とな藩・FEG編 - (2007/03/28 (水) 01:02:08) の1つ前との変更点
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*第三回
『となりの藩国は面白い~FEG編~』
「お城だーーー!」
「走るな、ガキ」
城のある街並み、それが大国フィールド・エレメンツ・グローリーの中心――政庁都である。
フィールド エレメンツ グローリー。
長い。
直訳すれば「原っぱ、素子、栄光」である。さっぱりわからない。
長いのでみんなFEGと呼んでいた。
一見すれば幻想的な街並みは、西国人――何の冗談か通称【是空藩国人】と呼ばれている――の艶やかな衣装が映える建造物群であったが、よくよく見てみると景観を損ねない形で情報端末接続できるユニットやら、電力パネルやらがある。
(なんか町全体がアミューズメントパークって感じだな)
一歩裏側を見ればそこには現実を牛耳る大国の顔が顕われる。
裏を歩けばコンビニでもありそうだなと、そんなことを思った。
そんな街並みをガキ(名前)があせあせと走っている。
城が見えた城が見えたと言って、なにが嬉しいのか走っているのだ。
自分はというと、大股歩きでそれを追いながら、注意深く周囲の様子を見物している。
実のところただ遊びに来ているわけではないのだが、それでも目移りしてしまう。
とにかく、にぎやかな町だった。国民も多ければ観光客も多い。
「ちょっとしたお祭りって奴だな」
活気づいている。
そりゃそうだ、戦争に勝ったのだから。
人死にも一切でなかったと言うことだし、誰に憚る必要があろうか。
上の連中は分け前の配分で多いに揉めたという噂だが、それが下にまで届くこともない。いや、ちょっとした愚痴ならば酒場で聞けるのかもしれない。まあどちらでもいい。
町は浮かれていた。
特需によって得たアイドレスが大規模な藩国改造をもたらし、それが町にも好景気を産んでいる。
一際だだ長い道(交易路)を歩き続けると、政庁が少しだけ大きく見えてきた。
この辺りに来ると、どういうわけか「ようこそ! 原素子さん!!」と書かれた垂れ幕がある。
原、素...なんだろう。物凄い既視感だ。誰だ。政治にはうといが大統領はそんな名前ではなかったはずだ。
「しろーーー」
と叫んで走るガキが、なにかにつんのめって転んだ。
緩やかな坂になっているために死角になっていたが、近づくとガキの足下に鉄のボールが転がっていた。
「なんだ...これ」
ボールは何度か明滅を繰り返して、ガキの周りを転がった。
その様子はまるで――そんなハズはないのだろうが、まるでボールが意志を持ってガキを心配しているかのように見える。
「大丈夫?」
声がした。フードを被った女性がガキに近づく。
ガキはというと、ゆっくりとした動作で立ち上がろうとしていた。
泣きそうになっていることが見ただけで解る。
女性はガキの手を取って、怪我を確認した。
「大丈夫そうね。うん、よく頑張った」
そして、まだ転がっているボールに二言三言呟く。
ボールはそれで納得したのか西の方へと向いて転がっていった。
あちらは確か新造のアイドレス工場があるはずだ。
「ごめんね、痛かった。あのBALLS、いま藩国にいらしているお客さん...の相方なんだけど」
女性は垂れ幕を見上げながら、そう言った。
「悪気があってとかじゃないの。全然、これっぽっちもないから、許してあげてね。あの子、謝ってたから」
「うぅうう、わかるの?」涙声。
「うん、少しね」
黒いフードをとって、女性はガキに笑いかけた。
灰髪の、典型的な西国人だった。
――首から上は、だが。
ガキの位置からは見えないだろうが、自分の高さからは外套から覗く首や肩がはっきりと見える。
「お兄さん?かしら」
「いえ、まあ...保護者です」
「そう、機械の体を見るのは初めてかしら」
苦い笑いの似合う女性だった。
「...いや、」
機械化、投薬の、ウォードレス使い。
個々、あるいは二つ混じりなら、自分も見たことがある。だが、
「“ダンサー”に会うのは初めてだ」
いかん、また苦笑されてしまった。
猫士によるパイロット“トップガン”と並ぶ、FEGの主戦力。その片翼。
戦いのドレスを纏い、高機動と未来予知を駆使し、舞うが如く戦う存在。
“ダンサー”
そう、FEGのウォードレスダンサーは、更なる意味を込め、ただ“ダンサー”と呼ばれている。
「お二人はどちらから来たの?」
「...東の方からだ」
「そう」
「キノウツン国だ」
少しだけ考えて、言い直す。
「ああ...噂は聞いたことあるわ。藩王もファンだし」
彼女は何故か楽しそうに笑った。
何故だろう。人の国の名前を出して笑われたというのに、嫌な気がしない。
「キノウツン...そう言えば、あなたの国にも、」
言葉が止まる、が、なんとなく解った。
「ええ、うちにもいますよ。ダンサーとは呼ばれてませんけど」
「そう」
「ええ、だから、」だから?
だから何だというのだ。何を言おうとしたのだ、自分は。
うちの国にも投薬兵が、ウォードレスダンサーがいるから、だからなんだというのだ。
「だから、ええと、」
言葉が止まる。続きが出なかった。
と、
「ありがとーおねーちゃん!!」
ガキが、ダンサーの腰に抱きついて礼を言った。
「もう痛くないよ!!」
黒い外套を纏う彼女にかじりつく。
いままで泣くのを堪えていたらしい。
「そう」彼女は、微笑んでガキの背中を押さえた。
ふと、何かが軽くなった気がした。
まだ礼を言っていない。
「すみません。ありがとうございました」
よどみなく、その言葉が出る。割れ鍋に水。違うな。まあいいか。
彼女は、ちょっとだけ首を振ってから、
「美人の国なんですってね」
「ああはい、それは本当です」
反射的に断言してから、後悔した。
しまった呆れられたぞ。
あまりにもあっさり言ってしまった。
話の前後も空気もあったものではない。
だが、まあ。うん、
――これだけは譲れない。
「うちの国の女性は、みんな美人です。保証します」
保証してしまった。
実のところ、美人度で言えばどっこいどっこいの国は沢山あったし、ゴロネコ王国には2.25倍美人と噂の猫が登場したという報告も受けている。ついでに言えばFEGのパイロットだって負けてはいない。
だが、キノウツン藩国は、それでも美人の国なのだ。だってそういう設定だもの。
「データや評価なんて知ったこっちゃありませんよ。我々がそう認めてるんだし、いろんな国が賛同してくれているですから」
だからそう断言するのだった。
「そう...なの?」
あまりにも断言するので、きょとんとしたままの女性。
「ほんとうだぞー! だからわたしも美人だー」
ガキが諸手を挙げて叫んだ。
「残念だが、お前は駄目だ」
「なにをーーこのあほーー」
ガキが自分の脛を蹴った、こちらが痛いと叫ぶ前にダンサーの後ろに隠れる。
「あほーーー」
もう一回叫ばれた。
「アホはお前だ!!」
ガキは女性の周りをくるくる回って、こちらの攻撃を回避する。
困った顔のお姉さん。
「ああもう、お姉さんに迷惑をかけるな。てかお前、城に行きたかったんだろ」
「あ。し、しろーー」
思い出したかのようにガキは走りだした。
走り出して振り向いて、
「はやくー行くよーー」
「あのガキ...すみません」
「構いませんよ。子供、好きですし」
「そうじゃなくて、多分、変な気を遣わせてしまったから...」
「いえ、お構いなく」
まあ、この謝罪も余計なのだろうが。
解ってはいる。別にこちらの態度に何を思うでもなく、既に、きっちり、しっかり、自分には到底及びもつかない領域で理会しているのだろう。
だから自分が言うべきことなど本当に何もなくて、ただ変な気を遣わせただけなのだ。
身体中金属と穴だらけ、薬に疲れた顔。
お世辞でも麗しいと言えない、いや言ってはいけない。
そして、だが、その表情はどこまでも気高い。
誰をもを守り通すであろう意志と、誇りに満ちている。
そんな彼女たちだからこそ、この国の住人は彼らに敬意を払うし、怖がることもなく、ありのままに接している。
いまもそう、俺がなにか失礼なことを言わないかと目を光らせていて、その視線が少し痛い。
だから、何を言う必要も何の問題もないのだ。
本当に、たまにこうして旅人が迷惑を掛けるだけなのだ。
「いい国ですね」
「ええ、そうですよ」
今度は彼女が断言した。
なんとなく。
観光はしてみるもんだと、思った。いや、リアルに。
「それでは」と言うのと「あの、」と尋ねられたのは、同時だった。
無言を選ぶ。
「あの、あなたの国の兵士にも、その...女の人はいるのかしら」
「ええ、もちろん」
猫士でもないのに猫耳の金髪ツインテールの彩雨。無職驀進中の元サラリーマン、空気。
なにを思ってか投薬兵兼パイロット兼WDダンサーという死亡フラグをが剣山のように突き立った道を選んだ女性達。
「その人達も、美人なの? 貴方にとって」
「ええ、もちろん」
いろいろ矛盾しまくりだったが、それでも断言した。
「そう」
どこか浮かない顔だった。
「けど、俺は」続ける。「俺は、その道を自ら望んで――鉄の棺桶を背負って死に装束まであつらえて、死亡フラグ立てまくってでも、藩民を、美人を守る道を選んだあいつらに、もっと相応しい言葉を知っています。だから美人って言葉は使いません」
きょとん、とされた。
照れくさくなって目を逸らす。むにゃむにゃ呟いてから、一回だけ頭を下げた。
そのまま、その場を後にする。逃げるように。
ガキと合流してから、もう一度だけ振り向いて礼を言った。
女性は手を振って、それを見送ってくれた。
「しろーーー!!」
「城城ってお前、そう言えば何が見たいんだよ。観光じゃ、あんまり奥までは」
「イシガキがみたい!」
「まあ奥ではないが」あるかなあ。
首を傾げる。
また転けられてはたまらないので、ガキと手を繋いで歩くことにした。
これ幸いと手を繋ぐガキ。
それどころか隙があればぶら下がろうとしてくる。
微妙に力下限を調整して、それを妨害する。
無言の攻防だった。
無言の攻防に飽きたのか、ガキが口を開く。
「かっこいいひとだったね!」
「そうだな」
「かっこよくてキレイな人だった」
「そうだな」
「ごーかけんらんってやつだね」
「いや、別に無理してそれっぽくまとめんでも...」
旅路は続く。
城はまだ遠かった。
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