いざ行かん戦場へ◆fkB/HSOJ1s
森の端、目の前に広がる広大な海を一人の少女が眺めている。
彼女の名は桂ヒナギク。
白皇学院の生徒会長を一年から勤め、剣道部部長も兼任する才色兼備の高校二年生である。
成績も優秀であり、スポーツ万能。
生徒会内では不安な面々を引っ張るリーダーシップとカリスマ性を持つ、正に全校生徒の憧れの的である。
そんな彼女がこの殺し合いに巻き込まれたのは、生徒会の仕事帰りのことである。
エレベーターにのって、降りている最中。意識が遠くなるような感覚を覚え、気が付いたらあそこにいた。
「はあ、何だかわけのわからない事に巻き込まれちゃったみたいね」
一つのため息と共に、複雑な気持ちを吐き出す。
日常的に理事長の気まぐれで巻き起こされるあらゆる異常事態に慣れているヒナギクにとって、非常事態という事象
に対する免疫は充分持っている。
そのために、パニックを起こすような醜態を晒しはしない。
ただ、いつもとは少々勝手が違う厄介ごとに巻き込まれたという憂鬱な気分がヒナギクを襲っている。
「大体どうして私が武芸者になってるのよ。ハヤテ君とかのほうがずっと私より強いのに………」
ここに居ないハヤテの名前が思わず口から漏れ出る。
しかし、彼女の苦難は思えば幼少から始まっていたのかもしれない。
五歳の時に両親に捨てられ、姉と共に小学生になる前からホームレス生活を送るはめになる。
そしてその苦難な生活の果て、しばらくしてから今の両親に引き取られている。
親が残した借金は姉が何らかの方法で返したらしいが、今ではその反動かすっかりグーたらでヒナギクに頼り切っている。
そのような周囲の事情もあり、彼女は普通の女の子らしい性格になる事を許されなかったのだ。
「………全く、私ってどうしてこう大変な事に巻き込まれるのかな」
漆黒の暗黒の中で闇色に染まる海を見つめ、思いを吐露する。
そして自身に与えられた白刃を見て、更に色々な考えが渦巻く。
「わざわざ真剣を渡すってことは、やっぱり本気なのよね。ドッキリとか仕掛けじゃないのよね」
自身に言い聞かせるように語り掛ける。
最も、ドッキリではありえない事は理解出来ている。
最初の白州にいた時は、その直前の意識が曖昧なのでいくらでも仕掛けは考えられた。
だが、白州からこの場に着いたのは意識がとんだ感覚が無い。
急に視界に広がる光景が、人が大勢の白州から、闇色に海に変わったのだ。
原理は理解出来ないが、漫画や映画で出てくるテレポーテーションのような事を起こしたのだろう。
そしてそのような事が出来る人間は周囲には一人も居ない。
つまり信じがたくとも、非現実的でファンタジー的なことに自分が巻き込まれている事を認めざるを得なかった。
「同じ巻き込まれるならせめて魔法少女とかもっとメルヘンな方がよかったかも……ってそれはそれで凄く嫌だけど。
…………でもどうして殺し合いなんだろ。それも私以外ほとんど袴とか和服の男の人だし………はあ、サイアク」
ヒナギクは愚痴をこぼしながら闇に染まる海を見つめる。
次第に憂鬱さは薄れるが、逆にあることに気付く。
「そういえば正宗は?………無い?そういえば得物は自分で探せとか言ってたけど……どこかに落ちてるの?」
ヒナギクはキョロキョロと周辺に目を向けるが、それらしき物は見つからない。
森を掻き分けてみたり、木の陰も除くが木刀は出てこない。
「やっぱりない。どうしよう。せっかく鷺ノ宮さんから貰ったのに………見つけないとダメよね。
失くしたままじゃ失礼だし」
周囲に無いのを確認し、少し木にもたれながら海を見つめる。
周辺捜索も徒労に終わり、気持ちを落ち着けることに専念する。
そして、当初は余り考えていなかった事を考え始める。
(一人になるまで殺しあうのよね。一人ってことは全員殺さないと駄目ってこと?でも何だか凄く強そうな雰囲気
の人がいっぱいいたような気がする。だけどやっぱり殺し合いなんて絶対ダメ。それに十兵衛って人は殺し合いに
否定的みたいだし、他にも居るはずよね。殺し合いに否定的な人はきっと。なら集めないと。きっと皆で集まれば
何か良い案だって浮かぶはず。それに十兵衛って人は親父殿ってあのお爺さんに言ってたし、それならきっと何か
知ってるはず。なら大丈夫よ。きっと、絶対に)
ヒナギクは心の中で何度も成功するように力強い言葉を反復させる。
それが少しでも自身に力強さを与え、この厄介ごとから抜け出す可能性を両手に手繰り寄せると信じて。
「そうね。いつまでも塞ぎこんでたらダメだわ。前向きにいかないと」
ヒナギクは勢い良く立ち上がり、闇色の海に背を向ける。
「まずは十兵衛って人を探さないと。それに殺し合いに否定的な人も集めて、その為には当然城下町よね。人が集まる
ならやっぱり村より街だろうし、武器も隠してそうだから正宗も見つかるかもしれないし………頑張るわよ。お姉ちゃん達
も心配してるだろうし、絶対に生きて帰ってやるんだから!!」
桂ヒナギクは出発する。
この殺し合いを止めるべく、血で血を洗う戦場へと。
【にノ壱 最西部 森の中/一日目/深夜】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
【状態】健康
【装備】打刀@史実
【所持品】支給品一式
【思考】基本:殺し合いに否定的な人を集めて脱出。
一:
柳生十兵衛を探して、柳生宗矩の事を聞きたい
二:人を探しに城下町へ向かう
三:自分の得物である木刀正宗を探す。
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最終更新:2009年03月28日 09:22