マランネさん

最近タブンネ狩りにはまった。ここ数ヶ月はタブンネを狩るために毎日草むらに入っている。
タブンネを見つけては倒し、見つけては倒し……その繰り返しだ。

今日も相棒のカイリキーを連れて草むらに入る。すると、いつものように草むらがガサゴソと揺れた。
――毎日毎日狩り続けているのにいつも草むらが揺れる。タブンネには学習能力が無いのか?脳味噌が糞になってるのか?――
などと考えながらカイリキーを揺れる草むらに向かわせた。この頃はタブンネがエンカウントする時に見せるあの顔にイライラしてきたので草むらに直接攻撃している。

しかしカイリキーは草むらに入ったまま出てこず、そのうち草むらは揺れるのを止めた。
まさかやられたのでは、と不安になった。サイコキネシスを使う野良タブンネに会ってしまったのかと思いながら動かない草むらに入る。
すると思いがけない光景が目の前に広がった。
「ピュッピュッ♪ピュッピュッ♪」
なんと、耳と手の無いタブンネのようなポケモンがカイリキーの尻に出入りを繰り返していた。カイリキーは気絶している。
『あ!やせいのマランネがとびだしてきた!▼』
これがマランネか……噂は聞いていたが本当にいるとは思わなかった。
このままでは自分も危険だ。カイリキーに夢中になっているマランネにクイックボールを投げる。
『やったー!マランネをつかまえたぞ!▼』
『マランネのデータがポケモンずかんにとうろくされます!▼』
……実際は図鑑には登録されなかった。都市伝説レベルのポケモンだから当然である。何しろデータ以前に存在が確認されていなかったのだ。
しかし、かといってこいつを研究所に送って研究材料にさせるのも何故か気が引けた。
奇妙だが、狩りを楽しんでいたはずの自分なのにマランネに情を移してしまったようだ。
とりあえずこいつを家で育てることにした。餌や生態が気にかかるところだが……。

『マランネはそのフォルムから、神話の世界においてはアルセウスの性器であるとされ……』
『マランネが初めて発見されたのは17世紀のフィオレ地方と言われています。サマランドの遺跡に……』
『マランネ様の精力をあなたに!今なら限定100名様にマランネ様グッズを……』

ネットで調べたが、マランネ自体はそれなりに知られていても詳しい情報は誰も知らないようだ。
どうにも信憑性に欠けるところが多い。大体フィオレ地方にタブンネがいるわけねーだろ。それに何だマランネグッズって。
「ミッピュッ♪」
「ニタァ……」
「ミ゚ュッピュッ♪」
当のマランネはマッギョの上に乗って無邪気に遊んでいる。見た目はアレだが可愛らしい。
「キェェェェェェァァァァァッ!!!!!!」
「ピュッーーッ!!」
マッギョが放電するとマランネの頭から白濁液が飛び散る。掃除するのが誰かをわかってほしいものだ。
萎びたマランネを尻目に再びマウスのホイールを回すと、興味深いサイトを見つけた。
『マランネに認められるその特異性』
このサイトを見て、マランネに対する疑問や不安が解消した。
『マランネは基本、タブンネと同じように木の実を食する。研究者ミイミイハウスの実験によるとオボンの実に……』
『マランネは陰部に膣を持ち、陰茎は持たない。ただし頭部が陰茎状になっており、交尾の際は……』
『マランネの腕部は肩から消失しており、これは繁殖を助けるための合理的……』
『また耳が耳管ごと消失しているが、これについては皮膚からの振動により音を……』
『脳と海綿体が同化しており、陰茎状頭部の収縮で思考やホルモン分泌を……』
このSSだけの嘘設定なのであまり気にしないで欲しい。
なるほど、マランネは卑猥なこと以外はタブンネと同じような生態というわけか。
気づいたらもうこんな時間だ。パソコンの電源を切り、マッギョの上で寝ているマランネの頭を拭いてやる。
そして湯冷ましを飲み干してからソファの上で本を読んでいるといつの間にか寝息を立ててしまった。
続く。

朝が来た。タブンネを狩りに草むらに行こう。

草むらの中にはいつものようにガサガサと揺れているところがあった。
今日は珍しく、ポケモンを出さずに揺れる草むらへ向かった。
いつもならすぐに攻撃するのだが、もしかするとマランネの仲間がいるかもしれないと思うと気が進まなかったからだ。
「ミッミッ!」
『あ!タブンネがとびだしてきた!▼』
なんだタブンネか、遠慮なく狩ってやろう。
『いけっ!カイリキー!▼』
目の前の1メートル弱ほどのタブンネにカイリキーが突っ込んでいく。そして真っ直ぐに爆裂パンチを喰らわせるのだ、いつもなら。

タブンネの体が青白い光を纏った瞬間、カイリキーは大きく吹き飛ばされていた。
『タブンネのサイコキネシス!きゅうしょにあたった!こうかはばつぐんだ!▼』
『カイリキーはたおれた!▼』
よく見るとタブンネの左耳に「タブちゃん」と書かれた汚いタグが付いていた。タブンネはそれ以上に汚い笑みを浮かべながら得意気にしている。
「ミッミッミィ♪」
そういえば『やせいのタブンネ』と表示されていなかった。こいつは野良タブンネだ。
大方、飼い主の手に余るようになって捨てられたのだろう。醜い脂肪が醜い顔をさらに醜く歪ませている。
妖精・天使・純心などというタブンネらしさはこいつには最早微塵も見られなかった。

カイリキーを回収し、新しくキリキザンを出す。鋼の体と悪の刃には猪口才なエスパー技など通用しない。
キリキザンは獲物を前に嬉しそうに抱き締めるようなポーズを取った。スライスしてやるつもりらしい。
タブンネは「ミィィィッ!!」と叫びながら突っ込んできた。

キリキザンは、マヌケめ……とでも言いそうな顔でタブンネを待ち構える。
しかし、捨て身タックルをしてくるという読みは外れた。
タブンネが突っ込んできたのはタックルするためではない。至近距離から確実に「獲物」を仕留めるためだった。
『タブンネのかえんほうしゃ!きゅうしょにあたった!こうかはばつぐんだ!▼』
『キリキザンはたおれた!▼』
「ミッミッ!フミィィィン!!」

想像してほしい。
タブンネに手持ちのポケモンを2体も倒されたのだ。
そいつは金切り声のような勝利の雄叫びを上げながら持っている木の実をグジャグジャと貪っている。
こんなカスみたいな奴に手持ちのポケモンが2体も倒されたのだ。
こんなことをされて頭に来ないトレーナーなど、果たしているだろうか?
何としてもこのゲスを八つ裂きにしてやりたいが、悔しいことに手持ちで今戦力になりえるポケモンはもういなかった。

タブンネは――お前なんかいつでも殺せるんだぜ――とばかりに「ミヒヒッミッ」といやらしく笑いながら近付いてきた。
そして反撃のチャンスを与えない無慈悲なタブンネの私刑が始まった。
短い腕だが急所を正確に狙ってくる。鳩尾を打たれて立てない人間に容赦無く攻撃をするタブンネは邪悪そのもの。何度も何度も殴り付けてきた。
強力なサイコキネシスで地面にめり込まされ動けない。すると周りの草むらや木の影から夥しい数のタブンネの群れが現れた。
「ミッミッ!」
「ミッミッ!」
「ミッミッ!」
殺せ!殺せ!殺せ!……と言っているようだった。その声に更に増長したゲスタブンネは手に赤い光を集める……。
目の前が真っ暗に……。

「ピュッピュッ!」
「ミィッ!?」
目を開けると、そこにはマランネが立ち塞がっていた。まだレベルは低かったが、その勇姿は伝説のポケモンのように気高く、雄々しく、そして剛直だった。
「ミブィヒヒヒヒヒィィィ!!」
タブンネ達はマランネに嘲笑を浴びせた。ゲスはニヤリと口角を上げ、マランネに迷わず火炎放射を浴びせた。

マランネの体が炎に包まれた。ゴオゴオと燃え盛るマランネを見てタブンネ達は勝利を確信した。
しかしマランネは依然として倒れることは無く、その姿は崇高ですらあった。
マランネは火の矢の如くゲスに一直線に飛び出し、なんと性器へ頭を突き刺した。
「ブギギャアアアアアアアッ!!」
一瞬にしてゲスは炎上した。マランネのピストン運動に合わせて性器がビヂビヂと音を立てながら裂ける。ちなみにゲスタブンネはオスである。
そして、マランネが「ピュッ!」と小さく鳴くとゲスは急に静かになった。
歯を食い縛り目の焦点が合っていない顔がベゴンと歪むと頭頂部から大量の白濁液を噴き上げた。周りのタブンネ達が凍り付く。
降ってきた白い雨を浴びるとマランネを包んでいた炎が消えた。マランネは余り皮が少し煤けただけで無傷だった。
タブンネの「さいせいりょく」と「だっぴ」のような治癒効果を併せ持つマランネだけの特性、「じかはつでん」。マランネは射精する度にどんなダメージも回復してしまうのだ。
タブンネ達はパニックに陥り逃げ出そうとしたが、ゲスの放った火が草むらを囲むように燃え移り、既に逃げ場を無くしていた。

「ピュッピュッピュ---ッ!!」
マランネは怒りに満ちていた。かつて自分を迫害したタブンネへの怒り。そして初めて自分を必要としてくれた人を傷つけられたことへの致命的な怒りだった。
マランネは一匹のタブンネに頭を突っ込み射精した。するとタブンネの体がみるみる膨らみ水風船のようになった。
放たれた風船タブンネは破裂するまでに大勢の仲間を滅茶苦茶に叩き伏せ、仲間もろとも生臭いミンチになった。
残りのタブンネ達にマランネが襲いかかり、一匹一匹に死の極太注射をする。
最後の一匹に風呂釜一杯分ほど射精して大爆発させるとマランネはすっきりしたようで頭が萎びてきた。
草むらも全焼、近隣のタブンネは皆殺しだ。

「守ってくれてありがとう。これからもよろしく、マランネ」
「ピュッピュッ♪」
ヌルヌルする頭を撫でて笑いかけたが、カイリキーとキリキザンのことを思い出したのですぐにイカ臭い焼け跡を後にしてポケモンセンターへと向かった。

こうして人間とマランネに友情が生まれた。彼らはこれからも仲良くタブンネを狩り続けるだろう。
「ピュッピュッ♪」
「ミギャャアアアアアアッッ!!」

おわり
最終更新:2014年08月01日 23:39