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外薗綸花の放った衝撃波を、宮本武蔵が迎撃し空中で切り裂く。
実体の剣で斬ったというよりは、剣を振るう事で全身の剣気を集中させて叩き付け、綸花の剣技を霧散させたと言うべきか。
そのまま一気に接近しようとする武蔵に対し、綸花は足元を狙って衝撃波を放ち、避けて通る隙に間合いを離す。
師岡一羽と交戦した時から、一流の剣客を遠距離からの一方的な攻撃で倒せる筈がない事は綸花もわかっている。
柳生連也斎剣桃太郎との闘いでそうであったように、最終的にはリスクを冒して接近戦で勝負するしかないだろう。
だが、武蔵の技量と老練さは一級の剣士だった連也や桃太郎と比べてすら更に一段も二段も上。
今の武蔵は二刀を持っているが、その内の一刀だけですら、近距離なら綸花を圧倒するに十分な戦力。
仮にまた白桜の能力で虚を衝いたとしても、圧倒的な力量差を覆す事が出来るかどうか。
それで攻めあぐねていた訳だが、今の武蔵は以前に闘った時に比べ、剣速も足腰の強靭さも明らかに増している。
長く突進を躱し間合いを保ち続ける事が出来ないのは明らか。
城下の地形を利用して躱し続ける綸花だが、地形の活用に関しては武蔵の方が上手。
やがて綸花は壁際に追い詰められ、居合で迎え撃とうとした瞬間、武蔵が蹴り出した小石を手首に受けた。
威力は大したものではなく痛手にはならないが、技を繰り出す寸前にバランスを崩されれば、衝撃波を放つ事は困難。
とはいえ今から抜刀を中断して体勢を整えようとすれば、その間に踏み込まれるのは確実。
綸花はそのまま居合を放つと同時に柄の握りを緩め、武蔵に向かって白桜を飛ばす。
最小限の動きで飛刀を避けた武蔵は二刀を重ねて綸花に叩き付ける。
ここで白桜を鞘内に呼び戻せば迎撃する事は出来るだろうが、剣と衝撃波を合わせても武蔵の二刀に対抗できる見込みは薄い。
だが、実は綸花はこのような展開になる事を半ば予想した上で、この壁際まで武蔵を誘い込んだのが真相。
武蔵の二刀が綸花を斬ろうとした瞬間、綸花の姿が掻き消え、同時に武蔵の背後に現れた。
白桜の剣を手元に呼べる能力を逆に使用し、剣を腰の鞘に納める位置に自身の身体を転移させたのだ。
そんな事が本当に可能だという自身があった訳ではないが、この程度の無茶が出来ないようでは武蔵に勝てる可能性は皆無。
故に綸花は一か八かの賭けに打って出、見事、賭けには勝利。
自身の身体をいきなり転移させる事が出来れば、掴める隙は、剣だけを召還した時の比ではない。
壁際に追い詰め渾身の一撃を放った状態で背後を取られれば、武蔵は前方に跳ぶ事も剣を構え直し迎撃する事も不可能。
唯一の対抗策は左右に逃げる事だが、それを封じる為、綸花は二本の刀で同時に居合を放ち、衝撃波の十字砲火で武蔵を攻撃。
二刀同時の居合では、一方の手で鞘を引く事も腰の回転を乗せる事もできないし、空中では踏み込みも無意味。
故に放たれる衝撃波の威力も最低限であり武蔵を討つのは難しいだろうが、渾身の力を込めれば手足の一本くらいは落とせる筈。
衝撃波は武蔵に迫り……届く寸前で掻き消される。

綸花の攻撃を打ち消したのは無論、宮本武蔵……だが、迎撃が間に合ったのではなく、衝撃波を消したのは武蔵の纏う剣気。
武蔵は一流の剣客の中でも特に剣気が強く森を歩けば獣が逃げ惑ったというし、東郷重位も物理的威力を持つ程の気を誇った剣客。
故に今回の闘いでも剣に気を乗せて衝撃波に対抗していたのだが、身に纏う剣気だけで綸花の渾身の一撃に打ち勝つのは異常。
何しろ、本格的に氣の扱いを学び奥義を極めた剣桃太郎ですら、氣で衝撃波の威力を削ぎ致命傷を避けるのがやっとだったのだから。
なのに綸花の一撃があっさり掻き消されたのは、武蔵の気迫が桃太郎をも大きく越えた為ではなく、綸花の気迫が尽きていた為。
元々、桃太郎との闘いで綸花の気力はかなり消耗していた。
加えて、武蔵の気は獣も逃げ出す程に激しく、対峙して逃げずに立ち向かうだけで常に気力を擦り減らす程。
そんな武蔵と死闘を長く続ければ気力を遣い尽くしてしまうのも無理のない事だ。
敢えて追い込まれ武蔵の隙を衝く為に綸花が選んだ長期戦が齎した展開。
経験不足の為に、技の競い合いの裏で気迫の削り合いが行われている事、そこで己が敗れつつある事に無自覚だったのが綸花の敗因か。
既に己が敗れているのを悟った衝撃で、綸花は受け身も取れず地に堕ちる。
これまでも絶望的な状況には幾度も出会って来た。
だが、数時間前までの綸花が剣客として全く未完成であったのに対し、今の綸花が一定の完成に到っている事。
未完成な時の綸花は無力であった代わりに成長の可能性を強く持っていたが、完成する事で綸花は無力さと可能性の両方を捨てたのだ。
短期間で超一級の剣客と渡り合えるまでになる急成長の代償として、綸花は既に己の伸び代のほぼ全てを捧げてしまっている。
連也斎と闘った時に見せた別人への覚醒は望むべくもなく、闘いと地道な鍛錬により少しずつ腕を上げて行くしかない。
それはつまり、あと数時間と続かないであろうこの殺し合いに於いて、武蔵との隔絶した腕の差を埋めるのは不可能という事。
無謀な賭けに出、それに勝って策に嵌めてすら武蔵を討つには足らなかった事実が、綸花の心を容赦なく打ちのめす。
敵が絶望に囚われて動きを止めたのを見過ごす武蔵ではなく、止めを刺そうと構え……横合いからの殺気を避けて飛び退く。
乱入したのは石川五ェ門……だが、その眼には覆いきれぬ強い惑いの色が浮かんでいた。

城の屋根から落下した五ェ門は堀に落ちて半ば溺れ、漸く堀から出て息を整えたのがつい先程の事。
本来の五ェ門の運動神経からすれば、あの程度の高さからの落下なら空中で体勢を建て直し着地するのは容易だった筈。
それが為す術もなく堀に落ち復帰に時間が掛かったのは、それだけ落下の直前に見た光景のショックが大きかった為。
いや、五ェ門の迷いの源はそれだけではないか。
今になって考えてみれば、この島に於いても五ェ門は仲間に恵まれていた。
島で出会い行動を共にした剣士達は皆、内に信念を秘めた高潔な、尊敬に値するべき者ばかり。
だが、そんな仲間達も既に殆どが命を落とし、五ェ門は彼等の為に十分に力になれなかったという悔恨に苛まれている。
初めから仲間を信頼していれば、もっと冷静に状況を見極めていれば、彼等を救う事が出来たのではないか。
現実には、五ェ門は年若い少年やか弱い少女が死んで行くのを止める事が出来ず、自分だけ生き残ってしまった。
己の迂闊さと不甲斐なさに心は乱れ、そのせいでまたしても失策を犯し、すぐに仲間の許に戻れなかったのだ。
それでも、薫の死を確かめた訳ではないし、まだ信乃もいる。
時間が経ってしまった事で彼等の援けになれる可能性は減ったとはいえ、本来ならばすぐ城の上に戻るべきだったろう。
だが心の乱れの為に五ェ門はすぐには動けず、決意を固める前に、城下での武蔵と綸花の闘争の気配を察知してしまった。
闘っている一方が宮本武蔵であろう事は容貌から予想できたし、衝撃波を使う少女の事も信乃から報告済み。
薫によれば彼女は一時同行し武蔵と共闘した仲間だといい、信乃によれば彼女が信乃達を襲ったのは錯乱の結果らしいという。
だが、薫には綸花の人格や事情を詳しく知る余裕などなかったし、信乃の見立てもただの推測。
或いは綸花の本性は危険な人斬りだったのかもしれず、状況から桃太郎は彼女に討たれた可能性が高い。
だから人斬り同士の潰し合いを放置して仲間の救援に向かうという選択肢も五ェ門にはあった筈。
そう理屈では分かっていても、綸花の敗北を悟った五ェ門は、考える前に武蔵に仕掛け、今の状況に到る。
結局の所、五ェ門には罪もない(かもしれない)少女の死を看過する事など出来る筈がないのだ。
ヒナギクや薫を救えなかった事の、一種の代償行為という面があるのは五ェ門自身も理解はしていた。
それでもどうする事も出来ず、己に対する憤懣を武蔵へとぶつけて行く。

一方、武蔵から見れば五ェ門は実に奇妙な剣士。
迷い・惑い・悔恨……種々の負の感情により五ェ門の心が乱れている事は、目つきや表情を見れば明らか。
ならば心の乱れが剣をも乱しても良さそうなものだが、現実には太刀筋は鋭く、戦術は冴え渡っている。
技と感情を完全に切り離す術を修得しているのであれば、油断ならぬ強敵。
また、五ェ門相手に時間を掛ければ、綸花が絶望を捻じ伏せ再起する危険もあるだろう。
故に、武蔵は二刀を以て必殺の攻撃を仕掛け、一気に五ェ門との決着を付ける事にした。
武蔵が二刀による連撃を放つ。
時空が歪み攻撃と攻撃の合間が消失する事で、六本腕の阿修羅の如き隙のない連撃が五ェ門を襲う。
だが、回避不能の筈の六連撃は、五ェ門の着物を切り裂いたのみで本体は無傷。
水を含んだ着物を切る際の無に等しい微かな剣筋の乱れにより連刃の中に身体一つ分の隙間を作り、そこに己を入れ込んだのだ。
武蔵さえも瞠目する完璧な体運び……迷いに技を害されるどころか、迷妄を力とし、今の五ェ門には常識外れの洞察力が宿っていた。
今の五ェ門には全てが見えている、武蔵の剣も、武蔵と綸花の技により生まれた時空の歪みさえも。
五ェ門は躱した武蔵の一刀を強く蹴ると、綸花の間近まで大きく跳んで間合いを開く。
先程、五ェ門の乱入時、まだ剣の間合いに入らない時点で武蔵は明らかな危険を感じて飛び退いた。
五ェ門には、遠間を埋めて刃を届かせる何らかの手を持っているのだろう。
ならば間合いを開けるのは不利、武蔵は蹴られた刀をあっさり手放すと、五ェ門を追い残る一刀で必殺の一撃を繰り出す。

「がはッ」
跳躍の衝撃で喀血しながらも、五ェ門は武蔵を見据える。
限界以上の力を発揮する事で斉藤伝鬼坊に受けた傷が開いたのだ。
あと一太刀……一太刀だけ、今の限界を超えた力で振り切れば、それだけで五ェ門は死に至るだろう。
そして、終わりが近いのは五ェ門が持つ斬鉄剣も同じ。
元々、刃こぼれを修復する暇もなく酷使し続けて来たのだから、ガタが来ている。
この状態で、本来以上の力を発揮する五ェ門の技を完全に乗せれば、耐えられるのはおそらく一撃。
だが、最期であるとわかっているだけに、次の五ェ門の一撃は、その魂と生涯の全てを籠めた、最高の一刀になる筈。
真っ向から武蔵の必殺剣と撃ち合えば勝率は三分、いや二分……これが極限まで高まった五ェ門の眼力による読み。
しかし、今の五ェ門にとっては確率など無意味。
迷いで心を満たす事で得た悟性に従い、五ェ門は生涯最後の一撃を放った。

二本の剣が交錯し、武蔵の剣は五ェ門を切り裂き、対する五ェ門の斬鉄剣は砕けつつ空を斬る。
そう、空が……斬鉄剣の刃が通った部分の空間が切り裂かれ、次元の裂け目が生まれたのだ。
本来、時空などというものは剣で斬れるものではない。
物質のような実体がないからというのもあるが、より大きいのは、それがかなりの弾力性を持っているという事。
だからこそ転移だの結界だので空間が捻じ曲げられても簡単に裂け目が出来たりしない訳だし、
武蔵や時間旅行者が好き勝手に過去を改竄してもすぐさま辻褄が合うよう修正され、世界は崩壊を免れているのだ。
これだけの弾力を持つ時空を剣で斬ろうとしても、普通なら蒟蒻が衝撃を分散する如くに斬撃を受け流されてしまうだけ。
だが、密度が無限に縮退したブラックホールの中心点で空間に穴が開くように、時空の弾力性にも限度がある。
五ェ門は、武蔵等に好き放題改変され、限界まで伸びきった歪みの中心点を見切って精確に突く事で時空を切り裂いてみせた。
「行け!」
綸花を突き飛ばして裂け目に放り込むと、五ェ門は力尽きる。
閉じて行く裂け目から見える光景は地球の現代的な街並みに見えたが、詳しい事は判らない。
綸花自身の元いた世界に帰してやれた可能性も皆無ではないが、彼女を更なる苦難に向かわせただけになる公算も低くはなかろう。
それでも、この島から何としても逃がす事が綸花を助けうる唯一の道だと、五ェ門は判断したのだ。
仮にここで武蔵を退けられたとしても、まだ島には幾人もの剣客が残っている。
さすがに残り少なくなっている筈だが、その分だけ凶気も凝縮され、恐るべき剣鬼ばかりとなっている筈。
直接的な襲撃からは何とか守れたとしても、ぶつかり合う闘気を浴びるだけでも、少女にとっては猛毒。
毒が少量ならば薬として働くように一流の剣気に触発されて才が開花する事も有り得るが、それにも限度があるだろう。
そして、信乃の話を聞き、自身の目で見た結論として、明らかに今の綸花は限界を越えている。
これ以上この島に居続ければ、間違いなく彼女の人格は破壊されていた。
故に五ェ門は、送り先の状況すらわからないにも拘らず、綸花を逃がすしかなかったのだ。
後は綸花自身が自力で立ち直ってくれる事を、送り先の世界の誰かが彼女を救ってくれる事を願って……

己の剣に斬られて斃れた石川五ェ門を見降ろす武蔵。
「愚かな男だ」
武蔵の感想としてはそれしかない。
あの女が五ェ門とどんな関係だったのか……仲間か、恋人か、親族か、弟子か。
何であろうと、他者を救う為に目の前の勝負を捨て、敵を無視して空を斬るなど愚の骨頂。
あの身のこなし、剣の鋭さ、武蔵の対抗し得るだけの技を持っていたのに……
武蔵の奥義によって斬られた者は存在自体が過去に遡って消滅する筈だが、五ェ門の骸はそのまま。
あの時、五ェ門が己ではなく空間の歪みを狙っていると悟った武蔵は、奥義を中止して据え物を斬るように五ェ門を斬り捨てたのだ。
奥義を使う必要がない、或いは五ェ門にその価値がないと断じたのではなく、恐らくは逆に惜しいと思ったのだ。
あれ程の遣い手と決着を付けられなかった事も惜しいし、ましてその存在と技をなかった事にしてしまうなど……
そう推察して、己が無意識に感じていたらしい想いに少々戸惑いつつ、武蔵はその場を離れる。
究極の技を会得し剣を究めた、即ち他者との試合など既に必要としない筈の己に、強敵との対決を悦ぶ感情が未だ残っていたとは。
気配を探るに、島に残っている剣客は、あと精々数人。
果たしてその者達は、武蔵の感情を再び揺さぶり、心の奥底にあるものを見詰め直す事を可能にするだけの腕を持っているだろうか。

【外薗綸花@Gift-ギフト- 脱出】
【石川五ェ門@ルパン三世 死亡】
【残り四名】

【ほノ肆 城下町/一日目/夜中】

【宮本武蔵@史実】
【状態】健康
【装備】同田貫薩摩拵え@史実、新藤五郎国重@神州纐纈城
【所持品】なし
【思考】剣術の極みを示す
一:出会った者を斃す
二:卜伝には多少の興味

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最終更新:2015年12月29日 15:07