の症状にも拘らずいやしのはどうを浴びせていたり、パニックになって何をす
れば良いのかわからなくなり、オロオロしていたり、手先が震えてうまくいやしのはどう
が当てられなかったりしているタブンネが出てきて、ボロンネ達は苦痛の末、死んでいき
ました。

「たぶぅねぇああぁ!!」
「ぷぅぅぅっ!!」
「たぶねーーー!」
焼印を押されていくタブンネ達、どのタブンネも仲間を死なせてしまった罪悪感と、もう
二度とナースにはなれないという絶望感に苛まれ、まるで死んだような目をして泣いてい
ます。

こうして最後の試験が終了しました。タブンネ達は最後の最後に改めて身を以て命の大切
さを学んだのでした…

翌日、試験に合格したタブンネ達は、イッシュ地方各地の病院に送られました。


「たぶ…たぶねぇ」
遂にずっと憧れていたナースになれたことに嬉しさが込み上げてくる半面、試験に落ちた
仲間、死んでしまった仲間のことを思うと複雑な気持ちになります。

そんな気持ちの中、タブンネは鏡の前に立ちました。
「たぶ…」
そこに映っていたのは、頭にナースキャップを乗せた、立派なナースタブンネでした。
タブンネの青い瞳からは涙が溢れてきます…

これからいっぱい仲間の分まで頑張って、たくさんの人の命を救ってあげよう!
そう心の中でタブンネは改めて誓うのでした。


その頃、育成場では試験に落ちたタブンネと怪我の治ったボロンネ達がフードプロセッサー
のコンベアに乗せられていました。

第一部終わり
第二部「怪物病棟」
最終更新:2014年06月26日 23:47