ひときり◆KEN/7mL.JI



 薩摩維新志士、精忠組の中心人物であった西郷吉之助、大久保一蔵の二人を、光と影に準える見方がある。
 人望に厚く多くの藩士に慕われ、開明的であった先主島津斎彬の覚えも目出度かった西郷を光。
 権謀術数に長け、岩倉具視等公家との折衝役を務め、表に出ぬ様々な策を巡らせた大久保を影、と。
 この二人は、薩摩維新の両輪であり、どちらが欠けても歴史は変わっていたかも知れない。
 その光と影が、維新後に政界の中心に打って出た大久保と、
 あくまで士として生き、不平士族の中心となって西南戦争で戦死することとなる西郷と、
 その立場が逆転したのは皮肉めいている。
 光が大きければ又影も濃くなる。
 西郷にはもう一人、彼の死すときまで傍らを離れることの無かった影がいた。
 名を、中村半次郎、或いは桐野利秋という。

 しん、と静まりかえっていた。
 僅かに、波音が聞こえ、ここが海の近くだと知らせてくれる。
 月明かりのみが照らす、雑木林の中。よく見れば民家か漁村らしき影も見える。
 その男は憔悴した貌でただ立っている。
 偉丈夫であった。
 立木を切り落としたかのような精悍な容貌に、血走った目が見開かれている。
 冷えた闇夜の空気に、陽炎のような揺らめきが見える。
 短く整えられていたはずの頭髪は千々に乱れ、そこかしこに泥と血糊がこびりついていた。
 軍装である。
 黒衣に金の刺繍の施されたそれも、今はくたびれ薄汚れている。
 傍目にも、満身創痍の出で立ちといえた。
 その姿が、この闇夜の中にとけ込み、一つの影としてそこに在った。

 中村半次郎、いや、大日本帝国陸軍少尉、桐野利秋は困惑していた。
 此処がどこで何が起きているのか。
 先ほどの白州、そして御前試合なる宣言…。
 全てが陶然とした夢物語の中にあるようである。
 自分は…。
 桐野の最も新しい記憶は、西郷の自刃を見届けた後、岩崎口の土塁の中で最期の応戦に出た事である。
 そして、暗転し ―――。
 今に至る。
 既に半刻ほど、そうしていたのかもしれない。
 実際にはもっと少ないかも知れないし、もっと長かったかも知れないが、桐野の意識はほぼ途切れたままそうしていた。
 それでいて、そうとは意識せずに足元にあった行李から、一振りの軍刀を取り出し、それを手にしている。
 今の桐野にとってその刀は心の碇のようなものであった。
 手に伝わる感触が、重さが、唯一この現実へと繋ぎ止める役を果たしている。
 維新後、陸軍に入り、そして反乱士族の一員として、彼は名を改め、手にするものもまた、刀から銃へと変わっていた。
 軍刀である。
 かつての中村半次郎が手にしていたものとは、意匠も作りも異なる。
 しかしそれは、やはり桐野利秋にとっては刀であり、かつての中村半次郎としての己を思い起こさせるものであった。
 帝国軍人桐野利秋と、薩摩の人斬り半次郎との境界が、今ゆらゆらと揺れている。

 その薄膜を、一つの音が切り裂いてきた。

 仏生寺弥助
 越中の国仏生寺村の出身の百姓の子として生まれ、江戸に出て同郷の縁から斎藤弥九郎の練兵館で下働きをするが、
 その後剣の才を認めら れ正式に入門。
 後に神道無念流を脱し、自ら仏生寺流を名乗る。
 天才剣士と謳われ、塾頭、桂小五郎を凌ぐ才と言われたが、人品はなはだ悪く素行にも問題があった。
 長州藩に新規召し抱えとなるも、金がないため武具馬具を手に入れられず、
 商家を脅し金品を借り受けるが全て遊行費に使い潰すなどの乱行が祟り、
 扱いあぐねた長州藩によって薬を盛られ、五条河原にてだまし討ちにされたという。

 半次郎が軍刀を抜き打ちにして払ったのは、錆びた銛であった。
 闇の中から飛来したそれは、そのまま地面にたたきつけられる。
 続いて、闇の中より影が走り寄る。
 身体が勝手に蜻蛉に構え、影を見定めるや猿叫を上げ斬りかかる半次郎。
 その姿勢が、ゆらり崩れた。
 鋭く膝を打つ衝撃に、勢いを殺せずつんのめる。
 しかしさすがは半次郎、素早く横転し、右手の軍刀を再度掲げて構えるが、
 それよりも早く再度の衝撃を腕に受ける。
 蹴りであった。
 ひょろ長い体躯の男が、半次郎にのしかかるかにして蹴りを放っている。
 半次郎もなまなかな鍛え方はしていない。
 立木に木刀で打ち掛かること日に八千。
 終いには近在にまともな樹木は一本もなくなったと言われる程の膂力を持つ。
 それでも、体勢が悪かった。
 数度の衝撃の後、右腕が地面に踏みつけにされた。
 半次郎は残る左手で男の脚に掴みかかる。
 強引に引っ張り、男を組み討ちに引き込もうとするが、呼吸が止まった。

 鋭く、固い何かが鳩尾を打つ。
 瞬間、半次郎の全ての機能が止まり、その数瞬で全てが決した。
 軍刀が。
 半次郎の手にしていたはずの軍刀が。
 ゆっくりと、その刃を肉の内に滑り込ませ。
 その命を地面に零させる。
 「…吉之助さぁ…」
 桐野利秋ではなく、ただ一人中村半次郎として。
 「オイも…逝きもす…」
 そう漏らした後、半次郎は絶命した。


 呼吸が荒くなっていた。
 ゆらりと身体が揺れる。
 仏生寺弥助は、血に塗れた袷を整えもせず、ただゆっくりと立ち上がり、息を整える。
 右手には、軍刀。
 懐に戻したのは、鉄扇。
 立ち上がり、半次郎の骸を見下ろす。
 「薩摩っぽは…がんじょいチャ…きっついが…」
 誰にとでも無くそう呟く。
 江戸に出て練兵館で修行をしていた時分に越中訛りはかなり減ったが、それでもたまに漏れ出てくる。
 弥助は半次郎と面識はない。
 しかし示現流の構えと最期の言葉から、薩摩藩士であったであろう事は分かった。
 分からぬのは洋装を身にまとっていたことくらいだ。


 軍刀の血糊を拭い、数度振り下ろす。
 確かに日本刀とは多少作りが違うが、さほどの違和感はない。
 これならば、最初に行李に入っていた支給品、
 鉄扇 ――― 半次郎の鳩尾を強かに打ち、悶絶せしめた ――― よりは遙かに使い勝手が良いと判断する。
 錆びた銛は漁師小屋で見つけた。
 あくまで護身用の鉄扇よりは長さはある。あるが、所詮銛は銛だ。人を斬る、殺すための刀とは違う。
 だから弥助は、襲撃に際してまず銛を投げつけ気を逸らし、組み討ちに持ち込む事にした。
 そのつもりであったが、相手の男の反応は思ったより早い。
 猿叫とともに打ち込まれる、受け太刀不能と言われる示現流の剛剣をすんでにかわし、
 弥助は踏み出してきた男の膝めがけて蹴りを放った。
 その長い足と痩躯による、蹴り。
 仏生寺流は流派と言ってもきちんとした形式はない。
 ただ、神道無念流を会得した弥助が、弥助なりに考案したより実線向きの剣術であり、
 その特色は体術、特に蹴りの活用にあった。
 不意をついた蹴りにより相手の体勢を崩し、斬りかかる。
 ある意味、まさしく弥助らしい剣法であった。

 改めて、弥助は己を顧みる。
 生きている。
 そのことがはっきりと分かった。
 酒盛りに誘われて行った先で、どうやら薬を盛られたらしく、かなりの酩酊状態になった。
 そこまでは覚えがある。
 その後河原で囲まれ、同席していた高部弥三雄と三戸谷一馬らが斬られたのも覚えがある。
 自分が斬りかかられ、危ういところであったのも覚えがある。

 だが、その後はどうか。
 死んだのか、と思ったときには、あの白州にいた。
 それから、殺し合えと言われた。
 弥助には学がない。徳もない。品位も人格もない。
 あるのは、類い希無い剣の才、ただそれだけであった。
 故に、孤独であった。
 剣だけが、彼の救いであり、剣だけが彼を裏切らぬ全てであった。
 河原での事を思い出す。
 その中に、敬愛する師、斎藤弥九郎が長子、新太郎の顔があったように思う。
 何故?
 弥助は懊悩する。
 粗野粗暴、無学文盲の弥助ではあるが、師に対する敬意だけは在った。
 それは剣のみに生きる弥助にとっては、ある意味崇拝に近いものですらある。
 だからこそ、弥助は道場でも新太郎には勝ちを譲っていた。
 そのことが新太郎の誇りを傷つけていたやも知れぬとは思いもせずに、だ。
 心の機微を読み取ることも、腹芸も出来ぬ弥助にとって、新太郎の心中は分からぬものだった。
 だから、弥助は懊悩する。
 まさか、と思う。
 まさか、自分は売られたのか、と。
 厄介払いのため、斎藤弥九郎が仕組んだのか、と。
 否、そんなはずはない。そんな事はあり得ない。そう思う。そうは思うが、疑念は晴れない。
 ならば何故、あの河原に新太郎が居たのか ――― 。
 弥助の懊悩は、結局はそこに行き着いて堂々巡りをする。

 足元にあった行李を探り、弥助は食料と水だけを取って、己のそれに移し替え、背負う。
 それからまず、天を仰ぎ、月を見て、どこへともなく歩き出した。
 弥助は孤独であった。
 月を愛でる風流など解することもないが、それでも弥助は、月に己の姿を映し出した。
 御前試合なる宣言も、二階笠の男のことも分からぬ。
 今起きていること、これからすべきこと。何も分からぬ。
 今の弥助に分かるのは、周りにいる者は全て敵だというその事実のみである。
 長州藩士も、練兵館の同朋も、あらゆる全てが己の敵であるという事だけである。
 ただ一つ。
 果たして自分に、恩師、斎藤弥九郎その人を斬れるかどうか。
 その答えは、どこにも見あたらぬままである。
 弥助は孤独であった。
 喩えようもなく孤独であった。


 暫くして、残された半次郎の遺体の近くに立つ一つの影があった。
 木々から漏れる月明かりに、その小さな姿が映し出される。
 凡庸な男であった。
 凡庸な顔に、いくらか寝ているかにも見える腫れた目。
 ふっくらとした頬は、或いは童顔にも見えるが、そう若くもないだろう。
 能の小面に似ている、とも言えなくはない。
 色白で、小柄。その男が、月明かりの中半次郎の死骸の側に立っている。
 名を、河上彦斎。肥後熊本藩出身の攘夷派志士である。

 彦斎の名を広く知らしめたのは、言うまでもなく佐久間象山暗殺である。
 当時彦斎は、長州藩に移り京にいた。
 (ちなみに、彦斎が長州に移ったのは文久三年八月十八日の政変以降であるため、
  同年六月に死んだ仏生寺弥助とは面識がない)
 その翌年、池田屋事件が起きる。
 新選組による大規模な攘夷派志士の捕縛、粛正により、宮部鼎蔵ら七名が討ち取られた。
 宮部は肥後熊本藩にいた頃からの朋輩であり、兵学の師でもあった。
 彦斎が長州に移ったのには、宮部の影響もある。
 宮部は兵学者として、長州萩の生んだ傑物、吉田松陰とも深い交流があったのだ。
 とにかく彦斎は、新選組の蛮行へ強い怒りを感じていた。 
 まして、学識もあり世を憂う憂国の士。その宮部に不敬、
 反逆者の汚名を着せ惨殺した新選組のやり口は、決して許されるものではない。
 池田屋事件における長州派志士の計画、すなわち京に火を放ち帝を長州に移すというものは、新選組による捏造である。
 後世の研究家にも指摘されるその説同様、彦斎もそう信じた。
 勤王の志厚い長州藩士、また英明なる憂国の士宮部鼎蔵等が、そのような不敬不忠な愚策を講ずるわけがない。
 そのような虚偽により勇士を謀殺し、さらにはその謀に帝の名を使うとは、なんたる不敬、なんたる不忠か。
 友を殺された復讐、新選組の邪な計略への義憤。
 新選組、許すまじ。会津、許すまじ。徳川、許すまじ。
 常から感情を表に出さぬ事の多い彦斎の激しい怒りは、結果として在らぬ方向へと暴発する。
 それが、象山暗殺である。

 元治元年、象山は一橋慶喜に招かれて入洛し、公武合体論と開国論を説いていた。
 その象山を幕府に連なる開国論者として、前田伊右衛門と共謀し暗殺する。
 白昼、馬上の象山に駆け寄り、逆袈裟に切り捨てた。
 天誅。
 これは、不敬不忠にして、洋夷に魂を売り、邪なる専横の為志士達を葬り去る、徳川、会津、新選組への天誅である。
 そう信じた。
 そう信じた彦斎のその後を襲ったのは、絶望と悔恨である。

 記録によると、象山暗殺の後、河上彦斎は人斬りを辞めたという。
 暗殺の後、改めて象山の残した業績を知った事で、自分がどれほど有用な人物を殺したのかを思い知らされたのだ。
 時代の空気に当てられ、朋友を殺された怒りに流され、何かをせねばならぬと焦った結果、
 当時の日本で最も海外事情に通じ、日本を夷敵から守るのに最も必要な人材の一人だった象山を斬る。
 しかもその象山は、長州藩軍師、宮部鼎三の友であり師でもあった吉田松陰の師でもあった。
 己に連なる師を惨殺し、何が不忠、何が不敬か。
 その己の愚かさが、取り返しの付かぬ過ちが、人斬りとしての彦斎を苛み、人生を変えることとなる。

 だが、しかし。

 今此処において、彦斎は未ださめやらぬ興奮と、奇妙な恐ろしさの中に身を震わせていた。
 なぜなら、彦斎がこの御前試合に呼び出されたのは、象山を切り捨て、
 そのまま京の路地裏へと消え去ったまさにそのときであったからだ。
 初めて対面した象山を前に、彦斎は言いようもない奇妙な感覚におののいた。
 それは一言で言うならば恐怖であったし、もしかしたら畏怖であったやもしれない。
 知識ではなく本能が、象山という人物の持つ熱気に気圧されたのだとも言えるかもしれないし、
 後に象山の人物を知ればその感覚に某かの答えを与えられたかも知れぬが、今の彦斎にはまるで分からぬ。
 分からぬが、ただ切り捨てた太刀の重みと、止まぬ興奮が彦斎の全身を包んでいる。
 そうして、京の路地を走っていた彦斎が、まるで見知らぬ場所、
 見知らぬ人々の群れに紛れていた事に気がついたのはそのときであった。
 京の大路の雑踏ではなく、篝火のたかれた夜の白州。
 御前試合の口上と、首を飛ばされる少年。
 そして今此処はというと、微かに波音のする雑木林の中。
 自ら手にしていたはずの佩刀もなく、ただ足元には行李が置かれていた。
 夢か。そう思うが、己の衣服に付いた象山の血からは、まだ鉄錆びた匂いがする。
 時間の繋がりが切断され、まるで狐か狸にでも化かされたのかと思う。
 その彦斎のとりとめもなく散らかった思考に、一つの道筋を与えたのは人別帳であった。
 近藤勇土方歳三沖田総司、斎藤一、山南敬介…。
 まさに、池田屋事件で朋輩、宮部鼎三を惨殺し、さらには汚名を着せた新選組の名がそこに書き連ねてあるのだ。
 前年に切腹、或いは惨殺されている新見錦芹沢鴨、池田屋事件の後に入隊する伊藤甲子太郎、
 服部武雄等の名は、彦斎にとっては目に留まるものではない。
 塚原卜伝宮本武蔵のような過去の剣豪の名にも興味はない。
 この五人。ただこの五人の名のみが、彦斎の脳裏を焼き焦がした。
 徳川専横の先駆として志士を謀殺する、不敬不忠の大罪人。そして、朋輩宮部鼎三の仇敵。

 その新選組の局長から副長、中心人物の内五人もの人間が、今此処に来ている。
 天恵である。
 彦斎はそう思った。
 池田屋事件以降、京に居た彦斎が新選組誅殺を実行に移せなかったのは、
 ひとえに彼らが常に集団で居たためである。
 屯所から離れるときには決して単独行動はせず、
 また襲撃の際は鎖帷子に鉢金などで武装している彼らを相手取るのは、
 どれほどの剣技を持ってしても至難の業であった。
 しかしここは違う。
 殺すべき相手はたったの五人きり。彼らが徒党を組む前に探し出し、一太刀に切り捨てる。
 何故此処に来たのか、今起きていることは何なのか、あの口上を述べた男は何者なのか。
 考えるべき事はいくらでもある。あるはずだというのに、彦斎はそれらを考えなかった。
 何よりも今やるべき事は、天誅。それ以外にはないと信じた。
 近藤以下新選組の者どもを全て、そして彼らに利する者も悉くを。
 殺して、誅(コロ)して、屠(コロ)し尽くす。
 それこそが、今己が此処にいる意味であり、己の天命なのだ。
 象山暗殺直後の奇妙な熱の醒めやらぬまま、
 彦斎は常ならばあり得ぬこの状況に、やはり常ならばあり得ぬ理論を構築した。


 改めて、彦斎は足元の死体を見やった。
 洋装を身にまとったこの男が誰かは分からない。
 分からぬが、同様に華美な洋装を身にまとっていた佐久間象山の姿が重なる。
 小面のような表情のない顔で、彦斎は腰に差した鉄鞭を抜く。
 二尺六寸程のこの鉄弁は、彦斎の行李に入っていたもので、
 見た目は黒く節くれた鉄の棒に柄がついているそれだけのものだ。
 長さは丁度良いものの、どちらかというと居合いに似た低い姿勢からの抜き打ちを得意とする彦斎にとっては
 あまり勝手の良い武器とは言えない。
 その鉄鞭の柄を握り、彦斎は名も知らぬ男の死骸を突く。
 それから数度素振りをして改めて構えると、男の頭部めがけて叩き付けた。
 べこり、と、頭蓋が陥没した。
 突き、叩き、打ち下ろし、凪払い、そして砕く。
 血糊に切れ味が鈍ることもなく、刃こぼれもしない鉄鞭は、或いは長丁場においては重宝できる武器といえたかも知れない。
 暫くそうして、初めて手にする鉄鞭という武器の使い勝手を試し続け、漸くある程度の感覚がつかめた頃には、
 男の死体はほぼ原形を留めては居なかった。
 そこにあるのは、ただ赤黒く崩れた肉塊である。
(人形のごたる…)
 彦斎はそう口中で小さく呟いた。
 人など、所詮人形と変わらぬ。人形を斬るように斬れるし、人形を壊すように壊せる。
 彦斎は男の着ていた服の裾で、鉄鞭にこびりついた血と肉片を拭き取ると、再び腰に戻した。

 青白い相貌を、しばし上に上げる。
 真っ暗な闇夜を、ただ煌々と照らす月を見て、彦斎は己のやるべき天命に思いをはせる。
 新選組誅殺。
 今はただその使命に身を震わせる事だけを考えていた。
 静かに、深く、彦斎は身を震わせていた。




【中村半次郎@史実 死亡】


【にノ漆/二七村付近/一日目/深夜】
【仏生寺弥助】
【状態】:健康
【装備】:軍刀
【所持品】:支給品一式(食料二人分)、鉄扇
【思考】 周りは全て敵であると思っている。
1:あてもなく彷徨う。
2:恩師、斎藤弥九郎にどう向き合うべきか分からない。
【備考】
※1862年、だまし討ちに遭って後より参戦。
 当時の斎藤弥九郎は64才。この御前試合参戦時の弥九郎の九年後の時期である。
 参戦している弥九郎は、既に弥助を門下としていると思われる。

【河上彦斎】
【状態】:健康
【装備】:鉄鞭
【所持品】:支給品一式
【思考】 天命に従い、新選組を誅殺する。
1:新選組の五人(近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一、山南敬介)を探しだし殺す。新選組に組する者も殺す。
2:その他の佐幕派、幕臣 (佐々木只三郎明楽伊織等) も殺すが、優先順位としては低い。
3:佐幕派でもなく、新選組でもない者は、攻撃してこないならば相手をしない。女子供もなるべく相手にはしない。
4:最終的に勝ち残ることは考えていない。首謀者が佐幕、幕臣であれば殺す。
5:刀が欲しい。
【備考】
※池田屋事件で宮部鼎三が殺され、1864年佐久間象山を暗殺した直後より参戦。

【にノ漆共通備考】
※中村半次郎の原形を留めぬ死体、行李(食料無し)は、二七村付近の雑木林の何処かに放置されています。


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試合開始 中村半次郎 【死亡】
試合開始 仏生寺弥助 不知火/夜明け前
試合開始 河上彦斎 不知火/夜明け前

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最終更新:2009年05月25日 23:24