純潔の太刀筋◆ZtCYlxZ4so
五尺二寸ほど。
黒髪の少女が「とノ漆」の村外れに佇んでいた。
齢は十七。
見かけは幼いが中々どうして器量の良い精悍な顔つきである。
立ち並ぶ民家の裏手。
目の前には深くはない林の奥に闇が広がっていた。
ひどく煌々とした月の下で、少女はその林よりも深いざわめきを感じていた。
無双真伝流。
少女の流派はいわゆる抜刀術である。
しかしそれは表向きの話。
若くして才覚に満ちた彼女は居合いの達人で刀鍛冶の父を持っていた。
彼は非常に高名で、世の名だたる剣士という剣士が彼の元を訪れた。
彼女はといえば、時に彼らの土産話を聞き入り、時に稽古をつけてもらう。
そんなことを幼少より続けてきたのだ。
本流はまさしく電光がような居合いではあるが、徒手での合気にも優れる。
父が亡くなってから、その本懐を果たすことは未だ叶わずとも
剣を磨き、剣に生き、幾多の修羅場を乗り越えてきた一流の剣客である。
ゆえに彼女に支給された刀は、"肌身離さず大事にしたもの"ではないにしろ、手になじむのである。
しかし"違う"のだと、腰元に下げた居合い刀をすらりとした指で撫でる。
「父上・・・」
高嶺響は少女である。
何かをかみ殺しているのか、それとも上ずるような声だった。
泣いているのかと言えばそうではない。
震えているのかと言えば、そうでもなかった。
父は決して手を抜くことはなく彼女に剣を教えた。
そしてある日一本の剣を授けてくれたのだ。
ひどく嬉しい日だった。
一流の剣客、一流の刀匠に認められたのだ。
いや、父だ。
父が自らを認めてくれたのだと、なによりも充足感があった。
その唯一の父の形見が身の側にないことが、目を閉じた彼女を波立たせていた。
しかし高嶺響は剣客である。
始まりは父が打った一本の刀。
それを最後に父は病に伏し、あっけなく生涯を終えた。
依頼をした武芸者を恨んだこともある。
それでも諸国を巡り、人知を超えた修羅を打ち倒す内になにかを知り、
或いは未だ何も知らないことを"知っている"のだ。
彼女は腕試しや武芸自慢などといったものには興味がない。
そんな時期はとうの昔に、望むべくまでもなく過ぎたのだ。
「死を、恐れぬ心也」
さらさらと林道を抜けていく風を、まるで"見えていない"かのように一点を見つめ、高嶺響はつぶやく。
月が照り返しとして瑞々しく跳ねたかと思えば、その頃には一枚の落葉が真っ二つに浮いていた。
目を閉じる。
彼女が過去に刃を交えた剣客の中には、文字通り大地を裂くほどの者や、雷を操る者たちもいた。
そのような者を目にしているからこそ、打ち倒したはずの「
宮本武蔵」がいることにも合点がいく。
そもそも自分の戦った武蔵も外法により蘇らせられた存在だったのだから。
凄まじい豪の剣。
凄まじい剣士の性。
そのような者たちが、図らずとも殺し合いをするのだ。
旅に出たその頃から自らが未だ生きているのも、半ば時の運だったともよく理解をしている。
高嶺響。
女といっても彼女の眼光は剣閃がごとく鋭い。
それよりも、そのやわらかな微笑みは純粋で無垢であり、正しく美しくもあった。
二度ほど首を軽く振ると女は襟を正す。
いまその渦中に再びあり、それでもこの下らない争いに身をやつすつもりは、断じてないのだと。
ようやく二つに分かたれた葉が、冷えた土にひたりとついたところだった。
【とノ漆 民家の裏手/一日目/深夜】
【高嶺響@月華の剣士第二幕】
【状態】健康 強い覚悟と意志
【装備】居合い刀(銘は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:享楽的な争いに強い反抗心
一:黒幕を見つけ対抗する。
二:殺し合いに乗った者は何の迷いもなく切り捨てる。
【備考】
エンディング後の参戦
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2009年04月27日 22:46