「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目短編/824」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目短編/824 - (2010/02/03 (水) 13:04:55) の1つ前との変更点

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※[[Danse_avec_moi>上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目ログ/1-764]]の続きです。 #asciiart(){{{ 「さて」  美琴はガラステーブルの向こうであぐらをかく上条を見る。 「さて?」  上条はガラステーブルの向こうで正座する美琴を見る。  二人の間には小さなバースデーケーキが置かれ、ろうそくが一六本用意されている。  今日は美琴の誕生日。 『御坂の部屋で友達呼んでやればいいじゃねぇか』という主張を無視して、上条の部屋でささやかな誕生パーティが強行された。主賓一名来客一名という、とても小規模なパーティだ。しかも来客に至っては自室を提供しているので、むしろ『人身御供』の称号を贈った方がよいかもしれない。  それはともかく。 「御坂美琴さん、一六歳のお誕生日おめでとう!」 「……自分で言うなよ」  上条はぼそっとツッコむ。 「良いじゃない別に。アンタは祝ってくれないの?」 「はいはい、御坂美琴さんお誕生日おめでとうございます。ほら、ろうそく吹き消せ」  上条はろうそくに火をつける。  美琴は上条を一睨みすると、息を大きく吸い込みろうそくの炎を一気に吹き消した。 「おーすごいすごい」  上条はパチパチと大仰に手を叩く。 「……私が一六になってもあいかわらず子供扱いすんのね」 「でもほらお前、ゲコ太も短パンも卒業したじゃないか。いやぁ大人になったなぁ」 「人をそう言うところで評価すんなっ!」  美琴は電気をまとった握り拳を作る。上条はすかさずその手に自分の右手を重ねて電気を打ち消す。 「今日はお前の誕生日なんだから、そう言うのはなしなし。さて、ケーキ食おうぜケーキ」  ナイフを取ろうとする上条の手を、美琴が制する。 「……確かアンタは私に話があるんじゃなかったっけ? プロムの時の話、まさか忘れたとは言わせないわよ?」 「話はあるしちゃんと覚えてるぞ。でもそれはケーキを食ってからな」 「先じゃダメなの?」 「お前がケーキを投げつけないって約束するなら先でも良いが」 「アンタの頭の中で私はどういう人間になってんのよ?」  まぁまぁそれは置いといて、と上条は美琴をなだめつつ 「イライラしたときには甘いものを摂ると落ち着くって吹寄が言ってたぞ? それとも大豆イソフラボンの方が良いか?」 「別に私はイライラしてないってば! そもそも吹寄って誰!? ……まぁいいわ。それで?」 「とりあえずケーキ食え。話はそれからな」  上条はケーキを切り分けると、皿に乗せて美琴に渡す。  美琴はそれを受け取ると、フォークでケーキをざくざく刺しながら口に運んだ。ケーキが誰の身代わりなのかはこの際考えないでおこう。ご愁傷様、と上条は小さく祈る。 「お前が指定した店で買ってきたけど、結構うまいなこれ」 「でしょ? うちのクラスでも評判なんだ、このお店」 「道理で女ばっかだと思ったぜ……。何の罰ゲームかと思ったじゃねぇか」 「罰ゲームって言えばアンタは三連敗してたわね。私が中二、中三の大覇星祭と中三の夏休みの時」 「……嫌なことを思い出させるなよ。そもそも五本指に普通の高校が勝てるわけないって知ったの去年の大覇星祭の後だぞ?」 「それでも勝負を挑んで負けるアンタが悪いんじゃない?」  上条は美琴をちらりと見ると、手元に残ったケーキを一気に口の中に押し込んだ。 「そうやって負け犬の口をふさいだつもり?」  美琴がクスッと笑い、上条のカップにおかわりの紅茶を注ぐ。  上条は目を白黒させてケーキを何とか飲み込むと、紅茶を一口飲みこんで舌打ちをする。 「あーそうだ。誕生日プレゼントだけどな」  上条は学ランのポケットから、金属でできた細い棒のような物を取り出し、美琴の掌に乗せた。それには小さな穴が空いていて、ご丁寧に赤いリボンがかけられている。 「これでいいか?」 「あれ? ……これって」 「お前欲しがってただろ? この部屋の合鍵。違ったか?」 「う、うん。そうだけど。……ありがとう」  美琴は確かに、上条の部屋の合鍵をねだっていた。  だがそれは上条と恋人同士になってこそ意味がある物で、二人の関係が出会ってからほとんど変わっていないこの状況で受け取るのはとても微妙に思えた。 「あんまりうれしくなさそうだな。別の物にすっか? 巨大ゲコ太のぬいぐるみとか」  何だったら今から買いに行くかと腰を浮かせかける上条を引き留めて、 「う、ううん! そんなことない!」  美琴は墓まで持って行くつもりの鉄壁の構えで、合鍵を両手に包み込む。 「えっと……話って、もしかしてこれのこと?」 「いや、それじゃない」 「じゃないなら、何?」  美琴が? という表情を浮かべる。  上条は真顔になると 「御坂。……俺とつきあってくれないか?」 「…………………………………はい?」 「結婚前提で」 「…………………………………………………はい??」  思いもかけない一言に、美琴の目が点になる。 「あの。今、何、て?」 「結婚を前提としてつきあってくれないかって言ったんだ」  上条はまじめくさった顔を崩さない。 「――ははは、すでに脈なしだったか。うわー自爆したぞ俺」  上条はその場に大の字で寝転がる。ちょーかっこ悪りぃと独りごちて 「……悪りぃ悪りぃ。今の話は忘れろ、うん」  バネのように起き上がり、まだ熱い紅茶をぐびぐびと飲む。 「…………アンタねぇ」 「ん? ってちょ! 何でお前ビリビリしてんだよ! っつか久しぶりだなそれ!」  美琴の額に、まるで細い糸のように青白い火花が揺らめく。 「そう言う大事な話をさらっと出すなっ! こっちにだって心の準備ってモンがあるんだから! しかも忘れろですって? ……冗談じゃないわよ!!」 「待て! 良いから落ち着け! せめて電撃はしまえ!」  上条が座ったまま後ずさる。  美琴が立ち上がり、上条に詰め寄る。 「大体ねぇ、今まで私がさんざんさんざんアタックしたのにスルーしてきたのはどこの誰? クリスマスも! アンタの誕生日も! 夏休みも! 大覇星祭も一端覧祭もバレンタインデーの時まで全部全部スルーしてきたじゃない!! プロムの時だって崖から飛び降りる思いでアンタのことステディって紹介したのに! おかげさまで美琴さんはすっかりスルー耐性がついたわよっ!!」 「いやお前スルー耐性ついてないだろそれ! そもそもバレンタインデーの時は力一杯『義理だ』って言ってチョコ寄こしただろうが!!」 「今更そんな話するなんて! ……、ずるいじゃない……」  美琴は振り上げた拳を下げ、ぺたんと上条の対面に座り込む。 「あー、えっとだな。何というかそれは……ゴメン」 「何で謝るのよ?」 「確信はなかったんだけどな。……えーと、お前の気持ち」 「……いつ頃私の気持ちに気づいたわけ?」 「お前が中二のクリスマスの時、かな」 「……、そんな前からわかってたってのにアンタって奴は……」  美琴が目を伏せギリッ、と歯ぎしりする。 「あの頃はお前中学生だったからな」  上条は苦笑いを浮かべる。 「それが何か関係あんの?」 「中学生に手を出すのはまずいと思ったんだよ。お前の受験もあったしな。言っただろ? 今年が来るのを待ってたって」 「……一つ聞くけど。アンタはいつ頃から私のことをそう思うようになったの?」 「お前のことを意識したのはお前が中二のクリスマスの時」 「!?」 「お前が気づかなかったんなら上条さんのステキ演技力の勝利だな。はっはっは」 「……そ・ん・な、ところで無駄に勝ち誇るなこのド馬鹿!」  美琴の大音声に、上条がとっさに耳をふさぐ。 「痛ぅ…………耳元で大声出すなよ! 鼓膜破れんだろが!!」 「アンタは……、この二年間私がどんな気持ちでいたかわかってんの? 人の思いを二年間もほったらかしにして……」  美琴の声が詰まった  勝ち気な瞳から拭っても拭ってもぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちていく。  そういやコイツが泣いたのいつ以来だっけ?  上条は美琴の頭をあーよしよしと撫でると 「この二年でお前にいい男ができるかと思ってたんだけどな」 「できなかったわよ。――作らなかったわよ! 私はとっくにこの人って決めてたんだから! アンタ私がこの二年で何人の男に告白されたか知ってんの?」  美琴が再び噴火した。両の拳を小さく握りしめて上条の胸をポカポカと叩く。 「痛てててて! 五人、いやえーと海原入れて六人? あれは俺も焦った。断りたいから彼氏のふりしてくれって言われて、そのたびにお前ともめたっけ」 「人をさんざん待たせておいてよくもしれっと言えたわね……」 「お前が俺に待たされたと思ってるなら、まだ脈はあるってことか?」  上条が水を向ける。 「……、さぁ、どうかしら」  美琴はぷいと横を向く。 「――待たされた分の言い訳を聞かせてもらおうじゃない」 「そうだな。……お前は本当の俺を『知ってる』。意味はわかるよな?」 「……うん。アンタの記憶喪失のことよね」 「今までいろんなことがあった。妹達の件もそうだけど、世界のあっちこっちに引きずり出されて、いろんな人に会った。何度も死にそうな目にあった。その中で『俺の代わりに戦う』って言ってくれたのは後にも先にもお前だけだ。記憶のことを抜きにしてもな」 「……うん」 「お前はちっとばっかがさつだけど、頭も器量も良くて俺のことをわかっていて嘘を吐かずにつきあえる。客観的に見てもこんないい女はそうそういないんじゃないか?」 「うん……え?」 「だからそのいい女が育つまで待ってたんだよ。もしもお前が一六歳になって、その時お前の隣に誰もいなかったら青田買いしようと思ってさ。……これでいいか?」 「あ、あああアンタねぇ……」  上条が美琴の顔をのぞき込むと、美琴はこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にしていた。  耳を寄せると青田買いって、と何やらぶつぶつ言っているのが聞こえる。 「んで御坂? 返事を聞きたいんだが……?」 「……、そ、そんな、その程度の言い訳で私が許すと思う? 今の今まで利子つけないで待ってたんだから返事が欲しけりゃ私が喜ぶような台詞の一つでも言ってみなさいよ!」  ……罰ゲームの時にも思ったけどそれってやっぱり利子あるじゃん。  でも言うだけ言ってみようと上条は思った。  言うだけならタダだ。 「――なぁ御坂、俺と一緒に地獄の底までついて来てくれるか?」 「良いわよ、アンタと一緒なら。……と言いたいところだけどお断りね」 「…………え?」 「私ならアンタを地獄の底から引きずり上げてやるわ」  美琴が上条の手をつかみ、まだ涙の跡が残る頬でニコッと笑う。  もう思い出すこともできない、とても懐かしい言葉に上条は笑みを浮かべて 「ははは、御坂ならそう言うと思った」 「むー、何よそれ」 「ま、そういうことでこれからもよろしくな、御坂」  上条は美琴の手を握り返す。  美琴はその手を離すと、頭からストンと倒れ込むように上条の胸元に落ちて、 「――つかまえた」  両腕を上条の胴に回し、ぎゅっと抱きついた。 「やっとつかまえた……私の勝利条件。追いかけて、追いかけて、ずっと追いかけて、つかまえた。もう絶対離さないんだから。アンタが嫌だって言っても離さないから」  何度やってもホールドは肩がこる。  ダンスの特訓で、パートナーの姿勢を保持するため右手で肩胛骨のあたりを支える『ホールド』を教わったとき、『大木を抱きかかえるように』とアドバイスされた。  自分より細い女の子を、まるで大木相手のように腕に隙間を空けて支えるのだから肩がこってしょうがない。けれど今は、ダンスパーティの時ではない。  上条は右手を美琴の背中にぴったりと回した。 「このプレゼントが一番嬉しい」 「んじゃ鍵返せ」 「い・や。こっちも嬉しいけどもちろん鍵は返さないわよ」  どっかで聞いたことのある話だなおい、と上条は記憶を辿る。  美琴はふぅ、と小さくため息を吐くと 「……予定を前倒ししなきゃね」 「予定?」  はて、何か約束あったっけ? と上条が首をひねる。 「花嫁修業の予定よ。……アンタにその気がないなら、いっそこのまま押しかけ女房になってやろうと思ってたんだけど。まさか、その……結婚前提まで言われるなんて思ってなかったから、ね」 「いやお前は今でも十分押しかけ女房っていえ御坂さんの家事スキルには日々助けられておりますご飯とか超おいしいですよって馬鹿よせビリビリすんなお前は高校入学時に電撃をめったやたらに使うの止めて大人の女性の階段を一歩登ったはずでは!?」 「アンタのために特別に封印解いてあげたほうが良さそうね?」 「俺のためってそもそも俺にしか雷撃落としてねぇだろが!」  上条は美琴の両手首に組み付き、必死に電撃を避ける。  美琴がそれを振りほどこうとし、二人はジタバタとその場で取っ組み合いを始めた。 「……御坂、今日はお前の誕生日なんだからこう言うのは止めよう」 「……そうね。こんな事で体力消耗すんのも馬鹿らしいわ」  お互いが肩で息を吐き、即時休戦協定が結ばれた。 「あー御坂。ちょっと手を出せ、手」 「はい? 手?」  美琴は右手を上条の前に差し出す。 「いや、そうじゃなくて左手の方」 「左?」  言っとくけど私の電撃に左右は関係ないわよいざとなればと美琴がわめくのを聞き流し、上条は美琴の左手を取る。  次に上条はポケットから小さな箱を取り出し、中から銀色の指輪を引き抜くと美琴の薬指にはめた。 「ほれ」 「……………………!」 「安物のおもちゃだけどな。ちゃんとした奴はもう少し先まで待っててくれ」 「や、あ、あの、えっと、これは、つまり……アンタいったいどうしちゃったの?」  美琴はあたふたと身振り手振りで何かを伝えようとするが、意味をなさない。 「どうしたのって、俺はちゃんと『結婚前提』でつきあいを申し込んだんだぞ? もう忘れたのか?」  美琴は自分の左手を凝視して、 「忘れてないけどこれって、ねぇこれって……?」 「だから婚約指輪のつもりなんだが、気に入らなかったか?」 「……、こんなのアンタのキャラじゃないわよ、まったく」  美琴は指輪を見つめ、嬉しいと小さく呟く。 「そこは俺のステキ演技力の賜物だな。これで嘘のステディが本物になったわけだ」 「じゃあ私はこの二年間アンタにだまされてたってわけね。……ねぇ、どうして私の指輪のサイズを知ってるの?」 「ああそれなら、御坂妹に協力してもらった」  ビキィ!! と美琴のこめかみから変な音が聞こえる。 「ほらお前達遺伝子レベルで同じだから成長しても……って、あれ? 何で急に機嫌が悪くなってんの?」  次にブチリ!! という小さな音が聞こえた、ような気がした。  美琴の堪忍袋の緒が切れた音だった。 「アーンーターはー……。やっぱり二年経っても全然変わってないのがよくわかったわよ! 今すぐ表に出ろ! その性根を叩き直してやるわ!! 私のこの胸のときめきを返せえっ!!」 「何で? 何で?? 俺の何が悪かったの? これじゃ今までと何にも変わらないってあーもー、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!」 }}} #back(hr,left,text=Back)
※[[Danse_avec_moi>上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/1スレ目短編/764]]の続きです。 #asciiart(){{{ 「さて」  美琴はガラステーブルの向こうであぐらをかく上条を見る。 「さて?」  上条はガラステーブルの向こうで正座する美琴を見る。  二人の間には小さなバースデーケーキが置かれ、ろうそくが一六本用意されている。  今日は美琴の誕生日。 『御坂の部屋で友達呼んでやればいいじゃねぇか』という主張を無視して、上条の部屋でささやかな誕生パーティが強行された。主賓一名来客一名という、とても小規模なパーティだ。しかも来客に至っては自室を提供しているので、むしろ『人身御供』の称号を贈った方がよいかもしれない。  それはともかく。 「御坂美琴さん、一六歳のお誕生日おめでとう!」 「……自分で言うなよ」  上条はぼそっとツッコむ。 「良いじゃない別に。アンタは祝ってくれないの?」 「はいはい、御坂美琴さんお誕生日おめでとうございます。ほら、ろうそく吹き消せ」  上条はろうそくに火をつける。  美琴は上条を一睨みすると、息を大きく吸い込みろうそくの炎を一気に吹き消した。 「おーすごいすごい」  上条はパチパチと大仰に手を叩く。 「……私が一六になってもあいかわらず子供扱いすんのね」 「でもほらお前、ゲコ太も短パンも卒業したじゃないか。いやぁ大人になったなぁ」 「人をそう言うところで評価すんなっ!」  美琴は電気をまとった握り拳を作る。上条はすかさずその手に自分の右手を重ねて電気を打ち消す。 「今日はお前の誕生日なんだから、そう言うのはなしなし。さて、ケーキ食おうぜケーキ」  ナイフを取ろうとする上条の手を、美琴が制する。 「……確かアンタは私に話があるんじゃなかったっけ? プロムの時の話、まさか忘れたとは言わせないわよ?」 「話はあるしちゃんと覚えてるぞ。でもそれはケーキを食ってからな」 「先じゃダメなの?」 「お前がケーキを投げつけないって約束するなら先でも良いが」 「アンタの頭の中で私はどういう人間になってんのよ?」  まぁまぁそれは置いといて、と上条は美琴をなだめつつ 「イライラしたときには甘いものを摂ると落ち着くって吹寄が言ってたぞ? それとも大豆イソフラボンの方が良いか?」 「別に私はイライラしてないってば! そもそも吹寄って誰!? ……まぁいいわ。それで?」 「とりあえずケーキ食え。話はそれからな」  上条はケーキを切り分けると、皿に乗せて美琴に渡す。  美琴はそれを受け取ると、フォークでケーキをざくざく刺しながら口に運んだ。ケーキが誰の身代わりなのかはこの際考えないでおこう。ご愁傷様、と上条は小さく祈る。 「お前が指定した店で買ってきたけど、結構うまいなこれ」 「でしょ? うちのクラスでも評判なんだ、このお店」 「道理で女ばっかだと思ったぜ……。何の罰ゲームかと思ったじゃねぇか」 「罰ゲームって言えばアンタは三連敗してたわね。私が中二、中三の大覇星祭と中三の夏休みの時」 「……嫌なことを思い出させるなよ。そもそも五本指に普通の高校が勝てるわけないって知ったの去年の大覇星祭の後だぞ?」 「それでも勝負を挑んで負けるアンタが悪いんじゃない?」  上条は美琴をちらりと見ると、手元に残ったケーキを一気に口の中に押し込んだ。 「そうやって負け犬の口をふさいだつもり?」  美琴がクスッと笑い、上条のカップにおかわりの紅茶を注ぐ。  上条は目を白黒させてケーキを何とか飲み込むと、紅茶を一口飲みこんで舌打ちをする。 「あーそうだ。誕生日プレゼントだけどな」  上条は学ランのポケットから、金属でできた細い棒のような物を取り出し、美琴の掌に乗せた。それには小さな穴が空いていて、ご丁寧に赤いリボンがかけられている。 「これでいいか?」 「あれ? ……これって」 「お前欲しがってただろ? この部屋の合鍵。違ったか?」 「う、うん。そうだけど。……ありがとう」  美琴は確かに、上条の部屋の合鍵をねだっていた。  だがそれは上条と恋人同士になってこそ意味がある物で、二人の関係が出会ってからほとんど変わっていないこの状況で受け取るのはとても微妙に思えた。 「あんまりうれしくなさそうだな。別の物にすっか? 巨大ゲコ太のぬいぐるみとか」  何だったら今から買いに行くかと腰を浮かせかける上条を引き留めて、 「う、ううん! そんなことない!」  美琴は墓まで持って行くつもりの鉄壁の構えで、合鍵を両手に包み込む。 「えっと……話って、もしかしてこれのこと?」 「いや、それじゃない」 「じゃないなら、何?」  美琴が? という表情を浮かべる。  上条は真顔になると 「御坂。……俺とつきあってくれないか?」 「…………………………………はい?」 「結婚前提で」 「…………………………………………………はい??」  思いもかけない一言に、美琴の目が点になる。 「あの。今、何、て?」 「結婚を前提としてつきあってくれないかって言ったんだ」  上条はまじめくさった顔を崩さない。 「――ははは、すでに脈なしだったか。うわー自爆したぞ俺」  上条はその場に大の字で寝転がる。ちょーかっこ悪りぃと独りごちて 「……悪りぃ悪りぃ。今の話は忘れろ、うん」  バネのように起き上がり、まだ熱い紅茶をぐびぐびと飲む。 「…………アンタねぇ」 「ん? ってちょ! 何でお前ビリビリしてんだよ! っつか久しぶりだなそれ!」  美琴の額に、まるで細い糸のように青白い火花が揺らめく。 「そう言う大事な話をさらっと出すなっ! こっちにだって心の準備ってモンがあるんだから! しかも忘れろですって? ……冗談じゃないわよ!!」 「待て! 良いから落ち着け! せめて電撃はしまえ!」  上条が座ったまま後ずさる。  美琴が立ち上がり、上条に詰め寄る。 「大体ねぇ、今まで私がさんざんさんざんアタックしたのにスルーしてきたのはどこの誰? クリスマスも! アンタの誕生日も! 夏休みも! 大覇星祭も一端覧祭もバレンタインデーの時まで全部全部スルーしてきたじゃない!! プロムの時だって崖から飛び降りる思いでアンタのことステディって紹介したのに! おかげさまで美琴さんはすっかりスルー耐性がついたわよっ!!」 「いやお前スルー耐性ついてないだろそれ! そもそもバレンタインデーの時は力一杯『義理だ』って言ってチョコ寄こしただろうが!!」 「今更そんな話するなんて! ……、ずるいじゃない……」  美琴は振り上げた拳を下げ、ぺたんと上条の対面に座り込む。 「あー、えっとだな。何というかそれは……ゴメン」 「何で謝るのよ?」 「確信はなかったんだけどな。……えーと、お前の気持ち」 「……いつ頃私の気持ちに気づいたわけ?」 「お前が中二のクリスマスの時、かな」 「……、そんな前からわかってたってのにアンタって奴は……」  美琴が目を伏せギリッ、と歯ぎしりする。 「あの頃はお前中学生だったからな」  上条は苦笑いを浮かべる。 「それが何か関係あんの?」 「中学生に手を出すのはまずいと思ったんだよ。お前の受験もあったしな。言っただろ? 今年が来るのを待ってたって」 「……一つ聞くけど。アンタはいつ頃から私のことをそう思うようになったの?」 「お前のことを意識したのはお前が中二のクリスマスの時」 「!?」 「お前が気づかなかったんなら上条さんのステキ演技力の勝利だな。はっはっは」 「……そ・ん・な、ところで無駄に勝ち誇るなこのド馬鹿!」  美琴の大音声に、上条がとっさに耳をふさぐ。 「痛ぅ…………耳元で大声出すなよ! 鼓膜破れんだろが!!」 「アンタは……、この二年間私がどんな気持ちでいたかわかってんの? 人の思いを二年間もほったらかしにして……」  美琴の声が詰まった  勝ち気な瞳から拭っても拭ってもぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちていく。  そういやコイツが泣いたのいつ以来だっけ?  上条は美琴の頭をあーよしよしと撫でると 「この二年でお前にいい男ができるかと思ってたんだけどな」 「できなかったわよ。――作らなかったわよ! 私はとっくにこの人って決めてたんだから! アンタ私がこの二年で何人の男に告白されたか知ってんの?」  美琴が再び噴火した。両の拳を小さく握りしめて上条の胸をポカポカと叩く。 「痛てててて! 五人、いやえーと海原入れて六人? あれは俺も焦った。断りたいから彼氏のふりしてくれって言われて、そのたびにお前ともめたっけ」 「人をさんざん待たせておいてよくもしれっと言えたわね……」 「お前が俺に待たされたと思ってるなら、まだ脈はあるってことか?」  上条が水を向ける。 「……、さぁ、どうかしら」  美琴はぷいと横を向く。 「――待たされた分の言い訳を聞かせてもらおうじゃない」 「そうだな。……お前は本当の俺を『知ってる』。意味はわかるよな?」 「……うん。アンタの記憶喪失のことよね」 「今までいろんなことがあった。妹達の件もそうだけど、世界のあっちこっちに引きずり出されて、いろんな人に会った。何度も死にそうな目にあった。その中で『俺の代わりに戦う』って言ってくれたのは後にも先にもお前だけだ。記憶のことを抜きにしてもな」 「……うん」 「お前はちっとばっかがさつだけど、頭も器量も良くて俺のことをわかっていて嘘を吐かずにつきあえる。客観的に見てもこんないい女はそうそういないんじゃないか?」 「うん……え?」 「だからそのいい女が育つまで待ってたんだよ。もしもお前が一六歳になって、その時お前の隣に誰もいなかったら青田買いしようと思ってさ。……これでいいか?」 「あ、あああアンタねぇ……」  上条が美琴の顔をのぞき込むと、美琴はこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にしていた。  耳を寄せると青田買いって、と何やらぶつぶつ言っているのが聞こえる。 「んで御坂? 返事を聞きたいんだが……?」 「……、そ、そんな、その程度の言い訳で私が許すと思う? 今の今まで利子つけないで待ってたんだから返事が欲しけりゃ私が喜ぶような台詞の一つでも言ってみなさいよ!」  ……罰ゲームの時にも思ったけどそれってやっぱり利子あるじゃん。  でも言うだけ言ってみようと上条は思った。  言うだけならタダだ。 「――なぁ御坂、俺と一緒に地獄の底までついて来てくれるか?」 「良いわよ、アンタと一緒なら。……と言いたいところだけどお断りね」 「…………え?」 「私ならアンタを地獄の底から引きずり上げてやるわ」  美琴が上条の手をつかみ、まだ涙の跡が残る頬でニコッと笑う。  もう思い出すこともできない、とても懐かしい言葉に上条は笑みを浮かべて 「ははは、御坂ならそう言うと思った」 「むー、何よそれ」 「ま、そういうことでこれからもよろしくな、御坂」  上条は美琴の手を握り返す。  美琴はその手を離すと、頭からストンと倒れ込むように上条の胸元に落ちて、 「――つかまえた」  両腕を上条の胴に回し、ぎゅっと抱きついた。 「やっとつかまえた……私の勝利条件。追いかけて、追いかけて、ずっと追いかけて、つかまえた。もう絶対離さないんだから。アンタが嫌だって言っても離さないから」  何度やってもホールドは肩がこる。  ダンスの特訓で、パートナーの姿勢を保持するため右手で肩胛骨のあたりを支える『ホールド』を教わったとき、『大木を抱きかかえるように』とアドバイスされた。  自分より細い女の子を、まるで大木相手のように腕に隙間を空けて支えるのだから肩がこってしょうがない。けれど今は、ダンスパーティの時ではない。  上条は右手を美琴の背中にぴったりと回した。 「このプレゼントが一番嬉しい」 「んじゃ鍵返せ」 「い・や。こっちも嬉しいけどもちろん鍵は返さないわよ」  どっかで聞いたことのある話だなおい、と上条は記憶を辿る。  美琴はふぅ、と小さくため息を吐くと 「……予定を前倒ししなきゃね」 「予定?」  はて、何か約束あったっけ? と上条が首をひねる。 「花嫁修業の予定よ。……アンタにその気がないなら、いっそこのまま押しかけ女房になってやろうと思ってたんだけど。まさか、その……結婚前提まで言われるなんて思ってなかったから、ね」 「いやお前は今でも十分押しかけ女房っていえ御坂さんの家事スキルには日々助けられておりますご飯とか超おいしいですよって馬鹿よせビリビリすんなお前は高校入学時に電撃をめったやたらに使うの止めて大人の女性の階段を一歩登ったはずでは!?」 「アンタのために特別に封印解いてあげたほうが良さそうね?」 「俺のためってそもそも俺にしか雷撃落としてねぇだろが!」  上条は美琴の両手首に組み付き、必死に電撃を避ける。  美琴がそれを振りほどこうとし、二人はジタバタとその場で取っ組み合いを始めた。 「……御坂、今日はお前の誕生日なんだからこう言うのは止めよう」 「……そうね。こんな事で体力消耗すんのも馬鹿らしいわ」  お互いが肩で息を吐き、即時休戦協定が結ばれた。 「あー御坂。ちょっと手を出せ、手」 「はい? 手?」  美琴は右手を上条の前に差し出す。 「いや、そうじゃなくて左手の方」 「左?」  言っとくけど私の電撃に左右は関係ないわよいざとなればと美琴がわめくのを聞き流し、上条は美琴の左手を取る。  次に上条はポケットから小さな箱を取り出し、中から銀色の指輪を引き抜くと美琴の薬指にはめた。 「ほれ」 「……………………!」 「安物のおもちゃだけどな。ちゃんとした奴はもう少し先まで待っててくれ」 「や、あ、あの、えっと、これは、つまり……アンタいったいどうしちゃったの?」  美琴はあたふたと身振り手振りで何かを伝えようとするが、意味をなさない。 「どうしたのって、俺はちゃんと『結婚前提』でつきあいを申し込んだんだぞ? もう忘れたのか?」  美琴は自分の左手を凝視して、 「忘れてないけどこれって、ねぇこれって……?」 「だから婚約指輪のつもりなんだが、気に入らなかったか?」 「……、こんなのアンタのキャラじゃないわよ、まったく」  美琴は指輪を見つめ、嬉しいと小さく呟く。 「そこは俺のステキ演技力の賜物だな。これで嘘のステディが本物になったわけだ」 「じゃあ私はこの二年間アンタにだまされてたってわけね。……ねぇ、どうして私の指輪のサイズを知ってるの?」 「ああそれなら、御坂妹に協力してもらった」  ビキィ!! と美琴のこめかみから変な音が聞こえる。 「ほらお前達遺伝子レベルで同じだから成長しても……って、あれ? 何で急に機嫌が悪くなってんの?」  次にブチリ!! という小さな音が聞こえた、ような気がした。  美琴の堪忍袋の緒が切れた音だった。 「アーンーターはー……。やっぱり二年経っても全然変わってないのがよくわかったわよ! 今すぐ表に出ろ! その性根を叩き直してやるわ!! 私のこの胸のときめきを返せえっ!!」 「何で? 何で?? 俺の何が悪かったの? これじゃ今までと何にも変わらないってあーもー、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!」 }}} #back(hr,left,text=Back)

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