月下剣舞◆/JvwgnbCcs
「殺し合い……気は進まないが……どうしたものか?」
一本の村と村を繋ぐ道の脇にある岩に座りながら、端正な顔立ちをした細身の男。
山南敬助は呟いた。
「そもそも私は………昨夜に新撰組を脱走した筈なのだが…………分からない。
宿で眠っていたのは間違いないのだがその後は……」
山南はそこで首をかしげる。
どうも脱走した後の記憶が曖昧なのだ。
記憶に靄が掛かっているような不思議な感覚を覚える。
「………駄目だ。どうもはっきりしない。とりあえず刀を調べるか。何かおかしいが」
山南は一度首を軽く振ると腰に差した刀を抜く。
そしてそこで刀の違和感の正体に気付く。
「黄金の剣?それも両刃……これは一体」
一瞬面を食らったような表情を見せる。
だがすぐにいつもの顔に戻る。
「しかし名刀であるのは確かなようですね。手ごたえも充分だ」
その後山南は人別帳に目を移す。
(えっと……沖田君に伊東君。それから……………えっ)
「
芹沢鴨!?新見錦!?」
途中で思わず声に出して驚いてしまう。
死んだはずの二人の名が記してあったのだから当然であるが。
(どういうことだ?なぜ芹沢さんに新見がいる?二人とも確かに死んだはず。
新見の切腹はこの目で見たのだから生きている筈も無い。
どうして名前がある。何が起こっている)
顎に手を当てながら必死で冷静さを取り戻す事に努める。
しかしそこに一人の侍が現れる。
「ほう。見たところ一人に椅子に座っているようだが、何をしている?」
「!?」
山南はすぐに立ち上がり声の方に振り向く。
するとそこには右手に木刀を携え、綺麗な紺色の陣羽織を着た侍が立っていた。
「あなたの名前は?」
「アサシンのサーヴァント。
佐々木小次郎」
「佐々木小次郎!?」
佐々木小次郎。
それは山南の生きた時代より遥か過去の侍の名前である。
それを聞いた瞬間、山南の脳裏にはある考えが浮かんでいた。
(佐々木小次郎。過去に巌流島で決闘を行った侍と聞きましたが、私とは生きた時代が違うはず。
しかし彼の様子から 偽りの雰囲気は感じ取れない。
先ほどの村雨斬という少年を葬った手段も考えてみると妖術のようなものだったが、
やはりこの戦いを主催した柳生宗矩は妖術の類の使い手なのかもしれない。それなら何らかの手段を用いて死者を
生き返らせる……もしくは異国の医療技術で蘇生に成功させたのか………信じられないがそのどちらかだろう。
それにその通りであれば芹沢さんと新見も生きている事は合点はいくのだが……もしくは私の考え及ばない力が
働いているのかもしれない。しかしそうであればこれ以上の思案は無駄という物か)
山南は自身の中での疑問に決着をつけていく。
「どうした?何を惚けておる」
「………すいませんねえ。考え事をしていた物で。私は新撰組総長の山南敬助。何の御用で」
「ふふふ。知れた事。このような殺し合いの場に招かれた剣客同士が出会えたのだ。死合以外の何を望む」
「死合ですか。出来れば避けたかったのですが………」
そこで山南は相手の顔を見つめる。
(邪悪な感じは見受けられませんが、戦いを望む戦士の目をしていますね。ここで引くことは叶わないでしょうね)
「………分かりました受けましょう。しかしあなたの得物はその木刀のようですが、それで戦う気で?」
「ああ。残念ながら愛刀を支給されることは叶わず、代わりにこの木刀が渡された。しかしたかが木刀と侮らぬ事だ。この木刀
なにやら特殊な素材で作られているらしくてな。そなたを斬ることは叶わぬが骨を砕く事は容易に出来る」
「なるほど。では手加減は無用ですね。私も本気でいかせてもらいましょう」
小次郎の言葉に安心し、山南は刀を鞘から抜く。
「ほう。そなたはセイバーの剣を支給されたか。運の良いことだ」
「ええ。セイバーという名は存じませんが、良い刀ではあるみたいですね。何より感触が良い」
小次郎の言葉に山南が返し、しばし沈黙が流れる。
そして一陣の風が吹き、それが合図となる。
「はあっ!」
先に動いたのは山南だ。
一息の後に間合いをつめ、居合いのような鋭い一閃が小次郎に襲い掛かる。
「ふんっ」
しかし小次郎はそれを木刀で受け止め、そのまま流れるように山南の右肩に斬りかかる。
山南は柄でそれを受け止め、逆に小次郎のバランスを崩す。
「ぐっ!」
「甘いっ!」
山南はそこを逃さず、一気に斬りかかる。
しかし小次郎は寸でのところで後退し、切っ先は僅かに左肩を掠める程度だった。
「なるほど。山南といったか。確かにいい腕をしている」
「ええ。ですがあなたも、そしてその木刀も普通ではない。私の真剣での一閃を真っ向から受けきる木刀など始めてみましたよ」
「ああ。それでは次はこちらからいかせてもらおう」
話が切り上がると次は小次郎から仕掛ける。
超高速での無数の斬撃である。
「早いっ!?」
「とおっ」
無数の木と鉄の弾きあう音が響く。
それは無数の音だが、両者の剣速は加速して一つか二つのようにも聞こえる。
(早すぎる。このままでは不味い)
山南は内心では焦っていた。
徐々に自身の限界が近づいていく。
しかし小次郎の剣速は一向に限界が見えない。
(くっ、一か八か)
山南は少しずつ足場の悪い方へ後退していく。
「どうした。そなたはその程度なのか」
小次郎は山南への追撃を緩めようとしない。
(もう少し、もう少し)
山南は慎重に誘導し、遂に目的の場へと辿り着いた。
「っ!?」
(よしっ!?)
それは一瞬。
小次郎の足が小さな岩にかかり、ほんの僅かにだが剣筋が大振りになる。
しかしそれは充分に大きな隙となる。
山南は木刀の軌道と剣の軌道を重ねて大きく外に外す。
「くっ」
「私の勝ちだっ!!」
そのまま一気に間合いを接近する。
大きく木刀の軌道を外したが、切り返しの斬撃を繰り出すには自身の剣も重心がズレてしまっている。
そのため山南は右手を剣から離し拳を握り締め、突進するかのように小次郎の顔面に拳をたたきつけた。
「ぐっ!?」
しかし、小次郎はその刹那、自身で後ろに跳び衝撃を半減させる。
再びしばしの沈黙が訪れる。
山南は息を整え、小次郎は殴られた頬を一度撫でてから山南へ向き直った。
「驚いたぞ。まさか剣ではなく拳が飛んで来るとは」
「ええ。まともな剣道の試合じゃない、死合なのだから拳ぐらいでは卑怯とは言わせませんよ」
「いや、別にそなたを卑怯と罵るつもりなどはない。ただその冷静な状況判断能力とそれを可能にする技量。些かそなたを
甘く見すぎていたようだ」
「お褒めに頂いて感謝しますよ。それでどうします。次は再びこちらから行きましょうか」
(右手が僅かに痛む。すぐに回復するとは思うが……やはり慣れない事はするものじゃないな)
山南は右手を痛みを隠すように不敵な笑みを作る。
しかし小次郎の反応は意外なものだった。
「ここは止めだ。本来の得物以外でそなたとこれ以上戦うのは無粋が過ぎる。それにそなたもそれは慣れぬ剣なのだろ。
そなたとは万全の状態で死合たいものだ」
「……ええ。元々はそちらから仕掛けた勝負。中断する事は一向に構いません」
「ではな」
小次郎は背を向けるとそのまま姿を消していく。
山南も剣の鞘に収めると、ため息をつく。
「疲れました。やはり慣れないことはするものではない」
山南はしばし休み、右手を痛みが引いていくのを感じてから再び立ち上がる。
「まずは村ですね。何か脱出の手がかりがあればいいのですが」
月明かりの中を山南の旅は続く。
【ほノ陸 歩道/一日目/深夜】
【山南敬助】
【状態】若干の疲労 右手に僅かな痛み
【装備】エクスカリバー@Fate/stay night
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この死合からの脱出 現在北上中
一:日本刀を見つける。
二:芹沢や新見が本人か確認したい
【備考】
新撰組脱走~沖田に捕まる直前からの参加です。
エクスカリバーの鞘はアヴァロンではなく、普通の鞘です。またエクスカリバーの開放は不可能です。
柳生宗矩を妖術使いと思っています。
【
佐々木小次郎(偽)@Fate/stay night】
【状態】左頬に軽度の打撲
【装備】妖刀・星砕@銀魂
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:強者と死合 現在南下中
一:物干し竿を見つける。
二:その後山南と再戦に望みたい。
【備考】
登場時期はセイバーと戦った以降です。
どのルートかは不明です。
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最終更新:2009年08月31日 02:26