とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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匿名ユーザー

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Let's_do_something!


 10月になって1週間ほど経った、とある放課後。美琴、白井、初春、佐天の仲良し4人組は、いつものファミレスに集まっていた。
 いつもと同じ他愛もない話が続く中、変化は突然訪れる。

「ところで皆さん。今月の重大なイベントを覚えていますか?」
 突然、佐天がそんなことを言い出した。
「一端覧祭なら来月ですわよ」
 紅茶を片手に、白井がつまらなさそうに答える。
「そろそろ準備が始まりますわね」
「違いますよー。まぁそれも楽しみではあるんですけど……」
 佐天は興奮を押し殺したような声で話を続ける。
「そうじゃなくて、ほら。もっと世界規模に有名な行事があるじゃないですか」
「何かと勘違いされているのではなくて?」
「そんな行事あったかしら……?」
「いえ、特にはないはずですよ?」
 美琴と初春も白井同様、佐天の言う「重大なイベント」には全く心当たりがなかった。
 大覇星祭の次は一端覧祭、これが学園都市に住む者にとって常識と言える秋の二大イベントである。

 答えられない3人に痺れを切らした佐天さん。
 もう我慢ならん! とばかりに、バンッと勢いよくテーブルを叩いて立ち上がり、

「ハロウィンですよっ!!」

 目を輝かせて言い放ったその大声で、周囲の視線を一気に独占してしまった。


「10月と言えばやっぱりハロウィンですよね! さて、何します!?」
 顔の前で拳をぐっと握りしめ、佐天は瞳を輝かせる。
「何をするかはともかく、佐天さん。まずは落ち着いてお座り下さいな。店内の視線を独占中ですわよ」
「へ?」
 白井の冷静かつ的確な指摘に、佐天は我に返って店内を見回す。
「……あー、どうもお騒がせしてすみません」
 周囲に向かって軽く頭を下げて、佐天が席に座り直す。恥ずかしさで頬が紅潮しているが、無理もないだろう。

 店内がいつも通りの雰囲気を取り戻すのを見計らって、美琴が口を開いた。
「で? ハロウィンだけど、佐天さんは何かしたいことでもあるの?」
「え!? あ、いや具体的にはまだ何も……でもせっかくのイベントですし、何かしたいって思うんですよねー」
 考える前に行動するタイプ、佐天涙子。何事もやってみなきゃ始まらない、というのが彼女の持論である。
「まぁ、ハロウィンは日本独自のイベントではありませんものね。習慣のないことはなかなか思いつきませんわよ」
「黒子の言う通りね。ハロウィンかぁ……」
 美琴も考えてはみるが、学園都市第3位だからと言って何か名案が浮かぶわけでもない。
「うーん。何かいい案ないですかね……」
 一休さんのように考え込む佐天さん。しかし、やはり何も浮かばない。意味もなくカボチャのお化けがたくさん思い浮かぶばかりだ。

 そんな佐天を現実に引き戻したのは、初春の明るい声だった。
「じゃあ今からみんなでセブンスミストに行ってみませんか?」
「セブンスミスト?」
「はい。ちょうど昨日からハロウィンフェアが始まったんです。そこに行けば何かいい案が浮かぶかもしれないですよ」
「それだっ!!」
 初春に向かって、佐天が勢いよく親指を立てる。
「ナイス提案だよ初春! さすがは私の親友だねー♪」
 しかし、そんな楽しそうな佐天と対照的なのが、一人。
「あー……そういえばそうでしたわね」
 白井が放った何気ない一言に、美琴が意外そうな顔で反応した。
「あれ? アンタ知ってたの?」
「ええ。まぁ……」
 白井は少しげんなりとした様子で答える。
「セブンスミストがハロウィングッズを大量入荷して特設コーナーを設けていると……婚后光子が行ってみたいと騒がしく申しておりましたの」
「ふーん。婚后さんがそんなこと言ってたのね……」
 それってもしかして黒子と一緒に行きたいっていうラブコールだったんじゃ……?
 と思わなくもないが、白井の機嫌を損ねるかもしれないので口にはしない。
 佐天と初春も同じことを思ったようで、3人は顔を見合わせて苦笑する。3人が思うに、白井と婚后はなんだかんだでいいコンビだ。


 それから約15分後。
 全員が飲食を終えたところで、待ってましたとばかりに佐天が立ち上がった。
「じゃあ、みんなでセブンスミストへ行きますかっ!」
「そうね。そろそろ行きましょうか」
 しかし、一人だけ何故か動こうとしない者がいる。
「……初春さん、まだ食べるの?」
 そこにはメニューを食い入るように見ている初春が座っていた。
「はっ!! べべ別に私はパンプキンタルトの追加注文なんて少しも考えてませんからね!?」
 慌ててメニューから顔を上げて、初春があたふたと弁解する。
「いや、もう白状しちゃってるし」
「本音がだだ漏れですの」
 さすがにインデックスよりは劣るものの、初春の甘い物に対する食欲は学園都市でもベスト10に入るのかもしれない。
 高度な情報処理能力も然り、なかなか奥が深い少女である。
「っ!? もう私のことはいいですから、早くセブンスミストに行きましょう! さあ!」
 そそくさと席を立つ初春に続き、3人もレジへと向かった。

 店を出て4人がセブンスミストへと歩き出した、その時である。
 ブルルルル ブルルルル……
「あら、固法先輩からですわ」
 マナーモードにしていた白井の携帯が鳴った。
 風紀委員関係かもしれないので、素早く電話に出る。
「はい、白井ですの。……ええ、初春もここに。……はい」
 3人が見守る中、白井の表情はだんだん真剣なものに変わってゆく。
「……わかりましたわ。10分ほどで合流出来ると思いますの」
 話し終えた白井は携帯をポケットにしまい、申し訳なさそうに告げる。
「呼び出しですわ。至急、固法先輩と合流しなくてはなりませんの」
「何か事件?」
「そのようです。申し訳ございませんがセブンスミストへはお姉様と佐天さんで……私と初春はここで失礼致しますの」
 鞄から取り出した風紀委員の腕章を付け、風紀委員モードへ切り替わる白井。
 そんな後輩を頼もしく感じて、美琴は微笑む。
「そう。私たちのことは気にしなくていいから早く行きなさい。固法先輩が待ってるんでしょ?」
「ええ。それでは後ほど連絡致しますわ。初春、行きますわよ」
 白井が初春の腕を掴む。
「あ、はい! すみませんが、行きますね」
 初春が佐天と美琴に向かって軽く頭を下げた直後、風紀委員2人は忽然と姿を消した。白井の空間移動である。

「風紀委員も大変ねー」
「そうですね」
 慌ただしく行ってしまった友人を思い、残された2人は呟いた。
「どうする? また今度4人で行ける時にでも行く?」
「んー、せっかくだから2人で行きましょうよ」
「そうね。そうしましょうか」
「そうしましょうそうしましょう♪」
 顔を見合わせて笑う2人の中学生。
 美琴と佐天は仲良くセブンスミストへと歩き出した。


 セブンスミストの催し場に着いた佐天と美琴を待っていたのは、オレンジ・黄色・黒の3色を基調にした賑やかなハロウィンフェアの会場だった。
 2人と同じく学校帰りと思われる学生がたくさんいる。
「結構広いし賑わってるわねー」
「そうですね。なんかわくわくしてきましたっ」
 魔女やコウモリの可愛い絵柄が入った小物やお菓子、魔女やヴァンパイアを始め多種多様に取りそろえられたコスチューム。
 どこから見て回ろうか悩んでしまうくらい会場は広く、様々なハロウィングッズが揃っていた。
「あ、御坂さん。こっちに案内図ありますよ」
 佐天が案内図の前に駆け寄って、美琴を呼ぶ。
「どこから回りましょうか?」

 2人が案内図の前で立ち止まっていると、不意に聞きなれた声が聞こえてきた。
「あら、もしかして御坂様と佐天さんではございませんか?」
「「へ?」」
 振り返ればそこには、湾内と泡浮が立っていた。美琴の後輩にして、水泳部所属のお嬢様である。
「あーっ! 湾内さんに泡浮さんじゃないですか。お久し振りですっ」
「はい。佐天さんもお元気そうで何よりですわ」
「お会いするのは夏休み以来ですわね」
 ふふふ、と微笑む2人。まさに世が持つ「常盤台のお嬢様」のイメージそのままな少女である。
「こんな所で会うなんて奇遇ね。2人で来たの?」
 答えを何となく予想しながら、美琴はにこやかに問い掛ける。
「いえ、私たちは……」
 しかし、湾内が言い終わる前に、その「答え」は現れた。
「あら、御坂さんではございませんの。このような所でお会いするなんて奇遇ですわね」
 豪奢な扇子を片手に堂々と、ちょっと上から目線で言い放つ高飛車な少女。
 湾内と泡浮の後方から現れたその人物は、美琴が予想した通り、婚后光子その人であった。

「やっぱり3人で来てたのね」
「はい。お昼休みに婚后さんが誘って下さったんです」
「とっても楽しそうなイベントがあるから一緒に行きましょうって」
 水着モデルの一件以来、婚后たち3人はとても仲が良いようだ。そう、美琴と佐天たちのように。
「婚后たちもハロウィンに何かするんですか?」
「そうですわね……何かしてみたいような気はしますが、今のところは何も決めていませんわ。佐天さん、あなたは何かご予定がおありになるの?」
「いえ、全くです。でも何かやりたいなぁって思って……それで今日は御坂さんとこうして、ヒントを求めてやって来たってわけです」
「まぁ、そうなのですね。でもお会い出来て本当に嬉しく思いますわ」
「そう言えば初春さんや白井さんは、今日は一緒ではありませんの?」
「初春も白井さんも、さっき風紀委員の仕事で呼び出されちゃったんですよ」
「あら、どうりで白井さんがいらっしゃらないわけですわ」
 美琴はともかく、佐天と婚后たちが会うのは水着モデル以来のこと。5人はそのまま他愛もない話に花を咲かす。
 例外は多々あるが、基本的に女の子はお喋りが好きなのだ。


 そういう訳で、5人は一緒にハロウィンフェアを楽しむことにした。
 しかし、仮装コーナーへ差し掛かったところで、5人の和気あいあいとした雰囲気に変化が訪れる。
「……どうしたんですか、御坂さん?」
「へ? あ、いや、何でもないわよ。うん、別に何でも……」
 美琴の様子が変なのだ。急にそわそわし始め、辺りをキョロキョロ見回している。
「何でもとは仰いますが、御坂さんあなた顔が赤くてよ。熱でもおありなのではなくて?」
「ふぇ!? いや、本当に何でもないわよ。気にしないでっ」
 心配そうに美琴の顔を見る佐天たち。
 美琴はぎこちない笑顔でそれに応えた。


 時は少しだけ遡り、佐天が美琴に声を掛けるちょっと前。
 5人で和気あいあいと会場内を歩いていた美琴は、あることに気が付く。
(……あれ?)
 何だかよく知っている声が聞こえる気がするのだ。よく知るどころか、最近美琴が毎晩夢にまで見る、あの少年の声が。
 しかし、辺りを見回しても少年の姿は見当たらない。
(……空耳かしら?)
 気にするべからず。そう思ってはみるが、やはり声が聞こえる気がしてならない。
(や、やだ……私とうとうアイツの幻聴まで聞こえるようになっちゃったの!? ああもうどうしよう……)
 最近、美琴の恋の病は深刻化していた。
 毎晩夢には出てくるし、そのせいで朝から白井に「あの寝言はなんですのー!?」と詰め寄られることも増えてしまった。
 この上さらにこんな幻聴まで聞こえるとなっては、そろそろ「自分だけの世界」にも影響が出始めるかもしれない。
 超能力者である美琴にとって、それはとても重要かつ深刻な問題なのだ。
(まずいわ……しっかりしろ私っ! さすがに幻聴は危ないわ……)
 友人たちの声は、もはや美琴の耳を右から左へと通り抜けるだけであった。頭の中に響くのは少年の声という幻聴だけ。
(あああああ!? アイツのことで頭いっぱいだなんて!!)
 パニックに陥る美琴。
 その時、佐天の問い掛けを受け、ようやく我に返ったのである。


「本当に大丈夫ですか? 無理はダメですよ?」
「あはは。大丈夫だってばー。ごめんね、心配掛けちゃって」
 心配してくれている友人たちに、胸の前であたふたと両手を振りながら美琴は笑う。
「いやーなんか変な幻聴が聞こえた気がしてさ。ちょっと考え込んじゃった」
「幻聴? ……まさかまた『誰かが見てる』みたいなやつですか?」
「え!? 違う、違うわよ! 本当に大丈夫だから。気にしないで」
 さらに不安げな顔になった佐天を見て、慌てて訂正する。
「本当に何でもないの。みんな、ごめんね」
「それならいいんですけど……」
 ようやく安心してくれた様子の友人たちに、美琴はホッと胸を撫で下ろす。
 そして改めて自らに言い聞かせた。
(気のせい気のせい。ほら、今はもう聞こえないし。気にしない気にしないっ!)
 そして、気持ちを入れ替えて、今度は自ら佐天たちに楽しい話題を振ろうとしたところで、

「あれ、御坂?」

 先程よりもはっきりと、少年の声が聞こえてきた。


「あれ、御坂?」
 幻聴がまた聞こえる。
「……気のせい気のせい」
「御坂さん、あの人お知り合いみたいですけど?」
「……、」
 佐天の言葉を受け、彼女の視線の先に立つ人物に目をやる。そこには、
「おっす。今日は白井が一緒じゃないんだな」
 薄っぺらい学生鞄を肩に担いだツンツン頭の少年が、いた。幻ではなく確かに、少年はそこに立っていた。
(……ってことはさっきのも幻聴じゃなかったのね)
 人知れずホッとする美琴。
 しかし、この賑やかな会場内で、しかも近くに姿が見当たらない場所にいた少年の声を聞き分けていたというのは、紛れもない事実。
 それだけいつも美琴が少年を想い続けているということなのだが、その点に関しては全く自覚していないようだ。

「き、奇遇ね。アンタとこんな所で会うだなんて」
「確かにな。あ、今日はビリビリ勘弁な」
「しないわよっ! てかそれだと私がいつもビリビリしてるみたいじゃない!」
「それが事実だろ? こないだ会った時だって漏電するし……」
「っ!? あああれは偶然よ事故よ! さっさと忘れなさい!!」
「うおっ!? こんな所でパチパチ言わすな! だいたいあんな偶然が何度もあってたまるか」
「うっさい黙れこの馬鹿! 今すぐその記憶消してやる!」
 友人の目も忘れ、いつも通りのやり取りを交わす2人。
 そこに人見知りとは無縁の少女が割り込んだ。
「あのー、楽しそうなところ申し訳ないんですが……」
「ちょ!? 佐天さん何言って……」
「で、結局どなたなのかそろそろ紹介して下さい!」
 何故か目を輝かせている佐天。
 その様子に嫌な予感を覚えて、紹介を躊躇する美琴であったが、
「あ、ごめん。俺は上条当麻。高校1年だ。よろしく」
 上条本人があっさりと自己紹介してしまった。
「上条さんですね! 私は柵川中学1年の佐天涙子です。御坂さんの友達やらせてもらってます。よろしくお願いします♪」
「常盤台の婚后光子です。御坂さんとは同級生ですわ」
「初めまして。湾内絹保と申します。御坂様の後輩に当たります」
「初めまして。同じく御坂様の後輩に当たります。泡浮万彬と申します」
 佐天を筆頭とし、こちらも順番に名乗ってゆく。最後の2人はご丁寧にもお辞儀つきであった。

 そして、自己紹介が一通り終わったところで、いよいよ美琴の嫌な予感が当たることとなる。
「ところで、2人にお聞きしますけど」
 お世辞にも上品とは言えないニヤニヤとした笑みを浮かべた佐天が、彼女自身が気になって仕方がなかった核心に迫った。
「お2人はどういった関係なんですか? 上条さんは白井さんのことまで知っているみたいですけど」
 しまった! と美琴が思ったところで、起きてしまったことは仕方がない。
 美琴の焦った反応を見て、佐天は満足げに微笑んだ。


 美琴と上条の関係性が、佐天はずっと気になっていた。
 2人の会話から拾った「今日は」「いつも」「漏電」「何度も」というワードが、佐天の好奇心という名の網に引っ掛かったのだ。
 佐天の予想からすれば、2人はおそらく……

「俺と御坂? それは……」
「ただの知り合いよ! ただの、知り合いっ! 確かコンビニかどこかで知り合ったのよ」
 上条の言葉を遮り、必死にごまかす美琴。
「そうなんですか? それにしてはなんかもっと親密なような……」
「勘違いよ! もう、佐天さんったらー」
 ははは、と無理矢理笑う美琴。なんとかごまかせた! と思ったのも束の間。
「え? そうだっけ?」
 無神経な上条のとぼけた声が、美琴の「ごまかせた」という幻想を殺した。
「っ!? そ、そうよ!」
「でも確か不良に絡まれてたお前を助けたのがきっかけだって、お前が俺に教え……」
「何それ誰の何時の何処の何の話かしらっ!? ってかややこしくなるからアンタは黙ってなさい!」
「ちょっと声掛けただけなのにこれだよ……全くもって不幸だ」
「とにかく! コイツと私はただの知り合いなの!」

 かなり無理矢理にまとめた美琴。
 しかし、佐天の放った感想は、
「ほほう。恋人ですか」
 美琴渾身のごまかしを、完全にスルーしたものだった。

「ふぇ!? 佐天さん今の話聞いてたわよね!?」
「えっと、どうしてそういうことになるんでせうか?」
 慌てる美琴と、さすがに反応せざるを得なくなった上条。
「俺とコイツは知り合い……まぁ、友達ではあるか? とにかく、上条さんには恋人なんていませんのことよ」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよーっ」
「いや、本当ですってお嬢さん」
 そこに意外な人物から、さらなる攻撃が加えられる。
 うっすらと頬を赤く染めた湾内と泡浮だ。
「そう言えば夏休みの最終日に、御坂様は殿方と抱き合っておられたとか……」
「もしかして、その殿方というのは……」
 言わずもがな、例の偽デートの話である。「御坂様と殿方の逢瀬」の話は、常盤台に通うお嬢様たちにとって、この夏休み最大の話題になっていた。
 事実とは異なる点も多々あるが、噂話とはそういったものである。
「えっとそれはですね誤解と言いますか……」
 これには上条も言葉を詰まらせる。何せ事実が元となっている話であるため、どこからどうやって説明すればいいのか難しい。
 すると、その噂自体は知らないものの、それまで静かに耳を傾けていた婚后光子が口を開く。
「まぁ。そのようなことが?」
 そして、にっこりと何かを祝福するような笑みを浮かべて、

「御坂さん、あなた婚約者がいらしたのね」

 トンデモ発射場ガールは、自身のとんでも発言をもって、超電磁砲を撃沈した。


 美琴の漏電を防げたのは、上条の迅速かつ的確な予想と判断によるものだった。
 婚后の言葉を受けた瞬間、漏電を予感した上条が慌てて美琴に駆け寄り、崩れ落ちる美琴を抱き留めたのである。
 最も、上条自身はこれが美琴の「怒り」からくるものだと思っており、まさか恥ずかしさ故の気絶だなんて微塵も思っていない。

 上条の丁寧な説明でようやく、佐天たちは自分たちの考えが間違っていたことを知った。
 それは、上条と美琴が恋人同士でも許婚でもないという事実。そして、
(この人、かなり鈍感だなぁ。御坂さんの気持ちは明らかなのに)
 御坂美琴が上条当麻に片想い中であるという事実だ。
(何とか御坂さんの力になれないかなぁ……)
 上条の腕の中で幸せそうに気絶している美琴を見て、佐天は一人考える。友人として、どうにかして美琴の恋を叶えてやりたい。
 一方、婚后たちも佐天と同じ思いだった。
(このような御坂さん、私の認めたライバルではありませんの。ここは私、婚后光子が一肌脱いで差し上げますわっ!)
(恋する御坂様も素敵ですが、片想いはお辛そうですわ……)
(何か私たちで力になれることはないのでしょうか……)

 上条が腕の中で気絶する美琴をどうするか悩み、少女たちが美琴の恋について考えていると、
「これはこれは……しかも常盤台のお嬢様が相手とは恐れ入りましたぜい」
「か、カミやん。ボクらがちょっとトイレに行って来た間に……」
「げっ。こいつらのこと忘れてた……」
 上条の級友にして悪友。土御門と青髪ピアスが現れた。どうやら上条はこの2人とセブンスミストへ来ていたらしい。
「しかもその娘だけでは飽き足らず、他に4人も可愛い娘をっ!? 新たなカミジョー伝説再びーっ!?」
「それにしてもカミやん。全員中学生とは、ようやくロリの魅力を理解したようで安心したにゃー」
「しかもどの子もみんな将来有望な綺麗な子ばかりやで!? いくらカミやんとは言え、さすがにここまで独占するのはアカンのとちゃう? 
 このままじゃ世界中の綺麗な子がカミやんのお手付になってしまうかもしれへんよっ!!」
「舞夏に手出したら殺す。まぁそれ以外なら大目に見てやってもいいぜよ」
 見た目からして怪しい2人による怪しいトーク。
「お前ら……」
 少女たちが皆引き気味なのは当然だが、湾内と泡浮の怯えようは特に半端ない。
「純粋な中学生を汚すようなこと言うんじゃありませんっッッ!!」
 美琴を抱えていて拳を振るえない分、上条はクワっと目を見開いて抗議した。


 合計8名となった一同は、エスカレーター近くにあるベンチに座って、美琴が目覚めるのを待つことにした。
 ベンチまでは上条がお姫様だっこで美琴を運んだのだが、その間の青髪ピアスと土御門による冷やかしが、上条の恥ずかしさを倍増させた。

「へぇ。土御門さんって、あの土御門さんのお義兄さんなんですね」
 ベンチに着いてからは、自己紹介を交えた世間話が始まっていた。
 現在の美琴の状況はというと、佐天たちの強い要望により上条に膝枕された状態で眠っている。
「そうぜよ。自慢の妹なんだにゃー」
「妹思いのお兄様なのですね」
 湾内が感心して土御門に微笑む一方、泡浮きは怖々と青髪ピアスの耳を指差す。
「そのピアスは痛くないのですか?」
「うーん? 穴を開ける瞬間はちょっと痛かったけど、別に何ともあらへんよ」
「しかしお父様とお母様からいただいた身体に穴を開けるだなんて、怖くはありませんの?」
 脳みそに直接電極を差すような街で今更何をと思う発言だが、婚后にとってそれは別問題らしい。

 出会った当初はどうなるかと思われたが、他愛もない話を通じて、少女たちと少年たちは次第に打ち解けていった。
 その頃合いを見て、佐天が話題を振る。
「そういや、上条さんたちは今日どうしてここに来たんですか?」
「え? あーいや特に目的はないんだ。補習もなくなってヒマだったから何となく」
「佐天さんたちは? 何か目的あって来たん?」
「いえ。ただハロウィンに何かしたくなって、そのヒントを探しにって感じです」
「ハロウィン……確かに何かしたくなるイベントなんだにゃー」
「あ、やっぱりそう思います?」
「思うぜよ」
 土御門と佐天が顔を見合わせてにやりと笑い、何やら意気投合する。
「おおっ!? まさかのつっちーまでが女の子にフラグをーっ!?」
「お前は黙っとけ」
 問答無用で上条の拳がとんだ。
「ははは。じゃあ土御門さんにお聞きしますけど、ハロウィンに出来ることで何かいい案あります?」
 すると土御門が答える前に、殴られて即座に復活した青髪ピアスが元気良く手を挙げた。
「はいはーいっ! ボクに名案あるで」
「おっ? 何ですか?」
「ハロウィンと言ったら仮装! 仮装パーティしかないやろーっ」
「なるほどっ!!」
 この答えには佐天も大満足なようで、瞳を輝かせて立ち上がった。
「それは名案ですっ!!」
「まぁ、楽しそうですわね」
 湾内も両手を胸の前で合わせて、目を輝かせている。
「でも具体的にはどのようなことをすれば良いのでしょう?」
 その横で可愛らしく首を傾げるのは泡浮だ。
「各自仮装して、あとはお菓子を持ち寄ったりして食べて騒げばいいんぜよ」
「まぁ! それはかの有名な『お菓子パーティ』というものでなくて!?」
 土御門の説明に、婚后が勢いよく飛び付いた。
 デザートビュッフェの方が馴染み深いお嬢様にとって、お菓子パーティなるものは興味深い庶民のイベントであるらしい。


 上条と美琴を置いて、仮装パーティの話はどんどん進む。
「そうだっ! せっかくこうして知り合えたわけですし、良かったら一緒に仮装パーティしませんか?」
 佐天が本日一番のスマイルで提案する。ちらりと一瞬美琴の顔を見たのを、婚后は見逃さなかった。
 佐天の意図を掴み、婚后がそれを援護する。
「まぁ、佐天さん素敵な案ですわ! 場所なら私がホテルの宴会場を借りますわ」
「さすが婚后さん! 是非お願いします」
 ただ、そこに口を挟む人物がいた。
「ちょっと待つんだにゃー」
 佐天と婚后が少し不安げに土御門を見る。
 ここで「そんなの嫌ぜよ」とでも言われれば、2人が考えるとある計画は実行出来なくなるかもしれない。

 しかし、2人の不安はいい意味で裏切られた。
「もっといい場所があるぜよ」
「あら、どこですの?」
「個室サロンとかが良いと思うんだにゃー。8人だったら広さもちょうどいいはずだぜよ。予約なら俺がしとくから安心して任せてくれると良いにゃー」
 土御門が胸を叩いてにやりと笑う。
「まぁ、素敵ですわ」
「ありがとうございます土御門さん」
 それを見た青髪ピアスが慌てて声を上げる。
「つっちー抜け駆けはアカンで! ボクにも何か手伝うことない!?」
「じゃあ、場所の方は土御門さんと青ピさんにお願いしちゃいますね。私たち女子は、パーティの中身を練ります!」
「わかった。ボクらに任せときー」
「予約は8名でいいのかにゃー?」
「あ、初春と白井さんを含めて10人です。今日は風紀委員の呼び出しでいないんですけど、いつも一緒なんですよ」
「ということは女の子が7人に男子はボクら3人だけ……!! つっちー! ボクらにも春が来たんとちゃう!?」
「あはははは。もう青ピさんたらー。変なこと言ってると、また上条さんに殴られちゃいますよ」
「でも本当にいいのかにゃー? こういうことは女の子だけの方が気軽に楽しめるものだとは思うぜよ?」
 土御門が佐天に向かって問い掛ける。サングラスでよく見えないが、その瞳は何かを探っているかのように思えた。
 まるで相手の本心を見抜こうかとしているように。
 佐天は視線を逸らすことなく、にやっと笑う。
「もちろんです! というかむしろ、みなさんとパーティがしたいです!」
 その言葉に婚后も豪奢な扇子を仰ぎながら頷く。
 同じく佐天の意図を汲み取った湾内と泡浮も、微笑みという形でそれに同意した。

 こうして上条が口を挟む間もなく、美琴が知らない間に10人の男女合同ハロウィン仮装パーティの開催が決定されたのであった。




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