「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/01章-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/01章-1 - (2010/04/18 (日) 14:48:37) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第1章 とある雪の日の二人 12月29日 PM2:30 雪 上条「うう。さ、さみい!ほんっと狂ってるだろこの天気。地球温暖化の話はどこ行ったんでしょーかねー!!」  プチ氷河期にでも入ったのではないかと疑いたくなる寒さだ。チラチラと粉雪まで降っている。  数えてみればクリスマスの頃から連日のように例年にないほどの大雪に見舞われていた。とは言っても土地柄積もるほどでは なく、大体はすぐ溶ける。むしろ問題なのは雪が降るほどの寒さの方だ。数日前から温度計の値がゼロの付近を行ったり来たり していたが、この日は下の方で最大振り幅を記録《マーク》している。  上条としては寒くて家から、というかコタツから一歩も出たくなかったのだが、食料がほとんど底をついたので背に腹は替え られず、仕方なしに重い腰を上げて近所のスーパーへ行き、いつもより多めの買い物を済ませてきた。今はその帰りである。  もう一つ先に行ったスーパーで特売があったのだが、さすがにこの寒さで遠くまで行くのは堪える。 上条(今年が特に寒いのか、冬を経験するのが初めてだからかどっちなんだ?)  とある事情で記憶喪失である上条には『冬は寒い』という知識はあるのだが、『この寒さが普通なのか』というような感覚 がイマイチ分からない。  偶然会ったクラスメイト数名に「今年は寒いな」と聞いてみたのだが、冬なら大抵の人はそれを肯定するらしく、結局答え は出なかった。天気予報は天気予報で、暖冬だと言ったり寒冬だと言ったりで全く要領を得ない。 上条(まぁどっちでも寒いのには変わりねえんだけど。いっそコート買っちまうか………でもすぐ駄目になるしもったいない     んだよなあ)  そんなことをここ最近何度も考えているのだが、結果は全て同じであった。それほどまでに寒さというのはダイレクトに体 の芯へ攻撃を与えてくる。三枚重ね着してもまだ足りないらしい。  一番上に着た黒系のスウェットシャツの襟元から冷たい空気が入ってくる。  上条は思わず美琴からもらったマフラーで隙間を塞ぐと、そのままマフラーに顔を埋め、鼻で息を吸ってみる。  少しだけ美琴の匂いがした気がしたが、寒いためか鼻があまり効かない。 上条(クソ。心までさみーぜ………って、こんな短期間で禁断症状が出るのはどうなんだ?)  美琴とは二十五日の朝から会っていない。  そもそも恋人同士だからと言って毎日会うべきなのかどうなのかも分からないし、そんなことを相談できる人も居なかった。 その上事件に巻き込まれる体質は相変わらずだし、追試やら補習やらもあって結構空いている時間は少ない。結局理由が無い 限りは今まで通りというスタンスを取ることにした。  一応何度か理由を作って会おうと思ったのだが、いざ考えてみるとそれが中々難しい。  過去を振り返ってみると、美琴と会うのは大概偶然か、美琴からのアプローチであったことに気付く。 上条「うだぁー。このままじゃ駄目だ………………っと、近道近道」  独りごちながら数歩下がって一つ細い道へ入る。例の自販機へと向かう方向だった。  その道へ入って数秒後、上条は白い息と共に長い溜息を吐いてげんなりする。 上条「(どう考えても物凄い遠回りじゃねえか、何言い訳してんですか上条さんったら)」  『いざというときの待ち合わせ場所』と、そう決めたはずの場所であった。しかし昨晩メールした時に携帯は正常だったの で、恐らく今はそんな非常事態ではない。それに来るわけもない相手をこんな寒い中待っているはずがないのだ。だからこれ は単にちょっとした自分の弱さでしかない、と上条は反省しようとする。 上条(うう。もうだんだん『会いたいから会う』だけで良い気がしてきたな。こう言うのは片意地張る方が馬鹿みてえだ)  そもそもそんなの自分らしくない。帰ったら携帯でその旨連絡してみようと決意する。  しかし角を曲がって自販機が見えてきたところで、結局それも先を越されたことを知る。  上条は居ないはずと思っていた人間が前方に居るのを発見した。 上条(……………何やってんだ?アイツ)  御坂美琴はそこに居た。  制服にコートという傍目に寒そうな格好で自販機の横にしゃがみ込み、口から白い息を小さく吐きながら何やら20センチ メートルくらいの小さな雪だるまを一生懸命作っている。  その雪だるまはそろそろ仕上げのようで、小枝で出来た腕やら、小石で出来た目やボタンなどが既に付いていた。今は一体 どこから拾ってきたのか松のような針葉樹林の葉を雪だるまの頭へブスブスと何本も突き刺している。 上条(誰のつもりだよそれ)  数秒後、どうやらそれは完成したようで、まるで可愛い仔猫でも抱くかのように両手で目の前の高さまで持ってきて眺める。 その間、顔は終始ニヤケ面だった。しかしそれは長く続かず、眺めている顔は徐々に曇っていき、ついには雪だるまを地面に 置いてしまう。  雪だるまを見ながらはああああぁぁぁっと白く長い溜息を吐いた。 上条(………近づきがたいオーラがバリバリ見えてるんですが)  以前なら触らぬ美琴に祟りなしとばかりに回れ右をして逃げす準備をしていただろうが、もちろん今はそんなことしない。  上条は針葉樹林の葉よりは柔らかい自分のツンツン頭を掻きながら、叫ぶために少し大きく息を吸い、走り出す。 上条「おーっす御坂!!」  美琴はビクッ!と肩を振るわせながらも素早く上条の顔を見て、すぐにパァっと満面の笑みを浮かべた。しかしそれも一瞬で、 急に慌てて目の前の雪だるまを踏みつぶそうとする―――――が、足が寸前で止まりプルプルと少し震えて、結局諦めたのか その雪だるまをそっと足で隠す。  『なんでもないわよ?』といった風を装っているが一連の動きのせいで何の意味も成していない。 上条「……こんな寒い日にこんなとこで何やってんのお前。カバン持って」  美琴から少し離れたところには旅行用キャリーケースが置かれていた。1メートルはあるだろうか、小さい子供なら入れる くらいの大きめサイズで、白とピンクと黄色の可愛い花柄模様である。 美琴「べ、別にー?ただ何となくよ文句あんの。実家に帰るとこなんだけど、早めに寮を出たら時間がかなり余っちゃっただけ」  美琴はこの数日悩んでいた。  上条の家に押しかけるだけの大きな用事があるわけでもないし、冬休み中なので待ち伏せも出来ない。遊びには誘おうとした のだが、これまでと違い上条は恋人なわけで、恋人同士とは一体どういう遊びをするものなのだろう?と苦悩しだした。  その悩みは考えれば考えるほど泥沼にはまっていき、ついには『そもそもどういう顔をして会えばいいんだろう?二十五日に 私はどういう風に接していたんだっけ?』という疑問が出るほどに思考がゲシュタルト崩壊していく。  するとそれは徐々に不安に変わっていき、『恥ずかしくなって逃げ出さないか』とか『ちゃんと自然に話せるのか』とか『素直 になれず嫌われるようなことをまたしてしまわないか』なんてことまで考えるようになってしまう。  そんな風にあれこれ悩んでいるうちに帰省日当日になってしまった。仕方がないので今日はそれを材料に上条宅に向かおうと したのだが、もし上条に「わざわざ行く前に報告しに来たのか?携帯で良かったのに」なんて空気の読めないことを言われたら ショックなので、他にも言い訳を考えながら彷徨い歩いていていたのだった。  そうしたら自然とここに辿り着いていたのである。  いっそ偶然会えるのではないか、なんて期待したのかもしれない。 上条「帰省……って今日か。なんつか、悪かったな会えなくて」 美琴「うん……………」  しかしいざ上条を前にするとそれまでの悩みはどこかへ行ってしまう。というか悩んでいたことすら忘れてしまっていた。  こんなにも寒いのに、体の中は太陽の光を浴びているように穏やかな暖かに満たされ心地よい。自然に顔が綻びそうになる。 上条「………あー、もしかして御坂たんは、寂しくて泣いちゃったりしちゃいましたでせうか?」 美琴「なっ!ばっ、んな分けないでしょ!」 上条「お、図星?…………ってジョーク!ジョークだからっ、ビリビリ禁止ー!!」  美琴は体の周りでバッチンバッチンと鳴る電撃をしまい、プイっと横を向いてしまう。 上条「あ、一応聞くけどさ、非常事態……ってわけじゃねえよな?」 美琴「………………非常事態よ」 上条「へ、何かあったのか!?」 美琴「………………………」  実際、美琴の心の中はここ最近非常事態と呼べるほどだった。  上条に真意をさらけ出して恋人同士になれば思い煩うことなんて無くなるだろう、胸のつっかえが取れて自然と素直な自分 で上条に向き合えるだろうと思っていた。しかし実際は全く逆で、会えない日が一日一日と増える毎に胸の痛みは前以上に増 していく。  一応メールは毎日、電話もたまにしているのだが、それくらいでは焼け石に水である。近くに居たい、馬鹿みたいな会話を していたい、触れたい、触れられたいなどという欲求が時を追うごとに身を苛み、頭は上条でいっぱいになって他のことは何 も手に付かなくなってしまう。  それはもう、雪で上条を作ってしまうほどに。 美琴「さあね。んで、アンタは買い物帰り?」  実は今にも抱き付きたい程気持ちが高ぶっていることを不満そうな表情の下に覆い隠し、投げやりに尋ねる。 上条「??まーそうだけど。近所のスーパーまで」 美琴「ふーん……………………」 上条「……………………………」  告白後再会するのはこれが初めてだからか、二人は若干ギクシャクしているような気がしてしまう。それとも元々こんな だっただろうか。  冷静になって改めて考えると、相手が自分を慕っていて、しかも自分の気持ちを知っているというのは何だかくすぐったい なと二人は似たような感想を抱く。 上琴「あの…さ」「ねえ」 上条「な、何だ?」 美琴「そっちこそ何よ」 上条「………んじゃ俺から」  顔をぽりぽり掻きながら視線を逸らしつつ言う。 上条「えっと………時間あるんだったら、その、うち来ねえか?なんつかほら、近いし。寒いだろ?」 美琴「行く!」  即答。 上条「そ、そか。んじゃ行こうぜ。で、お前の話は?」  美琴は約3秒ほど固まったあとそれを完全無視し、雪だるまをキャリーバックの上に置くと、それを転がしつつ先陣を切って 歩き出した。 美琴「さ、ぼけっとしてないでさっさと行くわよ寒いしレッツゴー!」 上条「………つか、何で俺んちの方向知ってんだよ?」 美琴「う………」  足がビタリと止まる。 美琴「し、知らないわよ。案内して!」 上条「……………」  上条が美琴に追いつく。 上条「んまぁ細かいことはいっか……………ちょっと思いついたことがあるんですが」 美琴「何よ」 上条「えーっと………案内するなら手ー繋いだ方が良いかもなー、とか思ったりなんかして……」 美琴「そ、そうかもね。たまには良いこと言うじゃないアンタも」  実は両者とも我慢の限界であった。『触れたい』という感情だけが心を支配する。恥ずかしさなんて小さすぎる問題でしかない。  美琴はン!と言いながら思いきり左手を差し出した。  上条は猫の刺繍が入った黒っぽい手袋を片方だけレジ袋に詰めると、その差し出された左手を右手で掴む。  瞬間、能力は封じられたはずの手からピリピリと電気のようなものが流れてきたような錯覚を二人は感じた。それも不思議な ことに、何とも心地よい電気である。 上条「………うっわ、つめてっ!!お前何時間あそこにいたんだよ!?あ、つか雪触ってたせいか」  そんな文句を言いながら、上条は美琴の手を温めようと自分の上着ポケットに乱暴に突っ込む。美琴はその行為をポーッと 弛緩した表情で眺めていた。  ポケットに入れられた一組の手はその中でより相手に密着できる形を探し、最終的にいわゆる恋人繋ぎ状態に収まる。  脇の下あたりがムズムズするほどその行為は刺激的で、自分達のテンションが変な方向に飛んでいくのが分かる。 上条「んじゃ行くか」 美琴「ふぁ………う、うん」  上条が歩き出すと緩やかな調子で美琴の体がそれに付いていく。  キャリーケースの音だけが二人の周りでガラガラとうるさく響いたが、二人にはほとんど聞こえていない。  その意識の大半はポケットの中に閉じ込められたままだ。  ◆  上条が住んでいる寮のマンション。そのエレベーターが七階に止まり、中からニュッと黒いツンツン頭が覗くというシュール な光景がそこにあった。しかし帰省時期のせいか、はたまた雪が音を吸ってるのか、不自然なくらいそのマンションはシーンと 静まりかえっていて誰もそれを見ている様子はない。 上条「よし、誰も居ねえな。行くぞ」 美琴「うん」  そう言うとやや小走りに自分の部屋へ駆け出す。美琴はそれにピタリと付いていく。  二人の手はまだ上条が着ているスウェットシャツのポケットの中だ。 上条(我ながら危ねえことしてるよなあ………)  暑くもないのに顔が若干汗ばむ。  命が掛かるような危ない橋をいくつも渡ってきた上条だが、これはこれで中々スリルがあった。  上条の部屋に入った女性は美琴が初めてではない。しかしその相手は、万が一ご近所に存在がばれても大してまずいよう な関係でも無かったため、さほど緊張はしなかった。  だが今回の相手は違う。もし寮の知り合いに美琴との関係がばれたら十中八九クラスメイトにばれるだろうし、さらにそう なると半自動的にほとんどの知り合いにも噂が伝搬する恐れがある。 上条(俺の第六感が全力でそれはヤバイ、死に直結するぞと訴えている)  しかしそれでも手は離したくなかった。というか接着剤でも付けたかのように離れそうにない。脳の深いところで手を離せ という命令を完全抹殺されているような感じだ。  上条は買い物袋を一旦置くと、ポケットから鍵を取り出し急いで回す。  と、その時―――― 土御門『なにィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??』  廊下まで響き渡る土御門の声。  どっきーん!!と上条の心臓が誇張なく跳ねる。慌てて扉を開き美琴の手を引きつつ中に入った。ただし扉は静かに閉める のを忘れない。 上条「(…………………………な、何だったんだ今の?)」  息を潜めて美琴と目を合わせる。 美琴「(さぁ?隣の人…………って土御門?)」  数秒後、ガチャンという扉の開く音、そして話し声がした。 舞夏『どーするんだ兄貴ー?』 土御門『にゃー。ちょーっと大事な男の会議をするだけだぜーい』  うっすら聞こえてきた会話から、上条はかなりマズイ状況だと認識する。 上条(この馬鹿、入ってくる気かよ!?)  部屋の奥の方へ行ってるようにと上条がジェスチャーで伝えるが、美琴は何故か首を振って動こうとしない。手も繋いだままだ。 離してくれない――――と言いたいところだが上条の右手もギューッと掴み続けていて一向に離そうとする気配がない。  上条が手をバタバタしている内にピンポーンと呼び鈴が鳴る。 土御門『おーい、かーみやーん』 上条「……………………」  数秒して呼び鈴が再び鳴らされる。 上条(ちょ、ちょっと待て………これ、もしかして詰んでしまわれていないでせうか!?)  顔が青ざめるのを感じる。 土御門『居ないのかにゃ?入るぜよ』 上条(やべっ、鍵空いてんじゃん!?)  ガチャリ――――とドアノブが下がりドアが開き掛けるかという瞬間、ガッ!と上条はドアノブを思い切り引いた。もちろん 空いていた左手で。  土御門は一瞬ドアのチェーンロックが作動したかと思ったが、鍵を掛けた時とは違う明らかに不自然な感触で上条の存在に 気付いた。 土御門『居るじゃねえか!!テメェ、舞夏とイチャ付きながらぬいぐるみ作りしたとかブチ殺されてえようだにゃー!!今すぐ      開けやがれ全人類の敵!!!そして死ね!!!上条属性の餌食になんて俺がさせねえええええええ!!!』 上条「って、何かと思えばそんな話かよ!今忙しいから明日にしろ明日に!!――――あ、ちょっと待て、イチャ付いてなんか     いないですよ!?ホントデスヨ!?オイテメェ土御門、どっかの誰かが誤解するじゃねえか今すぐ撤回しろ!!舞夏も     そこに居るんだろ、馬鹿兄貴に何か言ってやってくれお願いしますー!!」  土御門にばれるのも恐ろしいが、一瞬横からそれより恐ろしい殺気を感じた気がして全方位に弁解発言をする。 上条「み、御坂さーん。お願いします。鍵、鍵ィ!!…………いえ何でもないですすいませんでした許して下さい!!」  小声で近距離の美琴に叫んでみたものの、美琴のジト目を確認すると諦めて顔をドアの方に戻した。 上条(つか、片手で、あの体力馬鹿と勝負とか、無理なんですけどーッ………!!)  右手を美琴の手から離せばどうにかなりそうだったが、何となくそんなことをできるような空気ではなかった。もしこの 状況で雷撃の槍なんか出されたらひとたまりもない。 上条「ぬぐううううぁぁあああああああああ!!」 土御門『に゛ゃああああああああああああああああ!!』  土御門は両手に足も使って引いているらしく、ギリギリと扉は開いていく。  ふと、徐々に開きつつある僅かな隙間から舞夏の瞳が覗いた。  こんな寒い日だというのに律儀にメイド服を着込んでいるんだなぁ、とか上条は現実逃避をしてみたが、舞夏のにまーっとした 笑顔を見て、何かの終焉を悟る。  上条に次いで、美琴も舞夏と目が合う。トドメに繋いでる手も見られる。  やっぱ詰んでしまわれましたかー、とか上条は諦めそうになったが、一応やけくそ気味に誤魔化してはみる。 上条「はっはは。よ、よう舞夏!久しぶりー……でもないか。あの………、何と言いますか、何卒、何卒御容赦をば!!」 土御門『テメェ上条当麻!俺の義妹を呼び捨てにすんなと何度言わせるにゃー!?あと気軽に電波会話を楽しんでんじゃねえぜよ!!』 上条「黙れこのシスコン野郎!!」 舞夏「なーなー上条当麻他一名ー」 土御門『ん、舞夏、誰か他に居るのか?』 上条「居ねえよ!!は、はい。何でございませう?」 舞夏「結局あのぬいぐるみは役にたったのかー?」  上条と美琴はチラッとお互いを見た後、コクコクと頷いた。 舞夏「そっかそっかー。それは良かったー」  そう言うと満足したように顔を引っ込めた。 舞夏「兄貴ー。私はもう帰るぞー」 土御門『うにゃーっ!?そ、それは無いんじゃないかにゃー?早すぎるぜよ』  土御門が妙な奇声を上げて力を抜いたため、ドバン!!と凄い音を立てて扉が一気に閉まる。  上条は思わず倒れかけたが何とか持ちこたえて鍵を閉めると、安心してその場にへたり込んでしまった。 舞夏『いやいや、年末のメイドさんは大忙しなんだぞー』 土御門『ああ、そうだったな。仕方ないのにゃー』 舞夏『それじゃまたなー』 土御門『待て舞夏。忘れものだ』 舞夏『なん………んっ…………………………………』 土御門『…………………………………………………』 上条(え、土御門さん?え、何この沈黙??………何で、何で息する音だけ聞こえるの???)  まさか、いやまさかと思いつつ隣を見ると、一緒に座り込んでいる美琴も驚いた顔をしてそわそわしていた。どうやら同じ ことを予想しているらしい。 上条(いつの間に兄妹でそんなことに……まさか最初から!?) 美琴(そう言えば土御門の趣味って………) 舞夏『プハッ!なが、長すぎだぞー』  これ以上聞くのはショックが大きそうなので、上条と美琴は繋いでいた手を離して静かに移動することを決める。  靴を脱ぐのに少し時間が掛かかりそうな美琴を置いて、上条は先に素早く移動し、ベランダの窓に鍵を掛けカーテンを閉めた。  土御門がこちらから進入してくる可能性もあるためだ。  舞夏『ん?兄貴兄貴ー、雪だるま版上条当麻発見!!』  しかし廊下を歩いてきた美琴がそれに反応して停止。  先程の雪だるまは部屋に入れるわけにはいかないので仕方なく外の手すりの下に置いてきたのだった。美琴としてはあまり いじって欲しくない。 舞夏『………こ、これは中々、細部にまでこだわりを感じる一品だぞー!道具を使わずそこら辺に落ちてるような物でよくぞ     ここまで似せられると感嘆してしまうなー。作り手が普段からよく観察してるんだろうなー。うひひ、ニヤニヤしちゃう』 土御門『ちょっと貸してくれにゃー』 舞夏『ほい』 土御門『ほんとだにゃー。壊したくなるほど良く出来てるぜい…………』  その言葉に美琴は思わず駆け出す――――が、ほんの少し前にそれに気付いた上条が慌てて美琴の右手を取り止める。  更に美琴が叫びそうだったので、強引に引っ張り後ろから左腕でウエストを思い切り抱きしめた後、右手を美琴の口へ持って いき押さえる。 美琴「ちょっ……んー!!んー!!!」 上条「(ストーップ、今出ていったら元も子もねえ!)」 土御門『上条当麻。お前、中々良い奴だったぜよ。だが、これでさよならだにゃー』 舞夏「あ、あーー」  土御門元春の手から雪だるまが落ちる。マンションの七階から地面へ向けて――――― 美琴「んんんーーーーーーー!!!(雪麻ーーーーーーー!!!:さっき命名)」  美琴は前へ左手を突き出した状態で固まったまま沈黙。  雪だるま殺しを終えた極悪人、土御門元春はどうやらそれでそこそこ満足したらしく、舞夏と分かれると隣の部屋へ戻っていった。 上条(雪麻、俺の身代わりになったお前の事は絶対忘れねえぞ!!)  心の中で敬礼する。ちなみに雪だるまの名前は右手の振動から何となく感じ取った。  美琴が左腕を下ろしたのを確認して、上条もゆっくりと両手を美琴から離した。 上条「悪い。助けて、やれなくて」 美琴「………………………ふっ」  美琴の肩が震えた。  もしかしたら泣いているのかもしれない。 上条「でも…」 美琴「にゃー」 上条「!!??」  瞬間、目の前の美琴から青白い電撃が放たれ、仰け反る上条の目の前をギリギリでカーブする。気付くと幻想殺しは脊髄反射的 に美琴の肩へ乗っていた。  上条はそのまま美琴の体をグルッと180度回転する。 上条「…………………お、お前なあ。雪だるまのことじゃなかったのかよ」 美琴「だって、だって、アンタがいきなり強く抱きしめるから……」  美琴の顔は不自然な笑顔のまま固まり、体はふにゃふにゃであった。  上条は呆れるように溜息を付く。 上条「とりあえず部屋まで歩けんのか?」 美琴「ばっ、馬鹿にすんな!」  とは言うものの美琴の足は若干ふらついていた。上条は美琴の肩に手を置いたまま後ろ向きで誘導する。 上条「う、いっつ!」  しかしリビングまでは辿り着いたのだが、あと何歩かと言うところで上条が床の漫画雑誌を踏み、バランスを崩す。  思わず美琴の肩に掴まってしまうのだが、美琴は大した抵抗もなく一緒に倒れてきてしまう。 美琴「ふぇっ!」 上条「え、ちょっ!まっ、待てコラッ………うわっ!」  上条は自分の体だけで立て直そうとするが、美琴もそのまま転びそうだったのでその体を後ろにあるベッドへ倒そうとする。  しかし上条より一瞬判断が遅れて美琴が上条の体にしがみついてきたので、結局二人揃ってドサッ!とベッドへ倒れること になった。  二人分の体重にベッドのバネが上下する。 美琴「……………………」 上条「……………………」  上条の両腕は美琴の背中に回り、美琴の両腕も上条の脇の下を通して胴体を抱いている。上条の膝は立っていなくて、二人の 脚はお互い絡んでいる状態だ。  つまり簡単に言えば、上条が美琴をベッドに押し倒した構図である。  一拍おいて、二人の顔がカーッと煙が出そうなくらい赤くなる。  クリスマスイブに似たような状況になったが、アレはあくまで硬く冷たい床の上。今はベッドの上である。  その違いが分からないほど二人は子供ではない。 上条「わわわ、わりい!」  体が密着し、冷え切った体がお互いの体温で温められ、逆に今度は熱くなってくる。 上条(まずい……はな、離れねえと)  上条としてはズバッ!と離れたかったのだが、腕が美琴の下敷きになっていて動きにくいし、今離れたら漏電で部屋の中の 家電が大惨事になるのではないかという考えが頭をちらつく。  結果中途半端に身じろぎすることになり、お互いの体が擦れ合って二人はさらに慌てる。 美琴「あ、う、何すんのよ、ばか………あ、あああ、あの………でも、わ、わたわた、私、私はそのアンタが、その……だから」 上条「だー!落ち着け落ち着いてそして何も喋らないでくださいー!!耳、耳がゾワゾワするからっ!!今離れるって」  今、上条の脳内では理性と本能が激しい攻防を繰り広げている。  こんなカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、ベッドの上で抱き合っている状態で、もし本能側にドーピングを注入するような 甘い台詞でも言われてしまったらパワーバランスとか人格とか色々なものが崩壊しかねない。  いっそ「何すんのよ馬鹿ー!!」と腹を蹴られた方がこの状況を打破できるので上条としてはありがたかったのだが、そんな 様子は微塵もなく、美琴の両腕はしっかりと上条を抱いたままだ。 上条(何で初めて家に招いてわずか数分でこんなことになってんだ………)  脳内の理性陣営はそんなトラブル体質の自分がちょっと情けなくて泣いている。  対して、本能陣営は歓喜に湧きウオオオオオと雄叫びを上げている。意外と華奢な肩、柔らかくて暖かな体、程よく引き締ま った滑やかな脚など、美琴の四肢をコート越しにではあるが余すことなく感じようと先程から『もっと動け!攻めろ!味わえ!』 と脳髄へ勝手に指示を出し続けている。  その命令をどうにか精一杯無視して上条はまず片膝を立て、お互いの体をわずかに離した。  美琴の顔が見えたが、真っ赤になりながら思いっきり横へ向けて、目をキョロキョロと泳がせている。 上条「へへへ…へ、大丈夫大丈夫。ゆ、ゆっくり、ゆっくり起きますからねー、ゆっ…………………………う!?」 美琴「?」 上条(待てっ!…………お、起きなくて良い、お前は起きなくて良い、寝てろ!今は全力で寝てろ!!ほんとお願いします勘弁     して下さいよ相棒) 美琴「……………な、何よぉ?」  上条の動きが止まり、その頬が引きつっているのを不審に思い、美琴は半分裏返った声で尋ねる。 上条「な、何でもない何でもない全然何でもないので御坂さんは甘えた声出さないで下さい」 美琴「ばっ、だ、誰も甘えてなんかないわよ!!」 上条「わー馬鹿暴れるなって!!げ、限界が来る………」  慌ててもう一方の膝も立てて腰を高く浮かす。  しかし、もはやこの体のままでは起き上がることは出来ない。起き上がると色々まずい。尊厳というか恥辱というか命というか、 多くの物にクリティカルなダメージを受ける気がするのでとにかくまずい。 上条(とりあえず自己嫌悪は後でするとしてだな…………ど、どうする)  危機の打開へ向けて脳をフル回転させる。 上条「……み、美琴」 美琴「ひゃい!」 上条「お前に大切なお願いがあるんだけど」 美琴「えっ………」  美琴は数回口をパクパクさせたあと、 美琴「わ、あ………は、はい………分かった。なに?」  何かの覚悟を決めたように上条をやや上目遣いで真っ直ぐ見据えながら頷く。  上条もそれを確認すると、真面目な顔で一度頷く。 上条「目、瞑って欲しいんだ」 美琴「!!」  美琴は一度唾を飲み込むと、ゆっくり瞼を閉じた。 上条(よ、よし。これでオーケー。とりあえずこのまま起き上がろう。このまま………この………まま?)  間近の目を瞑った美琴を見る。肩まで届く長さのツヤのある髪がベッドの上で乱雑に広がっている。滑らかな頬や可愛い瞼は 少し痙攣していて、何かされるのではと緊張している様子が伺える。胸のあたりはいつもより速めに上下していた。恐らく鼓動 もそれに合わせて素速くリズムを刻んでいることだろう。今の上条と同じように。  美琴は再び唾を飲み込むと、一度だけ口で息を吸い、また固めに口を閉ざす。  上条は知っていた。その唇の柔らかさも、感触も、味も、湿り具合まで――――― 上条(…………う、やばい!気を緩めたせいか見蕩れちまった。こんな時は深呼吸ですよね深呼吸)  一度自分でも唾を飲み込み、口から息を全て吐いたあと、鼻で思い切り息を吸う。  すると今度は美琴からするいい香りが胸いっぱいに満たされ、それが上条の脳に麻薬のような衝撃を及ぼす。陶酔して頭が ボーッとしてしまう。 上条(えっと………、まあキスだけなら別に良いよな………?)  それで止まるわけなんかない、と冷静に考えれば思ったかもしれない。しかし上条はもはや冷静ではいられなかった。  自分の顔を徐々に美琴へと近づけていく。  頭の中は過去に触れた美琴の唇に関する記憶だけがグルグルと回る。 美琴「(あ、あの………)」  美琴は目を瞑ったままか細い声を出した。  唇と唇の距離はもうほとんど無い。 上条「ん?」 美琴「(え………っと。私からも、お願いが………あるんだけど)」  目を瞑ってはいるが声や気配ですぐ近くに顔があると気付いたのかもしれない。  それほど小声になっていた。 上条「なに?」 美琴「(…………誤解、しないで聞いて欲しいんだけど)」 上条「………」 美琴「(お願い………やさ、優しく………優しくして?)」 上条「!?」  その可愛げのある台詞に一瞬上条の本能が爆発しそうになるが、それをやや上回るかのように理性が回復する。 上条(………何やってんだか俺は。美琴は仮にも十四歳の女の子だろうが)  冷静になってようやく気付く。美琴の声に不安の色が多分に含まれていることや体が小刻みに震えていること、瞼が以前より 固く閉じられていること、それに自分の背中に回っている腕に変に力がこもっていること――――  上条は単に美琴を脅えさせているだけのようだ。 上条「おう。優しく、な」  だから少し明るく言って、美琴の頬に軽く口づけだけした。 美琴「ん……」  それだけでも顔を真っ赤にしてくれる美琴が何だか愛おしい。  しかしそれ以上は何もしない。 上条「(続きはまた今度な)」  恐らく聞こえないだろうというくらいの小さな声でそう囁く。 美琴「ふぇ?」 上条「右手、離して良いか?」 美琴「え、う………多分まだ駄目。体がふわふわする」 上条(………漏電状態って結局何なんだよ)  上条は自分の体を抱いていた美琴の両手を優しくほどき、その左手だけ掴んだまま体を起こす。  その様子に、上条が何もするつもりがないということに美琴も気づいたのか、詰めていた息をプハーと一気に吐き出す。 美琴(………何よ、せっかく人が覚悟したっていうのに)  とか思ってみたが、内心かなり、というかほとんど不安でいっぱいいっぱいなのは事実だった。  今はまだ上条のそばにただ居るだけで十分ふわふわになれる。 美琴「んで?私は目ー開けていいわけ?」  そんな内心をとにかく隠そうと、やや怒ったような調子で喋る。 上条「え、ああうん……いや、ちょっと待て良くない!!」 美琴「はぁ?……アンタまさか何か隠してるんじゃないでしょうね!?」  美琴は目を開きガバッと勢いよく起き上がる。  そして上条を見る。 美琴「…………何してんの??」  上条は何故か左手でベッドの上にあったはずの枕を持っていた。本当に、ただただ所在なさそうに持っていた。敢えてもう 少し状況説明を加えるなら、股間を隠すように持っていた。 上条「全然何でもないですぞ姫。私めはそろそろ枕を干さなきゃなーとか思って枕を取り上げただけかも。決して怪しくは     無いんですのにゃー!!」 美琴「アンタ頭大丈夫?顔色も悪いわよ??」 上条「だぁーいじょうぶ大丈夫だからそれ以上近づかなくていいっつかそこに居ろ。で、右手離して良いか?上条さんは枕     干したくて堪らないんですが」 美琴「んー??ああ、右手ね、多分大丈夫よ……ってこんな日に?雪降ってるわよ?」  訝しげな表情で上条の体を上に下にとジロジロ見る美琴をよそに、上条は右手をそーっと離す。 上条「いやいやー思い立ったが吉日って言うじゃないですか、さー枕干してこよーっと」  物凄い早口で言いつつササササーっと窓際まで平行移動し、素早く鍵を開けるとカーテンの向こうへと消える。 美琴「怪しい、なんてもんじゃないわね……枕の中に何か隠してあったのかしら?」  美琴が顎に手を当てて考え込んでいると、ベランダからバキッバキッというプラスチックの板を踏みつけるような音がした。 かと思うと、次の瞬間には何故か隣の部屋から上条の声が聞こえてくる。 上条『うぉらああああああああああああ土御門ぉおおおおおおおおお勝負しに来てやったぞぉおおおおおおおお!!!』 土御門『な、いきなりなんぜよーーーー!!?』 美琴「は?」  直後殴り合う音。 美琴「わ、解かんない!馬鹿だとは思ってたけど、ここまでイカレてるなんて………」  上条の意味不明行動にさすがの美琴もややショックを受けるのだった。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第1章 とある雪の日の二人 12月29日 PM2:30 雪 上条「うう。さ、さみい!ほんっと狂ってるだろこの天気。地球温暖化の話はどこ行ったんでしょーかねー!!」  プチ氷河期にでも入ったのではないかと疑いたくなる寒さだ。チラチラと粉雪まで降っている。  数えてみればクリスマスの頃から連日のように例年にないほどの大雪に見舞われていた。とは言っても土地柄積もるほどでは なく、大体はすぐ溶ける。むしろ問題なのは雪が降るほどの寒さの方だ。数日前から温度計の値がゼロの付近を行ったり来たり していたが、この日は下の方で最大振り幅を記録《マーク》している。  上条としては寒くて家から、というかコタツから一歩も出たくなかったのだが、食料がほとんど底をついたので背に腹は替え られず、仕方なしに重い腰を上げて近所のスーパーへ行き、いつもより多めの買い物を済ませてきた。今はその帰りである。  もう一つ先に行ったスーパーで特売があったのだが、さすがにこの寒さで遠くまで行くのは堪える。 上条(今年が特に寒いのか、冬を経験するのが初めてだからかどっちなんだ?)  とある事情で記憶喪失である上条には『冬は寒い』という知識はあるのだが、『この寒さが普通なのか』というような感覚 がイマイチ分からない。  偶然会ったクラスメイト数名に「今年は寒いな」と聞いてみたのだが、冬なら大抵の人はそれを肯定するらしく、結局答え は出なかった。天気予報は天気予報で、暖冬だと言ったり寒冬だと言ったりで全く要領を得ない。 上条(まぁどっちでも寒いのには変わりねえんだけど。いっそコート買っちまうか………でもすぐ駄目になるしもったいない     んだよなあ)  そんなことをここ最近何度も考えているのだが、結果は全て同じであった。それほどまでに寒さというのはダイレクトに体 の芯へ攻撃を与えてくる。三枚重ね着してもまだ足りないらしい。  一番上に着た黒系のスウェットシャツの襟元から冷たい空気が入ってくる。  上条は思わず美琴からもらったマフラーで隙間を塞ぐと、そのままマフラーに顔を埋め、鼻で息を吸ってみる。  少しだけ美琴の匂いがした気がしたが、寒いためか鼻があまり効かない。 上条(クソ。心までさみーぜ………って、こんな短期間で禁断症状が出るのはどうなんだ?)  美琴とは二十五日の朝から会っていない。  そもそも恋人同士だからと言って毎日会うべきなのかどうなのかも分からないし、そんなことを相談できる人も居なかった。 その上事件に巻き込まれる体質は相変わらずだし、追試やら補習やらもあって結構空いている時間は少ない。結局理由が無い 限りは今まで通りというスタンスを取ることにした。  一応何度か理由を作って会おうと思ったのだが、いざ考えてみるとそれが中々難しい。  過去を振り返ってみると、美琴と会うのは大概偶然か、美琴からのアプローチであったことに気付く。 上条「うだぁー。このままじゃ駄目だ………………っと、近道近道」  独りごちながら数歩下がって一つ細い道へ入る。例の自販機へと向かう方向だった。  その道へ入って数秒後、上条は白い息と共に長い溜息を吐いてげんなりする。 上条「(どう考えても物凄い遠回りじゃねえか、何言い訳してんですか上条さんったら)」  『いざというときの待ち合わせ場所』と、そう決めたはずの場所であった。しかし昨晩メールした時に携帯は正常だったの で、恐らく今はそんな非常事態ではない。それに来るわけもない相手をこんな寒い中待っているはずがないのだ。だからこれ は単にちょっとした自分の弱さでしかない、と上条は反省しようとする。 上条(うう。もうだんだん『会いたいから会う』だけで良い気がしてきたな。こう言うのは片意地張る方が馬鹿みてえだ)  そもそもそんなの自分らしくない。帰ったら携帯でその旨連絡してみようと決意する。  しかし角を曲がって自販機が見えてきたところで、結局それも先を越されたことを知る。  上条は居ないはずと思っていた人間が前方に居るのを発見した。 上条(……………何やってんだ?アイツ)  御坂美琴はそこに居た。  制服にコートという傍目に寒そうな格好で自販機の横にしゃがみ込み、口から白い息を小さく吐きながら何やら20センチ メートルくらいの小さな雪だるまを一生懸命作っている。  その雪だるまはそろそろ仕上げのようで、小枝で出来た腕やら、小石で出来た目やボタンなどが既に付いていた。今は一体 どこから拾ってきたのか松のような針葉樹林の葉を雪だるまの頭へブスブスと何本も突き刺している。 上条(誰のつもりだよそれ)  数秒後、どうやらそれは完成したようで、まるで可愛い仔猫でも抱くかのように両手で目の前の高さまで持ってきて眺める。 その間、顔は終始ニヤケ面だった。しかしそれは長く続かず、眺めている顔は徐々に曇っていき、ついには雪だるまを地面に 置いてしまう。  雪だるまを見ながらはああああぁぁぁっと白く長い溜息を吐いた。 上条(………近づきがたいオーラがバリバリ見えてるんですが)  以前なら触らぬ美琴に祟りなしとばかりに回れ右をして逃げす準備をしていただろうが、もちろん今はそんなことしない。  上条は針葉樹林の葉よりは柔らかい自分のツンツン頭を掻きながら、叫ぶために少し大きく息を吸い、走り出す。 上条「おーっす御坂!!」  美琴はビクッ!と肩を振るわせながらも素早く上条の顔を見て、すぐにパァっと満面の笑みを浮かべた。しかしそれも一瞬で、 急に慌てて目の前の雪だるまを踏みつぶそうとする―――――が、足が寸前で止まりプルプルと少し震えて、結局諦めたのか その雪だるまをそっと足で隠す。  『なんでもないわよ?』といった風を装っているが一連の動きのせいで何の意味も成していない。 上条「……こんな寒い日にこんなとこで何やってんのお前。カバン持って」  美琴から少し離れたところには旅行用キャリーケースが置かれていた。1メートルはあるだろうか、小さい子供なら入れる くらいの大きめサイズで、白とピンクと黄色の可愛い花柄模様である。 美琴「べ、別にー?ただ何となくよ文句あんの。実家に帰るとこなんだけど、早めに寮を出たら時間がかなり余っちゃっただけ」  美琴はこの数日悩んでいた。  上条の家に押しかけるだけの大きな用事があるわけでもないし、冬休み中なので待ち伏せも出来ない。遊びには誘おうとした のだが、これまでと違い上条は恋人なわけで、恋人同士とは一体どういう遊びをするものなのだろう?と苦悩しだした。  その悩みは考えれば考えるほど泥沼にはまっていき、ついには『そもそもどういう顔をして会えばいいんだろう?二十五日に 私はどういう風に接していたんだっけ?』という疑問が出るほどに思考がゲシュタルト崩壊していく。  するとそれは徐々に不安に変わっていき、『恥ずかしくなって逃げ出さないか』とか『ちゃんと自然に話せるのか』とか『素直 になれず嫌われるようなことをまたしてしまわないか』なんてことまで考えるようになってしまう。  そんな風にあれこれ悩んでいるうちに帰省日当日になってしまった。仕方がないので今日はそれを材料に上条宅に向かおうと したのだが、もし上条に「わざわざ行く前に報告しに来たのか?携帯で良かったのに」なんて空気の読めないことを言われたら ショックなので、他にも言い訳を考えながら彷徨い歩いていていたのだった。  そうしたら自然とここに辿り着いていたのである。  いっそ偶然会えるのではないか、なんて期待したのかもしれない。 上条「帰省……って今日か。なんつか、悪かったな会えなくて」 美琴「うん……………」  しかしいざ上条を前にするとそれまでの悩みはどこかへ行ってしまう。というか悩んでいたことすら忘れてしまっていた。  こんなにも寒いのに、体の中は太陽の光を浴びているように穏やかな暖かに満たされ心地よい。自然に顔が綻びそうになる。 上条「………あー、もしかして御坂たんは、寂しくて泣いちゃったりしちゃいましたでせうか?」 美琴「なっ!ばっ、んな分けないでしょ!」 上条「お、図星?…………ってジョーク!ジョークだからっ、ビリビリ禁止ー!!」  美琴は体の周りでバッチンバッチンと鳴る電撃をしまい、プイっと横を向いてしまう。 上条「あ、一応聞くけどさ、非常事態……ってわけじゃねえよな?」 美琴「………………非常事態よ」 上条「へ、何かあったのか!?」 美琴「………………………」  実際、美琴の心の中はここ最近非常事態と呼べるほどだった。  上条に真意をさらけ出して恋人同士になれば思い煩うことなんて無くなるだろう、胸のつっかえが取れて自然と素直な自分 で上条に向き合えるだろうと思っていた。しかし実際は全く逆で、会えない日が一日一日と増える毎に胸の痛みは前以上に増 していく。  一応メールは毎日、電話もたまにしているのだが、それくらいでは焼け石に水である。近くに居たい、馬鹿みたいな会話を していたい、触れたい、触れられたいなどという欲求が時を追うごとに身を苛み、頭は上条でいっぱいになって他のことは何 も手に付かなくなってしまう。  それはもう、雪で上条を作ってしまうほどに。 美琴「さあね。んで、アンタは買い物帰り?」  実は今にも抱き付きたい程気持ちが高ぶっていることを不満そうな表情の下に覆い隠し、投げやりに尋ねる。 上条「??まーそうだけど。近所のスーパーまで」 美琴「ふーん……………………」 上条「……………………………」  告白後再会するのはこれが初めてだからか、二人は若干ギクシャクしているような気がしてしまう。それとも元々こんな だっただろうか。  冷静になって改めて考えると、相手が自分を慕っていて、しかも自分の気持ちを知っているというのは何だかくすぐったい なと二人は似たような感想を抱く。 上琴「あの…さ」「ねえ」 上条「な、何だ?」 美琴「そっちこそ何よ」 上条「………んじゃ俺から」  顔をぽりぽり掻きながら視線を逸らしつつ言う。 上条「えっと………時間あるんだったら、その、うち来ねえか?なんつかほら、近いし。寒いだろ?」 美琴「行く!」  即答。 上条「そ、そか。んじゃ行こうぜ。で、お前の話は?」  美琴は約3秒ほど固まったあとそれを完全無視し、雪だるまをキャリーバックの上に置くと、それを転がしつつ先陣を切って 歩き出した。 美琴「さ、ぼけっとしてないでさっさと行くわよ寒いしレッツゴー!」 上条「………つか、何で俺んちの方向知ってんだよ?」 美琴「う………」  足がビタリと止まる。 美琴「し、知らないわよ。案内して!」 上条「……………」  上条が美琴に追いつく。 上条「んまぁ細かいことはいっか……………ちょっと思いついたことがあるんですが」 美琴「何よ」 上条「えーっと………案内するなら手ー繋いだ方が良いかもなー、とか思ったりなんかして……」 美琴「そ、そうかもね。たまには良いこと言うじゃないアンタも」  実は両者とも我慢の限界であった。『触れたい』という感情だけが心を支配する。恥ずかしさなんて小さすぎる問題でしかない。  美琴はン!と言いながら思いきり左手を差し出した。  上条は猫の刺繍が入った黒っぽい手袋を片方だけレジ袋に詰めると、その差し出された左手を右手で掴む。  瞬間、能力は封じられたはずの手からピリピリと電気のようなものが流れてきたような錯覚を二人は感じた。それも不思議な ことに、何とも心地よい電気である。 上条「………うっわ、つめてっ!!お前何時間あそこにいたんだよ!?あ、つか雪触ってたせいか」  そんな文句を言いながら、上条は美琴の手を温めようと自分の上着ポケットに乱暴に突っ込む。美琴はその行為をポーッと 弛緩した表情で眺めていた。  ポケットに入れられた一組の手はその中でより相手に密着できる形を探し、最終的にいわゆる恋人繋ぎ状態に収まる。  脇の下あたりがムズムズするほどその行為は刺激的で、自分達のテンションが変な方向に飛んでいくのが分かる。 上条「んじゃ行くか」 美琴「ふぁ………う、うん」  上条が歩き出すと緩やかな調子で美琴の体がそれに付いていく。  キャリーケースの音だけが二人の周りでガラガラとうるさく響いたが、二人にはほとんど聞こえていない。  その意識の大半はポケットの中に閉じ込められたままだ。  ◆  上条が住んでいる寮のマンション。そのエレベーターが七階に止まり、中からニュッと黒いツンツン頭が覗くというシュール な光景がそこにあった。しかし帰省時期のせいか、はたまた雪が音を吸ってるのか、不自然なくらいそのマンションはシーンと 静まりかえっていて誰もそれを見ている様子はない。 上条「よし、誰も居ねえな。行くぞ」 美琴「うん」  そう言うとやや小走りに自分の部屋へ駆け出す。美琴はそれにピタリと付いていく。  二人の手はまだ上条が着ているスウェットシャツのポケットの中だ。 上条(我ながら危ねえことしてるよなあ………)  暑くもないのに顔が若干汗ばむ。  命が掛かるような危ない橋をいくつも渡ってきた上条だが、これはこれで中々スリルがあった。  上条の部屋に入った女性は美琴が初めてではない。しかしその相手は、万が一ご近所に存在がばれても大してまずいよう な関係でも無かったため、さほど緊張はしなかった。  だが今回の相手は違う。もし寮の知り合いに美琴との関係がばれたら十中八九クラスメイトにばれるだろうし、さらにそう なると半自動的にほとんどの知り合いにも噂が伝搬する恐れがある。 上条(俺の第六感が全力でそれはヤバイ、死に直結するぞと訴えている)  しかしそれでも手は離したくなかった。というか接着剤でも付けたかのように離れそうにない。脳の深いところで手を離せ という命令を完全抹殺されているような感じだ。  上条は買い物袋を一旦置くと、ポケットから鍵を取り出し急いで回す。  と、その時―――― 土御門『なにィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??』  廊下まで響き渡る土御門の声。  どっきーん!!と上条の心臓が誇張なく跳ねる。慌てて扉を開き美琴の手を引きつつ中に入った。ただし扉は静かに閉める のを忘れない。 上条「(…………………………な、何だったんだ今の?)」  息を潜めて美琴と目を合わせる。 美琴「(さぁ?隣の人…………って土御門?)」  数秒後、ガチャンという扉の開く音、そして話し声がした。 舞夏『どーするんだ兄貴ー?』 土御門『にゃー。ちょーっと大事な男の会議をするだけだぜーい』  うっすら聞こえてきた会話から、上条はかなりマズイ状況だと認識する。 上条(この馬鹿、入ってくる気かよ!?)  部屋の奥の方へ行ってるようにと上条がジェスチャーで伝えるが、美琴は何故か首を振って動こうとしない。手も繋いだままだ。 離してくれない――――と言いたいところだが上条の右手もギューッと掴み続けていて一向に離そうとする気配がない。  上条が手をバタバタしている内にピンポーンと呼び鈴が鳴る。 土御門『おーい、かーみやーん』 上条「……………………」  数秒して呼び鈴が再び鳴らされる。 上条(ちょ、ちょっと待て………これ、もしかして詰んでしまわれていないでせうか!?)  顔が青ざめるのを感じる。 土御門『居ないのかにゃ?入るぜよ』 上条(やべっ、鍵空いてんじゃん!?)  ガチャリ――――とドアノブが下がりドアが開き掛けるかという瞬間、ガッ!と上条はドアノブを思い切り引いた。もちろん 空いていた左手で。  土御門は一瞬ドアのチェーンロックが作動したかと思ったが、鍵を掛けた時とは違う明らかに不自然な感触で上条の存在に 気付いた。 土御門『居るじゃねえか!!テメェ、舞夏とイチャ付きながらぬいぐるみ作りしたとかブチ殺されてえようだにゃー!!今すぐ      開けやがれ全人類の敵!!!そして死ね!!!上条属性の餌食になんて俺がさせねえええええええ!!!』 上条「って、何かと思えばそんな話かよ!今忙しいから明日にしろ明日に!!――――あ、ちょっと待て、イチャ付いてなんか     いないですよ!?ホントデスヨ!?オイテメェ土御門、どっかの誰かが誤解するじゃねえか今すぐ撤回しろ!!舞夏も     そこに居るんだろ、馬鹿兄貴に何か言ってやってくれお願いしますー!!」  土御門にばれるのも恐ろしいが、一瞬横からそれより恐ろしい殺気を感じた気がして全方位に弁解発言をする。 上条「み、御坂さーん。お願いします。鍵、鍵ィ!!…………いえ何でもないですすいませんでした許して下さい!!」  小声で近距離の美琴に叫んでみたものの、美琴のジト目を確認すると諦めて顔をドアの方に戻した。 上条(つか、片手で、あの体力馬鹿と勝負とか、無理なんですけどーッ………!!)  右手を美琴の手から離せばどうにかなりそうだったが、何となくそんなことをできるような空気ではなかった。もしこの 状況で雷撃の槍なんか出されたらひとたまりもない。 上条「ぬぐううううぁぁあああああああああ!!」 土御門『に゛ゃああああああああああああああああ!!』  土御門は両手に足も使って引いているらしく、ギリギリと扉は開いていく。  ふと、徐々に開きつつある僅かな隙間から舞夏の瞳が覗いた。  こんな寒い日だというのに律儀にメイド服を着込んでいるんだなぁ、とか上条は現実逃避をしてみたが、舞夏のにまーっとした 笑顔を見て、何かの終焉を悟る。  上条に次いで、美琴も舞夏と目が合う。トドメに繋いでる手も見られる。  やっぱ詰んでしまわれましたかー、とか上条は諦めそうになったが、一応やけくそ気味に誤魔化してはみる。 上条「はっはは。よ、よう舞夏!久しぶりー……でもないか。あの………、何と言いますか、何卒、何卒御容赦をば!!」 土御門『テメェ上条当麻!俺の義妹を呼び捨てにすんなと何度言わせるにゃー!?あと気軽に電波会話を楽しんでんじゃねえぜよ!!』 上条「黙れこのシスコン野郎!!」 舞夏「なーなー上条当麻他一名ー」 土御門『ん、舞夏、誰か他に居るのか?』 上条「居ねえよ!!は、はい。何でございませう?」 舞夏「結局あのぬいぐるみは役にたったのかー?」  上条と美琴はチラッとお互いを見た後、コクコクと頷いた。 舞夏「そっかそっかー。それは良かったー」  そう言うと満足したように顔を引っ込めた。 舞夏「兄貴ー。私はもう帰るぞー」 土御門『うにゃーっ!?そ、それは無いんじゃないかにゃー?早すぎるぜよ』  土御門が妙な奇声を上げて力を抜いたため、ドバン!!と凄い音を立てて扉が一気に閉まる。  上条は思わず倒れかけたが何とか持ちこたえて鍵を閉めると、安心してその場にへたり込んでしまった。 舞夏『いやいや、年末のメイドさんは大忙しなんだぞー』 土御門『ああ、そうだったな。仕方ないのにゃー』 舞夏『それじゃまたなー』 土御門『待て舞夏。忘れものだ』 舞夏『なん………んっ…………………………………』 土御門『…………………………………………………』 上条(え、土御門さん?え、何この沈黙??………何で、何で息する音だけ聞こえるの???)  まさか、いやまさかと思いつつ隣を見ると、一緒に座り込んでいる美琴も驚いた顔をしてそわそわしていた。どうやら同じ ことを予想しているらしい。 上条(いつの間に兄妹でそんなことに……まさか最初から!?) 美琴(そう言えば土御門の趣味って………) 舞夏『プハッ!なが、長すぎだぞー』  これ以上聞くのはショックが大きそうなので、上条と美琴は繋いでいた手を離して静かに移動することを決める。  靴を脱ぐのに少し時間が掛かかりそうな美琴を置いて、上条は先に素早く移動し、ベランダの窓に鍵を掛けカーテンを閉めた。  土御門がこちらから進入してくる可能性もあるためだ。  舞夏『ん?兄貴兄貴ー、雪だるま版上条当麻発見!!』  しかし廊下を歩いてきた美琴がそれに反応して停止。  先程の雪だるまは部屋に入れるわけにはいかないので仕方なく外の手すりの下に置いてきたのだった。美琴としてはあまり いじって欲しくない。 舞夏『………こ、これは中々、細部にまでこだわりを感じる一品だぞー!道具を使わずそこら辺に落ちてるような物でよくぞ     ここまで似せられると感嘆してしまうなー。作り手が普段からよく観察してるんだろうなー。うひひ、ニヤニヤしちゃう』 土御門『ちょっと貸してくれにゃー』 舞夏『ほい』 土御門『ほんとだにゃー。壊したくなるほど良く出来てるぜい…………』  その言葉に美琴は思わず駆け出す――――が、ほんの少し前にそれに気付いた上条が慌てて美琴の右手を取り止める。  更に美琴が叫びそうだったので、強引に引っ張り後ろから左腕でウエストを思い切り抱きしめた後、右手を美琴の口へ持って いき押さえる。 美琴「ちょっ……んー!!んー!!!」 上条「(ストーップ、今出ていったら元も子もねえ!)」 土御門『上条当麻。お前、中々良い奴だったぜよ。だが、これでさよならだにゃー』 舞夏「あ、あーー」  土御門元春の手から雪だるまが落ちる。マンションの七階から地面へ向けて――――― 美琴「んんんーーーーーーー!!!(雪麻ーーーーーーー!!!:さっき命名)」  美琴は前へ左手を突き出した状態で固まったまま沈黙。  雪だるま殺しを終えた極悪人、土御門元春はどうやらそれでそこそこ満足したらしく、舞夏と分かれると隣の部屋へ戻っていった。 上条(雪麻、俺の身代わりになったお前の事は絶対忘れねえぞ!!)  心の中で敬礼する。ちなみに雪だるまの名前は右手の振動から何となく感じ取った。  美琴が左腕を下ろしたのを確認して、上条もゆっくりと両手を美琴から離した。 上条「悪い。助けて、やれなくて」 美琴「………………………ふっ」  美琴の肩が震えた。  もしかしたら泣いているのかもしれない。 上条「でも…」 美琴「にゃー」 上条「!!??」  瞬間、目の前の美琴から青白い電撃が放たれ、仰け反る上条の目の前をギリギリでカーブする。気付くと幻想殺しは脊髄反射的 に美琴の肩へ乗っていた。  上条はそのまま美琴の体をグルッと180度回転する。 上条「…………………お、お前なあ。雪だるまのことじゃなかったのかよ」 美琴「だって、だって、アンタがいきなり強く抱きしめるから……」  美琴の顔は不自然な笑顔のまま固まり、体はふにゃふにゃであった。  上条は呆れるように溜息を付く。 上条「とりあえず部屋まで歩けんのか?」 美琴「ばっ、馬鹿にすんな!」  とは言うものの美琴の足は若干ふらついていた。上条は美琴の肩に手を置いたまま後ろ向きで誘導する。 上条「う、いっつ!」  しかしリビングまでは辿り着いたのだが、あと何歩かと言うところで上条が床の漫画雑誌を踏み、バランスを崩す。  思わず美琴の肩に掴まってしまうのだが、美琴は大した抵抗もなく一緒に倒れてきてしまう。 美琴「ふぇっ!」 上条「え、ちょっ!まっ、待てコラッ………うわっ!」  上条は自分の体だけで立て直そうとするが、美琴もそのまま転びそうだったのでその体を後ろにあるベッドへ倒そうとする。  しかし上条より一瞬判断が遅れて美琴が上条の体にしがみついてきたので、結局二人揃ってドサッ!とベッドへ倒れること になった。  二人分の体重にベッドのバネが上下する。 美琴「……………………」 上条「……………………」  上条の両腕は美琴の背中に回り、美琴の両腕も上条の脇の下を通して胴体を抱いている。上条の膝は立っていなくて、二人の 脚はお互い絡んでいる状態だ。  つまり簡単に言えば、上条が美琴をベッドに押し倒した構図である。  一拍おいて、二人の顔がカーッと煙が出そうなくらい赤くなる。  クリスマスイブに似たような状況になったが、アレはあくまで硬く冷たい床の上。今はベッドの上である。  その違いが分からないほど二人は子供ではない。 上条「わわわ、わりい!」  体が密着し、冷え切った体がお互いの体温で温められ、逆に今度は熱くなってくる。 上条(まずい……はな、離れねえと)  上条としてはズバッ!と離れたかったのだが、腕が美琴の下敷きになっていて動きにくいし、今離れたら漏電で部屋の中の 家電が大惨事になるのではないかという考えが頭をちらつく。  結果中途半端に身じろぎすることになり、お互いの体が擦れ合って二人はさらに慌てる。 美琴「あ、う、何すんのよ、ばか………あ、あああ、あの………でも、わ、わたわた、私、私はそのアンタが、その……だから」 上条「だー!落ち着け落ち着いてそして何も喋らないでくださいー!!耳、耳がゾワゾワするからっ!!今離れるって」  今、上条の脳内では理性と本能が激しい攻防を繰り広げている。  こんなカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、ベッドの上で抱き合っている状態で、もし本能側にドーピングを注入するような 甘い台詞でも言われてしまったらパワーバランスとか人格とか色々なものが崩壊しかねない。  いっそ「何すんのよ馬鹿ー!!」と腹を蹴られた方がこの状況を打破できるので上条としてはありがたかったのだが、そんな 様子は微塵もなく、美琴の両腕はしっかりと上条を抱いたままだ。 上条(何で初めて家に招いてわずか数分でこんなことになってんだ………)  脳内の理性陣営はそんなトラブル体質の自分がちょっと情けなくて泣いている。  対して、本能陣営は歓喜に湧きウオオオオオと雄叫びを上げている。意外と華奢な肩、柔らかくて暖かな体、程よく引き締ま った滑やかな脚など、美琴の四肢をコート越しにではあるが余すことなく感じようと先程から『もっと動け!攻めろ!味わえ!』 と脳髄へ勝手に指示を出し続けている。  その命令をどうにか精一杯無視して上条はまず片膝を立て、お互いの体をわずかに離した。  美琴の顔が見えたが、真っ赤になりながら思いっきり横へ向けて、目をキョロキョロと泳がせている。 上条「へへへ…へ、大丈夫大丈夫。ゆ、ゆっくり、ゆっくり起きますからねー、ゆっ…………………………う!?」 美琴「?」 上条(待てっ!…………お、起きなくて良い、お前は起きなくて良い、寝てろ!今は全力で寝てろ!!ほんとお願いします勘弁     して下さいよ相棒) 美琴「……………な、何よぉ?」  上条の動きが止まり、その頬が引きつっているのを不審に思い、美琴は半分裏返った声で尋ねる。 上条「な、何でもない何でもない全然何でもないので御坂さんは甘えた声出さないで下さい」 美琴「ばっ、だ、誰も甘えてなんかないわよ!!」 上条「わー馬鹿暴れるなって!!げ、限界が来る………」  慌ててもう一方の膝も立てて腰を高く浮かす。  しかし、もはやこの体のままでは起き上がることは出来ない。起き上がると色々まずい。尊厳というか恥辱というか命というか、 多くの物にクリティカルなダメージを受ける気がするのでとにかくまずい。 上条(とりあえず自己嫌悪は後でするとしてだな…………ど、どうする)  危機の打開へ向けて脳をフル回転させる。 上条「……み、美琴」 美琴「ひゃい!」 上条「お前に大切なお願いがあるんだけど」 美琴「えっ………」  美琴は数回口をパクパクさせたあと、 美琴「わ、あ………は、はい………分かった。なに?」  何かの覚悟を決めたように上条をやや上目遣いで真っ直ぐ見据えながら頷く。  上条もそれを確認すると、真面目な顔で一度頷く。 上条「目、瞑って欲しいんだ」 美琴「!!」  美琴は一度唾を飲み込むと、ゆっくり瞼を閉じた。 上条(よ、よし。これでオーケー。とりあえずこのまま起き上がろう。このまま………この………まま?)  間近の目を瞑った美琴を見る。肩まで届く長さのツヤのある髪がベッドの上で乱雑に広がっている。滑らかな頬や可愛い瞼は 少し痙攣していて、何かされるのではと緊張している様子が伺える。胸のあたりはいつもより速めに上下していた。恐らく鼓動 もそれに合わせて素速くリズムを刻んでいることだろう。今の上条と同じように。  美琴は再び唾を飲み込むと、一度だけ口で息を吸い、また固めに口を閉ざす。  上条は知っていた。その唇の柔らかさも、感触も、味も、湿り具合まで――――― 上条(…………う、やばい!気を緩めたせいか見蕩れちまった。こんな時は深呼吸ですよね深呼吸)  一度自分でも唾を飲み込み、口から息を全て吐いたあと、鼻で思い切り息を吸う。  すると今度は美琴からするいい香りが胸いっぱいに満たされ、それが上条の脳に麻薬のような衝撃を及ぼす。陶酔して頭が ボーッとしてしまう。 上条(えっと………、まあキスだけなら別に良いよな………?)  それで止まるわけなんかない、と冷静に考えれば思ったかもしれない。しかし上条はもはや冷静ではいられなかった。  自分の顔を徐々に美琴へと近づけていく。  頭の中は過去に触れた美琴の唇に関する記憶だけがグルグルと回る。 美琴「(あ、あの………)」  美琴は目を瞑ったままか細い声を出した。  唇と唇の距離はもうほとんど無い。 上条「ん?」 美琴「(え………っと。私からも、お願いが………あるんだけど)」  目を瞑ってはいるが声や気配ですぐ近くに顔があると気付いたのかもしれない。  それほど小声になっていた。 上条「なに?」 美琴「(…………誤解、しないで聞いて欲しいんだけど)」 上条「………」 美琴「(お願い………やさ、優しく………優しくして?)」 上条「!?」  その可愛げのある台詞に一瞬上条の本能が爆発しそうになるが、それをやや上回るかのように理性が回復する。 上条(………何やってんだか俺は。美琴は仮にも十四歳の女の子だろうが)  冷静になってようやく気付く。美琴の声に不安の色が多分に含まれていることや体が小刻みに震えていること、瞼が以前より 固く閉じられていること、それに自分の背中に回っている腕に変に力がこもっていること――――  上条は単に美琴を脅えさせているだけのようだ。 上条「おう。優しく、な」  だから少し明るく言って、美琴の頬に軽く口づけだけした。 美琴「ん……」  それだけでも顔を真っ赤にしてくれる美琴が何だか愛おしい。  しかしそれ以上は何もしない。 上条「(続きはまた今度な)」  恐らく聞こえないだろうというくらいの小さな声でそう囁く。 美琴「ふぇ?」 上条「右手、離して良いか?」 美琴「え、う………多分まだ駄目。体がふわふわする」 上条(………漏電状態って結局何なんだよ)  上条は自分の体を抱いていた美琴の両手を優しくほどき、その左手だけ掴んだまま体を起こす。  その様子に、上条が何もするつもりがないということに美琴も気づいたのか、詰めていた息をプハーと一気に吐き出す。 美琴(………何よ、せっかく人が覚悟したっていうのに)  とか思ってみたが、内心かなり、というかほとんど不安でいっぱいいっぱいなのは事実だった。  今はまだ上条のそばにただ居るだけで十分ふわふわになれる。 美琴「んで?私は目ー開けていいわけ?」  そんな内心をとにかく隠そうと、やや怒ったような調子で喋る。 上条「え、ああうん……いや、ちょっと待て良くない!!」 美琴「はぁ?……アンタまさか何か隠してるんじゃないでしょうね!?」  美琴は目を開きガバッと勢いよく起き上がる。  そして上条を見る。 美琴「…………何してんの??」  上条は何故か左手でベッドの上にあったはずの枕を持っていた。本当に、ただただ所在なさそうに持っていた。敢えてもう 少し状況説明を加えるなら、股間を隠すように持っていた。 上条「全然何でもないですぞ姫。私めはそろそろ枕を干さなきゃなーとか思って枕を取り上げただけかも。決して怪しくは     無いんですのにゃー!!」 美琴「アンタ頭大丈夫?顔色も悪いわよ??」 上条「だぁーいじょうぶ大丈夫だからそれ以上近づかなくていいっつかそこに居ろ。で、右手離して良いか?上条さんは枕     干したくて堪らないんですが」 美琴「んー??ああ、右手ね、多分大丈夫よ……ってこんな日に?雪降ってるわよ?」  訝しげな表情で上条の体を上に下にとジロジロ見る美琴をよそに、上条は右手をそーっと離す。 上条「いやいやー思い立ったが吉日って言うじゃないですか、さー枕干してこよーっと」  物凄い早口で言いつつササササーっと窓際まで平行移動し、素早く鍵を開けるとカーテンの向こうへと消える。 美琴「怪しい、なんてもんじゃないわね……枕の中に何か隠してあったのかしら?」  美琴が顎に手を当てて考え込んでいると、ベランダからバキッバキッというプラスチックの板を踏みつけるような音がした。 かと思うと、次の瞬間には何故か隣の部屋から上条の声が聞こえてくる。 上条『うぉらああああああああああああ土御門ぉおおおおおおおおお勝負しに来てやったぞぉおおおおおおおお!!!』 土御門『な、いきなりなんぜよーーーー!!?』 美琴「は?」  直後殴り合う音。 美琴「わ、解かんない!馬鹿だとは思ってたけど、ここまでイカレてるなんて………」  上条の意味不明行動にさすがの美琴もややショックを受けるのだった。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー