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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/7スレ目ログ/7-121 - (2010/04/04 (日) 14:03:18) の1つ前との変更点
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春休みの初日、学園都市は雲一つない快晴だった。
御坂美琴は桜舞う公園のベンチで上条当麻を待っていた。
特に約束したわけでも無く、特に用があるわけでもなかったが、もはや習慣となった上条探し。
春休み中という事もあり、見つけたら声をかけて少しでも一緒にいたいと思う程美琴は上条に惚れ込んでいた。
そんな中、遠くの方で見覚えがあるツンツン頭が目に入る。
それは待ちに待った上条当麻の頭で、近づいてくるたびに胸がドキドキと高鳴ってくるのが分かる。
「(あぁ…ど、どうしよう。顔絶対に真っ赤になってるよ…うぅ……な、なんて声をかけようかしら…)」
しかし当の上条を見て美琴は真っ赤な顔を一瞬にして青くした。
なにやら上条の様子がおかしい。おかしいというか何にかに座りながらこちらに向かってくる。
上条は車椅子に乗っていた。
その左足にはぐるぐると包帯が巻かれており、左手にも包帯がきつく巻かれているようだ。
「ちょっとアンタ! ど、どうしたのよ一体!! 何があったの!? …まさかまたどっかに行くとか言うんじゃないでしょうね!?」
美琴はそんな状態の上条を見るなり、一気に駆け出して彼の前まで行った。
よく見ると上条の顔には絆創膏が何枚か貼ってあり、他にも生傷がいくつかあって痛々しい有様になっていた。
美琴は以前のように上条がまた誰かの為に戦いに行くと思い、車椅子の手すりの部分を掴んでその動きを止めた。
しかし、彼女にとって救いだったのが上条から返ってきた返事だ。
それは元気そうな声で、顔を覗くと顔色もいいみたいなので心底ホッとした。
「おぉ。御坂。どした? なんか用か?」
「あ、アンタね! 用が無くたって知り合いがそんな格好で出歩いてたら気になって話しかけるでしょうが!」
「あー、コレね。実は昨日猫助けようとしたら木から落ちちまってさ。まぁ猫は無事だったが俺は無事じゃなかった」
「……………………はぁ。何やってんのよ、ホントに。でも本当にこれからどこに行くとかじゃないのね?」
「あ? いや、スーパーに行くよ。その為に頑張ってここまで車椅子転がして来たんだから」
「そ、そう…よかった。本当によかったよぉ…うぅ…う、うぅ……」
「お、おいおい。何いきなり泣き出してるんだよ!」
上条が変な事件に巻き込まれて無い事に安心したのか、美琴は上条の太ももの上で顔を伏せて泣き出してしまった。
そんな美琴を見て上条は慌てる。いきなり泣き出したのもそうだが、自分の下半身に美琴が顔を埋めている。
この状況は、周りから見たらとても勘違いされやすい構図になっているのではないのか。
「だっ、だってぇ…安心したら……うぅ。涙、が……うぅ、う…」
「…ったく、おまえな。心配しすぎだっつうの」
「……あ」
上条は唯一まともに動く右手で美琴の頭に手を置くと、よしよしと優しく頭を撫でた。
頭に手を置かれた事で顔を上げた美琴は、顔を真っ赤にした泣き顔だったが、撫でられると嬉しそうに笑った。
そんな美琴を見て、上条は目に溜まった涙を指で払ってあげるとニコっと笑顔を見せる。
「落ち着いたか?」
「………もうちょっと」
「はいはい」
「うぅ…、また泣き顔見られた…」
「上条さんの中で、御坂さんの涙がどんどん安くなっていきますよ」
「なっ! 全部アンタの所為でしょうが! 人の気もしらないで自分だけ傷ついて!」
「す、すみません」
「はぁ…。いいわよ、もう。アンタが無事なら……それで」
「まぁ無事では無いんですけどね」
上条自身は記憶に無いが、インデックスと出会った頃にステイルとの戦いで学生寮の階段から飛び降りた事があった。
その時は特には大きな怪我はなかったが、今回はどうやら落ち方がいけなかったらしい。
左足と左腕の骨を完全に持っていかれて全治3ヶ月の重症だった。
しかし上条の命を幾度と無く救ってきた冥土返しを持ってすれば、春休み中には全快するくらいにしてくれた。
これより縮めてしまうと、人が本来持つ自己再生能力に影響があるらしい。
本来こんな状態なら一人暮らしなどまともに出来るわけがなく入院するはずなのだが、
彼の安らかな休息よりも不幸が勝り、病室はいっぱいだった。
上条は何とかなるんでと言って退院したらしい。
「で? 昨日怪我して夜はどうしたのよ。色々と不都合あったんじゃないの?」
「まぁ、まず料理が出来なかったからコンビニに弁当買いに行った」
「春休み中ずっとコンビニ弁当なんか食べてたら、アンタの財布が火を吹くどころじゃないんじゃないの?」
「そうなんですが…作れないし」
「あ」
美琴の頭の上に小さな豆電球が出た。
しかし彼女は電撃使い。そんな豆電球は一瞬にして電力を抑えきれなくなり粉々になってしまった。
まぁ何かいい事を思いついたらしい。
「(こ、これはチャンスだわ! この状態なら部屋に行って色々お世話するって言っても何も不自然じゃないし。何より家庭的なスキルを見せれる!)」
「あ、あのさ…」
「ん? どうした?」
「治るまで…私がアンタのお世話してあげようか?」
「…はい?」
「だから料理とか洗濯とか! 家事を手伝ってあげるって言ってんの!」
「とてもありがたいんですが…おまえも新学期の準備とかで色々忙しいだろ?」
「学年が上がるだけの春休みにどんな準備があるっていうのよ」
「まぁ、そうだな。でも…本当にいいのか? 俺マジでこんなだから何も出来ないけど」
「いいのいいの♪ アンタだって困った人は助けないと気が済まないんでしょ?」
「……やばい。なんか御坂さんにちょっとだけ惚れちゃいましたよ」
「んなっ!」
そんな上条の言葉に美琴は一瞬にして顔を赤くした。
表情をにやけないようにしているが、誰が見ても分かるくらいにやけているはずだ。
もちろん外見でそんな状態なら、内心はもう超電磁砲を全方位から撃たれたような衝撃を受けていた。
「(こ、ここコレは! い、いいいきなり好感度アップじゃないの!)」
「ほ、ほら! ほ、ほほ惚れるのはいいから今は買い物に行くんでしょ? 回復しやすい料理作ってあげるから行くわよ」
「ありがとー、美琴さーん」
「(さ、さささり気なく名前で呼んでるし。あぁ…こうして車椅子押して街中を一緒に歩くっていうのもいいわね。今のコイツには私しかいないわけだし♪)」
「えへへ…」
「ん? どうした御坂? 何か楽しい事でもあった?」
「わっ! こ、こっち向くな! 今は顔が大変な事になってるから!」
「はぁ? なんだよ大変な事って」
「いいから! ところでタダでお世話するというのは、いかに寛大な美琴さんでも少々腑に落ちないのよねー」
「……ま、まさか御坂さん。日給バイトみたいにしろとか言い出すんじゃ」
「お金の無いアンタにそんな事言わないわよ」
「じゃあなんでせうか?」
「簡単よ。これから私のこと美琴って呼んでくれればそれでいいわ♪」
「――――――へ? そ、そんなんでいいの?」
「い、いいの! それ以外は自分で色々頑張るから!」
「……? ま、まぁ…みさ、美琴がそれでいいなら上条さんとしては大万歳ですが」
「えへへ。ね、ねぇ。もう一回呼んでみて」
「美琴?」
「えへ…も、もう一回」
「美琴」
「ふにゃ…」
「…? 変な奴だな」
上条と美琴はスーパーで買い物をして寮に帰ってきた。
さすがにスーパーでは注目の的。
包帯ぐるぐる巻きの重症患者に、常盤台の制服を着た美少女が車椅子を押していたら誰だって目に止まるだろう。
しかし、恋は盲目というかそんな視線を美琴は全然気にしなかった。
好きな上条当麻に頼られて、この上なく幸せだったから。
上条の寮には幸いエレベーターがあり、それに乗れば自分の部屋がある階まで行ける。
問題は部屋に入る時で、車椅子に備え付けてある折りたたみ式の松葉杖を支えに入っていかなければならない。
「ほら。無理しないの。私が支えてあげるから」
「何から何まですみませんね、美琴さん」
「いいから。ほら、もっと体あずけてもいいよ?」
「お、おぅ」
そういって上条は少しだけ美琴に体をあずけた。美琴はそんな上条を頬を染めながら頑張って支えてくれている。
上条も美琴の優しさと柔らかさに赤くなってしまっていた。
「(うう…なにか。美琴さんの慎ましいなにかが当たっているような気がする…)」
「(あうあうあう。こ、こいつ…包帯の匂いしかしないけど…なんかとても気持ちいい…)」
そんなこんなで御坂美琴と上条当麻の春休み、ドキドキ!? 美琴お嬢のホームヘルパー大作戦!!! が始まったのだった。
ちなみに後付けの様だが、インデックスは小萌先生宅で春休みの間は住み込みで飯を食らうらしい。
上条がこの状態であるのは知らないし、春休みが終わるまで戻ってこないかもーとも言っていた。…うん。後付けじゃないよ?
部屋に入ると美琴は上条を支え手洗い等をさせた後、ベットへと座らせた。
そして車椅子をたたみ玄関に入れる。
その後美琴は、冷蔵庫の中に先程買った食材を入れて上条の右隣に座った。
もちろん彼のフリーな右手で頭を撫でてもらうために。
「どう? これならなんとかやっていけそう?」
「いや、なんとかなんてもんじゃないですよ。本当に感謝感謝です」
「い、いいのよ。それより私だってちゃんとアンタの支えになれるって気付いたでしょ?」
「あぁ。ちゃんと支えになってるよ。ありがとな、美琴」
「ふにゅ…」
美琴は名前+頭なでなで攻撃に完全に顔が緩みきった。とても幸せな顔をしている。
だから美琴は頑張る。この幸せな気持ちがずっと続くように。春休みが終わっても、上条が自分を頼ってくれるように。
…まぁしかし、とにかく美琴は今この瞬間の幸せを噛み締めようと、上条の肩に頭をあずけた。
「お、おい…」
「いいじゃない。肩くらい貸しなさいよー」
「何かおまえ今日は全然ビリビリしてこないな。怪我人だから?」
「そうねー。これ以上重症になられたらさすがに手に負えなくなっちゃうしね」
「普段もこれくらい優しかったらいいのにな、おまえも」
「え!? ……じゃ、じゃあいつも優しくしてたら意識してくれるの!?」
「い、意識って、…まぁ誰でも優しくされたら、ちょっとは気にかけるんじゃないのか?」
「そっか…そうなんだ。えへへ」
「あの…美琴さん? そろそろ離れてくれないと、上条リミッターが解除されてしまうんですが」
「……したらどうなるの?」
「そ、それは色々…美琴さんが大変な事に……って! 何を言わせますか!」
「ねぇ? どうしたいの?」
「お、おい…みこ……」
「ねぇ…」
「か、顔…ちか…」
「聞かせて?」
「あ、あうあう…お、俺……あの…」
「…………なぁ~んてね♪」
「――――――――――――――――――――はい?」
「あっはっは! 顔真っ赤にしちゃって可愛い奴! うりうり」
「て、てめぇ…純情な男心を弄びやがって……」
「弄んだなんて人聞きが悪いわね。今までのツケをはらっただけだわ」
「なんだよツケって…」
「私もうウジウジするのやめる。素直になる。自分のやりたい事やるって決めた」
「そ、それはとてもいい事だと思いますが…、上条さんは」
「いいの。この春休みの間で絶対に絶対に絶ぇぇぇっ対に、その気にさせてみせる」
「もうさっきので半分その気だったんですが…」
「あら。それじゃもう落ちるのはすぐそこね。迫られるのが弱いとか、いい事を聞いたわ」
「やべぇ。何この圧力。美鈴さんの面影を感じる」
「母子だもん。その辺りは似てるのかもね?」
「何でもいいけど、こっちは怪我人なんだからお手柔らかに頼むぜ?」
「じゃあさっさと私を好きになる事ね♪」
何かを吹っ切った御坂美琴は凄かった。鈍感大王の上条も分かるくらいに、これまで以上に上条へアタックしてくる。
そんな上条はフラグ男と言われているが、実際は女の子の体にタッチ的なイベントでさえ顔を赤らめてしまう純情な男の子。
そんな彼がちょっとでも意識をし出そうものならこれから先は予想がついた。
美琴も自分に後悔しないようにどんどん攻めてくる。春休みが明けるまであと2週間。
はたして上条は何日間美琴の猛攻に耐える事が出来るのか。それは上条自身が一番良く分かってしまっていた。
「(はぁ…、もはや今夜辺りにも間違いを起こしそうだ…)」
美琴は十分に上条を堪能したのか、立ち上がり台所へと歩いていった。
途中でエプロン借りるわよといい、今は鼻歌混じりで料理をつくっている。
料理の手際はよく、とてもお嬢様とは思えないほどの腕だ。
上条はさっきの事も相まって、すっかり美琴から放たれる好き好き電波を受信し、ぽけーっと見入っていた。
時々美琴が上条の方を向くが、それに上条はビクッとし慌てて顔を逸らす。
そんな上条を見て美琴は満足気な顔をして料理に戻る。
何故ならそれらの行為は、美琴が今まで上条に対してしてきた事であり、相手を意識したいけど恥ずかしすぎてまともに見れない
というまんま恋する乙女そのものだったから。
「(ふふん。上条当麻破れたり! あとはこの愛が沢山詰まった料理で止めというところね!)」
美琴が小さく笑う度に上条は打ち震える。この先待っているであろう未来を想像しながら。
もちろん今の上条にとっては恥ずかしいが、嫌ではない未来なのだが。
「出来たよー」
「おぉ。待ってましたよ、美琴…さ、ん?」
「なに? どうしたの?」
「こ、この料理の完成度はなんでせうか? 上条さん、こんなのテレビとかでしか見た事ないんですが」
「ん? こんなの常盤台の子なら誰でも作れるわよ。授業で習うんだもん」
「マジかよ…どんだけお嬢様なのかっつーね」
「問題は見た目じゃないわ。味よ!」
「そ、それは見た目が悪い時に使う言葉であってですね…この完璧な見栄えの料理に言うことでは」
「まぁまぁ。なんでもいいから早く食べましょ♪」
「そうだな。もう食いたくて食いたくて上条さん辛抱たまりませんわ…って、アレ?」
「…? どうしたの?」
「………ふ、美琴よ。おまえは料理に集中するあまり肝心な事を忘れているようだな」
「な、なによ! 何か気に入らない事でもあったって言うの!?」
「気に入らないっつーか…箸がねぇんだけど」
「あぁ。そんな事」
「そんな事って箸無かったら食えねぇだろうがよ。それともアレですか? 素手で食えって事ですか?」
「お箸なら私が持ってるよ」
「…………………………………………ん?」
「ほら、あーん♪」
「えええええええええ!!!???? い、いやいいですよ! 右手は使えるわけだし、何より恥ずかしい!」
「ふぅーん。……えい!」
「えっと…美琴さん? 何故に上条さんの右手を握っておられるので?」
「アンタ左手使えないでしょ? だから残った右手を封じればもう私に食べさせて貰うしか無いわね」
「こ、こいつ…出来るぞ! こ、これが……レベル5っ!」
「ほら。諦めて、あーん♪」
「うぅ…」
「あーん♪」
「ぅ…」
「あれ、箸じゃダメなのかな。じゃあしょうがない口移し―――」
「あ、あーん! 美琴すぐくれ! 今すぐ! もちろん箸で!!」
「わかればいいのよ。ほら。あーん♪」
「…あむ」
「おいしい?」
「……うめぇ」
「えへへ。そりゃそうでしょ。誰が食べても美味しいと思うけど、アンタだけは更に美味しいはずよ」
「んぁ?」
「だって私の愛が、たくさん詰まってるもの♪」
「――――――」
上条当麻の理性の壁。現在47%崩壊。ここ小一時間だけでこの崩壊率。
彼が本能の赴くままに行動するのは、そう遠くない―――
料理を全て食べ終え、美琴は食器を洗っている。その表情は幸せそうだったがちょっと不満なところもあるような。
美琴としては上条は先程の料理で完全に落ちるはずだったのだ。
しかしそこは上条の理性が勝った。何故理性と戦っているかというと、もちろん美琴が中学生だと言うところにある。
仮に美琴を受け入れ、付き合ったとしよう。しかしあのテンションじゃそれだけに止まらずに上条を求めてきたらどうするか?
完全に惚れたとなれば頭のネジが全部飛んで、気付いたら美琴は裸になっているだろう。そんな展開だけには持って行ってはいけない。
まだ全部に責任が取れる年じゃないし、純情の上条さんはそういう事は結婚前夜にするものだと思っていた。
そんな自分との感情に勝利した上条はテーブルに顔を伏せ微動だにしない。
先程の料理、一番の難関にして一番の楽しみ。
家庭の料理に飢えていた上条が一番欲していたのは、お味噌汁だった。
美琴もその事は重々承知だったのか、きちんと用意してくれた。しかし―――
問題は、その飲み方だった。左手は負傷中、右手は握られて使えないとなれば…美琴に飲ませて貰うしかない。
美琴は最初からいきなり飛ばしてきて、自分の口の中に味噌汁を飲んで溜め込むと「ん」と言って上条に唇を差し出した。
その様を見ていた上条は理性の壁を53%まで崩してしまったのだが、なんとか思いとどまり普通にしてくれと促す。
美琴もこれ以上は無理と思ったのか諦めて飲み込むと、今度はちゃんと茶碗を差し出してくれた。もちろん、ふーふーした後で。
そんなこんなで上条は精神的に大ダメージを受けつつも食事を取った。
しかしこれ以上にないくらい気疲れし、今はテーブルの上で無になっている。
「洗い物終わったわよ。っと、よいしょ」
「お、おぉ。ありがとな、美琴」
「全部食べてくれるなんて頑張って作った甲斐があるわね」
「ホント美味かったよ」
「…」
「…?」
「…」
「……なでなで」
「えへへ…、んん……」
もちろん美琴は『よいしょ』の時点で既に上条の隣に座って頭をあずけてきており、撫でて貰って満足気なのだ。
上条は…もう、何か色々ダメになりそうだった。撫でた後の美琴の笑顔で「あー、もう可愛いな! 畜生っ!」と言いそうな表情をしていた。
そんな幸せな時間はあっという間に過ぎて行き、気付けばもう美琴の寮の門限まで30分となっていた。
しかし美琴はと言うと全く帰る気を見せない。…と言うか時計を見ない。
ただ上条の肩に頭をあずけ、腕を取って話しているだけ。
「美琴」
「やだ」
「…………まだ何も言ってないんですが」
「どうせ『そろそろ門限だろ? 帰らなくていいのかよ?』って言うに決まってる」
「一字一句間違えない所が凄いな…」
「だから、いや。今日は泊まる。もっとアンタのお世話するの」
「えっと…気持ちはありがたいんですが、そんな事して美琴が叱られちゃ俺が嫌なんだよ」
「うー…、で、でもちょっとくらい遅れても黒子が入れてくれるもん」
「そんな事言わないで。今日はもう十分に世話になったから。また明日お願いするよ」
「………わかった。じゃあ起きたらすぐ来るから、合鍵ちょうだい」
「な、なんですと!? なんで? チャイム鳴らしてくれたら出るって!」
「怪我人は動いちゃダメなの。だから、ちょうだい」
「…わーったよ。………………ほら、失くすなよな」
「あは、うんうん。絶対絶対失くさない。アンタがこの部屋に住んでる限りね」
「あのな…」
「えへへ。じゃあ帰ろうと思うんだけど」
「うん?」
「離れても寂しくないおまじないやって欲しいかも」
「えっと…………ちなみに聞きますとそれは一体なんなんでせう?」
「もちろん、チュウよ♪」
「ち、ちう…だと」
「してくれないなら帰らないー」
「…くっ、しかし……それはあまりに度が過ぎるというかなんと言うか…」
「外国じゃ普通よ? こんなので恥ずかしがってるのは日本人だけなんだから」
「いや。きっと昨日のおまえもその中の一人だったよな、絶対」
「昨日の自分なんか知らなーい。時間は進んでるの。先に目を向けなきゃ」
「うぅ…」
「わかったわよ。じゃあほっぺでいいわ。それくらいなら出来るでしょ?」
「……ほっぺくらいなら。それでもかなり恥ずかしいですが」
「じゃ、どうぞ♪」
「――っ」
「ん…」
上条は美琴の頬にキスをした。軽く触れるだけのキスだったが美琴はとても幸せそうな表情をした。
そして頬を染めて上目使いで言い放つ。
「ありがと。じゃあコレは私のお礼♪」
「へ? ――――ん」
「――っちゅ」
「…」
「えへへ。また明日ね♪ バイバイ」
そう言い残し美琴は帰っていった。
残された上条はしばらくフリーズし、我に返ったかと思ったら某テレポーターの様に額をテーブルに叩きつけ煩悩を退散しようと試みる。
しかし、とてもじゃないが無理だった。
頬のキスなんかとは比べ物にならない程、甘く、熱いものだったから。
上条当麻の理性の壁。現在77%崩壊。春休み1日目終了。
残り23%で約2週間持ちこたえられるのか? 答えは、否。上条は感じていた。
もしかしたら明日にでも御坂美琴の完全なる虜になってしまうのだと。
翌日。時刻はもうすぐ7時になろうとしていた。
普段学校がある日なら上条も起きる時間だが、昨日から春休みという事で目覚ましを切っていた。
インデックスがいない事で、久しぶりのベットでの睡眠に上条はすっかり寝入っている。
上条のベットの上には薄い毛布と厚めの掛け布団があったが、なにやら暑いらしく毛布を引き剥がした。
しかも何やらいい匂いまでする。その匂いに反応に上条は起き上がろうとするが全然体が上がらない。
そういえば左の腕と足を骨折していたのだと思いだす。
しかし、動かないのは左側だけだ。右手右足は動くはずだが…
上条は恐る恐る自分の右側を見ると、まず最初に目に入ったのは茶色の頭だった。
「……………これ、は」
「あ、起きた?」
「みさ、み、みこ…と? なにを…」
「うん? おはよう」
「お、おはよう…ございます? ってそうじゃねぇ! 何でおまえが布団の中で俺に抱きついてるのか」
「寒かったから」
「…あのな。いいですか美琴さん。ちょっと離れて正座しなさい」
「いや」
「い、いやって! そこから否定されたら上条さんは何も出来ないんですが?」
「じゃあ離れてもいいわ。その代わり」
「…よもや?」
「ん」
「いやいやいや!! そんな事したらお説教が出来なくなるでしょうが! いいから離れなさい!」
「してくれなきゃ離れませーん」
「ぐっ…、でも…」
「いいじゃない昨日もしたんだし♪ まぁ、私としてはずっとこのままでもいいけどね」
「…わ、わかりましたよ。じゃあまたほっぺに…」
「いや」
「はいぃぃぃ? み、美琴さんは何をお望みなのでせう?」
「ほっぺじゃ、いや」
「ぶ! お、おまえ…それは……」
「…ホントにいやなら諦めて離れるけど」
「……い、いやじゃない、けど」
「あは。素直じゃないわねー、アンタも♪」
上条は美琴に完全に丸め込まれていた。
美琴は上条の首に腕を絡ませると、真っ赤な顔をしながら目を閉じた。
上条と美琴の距離は、もう鼻が触れるような位置まで迫っている。
しかし、そんな美琴を見て上条は理性の壁が少し壊れたが、それ以上に罪悪感に駆られる。
「おまえな。そんな無理しないでもいいん――」
「無理なんか、…してない」
「嘘つけよ。唇めちゃくちゃ震えてるじゃねえか」
「だって…心配だから」
「は? 上条さんは今はこんなナリしてますが、全然治るんだから大丈夫だって」
「だから、心配なの。治ったら、またどこか行っちゃいそうで」
「美琴…」
「…」
「まぁ確かに、俺は治ったらまたどこか行くかもしれない」
「っ…」
「でも絶対に帰ってくるから心配するなって」
「なんでそんな事言い切れるの? 絶対帰ってくるなんて」
「大丈夫」
「なんで?」
「俺はなんつったって、都合のいいヒーローだからな」
そう言って上条は美琴の唇にキスをした。美琴はその瞬間こそ目を見開き驚いたが、やがて眼を閉じ、上条を感じる事に専念する。
上条のキスは昨日の頬にしたようなキスではなく、美琴が安心できるような甘いキスだった。
その甘さに美琴は完全にやられて、上条が唇を離そうとすると、首に絡めていた腕で頭をホールドし何度もキスをする。
上条は官能的な気分になったが、理性の壁は崩れなかった。
それは美琴の唇から伝わる愛と信頼を感じたため、それを返すように、安心を与える事に集中していたから。
「…もぅ、朝から激しいんだから」
「えっと美琴さん? この部屋ではいいけど、外では決してそういう事言ってくれるなよ?」
「いいじゃないー。惚気っぷりを見てもらうのも」
「あぁ…あのモジモジしてた美琴ちゃんはどこにいっちまったんだ……」
「私ってば典型的なツンデレキャラだと思わない?」
「いやデレすぎだろ。ちょっとはツンしろや。こっちが持たねぇから」
「気が向いたらね」
「…向く気ねぇな」
「そんな事より、アンタ今日暇でしょ?」
「あぁ…こんな状態だし、宿題もないし」
「じゃあセブンスミストに買い物に行かない? 車椅子押してあげるし、一日中部屋の中にいることも無いでしょ?」
「ああ、いいよ。部屋にいてもやること無いから」
「えへへ。じゃあ決まりね♪ ささっ、着替えた着替えた。すぐ行くわよ」
「はいはい」
朝食を取り終わり、少し食休みしていたら美琴が買い物に行きたいというので上条はそれに付き合う。
周りから見たらそれはカップルもしくはとても仲のよい兄妹。美琴は制服を着ているので夫婦には見えないだろうが。
それでも美琴は楽しそうに車椅子を押しながら歩く。
上条も背後から聞こえる鼻歌を散歩のお供にし、気持ちよく移動を楽しんでいた。
「そういえば、私まだアンタに好きって言われてないんだけど」
「そういえば、俺もまだおまえに好きって言われてないな。愛とか何とかは散々言われた気がするけど」
「そうだっけ? …ま、いっか」
「そうだなー」
「えへへ」
「はは」
上条の寮を出たのが9時過ぎくらい。
途中いつもの公園で桜を楽しんだ2人はセブンスミストに着いたのが11時くらいだった。
美琴は買うものは決まっているらしく、他の物には見向きもせずに歩いていった。
「なに買うか決めてんのか?」
「うん。エプロン買うの」
「エプロン? おまえの寮、飯は出るんじゃなかったっけ?」
「出るわよ。そうじゃなくてアンタの部屋で使う用に買うの」
「ふーん。俺の使えばいいのに、昨日も使ったんだからさ」
「それでもいいんだけど…可愛くないし」
「女の子だなぁ」
「知ってるくせに」
美琴はエプロン売り場に向かうと、そこには色々なエプロンが置かれていた。
上条はエプロン達を見て、自分じゃ一生使いそうにない使いそうにないなと思って美琴を見る。
そんな美琴は目をキラキラさせて一個一個自分に合わせて「どう? 似合う?」と聞いてくる。
上条は溜息を吐きつつも全部に答える。
結局美琴はピンクのフリル付きのエプロンを購入した。
買う前に美琴の好きなゲコ太がプリントされているエプロンを見つけたが、しばらく悩んでフリルの方にした。
上条は何でゲコ太エプロンにしなかったのか分からなかったが、その理由は後日知る事になる。
買い物が終わると、正午を回ったところでクレープを買って帰る事にした。
「アンタ何がいい?」
「んー、チョコバナナ」
「わかったー。買ってくるからここで待っててね」
美琴は桜の木の下に上条を待たすと、クレープ屋の車に走っていった。
上条は桜の木を見上げると、心地よい春風が流れてきてウトウトしてしまう。
しかし意識が切れそうになると美琴の声が聞こえたので顔を向けた。
…とそこには美琴の他に、上条には見覚えがない女の子2人が美琴の隣に立っていた。
「…?」
「御坂さんが待たせてる人ってこの人だったんですか!?」
「うん、そうよ」
「おー、男ですか。さすがです! 御坂さんっ!」
「???」
上条はこんな展開に混乱してしまい、美琴に助け舟を出そうとする。
「美琴…? この人たちは?」
「キャー! 美琴だって! 聞きました? 佐天さん!?」
「聞いた聞いた! 確かに聞いた!」
「あの…」
「あ、は、はじめまして。私御坂さんの友達の初春飾利と」
「さ、佐天涙子ですっ! あの失礼ですが、お2人はどういったご関係で…?」
「か、関係つってもなぁ…」
「…あれ? 彼氏じゃないんですか?」
「やーねぇ、佐天さん。コイツは彼氏じゃないわよ」
「え?」
「えぇ!?」
「おい、みこ――」
「コイツは彼氏じゃなくって、私の旦那様なの♪」
「え…?」
「……ん?」
「なん…だと……」
上条と美琴は初春達と別れると、寮に向かって帰っていた。
さっき買ったクレープを頬張りながら歩いている。チョコバナナ美味し。
しかし上条は溜息を吐いた。美琴が自分の事を旦那と言うもんだから、初春達に質問攻めにされ1時間くらい動けなかった。
やっと開放された頃にはクレープのクリームがとろっとろになっていた。
「おまえなー、いいのかよ。あんな事言っちまって」
「私は全然いいけど。…もしかして嫌だったの?」
「いや、俺はいいけどさ。変な噂たっても知らねぇからな」
「アンタとの噂なら大歓迎よ。これで堂々と一緒にいられるようになるしね♪」
「俺はその噂が広がらない事を願うよ。常盤台のお嬢様を娶ったなんて確実に他の男達に殺されかねん」
「大げさねぇ」
「おまえはもっと自分の立場的な事を考えるんだな」
「あら。そんな事言っていいの? その男達がみんなアンタに向かってくるわよ? 誰が止めるのかしら?」
「す、すみませんでした」
「ん。よろしい。明日ちゃんと初春さん達には話しとくからさ。だから明日は夕方にならないと行けないと思う」
「あぁ大丈夫だ。明日は丁度補習だし、どっちみち夕方にならないと部屋にいない」
「1人で準備出来る? 朝だけでも私行こうか?」
「いいよいいよ。でも一個だけお願いしたい事がある」
「いいわよ。なに?」
「お金渡すからさ、何か食材とか買ってきてくんない? もう今日の分で無くなっちゃうから。帰り1人で寄るのもつらいし」
「おっけー。任せといて。早く帰ってきてね? 私もなるべく早く行くから」
「ああ」
その後、上条の部屋に帰った2人は夕食を済ませると昨日みたいに話をして、美琴は自分の寮に帰っていった。
もちろん昨日の帰り際のやりとりも忘れずに。
上条当麻の理性の壁。現在81%崩壊。春休み2日目終了。
今日は外に遊びに行ったせいかそれほど理性は崩壊しなかった。
明日も美琴とはあまり一緒にいる時間が無いから、そんな崩壊はしないだろう。
しかしおかしい。今日の美琴は上条のエプロン姿だった。何故か? その理由を鈍い上条は知らない。美琴は例のアレをするつもりだ。
美琴とエプロンが交差する時、上条の理性は崩壊する―――
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