御庭番衆御頭◆uLPnCZOZvE
深夜。
町外れをぽつぽつと西へ歩く。
作りからして何処かの城下町のようであった。
周囲は物音一つなく――本当にあれほどの数の参加者が潜んでいるのかと大いに疑問になる。
いや、このように呆けていては良くない。呟き、疼く体を必死でおさめようとする。
しかし、何が良くないのかという気持ちもあるのだ。
この男が行動に出ない理由は単に迷っていたからである。
男は将軍直属の命を受け動く御庭番の頭である。
いや、あったというべきか。悲しむべきことに"最後の"頭なのだった。
まさしくも激動の時代の渦中、彼らは御庭番としての役目を、戦いの最中に果たすことは一度として叶わず。
自らに無念などない。
そう言えば嘘になる。幼少の頃から血を吐くような厳しい修練をそのために積んできたのだ。
それでも部下の無念を思えば、些細なものだ。そう男は考えた。
頭の自分にはいくつもの手引きがあったが全て断り、それからはただ戦いの場を求める日々である。
――本懐なのである。
しかし御庭番衆御頭、
四乃森蒼紫は迷っていた。
自らを戦いの渦中に置くことを望んだのは、果たして本当に自らの意思であったか。
そのようなことは考えたことも無かった。
希望と絶望がまさしくも一体となった御庭番衆御頭、それから全力でここまで走り続けていたのだから。
「女々しいな……」無意識に疑問を交えて口をついだ。誰もいないのだ。そう呟き、水を手で掬う。
それから打ち付けるように強く自らの面表に当てる。
瞼の裏の深い闇に虹彩が瞬き、そして消えた。
目を開けるとそこは、なんのことはない。
静かな町外れであった。
それからは実に手馴れたものであった。
まず行李の中を確認し地図を広げた。周囲の地形をつぶさに観察すると、現在地を"への弐"と確認。
ちょうど城下町の南西の端、"との弐"との北側の境である。
次に眼下の川を確認する。川ではない、外堀だ。
江戸ほどではないが中々に立派である。幅はざっと見ても20メートルを越えるだろう。
地図によれば下流は湾に繋がっている。そして西側は帆山城寄り。
ならば深さは推測になるが、恐らく二メートルより浅いということはあるまい。
つまり西側から城下に侵入する場合、四箇所の渡しいずれかを通らねば不可能である。
手早く東側に向き直って地図と比較をする。
内々は完全に城下町といった様相である。家屋が多い。
少し難しい、と考える。もう少し視野が開けたほうが警戒には良い。
しかし自らもそれを利用して潜伏を考えれば、この上ない条件である。
合戦ならいざしらず、少なくとも局地戦を想定すれば有利とすらいえる。
思案の上、手近な四本の渡しのうち最も南にあるものの傍らで気配を止め座す。
地の利は自らの内にあり、ことこの状況においては闇に紛れるには座すが良しではあるがこの少年、中々の胆力である。
少年、と言ったがこの御庭番の頭領は十五でその地位に上り詰めた天才である。
確かに前任はその父ではあったが、世襲制などという甘っちょろいものではない。
己が実力を認められてのものである。
そしてここに呼ばれたのは、それからおよそ一年にも満ちていないだろうか。
四乃森蒼紫はようやく人別帖を簡易に確認する。つまりようやく"一時の安全を認識"したに過ぎない。
御庭番衆の名前はやはりない。会場で目にすることはなかったのだから当然。それで良い。
男勝りな少女も居ない。閉じる。それで、良いのだ。
人別帖に殊更の興味はない。
御庭番というのは情報に長けており、それは返せばその取捨にも長けているということである。戦場には無用。
次に、支給された武器を確認する。
木剣を支給するなどとぬかしていたが――なかなかどうして。
刃の長さは五十~六十cmの脇差ではあるが白刃ではないか。
むしろ己が剣術は小太刀を使うのだ。天運は四乃森蒼紫を見放してはいない。
それでも"にこり"ともせず、或いは表情筋をわずかにも動かさず、端正な顔をして極めて鋭い眼光を放ち続けていた。
かすかに獣の咆哮が聞こえる前。
既に四乃森蒼紫の隠密としての知覚は、戦いのはじまりをとうに感じ取っていた。
そして同時に、"何かが向かってくる"気配を感じる。
気配などという生易しいものではない。
危機感だ。
ただ闇雲に出鱈目な危機感だと言い切って良い。
研ぎ澄まされた生粋の感覚なのだ。
江戸の城下中に戦火があがり、鋼の打ち震える音、女や馬の交じり合う声がする。
しかしここはいうなれば帆山城下である。
そして未だ、帆山城下に凡人の聞く音などはなかった。
――御庭番衆御頭、四乃森蒼紫
いつ果てるとも知れぬ。どのような因果かも知れぬ。
その中で、御庭番だと拘ることに何の意味があろうか。
「御庭番衆御頭、四乃森蒼紫、参る」
答えは、少なくとも凡夫には知らぬところである。
【へノ弐 外堀/一日目/深夜】
【四乃森蒼紫@るろうに剣心】
【状態】健康
【装備】脇差
【所持品】支給品一式 確認済み
【思考】
基本: 迫り来る気配の主を打ち倒す
一:???
【備考】
※戦闘に備え周囲の地形を把握しました。
※剣心等に出会う前です。面識はありません。
※若年での参戦のため、小太刀二刀流ではなく一刀流です。
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最終更新:2009年04月08日 22:33