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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/07章 - (2010/04/18 (日) 14:50:47) の1つ前との変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 【帰省日1日目 隠し事】 美琴「ふぅ………」  美琴がラムネの瓶を置くと、ビー玉がコロコロと楽しげな音色で鳴った。 当麻「そろそろ完全に日が暮れそうだな。 寒くなってきたし合流するとしますか」  屋台から少し外れた辺りは既に夜の闇に包まれつつある。  吐く息も徐々に白くなってきていた。 美琴「そうね………っとその前に、私ちょっと外すからここに居て」  美琴は体温ですっかり温かくなった石の壁を勢いよく下りると、屋台の無い方向へと歩き出す。 当麻「お、トイレか? 俺も俺も」 美琴「…………アンタねえ」  いや、と首を振る。 上条にデリカシーを求めるなんて無謀すぎる。  二人は近場にあった巨大なゴミ箱に瓶やプラスチック製容器などを捨てると、こういう場所にしては案外綺麗な公衆便所へ と男女に別れて吸い込まれていった。 当麻(ふぃー。 しかし今日は随分と平和ですなー)  晴れ着を身に纏った好きな女の子と(上条的としては無事に)デートできているのである。 幸せ以外の何物でもない。  以前『この道は俺が歩く』と父に言い張った事のある上条としては、ずっと何も起こらないと言うのも複雑な心境ではある のだが、今は何か起これば確実に守るべき美琴を巻き込む。 何も起こらないのが一番であるのは当たり前だ。 当麻(神社にお参りしたのが効いた………わけねーか。 油断禁物だぞー上条当麻)  そんな事を考えつつ小便をし終え、手を洗い始めた時、突然どこからかバチン! という破裂音のような音が聞こえてきた。 当麻(美琴の電撃……何かあったのか!?)  周りの男達にもそれは聞こえていたようだが、その音が何なのか理解している者は上条だけであろう。  彼は素速く手を洗うと女便所の入り口まで駆けつけた。 当麻「おい、大丈夫か!?」  とりあえず名前を言わないよう気をつけながら叫んでみる。  さすがに一度電撃の音がしたくらいで飛び込むほど軽率野郎ではない。 美琴「ふぇっ!? だ、だだだだ大丈夫何でもない……………………ッてぎゃーこっち来んなーーー!!!」  再びバチーンバチーン!! という電撃の音。 当麻「?? わ、分かった行かねーよ」  さらに電撃を放つ音、それとパシャッ! と何やら水っぽい音、うぎゃー!! などと喚く声、そして静寂――――――  一応事件性は無いのだろうと判断した上条が入り口の外でそわそわしながら数分待っていると、うな垂れた美琴が手をハンカチ で拭きつつトイレからトボトボと出てきた。 当麻「お、おいどうした何があった!? そんな、まるで財布と携帯紛失した上に水たまりで転んで更に鳥のフン掛けられたような     絶望的な顔しちまって」 美琴「………………ふ、ふふ、別に、何でも……」 当麻「何でもないってこたねーだろ!? 能力も使ってたのに」 美琴「………………ホントに、何でも、無いのよ。 足の長い奴が二匹も同時に私目掛けてピョンピョン飛んできたってだけ。 ただ     それだけよ」 当麻「はあ?」  上条は大事ではないことに安心して詰めていた息を一気に吐き出した。  てっきり学園都市に敵対する勢力がトイレという無防備な状況下を狙って現れたのかと思ったのだ。 当麻「ったく虫ごときに電撃使ったのかよ。 あれだけ使えないとか言っておいて」 美琴「そうよどうせ私は虫嫌いよ悪かったわね」  幸いあの音が電撃で、目の前に居るのが御坂美琴だというのは誰にもばれていないらしい。 トイレの脇でこそこそと言い合い している二人に目を向ける者はほとんど居ない。 当麻「ん、そういえばヨーヨーは?」 美琴「………………電撃で破けた」  注意してよく見ると美琴の振袖は所々、特に太ももの辺りが濡れている。  上条がそれに気付いた瞬間、何故か美琴は体を捻ってそれを隠した。 当麻「? まあそう落ち込むなって。 ヨーヨーなんてまた取れるだろ? さっさと行こうぜ暗くなってきたし」  そう適当に元気づけ、上条は未だ無表情で真っ白になって落ち込んでいる美琴の手を握る。  しかし、 美琴「にゃうっ!?」  美琴は奇妙な裏返った声で叫ぶと、上条の手を振り払い後ずさった。 当麻「へ?」  上条は目を点にしつつ空中で手をニギニギする。 美琴「ご………、ごめん。 ほら、とととトイレ行ったばっかりだし、その、汚いじゃない?」 当麻「あ、あー。 あー? 手は洗ったんだろ?」 美琴「…………」  美琴は上条の不審な表情を無視して先に歩き出してしまった。  上条は理解もできずにそれを追う。 当麻(俺、何か不味い事言ったっけ?)  チラチラと窺い観察してみるが、特に何かに怒っている様子は無さそうだった。  いつもと違うところと言えば、上条と二人分以上の距離を開けて歩いているところ、目が泳いでいるところ、たまにもじもじ しているところ、両手を前で組んでいるところ、あと先程より生気が戻った顔が困惑した表情であるところくらいだろうか。 当麻(わけわかんねー)  上条は頭をクシャクシャと掻いた。 美琴「クシュッ!!」 当麻「ん、風邪? 寒いのか?」  予想外に可愛らしいくしゃみをした美琴に近づこうとするが、近づいた分だけ美琴は離れてしまう。 当麻「…………」 美琴「だ、大丈夫よ、だいじょ……クシュッ!!」 当麻「ったく、何が大丈夫だ、よッ!」 美琴「わっ、ちょっと!!」  上条は逃げようとする美琴に対し一気に大股で近づくと、左手で彼女の左肩を掴み強引に引き寄せた。 そして右手で髪を掻き 分けおでこを触る。 美琴「離っ、離しなさいよ………」 当麻「熱は……って冷てぇ、体も震えてんじゃねーか」  上条は美琴の要求を無視して自分のマフラーを彼女の首へと強引に巻く。  オレンジ色の振袖に青緑色のマフラーという酷いコーディネートであったが、震えている美琴を放っておくわけにもいかない。 当麻「これでよしっと。 つーかさっきからお前おかしいぞ、どうしたんだよ。 何か文句でもあるなら素直に言ってみそ?」 美琴「べ、べべ別に何も………とりあえず腕離して」 当麻「やだ」 美琴「何でよ」 当麻「お前が何か隠してるから」  肩を抱きながら歩くというのは上条的にも非常に恥ずかしい行為で、自分の頬がジワジワ紅潮していくのを感じたが、訳も分からず 避けられる事の方がずっと癪だったのでどうにか平然を装い離さない。 当麻「お前さ、以前俺に『隠し事するな』って言ったよな。 ………あれ、実は結構嬉しかったんだよ」 美琴「……いきなり何?」  上条は前だけ見据えて続ける。 当麻「周りを傷つけたくなくて、過去の俺自身を演じながら生きてきて……あ、俺自身がそれを望んだんだからそのことに文句は     無いんだけど。 でも、それでも、ほんのたまにだけど俺も疲れると思う事があるんだ、心の底にある物を吐き出したい事     もあるんだよ。 だから、お前がああ言ってくれた事は本当にありがたいと思った。 俺の記憶喪失を知る事でお前に辛い     思いをさせたのは物凄く嫌だったけどさ、その反面俺の一部は救われたんだよ。 …………つってもまだ全てを話せる自信     はないけどな」 美琴「………………」  肩を抱く手の力が少しだけ増す。  しかしその口調はどこまでも優しげで、子供をあやす親のように柔らかであった。 当麻「それだけの理由ってわけでもないんだけど、そういう風に言ってくれた奴が俺に何か隠して苦しんでたら、辛くて、居ても     立ってもいられなくなるんだよ、分かるだろ? 打ち明ける事で余計美琴を苦しめるっていうなら聞かないけどさ、もし     変なところで俺に遠慮してるとかなら、そういうのは止めにしようぜ?」 美琴「…………わ、私が遠慮なんてするわけないでしょ」  美琴は視線を逸らし呟くように言う。  とすれば自ずと前者、『打ち明ける事が美琴を苦しめる』になるだろう。  すなわち上条の出る幕はないという事だ。 当麻「そっか」  それなら仕方ないので上条は美琴から手を離そうとする。  しかしそれを待たずに美琴が小さく叫んだ。 美琴「でも分かったわよ!! 話す、話すって。 大したことじゃないのにアンタ心配しすぎ! このまま言わないと変な勘違い     して悩み出すつもりでしょ?」 当麻「いや、それは………………まあ、そうかも」 美琴「はぁ」  美琴は一度溜息を付いて俯き、周りの雑音に掻き消されそうなくらい小さな声で話し出す。 美琴「………………さ、さっき、と、トイレで電撃使ったら…………、ヨーヨーの風船が、破けたのよ」 当麻「それ聞いた」 美琴「黙って聞け! ………………そ、その中の水が、掛かった、のよ………………、下着に。 完全、クリーンヒット」 当麻「……………………」 美琴「それだけ」 当麻「………………へ?」  それっきり、美琴は俯いたまま動かない。  気がつけば二人の足が止まっていた。  上条は思い出す。 美琴がいつも穿いている短パンはオレンジジュースが掛かったため上条宅でまだ干している事を。  上条は思い出す。 美琴の着物で濡れていたのは確か太もも辺りだった事を。  上条は思い出す。 美琴はトイレを出てから寒そうにもじもじしていた事を。  つまり、そこから導き出される答えは一つ。 当麻「も、もしかしてお前、今ノーパ……ングァハッ!!」 美琴「言うなバカ!!」  上条の顎に美琴の重い右アッパーが炸裂した。 高校一年男子の体が宙にふわりと浮く。  地面に落ち行く間に上条は心の中で叫んだ。 当麻(着物だから別に下着穿いてなくても問題は無いと思いますがいかがでせうかー?!)  問題の論点がかなりずれている気がするが、それだけ脳を揺さぶられて意識が朦朧としているのだ。  上条の体が細かい砂利の地面へ倒れる。  見えるのは真っ暗な冬の空――――――ではなく、何やら布っぽい物が顔を覆っていた。  上条は殴られる直前、咄嗟にそれを止めようとして美琴が持っていた小さなバッグを必死に握ったのである。 そして殴られた 事でバッグが引っ張られ、その口が開き中の物が飛び出し、奇跡的にそれが上条の顔面へフワリと舞い降りたのだった。 当麻「ん……何だこれ……良い匂い。 ハンカチ?」  薄れゆく意識の中、上条は何となしにそれを少しだけ摘み上げる。 ハンカチにしては妙に丸っこい薄黄色の布で、一部には 伸縮性があり、可愛い猫のキャラクターが描かれていて――――――  と、それが何なのかもう少しで思い出せそうになった瞬間、布と鼻筋の間から見慣れた青白い光が見えた。 美琴「ッわーーーーーーー!!? 見んなやクソバカーーーーーーーーーーー!!!」 当麻「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」  美琴の額からバチバチと雷撃の槍が放たれ、それが上条の右手へと吸い込まれる。 防げたのは本当に僥倖であった。  上条が倒れたままドキドキしていると、超高速で美琴がその布らしきものを掴み自分のバッグへと押し込んだ。  今度こそグレーの空が、呆然としている上条の視界を覆う。 ??「何、喧嘩? 能力者?」  そのついでに周囲の声も聞こえてきた。 ??「ってかあれ、もしかしてレールガンじゃね? 常盤台中学の第三位」 当琴「「あ……」」  二人の頭に「やっちまった」というワードが浮かぶ。  上条が飛びそうな意識を起こしどうにか頭を回復させ、急いで起き上がった時にはもう遅かった。  さっきまで参拝客は水が流れるように二人を避けていたのに、それが三人、四人と立ち止まり、やがて流れが滞り固まりとなる。 「誰?」「御坂美琴だって」「え、ウソどこ?」「誰だっけ?」「ほら大覇星祭だよ大覇星祭」「ホントだ可愛い」「何でこんな所 にいるんだ?」「髪型違うし他人のそら似だべ」「変装じゃない? さっき電撃出してたわよ」「本物だよ! 俺ファンだしすっげー テンションマックス!!」「あたし生で超能力者見たの初めてー」などと辺りが騒然とし始め、徐々にそのざわざわが大きくなって 一つ一つの発言が何を言っているか分かりにくくなってくる。  おまけに、「あの男は誰?」「彼氏? 兄貴って居たっけ?」「ジャーマネぽいな」「さっき肩抱いてたわよ?」「お揃いのお面 とかマジウケル」「彼女にあんなお面被せるとか最低だな」というような言葉と共に上条へ訝しげな視線まで投げかけられる。  それが僅か一分にも満たない出来事だった。  美琴の方を見ると顔を引きつらせたまま溜息を付いていた。 どう切り抜けるか考えているのかもしれない。  上条もこんな状況に慣れていないため、ここは美琴に任せるべきか、手を引いて走って逃げるか迷う。  そうこうしている内に、見るからに快活そうな着物姿の女子中学生三人組みが一歩先んじて楽しそうに美琴へと話し掛けてきた。 ??「あの、レールガンさんですよね!! 握手して下さい!!」 ??「私も私も!! あとサインお願いして良いですか?」 美琴「あ、はいはい握手ね。 えっとごめん、サインはちょっと……、ほら今オフだから」  そもそも芸能人ではない美琴に『オン』なんて無いのだが、そこら辺は適当に誤魔化したいだけだ。  一人が話し掛けると、周りで円を作り遠巻きに見ていた人達も堰を切ったように一歩踏み出し話し掛けてくる。 ??「あらー、可愛いわー。 写真撮っちゃっていい?」 美琴「ごめんなさい写真もむやみに撮られると困るんです」 ??「ねえね、みこっちゃん、あの子は彼氏? ふふ」 美琴「いえ………、従兄です」 ??「是非超能力見せてくれませんか?」 美琴「外での能力使用は禁じられてるので」 ??「うちの子レベル1から上がらないんだけど、何か良い方法教えてもらえなーい?」 美琴「えっと……」  特にオバチャン連中は積極的であった。  徐々に美琴と上条を囲む輪が小さくなっていく。 当麻(う、マズイぞこれ!)  上条はすぐに美琴の手を引いて逃げ出さなかった事に後悔する。  危機感を抱いた頃には既に遅く、人の流れが滞留し、もはや脱出不可能と言えるまでに分厚い人垣に囲まれていた。 それは 美琴に興味がある者だけではなく、混雑する中、突如道の真ん中にできた固まりに進行を阻害され立ち往生している人も相当数 居た。 そう言う人達が訳も分らず不平不満を発し、辺りは益々混乱の渦に陥る。  そしてとうとう『撮りまーす♪ カシャ』という携帯のカメラの音がどこかから聞こえ始める。 すると他の、特に美琴の位置 から遠い人が我先にと携帯カメラを取り出し、腕を高く上げて美琴の姿を撮り始めた。 辺りに緊迫感とはほど遠い様々な軽い ノリのシャッター音が響き渡る。 当麻(どうする!?)  上条から三・四歩程度離れている美琴の顔をどうにか窺うと、彼女も同様にチラチラと上条の方へと視線を投げかけていた。  目と目で意思疎通なんてそんな簡単にできるものではないが、その時確かに上条は理解する。 当麻(『助けて!! …………………………………私がブチギレる前に』か)  上条は意を決し人混みを掻き分けて美琴の手を取り、その反対側から出ようとするが、今度はそちら側の人に捕まってしまう。 当麻「ちょっと通してもらえませんか!!?」  大声を上げてみるが誰も気にしないし、気にしたところで彼らも抜け出す事が出来ない。 ??「やっべ、俺超好みなんですけど」 ??「てゆーかぁ、君も能力者? ひょっとしてレベル五? もしか四?」 ??「つかお前レールガンのカレシ? 俺もしかしてめっちゃすげー情報ゲットしたんじゃね? 他の奴らにメールしねーと!!」  パシャッ! と上条までフラッシュ付きカメラで撮られる。  相手はどこにでも居そうな不良のようだったが、別に彼らが何かした訳ではないので殴り倒す事も出来ない。 当麻「(だー! 悪意が無い集団ってこんな面倒くせーのか!?)」 美琴「(いいから愚痴ってないで、早く無理矢理にでも突破するわよ)」  二人は人の壁から隙間を探しどうにか潜り込む。 当麻「お、お願いだから通してくれ……」  しかし美琴を中心として人垣も動くのでどうにも出られない。 二人揃って圧縮される。  その上混雑がピークに達した事で、「押すな!」「痛い!」というような叫び声も上がってくる。 辺りは薄暗く、怪我人が 出るのも時間の問題だろう。 例え二人が脱出できたからと言って解決しないかもしれない。 美琴「(一旦放電して散らすしかないかしら)」 当麻「(ばっかやろ、それ余計混乱するだろ!? 将棋倒しになるぞ)」 美琴「(分かってるけど、他に方法が無いのよ)」  どうにも上手い案が思い浮かばないので、二人は兎にも角にも一旦出る事を目指す。 当麻「あの、通して………、もー通せっつのコラー!」  しかし、そこで事件は起きた。 美琴「ひゃうっっ!!?」 当麻「ぐ………どーした御坂?」 美琴「だ、誰かに撫でられた!」 当麻「撫で………られたッ!?」  上条の脳裏に『痴漢』というワードが思い浮かぶ。  これだけ薄暗い中密集していれば誰がどこを触ったところでばれないだろう。  その上、今美琴はパンツを穿いていないらしい。 そんな状態で一体どこを触られたというのだろうか。  上条は頭の中でブチッ! と何かが切れる音を聞いた。  彼は美琴の腰に右腕を回して自分の傍へ思い切り引き寄せると、半無意識に咆哮する。 当麻「うォォォおおおおおおお!! テメェら俺の美琴に気安く触ってんじゃねェェぇぇぇえええええーーーーーーー!!!」  いきなり豹変したその男の絶叫に、集ったファンのみならず立ち往生している人や屋台の大人達も唖然として振り向く。  ただ、それに一番驚いたのは彼に痛いほど強く抱かれた御坂美琴の方であった。  美琴は上条に密着したまま胸をバシバシと叩き彼の注意を引く。 美琴「(ってバカちがーーーう!! さ、触られたのは背中!! 背中を撫でられただけだってば!! くすぐったかったのよ!!)」 当麻「………………………………………………………………………………………はい?」  世界が制止したかのように思えた。  上条を中心とした数メートル圏内が、余りにも痛々しい静寂に満ちる。  ただ誰かがポツリと「何だやっぱ彼氏じゃん」と呟いたのが聞こえた。  上条は顔を真っ赤にしながら何か言おう、何か弁解しようと試みるが、口がパクパクと開閉するだけで何も出て来ない。  正直今すぐどこか高いところに上ってそこから飛び降りたいという衝動さえ覚えた。 美琴「(ちょ、いいから、恥ずかしがるのは後にしてよ、とにかくアンタ、腕、腕離し、て………………あの、だから、そんなに     強く、抱きしめられたら、気持…ち………が……………………ふにゃー)」 当麻「嗚呼、もう……………………ジーザス(訳:ああ神様のバカヤロー!!)」  上条は、さすがにそろそろ『ふにゃー』は無いだろうと高を括っていたがそれは甘かった。 トイレを出てからの美琴の様子を 考えれば予想は出来たはずだ。  とは言っても右手で抱きしめていたので電撃は漏れることはなく、不幸中の幸いな事に被害者は出なかった―――――― 当麻「えっと、御坂さん? しっかり自分で立って下さい御坂さん」  ――――――ただし約一名、不幸な男子を除いて。 当麻「あっはは、この御方たまに混乱して足腰が弱くなるんです。 つまり別に俺のせいってわけじゃなくて………………いえ、     だから何と言いますか、簡単に言うと、とにかくごめんなさいでしたー!!」  とりあえず弁解は早々に諦めて、全方位の全ての人に向けて謝罪してみる。  そこには衆人環視の中、体をふにゃふにゃにさせた学園都市の超電磁砲《アイドル》と、その娘が幸せそうにしな垂れかかって いる普通の男子高校生が佇んでいた。 電撃が出ていない分、第三者の視点からは単に『彼氏が何やら酷く臭い台詞で吼えたが、 御坂美琴はそれが超絶に嬉しかったらしく、ふにゃふにゃになりながら彼氏に抱き付いた』というようにしか見えないのだ。  彼にはもうどうしようもない。 足掻こうにも彼の周りを360度人垣が囲んでいるし、目を回しながら彼に寄りかかっている 少女はあてにならない。  右手を離すという暴挙に打って出る事も出来るのだが、彼はこう見えても一応善人のつもりであるのでそんなテロみたいな行為を する気も無い。 だから彼にはまな板の鯉を選択するより他無いのだ。 美琴のファンにフルボッコにされても文句は言えない。 当麻(もう、好きにしろ)  と、諦めかけたその時、神様《バカヤロー》が願いでも聞いてくれたのか、天から彼に贈り物が降り注いだ。 ??「やだ雨!!」 ??「うわ夕立か!?」  二人を取り囲んでいた人垣が突発的な大雨に揺れる。 固まりの外側の方から慌てて雨宿りできる場所を求め、蜘蛛の子を 散らすようにばらけていった。 もちろんそれでもここに留まろうという者も大勢居たが、人の壁に綻びが出るのにそう時間 は掛からなかった。  上条はそれを見逃さない。 当麻「行くぞ!」 美琴「ふぇ? う、うん」  美琴の体を右手で抱き支えたまま僅かな隙間に突進し、邪魔な人間をほとんど突き飛ばすような勢いで駆けだした。  人混みを抜けると今度は右手を美琴の手に持ち替える。  屋台に沿うとまだまだ人が多くて逃げにくいと判断し、そこから横に外れる。 当麻「げっ、追ってくるのかよ!?」  後ろの方に居て全く見えなくて不満だった人や熱狂的なファンはその二人を追った。 特に熱狂的ファンの方は必死の形相で 追っている。 もしかしたら彼氏をぶちのめすつもりかもしれない。 それほどの怒りが顔に満ちていた。 当麻「止まる訳にはいかねーか」  辺りが薄暗い事は上条に有利だったが、美琴が身につけているのは着物であり、さらに体に力が入らないのか全く速く走れず、 どうしても上手く撒く事が出来ない。 普段の美琴の駿足を知っているだけに上条は歯噛みする。 当麻(屋台の方で人混みに紛れた方が無難だったか?)  少し後悔したが無意味なことであった。  十数人の追跡者が後ろに迫る。 当麻「っあー、時に……美琴さん。 漏電の方は……直りました?」 美琴「ま、まだ、駄目……」  二人の弾んだ声が薄暗い境内に溶けて消える。 当麻「それじゃ……仕方ねーな」  美琴が自分の能力の制御を掌握する余裕は無いようだ。  上条は不本意ながら自分でも酷いと思えるような提案をする。 当麻「…………おんぶと抱っこ、どっちか選べ」 美琴「は、はは………じょ……、冗談、よね?」  屋台から離れた境内とは言っても通行人はちらほら見受けられる。  その中でおんぶや抱っこなんて行為をするなんて、誰だって恥ずかしすぎる。 当麻「裾捲くって、走る訳にも、いかねーだろ。 その……………ソレ、じゃ」 美琴「ばっ、ちょ、どこ見てんのよ!!」 当麻「んで、どっちだよ?」  このままでは追い付かれるのも時間の問題であった。  迷ってる暇も恥ずかしがってる暇も無い。 美琴「……………………………だ、抱っこがいい」 当麻「了解!」  上条は急停止すると、繋ぐ手を持ち替え美琴の後ろに立ち、彼女の左腕を自分の首に巻く。 そして膝の裏と背中を持って 勢いよく抱き上げ再び走り出した。 美琴「や、やっぱ下りる! 重いでしょ?」  上条はこめかみに血管を浮かせながら必死の形相をしていた。  いくら美琴が女の子で引き締まった体型をしているとは言え、身長は161センチメートルであるため体重もそれなりで あるだろう。 それを抱いて、しかも全力疾走というのは想像するよりきついはずだ。  だがそれでも上条は応じない。 当麻「うるせー全然軽いっつの!! それに、こっちの、方が、まだ速い、だろ?」  上条はゼーゼー言いながら無理矢理口端をつり上げて笑顔を見せてやる。  実際こっちの方が速いし、それに後ろの奴らに追い付かれるよりはこちらの方がマシとの判断である。   美琴「な、何よ。 一人で無理しちゃって………」  結果的に格好付けたようになってしまった上条の行為に、美琴は不平を漏らしつつもつられて微笑んでしまう。  漏電はまだまだ直りそうになかった。    ところで、そのイチャ付きっぷりを目の当たりにした熱狂的ファンが激怒し、走るスピードが跳ね上がったわけだが、その事 に二人が気付くのはこれよりまだまだ先の事であった。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第7章 帰省1日目 隠し事 美琴「ふぅ………」  美琴がラムネの瓶を置くと、ビー玉がコロコロと楽しげな音色で鳴った。 当麻「そろそろ完全に日が暮れそうだな。 寒くなってきたし合流するとしますか」  屋台から少し外れた辺りは既に夜の闇に包まれつつある。  吐く息も徐々に白くなってきていた。 美琴「そうね………っとその前に、私ちょっと外すからここに居て」  美琴は体温ですっかり温かくなった石の壁を勢いよく下りると、屋台の無い方向へと歩き出す。 当麻「お、トイレか? 俺も俺も」 美琴「…………アンタねえ」  いや、と首を振る。 上条にデリカシーを求めるなんて無謀すぎる。  二人は近場にあった巨大なゴミ箱に瓶やプラスチック製容器などを捨てると、こういう場所にしては案外綺麗な公衆便所へ と男女に別れて吸い込まれていった。 当麻(ふぃー。 しかし今日は随分と平和ですなー)  晴れ着を身に纏った好きな女の子と(上条的としては無事に)デートできているのである。 幸せ以外の何物でもない。  以前『この道は俺が歩く』と父に言い張った事のある上条としては、ずっと何も起こらないと言うのも複雑な心境ではある のだが、今は何か起これば確実に守るべき美琴を巻き込む。 何も起こらないのが一番であるのは当たり前だ。 当麻(神社にお参りしたのが効いた………わけねーか。 油断禁物だぞー上条当麻)  そんな事を考えつつ小便をし終え、手を洗い始めた時、突然どこからかバチン! という破裂音のような音が聞こえてきた。 当麻(美琴の電撃……何かあったのか!?)  周りの男達にもそれは聞こえていたようだが、その音が何なのか理解している者は上条だけであろう。  彼は素速く手を洗うと女便所の入り口まで駆けつけた。 当麻「おい、大丈夫か!?」  とりあえず名前を言わないよう気をつけながら叫んでみる。  さすがに一度電撃の音がしたくらいで飛び込むほど軽率野郎ではない。 美琴「ふぇっ!? だ、だだだだ大丈夫何でもない……………………ッてぎゃーこっち来んなーーー!!!」  再びバチーンバチーン!! という電撃の音。 当麻「?? わ、分かった行かねーよ」  さらに電撃を放つ音、それとパシャッ! と何やら水っぽい音、うぎゃー!! などと喚く声、そして静寂――――――  一応事件性は無いのだろうと判断した上条が入り口の外でそわそわしながら数分待っていると、うな垂れた美琴が手をハンカチ で拭きつつトイレからトボトボと出てきた。 当麻「お、おいどうした何があった!? そんな、まるで財布と携帯紛失した上に水たまりで転んで更に鳥のフン掛けられたような     絶望的な顔しちまって」 美琴「………………ふ、ふふ、別に、何でも……」 当麻「何でもないってこたねーだろ!? 能力も使ってたのに」 美琴「………………ホントに、何でも、無いのよ。 足の長い奴が二匹も同時に私目掛けてピョンピョン飛んできたってだけ。 ただ     それだけよ」 当麻「はあ?」  上条は大事ではないことに安心して詰めていた息を一気に吐き出した。  てっきり学園都市に敵対する勢力がトイレという無防備な状況下を狙って現れたのかと思ったのだ。 当麻「ったく虫ごときに電撃使ったのかよ。 あれだけ使えないとか言っておいて」 美琴「そうよどうせ私は虫嫌いよ悪かったわね」  幸いあの音が電撃で、目の前に居るのが御坂美琴だというのは誰にもばれていないらしい。 トイレの脇でこそこそと言い合い している二人に目を向ける者はほとんど居ない。 当麻「ん、そういえばヨーヨーは?」 美琴「………………電撃で破けた」  注意してよく見ると美琴の振袖は所々、特に太ももの辺りが濡れている。  上条がそれに気付いた瞬間、何故か美琴は体を捻ってそれを隠した。 当麻「? まあそう落ち込むなって。 ヨーヨーなんてまた取れるだろ? さっさと行こうぜ暗くなってきたし」  そう適当に元気づけ、上条は未だ無表情で真っ白になって落ち込んでいる美琴の手を握る。  しかし、 美琴「にゃうっ!?」  美琴は奇妙な裏返った声で叫ぶと、上条の手を振り払い後ずさった。 当麻「へ?」  上条は目を点にしつつ空中で手をニギニギする。 美琴「ご………、ごめん。 ほら、とととトイレ行ったばっかりだし、その、汚いじゃない?」 当麻「あ、あー。 あー? 手は洗ったんだろ?」 美琴「…………」  美琴は上条の不審な表情を無視して先に歩き出してしまった。  上条は理解もできずにそれを追う。 当麻(俺、何か不味い事言ったっけ?)  チラチラと窺い観察してみるが、特に何かに怒っている様子は無さそうだった。  いつもと違うところと言えば、上条と二人分以上の距離を開けて歩いているところ、目が泳いでいるところ、たまにもじもじ しているところ、両手を前で組んでいるところ、あと先程より生気が戻った顔が困惑した表情であるところくらいだろうか。 当麻(わけわかんねー)  上条は頭をクシャクシャと掻いた。 美琴「クシュッ!!」 当麻「ん、風邪? 寒いのか?」  予想外に可愛らしいくしゃみをした美琴に近づこうとするが、近づいた分だけ美琴は離れてしまう。 当麻「…………」 美琴「だ、大丈夫よ、だいじょ……クシュッ!!」 当麻「ったく、何が大丈夫だ、よッ!」 美琴「わっ、ちょっと!!」  上条は逃げようとする美琴に対し一気に大股で近づくと、左手で彼女の左肩を掴み強引に引き寄せた。 そして右手で髪を掻き 分けおでこを触る。 美琴「離っ、離しなさいよ………」 当麻「熱は……って冷てぇ、体も震えてんじゃねーか」  上条は美琴の要求を無視して自分のマフラーを彼女の首へと強引に巻く。  オレンジ色の振袖に青緑色のマフラーという酷いコーディネートであったが、震えている美琴を放っておくわけにもいかない。 当麻「これでよしっと。 つーかさっきからお前おかしいぞ、どうしたんだよ。 何か文句でもあるなら素直に言ってみそ?」 美琴「べ、べべ別に何も………とりあえず腕離して」 当麻「やだ」 美琴「何でよ」 当麻「お前が何か隠してるから」  肩を抱きながら歩くというのは上条的にも非常に恥ずかしい行為で、自分の頬がジワジワ紅潮していくのを感じたが、訳も分からず 避けられる事の方がずっと癪だったのでどうにか平然を装い離さない。 当麻「お前さ、以前俺に『隠し事するな』って言ったよな。 ………あれ、実は結構嬉しかったんだよ」 美琴「……いきなり何?」  上条は前だけ見据えて続ける。 当麻「周りを傷つけたくなくて、過去の俺自身を演じながら生きてきて……あ、俺自身がそれを望んだんだからそのことに文句は     無いんだけど。 でも、それでも、ほんのたまにだけど俺も疲れると思う事があるんだ、心の底にある物を吐き出したい事     もあるんだよ。 だから、お前がああ言ってくれた事は本当にありがたいと思った。 俺の記憶喪失を知る事でお前に辛い     思いをさせたのは物凄く嫌だったけどさ、その反面俺の一部は救われたんだよ。 …………つってもまだ全てを話せる自信     はないけどな」 美琴「………………」  肩を抱く手の力が少しだけ増す。  しかしその口調はどこまでも優しげで、子供をあやす親のように柔らかであった。 当麻「それだけの理由ってわけでもないんだけど、そういう風に言ってくれた奴が俺に何か隠して苦しんでたら、辛くて、居ても     立ってもいられなくなるんだよ、分かるだろ? 打ち明ける事で余計美琴を苦しめるっていうなら聞かないけどさ、もし     変なところで俺に遠慮してるとかなら、そういうのは止めにしようぜ?」 美琴「…………わ、私が遠慮なんてするわけないでしょ」  美琴は視線を逸らし呟くように言う。  とすれば自ずと前者、『打ち明ける事が美琴を苦しめる』になるだろう。  すなわち上条の出る幕はないという事だ。 当麻「そっか」  それなら仕方ないので上条は美琴から手を離そうとする。  しかしそれを待たずに美琴が小さく叫んだ。 美琴「でも分かったわよ!! 話す、話すって。 大したことじゃないのにアンタ心配しすぎ! このまま言わないと変な勘違い     して悩み出すつもりでしょ?」 当麻「いや、それは………………まあ、そうかも」 美琴「はぁ」  美琴は一度溜息を付いて俯き、周りの雑音に掻き消されそうなくらい小さな声で話し出す。 美琴「………………さ、さっき、と、トイレで電撃使ったら…………、ヨーヨーの風船が、破けたのよ」 当麻「それ聞いた」 美琴「黙って聞け! ………………そ、その中の水が、掛かった、のよ………………、下着に。 完全、クリーンヒット」 当麻「……………………」 美琴「それだけ」 当麻「………………へ?」  それっきり、美琴は俯いたまま動かない。  気がつけば二人の足が止まっていた。  上条は思い出す。 美琴がいつも穿いている短パンはオレンジジュースが掛かったため上条宅でまだ干している事を。  上条は思い出す。 美琴の着物で濡れていたのは確か太もも辺りだった事を。  上条は思い出す。 美琴はトイレを出てから寒そうにもじもじしていた事を。  つまり、そこから導き出される答えは一つ。 当麻「も、もしかしてお前、今ノーパ……ングァハッ!!」 美琴「言うなバカ!!」  上条の顎に美琴の重い右アッパーが炸裂した。 高校一年男子の体が宙にふわりと浮く。  地面に落ち行く間に上条は心の中で叫んだ。 当麻(着物だから別に下着穿いてなくても問題は無いと思いますがいかがでせうかー?!)  問題の論点がかなりずれている気がするが、それだけ脳を揺さぶられて意識が朦朧としているのだ。  上条の体が細かい砂利の地面へ倒れる。  見えるのは真っ暗な冬の空――――――ではなく、何やら布っぽい物が顔を覆っていた。  上条は殴られる直前、咄嗟にそれを止めようとして美琴が持っていた小さなバッグを必死に握ったのである。 そして殴られた 事でバッグが引っ張られ、その口が開き中の物が飛び出し、奇跡的にそれが上条の顔面へフワリと舞い降りたのだった。 当麻「ん……何だこれ……良い匂い。 ハンカチ?」  薄れゆく意識の中、上条は何となしにそれを少しだけ摘み上げる。 ハンカチにしては妙に丸っこい薄黄色の布で、一部には 伸縮性があり、可愛い猫のキャラクターが描かれていて――――――  と、それが何なのかもう少しで思い出せそうになった瞬間、布と鼻筋の間から見慣れた青白い光が見えた。 美琴「ッわーーーーーーー!!? 見んなやクソバカーーーーーーーーーーー!!!」 当麻「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」  美琴の額からバチバチと雷撃の槍が放たれ、それが上条の右手へと吸い込まれる。 防げたのは本当に僥倖であった。  上条が倒れたままドキドキしていると、超高速で美琴がその布らしきものを掴み自分のバッグへと押し込んだ。  今度こそグレーの空が、呆然としている上条の視界を覆う。 ??「何、喧嘩? 能力者?」  そのついでに周囲の声も聞こえてきた。 ??「ってかあれ、もしかしてレールガンじゃね? 常盤台中学の第三位」 当琴「「あ……」」  二人の頭に「やっちまった」というワードが浮かぶ。  上条が飛びそうな意識を起こしどうにか頭を回復させ、急いで起き上がった時にはもう遅かった。  さっきまで参拝客は水が流れるように二人を避けていたのに、それが三人、四人と立ち止まり、やがて流れが滞り固まりとなる。 「誰?」「御坂美琴だって」「え、ウソどこ?」「誰だっけ?」「ほら大覇星祭だよ大覇星祭」「ホントだ可愛い」「何でこんな所 にいるんだ?」「髪型違うし他人のそら似だべ」「変装じゃない? さっき電撃出してたわよ」「本物だよ! 俺ファンだしすっげー テンションマックス!!」「あたし生で超能力者見たの初めてー」などと辺りが騒然とし始め、徐々にそのざわざわが大きくなって 一つ一つの発言が何を言っているか分かりにくくなってくる。  おまけに、「あの男は誰?」「彼氏? 兄貴って居たっけ?」「ジャーマネぽいな」「さっき肩抱いてたわよ?」「お揃いのお面 とかマジウケル」「彼女にあんなお面被せるとか最低だな」というような言葉と共に上条へ訝しげな視線まで投げかけられる。  それが僅か一分にも満たない出来事だった。  美琴の方を見ると顔を引きつらせたまま溜息を付いていた。 どう切り抜けるか考えているのかもしれない。  上条もこんな状況に慣れていないため、ここは美琴に任せるべきか、手を引いて走って逃げるか迷う。  そうこうしている内に、見るからに快活そうな着物姿の女子中学生三人組みが一歩先んじて楽しそうに美琴へと話し掛けてきた。 ??「あの、レールガンさんですよね!! 握手して下さい!!」 ??「私も私も!! あとサインお願いして良いですか?」 美琴「あ、はいはい握手ね。 えっとごめん、サインはちょっと……、ほら今オフだから」  そもそも芸能人ではない美琴に『オン』なんて無いのだが、そこら辺は適当に誤魔化したいだけだ。  一人が話し掛けると、周りで円を作り遠巻きに見ていた人達も堰を切ったように一歩踏み出し話し掛けてくる。 ??「あらー、可愛いわー。 写真撮っちゃっていい?」 美琴「ごめんなさい写真もむやみに撮られると困るんです」 ??「ねえね、みこっちゃん、あの子は彼氏? ふふ」 美琴「いえ………、従兄です」 ??「是非超能力見せてくれませんか?」 美琴「外での能力使用は禁じられてるので」 ??「うちの子レベル1から上がらないんだけど、何か良い方法教えてもらえなーい?」 美琴「えっと……」  特にオバチャン連中は積極的であった。  徐々に美琴と上条を囲む輪が小さくなっていく。 当麻(う、マズイぞこれ!)  上条はすぐに美琴の手を引いて逃げ出さなかった事に後悔する。  危機感を抱いた頃には既に遅く、人の流れが滞留し、もはや脱出不可能と言えるまでに分厚い人垣に囲まれていた。 それは 美琴に興味がある者だけではなく、混雑する中、突如道の真ん中にできた固まりに進行を阻害され立ち往生している人も相当数 居た。 そう言う人達が訳も分らず不平不満を発し、辺りは益々混乱の渦に陥る。  そしてとうとう『撮りまーす♪ カシャ』という携帯のカメラの音がどこかから聞こえ始める。 すると他の、特に美琴の位置 から遠い人が我先にと携帯カメラを取り出し、腕を高く上げて美琴の姿を撮り始めた。 辺りに緊迫感とはほど遠い様々な軽い ノリのシャッター音が響き渡る。 当麻(どうする!?)  上条から三・四歩程度離れている美琴の顔をどうにか窺うと、彼女も同様にチラチラと上条の方へと視線を投げかけていた。  目と目で意思疎通なんてそんな簡単にできるものではないが、その時確かに上条は理解する。 当麻(『助けて!! …………………………………私がブチギレる前に』か)  上条は意を決し人混みを掻き分けて美琴の手を取り、その反対側から出ようとするが、今度はそちら側の人に捕まってしまう。 当麻「ちょっと通してもらえませんか!!?」  大声を上げてみるが誰も気にしないし、気にしたところで彼らも抜け出す事が出来ない。 ??「やっべ、俺超好みなんですけど」 ??「てゆーかぁ、君も能力者? ひょっとしてレベル五? もしか四?」 ??「つかお前レールガンのカレシ? 俺もしかしてめっちゃすげー情報ゲットしたんじゃね? 他の奴らにメールしねーと!!」  パシャッ! と上条までフラッシュ付きカメラで撮られる。  相手はどこにでも居そうな不良のようだったが、別に彼らが何かした訳ではないので殴り倒す事も出来ない。 当麻「(だー! 悪意が無い集団ってこんな面倒くせーのか!?)」 美琴「(いいから愚痴ってないで、早く無理矢理にでも突破するわよ)」  二人は人の壁から隙間を探しどうにか潜り込む。 当麻「お、お願いだから通してくれ……」  しかし美琴を中心として人垣も動くのでどうにも出られない。 二人揃って圧縮される。  その上混雑がピークに達した事で、「押すな!」「痛い!」というような叫び声も上がってくる。 辺りは薄暗く、怪我人が 出るのも時間の問題だろう。 例え二人が脱出できたからと言って解決しないかもしれない。 美琴「(一旦放電して散らすしかないかしら)」 当麻「(ばっかやろ、それ余計混乱するだろ!? 将棋倒しになるぞ)」 美琴「(分かってるけど、他に方法が無いのよ)」  どうにも上手い案が思い浮かばないので、二人は兎にも角にも一旦出る事を目指す。 当麻「あの、通して………、もー通せっつのコラー!」  しかし、そこで事件は起きた。 美琴「ひゃうっっ!!?」 当麻「ぐ………どーした御坂?」 美琴「だ、誰かに撫でられた!」 当麻「撫で………られたッ!?」  上条の脳裏に『痴漢』というワードが思い浮かぶ。  これだけ薄暗い中密集していれば誰がどこを触ったところでばれないだろう。  その上、今美琴はパンツを穿いていないらしい。 そんな状態で一体どこを触られたというのだろうか。  上条は頭の中でブチッ! と何かが切れる音を聞いた。  彼は美琴の腰に右腕を回して自分の傍へ思い切り引き寄せると、半無意識に咆哮する。 当麻「うォォォおおおおおおお!! テメェら俺の美琴に気安く触ってんじゃねェェぇぇぇえええええーーーーーーー!!!」  いきなり豹変したその男の絶叫に、集ったファンのみならず立ち往生している人や屋台の大人達も唖然として振り向く。  ただ、それに一番驚いたのは彼に痛いほど強く抱かれた御坂美琴の方であった。  美琴は上条に密着したまま胸をバシバシと叩き彼の注意を引く。 美琴「(ってバカちがーーーう!! さ、触られたのは背中!! 背中を撫でられただけだってば!! くすぐったかったのよ!!)」 当麻「………………………………………………………………………………………はい?」  世界が制止したかのように思えた。  上条を中心とした数メートル圏内が、余りにも痛々しい静寂に満ちる。  ただ誰かがポツリと「何だやっぱ彼氏じゃん」と呟いたのが聞こえた。  上条は顔を真っ赤にしながら何か言おう、何か弁解しようと試みるが、口がパクパクと開閉するだけで何も出て来ない。  正直今すぐどこか高いところに上ってそこから飛び降りたいという衝動さえ覚えた。 美琴「(ちょ、いいから、恥ずかしがるのは後にしてよ、とにかくアンタ、腕、腕離し、て………………あの、だから、そんなに     強く、抱きしめられたら、気持…ち………が……………………ふにゃー)」 当麻「嗚呼、もう……………………ジーザス(訳:ああ神様のバカヤロー!!)」  上条は、さすがにそろそろ『ふにゃー』は無いだろうと高を括っていたがそれは甘かった。 トイレを出てからの美琴の様子を 考えれば予想は出来たはずだ。  とは言っても右手で抱きしめていたので電撃は漏れることはなく、不幸中の幸いな事に被害者は出なかった―――――― 当麻「えっと、御坂さん? しっかり自分で立って下さい御坂さん」  ――――――ただし約一名、不幸な男子を除いて。 当麻「あっはは、この御方たまに混乱して足腰が弱くなるんです。 つまり別に俺のせいってわけじゃなくて………………いえ、     だから何と言いますか、簡単に言うと、とにかくごめんなさいでしたー!!」  とりあえず弁解は早々に諦めて、全方位の全ての人に向けて謝罪してみる。  そこには衆人環視の中、体をふにゃふにゃにさせた学園都市の超電磁砲《アイドル》と、その娘が幸せそうにしな垂れかかって いる普通の男子高校生が佇んでいた。 電撃が出ていない分、第三者の視点からは単に『彼氏が何やら酷く臭い台詞で吼えたが、 御坂美琴はそれが超絶に嬉しかったらしく、ふにゃふにゃになりながら彼氏に抱き付いた』というようにしか見えないのだ。  彼にはもうどうしようもない。 足掻こうにも彼の周りを360度人垣が囲んでいるし、目を回しながら彼に寄りかかっている 少女はあてにならない。  右手を離すという暴挙に打って出る事も出来るのだが、彼はこう見えても一応善人のつもりであるのでそんなテロみたいな行為を する気も無い。 だから彼にはまな板の鯉を選択するより他無いのだ。 美琴のファンにフルボッコにされても文句は言えない。 当麻(もう、好きにしろ)  と、諦めかけたその時、神様《バカヤロー》が願いでも聞いてくれたのか、天から彼に贈り物が降り注いだ。 ??「やだ雨!!」 ??「うわ夕立か!?」  二人を取り囲んでいた人垣が突発的な大雨に揺れる。 固まりの外側の方から慌てて雨宿りできる場所を求め、蜘蛛の子を 散らすようにばらけていった。 もちろんそれでもここに留まろうという者も大勢居たが、人の壁に綻びが出るのにそう時間 は掛からなかった。  上条はそれを見逃さない。 当麻「行くぞ!」 美琴「ふぇ? う、うん」  美琴の体を右手で抱き支えたまま僅かな隙間に突進し、邪魔な人間をほとんど突き飛ばすような勢いで駆けだした。  人混みを抜けると今度は右手を美琴の手に持ち替える。  屋台に沿うとまだまだ人が多くて逃げにくいと判断し、そこから横に外れる。 当麻「げっ、追ってくるのかよ!?」  後ろの方に居て全く見えなくて不満だった人や熱狂的なファンはその二人を追った。 特に熱狂的ファンの方は必死の形相で 追っている。 もしかしたら彼氏をぶちのめすつもりかもしれない。 それほどの怒りが顔に満ちていた。 当麻「止まる訳にはいかねーか」  辺りが薄暗い事は上条に有利だったが、美琴が身につけているのは着物であり、さらに体に力が入らないのか全く速く走れず、 どうしても上手く撒く事が出来ない。 普段の美琴の駿足を知っているだけに上条は歯噛みする。 当麻(屋台の方で人混みに紛れた方が無難だったか?)  少し後悔したが無意味なことであった。  十数人の追跡者が後ろに迫る。 当麻「っあー、時に……美琴さん。 漏電の方は……直りました?」 美琴「ま、まだ、駄目……」  二人の弾んだ声が薄暗い境内に溶けて消える。 当麻「それじゃ……仕方ねーな」  美琴が自分の能力の制御を掌握する余裕は無いようだ。  上条は不本意ながら自分でも酷いと思えるような提案をする。 当麻「…………おんぶと抱っこ、どっちか選べ」 美琴「は、はは………じょ……、冗談、よね?」  屋台から離れた境内とは言っても通行人はちらほら見受けられる。  その中でおんぶや抱っこなんて行為をするなんて、誰だって恥ずかしすぎる。 当麻「裾捲くって、走る訳にも、いかねーだろ。 その……………ソレ、じゃ」 美琴「ばっ、ちょ、どこ見てんのよ!!」 当麻「んで、どっちだよ?」  このままでは追い付かれるのも時間の問題であった。  迷ってる暇も恥ずかしがってる暇も無い。 美琴「……………………………だ、抱っこがいい」 当麻「了解!」  上条は急停止すると、繋ぐ手を持ち替え美琴の後ろに立ち、彼女の左腕を自分の首に巻く。 そして膝の裏と背中を持って 勢いよく抱き上げ再び走り出した。 美琴「や、やっぱ下りる! 重いでしょ?」  上条はこめかみに血管を浮かせながら必死の形相をしていた。  いくら美琴が女の子で引き締まった体型をしているとは言え、身長は161センチメートルであるため体重もそれなりで あるだろう。 それを抱いて、しかも全力疾走というのは想像するよりきついはずだ。  だがそれでも上条は応じない。 当麻「うるせー全然軽いっつの!! それに、こっちの、方が、まだ速い、だろ?」  上条はゼーゼー言いながら無理矢理口端をつり上げて笑顔を見せてやる。  実際こっちの方が速いし、それに後ろの奴らに追い付かれるよりはこちらの方がマシとの判断である。   美琴「な、何よ。 一人で無理しちゃって………」  結果的に格好付けたようになってしまった上条の行為に、美琴は不平を漏らしつつもつられて微笑んでしまう。  漏電はまだまだ直りそうになかった。    ところで、そのイチャ付きっぷりを目の当たりにした熱狂的ファンが激怒し、走るスピードが跳ね上がったわけだが、その事 に二人が気付くのはこれよりまだまだ先の事であった。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)

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