地上の島で深夜から行われている剣客達の激しい闘い。
それとは別に、昼過ぎからは、天上において仏と魔の闘いもまた、人間達の知らない内に始まっていた。
闘う主体の一方は妖女玉梓、対するは強大な法力を持つ仏……前世においては天海と呼ばれていた偉大なる如来だ。
先程、天海は剣客達との闘いの中、中村主水に刺された直後に死亡したが、その死因は刺された傷ではなく餓死。
天海は御前試合が始まるかなり以前から五穀を断ち、食を断ち、水を断っており、本来ならばとうに死んでいるべき状態だった。
強烈な意志力によって死を遅らせていたのを主水にとどめを刺される直前に止め、天海は死に至ったのだ。
天海の死に方は、肉体を木乃伊と化す事で己を永遠なる存在・仏と為さんとする即身仏の修法と似ている。
苦行によって己を高めんとする修行によって本当に成仏が適うかは仏法者の中でも意見が分かれるが、そこは天海には関係ない。
天海は今までに積んだ修行と徳により、既に成仏する事が可能な境地に達していた。
だが乱世において、仏としてよりも人として為すべき事を残していた天海は、敢えて今まで成仏せずにいたのだ。
丁度、衆生救済の為に成仏を遅らせている観音や地蔵といった偉大な菩薩達と同様に。
故に、死に方がどうあれ……魂をも切り裂く一流の剣客の剣によって死ねば話は別だが、そうでなければ天海の成仏は確定事項。
人として果心の企みを打ち砕くのに失敗した天海は、仏となってこの狂気の御前試合を粉砕せんと試みる。
対手の玉梓は果心との約定により御前試合の運営に与していたが、彼女は特に御前試合自体に思い入れがある訳ではない。
また、憎き里見や犬士の縁者は別として、人間の動向にも無関心であり、剣客や天海が御前試合を妨害しても看過して来た。
しかし、相手が人ではなく仏となれば話は別。
そもそも玉梓自身が一度は成仏して如来となった身であり、仏から再び魔に堕ちた彼女にとって仏はいわば反存在のようなもの。
よって、玉梓は仏となった天海を無視してはおけず、嘗ての仏と新生の仏は天上において出会い、激しくぶつかり合う。
凡人にとっては時の流れは一様と思えるかもしれないが、神仏の観点からは異なる見え方がある。
人間界の幾千年が天界の一日となり天界の数十劫が地獄の一夜となるが如く、時の流れの緩急は一定しないもの。
当然、仏如来やそれに匹敵する魔王ともなれば時流の速度など自由自在。
下界の島において刹那の時が過ぎる間に天上では幾劫もの時間が流れ、天海と玉梓の闘いは早くも転機を迎える。
そもそも、本来ならば、玉梓が如何に強大な魔であっても天海に太刀打ちできる筈はなかった。
何しろ、天海は自身の悟りと修練によって自力成仏し、阿弥陀や将来の弥勒といった高名な如来に匹敵する境地に達した偉大な高僧。
対する玉梓は、他力で、しかも、神変大菩薩の加護を受けているとはいえ神に過ぎない伏姫の力により成仏した仏。
嘗て、いや、信乃にとっては未来の話だが、犬士の犬江親兵衛やその主君の里見義成が念仏等による手軽な他力成仏を難じた事がある。
そして、この論理に従えば、他人の読経を聞いたり宝珠の光に打たれて成仏した玉梓は、自ら仏を念じて助力を願った者にすら劣ろう。
当然、同じ仏・元仏と言っても厳然たる格の差があり、玉梓は天海には遠く及ばない……天海が仏としての本来の力を発揮できれば。
しかし、他ならぬ玉梓自身、一度は成仏しながら妖人の仕掛けにより魔へと堕ちた女の存在が、仏の法力を妨げていた。
完全に悟りを開く以前ならば、成仏一歩手前の菩薩ですら、僅かの邪念により修行の成果を全て失う事は十分にあり得る。
また、仏が衆生救済の為、敢えて己の悟りを封印して、神に垂迹しまた人に化身して下界に現れたという話も数多い。
しかし、悟りを開き解脱した筈の仏が、完全にその悟りを失い、再び邪心に塗れた妖怪に堕落するなど、決して起こり得ない筈。
仏は永久に仏でありもう二度と苦しみ多き生類に生まれ変わったりしないからこそ、成仏が衆生にとっての救いとなるのだ。
なのに、仏ですらも完全ではなく、いずれ他の生き物の如く転生するのであれば、成仏しても輪廻からは逃れられない事になる。
そして、天人五衰の苦が無間地獄に勝るように、仏が悟りを失う時、その苦は比類なく成仏は人の救いではなく最悪の宿業となろう。
故に、仏でありながら魔の誘惑に敗れた玉梓は、存在そのものが仏の威光と意義を揺るがす仏法の天敵。
この島を覆う結界が、玉梓が仏であった頃に統括していた三千世界の大半を放棄して島一つのみを覆う事で密度を高めているとはいえ、
たった一体の魔王の力で外界の無数の仏菩薩の干渉を撥ね退け、この狂気の御前試合が外部の存在に妨げられずにいるのもその為。
天海もまた彼女の前では十全に力を振るう事は出来ず、為に本来ならば力に大差のある二者の闘いは相討ちの形へと収束して行く。
空に雷光と見紛う一閃の光が走り、力を削がれた仏と魔が地に堕ちる。
といっても、人智を超える闘いを繰り広げる中で純粋な精気と化していた彼等の姿もその闘いも人の目には捉えられないが。
ただ、一部の目聡い者は、島を囲む海の荒れ、この小さな世界を外界から遮断する結界の象徴たる海流が大きく弱まったのを見定めた。
島の南西、城の天守閣。
犬塚信乃・芹沢鴨等の剣客達は、屋根の上で不慮の死を遂げた
足利義輝の遺体を天守の中に運び入れ、ひとまず安置する。
暗い空気の中、
坂田銀時が声を上げるが、その言葉はいつものように皆を明るくする軽口ではなかった。
「んじゃ、連中のボスも倒した事だし、俺は行かせてもらうぜ。いい加減、お前らの顔を見るのも飽き飽きだしな」
そう言って階段を降りて行こうとする銀時。
「銀さん……!?」
いきなりの別離宣言に、驚いた
剣桃太郎が声を掛けようとするが、芹沢が身振りで制した。
「行かせてやれ。連中の主だったところが片付いたのは確かなようだしな」
そう言うと芹沢は眺めていた鏡を放り捨てる。
これは、忠長達のいた広間に飾ってあり、剣客達と共にこの辺りに飛ばされ、屋根の上や城内に幾つか転がっていた鏡。
先程までは半数程が御前試合を戦う剣客達の様子を映し出していたのだが、今は鏡面は闇に覆われ、何も映さなくなっていた。
「昼までは荒れてた海も収まったようだ。妙な術を使う連中も、俺達が手を下すまでもなく討たれるか逃げたんじゃねえか?」
「先程の怪しい唐人は沖田殿が討ったようだ。鏡の機能が失われてのもそのせいとみえる」
芹沢の言葉を石川五ェ門が裏付ける。
皆が打ち沈む中、それでも五ェ門は情報を集めようと、出来る限り鏡を回収して観察していたのだ。
「鏡……坂田さんも持っていました。そこに、多分、私よりも若い男の人が死んでいる姿が映っていて……」
千葉さな子の言葉に、桃太郎は銀時が共にこの島に連れて来られた仲間を保護しようとしていた事を思い出す。
死んでいた男というのがそれだとすれば……
敵の首領を倒したと言っても、それで全てが解決する訳ではなく、そもそも此処が何処でこの御前試合か何なのかすらわかっていない。
重苦しい空気が漂う中、義輝の遺体の傍らで項垂れていた信乃がいきなり顔を上げて叫ぶ。
「皆、気を付けろ!」
――犬士……――
信乃の言葉と同時に何者かの声ならぬ声が聞こえ、天守の中に巨大な、禍々しく殺意に満ちた気配が生まれる。
いや、この瞬間に現れたと言うより、或いは最前からそこに在った気配に、信乃の言葉で初めて気づいたと言うべきだろうか。
「……玉梓!」
本能的に気配の正体を悟って信乃は呻く。
だが、此処にいる玉梓は、犬士や里見家を脅かした怨霊や妖獣としての玉梓とは根本的に存在の規模が違う。
神、いや、或いは仏すらも凌駕し、聖杯によって生み出され足利義輝の命を奪ったあの魔剣士すら小さく思えるほどの存在感。
だが……
「ふん、ちょうど辛気臭くなってたところだ。憂さ晴らしに切り刻んでやるぜ」
芹沢が吐いた言葉は、実はこの場にいる剣客の多くが、大なり小なり共有する感情であった。
確かにこの存在は強大であり、本来ならば決して油断をして良い相手ではあるまい。
しかし、ただそれだけ。玉梓は、剣客や、先程の聖杯の魔剣士ですら持っていた武人特有の鋭さを持ち合わせていないのだ。
これなら如何に強大でも打ち果たすのはそう難しくはあるまい、というのが剣客達の持った共通の印象。
そして、倒すべき敵という当面の目標を得た事で、先程までの沈んでいた状態よりはぐっと活力を取り戻す剣客達。
そんな中、一人信乃だけは、成仏した筈の玉梓が再び悪意の塊として現れた事に当惑していた……
【ほノ参/天守閣/一日目/午後】
【坂田銀時@銀魂】
【状態】健康 額に浅い切り傷
【装備】木刀、
【道具】支給品一式(紙類全て無し)
【思考】基本:さっさと帰りたい。
1:新八の所へ向かう。
※参戦時期は吉原編終了以降
※沖田や近藤など銀魂メンバーと良く似た名前の人物を宗矩の誤字と考えています。
【犬塚信乃@八犬伝】
【状態】肩に軽傷、精神的ショック
【装備】小篠の鞘@八犬伝、備前長船「物干竿」@史実(亀裂)
【所持品】支給品一式、こんにゃく
【思考】基本:主催者を倒す。それ以外は未定
一:義輝の死に呆然
二:毛野の死の真偽を探る。
三:村雨、桐一文字の太刀、『孝』の珠が存在しているなら探す。
【備考】※義輝と互いの情報を交換しました。義輝が将軍だった事を信じ始めています。
※果心居士、松永久秀、柳生一族について知りました。
※自身が物語中の人物が実体化した存在なのではないか、という疑いを持っています。
【剣桃太郎@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】折れた打刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:主催者が気に入らないので、積極的に戦うことはしない。
1:信乃に同行する。
2:向こうからしかけてくる相手には容赦しない。
3:赤石のことはあまり気にしない。
※七牙冥界闘終了直後からの参戦です。
【芹沢鴨@史実】
【状態】:健康
【装備】:新藤五郎国重@神州纐纈城、丈の足りない着流し
【所持品】:なし
【思考】
基本:やりたいようにやる。 主催者は気に食わない。
一:義輝の元部下を統率する。
二:五ェ門を少し警戒。
【備考】※暗殺される直前の晩から参戦です。
※タイムスリップに関する桂ヒナギクの言葉を概ね信用しました。
※石川五ェ門を石川五右衛門の若かりし頃と思っています。
【石川五ェ門@ルパン三世】
【状態】腹部に重傷
【装備】斬鉄剣(刃こぼれ)、打刀(刃こぼれ)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を倒し、その企てを打ち砕く。
一:主催者を倒し、芹沢の行動の記録を探す。
二:千葉さな子を守る。
三:芹沢を警戒
四:ご先祖様と勘違いされるとは…まあ致し方ないか。
【備考】※ヒナギクの推測を信用し、主催者は人智を越えた力を持つ、何者かと予想しました。
※石川五右衛門と勘違いされていますが、今のところ特に誤解を解く気はありません。
【千葉さな子@史実】
【状態】健康
【装備】磯田きぬの薙刀@駿河城御前試合、童子切安綱
【所持品】なし
【思考】基本:殺し合いはしない。話の通じない相手を説き伏せるためには自分も強くなるしかない。
一:主催者の部下として現れた女と薫の関係を探る。
二:主催者から仲間達の現状を探り出す。
三:芹沢達を少し警戒
四:間左衛門の最期の言葉が何故か心に残っている。
【備考】※二十歳手前頃からの参加です。
※実戦における抜刀術を身につけました。
※御前試合の参加者がそれぞれ異なる時代から来ているらしい事を認識しました。
「くそっ!」
仲間を助ける為に天海との決戦の場から離れ、服部を強敵の前に残し、仲間が居る筈の商家へと戻って来た
オボロ。
しかし、そこで彼が見出したのは、崩壊した家と、仲間達の死体であった。
坂本龍馬・
伊東甲子太郎・緋村剣心・
志村新八……どうにか気を静め辺りを捜索して遺体を発見して行くが、
外薗綸花が見付からない。
「まさか……お前が食ったんじゃないだろうな?」
言うと同時にオボロは跳び、直後に彼が立っていた地点を何かが薙いだ。
「何者かと思っていたが、こんな化け物だったとはな」
そこに居たのは、彼等が保護し、この商家に置いて行った
富士原なえか……もっとも、オボロは彼女の名など知らないが。
ただ、もしもオボロがなえかの事をもっとよく知っていたなら、逆に目の前にいる「それ」がなえかとは思えなかったかもしれない。
なえかは未だ人型を保ってはいるが、所々で不定形の怪物の如く輪郭が崩れ、その眼は明らかに人間のものではなくなっていた。
半怪物となったなえかは髪の毛、或いは既に触手と言うべきかもしれないが、とにかくそれを伸ばしてオボロを襲う。
しかし、人外の力に覚醒したとはいえ、今のなえかは妖の力と剣士としての技がまるで噛み合っていない半端な怪人。
オボロは再び跳躍して触手をかわし、その触手自体を隠れ蓑にしてなえかの死角に潜り込む。
今のなえかは五感のみならず無数の超感覚に目覚めているが、慣れない今はそれらの感覚は彼女を混乱させる役しか果たせていない。
死角に居るオボロの動きを察知しながら、己の感覚を翻訳し理解するのに時間を掛け過ぎ、結局は的確な対応が出来ずにいるなえか。
そんな彼女に致命の一撃を叩き込もうとするオボロだが……
――やめろ――
「!?」
驚愕の表情を浮かべて大きく飛び退く。
「あれは……兄者、いや、違う。なら一体何なんだ……?」
オボロがなえかを斬ろうとした瞬間、静止の声と共に人影らしき者がオボロの前に立ち塞がったのだ。
声も人影も微かで朧な、空耳や蜃気楼のようなものであったが、オボロにはただの幻とは思えなかった。
無論、幻だろうが実体だろうが、ただ制止された程度で振り被った刃を止める程、オボロは甘くない。
しかし、その人物が、主たるハクオロと同様に仮面を着け、声も良く似ていたとなれば話は別。
とはいえ、落ち着いて思い出すと人影の体格も仮面の様式も明らかに異なっているのだが。
それにしても、この異郷の地で主に似た印象を持つ存在に遭遇した事には何らかの意味があるのではないかと、オボロには思えた。
或いは自分を惑わせる為の幻術の類かと疑わぬでもないが、それならもっとハクオロに酷似した幻を見せても良い筈。
加えて、これはオボロの直感に過ぎないが、あの人影に邪なものは感じなかったのだ。
なえかの攻撃が簡単に凌げる程度のものである事も手伝って、オボロは再び彼女を討とうと試みる事に踏み切れない。
オボロは仕掛けられず、防御に徹する彼になえかの攻撃は通用せず、ただ時だけが過ぎて行く。
城下町、闘っているオボロとなえかを見下ろせる位置にある一軒の民家の屋根の上。
「また妙な術か」
不覚な事だが、そう話しかけられて初めて、天海は
新免無二斎がすぐ傍まで近付いて来ている事に気付いた。
玉梓との激闘で消耗した上、無数の神仏が破れずにいる結界に一時的な裂け目を作っての外部の者の思念の誘引。
この島の結界が基本的に外からの干渉を防ぐ機能に特化しているとはいえ、全ての意識を集中させなければ不可能な所業だ。
故に天海が無二斎の接近に気付かなかったのも無理ないのだが、機先を制された事で心理的に不利な立場になったのは否めない。
その上、そのまま天海を無視してオボロとなえかの許へ歩み去る素振りを見せられては、天海は無二斎を呼び止めざるを得ないのだ。
「あの娘は放っておけばやがて己の力により自滅する。それまで攻撃を凌ぎ続ければ、男の方も幾らかは消耗しよう。
今、彼等の前に姿を現すのは愚策」
「自滅……か。自害に自滅、それが御坊の望みか?」
言いつつ、相手を観察する無二斎。
この言葉に天海が反応した事で、漸く目前に居るのが
神谷薫の自害を図った妖僧である事を確信する。
なえかが半ば妖怪と化し人間離れした形態となっているように、天海もまた、生前とは外見が変わり人外の姿を現しているのだ。
もっとも、天海のそれはなえかとは違い、表れているのは妖怪ではなく仏の特徴……俗に言う三十二相というもの。
光明や香気、彼方まで響く声といった隠れ潜む妨げとなる相好は抑えているが、残りの相だけでもそれが仏の相と見抜くには十分。
(この坊主は死んで仏となったか)
そう理解する無二斎だが、特に反応も示さず、冷徹に天海との会話を続ける。
天海にしても、無二斎が真相に半ば気付いている以上、下手に誤解されるよりも事実を話した方が都合が良いと判断。
「この場に在る者は、本仏……釈迦牟尼であろうと、大日・毘盧遮那であろうと構わぬが、それから切り離されておる」
「ふむ……?」
天海が挙げたのは、大乗の教えや密教で根源仏などと呼ばれる仏。
人を含むあらゆる宇宙の存在・非存在は全て根源仏に由来し、根源仏の一部であり、故に全ての者が仏性を宿すという。
その仏性故に、凡夫や鳥獣・草木に到るまで成仏が可能……逆に、仏と切り離されたこの島の者は仏性を失い成仏できないという事か。
「つまり、我等を救い成仏せしめるのが御坊の望みだと?」
皮肉を込めて言う無二斎だが、考えてみれば仏の望みが衆生の救済・成仏であるのは当然とも言える。
だが、天海は首を振って言う。
「島を仏から切り離した上で、蠱毒によって貴殿等の力を増し、本仏に勝る力を得させる事こそが果心の目的」
本来であれば、根源仏は全てを内包し全てに内在しているのだから、剣士達が強くなれば同じだけ根源仏の力も増す筈。
だからこそ、果心は玉梓という仏の天敵を用意し、根源仏から切り離した上で蠱毒の儀式を行ったのだ。
「仏に属さず、仏よりも強き者……そのような者が生まれれば、仏法そのものが
揺らぎかねぬ。
仏の慈悲が遍く十方世界に行き渡り、一切衆生の成仏を保証するには、如来の光明を遮り得る者の存在を許すわけにはゆかぬ」
遂に己の目的を無二斎に明かした天海。
この場合、無二斎が蠱毒によって得られる力に興味を持ち、天海に敵対する可能性は否めない。
故に、天海は無二斎の心中に目を凝らし、彼が欲望に呑まれる徴候が見えたなら、その心の隙を衝き強制的に成仏させる準備をする。
仏となれば邪念は失われるが、御前試合の参加者である無二斎を強化する事になり、天海にとっても危険のある方策ではあるが。
しかし、無二斎の心には欲望はおろか驚きも感情のさざめきすらも生まれず、ただ冷やかに天海を嗤った。
「聞く所によれば、大日とは全てを持ち欠ける所が無いとか。ならば、人は大日から何かを削り、欠けさせたものと言えようか」
言いながら、無二斎は手にした木刀を掲げて見せる。
これは、元々商家にあったが爆発で飛ばされ、無二斎に拾われた物。
「大日が大樹とすれば、武芸者はそれを削って作りし木剣に喩えられよう。確かに、大きさならば大樹が勝るが、より強いのは木剣」
そんな事を話しながら歩き始める無二斎。
「仏道者も同様であろう。木や岩を打ち欠いて仏と為し、人の煩悩欲心を削り覚者と化す」
無二斎は天海の横をすり抜け、軽く跳躍して屋根から地に降り立つ。
「武芸者もまた、人の余分なる性を削り、研ぎ澄ませて己を剣者と為している」
そのまま無二斎はオボロ達の方へ歩き始めるが、天海はそれを制止する事も、無二斎の言葉に答えを返す事もしない。
「故に、術などなくとも、武芸者は全てを持つ仏より遥かに強く鋭い。汝等が企み阻止せんとする蠱毒とやらは、そもそも無意味」
無二斎は、そこで言葉を止める……己の剣により両断され、消滅していく天海への言葉を。
木刀を掲げて見せ天海の注意が逸れた瞬間、無二斎は腰の剣を抜き打ってこの如来を斬り捨てていたのだ。
蠱毒によって剣客達の力が上がっているとはいえ、その恩恵は島中の全ての存在、つまり天海も含めて受けている筈。
そして、天海は三千世界、即ち文字通りでも十億、実際にはそれより遥かに多くの宇宙を統括する権能を持つ仏の中でも別格の大如来。
当然、力の大きさでは天海が圧倒的に勝って居た筈だが、無二斎はそれが全く障害にならぬが如くあっさりと打ち克って見せた。
しかも、使ったのは名刀とはいえ、本来の物とは違う鞘に押し込んだ状態からの居合という、無理のある技の一撃で、だ。
無二斎の言うように、己を極限まで研ぎ澄ませ闘いに最適化させた剣客の前では力の巨大さなど何の意味もないのか、
或いは玉梓との相克で天海の力が予想以上に消耗していたのか……どちらにしろ、天海が破れた今、島の中に仏は存在しない。
魔縁である玉梓は居ても、その力は天海に勝らず、ずっと結界を維持してきた分、消耗の度合いは天海以上だろう。
即ち、この島には剣客以外に御前試合の参加者に対抗し得る者は居ないという事だ。
この御前試合の、また天海の懸念が正しければ十方世界そのものの未来は、全て剣客達の決断と行動にのみ委ねられた事になる。
【南光坊天海@史実? 消滅】
「お前は……」
近付いて来た無二斎に気付き、なえかから距離を取るオボロ。
「これが全て、
宮本武蔵とやらの仕業か」
元の仲間達の死体を目で指し示しながら、無二斎は問う。
「ああ、多分。俺が来た時には、もう……」
俯くオボロに対して、無二斎の語りは続く。
「この者達の仇は討っておこう。故に、安んじて……死ね!」
言うと共にオボロに斬り付けようとする無二斎だが、それよりも先に、無二斎から漏れ出る殺気を感じ取ったオボロが仕掛けていた。
だが、速度で自分に勝り警戒心も強そうなオボロに対し、不意打ちで機先を制する事の難しさは無二斎も承知の上。
そこで、無二斎は己の殺気を隠そうとはせず、逆にわざと漏らして見せたのだ。
結果、オボロの先制攻撃を受ける事になったが、無二斎が殺気で釣り上げようとした本命はもう一人の方。
無二斎が殺気に反応し横合いから襲い来るなえかを後に下がって避けると、彼女の身体がオボロと無二斎を遮る形となる。
咄嗟になえかを斬り捨てる決心が付かず、オボロの動きが半瞬だけ止まった瞬間、下がっていた無二斎が反転した。
肩がなえかに触れた瞬間、さして強く押したとも思えないのになえかの身体が急速度で撥ね跳び、オボロに衝突。
体勢を立て直すよりも早く駆け寄った無二斎が……いきなり後方に跳んで間合いを開く。
無二斎が急に退いた理由は単純、その場に新たな剣客が現れたのだ。
その風格に、無二斎やオボロは勿論、半ば理性を失っているなえかですら打たれてしばし動きを止める。
だがそれはほんの一時、集まった四人の剣客、或いは三人の剣客と一匹の妖怪は、各自の思惑に従い、激しく動き出そうとしていた。
【ほノ肆 城下町/一日目/午後】
【富士原なえか@仮面のメイドガイ】
【状態】暴走
【装備】折れた打刀
【所持品】支給品一式、「信」の霊珠
【思考】基本:戦う目的か大義が欲しい。
【オボロ@うたわれるもの】
【状態】:左手に刀傷(治療済み)
【装備】:打刀、オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:男(宗矩)たちを討って、ハクオロの元に帰る。試合には乗らない
一:無二斎を倒す
二:
トウカを探し出す。
※ゲーム版からの参戦。
※クンネカムン戦・クーヤとの対決の直後からの参戦です。
※会場が未知の異国で、ハクオロの過去と関係があるのではと考えています。
【新免無二斎@史実】
【状態】健康
【装備】十手@史実、壺切御剣の鞘@史実、打刀(名匠によるものだが詳細不明、鞘なし)
【所持品】支給品一式
【思考】:兵法勝負に勝つ
一:宮本武蔵を探す
二:他者の剣を観察する
【
上泉信綱@史実】
【状態】疲労、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
一:殺さずに眼前の戦闘を収める。。
二:宮本武蔵とはあらためて勝負する。
三:機会があれば
柳生連也斎の新陰流をもっと見たい。
【備考】※
服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、
土方歳三の人物像を聞きました。
※己の活人剣で以蔵を救えず、赤音の殺人剣でこそ以蔵が救われた事実に、苦悩を抱いています。
※己の活人剣の今回の敗北を率直に認め、さらなる高みを模索しようとしています。
最終更新:2014年04月03日 23:16