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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/21スレ目ログ/21-830 - (2013/05/11 (土) 19:51:51) の1つ前との変更点
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*消えゆくあいつの背中を追って 1章
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「もし俺があと1週間の命だって言ったら、どうする?」
それは突然の告白だった。
学園都市のとある一角にある公園には、上条当麻と御坂美琴の二人が立っていた。
先ほどの発言は上条当麻から飛び出したものである。
「え……?」
その前まではとりとめもない話をしていた中での突然の発言だったため、美琴は言葉に詰まってしまう。
美琴は何の冗談かと思い上条の様子を伺う。
「実は……」
悲しそうな表情で呟く上条。
美琴は最初のうちは、そんなことあるわけない、急に何を言ってるんだこの馬鹿は、などと思っていたが、
上条の様子がふざけているように見えなかったので、段々と不安になってきた。
(もしかして本当に? でも、本当なら……)
深刻な表情になってゆく美琴を見て、上条はほんの一瞬だけ寂しそうな表情をする。
しかし、すぐになんともないというような表情に切り替え
「なーんつってな! 冗談だよ!」
「……は?」
「いやー、ミコっちゃんがそんなマジ反応するとは上条さんにも読みきれませんでしたよ。簡単に見破ってくるかと思ったんだけどな」
「……ふ」
「ん、どうした御坂?」
「ふざけんなああぁぁぁあ!! 冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょうが!!!」
美琴の前髪が青白く輝き、そこから雷撃が上条へ向けてほとばしる。
その雷撃は、まるで来る事が予測できていたかのように突き出されていた上条の右腕によって、すぐに打ち消された。
「あ、あぶねえ……」
「まったく、厄介な右手よね!」
「いや、直撃したら死んでたろ、今の……」
「アンタは殺したって死なないようなやつでしょ」
その美琴の言葉を聞き、上条はため息をついた。しかし、その表情はどこか楽しそうだった。
「こうやって御坂にビリビリされるのって、けっこう久しぶりだな」
「そ、そうかしら? ……まあ、最近はどっちかというと外とかで派手にドタバタしてたのが多いけど」
「あれと比べたらなんつーか、平和って感じだな。こういうのは」
「ふーん、じゃあもっと平和にしてあげようか?」
「いや、ほどほどにお願いします……」
そう言って上条は笑う。
「御坂は怒るかもしれないけど……お前とこうやって馬鹿やってるのって、けっこう居心地がよかったりしたんだぜ」
「なっ……」
上条の言葉に、美琴の顔が赤くなる。
「お前が俺の事どう思ってたかはわかんねえけどさ、俺はお前と一緒にいるのは楽しかったよ」
普段とは違う上条の態度に戸惑う美琴。
上条がいつもより好意的であるため、このままいい雰囲気になれるかも、と美琴は胸に淡い期待を抱いた。
「じゃな」
「え!? いっちゃうの?」
しかし、美琴の期待とは裏腹に、言いたい事は言ったのでもう用は事は済んだとでも言うかのように、上条は去っていこうとした。
一方で美琴はまだ話していたかったので、上条を呼びとめようとする。
声を出そうと息を吸い込んだその瞬間、美琴に背を向けて歩きだしていた上条がグラリとよろめいた。
「っと」
「何してんのよ」
「な、なんでもねえよ。ちょっとフラっとしただけだ」
すぐに体勢をたてなおし、そのまま上条は歩き去っていく。
美琴はしばし呆然とその様子を見送っていた。
(なんだろう、今の、凄く嫌な予感がする)
上条のよろめきかたはどこかで見た事がある気がした。しかし、それが何かは美琴は思い出せなかった。
ただ、なんとなく、彼はどこか悪くしているんではないかという予感があった。
「まさかね……」
普段とは違う上条の態度、そしてあの冗談。美琴は一瞬だけ頭に浮かんだ考えを必死に打ち消そうとする。
しかし、美琴の中の不安はだんだんと強くなっていくばかりだった。
もし悪い予感が当たっているのであれば、アイツは病院に行っているだろう。
そう思って、美琴は病院に向かった。
--------
「いててて、あいつ等手加減くらいしろよ……」
上条当麻は満身創意で街角を歩いていた。
彼は先ほど美琴に言った冗談と同じような内容を他の友人達にも言い、同じように冗談だと笑い飛ばし、結果としてほとんど暴力と呼べるようなお仕置きを受けることになった。
ただ、上条は殴られるのもいいと思っていた。それによって、友人達の存在を強く感じることができたからだ。
「たぶん、ばれてねえよな……? まあ、どうせすぐわかっちまうんだろうけど……」
そう呟いていると、電話が鳴った。掛け先は病院からだった。
「はい」
「そろそろ戻ってくるころかい?」
「ええ、この辺にいる知り合いとは大体話せました」
「そうかい、進行状況から見て、そろそろ入院が必要になる。必要な物は今日のうちにこちらに持ってくるようにね」
「わかりました」
「……力になれなくて、すまないと思っているよ」
「いえ、俺は……」
次の言葉を飲み込む上条。
「担任の先生に頼み事とか残ってるんで、もうしばらくしてからそっちへいきます」
そう言って、上条は電話を切った。
--------
御坂美琴は第7学区の病院を訪ねていた。
あの馬鹿はこの病院にがよく入院している。もし何かあるならここにくるはずだ。
そう思ってあたりを見回していると、カエルのような顔をしている医者が歩いてくるのが見えた。
「やあ、やはり来たね」
「こんにちは。少しお聞きしたい事があるんですが……」
「上条当麻君のことかい?」
自分がここに来る事が予見されていたことに加え、その目的が上条だと知られていることに驚く美琴。
嫌な予想が当たってしまいそうな気がした。
「教えてください。もしかして彼は、どこか悪いんですか?」
「彼の友人のうち、何人かはここに来ると思っていたよ。
……ついてきなさい。ここでは話せないからね」
美琴は診療室に案内された。
「端的にいうと、彼は厄介な病気にかかっていてね」
「病気……」
「筋ジストロフィーという病気は知っているね?」
「じゃあアイツは……でも、たしかあの病気は……」
筋ジストロフィーという単語を聞き、さきほどの上条のふらつく姿と、幼いころに見た筋ジストロフィー患者の様子が重なった。
どこかで見たかと思ったが、あの時のものだったのか、と美琴は思う。
しかし、美琴には腑に落ちない点があった。幼少の頃の記憶によると、筋ジストロフィーという病気は1週間などという早さで進行することはないはずだった。
美琴の疑問に答えるかのように、カエル顔の医者は説明を始めた。
「あの病気もまだ未解明な部分が多いが、今回彼が患っている病気は別のものだよ。ただし症状はそっくりだ。急性だという点を除いてはね……
どういうわけか、彼の全身の筋肉は急速に壊れていっている。今のペースで進行が進むと、1週間かそこらで……彼の心臓、あるいは肺が機能できなくなる」
息を飲む美琴。目の前が真っ暗になった。アイツが本当に……死ぬ?
「もちろん、このまま彼を死なせるつもりはないよ」
「な、治せるんですか!?」
ホッとして聞き返す美琴。しかし
「いや、今はまだあの病気の治療する手段はない」
カエル顔の医者は首を振る。
「じゃ、じゃあどうやって……」
「進行を止める手段ならある。今は治せなかったとしても、近い将来に治せるようになるかもしれない」
カエル顔医者は上条を救うための計画を美琴に説明した。
その内容は大雑把にまとめると次のようなものだった。
・筋肉が壊れる原因は、脳からの命令を神経がほんのわずかにずれた伝え方をしているからのようだ
・ただし、新陳代謝が起こらなければ病状は進まないものと予測される
・現代の医療技術ではこの異常を治すことは不可能。だが将来的には治療技術が発達し、治すこともできると見込まれる
・治療する手段が完成するまで、上条をコールドスリープ状態にする
・治療が可能になった段階でコールドスリープを解き、上条を治療する
「それじゃ、治す方法が見つかるまでアイツはずっと……」
「そういうことになるね」
「そんな……」
それからの事を、美琴はよく覚えていない。
茫然自失のまま病院を去り、気がつくと寮の自室で机の前に座っていた。
(アイツが、いなくなる……)
そう思うだけで胸が締め付けられる。
これからどうすればいいのだろうか。美琴は何もわからなくなった。
上条当麻と共に歩んでいく、それが美琴が望む道だった。しかし、その道が今崩れてようとしている。
彼が治るのはどれだけ先の事になるのだろうか。数ヶ月、数年、あるいはそれ以上かかるかもしれない。
その間、医者ではない美琴はただ待つしかできない。
自分の無力が恨めしかった。いくら超能力者と呼ばれようが、いつだって肝心なところで何も出来ていないではないか。
ふと、美琴は携帯電話に取り付けてあるカエルの人形付きストラップを手に取った。
これは少し前に、上条と二人で入手したものだ。ペアとなっていたもう片方は上条がつけている。
一度は彼の手から離れてしまったが、すぐに彼の元へ帰すことができた。
彼との絆を象徴するかのようなそのアイテムは、美琴にとって大切な宝物だった。
(あのときも、アイツは帰ってきた……)
美琴はストラップを手に包み込み、そっと胸に抱きしめた。
そうするだけで、折れそうになった心に力が戻ってくるような気がした。
本当に自分には何もできないのだろうか。美琴は深呼吸をして、もう一度考え直すことにした。
「私は、絶対に諦めないわよ」
--------
美琴は電撃使いとしての能力を使って、学園都市中のネットワークから情報の検索をしていた。
探しているのは、研究開発が行われている先端医療について。
当然そのような情報には強固なセキュリティが施されていたが、それらは美琴の能力に前には無力だった。
検索を続ける事1時間、画面上に現れた文字を見て美琴の手が止まる。
『電撃使いの能力を用いた筋ジストロフィーの治療について』
目の前に現れたキーワードは、美琴に苦い過去の経験を思い起こさせた。
美琴が幼い頃に行った遺伝子マップの提供は、それによるクローンの誕生と虐殺を生んでしまった。
しかし、渡されたデータはクローンの作成だけに使われたわけではなかったようだ。
目の前の研究データは、電撃使いの能力を応用した治療についてまとめられている。
その中で使われているデータに、美琴の遺伝子マップ由来のものと思われるものも散見することができた。
(成果も上がってるんだ……よかった……)
幼い頃の小さな善意が、正しい形で実を結びそうだということに美琴は安堵する。
そしてさらに、その治療法は
「筋ジストロフィーに効くなら、アイツの病気にも応用できるかも……!」
美琴は急ぎ情報をまとめ、カエル顔の医者へと送信する。
(明日もう一度病院へ行って、この方法で何とかならないか相談しよう……もしダメだったとしても、また一から探し直す!)
かすかに見えた希望によって、落ち込んでいた美琴の気分も上向いてきた。
とりあえず情報を集めは今日はこれまで、と美琴はその場を片付けようとした。
しかし、不意に美琴の背筋に冷たいものが走った。
今美琴の目の前には、学園都市の機密情報が溢れている。広範囲に探していたため、医療以外の情報もそこにはある。
しかし、何か危険なものを見つけていたというわけではなかった。
美琴は一瞬錯覚かと思ったが、嫌な予感が消えない。
(なんか、こういう予感って当たりそうでいやなのよね……)
念のため、美琴はこれまで治療法とは関連が薄いとして捨てていた情報について、何か怪しいものはないかと調べ始めた。
ほどなくして、美琴は極めて不穏な文章を発見した。
『幻想殺しの「保護」について』
美琴の頬を嫌な汗が伝う。
それは、かつてロシアに行く前に発見した文章のことを想起させるようなタイトルがついた計画書だった。
『幻想殺しは学園都市にとって貴重な存在である。「プラン」についても彼の果たしてきた役割は大きい。
しかし、幻想殺しが近々行動不能になる見込みがある事が判明した。厄介な事に、この状況は非常に危ういといえる。
外部勢力はこの機を逃すことはないだろう。幻想殺しを拉致しようとする物が現れる可能性は高い。
そのため、幻想殺しの流出の危険を回避するためにも、彼が行動不能になった際には速やかに安全な場所に隔離する。
その上で第2位同様の処置を施すこととする』
第2位同様の処置というフレーズには見覚えがあるが、内容までは美琴にはわからなかった。
ただ、きっとろくでもないものだということ想像できた。
『幻想殺しの確保の際、周囲の人間が妨害を試みる可能性がある。
候補の中には学園都市にとって貴重な存在が多数含まれるが、最優先は幻想殺しの確保である。その他の人間の身の安全は問わない』
(どうやら相当強引にくるらしいわね……いいわ、どんな奴が来ようとも、アイツは私が守りきってやる)
美琴はそう覚悟を決めた。しかし
『敵対が想定される人物のリストは別資料にまとめてあるので、本計画で遭遇した際には効率よく排除すること』
『・御坂美琴 超能力者第三位 有効な対策は……』
「なによ……これ……」
危険人物リストと思われるものの中に自分の名前を発見し、その上対策まで練られていることがわかり、美琴は戦慄した。
--------
翌日
美琴は再度病院を訪れていた。
「やあ、見せてもらったよ」
カエル顔の医者が美琴を出迎えた。
「あの方法で、なんとかなりませんか?」
「いったいどこからあの資料を見つけてきたのかは、今は問わないことにしようか。
……結論から言うと、多少のアレンジは必要だが、彼を治すことができそうだよ」
「本当ですか!?」
「ああ、ただ……」
カエル顔の医者は少し言い淀む。
「術者がいない。君もあのレポートは見たんだろう?」
「電撃使いの力が必要なら、私が!」
その問題は予想できていたとでも言うかのように美琴は答えるが、カエル顔の医者は首を横に振った。
「たしかに、君なら能力者としては申し分ないよ。だがね、それだけじゃダメなんだ」
「何が足りないんですか!?」
「まあ落ち着きなさい。この治療法は、言わば能力者がその能力を使って手術をするようなものでね?」
「……それはつまり、私が」
「そうだね。彼を治すには、医者でもあり、電撃使いでもあるような人材が必要だ。君が彼を助けたいのなら、君は医者になる必要がある」
「……」
「ただ、もし君が協力してくれるというのなら、こちらもサポートは惜しまないよ」
「それって、どのくらいかかりそうですか?」
「別に医者になるため必要な知識全てがいるわけではないからね。君くらい優秀な学生なら、1年もあれば十分だろう」
どこか安心しているカエル顔の医者とは対象に、美琴の表情は沈んでいく。
「1年……」
「たしかに、大変だし長い道のりにはなるだろうが、君ならできると思うがね?」
「でもそれじゃあ、アイツはやっぱり……」
「まあ、しばらくは眠っていてもらうことにはなってしまうね。……表情が優れないようだが、何か不安事でもあるのかい?」
「……いえ」
上条を治せさえすれば、例の計画が実行されることはないだろう。
そう思っていた美琴は、発見した治療法が有効に働くことを祈っていた。
しかし、どうやらそううまくはいかないようだった。
その後、美琴は必要な資料を受け取り、部屋を後にする。
美琴が去った後、カエル顔の医者は独りごとを口にした。
「1年必要……か、彼女がアレに気付かなければいいが……」
--------
美琴が廊下を歩いていると、「上条当麻」という札がある病室を発見した。
もう入院してるのかと思い、美琴はその病室に入った。
病室の中には、上条が一人暇そうにしていた。
「あれ、御坂?」
「……アンタ、もう入院してたんだ」
「ひょっとして、もう知ってるのか?」
「大体はね」
「そっか……ひょっとして、見舞いにでも来てくれたのか?」
「ちょっとこっちに用があったのよ。……ま、アンタにも関係あることなんだけど」
「俺に?」
「そうよ。……手っ取り早く言うと、アンタのその病気、私が治せるかもしれない」
美琴の言葉を聞いた上条は目を見開く。
「マジか!?」
「ま、まあ準備に1年くらいかかっちゃうみたいだから。アンタにはやっぱりその間は寝ててもらう必要があるんだけど……」
「そ、そうか……」
即完治とはいかないことがわかり、上条はとたんに落ち込んだ。
「まあ、しゃあねえよな。助かるだけでもありがてえってもんか」
「……そうね」
「御坂?」
しばらくの間、美琴は黙り込む。
「……そういえば、アンタに聞きたい事があったんだけど」
「ん、なんだ?」
「アンタの知り合いに、強い人っている?」
「なんだよ急に、まあいることはいるけど……なんか用事でもあるのか?」
「……あー、やっぱりなんでもないわ」
「まさか、力試しを挑もうと……」
「んなことするわけないでしょ!」
「いやでもお前、俺には……いやなんでもない」
美琴はジト目をして上条を黙らせる。
(なんとなく、コイツにはあの計画の事を知られちゃダメな気がする……)
美琴は自分一人で上条を守り通せる自信が持てなかった。
そのため、彼を共に守る仲間が欲しかったので、心辺りがないかを直接本人に聞こうとした。
この馬鹿のことだ、そんな人間はきっと山ほどいるに違いない。そう美琴は思っていた。
ただ、彼にあの計画のことを知られてしまったら、余計なお世話だなどと言って護衛を拒否されるかもしれない。
あるいは余計な気をきかせて、一人でどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思い直した美琴は、上条には伏せたまま仲間を探すことにした。
「邪魔したわね」
「なんだ、もう行くのか。もうちょっとゆっくりしてけばいいのに」
「っ! わ、私はアンタと違って忙しいのよ!」
引きとめられるとは思っていなかったため、美琴は不意打ちを食らったかのようになった。
もちろん上条ともっと話していたいが、今は時間が無い。それにひょっとしたら態度でボロが出るかもしれない。
そう思った美琴は、逃げるように部屋から去っていった。
--------
その後、美琴は別室でミサカ10032号、通称御坂妹と話していた。
「……というわけなんだけど、アイツを守るのにアンタ達の手を貸してもらえない?」
「聞かれるまでもありません。とミサカは答えます」
「そっか、ありがとね」
「別にお姉さまのためではないのですが? とミサカはあの人への想いを隠しつつもお姉さまを牽制します」
「隠せてないっつの。ま、アイツのためだってなら、その方が信用できていいか」
「他のミサカにも伝えたほうがよろしいでしょうか? とミサカはさらなる援軍の要請を提案します」
「そうね、何があるかわかんないし。……念のために言っとくけど、めちゃくちゃ危険なんだから、覚悟がない子がいたら参加させちゃダメよ?」
「そのような個体はいないと思いますが……一応、お姉さまの伝言は伝えることにします」
「ん、それでよろしい」
「ところで、私にはその覚悟とやらを聞かなくてよかったのですか? とミサカはお姉さまのうっかりの可能性を指摘します」
「んー」
美琴は御坂妹を見据え、軽く微笑んだ。
「アンタとはまあ、比較的しゃべってる方だからね。聞かなくても大丈夫だって思ったのよ。……聞かれた方がよかった?」
「いいえ。とミサカは即座に否定します」
基本的に無表情である御坂妹だが、その瞬間はどこか嬉しそうな表情をしていた。
「それじゃあ私はもう帰るけど、一応アンタもこれ持ってなさい。知ってた方が対策も立てやすいと思うから」
美琴はそう言うと、PDAを取り出し、上条拉致計画に関する情報を御坂妹に渡した。
しかし、このことにより、御坂妹は後に失敗を犯してしまうことになる。
翌日
鳴り響く携帯電話の着信音で、美琴は目を覚ました。
目をこすりながら電話に出ると。かけてきたのは御坂妹だった。
「た、大変です!とミサカは慌てながら報告します!」
彼女らしくない、切羽詰った声が聞こえてくる。口調だけはいつも通りだったが。
「あの人が……きっと、ミサカのせいです……」
「落ち着きなさい。アイツに何かあったの?」
「あの人が……病院から姿を消しました、と御坂はお姉さまに震えながら報告します」
「……は?」
御坂妹の報告を聞いた瞬間。言い様の無い不安が美琴の中を駆け巡った。
}}}
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*消えゆくあいつの背中を追って 1
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「もし俺があと1週間の命だって言ったら、どうする?」
それは突然の告白だった。
学園都市のとある一角にある公園には、上条当麻と御坂美琴の二人が立っていた。
先ほどの発言は上条当麻から飛び出したものである。
「え……?」
その前まではとりとめもない話をしていた中での突然の発言だったため、美琴は言葉に詰まってしまう。
美琴は何の冗談かと思い上条の様子を伺う。
「実は……」
悲しそうな表情で呟く上条。
美琴は最初のうちは、そんなことあるわけない、急に何を言ってるんだこの馬鹿は、などと思っていたが、
上条の様子がふざけているように見えなかったので、段々と不安になってきた。
(もしかして本当に? でも、本当なら……)
深刻な表情になってゆく美琴を見て、上条はほんの一瞬だけ寂しそうな表情をする。
しかし、すぐになんともないというような表情に切り替え
「なーんつってな! 冗談だよ!」
「……は?」
「いやー、ミコっちゃんがそんなマジ反応するとは上条さんにも読みきれませんでしたよ。簡単に見破ってくるかと思ったんだけどな」
「……ふ」
「ん、どうした御坂?」
「ふざけんなああぁぁぁあ!! 冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょうが!!!」
美琴の前髪が青白く輝き、そこから雷撃が上条へ向けてほとばしる。
その雷撃は、まるで来る事が予測できていたかのように突き出されていた上条の右腕によって、すぐに打ち消された。
「あ、あぶねえ……」
「まったく、厄介な右手よね!」
「いや、直撃したら死んでたろ、今の……」
「アンタは殺したって死なないようなやつでしょ」
その美琴の言葉を聞き、上条はため息をついた。しかし、その表情はどこか楽しそうだった。
「こうやって御坂にビリビリされるのって、けっこう久しぶりだな」
「そ、そうかしら? ……まあ、最近はどっちかというと外とかで派手にドタバタしてたのが多いけど」
「あれと比べたらなんつーか、平和って感じだな。こういうのは」
「ふーん、じゃあもっと平和にしてあげようか?」
「いや、ほどほどにお願いします……」
そう言って上条は笑う。
「御坂は怒るかもしれないけど……お前とこうやって馬鹿やってるのって、けっこう居心地がよかったりしたんだぜ」
「なっ……」
上条の言葉に、美琴の顔が赤くなる。
「お前が俺の事どう思ってたかはわかんねえけどさ、俺はお前と一緒にいるのは楽しかったよ」
普段とは違う上条の態度に戸惑う美琴。
上条がいつもより好意的であるため、このままいい雰囲気になれるかも、と美琴は胸に淡い期待を抱いた。
「じゃな」
「え!? いっちゃうの?」
しかし、美琴の期待とは裏腹に、言いたい事は言ったのでもう用は事は済んだとでも言うかのように、上条は去っていこうとした。
一方で美琴はまだ話していたかったので、上条を呼びとめようとする。
声を出そうと息を吸い込んだその瞬間、美琴に背を向けて歩きだしていた上条がグラリとよろめいた。
「っと」
「何してんのよ」
「な、なんでもねえよ。ちょっとフラっとしただけだ」
すぐに体勢をたてなおし、そのまま上条は歩き去っていく。
美琴はしばし呆然とその様子を見送っていた。
(なんだろう、今の、凄く嫌な予感がする)
上条のよろめきかたはどこかで見た事がある気がした。しかし、それが何かは美琴は思い出せなかった。
ただ、なんとなく、彼はどこか悪くしているんではないかという予感があった。
「まさかね……」
普段とは違う上条の態度、そしてあの冗談。美琴は一瞬だけ頭に浮かんだ考えを必死に打ち消そうとする。
しかし、美琴の中の不安はだんだんと強くなっていくばかりだった。
もし悪い予感が当たっているのであれば、アイツは病院に行っているだろう。
そう思って、美琴は病院に向かった。
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「いててて、あいつ等手加減くらいしろよ……」
上条当麻は満身創意で街角を歩いていた。
彼は先ほど美琴に言った冗談と同じような内容を他の友人達にも言い、同じように冗談だと笑い飛ばし、結果としてほとんど暴力と呼べるようなお仕置きを受けることになった。
ただ、上条は殴られるのもいいと思っていた。それによって、友人達の存在を強く感じることができたからだ。
「たぶん、ばれてねえよな……? まあ、どうせすぐわかっちまうんだろうけど……」
そう呟いていると、電話が鳴った。掛け先は病院からだった。
「はい」
「そろそろ戻ってくるころかい?」
「ええ、この辺にいる知り合いとは大体話せました」
「そうかい、進行状況から見て、そろそろ入院が必要になる。必要な物は今日のうちにこちらに持ってくるようにね」
「わかりました」
「……力になれなくて、すまないと思っているよ」
「いえ、俺は……」
次の言葉を飲み込む上条。
「担任の先生に頼み事とか残ってるんで、もうしばらくしてからそっちへいきます」
そう言って、上条は電話を切った。
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御坂美琴は第7学区の病院を訪ねていた。
あの馬鹿はこの病院にがよく入院している。もし何かあるならここにくるはずだ。
そう思ってあたりを見回していると、カエルのような顔をしている医者が歩いてくるのが見えた。
「やあ、やはり来たね」
「こんにちは。少しお聞きしたい事があるんですが……」
「上条当麻君のことかい?」
自分がここに来る事が予見されていたことに加え、その目的が上条だと知られていることに驚く美琴。
嫌な予想が当たってしまいそうな気がした。
「教えてください。もしかして彼は、どこか悪いんですか?」
「彼の友人のうち、何人かはここに来ると思っていたよ。
……ついてきなさい。ここでは話せないからね」
美琴は診療室に案内された。
「端的にいうと、彼は厄介な病気にかかっていてね」
「病気……」
「筋ジストロフィーという病気は知っているね?」
「じゃあアイツは……でも、たしかあの病気は……」
筋ジストロフィーという単語を聞き、さきほどの上条のふらつく姿と、幼いころに見た筋ジストロフィー患者の様子が重なった。
どこかで見たかと思ったが、あの時のものだったのか、と美琴は思う。
しかし、美琴には腑に落ちない点があった。幼少の頃の記憶によると、筋ジストロフィーという病気は1週間などという早さで進行することはないはずだった。
美琴の疑問に答えるかのように、カエル顔の医者は説明を始めた。
「あの病気もまだ未解明な部分が多いが、今回彼が患っている病気は別のものだよ。ただし症状はそっくりだ。急性だという点を除いてはね……
どういうわけか、彼の全身の筋肉は急速に壊れていっている。今のペースで進行が進むと、1週間かそこらで……彼の心臓、あるいは肺が機能できなくなる」
息を飲む美琴。目の前が真っ暗になった。アイツが本当に……死ぬ?
「もちろん、このまま彼を死なせるつもりはないよ」
「な、治せるんですか!?」
ホッとして聞き返す美琴。しかし
「いや、今はまだあの病気の治療する手段はない」
カエル顔の医者は首を振る。
「じゃ、じゃあどうやって……」
「進行を止める手段ならある。今は治せなかったとしても、近い将来に治せるようになるかもしれない」
カエル顔医者は上条を救うための計画を美琴に説明した。
その内容は大雑把にまとめると次のようなものだった。
・筋肉が壊れる原因は、脳からの命令を神経がほんのわずかにずれた伝え方をしているからのようだ
・ただし、新陳代謝が起こらなければ病状は進まないものと予測される
・現代の医療技術ではこの異常を治すことは不可能。だが将来的には治療技術が発達し、治すこともできると見込まれる
・治療する手段が完成するまで、上条をコールドスリープ状態にする
・治療が可能になった段階でコールドスリープを解き、上条を治療する
「それじゃ、治す方法が見つかるまでアイツはずっと……」
「そういうことになるね」
「そんな……」
それからの事を、美琴はよく覚えていない。
茫然自失のまま病院を去り、気がつくと寮の自室で机の前に座っていた。
(アイツが、いなくなる……)
そう思うだけで胸が締め付けられる。
これからどうすればいいのだろうか。美琴は何もわからなくなった。
上条当麻と共に歩んでいく、それが美琴が望む道だった。しかし、その道が今崩れてようとしている。
彼が治るのはどれだけ先の事になるのだろうか。数ヶ月、数年、あるいはそれ以上かかるかもしれない。
その間、医者ではない美琴はただ待つしかできない。
自分の無力が恨めしかった。いくら超能力者と呼ばれようが、いつだって肝心なところで何も出来ていないではないか。
ふと、美琴は携帯電話に取り付けてあるカエルの人形付きストラップを手に取った。
これは少し前に、上条と二人で入手したものだ。ペアとなっていたもう片方は上条がつけている。
一度は彼の手から離れてしまったが、すぐに彼の元へ帰すことができた。
彼との絆を象徴するかのようなそのアイテムは、美琴にとって大切な宝物だった。
(あのときも、アイツは帰ってきた……)
美琴はストラップを手に包み込み、そっと胸に抱きしめた。
そうするだけで、折れそうになった心に力が戻ってくるような気がした。
本当に自分には何もできないのだろうか。美琴は深呼吸をして、もう一度考え直すことにした。
「私は、絶対に諦めないわよ」
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美琴は電撃使いとしての能力を使って、学園都市中のネットワークから情報の検索をしていた。
探しているのは、研究開発が行われている先端医療について。
当然そのような情報には強固なセキュリティが施されていたが、それらは美琴の能力に前には無力だった。
検索を続ける事1時間、画面上に現れた文字を見て美琴の手が止まる。
『電撃使いの能力を用いた筋ジストロフィーの治療について』
目の前に現れたキーワードは、美琴に苦い過去の経験を思い起こさせた。
美琴が幼い頃に行った遺伝子マップの提供は、それによるクローンの誕生と虐殺を生んでしまった。
しかし、渡されたデータはクローンの作成だけに使われたわけではなかったようだ。
目の前の研究データは、電撃使いの能力を応用した治療についてまとめられている。
その中で使われているデータに、美琴の遺伝子マップ由来のものと思われるものも散見することができた。
(成果も上がってるんだ……よかった……)
幼い頃の小さな善意が、正しい形で実を結びそうだということに美琴は安堵する。
そしてさらに、その治療法は
「筋ジストロフィーに効くなら、アイツの病気にも応用できるかも……!」
美琴は急ぎ情報をまとめ、カエル顔の医者へと送信する。
(明日もう一度病院へ行って、この方法で何とかならないか相談しよう……もしダメだったとしても、また一から探し直す!)
かすかに見えた希望によって、落ち込んでいた美琴の気分も上向いてきた。
とりあえず情報を集めは今日はこれまで、と美琴はその場を片付けようとした。
しかし、不意に美琴の背筋に冷たいものが走った。
今美琴の目の前には、学園都市の機密情報が溢れている。広範囲に探していたため、医療以外の情報もそこにはある。
しかし、何か危険なものを見つけていたというわけではなかった。
美琴は一瞬錯覚かと思ったが、嫌な予感が消えない。
(なんか、こういう予感って当たりそうでいやなのよね……)
念のため、美琴はこれまで治療法とは関連が薄いとして捨てていた情報について、何か怪しいものはないかと調べ始めた。
ほどなくして、美琴は極めて不穏な文章を発見した。
『幻想殺しの「保護」について』
美琴の頬を嫌な汗が伝う。
それは、かつてロシアに行く前に発見した文章のことを想起させるようなタイトルがついた計画書だった。
『幻想殺しは学園都市にとって貴重な存在である。「プラン」についても彼の果たしてきた役割は大きい。
しかし、幻想殺しが近々行動不能になる見込みがある事が判明した。厄介な事に、この状況は非常に危ういといえる。
外部勢力はこの機を逃すことはないだろう。幻想殺しを拉致しようとする物が現れる可能性は高い。
そのため、幻想殺しの流出の危険を回避するためにも、彼が行動不能になった際には速やかに安全な場所に隔離する。
その上で第2位同様の処置を施すこととする』
第2位同様の処置というフレーズには見覚えがあるが、内容までは美琴にはわからなかった。
ただ、きっとろくでもないものだということ想像できた。
『幻想殺しの確保の際、周囲の人間が妨害を試みる可能性がある。
候補の中には学園都市にとって貴重な存在が多数含まれるが、最優先は幻想殺しの確保である。その他の人間の身の安全は問わない』
(どうやら相当強引にくるらしいわね……いいわ、どんな奴が来ようとも、アイツは私が守りきってやる)
美琴はそう覚悟を決めた。しかし
『敵対が想定される人物のリストは別資料にまとめてあるので、本計画で遭遇した際には効率よく排除すること』
『・御坂美琴 超能力者第三位 有効な対策は……』
「なによ……これ……」
危険人物リストと思われるものの中に自分の名前を発見し、その上対策まで練られていることがわかり、美琴は戦慄した。
--------
翌日
美琴は再度病院を訪れていた。
「やあ、見せてもらったよ」
カエル顔の医者が美琴を出迎えた。
「あの方法で、なんとかなりませんか?」
「いったいどこからあの資料を見つけてきたのかは、今は問わないことにしようか。
……結論から言うと、多少のアレンジは必要だが、彼を治すことができそうだよ」
「本当ですか!?」
「ああ、ただ……」
カエル顔の医者は少し言い淀む。
「術者がいない。君もあのレポートは見たんだろう?」
「電撃使いの力が必要なら、私が!」
その問題は予想できていたとでも言うかのように美琴は答えるが、カエル顔の医者は首を横に振った。
「たしかに、君なら能力者としては申し分ないよ。だがね、それだけじゃダメなんだ」
「何が足りないんですか!?」
「まあ落ち着きなさい。この治療法は、言わば能力者がその能力を使って手術をするようなものでね?」
「……それはつまり、私が」
「そうだね。彼を治すには、医者でもあり、電撃使いでもあるような人材が必要だ。君が彼を助けたいのなら、君は医者になる必要がある」
「……」
「ただ、もし君が協力してくれるというのなら、こちらもサポートは惜しまないよ」
「それって、どのくらいかかりそうですか?」
「別に医者になるため必要な知識全てがいるわけではないからね。君くらい優秀な学生なら、1年もあれば十分だろう」
どこか安心しているカエル顔の医者とは対象に、美琴の表情は沈んでいく。
「1年……」
「たしかに、大変だし長い道のりにはなるだろうが、君ならできると思うがね?」
「でもそれじゃあ、アイツはやっぱり……」
「まあ、しばらくは眠っていてもらうことにはなってしまうね。……表情が優れないようだが、何か不安事でもあるのかい?」
「……いえ」
上条を治せさえすれば、例の計画が実行されることはないだろう。
そう思っていた美琴は、発見した治療法が有効に働くことを祈っていた。
しかし、どうやらそううまくはいかないようだった。
その後、美琴は必要な資料を受け取り、部屋を後にする。
美琴が去った後、カエル顔の医者は独りごとを口にした。
「1年必要……か、彼女がアレに気付かなければいいが……」
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美琴が廊下を歩いていると、「上条当麻」という札がある病室を発見した。
もう入院してるのかと思い、美琴はその病室に入った。
病室の中には、上条が一人暇そうにしていた。
「あれ、御坂?」
「……アンタ、もう入院してたんだ」
「ひょっとして、もう知ってるのか?」
「大体はね」
「そっか……ひょっとして、見舞いにでも来てくれたのか?」
「ちょっとこっちに用があったのよ。……ま、アンタにも関係あることなんだけど」
「俺に?」
「そうよ。……手っ取り早く言うと、アンタのその病気、私が治せるかもしれない」
美琴の言葉を聞いた上条は目を見開く。
「マジか!?」
「ま、まあ準備に1年くらいかかっちゃうみたいだから。アンタにはやっぱりその間は寝ててもらう必要があるんだけど……」
「そ、そうか……」
即完治とはいかないことがわかり、上条はとたんに落ち込んだ。
「まあ、しゃあねえよな。助かるだけでもありがてえってもんか」
「……そうね」
「御坂?」
しばらくの間、美琴は黙り込む。
「……そういえば、アンタに聞きたい事があったんだけど」
「ん、なんだ?」
「アンタの知り合いに、強い人っている?」
「なんだよ急に、まあいることはいるけど……なんか用事でもあるのか?」
「……あー、やっぱりなんでもないわ」
「まさか、力試しを挑もうと……」
「んなことするわけないでしょ!」
「いやでもお前、俺には……いやなんでもない」
美琴はジト目をして上条を黙らせる。
(なんとなく、コイツにはあの計画の事を知られちゃダメな気がする……)
美琴は自分一人で上条を守り通せる自信が持てなかった。
そのため、彼を共に守る仲間が欲しかったので、心辺りがないかを直接本人に聞こうとした。
この馬鹿のことだ、そんな人間はきっと山ほどいるに違いない。そう美琴は思っていた。
ただ、彼にあの計画のことを知られてしまったら、余計なお世話だなどと言って護衛を拒否されるかもしれない。
あるいは余計な気をきかせて、一人でどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思い直した美琴は、上条には伏せたまま仲間を探すことにした。
「邪魔したわね」
「なんだ、もう行くのか。もうちょっとゆっくりしてけばいいのに」
「っ! わ、私はアンタと違って忙しいのよ!」
引きとめられるとは思っていなかったため、美琴は不意打ちを食らったかのようになった。
もちろん上条ともっと話していたいが、今は時間が無い。それにひょっとしたら態度でボロが出るかもしれない。
そう思った美琴は、逃げるように部屋から去っていった。
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その後、美琴は別室でミサカ10032号、通称御坂妹と話していた。
「……というわけなんだけど、アイツを守るのにアンタ達の手を貸してもらえない?」
「聞かれるまでもありません。とミサカは答えます」
「そっか、ありがとね」
「別にお姉さまのためではないのですが? とミサカはあの人への想いを隠しつつもお姉さまを牽制します」
「隠せてないっつの。ま、アイツのためだってなら、その方が信用できていいか」
「他のミサカにも伝えたほうがよろしいでしょうか? とミサカはさらなる援軍の要請を提案します」
「そうね、何があるかわかんないし。……念のために言っとくけど、めちゃくちゃ危険なんだから、覚悟がない子がいたら参加させちゃダメよ?」
「そのような個体はいないと思いますが……一応、お姉さまの伝言は伝えることにします」
「ん、それでよろしい」
「ところで、私にはその覚悟とやらを聞かなくてよかったのですか? とミサカはお姉さまのうっかりの可能性を指摘します」
「んー」
美琴は御坂妹を見据え、軽く微笑んだ。
「アンタとはまあ、比較的しゃべってる方だからね。聞かなくても大丈夫だって思ったのよ。……聞かれた方がよかった?」
「いいえ。とミサカは即座に否定します」
基本的に無表情である御坂妹だが、その瞬間はどこか嬉しそうな表情をしていた。
「それじゃあ私はもう帰るけど、一応アンタもこれ持ってなさい。知ってた方が対策も立てやすいと思うから」
美琴はそう言うと、PDAを取り出し、上条拉致計画に関する情報を御坂妹に渡した。
しかし、このことにより、御坂妹は後に失敗を犯してしまうことになる。
翌日
鳴り響く携帯電話の着信音で、美琴は目を覚ました。
目をこすりながら電話に出ると。かけてきたのは御坂妹だった。
「た、大変です!とミサカは慌てながら報告します!」
彼女らしくない、切羽詰った声が聞こえてくる。口調だけはいつも通りだったが。
「あの人が……きっと、ミサカのせいです……」
「落ち着きなさい。アイツに何かあったの?」
「あの人が……病院から姿を消しました、と御坂はお姉さまに震えながら報告します」
「……は?」
御坂妹の報告を聞いた瞬間。言い様の無い不安が美琴の中を駆け巡った。
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