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とな藩・海法よけ藩国編 - (2007/03/28 (水) 01:12:02) の1つ前との変更点
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*第四回
『となりの藩国は面白い~海法よけ藩国編~』
海法避け藩国は避けの国である
弾幕を避ける、危険を避ける、戦いを避ける、めんどうを避ける、監査を避ける、天候を避ける、視察を避ける、外交でも避ける、測量を避ける、牛も避ければ、木も避ける。
藩王が避ける、それに続けと吏族が避ける、医者も避ければ、整備士も建築士も避ける、藩王避けたら皆避けた。
とにもかくにも「ありとあらゆるものがありとあらゆるものを避けようとする」のだ。
避け藩国民は、るしにゃん王国と同じく森の中で暮らしている森国人なのだが、むろん森もいろいろ避けようとする。おかげで地図がない。
夜寝て朝起きれば、自分がどこにいるのかも解らないのだ。
無茶苦茶な国家だった。
非力な森国人だからゆえ、こういう国にならざるを得なかったという話だが、ここまでくると単に趣味で避けているようにしか思えない。
「かんらんしゃー」
「だから違うっての」
あきらかに規格のおかしい水車(山のようにでかい)を北に遠くに見上げ、ぼやく。
まあ、確かにゴンドラでもつければそのまま観覧車になりそうではあるが。
避け藩国は尻尾の長い亀のような形をした島国である。
左足部分(南に位置する)のメガフロート空港から入国し、左胴部分にある首都へ滞在するのが一般的な観光方法だろうか。
今のところ目立った観光施設はなく、首都を拠点にして遺跡天文台やら牧場やら果樹園やら水車やら塔やらを見て回る、そういう牧歌的な楽しみ方をする国である。
あるいはこの国の国民性“避け”を観光するのも一興だろう。
「かんらんしゃーー」
走り去ろうとするガキのフードを掴みつつ、くるくると辺りを見回す。
街道には観光客相手の山菜売りの露店。その露店を渡るようにして、
“わかばさん歓迎!!”
そんな垂れ幕がある。
どうやら新規入国者キャンペーンが盛んらしい。そういえばFEGにもあったか。
が、この前のFEGとは違い、あまり戦勝ムードというものはないようだった。それよりも著名人が相次いで結婚を発表したとかで、そっちの方で盛り上がっている。
連隊長として藩王自ら後出座して、大統領とツーショットするほど活躍したのにいたって日常。藩国名物のニュース番組も、やれ腹が減ったやれ腹が減ったと呑気なものだ。
わんわんが最近元気がないね、と敵国の心配までする余裕である。
そんなだから、目立って何かが進んでいるというわけではない。
新たな施設が建造されるでもなく、医療技術の向上したり、I=Dの普及に合わせて整備士にテストパイロット部門が新設されたりと、既存技術の強化に力を入れているようだ。理力を用いた建築技術を編み出したという噂も聞いたが、今のところそれで何かが建ったという話は聞いていない。
わかば歓迎といい、国民力の発展に重きを置いているようだった。
まあ、国土の関係上大規模な施設が建てられないと言うこともあるが。
「さて」
どこに行こう。
街道を進んではいるが、当てがあるわけではない。
とりあえず地図が欲しかった。
というかこの藩国、地図あるのだろうか。
「君はどこからきたのかね?」
気づけば男が立っていた。
いや、視線は感じていたが。西国人が珍しいのだろう程度に思っていた。
中年の男だった、森国人である。
線の細い整った顔立ち。キノウツンにはいないタイプの顔だ。
杖をついていたが、それに頼っているというわけではなさそうだった。
理力使いだろうか。
「...俺に聞いてるんですか?」
「そうだ、君はどこからやってきたのかね」
中年男は片目を瞑り、同じ質問を繰り返す。
「東からきました」
胸に手を添えて姿勢を正しながら、そう答えた。
「どの道を通ってここへきたのかね?」
「オリオンアームの真ん中を通ってきました」
「君は、これまでに何を学んできたかね?」
「身を修めるために監督子の行、遥の法、メイドさんの礼を学び、萌えはツンデレの芸を学びました」
「藩王の名はなんという?」
「藩王の名はオトトイのツギノヒと申します」
やりとりが終わった後、中年男は口の端を曲げて軽く笑った。
「私の家はこの近くだ。茶でもどうかね。そこから先は家で話そうじゃないか」
「はい」
やれやれ。
るしにゃん王国もそうであるが、キノウツン藩国は海法避け藩国と同盟を組んでいた時期がある。
その頃にはメイド喫茶まであったという話だが、今もそうであるかは知る術もない。
なんにせよ、国交があったということは民同士の交流もあったと言うことである。
そんな中、特に互いにシンパシーを感じ交流を深めた人間達は、互いに互いを家族と呼び合い、旅に訪れるのなら是否もなく身内として歓迎しよう、そんな取り決めをしたのであった。
いまでもそれが生きているかどうか、どこに家族がいるのかは、もうわかったものではないのだが。
「あらためて歓迎しよう、我が兄弟。オジとでも読んでくれ」
「初めまして」
名前を告げて、挨拶をする。オジ氏はその挨拶を一度避けてから礼を返した。
一度避けるのが避け藩国流儀なのだという。
「避け藩国の印象はどうだね、君の故郷みたいに派手なものはないが、いい国だろう」
「ええ、まあ。変な国ですね」
「それはお互い様だ」
爆笑する。
簡素なテーブルに座ると、スコーンと紅茶を振る舞われる。
夕食も近いが腹が減っていた。丁重に礼を言って、ありがたく頂く。
ガキはと言うと、テレビにかじりついていた。
番組は『のうきん様が行く』
人気子供向け番組らしいらしい。
よほど面白いのか、呼吸まで止めて見入っている。
この分だと、しばらくはこちらの話に割ってはいることもないだろう。ありがたいことだった。
談笑しながら、差し出された木苺ジャムのスコーンを囓り、一緒に出された紅茶を飲む。
妙に複雑な味だった。
「変わった味だろう」
「ええ、そうですね」
癖になりそうな味ではある。メイド喫茶で出せば売れるだろうかと、職業病のようなことを考えつつ、
「なんて言う葉ですか?」
「いや、キノコだ」
キノコ...いやな想い出が蘇る。
「最近発見された避けキノコというキノコでね。主に非常食として評価されているんだが、これはそれで作った紅茶だよ」
「そ、そうですか」
「似た品種に避けろキノコという毒キノコがあって注意が必要なんだよ。毒性は低いが食べると目がぐるぐると」
「いやいやいや説明しないでくださいお願いします」
慌てて止める。トラウマが甦りそうだった。
ガキはというとテレビを凝視したままホットミルクを飲み、木苺を食べている。ミルクは藩国名産の「避け牛」からとれた良質のミルクだそうな。
「あの子は、君の妹かね」
「いえ、養女です」
「ほう。幼女」
...物凄い勘違いがあった気がするが、気にしないことにする。
うちの藩国のファンというだけでまあ、ある程度想像は付くが。
紅茶を飲み込んでから、話を続ける。
原材料については気にしないことにした。
「実は、あいつの母親を捜しているんです。まあ仕事の合間に、程度ですが」
「なるほど。仕事というのは?」
「王立観光局のフェア推進部です。他国を旅行して文化、風習を取材し、イベントを企画します。南国フェアとか森国フェアとかですね」
国土の関係上大規模な施設が建てられないと言うこともあるが。
「ほう、それは興味深い。イベントというのはメイド喫茶のことだね。避け藩国フェアとかもあるのかね?」
「需要があれば」
まあ、美形揃いの森国人フェアは人気がある。
「すまない、話が避けたな。母親と言うことは君の、」
「そういうんじゃないんですが。ええっと...」
「いや、話したくなければ聞きはしない。我々は家族だ。捜し人程度であれば、何も聞かずとも喜んで協力しようじゃないか」
「はぁ」
それは助かるが、いろいろ変な勘違いをされてそうだった。
まあ、いいか。
「それで、手がかりは」
「元メイド――西国人の猫です。名前は...解りません。メイド喫茶で働いていたときから偽名だったようです」
「元メイドとな」
メイドと聞いたとたん男の瞳が星のように輝いた気がしたが、見なかったことにした。
懐から写真を取り出して見せる。
オジ氏は一度避けてからそれを受取った。
「ふむ。見たことはないな。キノウツンのメイドであれば、たとえ人目を避けていたとしても気づかないはずがないのだが」
「そうですか」
適当に相槌を打つ。
目が本気だった。
「すまないな。手助けになれそうにない。念のため、翌日になったら管理局に勤めている知人にも聞いてみるといい。わたしが紹介する」
「いや、そこまでしていただかなくても。あくまでついででやってることですし」
「なに、そう避けることもない。奴も我々の家族だ。喜んで協力してくれることだろう」
言いながら写真を返される。
普通に受取りそうになったが、考え直してオジ氏の仕草を真似るように一度避けてから受取った。
オジ氏は愉快そうに笑った。テーブルを立ち上がる。
「さて、まだ歓迎ができてなかったな。夕飯の準備をしよう。今日は避け牛と避け鳥の卵で作った避け料理をご馳走しようじゃないか」
「はぁ」
本当に避けばっかりだなこの国。
なんとはなしにガキの方を向くと、
「しゅくだいだー」とか何とか叫びつつも、まだテレビにかじりついていた。
呑気なものである。
オジ氏が消えた先から良い匂いがしてきた。
キノコはともかく、夕食は期待して良さそうだ。
海法避け藩国は先の戦争で食糧難に陥っていると聞いている。
だというのに見ず知らずの旅人にご馳走してくれるのだという。
その厚意に純粋に嬉しくなって、自分は原材料不明の紅茶を飲み干した。
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