少女二人で夜越えて―/人斬り二人◆OBLG3wT6B.



―私は人斬りを斬りたいのだろう



とノ漆のとある民家の前に水に濡れた少女、香坂しぐれは立っていた。
彼女は近藤勇との戦いに敗れ、海に転落してから少し休み、その後
濡れたままでは無駄に体力を消耗すると考え、服を探すために民家を探索していたのだが、
その中の一軒から人の気配を感じたのだ。
そこで彼女は探索を一時中断し、中の人と接触することにした。
トン、トン

「誰だ!」
「やっぱり…居た。ボクは香坂しぐれ。気配がしたから確認して…みた。
…殺し合いには…乗ってない」
「……入っていいわ」

ゴトッ
中に入ると、小柄な少女が剣を構えて立っていた。

「お邪魔…します。…できればその剣を下ろして欲し…い」
「ごめんなさい。彼方が本当に試合に参加していないか分からなかったから。私は高嶺響
「それもそう…か。それなら仕方…ない」
「早速だけど、座って話を聞かせて欲しい。囲炉裏で暖をとりながら」
「ああ…このままでは風邪を引いてしまいそう…だ。」


「そう。それで彼方はその近藤勇と戦い、敗れたのね」
「まあ…そうだ。次は負け…ない」
「一つ確認するけど、近藤勇と名乗りあった後に彼方から斬りかかったのね?」
「そう…だ。なにやら…興奮していたから…頭を冷やしてやろうと思っ…た」
「なぜ斬ったの?」
「だから…頭を冷やしてやろうと思ったから…だ」
「斬らない方法は無かったの?話し合いだって出来たはずよ」
「それは…あの手の奴は…少し動いたほうがすぐ落ち着く…から」
「でも、彼方は刀で斬りかかった後、その刀を投げて牽制し、鎖鎌で
近藤勇の首を絞めようとしたと言ったわ。途中から殺す気で戦ってる」
「それはそうかもしれないが…でも…」
「彼方、本当は最初から近藤勇と死合いする積もりで斬ったのではないの?」
「そんな事は断じて…ない。つい本気で戦ってしまったが…最初は無力化して
後で話し合う積もり…だった」
「嘘よ。彼方ほど戦い慣れていたら、最初に近藤勇が剣を振るっていたのを見た時に
近藤の剣の腕を見抜いたはずよ」
「確かに強いとは…思った。でも…勝てると思ったから…戦った」
「戦ってみたら予想より強かったと言うのね。でも彼方はついさっき、”次は負けない”
と言ったわ。まだ愉しみのためにに戦うの?」
「ボクは愉しみの為になど戦って…いない。殺し合いに乗った者を無力化するために…戦った」
「近藤勇は試合に乗ったとは言ってなかったのではないの?」
「…危なそうだった」
「だからこそ、彼方は話し合うべきだった。話をすれば近藤勇は人を斬るような事は
しなかったかもしれない。でも今は戦いに興奮し、何処かへ行ってしまった。一度、
斬ることの愉しさに溺れたらもう止まらないわ」
「そうだ…だからボクは近藤を止める…ためにまた戦わなければなら…ない」
「そうやって、今度は殺すのね」
「…殺さない」
「それなら、彼方はもう戦わないほうがいい。」
「ボクはまた…戦う。今回は失敗した…けどもう油断しな…い」
「油断せずに殺すの?」
「ああ…なんでボクを人殺しにしたがるんだ?」
「したがるんじゃない。事実そうだからよ。彼方は人斬りなのよ」
「なんで…お前にそんな事が分かる?」
「私は多くの人斬りを見てきたからよ。自分の強さを証明するために人を殺す、
人を殺して悦に浸る人斬りという人種を」
「違う!ボクは…」
「やはりね。どれ程の人を斬ったかは知らないわ。罪悪感もあるようね。
でも、もう彼方は人を斬らずにはいられない。
人を斬ることが許されるこの場所では衝動を抑える必要がないのだから」
「殺さない!」
「無理よ。彼方はもう戦う悦びに気付いてしまった。例え今は殺す気が無くても、
戦い始めたら必ず相手を殺すわ」
「…分かった。出来ることを証明する。お前は今からボクを襲え。ボクはそれを無力化する」
「分かったわ。今は刀を持っていないけど、彼方は人斬り。今の内に私が彼方を斬る」


「遠間より斬る也」

刀を持たない相手を斬ることに僅かに抵抗があったものの、相手が人斬りならば容赦はしないと、傍に置いていた刀を持つと同時に、首筋を狙い素早く抜刀し斬りかかった。

「予想以上…」

そこで響はあり得ない事を目にする。あろうことか、しぐれは十能で彼女の一撃を防いだのだ。
流石に、響の一撃で十能は壊れたものの、日常用品で日本刀を凌ぐとは誰も考えられない。
これは、剣と兵器の申し子と言われるしぐれが、予め相手を警戒し、灰をならす振りをして自分の
近くに十能を置いており、また自分を殺す気で来る彼女が狙うのは首であると
確信していたから出来た事である。

全く予期せぬ事態は、響に居合の基本である二の太刀を遅らせる。
対して、初めからこの隙を狙う心算でいたしぐれは、素早く動く。

「ボクの勝ち…だ」

二撃目が少し遅れて来ると予想していたしぐれは、十能で一の太刀を防ぐと同時に、予め
場所を確認していた火箸を拾いに行った。

「がっ!」

しかし、しぐれの予想に反し二撃目は無く、合気道の様な物で投げられたのだった。

一の太刀を外し、一瞬止まった響は二の太刀を出すことを敢えてせず、
自分から離れていくしぐれを追撃したのである。
響は目の前の事態から立ち直ると、隙を作った自分から態々離れていくしぐれの意図が
武器の調達であると、先ほど十能を武器とした彼女の戦い方から確信し、
武器を確保される前に追撃することを選んだのだ。

「止め忘れぬ事肝要也」

響は背を向けて倒れるしぐれに対し、首に向け刀を突き出す。
今回も首を狙ったのは、殺傷目的という事もあり、服の下に鎖帷子を着ているしぐれを
確実に殺すには首を狙うしか無かったからだ。

「甘い」
「きゃっ」

しかし、しぐれは再び環境を利用する。刀が突き出されたその瞬間を狙い、
囲炉裏の周りに敷かれていた御座を思いきり引っ張り、響の体勢を崩したのだ。
体勢を崩しながらも突き出された刀はしぐれの背中に中るが、またしても鎖帷子に助けられる。

刀が中った衝撃でしぐれは少したじろぐが、なんとか目の前にあった火箸を拾う事に成功する。
しかし、響もしぐれが火箸を拾うと同時に、体勢を立て直す。

二人の攻撃は同時だった。

しぐれは振り向きざまに、響の姿を確認し、彼女の喉に向かい火箸を投げる。
響もあくまでも、しぐれを斬り殺すことを目的に首を狙う。

「ぎゃっ!」
「うっ!」

結果、二人の攻撃は互いの手首に命中した。

しぐれが寝ころびながら、振り向きざまに投げた火箸は、響が袈裟がけに首を斬ろうとして
振り下ろした左手首を貫き、響の刀は、振り向く前のしぐれの首の位置にあった右手首を
切断したのだ。

「ボクの手が…」
「さっきの火箸、首を狙っていた。やはり殺す気になったみたいね」
「違う!」
「違わないわ。人斬りは私が斬る」

痛みに耐え、手首に刺さる火箸を抜いた響は幾分、錯乱するしぐれの周りに、
武器になる物が無いことを確認すると、止めを刺すために右手で刀お振り下ろした。

「人斬りはお前だ」
「そんな!」

しかし、武器になる物はまだあった。
しぐれは、斬り落とされた自分の右手を盾に刀を防いだのだ。
そして、驚く響を突き飛ばすと

「人斬りはお前だ。次は殺す」

そう言いながら、走って家を出て行った。


―ボクは嬉しかったのだろうか。この場で彼らと会えた事が…


【とノ漆 民家の中/一日目/黎明】

【高嶺響@月華の剣士第二幕】
【状態】左手首貫通創 疲労小 強い覚悟と意志
【装備】居合い刀(銘は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:享楽的な争いに強い反抗心
一:黒幕を見つけ対抗する
二:人斬りを斬る
【備考】
エンディング後の参戦

【とノ漆 民家の外/一日目/黎明】

【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】疲労大 右手首切断 両腕にかすり傷 腹部に打撲
【装備】無し
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一: 右手の治療をする
二:武器を探す
三:近藤勇に勝つ方法を探す
四:高嶺響を殺す
【備考】
登場時期は未定です。
所持品は全て民家に置いてきました。



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純潔の太刀筋 高嶺響 夢十夜――第二夜『喪神/金の龍』――
前だけを向いて進め 香坂しぐれ 夢十夜――第二夜『喪神/金の龍』――

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最終更新:2010年05月24日 21:18