僕はタブンネ愛護団体に所属している。
休日はメンバーと駅前で「
タブンネ狩り反対」のビラを配ったり
タブンネの素晴らしさを演説している。
一方タブンネの地位向上、社会進出のため
ナースタブンネを推進運動やミュージカルやCD発売といった芸能活動も行う。
僕はとにかくタブンネが大好きで、今ではタブンネの言葉も理解できるようになった。
今日もビラ配りを終え、事務所に戻ると大きな段ボールが届いていた。
先輩が中を開けてみると大きな悲鳴をあげたのでのぞいてみると
何と
タブンネ一家(パパ・ママ・赤ちゃんのオス・メス)が入っていたのだ。
ただし、彼らは足から目まで全身をガムテープでぐるぐる巻きにされ、
口にもわさびが塗られたゴムボールをつめられていた。
体もやせ細り、ぐったりしていることから
日常的に虐待されていたタブンネに間違いない。
「またか…」「なんてひどい」「タブンネの痛みがわからないのか!」
メンバーは次々に怒りと悲しみをぶちまけている。
虐待されたタブンネが届くのは初めてではなく、
虐待シーンを集めたDVDや死体を送り付けられたことも何度かある。
僕はタブンネにひどいことをする人間が大嫌いだ。
「この子……どうします?」
先輩が薬を使ってガムテープをゆっくりはがしながら聞いている。
虐待されたタブンネは、団体のメンバーがひきとり育てているのだ。
といっても僕はタブンネを引き取ったことはない。
「うちのタブンネ子供産んじゃったからさらに増えると生活水準が下がるんだよね」
「私も5匹育ててるしこれ以上はキツイな~」
愛護団体は企業ではないのでタブンネを育てるのは自分のお金である。
メンバーはみんな身銭をきって頑張って保護しているのである。
先輩たちに苦労ばかりかけたくないし、何よりこの一家を救いたい。
そう思った僕はこのタブンネ一家を保護することにした。
僕はポケモンセンターで一家を治療し、夕食を買ってアパートに戻った。
僕が夕食を食べようとすると一家は目を覚まし、僕の顔を見た。
「君たちはもういじめられないよ。安心してね」
僕は笑顔で彼らに話しかけたが、タブンネはみんな悲鳴をあげながら
部屋のすみでガクガク震えだした。
「オボンのみを用意したんだ。みんなで食べようよ」
僕はパパタブンネの肩に手をおいたらパパタブンネは
「ミギュァ~~!!」と叫びながら部屋中を駆け回っている。
虐待されたせいで人間が触るとパニックをおこすようになったみたいだ。
僕は暴れるパパタブンネを抱きしめ、触覚を僕の心臓に触れさせる。
(僕は君たちの味方だよ。君たちは僕がまもるよ)
するとパパタブンネはしだいにおとなしくなり、ミィと鳴きだした。
「ほら、オボンのみだよ。おいしいよ。」
僕はパパタブンネにオボンのみを渡す。
はじめは不安だったパパタブンネだが、僕の本心がわかると食べ始め、
ようやく僕に天使のような笑顔を見せた。
その笑顔をみたママタブンネと赤ちゃんタブンネも僕に敵意がないとわかったのか
僕のもとへ寄ってきてくれた。
タブンネ一家と住み始めて2週間がすぎた。
タブンネはみんな僕に心を開き、なついてくれる。
このなつきやすさがタブンネの可愛いところなんだよね。
僕は昼間は仕事があるので彼らの面倒は
パパとママタブンネに任せることにした。
タブンネ一家は家では積木やボールで遊んでいる。
ただ、それだけでは運動不足になるので
人間に慣れるリハビリもかねて近所の公園で遊ばせるようにしている。
この公園ではポケモンバトルが禁止されているし、管理人もしっかりしているので
彼らをいじめる人間やポケモンはいないはずだ。
また、この一家は歌うことが大好きで、
家でも公園でもよく歌っている。
僕も夜彼らの楽しそうな歌を聴かせてもらっている。
が、ある日の金曜日事件はおきた。
仕事が終わり、家に帰ると家の前にアパートの住人と公園の管理人がいる。
タブンネたちも一緒だ。
ただ、アパートの住人達は怒っているのに対しタブンネは泣いている。
何があったのだろう?
「あんた、ポケモン飼うのはいいけど近所に迷惑かけないでくれる?」
大家さんが口を開いた。
「タブンネの歌がうるさくて、勉強に集中できないんですよ」
右隣に住む浪人生が次に口を開いた。
「昼間家の中でボール遊びしたり騒いだりするからうちの赤ちゃんが眠れないのよ!」
左隣に住む新婚夫婦も怒っている。
ここは音響対策がされていないアパートだからな……
そこまで考えていなかった。
「あとこのガキどもに
トイレのしつけさせろよ!
うちのドアの前でもらしたことあるんだぞ!」
「そうじゃ!公園の砂場はトイレじゃないんじゃぞ!」
・
・
僕は1時間以上みんなから怒鳴られまくった。
タブンネたちは震えながら泣き出している。
ここではタブンネたちが安心して暮らせないと思った僕は
アパートをでることにした。
アパートを出た僕は新しい家を探すことにした。
タブンネたちは住民たちに怒られたのが相当こたえたようで
歌うこともなく沈んでいる。
だけど彼らはやっと生きる喜びを実感しようとしていたところなんだ。
その喜びを奪うことなど許されるはずもない。
僕は絶対にタブンネが幸せになれる家を見つけてみせると誓った。
不動産屋を何件もまわり、僕は新しい家を見つけた。
そのマンションはバクオングが騒いでも音漏れしないという
超高性能防音設備を備えている。
タブンネが夜通し歌ったとしても誰からも苦情はこないのだ。
「ここなら好きなだけ歌えるよ。よかったね、みんな!」
僕がタブンネにそう言ってあげると
彼らの沈んだ顔が天使の笑顔に早変わりし、
さっそく楽しい歌声を部屋中に響かせた。
引っ越しをしてからタブンネ一家は元気を取り戻し、
前のように昼間は公園で遊び、夜は歌を歌って過ごしている。
一方僕は少し疲れている。
引っ越したはいいが新居から職場までは片道2時間もかかるのだ。
タブンネのためとはいえ満員電車に揺られるのはちょっとキツい。
それにマンションの家賃は前のアパートの倍もかかる。
以前の昼休みは同僚たちと
ラーメン屋めぐりをしていたが
今はひとりでカップラーメンをすする毎日だ。
ポケモンと暮らすのに一番必要なのは愛情だが
愛情だけでは暮らせないとタブンネ一家と暮らすことで分かった。
「ただ~いま~」
僕が帰ると一家総出でミッミッと鳴きながら寄ってきてくれる。
「お~よしよし、いい子にしてたかな~」
僕が子タブンネの頭をなでると「ミィ」と可愛く返事をする。
そして、僕たちは夕食を食べた後、みんなでお風呂に入り、
歌を歌う。
そうしていると仕事の疲れなどすべてふっとんでしまっているのだ。
ある日僕が仕事から帰るとまたもや事件が起きた。
タブンネたちは僕によって来るなり泣き出した。
しかも体中砂だらけである。
「ミィ…ミィ…」パパタブンネが僕に事情を説明する。
最近公園に住み着いた野生のポッポがトレーナーに飼われている自分たちに
敵意をあらわにし、砂を浴びせたらしい。
「ミッミィ~ン」ママタブンネはポッポが怖くて公園にいけないと泣き出す。
タブンネを怖がらせるヤツはポケモンでも許さない!僕が追い出してやる!
だが、僕はタブンネ以外ポケモンを持っていないし、
僕が石を投げたところで追い出せると思わない。
癒しの象徴であるタブンネに戦わせるなど論外である。
ここは愛護団体の先輩に相談することにした。
先輩からのアドバイスはポケモンショップで強いポケモンを買って
護衛につけさせることだった。
ポッポに限らず別のポケモン、またはタブンネを狙う悪の組織に
襲われる可能性だってあるしな、今後のことも含めて護衛をつけさせよう。
翌日僕はポケモンショップで高レベルのグラエナを購入した。
「いいかグラエナ、ポッポが襲ってきたら追い返すんだぞ」
僕の指示にグラエナはコクリとうなずいた。
グラエナはリーダーの指示に忠実らしいので安心だ。
一方タブンネ一家は滑り台で遊んでいる。
ポッポの姿は見えない。
人間がいるので手を出せないんだろうか…?
そう考えていたら兄タブンネが転がりながら滑り出した。
他のタブンネもミィミィ言いながらパニックになっている。
タブンネ自慢の聴力がポッポが近づいてくるのを察知したようだ。
「ポ~~!!」ポッポが砂場で倒れている兄タブンネめがけてやってくる。
その兄タブンネの前にグラエナが立ちはだかり、「ガウ!ガウ!」
と怖い声で吠えだした。
「ポポーッ!!」ポッポはグラエナを恐れて逃げ出した。
「みんな、大丈夫だったか?」
僕は兄タブンネのもとへ行き、起こしてやる。
「もう大丈夫だよ、君たちは僕がまもってあげるからね」
僕が兄タブンネの砂を払ってあげると兄タブンネは僕に抱きつき、泣き出した。
「よ~しよしよし、もう怖がらなくていいんだよ
汚れちゃったからみんな帰ってピカピカに洗ってあげるからね」
ポッポを追い払った僕とタブンネ一家は手をつなぎ、歌いながら家に帰った。
ポッポを追い払ってから一ケ月がたった。
あれからタブンネ一家を襲う敵は現れない。
タブンネ一家は歌に自信をつけたようで
ジャンボすべり台の上で癒しの歌をよく歌っている。
今や公園の名物と言ってもいいだろう。
だが僕はもっと大勢の人やポケモンにタブンネの歌を聞いてほしいと思っている。
そうだ、今度愛護団体に老人ホームや
孤児院で
ボランティアコンサートを提案してみよう。
みんな彼らの歌を聞いて元気が出ること間違いなしだ。
「ピピピピピ!ピピピピピ!」
そう考えていると僕の携帯に緊急アラームがなった。
このアラームはタブンネにもしものことが起こったらなる便利アイテムだ。
彼らに何があったんだ?
僕は会社を飛び出し、大急ぎでタブンネのもとへ向かった。
「みんな、大丈夫か!」
僕はタブンネ達が運ばれたというポケモンセンターに行った。
「ミイイ……」パパタブンネが僕を見て笑顔をつくる。
他の三匹も大ケガをしているが、命に別状はなく眠っているようだ。
タブンネ達がこんなひどい目にあったというのにグラエナは何をしているんだ。
ってグラエナがいないぞ?どこへ行ったんだ?
「ミィ、ミィ」パパタブンネが襲われた時のことを語り始めた。
グラエナはと何のとりえもないタブンネの下で生活すること、
そのタブンネばかり可愛がる僕に我慢できなくなり、
タブンネ一家に何回もかみつき、逃げ去って行ったという。
毎日オレンのみをあげてトイレもかえてやっているというのに
何て恩知らずなダメポケモンなんだろう。
自分の仕事もできないどころかタブンネを傷つけるなんて。
あんな不良ポケモンを売りつけたポケモンショップも訴えてやらなくちゃな。
そのあと僕はドクターにタブンネの症状を確認しに行った。
かみつかれたケガ自体は1~2日で完治するみたいだが
みんなノドをかみつかれており、もとの声に戻すには特殊な治療が必要らしい。
その治療には4匹で531000円もかかるが
タブンネに歌を歌わせたい僕は治療をすぐに承諾した。
タブンネ一家が入院して3日がたった。
僕は有給をとりつきっきりで看病をする。
もともとの回復力もあってか
タブンネ一家はみんな走り回れるくらいに回復した。
しかし声帯の治療は成功はしたものの、
リハビリが必要であった。
僕たちはポケモンセンターの屋上で声のリハビリを開始した。
「「「「ミッ ミッ ミィ~~♪」」」」
タブンネ一家の癒しの歌声がポケモンセンターに響く。
「ミィィ…」が、妹タブンネが泣き出す。
以前のように大きくて澄み切った声がでていないからだ。
「大丈夫だよ、毎日練習すればまた前みたいに歌えるよ。
退院したらみんなでコンサートを開こうね」
僕は妹タブンネによしよししながら話しかけると
「ミッミィ♪」とおしりをふりながらこたえた。
よ~し、じゃあもう一回練習……
「いや~リハビリご苦労ですな、ご主人」
僕が振り返るとサングラスの男がいた。
「この子たちがあなたご自慢のタブンネたちですか~
みんなかわいいですね~」
男は僕のもとへ近づく、タブンネは僕の後ろにしがみついている。
「何ですか、僕はあなたなんて知りませんよ」
僕はそういうと
「私は借金取りってやつですよ、グラエナの購入費用も
返済できないうちにタブンネの治療費、入院費を借りちゃいましたからね~
ご主人が信用できなくなって来ちゃったんですよ」
男は不敵な笑みを浮かべながらこたえた。
そう、僕はグラエナを買いに行ったが、予想よりはるかに高く、
家賃とタブンネの世話で精いっぱいな僕は金融からお金を借りたのだ。
「まだ給料日じゃないんだ、今日は帰ってくれ、
ちゃんとお金はかえす」
僕はそう言ったが男は
「みんなそう言うんですよね~そのセリフ。信用できませんねえ、
それに、お金ならあなたの後ろにあるじゃないですか」
そういって男はタブンネを指差した。
「ミミミミミ……」タブンネ達はガクガク震えている。
タブンネ達を護れるのは僕しかいないんだ、しっかりしなきゃ。
「この子たちに指一本触れさせない!それにタブンネがお金ってどういうことだ!」
僕は両手を広げ、大声で叫ぶ。
「私がタブンネを買い取るってことですよ。ある層ではタブンネを仕事に
使う人たちがいるんです。そこに紹介してあげるんですよ。
まああなたみたいな可愛がりはしないでしょうがねえ」
「それに親子セットっていうのがまたポイントが高いんですよ。
パパさんとママさんもまだまだ子供を産めそうですしねえ」
こいつに連れて行かれたらきっと虐待生活に逆戻りに違いない。
何としてでも追い返さなきゃ。
「それにタブンネを引き取ることはあなたを救うためでもあるのですよ
あなたがお金を借りる原因はこのタブンネ一家でしょう。
タブンネさえいなくなれば楽に返済プランがたてられますよ」
「うるさい!この子たちは僕が好きだし、僕もこの子たちのために
頑張っているんだ!誰にも引き離させないぞ!」
「こんなミィミィ騒ぐだけでバトルも仕事もできない役立たずタブンネなんて
あなたに必要ないですよ、さあ、来るんだ」
男は妹タブンネの触覚をつかみ、無理やり引き寄せる。
「やめろ~~!!」
僕は男のサングラスめがけ拳をふるった。
最終更新:2014年10月07日 22:23