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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/03章 - (2010/04/18 (日) 14:49:46) の最新版との変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第3章 帰省1日目 思い出の無いアルバム  二階には四つの部屋があり、階段を上がってすぐ目の前の所が寝室、右側が和室と洋室、左側が書斎となっているようだ。  二人は古めかしい階段をギシギシと音を鳴らしつつ上ると、ほんの少し迷って各々自分の目的地へと入っていく。  美琴は上条から借りたパジャマのズボンを穿き、汚れたスカートと短パンを二階に来た詩菜へ預けると、洗濯が終わるまで する事もないのでとりあえず上条が居る和室へと向かった。  立て付けが悪いせいで少し抵抗がある木目調のドアを開ける。 美琴「………………………」 当麻「(あの…………謝るのでとりあえず無言でビリビリさせるのやめて頂けませんでせうか)」  何故か上条は乙姫と一緒に布団に入り抱き合って横になっていた。  美琴はそのあまりにもいつも通りな展開に呆れ、溜息の代わりに電撃を体から吐きだしてみる。 当麻「(だー違う! 多分今お前が考えてる事はきっと誤解です。 乙姫が離さないだけで、上条さんとしては添い寝させられてる     状態であってですねえ…………………つまり何が言いたいかというと、ご、ごめんなさいー!)」  とりあえず言い訳はするが確実に謝っておく。  美琴は乙姫に当たるかもしれないのでいつもみたいにビリビリ攻撃するわけにもいかないし、乙姫を起こすのも可哀想だから 怒鳴り散らすわけにもいかない。 結果どうにもこうにもできずイライラしてしまい、仕方ないので上条を思いっきり睨んでその 気持ちを態度に表してみる。 当麻「(ひっ……………あ、あの、御坂さん、僭越ながらお願いが)」 美琴「(あん?)」 当麻「(す、すいません何でもありません!!)」 美琴「(何よ、言いなさいよ。 怒ってあげるから)」 当麻「(怒るのかよ!? ………えっと、俺のカバンからゲコ太さんを取っては頂けないでしょうか)」 美琴「(へ? ゲコ太?)」  美琴は言われたとおり上条のカバンを漁ると、中から美琴が預けたゲコ太のぬいぐるみが出てきた。  条件反射的に抱きしめてしまったが、そのおかげでイライラ指数が半減する。 美琴「(あ、アンタ。 可愛いもので私の怒りを抑えようだなんて、随分狡い真似するじゃないの。 悔しいけど効果絶大よ!)」 当麻「(はい? いやそうじゃなくて。 そいつを俺と取り換えてもらえねえか? さっきからコイツ離れようとすると目覚まして     怒るんだよ。悪酔いしすぎ)」 美琴「(へ?? あ、ああ。ってそういうことは先に言いなさいよ)」  照れ隠しに上条の頭を強めに突く。  美琴は溜息を付きつつ面倒くさそうに二人に掛かっている上掛け布団をそっとめくった。 美琴「…………………」  乙姫は腕と脚を使い上条の体をガッチリとホールドしていた。その頭は上条の首の部分に収まり、腹も胸もくっつけられ、脚は 一本ずつ絡まるように交互に挟められている。  一応恋人であるはずの美琴ですらここまでくっ付いた事はない。  それによく見ると上条の顔は赤くなっていて、どことなく嬉しそうにも見える。  美琴のイライラ指数が見事に回復、というかさっきの値を優に超えてしまった。 美琴「(あのさ、私ってエレクトロマスターのレベル5な訳じゃん?)」  美琴は小さく平坦な声で話し出す。 当麻「(な、何ですかいきなり)」 美琴「(能力《ちから》の手加減にも自信がある訳よ。 どんな能力者でも後遺症が残らない程度に気絶させられるくらいには)」 当麻「(…………………)」 美琴「(つまりね、例えアンタが乙姫ちゃんにくっついていたとしても、さすがにこの距離ならアンタにだけ害が及ぶように調節     くらい出来るのよね……)」 当麻「(ちょっと待って下さい!)」 美琴「(アンタ、今動けないのよね。一発くらいデカイの食らっても罰はあたらないんじゃないかしら?)」 当麻「(待てって! 俺不可抗力じゃんどうしようもないじゃん! ……ってオイバカ! そのビリビリの規模はほんとにコイツに     害無いのかお前自分を見失ってるだろ、冗談で済まねえからそれ!!)」  上条はどうにか右手を出そうとしたが、思い切り力強く抱きしめられているせいで上手く抜けなくモゾモゾと動くだけだった。  美琴は目元以外に薄い笑顔を浮かべると軽く上条の肩に触れる。 どうやら直接体内に電気を流す気らしい。 美琴「(大丈夫。 アンタは気絶するだけよ。 半日くらい)」 当麻「(ひ、ひいいぃぃぃ!?)」  しかし美琴が電気を流そうとする寸前、和室のドアがガチャリと音を立てた。 刀夜「当麻、居るか?」 美琴「ッ!? うわわっ!」  殺害現場(上条の感想)を見られそうになった美琴は驚き、ビクッ! と体を震わせ立ち上がろうとする。しかしだぼだぼの ズボンの裾を踏んでいたせいでバランスを崩しそのまま布団へとダイブしてしまった。  つまり簡単に言うと、『女の子二人に揉みくちゃにされている上条当麻』という構図のできあがりである。 刀夜「当麻……………」 当麻「ご、誤解だ父さん! 話せばまた長くなるんだけど清廉です潔白です無実ですぅ! だからホント家族会議に掛けるとか蔑んだ     目で息子を見るとかそういう心を抉るようなのだけは勘弁して下さいー!」 刀夜「当麻!!」 当麻「は、はい! ごめんなさい!!」  一瞬厳しくなった刀夜の表情が、次の瞬間には優しげなものに変わる。 刀夜「何を言ってるんだ。 私はこの程度の事で誤解するような頭の固い父親ではない。 きちんと理解している。 そう、これは     よくあるアクシデントだ。 父さんだって、たまたま偶然複数の女性に揉みくちゃにされて要らぬトラブルを招いたこと     なんて十回や二十回普通に経験がある。 そしていつも思う。 私ならばそう言うシーンで誤解なんかしてやらないぞってな。     だから息子よ。 父にだけはそう脅えなくて良いんだ、いくらでも言い訳して良いんだぞ。 父は何だって信じてやる!!」 当麻「と、父さんっ……!!」  上条当麻は、今回のような女性絡みのアクシデントを目撃した人で、これほど正しく理解し耳を傾けてくれた人間を知らない。  思わず真の理解者を発見した喜びに涙が出そうになってしまう。  ちなみに美琴は既に立ち上がっており、女難に塗れた二人の親子をジトーッと湿った目で見続けていた。 詩菜「あらあら。 良かったわね父と子で仲良く共感できて。 じゃあとりあえずその十回や二十回について寝室で詳しく聞きま     しょうか」  いつの間にか刀夜の後ろに立っていた詩菜が、気味が悪いくらい優しげに言った。  刀夜の優しげな笑顔が引きつったものに変わる。 刀夜「…………しかしだ当麻! 理解者というものはいつだって少ない。 出来ればアクシデントというのは未然に回避するべきだ。     じゃないとこうなるからな! はは、あはははは…………母さん先程のは一種の誇張表現という奴でして」  詩菜に引きずられ刀夜は寝室へと消えていき、バタンとドアが閉じた。 当麻「と、父さんんんーっ!! ………って、あれ?」  美琴がすぐに立ち上がったのは良いとして、いつの間にか乙姫による戒めも解けていた。  隣を見やると乙姫がゲコ太のぬいぐるみを抱いて布団を被っている。 恐らく皆の話し声がうるさかったのだろう。  上条が起き上がると、寝室のドアがそっと開かれ、詩菜だけが小走りで戻ってきた。 詩菜「(いけないいけない忘れてたわ。美琴さん、これで良いのかしら?)」  詩菜の手には洗濯が済んだ美琴のスカートと短パンが握られていた。  軽く脱水しただけなので濡れたままである。 美琴「(あ、はい。 ありがとうございます)」  美琴がそれを受け取ると詩菜は再び寝室に戻っていった。  上条は心の中で偉大なる父親に敬礼する。  しかしそちらを心配してる余裕は息子にも無いようだった。 美琴「(さて…)」  美琴が再び上条を睨む。 当麻「(ま、まだ何か?)」 美琴「(とりあえず隣行きましょか)」 当麻「(……はい)」  詩菜に負けず劣らず怖い笑顔を見せた美琴に戦きつつ、乙姫を起こさないようにそっと部屋を出た。  ◆  二人は部屋の三割くらいが雑多な物置スペースと化している洋室に入る。  美琴はスカートと短パンをハンガーで吊るすと、それをカーテンレールの部分に掛け、リラックスした休めのようなポーズを してただそれをボーッと眺め始めた。  たまにパチッパチッとかジューとか音がするため恐らく電気と空気の摩擦熱でも利用して水分を蒸発させているのだろう、全く 器用なものだと上条は適当に関心する。  幸運なことに、美琴がそれにかかり切りであったためどうにか折檻的なものは受けないで済みそうである。上条はさらに身の 安全を確実なものにするため別の話題を振って気を逸らす作戦に出ることにした。  ただし隣が寝室であり、刀夜と詩菜の声が少し聞こえる程度の壁の薄さであるため声は抑え気味に。 当麻「しっかし驚きましたなー」 美琴「ん。 どれが?」 当麻「全部だよ全部。 再会した事、家が近い事、親同士が仲良くなってる事、さらには外泊? これがドッキリだとしたら完全に     大成功だよ、っつかドッキリと言われた方が納得できそう」 美琴「はは、そうね。 私もアンタを見るまで半信半疑だったけど、実際ここまでは本当に歩いてこれるくらいの距離だったわよ。     寒かったから途中までタクシーだったけど」  ちなみにタクシーを降りたのは美鈴が「こっそり行って驚かせるわよん」と提案したせいである。 当麻「半信半疑ぃ~? 美鈴さんが言ってたアレは何だったんだ?」 美琴「あ、あんなのデタラメに決まってんじゃない! た、確かに少しは舞い上がって………、その、ドライヤーとか壊しちゃった     りしたけどさ…………ってそうじゃなくて! 私はどちらかというと相も変わらずアンタに節操がないことの方がよっぽど     びっくりしたわよ!」  上条の方を見ずに控えめに叫ぶ。  どうやら上条の話題振りは失敗したようだ。 話が元に戻っている。 当麻「そりゃこっちのセリフだ。 俺もお前が相変わらず攻撃的すぎてびっくりしたよ。 心臓が止るかと思ったよ。 しかも二度!!」 美琴「原因はアンタでしょうが! 人の母親に欲情するとかヤバイんじゃないの? 見た目はアレでも結構いい年よ?」 当麻「よ、よよよよ欲情なんかしてねーよ」  見られている訳じゃないのに美琴の方から目を逸らす。 美琴「ニヤニヤしてたじゃないのよ。 それに目瞑って感じ入っちゃって。 さすがにアレはちょっと引いたわ」 当麻「い、言いがかりだ。 目瞑ったのは別の理由があったんだよ!」 美琴「何よ別の理由って」 当麻「………………言えませんごめんなさい」 美琴「………………」 当麻「はぁぁー」  どうして自分達はいつもこうなんだろうかと呆れてしまい、上条は肩まで使い大きく溜息を付いた。 当麻「でもさ……」 美琴「まだなんか文句あんの」 当麻「違うから怒んなって。 なんつか、驚かされることばっかだけど、その大半は幸福の方だなって思ってさ。 上条さんの人生     では激レアなことに」  上条は窓際に居る美琴の隣まで来ると、目線より少しだけ低いところにある茶色の頭を右手でグリグリとなでた。 当麻「だろ?」 美琴「…………うん」  二人は去年のクリスマスイブの出来事を思い出す。  あの時、美琴は上条の不幸を取り除いて幸福にしたいと言った。  あの時、上条は美琴が不幸になっては意味がないと言った。  つまり二人は互いに相手を幸せにしたいと誓ったのだ。 そう考えれば、今日の出来事や、今日知った事は喜ぶべき物である。  上条は少しだけ恐ろしく思う。 もしあの日あの出来事が無くて今日を迎えていたら、きっと自分はまたいつものように「不幸だ」 というセリフを吐いただろう。 その時それを聞いた美琴は何を思っただろうか―――― 当麻「っとわりい、能力止まっちまうか」 美琴「いい。 いいから、そのまま………」  美琴は仔猫が母猫に擦り寄るかのように、頭を上条の手へと押しつけてきた。  子供扱いするなー!! とか言って怒られるかと思っていた上条はその意外な反応に鼓動を速くする。  時間は正午をそこそこ過ぎた頃だろうか、最近ではあまり見ていなかった太陽の日差しが、南東を向いた部屋の窓から差し込み、 その前に居る二人を包み込むように優しく温める。  二人の間にはもはや言葉は要らない。  上条の右手は美琴の細く柔らかな髪をなでる。  美琴は目を細め、頭と体を傾げて上条に少しだけ体重を預けた。  ただそれだけの事が本当に心地よくて、体の中がピリピリと痺れるくらいに幸福感を感じる。 当麻(ん……あれ、シャンプーの匂いじゃねえな)  近づいた美琴からはほんのりわずかに香水の匂いがした。 そう言えばさっき美鈴の話でそんな事を言っていた気がする。 学生寮 の美琴の部屋にあった『きるぐまー』の中の品でも持ってきたのかもしれない。  上条は香水の知識には疎いが、その香りは美琴に合っていて良い香りだと素直に感じた。 誘われるように香りの元へと顔が引き 寄せられる。 頭、顔、首筋………いやもっと下だろうか。  上条が身じろぎしたことに気付いた美琴は、勘違いしたのか完全に目を瞑って上条の顔の方へ自分の顔を近づけてきた。 上条は ドキッ!として数秒固まったが、やがて香りの探求をやめてそれに応じ、目を瞑る。  二人の顔が互いの唇を探して擦り寄るように近づく―――――が、 詩菜「美琴さん、入るわね」  そう上手く行かないのはいつも通りのようだ。  ドン! バラバラバラ!! と何かがぶつかる音と物が崩れる音が洋室内に響く。  ドアを開けた詩菜は何事かと思い部屋の中を覗くと、窓際では美琴が「ぬうううん!!」などと唸り、いかにも『今、超能力 使ってます』といった風に両手をスカートと短パンの方へ突きだしていた。 そして左下では、棚の前で息子が雑多な物の下敷き になって涙目で倒れている。 棚にぶつかって中の物が上から落ちてきたのだろう。 詩菜「あらあら。 当麻さんも居たの? お邪魔だったかしら」 美琴「な、なーんのことですか? 全然これっぽっちも問題なしですよ」 当麻「ふぐ……………、痛い。 地味に痛い」 詩菜「ごめんなさいね、ちょっとお洗濯物干させてもらいたくて……」  詩菜は丁度太陽がでてきたので日当たりの良いこの部屋に洗濯物を干しに来たのだった。 乾燥機がまだ直っていないうえに業者 が正月休みなので暫定的措置である。  美琴のスカートや短パンの隣りに上条家の洗濯物が吊るされ、カーテンレールが少し歪む。 詩菜「そうそう美琴さん。 下それで良いかしら? 別の物用意しましょうか? スカートとかサイズ合いそうなのを」  美琴の穿いている薄い緑色をしたパジャマは見るからにだぼだぼでサイズが合っていなかった。 ウエストのあたりは元々ゴムが入って いるし、紐も付いていたのでどうにかなったが、裾の当たりは何重にも折り返している。 実は元々上条にも若干大きめであるのだ。  それに上が常盤台中学の制服であるのでミスマッチも甚だしくダサダサな状態である。 もし黒子が居たら小言の一つでも言われそうだ。 美琴「ありがとうございます。 でも、どちみちすぐに母が戻ってくると思うんで大丈夫です。 それに暖かいですしこれ」  しかし美琴はそれを丁重に断る。  理由は色々あるが、とりあえず今スカートを穿くのは嫌な予感しかしない。 詩菜「あらそう? あ、当麻さん、私はちょっと用事を片付けてくるわね。 刀夜さんが会社に行かなきゃならないらしくて。 もし     お昼足りなかったらまだ下にあるから」 当麻「ん、分かったけど、父さんは仕事?」 詩菜「さあ。 すぐ戻ってくるとか言ってるけど、あまり信用ならないわね。 っと、それじゃあお邪魔虫はさっさと退散しよう     かしら。 当麻さんそれ元に戻しておいて頂戴ね」  詩菜は妙な笑みを浮かべ二人を見つめつつドアをパタンと閉じた。 美琴「(………ねえ。 ひょっとして、ばれてる?)」 当麻「(………かもな)」  そもそもあの母親に隠し事などそうそうできないのではないだろうか。  上条は別の意味でも気を引き締める。 当麻「よーいせっと………あーあーもう滅茶苦茶じゃねえか。 元通り入るのかこれ?」  上条は立ち上がると、自分に降り注いだ品々を一つずつ適当に棚に詰めていく。  料理の本、百科事典二冊、よく分からない海外のお土産、小物が入った紙箱、中身が入っていない貯金箱、ビジネス入門書、 漫画数冊、安物の写真立て、数年前の年賀状の束―――― 当麻「あそだ、年賀状サンキュな。 返事は言われた通り出してねえけど」 美琴「うん」 当麻「ケロヨン年賀状」 美琴「あれをちゃんとケロヨンって言えるとはアンタも成長したわね。 偉い!」 当麻「………カエル年じゃねえけどな」 美琴「細かい事言ってんじゃないわよ。 ていうか何でカエル年って無いのかしら、あの年賀はがき実はまだ相当余ってんのよねー」 当麻「………元旦に届いたって事は、出したのはクリスマスよりも前だよなあ」 美琴「そうだけど………あ、文面にツッコミ入れたら怒るから。 あの時は………まだああだったのよ」 当麻「へい」  美琴が赤くなるのを見て、何だか上条まで照れてしまう。 恐らく相当悩んだであろう文面は、今の段階で見ると確かに心が 見え透いていてかなり恥ずかしい。 当麻(あれ、そういややっぱり美琴の奴ってば俺の家の住所知ってたんじゃん………)  深読みすると色々考えてしまいそうである。  気を紛らわすために作業を続けた。  月刊パラグライダー10月号、電池、砂時計、CD、ラジオ、猫のぬいぐるみに恐竜のぬいぐるみ、古いパソコンのOSソフトと オフィス系ソフト、ヘッドフォン、『当麻』と書かれたクッキーの缶箱――――― 当麻「ん、何だこれ?」  缶箱の蓋を開けると、中には現像された写真とネガが大量に詰まっていた。  試しに上にあった袋から一枚だけ写真を抜くと、それは上条当麻がグラウンドを全力疾走している場面の写真であった。 手ぶれのせいか少しピンぼけしているが、姿と様子からして恐らくは大覇星祭の時だろうか? 美琴「なになに、大覇星祭の時の写真? アンタ走るの速………ってあれ、アンタ白組だったわよね?」  上条がボケーッと写真を眺めていると、美琴が乾燥作業を止めて覗き込んできた。  美琴の言うとおり、確かに去年の大覇星祭では上条は白組だったはずだ。 しかし写真の上条は赤いハチマキをしている。 美琴「それに若干幼い感じがするし、これってもしかして………」 当麻「だな。 そもそも今年……じゃなくて去年か、俺はこんな競技に出てないし」  写真は恐らく記憶を失う前の物であり、つまり缶の中身は上条当麻の昔の写真なのだろう。  数は優に百枚以上はありそうなので、もしかしたらアルバムから漏れた写真かもしれない。  普通の彼氏彼女ならここで「見せて見せてー」「えーやだよー」なんて軽い会話になっただろうが、残念ながら二人は普通 ではないのだ。 当麻「………………」 美琴「………………」  上条はその一枚目の写真を見つめたまま動かない。 写真を精査しているようにも見えるが、恐らく何か考え事をしているのだろう。  上条の瞳が小さく揺れ動き、瞼が何度も瞬きをしている様子を美琴はじっと見つめる。 その気持ちを読み解こうとするように。  次に自分はどう行動するべきなのだろうか。  写真は見たいのだろうか、見たくないのだろうか。  美琴に見て欲しいのだろうか、見せたくないのだろうか。 美琴(…………ううん違う。 そんな単純なものじゃないよね)  美琴はおもむろに右手を高く上げると、さっきのお返しとばかりに上条のツンツン頭を掴みわしゃわしゃわしゃー!!とかなり 乱暴になで回した。 力が強すぎて上条の首までつられて動く。 美琴「ったく、だらしがないわね。 見たいなら見る。 見たくないなら見ないでハッキリしなさいよ! 例えどっちでも私が傍に     居てあげるから。 アンタは一人じゃないでしょ?」 当麻「っていきなり何すんだよ、むちうちになるじゃねえか!? あと誰も見ねーなんて言ってないだろ。 見るべきだよ俺は。     まだ会ってない知り合いとか写ってそうだし…………、それに寮にも似たようなものが少しだけあったしな」 美琴「ふーん。 んで、私は見て良いわけ?」 当麻「……良いよ」  ほんの一瞬躊躇ってから肯定する。 当麻「約束だからな。 隠し事はしねー」 美琴「うむ。 よろしい」  二人は壁に背中を預け、フローリングの床に隣り合って座った。  少しお尻が冷たかったが、目の前の事に比べたら些末な問題でしかない。 当麻「……いいか?」 美琴「いつでもいいわよ」  確認してから上条は一枚一枚、数秒から数十秒かけて見ていき、見終わった物は缶に戻していく。 美琴「これが卒業式、こっちが入学式かしら」 当麻「みたいだな。 って俺どこだよ? 失敗写真が多いなさすがに」  中学校卒業式の写真、一端覧祭での写真、修学旅行での写真―――――  どうやら写真の中には学校で撮影して両親に受け渡した物も入っているらしい。 友人同士でふざけ合い、ピースをしている ようなものもある。 とは言っても、その中に見知った顔は少ないのだが。  6枚目――――卒業式の後か、クラスの仲間十数人で学校を背に写っている。 その中に今のクラスメイトらしき人物を二人発見 することができた。 ただ学舎には見覚えがない。  7枚目――――上条が緊張した面持ちで卒業証書を受け取っている。 校長の顔には見覚えがない……のはそもそも普通だろうか? 美琴「普通よ普通。 校長多すぎんのよね学園都市って」 当麻「……多いつっても一つの学校には一人だろ」  12枚目――――布団を敷き詰めた十畳程度の部屋で、宿泊施設にあるような浴衣に身を包んだ男子中学生数人が、流行りの 一発ギャグのポーズをして写っている。 上条も楽しそうで、馬鹿みたいな笑顔をしているが、周りに居る人間に知った顔はない。 美琴「既に廃れた一発ギャクって後から見ると黒歴史よね」 当麻「ん、ああこれ一発ギャグなのか。 何やってんのかと思った。 まあ男子中学生なんてほとんどアホだよなー。 分かって     やってる感じもあるだろうけどさ」  18枚目――――文化遺産をバックに学生服の中学生数人が写っている。 何故か周りに居る女子と男子に上条は叱られている ようで、上条は愛想笑いを浮かべて一歩引いていた。 一体どんなシーンか、と考えてみたが、多分上条の高校での日常と似たよう な感じなのだろう。 だがその数人の男子と女子の中にも知った顔はない。  33枚目――――一端覧祭だろうか。 上条当麻と両親、それに二人の女子が文化祭用にデコレートされた教室の前で写っている。 上条は何故か苦笑いであった。 もちろんその二人の女子中学生に見覚えはない。  39枚目――――二十代半ばくらいの美人教師(巨乳)とのツーショット。 上条の顔は微妙にではあるが明らかにデレデレして いる。 その教師に見覚えはないが。 美琴「アンタって何も変わってない訳ね。 悪い意味で」 当麻「何故だろう。 とてつもない理不尽さを感じる」  57枚目――――半袖短パンで疲れ切っている中学生らしき上条当麻と詩菜がベンチに座っている。 撮っているのは刀夜だろうか。 ハチマキの色は白。 しかし明らかに容姿は今のものより幼い。  71枚目――――上条父子《おやこ》が二人三脚で一生懸命走っているところへ、別の父子が何やら能力を使い妨害しようとしている。  72枚目――――上条父子が別の母娘《おやこ》に突っ込んで揉みくちゃになっている。 かなり遠いところで詩菜が凄い形相になって いるのが写真からでも感じ取れる。 当麻「………次次!」  95枚目――――どこかの病室。 その上条は小学6年か中学1年かというくらいの幼さに見えた。 どうやら右腕を骨折でもしたらしい。 しかし当の本人と、一緒に写る刀夜はどちらも笑っている。 その意味は計りかねない。 美琴「…………」  102枚目――――今度は中学生に見えた。 刀夜も写っているので夏休みの帰省だろうか。 室内プールで上条は同年代くらいの 男子学生とはしゃいでいる。 というか半分溺れているようにも見える。  104枚目――――本気で溺れかけたのか、上条がプールサイドでぐったりしている。 上条「誰だよこの写真撮ったの。 つかプールって写真撮って良いのか??」 美琴「ん? …………あれ、これってうちの母じゃない?」 上条「へ? どこどこ?」 美琴「ここ、これ」 上条「んー? そうか? 小さい上にボケてて分からねえ」 美琴「私が言うんだからきっとそうよ。 本当に昔から家近かったのね……、実は知らず知らずに会ってたりして」 上条「…………かもな」  上条は微妙な笑顔を浮かべて答えた。  120枚目――――どこかの病室。 薄い青緑色の患者衣を着た上条は随分幼く、頭を包帯で巻かれネットを被せられていた。 何がどうなったのか全く理解していないかのようにポカーンとした顔で恰幅の良い中年医師と写っている。  121枚目――――ほとんど同じ構図だが、上条はカメラに向かってぎこちなく笑っていた。  140枚目――――別の病室。 今度は脚。 一緒に写る看護婦は優しい笑顔で幼い上条へ微笑みかけている。  150枚目――――さらに別の病室。 目立った外傷は見あたらないので病気か何かかもしれない。 上条は元気そうにピース してはにかんでいる。 どうやら退院の時らしい。 当麻「ん、どした?」  美琴の手が上条の袖を掴んでいることに気付く。  そちらを向くと、美琴の表情はホラー映画を見た後の子供のように不安そうなものになっていた。 当麻「あー、でもほら、俺は今ピンピンしてるしさ………だからそんな顔しなくても大丈夫だって」 美琴「う、うん」 当麻「大体にしてお前の電撃食らった方が絶対重症間違いなしだぜ? たぶんお前が不安になるなんて、お化けが鏡見て絶叫する     くらいに変な話だぞきっと」 美琴「うん…………」 当麻「…………あ、あれ? ええっと………、次」  161枚目――――小学校の学芸会だろうか。 何故か木の格好をした上条が舞台の真ん中にいる。 ぶっ飛んだ脚本なのか、 アクシデントなのかは分からない。  170枚目――――次は合唱会のようだ。 小学校高学年風の上条は目が半開きで眠そうである。 隣の女の子がどうにもそれ を気にしているようで向きが一人だけおかしい。  192枚目――――再び学芸会。 今度は良い役なのか、『西洋風』を最大限安っぽくしたような格好であった。 具体的に はハットを被りベルトを巻いて、玩具の剣を携えている。 しかし写真が捉えてきたのは丁度何かに躓いて転ぶ瞬間であった。  193枚目――――かなりブレているが、どうやら転んだ上条の上にベニヤで作ったセットが倒れたようだった。 美琴「………不幸ね」 当麻「はははは……はあ。 まあベニヤならたんこぶ程度だろ」  ちなみに小学校のイベントまで来ると本当に知っている人は皆無である。  徐々に『自分に似た誰かのアルバム』を見ている感じがしてくる。  204枚目――――授業参観の中の一枚のようだった。 もちろん機密事項である能力にはあまり関係しない授業であろうが、 何故か当てられて立たされている上条は物凄くテンパっているようだ。 お勉強は昔から得意じゃなかったのだろうか。  210枚目――――この家のリビングの写真であった。 親戚と思しき人も何人か写っている。 服装から見て恐らく今と似た ような時期だろう。 上条は小学校低学年くらいだろうか。 さすがに刀夜と詩菜も今より見た目が若い。  214枚目――――同じ服装で今度は台所。 上条は楽しそうに話をしながら母のお手伝いをしているようだ。  219枚目――――同じ時期に家の前で撮ったものらしい。 知らない親戚に知らない男の子と女の子。 車が今のと違い一回り 小さい物だ。 美琴「アンタにもこういう良い子な時期があったのねえ」 当麻「悪かったなこんなのに育っちまって」 美琴「…………………」 当麻「ん、何? 顔に何か付いてる? てか顔赤いぞ?」 美琴「べっつにー」 当麻「?」  232枚目――――神社の写真だろうか。 先程写っていた知らない子供と上条が出店で買ったらしいたこ焼きをほおばっている。  237枚目――――幼い上条が巫女さん(巨乳)に抱っこされて写っている。 上条は耳まで顔を真っ赤にして巫女さんの方を ジーッと見つめていた。 美琴「ねえ」 当麻「………はい」 美琴「思い出したことがあるんだけど」 当麻「何でございませう」 美琴「アンタが助けた娘の中に、確か巫女さんが居たわよねえ」 当麻「………巫女属性なんてありません」 美琴「私まだ何も言ってないんだけど?」 当麻「美琴属性ならあるけどな」 美琴「ッ!? ばっ、ななな何言ってんのよ馬鹿じゃないのどういう意味よ!?」 当麻「えーっと、さあ続き続き。 お、小学校の入学式かー」 美琴「……………何かはぐらかされた気がするんだけど」  238枚目――――小学校の門の前で親子三人が写っている。 両親はまだ青年と少女といった感じだ。 微笑んでいる刀夜の 顔が若干やつれて見えるのは、夏の終わりに過去の話を聞いたからかもしれない。 美琴「さすがにここまで来ると可愛いわね」 当麻「そうかぁ?」 美琴「そうよ」  242枚目――――再び家族三人の写真。 撮っているのは小学校の職員だろうか? 上条は目にいっぱい涙を浮かべ今にも 大泣きしそうなのを唇を噛んで必死に堪えている。 それを両親が慰めている様子だった。 美琴「アンタって小学校からなんだ。 大体私と同じね」 当麻「美琴は泣いたか?」 美琴「ぜーんぜん。 ………と言いたいところだけど、私の場合は時間差だったかな。 入って少ししてからホームシックになっ     ちゃってさ。 まあほら、学園都市に来る子なら必ず一度は掛かる麻疹みたいな物よ」 当麻「そっか」 美琴「と言っても、いっつも隠れて泣いてたから私が泣いてるところ見た人なんて滅多に居ないけどね」  その滅多に居ない内の一人が上条当麻であるらしい。  しかしそれを言ったらまた怒りそうなので触れないでおく。 当麻「なんつかお前らしいな。 けど、まあもう隠れる必要は無いんじゃねえの?」 美琴「え……………それって、『泣く時は俺の胸で泣けー』、とか?」 当麻「………せっかくぼかしたのに、お前は俺を赤面させて楽しいですか?」 美琴「んー、そこそこ?」 当麻「はぁ。 まー胸でも右手でも膝でも貸して差し上げますよ意外と泣き虫なお姫様」 美琴「う、うん………」  251枚目――――この家での、何の変哲もない家族団欒のひととき。 何のシーンかはよく分からない。 ただ食卓がやや 豪華で上条の好きな食べ物が並んでいるのに、その表情は浮かばないようだ。  254枚目――――先程と同様の部屋で、上条が園児の格好をして卒園証書を持って写っている。 しかし顔には泣きはら したような痕があった。 恐らくこれらは学園都市に行く直前の写真なのだろう。  260枚目――――最後の写真。 上条かどうかは分からないが、赤ん坊の写真だった。 畳の上に敷かれた小さな布団で、 どう考えても赤ん坊のお姉さんにしか見えない詩菜に寄り添われ、スヤスヤと眠っている。 美琴「あれ、幼稚園の頃の写真はあまりないのね」 当麻「んー、そうだな。 何か色々大変だったらしいからな」 美琴「色々って?」 当麻「………まあその話は今度にしようぜ。 結構重たい話だしさ」  美琴は迷ったが、話さないと言っているわけでは無いので追及するのはやめた。  それに端からは見えない、というか上条の性格からしてどうせ見せないだろうが、今上条の内心は様々な物がグチャグチャ と混ざり合っていて、きっと更なる刺激を与えられるような状況ではないように思える。  だから美琴はそれに合わせて言葉を選ぶ。 美琴「そう、じゃあアンタが話したい時で良いわよ。 それにしてもさ、結局アンタって昔から大して変わって無いんじゃないの?     実はもっと、例のアレ前後で別人っぽいのかなって思ってたけど」 当麻「うーん。 そうか? 俺は何だか別人のアルバム見てる感じだったぞ」 美琴「そりゃまあそうでしょうけど。 でも第三者からの視点で見れば何も変わってないわよ。 トラブル体質で女ったらしで     ツンツン頭だし」 当麻「え、ちょっと、俺の特徴ってそんだけですか? 他に無いのか?」 美琴「うん」 当麻「…………………泣きたいので美琴の胸を貸し…ふぐあ!!」 美琴「急に近づくな馬鹿!! 殴られたいわけ!?」 当麻「殴ってから言うなよ……、軽いジョークじゃねえか」 美琴「こっちもジョークよ!」 当麻「それじゃ俺の特徴は?」 美琴「え……?」  美琴は三秒ほど考える素振りを見せた後、俯いて両手の指を絡めつつモジモジし始めた。 美琴「さ、さあね」 当麻「なんじゃそりゃ」 美琴「うっさいわね。 じゃあ聞くけど、アンタは私の特徴言えるわけ?」 当麻「短髪ビリビリゲコ太」  即答。 美琴「……………………」 当麻「ってだからジョークだってお互い様だろ!? 無言で放電はこえーから止めなさい! 特徴だろ特徴、えーっと」 美琴「どうせだから良い点挙げてよ」 当麻「良いところ~? うーん………」  考える振りをして美琴から視線を逸らす。 当麻「た、例えば、思い出のないアルバムを………見ようか躊躇ってる奴に、傍に居るとか恥ずかしいセリフを平気で言う、     ような、意外と優しかったりする…………ところとかは、俺は…………」 美琴「…………俺は?」 当麻「な、何でもねえよ」 美琴「…………………」  二人が沈黙した時、丁度車の音と玄関のドアが開く音が聞こえた。  会社へ出かける予定だった刀夜はさっき既に出て行ったようだから、彼ではないだろう。 当麻「美鈴さんかな」 美琴「……たぶんね」 当麻「マズイな。 こんなとこに二人で居るところを見られたら何て言われるか」  二人の脳裏に体をクネクネさせながらからかう美鈴のニヤニヤ笑顔が浮かんだ。 美琴「どうしよ。 私先に降りよっか。 アンタまだそれ片付けなきゃならないでしょ?」  棚の前はまだ物が散乱している状態だった。  美琴の洗濯物もまだ乾いてはいないが、そんな部屋の状態で乾かしているのも妙だろう。 当麻「わりいけど頼む。 終わったら呼びに行くよ」 美琴「オッケー」  二人は立ち上がり、床や壁に奪われた体温を取り戻すかのように少しだけ伸びをする。 美鈴「美琴ちゃーん?」  階段下から美鈴の呼ぶ声がする。 美琴「んじゃ先行くわね」 当麻「おう」  美琴はそっとドアを開けた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第3章 帰省1日目 思い出の無いアルバム  二階には四つの部屋があり、階段を上がってすぐ目の前の所が寝室、右側が和室と洋室、左側が書斎となっているようだ。  二人は古めかしい階段をギシギシと音を鳴らしつつ上ると、ほんの少し迷って各々自分の目的地へと入っていく。  美琴は上条から借りたパジャマのズボンを穿き、汚れたスカートと短パンを二階に来た詩菜へ預けると、洗濯が終わるまで する事もないのでとりあえず上条が居る和室へと向かった。  立て付けが悪いせいで少し抵抗がある木目調のドアを開ける。 美琴「………………………」 当麻「(あの…………謝るのでとりあえず無言でビリビリさせるのやめて頂けませんでせうか)」  何故か上条は乙姫と一緒に布団に入り抱き合って横になっていた。  美琴はそのあまりにもいつも通りな展開に呆れ、溜息の代わりに電撃を体から吐きだしてみる。 当麻「(だー違う! 多分今お前が考えてる事はきっと誤解です。 乙姫が離さないだけで、上条さんとしては添い寝させられてる     状態であってですねえ…………………つまり何が言いたいかというと、ご、ごめんなさいー!)」  とりあえず言い訳はするが確実に謝っておく。  美琴は乙姫に当たるかもしれないのでいつもみたいにビリビリ攻撃するわけにもいかないし、乙姫を起こすのも可哀想だから 怒鳴り散らすわけにもいかない。 結果どうにもこうにもできずイライラしてしまい、仕方ないので上条を思いっきり睨んでその 気持ちを態度に表してみる。 当麻「(ひっ……………あ、あの、御坂さん、僭越ながらお願いが)」 美琴「(あん?)」 当麻「(す、すいません何でもありません!!)」 美琴「(何よ、言いなさいよ。 怒ってあげるから)」 当麻「(怒るのかよ!? ………えっと、俺のカバンからゲコ太さんを取っては頂けないでしょうか)」 美琴「(へ? ゲコ太?)」  美琴は言われたとおり上条のカバンを漁ると、中から美琴が預けたゲコ太のぬいぐるみが出てきた。  条件反射的に抱きしめてしまったが、そのおかげでイライラ指数が半減する。 美琴「(あ、アンタ。 可愛いもので私の怒りを抑えようだなんて、随分狡い真似するじゃないの。 悔しいけど効果絶大よ!)」 当麻「(はい? いやそうじゃなくて。 そいつを俺と取り換えてもらえねえか? さっきからコイツ離れようとすると目覚まして     怒るんだよ。悪酔いしすぎ)」 美琴「(へ?? あ、ああ。ってそういうことは先に言いなさいよ)」  照れ隠しに上条の頭を強めに突く。  美琴は溜息を付きつつ面倒くさそうに二人に掛かっている上掛け布団をそっとめくった。 美琴「…………………」  乙姫は腕と脚を使い上条の体をガッチリとホールドしていた。その頭は上条の首の部分に収まり、腹も胸もくっつけられ、脚は 一本ずつ絡まるように交互に挟められている。  一応恋人であるはずの美琴ですらここまでくっ付いた事はない。  それによく見ると上条の顔は赤くなっていて、どことなく嬉しそうにも見える。  美琴のイライラ指数が見事に回復、というかさっきの値を優に超えてしまった。 美琴「(あのさ、私ってエレクトロマスターのレベル5な訳じゃん?)」  美琴は小さく平坦な声で話し出す。 当麻「(な、何ですかいきなり)」 美琴「(能力《ちから》の手加減にも自信がある訳よ。 どんな能力者でも後遺症が残らない程度に気絶させられるくらいには)」 当麻「(…………………)」 美琴「(つまりね、例えアンタが乙姫ちゃんにくっついていたとしても、さすがにこの距離ならアンタにだけ害が及ぶように調節     くらい出来るのよね……)」 当麻「(ちょっと待って下さい!)」 美琴「(アンタ、今動けないのよね。一発くらいデカイの食らっても罰はあたらないんじゃないかしら?)」 当麻「(待てって! 俺不可抗力じゃんどうしようもないじゃん! ……ってオイバカ! そのビリビリの規模はほんとにコイツに     害無いのかお前自分を見失ってるだろ、冗談で済まねえからそれ!!)」  上条はどうにか右手を出そうとしたが、思い切り力強く抱きしめられているせいで上手く抜けなくモゾモゾと動くだけだった。  美琴は目元以外に薄い笑顔を浮かべると軽く上条の肩に触れる。 どうやら直接体内に電気を流す気らしい。 美琴「(大丈夫。 アンタは気絶するだけよ。 半日くらい)」 当麻「(ひ、ひいいぃぃぃ!?)」  しかし美琴が電気を流そうとする寸前、和室のドアがガチャリと音を立てた。 刀夜「当麻、居るか?」 美琴「ッ!? うわわっ!」  殺害現場(上条の感想)を見られそうになった美琴は驚き、ビクッ! と体を震わせ立ち上がろうとする。しかしだぼだぼの ズボンの裾を踏んでいたせいでバランスを崩しそのまま布団へとダイブしてしまった。  つまり簡単に言うと、『女の子二人に揉みくちゃにされている上条当麻』という構図のできあがりである。 刀夜「当麻……………」 当麻「ご、誤解だ父さん! 話せばまた長くなるんだけど清廉です潔白です無実ですぅ! だからホント家族会議に掛けるとか蔑んだ     目で息子を見るとかそういう心を抉るようなのだけは勘弁して下さいー!」 刀夜「当麻!!」 当麻「は、はい! ごめんなさい!!」  一瞬厳しくなった刀夜の表情が、次の瞬間には優しげなものに変わる。 刀夜「何を言ってるんだ。 私はこの程度の事で誤解するような頭の固い父親ではない。 きちんと理解している。 そう、これは     よくあるアクシデントだ。 父さんだって、たまたま偶然複数の女性に揉みくちゃにされて要らぬトラブルを招いたこと     なんて十回や二十回普通に経験がある。 そしていつも思う。 私ならばそう言うシーンで誤解なんかしてやらないぞってな。     だから息子よ。 父にだけはそう脅えなくて良いんだ、いくらでも言い訳して良いんだぞ。 父は何だって信じてやる!!」 当麻「と、父さんっ……!!」  上条当麻は、今回のような女性絡みのアクシデントを目撃した人で、これほど正しく理解し耳を傾けてくれた人間を知らない。  思わず真の理解者を発見した喜びに涙が出そうになってしまう。  ちなみに美琴は既に立ち上がっており、女難に塗れた二人の親子をジトーッと湿った目で見続けていた。 詩菜「あらあら。 良かったわね父と子で仲良く共感できて。 じゃあとりあえずその十回や二十回について寝室で詳しく聞きま     しょうか」  いつの間にか刀夜の後ろに立っていた詩菜が、気味が悪いくらい優しげに言った。  刀夜の優しげな笑顔が引きつったものに変わる。 刀夜「…………しかしだ当麻! 理解者というものはいつだって少ない。 出来ればアクシデントというのは未然に回避するべきだ。     じゃないとこうなるからな! はは、あはははは…………母さん先程のは一種の誇張表現という奴でして」  詩菜に引きずられ刀夜は寝室へと消えていき、バタンとドアが閉じた。 当麻「と、父さんんんーっ!! ………って、あれ?」  美琴がすぐに立ち上がったのは良いとして、いつの間にか乙姫による戒めも解けていた。  隣を見やると乙姫がゲコ太のぬいぐるみを抱いて布団を被っている。 恐らく皆の話し声がうるさかったのだろう。  上条が起き上がると、寝室のドアがそっと開かれ、詩菜だけが小走りで戻ってきた。 詩菜「(いけないいけない忘れてたわ。美琴さん、これで良いのかしら?)」  詩菜の手には洗濯が済んだ美琴のスカートと短パンが握られていた。  軽く脱水しただけなので濡れたままである。 美琴「(あ、はい。 ありがとうございます)」  美琴がそれを受け取ると詩菜は再び寝室に戻っていった。  上条は心の中で偉大なる父親に敬礼する。  しかしそちらを心配してる余裕は息子にも無いようだった。 美琴「(さて…)」  美琴が再び上条を睨む。 当麻「(ま、まだ何か?)」 美琴「(とりあえず隣行きましょか)」 当麻「(……はい)」  詩菜に負けず劣らず怖い笑顔を見せた美琴に戦きつつ、乙姫を起こさないようにそっと部屋を出た。  ◆  二人は部屋の三割くらいが雑多な物置スペースと化している洋室に入る。  美琴はスカートと短パンをハンガーで吊るすと、それをカーテンレールの部分に掛け、リラックスした休めのようなポーズを してただそれをボーッと眺め始めた。  たまにパチッパチッとかジューとか音がするため恐らく電気と空気の摩擦熱でも利用して水分を蒸発させているのだろう、全く 器用なものだと上条は適当に関心する。  幸運なことに、美琴がそれにかかり切りであったためどうにか折檻的なものは受けないで済みそうである。上条はさらに身の 安全を確実なものにするため別の話題を振って気を逸らす作戦に出ることにした。  ただし隣が寝室であり、刀夜と詩菜の声が少し聞こえる程度の壁の薄さであるため声は抑え気味に。 当麻「しっかし驚きましたなー」 美琴「ん。 どれが?」 当麻「全部だよ全部。 再会した事、家が近い事、親同士が仲良くなってる事、さらには外泊? これがドッキリだとしたら完全に     大成功だよ、っつかドッキリと言われた方が納得できそう」 美琴「はは、そうね。 私もアンタを見るまで半信半疑だったけど、実際ここまでは本当に歩いてこれるくらいの距離だったわよ。     寒かったから途中までタクシーだったけど」  ちなみにタクシーを降りたのは美鈴が「こっそり行って驚かせるわよん」と提案したせいである。 当麻「半信半疑ぃ~? 美鈴さんが言ってたアレは何だったんだ?」 美琴「あ、あんなのデタラメに決まってんじゃない! た、確かに少しは舞い上がって………、その、ドライヤーとか壊しちゃった     りしたけどさ…………ってそうじゃなくて! 私はどちらかというと相も変わらずアンタに節操がないことの方がよっぽど     びっくりしたわよ!」  上条の方を見ずに控えめに叫ぶ。  どうやら上条の話題振りは失敗したようだ。 話が元に戻っている。 当麻「そりゃこっちのセリフだ。 俺もお前が相変わらず攻撃的すぎてびっくりしたよ。 心臓が止るかと思ったよ。 しかも二度!!」 美琴「原因はアンタでしょうが! 人の母親に欲情するとかヤバイんじゃないの? 見た目はアレでも結構いい年よ?」 当麻「よ、よよよよ欲情なんかしてねーよ」  見られている訳じゃないのに美琴の方から目を逸らす。 美琴「ニヤニヤしてたじゃないのよ。 それに目瞑って感じ入っちゃって。 さすがにアレはちょっと引いたわ」 当麻「い、言いがかりだ。 目瞑ったのは別の理由があったんだよ!」 美琴「何よ別の理由って」 当麻「………………言えませんごめんなさい」 美琴「………………」 当麻「はぁぁー」  どうして自分達はいつもこうなんだろうかと呆れてしまい、上条は肩まで使い大きく溜息を付いた。 当麻「でもさ……」 美琴「まだなんか文句あんの」 当麻「違うから怒んなって。 なんつか、驚かされることばっかだけど、その大半は幸福の方だなって思ってさ。 上条さんの人生     では激レアなことに」  上条は窓際に居る美琴の隣まで来ると、目線より少しだけ低いところにある茶色の頭を右手でグリグリとなでた。 当麻「だろ?」 美琴「…………うん」  二人は去年のクリスマスイブの出来事を思い出す。  あの時、美琴は上条の不幸を取り除いて幸福にしたいと言った。  あの時、上条は美琴が不幸になっては意味がないと言った。  つまり二人は互いに相手を幸せにしたいと誓ったのだ。 そう考えれば、今日の出来事や、今日知った事は喜ぶべき物である。  上条は少しだけ恐ろしく思う。 もしあの日あの出来事が無くて今日を迎えていたら、きっと自分はまたいつものように「不幸だ」 というセリフを吐いただろう。 その時それを聞いた美琴は何を思っただろうか―――― 当麻「っとわりい、能力止まっちまうか」 美琴「いい。 いいから、そのまま………」  美琴は仔猫が母猫に擦り寄るかのように、頭を上条の手へと押しつけてきた。  子供扱いするなー!! とか言って怒られるかと思っていた上条はその意外な反応に鼓動を速くする。  時間は正午をそこそこ過ぎた頃だろうか、最近ではあまり見ていなかった太陽の日差しが、南東を向いた部屋の窓から差し込み、 その前に居る二人を包み込むように優しく温める。  二人の間にはもはや言葉は要らない。  上条の右手は美琴の細く柔らかな髪をなでる。  美琴は目を細め、頭と体を傾げて上条に少しだけ体重を預けた。  ただそれだけの事が本当に心地よくて、体の中がピリピリと痺れるくらいに幸福感を感じる。 当麻(ん……あれ、シャンプーの匂いじゃねえな)  近づいた美琴からはほんのりわずかに香水の匂いがした。 そう言えばさっき美鈴の話でそんな事を言っていた気がする。 学生寮 の美琴の部屋にあった『きるぐまー』の中の品でも持ってきたのかもしれない。  上条は香水の知識には疎いが、その香りは美琴に合っていて良い香りだと素直に感じた。 誘われるように香りの元へと顔が引き 寄せられる。 頭、顔、首筋………いやもっと下だろうか。  上条が身じろぎしたことに気付いた美琴は、勘違いしたのか完全に目を瞑って上条の顔の方へ自分の顔を近づけてきた。 上条は ドキッ!として数秒固まったが、やがて香りの探求をやめてそれに応じ、目を瞑る。  二人の顔が互いの唇を探して擦り寄るように近づく―――――が、 詩菜「美琴さん、入るわね」  そう上手く行かないのはいつも通りのようだ。  ドン! バラバラバラ!! と何かがぶつかる音と物が崩れる音が洋室内に響く。  ドアを開けた詩菜は何事かと思い部屋の中を覗くと、窓際では美琴が「ぬうううん!!」などと唸り、いかにも『今、超能力 使ってます』といった風に両手をスカートと短パンの方へ突きだしていた。 そして左下では、棚の前で息子が雑多な物の下敷き になって涙目で倒れている。 棚にぶつかって中の物が上から落ちてきたのだろう。 詩菜「あらあら。 当麻さんも居たの? お邪魔だったかしら」 美琴「な、なーんのことですか? 全然これっぽっちも問題なしですよ」 当麻「ふぐ……………、痛い。 地味に痛い」 詩菜「ごめんなさいね、ちょっとお洗濯物干させてもらいたくて……」  詩菜は丁度太陽がでてきたので日当たりの良いこの部屋に洗濯物を干しに来たのだった。 乾燥機がまだ直っていないうえに業者 が正月休みなので暫定的措置である。  美琴のスカートや短パンの隣りに上条家の洗濯物が吊るされ、カーテンレールが少し歪む。 詩菜「そうそう美琴さん。 下それで良いかしら? 別の物用意しましょうか? スカートとかサイズ合いそうなのを」  美琴の穿いている薄い緑色をしたパジャマは見るからにだぼだぼでサイズが合っていなかった。 ウエストのあたりは元々ゴムが入って いるし、紐も付いていたのでどうにかなったが、裾の当たりは何重にも折り返している。 実は元々上条にも若干大きめであるのだ。  それに上が常盤台中学の制服であるのでミスマッチも甚だしくダサダサな状態である。 もし黒子が居たら小言の一つでも言われそうだ。 美琴「ありがとうございます。 でも、どちみちすぐに母が戻ってくると思うんで大丈夫です。 それに暖かいですしこれ」  しかし美琴はそれを丁重に断る。  理由は色々あるが、とりあえず今スカートを穿くのは嫌な予感しかしない。 詩菜「あらそう? あ、当麻さん、私はちょっと用事を片付けてくるわね。 刀夜さんが会社に行かなきゃならないらしくて。 もし     お昼足りなかったらまだ下にあるから」 当麻「ん、分かったけど、父さんは仕事?」 詩菜「さあ。 すぐ戻ってくるとか言ってるけど、あまり信用ならないわね。 っと、それじゃあお邪魔虫はさっさと退散しよう     かしら。 当麻さんそれ元に戻しておいて頂戴ね」  詩菜は妙な笑みを浮かべ二人を見つめつつドアをパタンと閉じた。 美琴「(………ねえ。 ひょっとして、ばれてる?)」 当麻「(………かもな)」  そもそもあの母親に隠し事などそうそうできないのではないだろうか。  上条は別の意味でも気を引き締める。 当麻「よーいせっと………あーあーもう滅茶苦茶じゃねえか。 元通り入るのかこれ?」  上条は立ち上がると、自分に降り注いだ品々を一つずつ適当に棚に詰めていく。  料理の本、百科事典二冊、よく分からない海外のお土産、小物が入った紙箱、中身が入っていない貯金箱、ビジネス入門書、 漫画数冊、安物の写真立て、数年前の年賀状の束―――― 当麻「あそだ、年賀状サンキュな。 返事は言われた通り出してねえけど」 美琴「うん」 当麻「ケロヨン年賀状」 美琴「あれをちゃんとケロヨンって言えるとはアンタも成長したわね。 偉い!」 当麻「………カエル年じゃねえけどな」 美琴「細かい事言ってんじゃないわよ。 ていうか何でカエル年って無いのかしら、あの年賀はがき実はまだ相当余ってんのよねー」 当麻「………元旦に届いたって事は、出したのはクリスマスよりも前だよなあ」 美琴「そうだけど………あ、文面にツッコミ入れたら怒るから。 あの時は………まだああだったのよ」 当麻「へい」  美琴が赤くなるのを見て、何だか上条まで照れてしまう。 恐らく相当悩んだであろう文面は、今の段階で見ると確かに心が 見え透いていてかなり恥ずかしい。 当麻(あれ、そういややっぱり美琴の奴ってば俺の家の住所知ってたんじゃん………)  深読みすると色々考えてしまいそうである。  気を紛らわすために作業を続けた。  月刊パラグライダー10月号、電池、砂時計、CD、ラジオ、猫のぬいぐるみに恐竜のぬいぐるみ、古いパソコンのOSソフトと オフィス系ソフト、ヘッドフォン、『当麻』と書かれたクッキーの缶箱――――― 当麻「ん、何だこれ?」  缶箱の蓋を開けると、中には現像された写真とネガが大量に詰まっていた。  試しに上にあった袋から一枚だけ写真を抜くと、それは上条当麻がグラウンドを全力疾走している場面の写真であった。 手ぶれのせいか少しピンぼけしているが、姿と様子からして恐らくは大覇星祭の時だろうか? 美琴「なになに、大覇星祭の時の写真? アンタ走るの速………ってあれ、アンタ白組だったわよね?」  上条がボケーッと写真を眺めていると、美琴が乾燥作業を止めて覗き込んできた。  美琴の言うとおり、確かに去年の大覇星祭では上条は白組だったはずだ。 しかし写真の上条は赤いハチマキをしている。 美琴「それに若干幼い感じがするし、これってもしかして………」 当麻「だな。 そもそも今年……じゃなくて去年か、俺はこんな競技に出てないし」  写真は恐らく記憶を失う前の物であり、つまり缶の中身は上条当麻の昔の写真なのだろう。  数は優に百枚以上はありそうなので、もしかしたらアルバムから漏れた写真かもしれない。  普通の彼氏彼女ならここで「見せて見せてー」「えーやだよー」なんて軽い会話になっただろうが、残念ながら二人は普通 ではないのだ。 当麻「………………」 美琴「………………」  上条はその一枚目の写真を見つめたまま動かない。 写真を精査しているようにも見えるが、恐らく何か考え事をしているのだろう。  上条の瞳が小さく揺れ動き、瞼が何度も瞬きをしている様子を美琴はじっと見つめる。 その気持ちを読み解こうとするように。  次に自分はどう行動するべきなのだろうか。  写真は見たいのだろうか、見たくないのだろうか。  美琴に見て欲しいのだろうか、見せたくないのだろうか。 美琴(…………ううん違う。 そんな単純なものじゃないよね)  美琴はおもむろに右手を高く上げると、さっきのお返しとばかりに上条のツンツン頭を掴みわしゃわしゃわしゃー!!とかなり 乱暴になで回した。 力が強すぎて上条の首までつられて動く。 美琴「ったく、だらしがないわね。 見たいなら見る。 見たくないなら見ないでハッキリしなさいよ! 例えどっちでも私が傍に     居てあげるから。 アンタは一人じゃないでしょ?」 当麻「っていきなり何すんだよ、むちうちになるじゃねえか!? あと誰も見ねーなんて言ってないだろ。 見るべきだよ俺は。     まだ会ってない知り合いとか写ってそうだし…………、それに寮にも似たようなものが少しだけあったしな」 美琴「ふーん。 んで、私は見て良いわけ?」 当麻「……良いよ」  ほんの一瞬躊躇ってから肯定する。 当麻「約束だからな。 隠し事はしねー」 美琴「うむ。 よろしい」  二人は壁に背中を預け、フローリングの床に隣り合って座った。  少しお尻が冷たかったが、目の前の事に比べたら些末な問題でしかない。 当麻「……いいか?」 美琴「いつでもいいわよ」  確認してから上条は一枚一枚、数秒から数十秒かけて見ていき、見終わった物は缶に戻していく。 美琴「これが卒業式、こっちが入学式かしら」 当麻「みたいだな。 って俺どこだよ? 失敗写真が多いなさすがに」  中学校卒業式の写真、一端覧祭での写真、修学旅行での写真―――――  どうやら写真の中には学校で撮影して両親に受け渡した物も入っているらしい。 友人同士でふざけ合い、ピースをしている ようなものもある。 とは言っても、その中に見知った顔は少ないのだが。  6枚目――――卒業式の後か、クラスの仲間十数人で学校を背に写っている。 その中に今のクラスメイトらしき人物を二人発見 することができた。 ただ学舎には見覚えがない。  7枚目――――上条が緊張した面持ちで卒業証書を受け取っている。 校長の顔には見覚えがない……のはそもそも普通だろうか? 美琴「普通よ普通。 校長多すぎんのよね学園都市って」 当麻「……多いつっても一つの学校には一人だろ」  12枚目――――布団を敷き詰めた十畳程度の部屋で、宿泊施設にあるような浴衣に身を包んだ男子中学生数人が、流行りの 一発ギャグのポーズをして写っている。 上条も楽しそうで、馬鹿みたいな笑顔をしているが、周りに居る人間に知った顔はない。 美琴「既に廃れた一発ギャクって後から見ると黒歴史よね」 当麻「ん、ああこれ一発ギャグなのか。 何やってんのかと思った。 まあ男子中学生なんてほとんどアホだよなー。 分かって     やってる感じもあるだろうけどさ」  18枚目――――文化遺産をバックに学生服の中学生数人が写っている。 何故か周りに居る女子と男子に上条は叱られている ようで、上条は愛想笑いを浮かべて一歩引いていた。 一体どんなシーンか、と考えてみたが、多分上条の高校での日常と似たよう な感じなのだろう。 だがその数人の男子と女子の中にも知った顔はない。  33枚目――――一端覧祭だろうか。 上条当麻と両親、それに二人の女子が文化祭用にデコレートされた教室の前で写っている。 上条は何故か苦笑いであった。 もちろんその二人の女子中学生に見覚えはない。  39枚目――――二十代半ばくらいの美人教師(巨乳)とのツーショット。 上条の顔は微妙にではあるが明らかにデレデレして いる。 その教師に見覚えはないが。 美琴「アンタって何も変わってない訳ね。 悪い意味で」 当麻「何故だろう。 とてつもない理不尽さを感じる」  57枚目――――半袖短パンで疲れ切っている中学生らしき上条当麻と詩菜がベンチに座っている。 撮っているのは刀夜だろうか。 ハチマキの色は白。 しかし明らかに容姿は今のものより幼い。  71枚目――――上条父子《おやこ》が二人三脚で一生懸命走っているところへ、別の父子が何やら能力を使い妨害しようとしている。  72枚目――――上条父子が別の母娘《おやこ》に突っ込んで揉みくちゃになっている。 かなり遠いところで詩菜が凄い形相になって いるのが写真からでも感じ取れる。 当麻「………次次!」  95枚目――――どこかの病室。 その上条は小学6年か中学1年かというくらいの幼さに見えた。 どうやら右腕を骨折でもしたらしい。 しかし当の本人と、一緒に写る刀夜はどちらも笑っている。 その意味は計りかねない。 美琴「…………」  102枚目――――今度は中学生に見えた。 刀夜も写っているので夏休みの帰省だろうか。 室内プールで上条は同年代くらいの 男子学生とはしゃいでいる。 というか半分溺れているようにも見える。  104枚目――――本気で溺れかけたのか、上条がプールサイドでぐったりしている。 上条「誰だよこの写真撮ったの。 つかプールって写真撮って良いのか??」 美琴「ん? …………あれ、これってうちの母じゃない?」 上条「へ? どこどこ?」 美琴「ここ、これ」 上条「んー? そうか? 小さい上にボケてて分からねえ」 美琴「私が言うんだからきっとそうよ。 本当に昔から家近かったのね……、実は知らず知らずに会ってたりして」 上条「…………かもな」  上条は微妙な笑顔を浮かべて答えた。  120枚目――――どこかの病室。 薄い青緑色の患者衣を着た上条は随分幼く、頭を包帯で巻かれネットを被せられていた。 何がどうなったのか全く理解していないかのようにポカーンとした顔で恰幅の良い中年医師と写っている。  121枚目――――ほとんど同じ構図だが、上条はカメラに向かってぎこちなく笑っていた。  140枚目――――別の病室。 今度は脚。 一緒に写る看護婦は優しい笑顔で幼い上条へ微笑みかけている。  150枚目――――さらに別の病室。 目立った外傷は見あたらないので病気か何かかもしれない。 上条は元気そうにピース してはにかんでいる。 どうやら退院の時らしい。 当麻「ん、どした?」  美琴の手が上条の袖を掴んでいることに気付く。  そちらを向くと、美琴の表情はホラー映画を見た後の子供のように不安そうなものになっていた。 当麻「あー、でもほら、俺は今ピンピンしてるしさ………だからそんな顔しなくても大丈夫だって」 美琴「う、うん」 当麻「大体にしてお前の電撃食らった方が絶対重症間違いなしだぜ? たぶんお前が不安になるなんて、お化けが鏡見て絶叫する     くらいに変な話だぞきっと」 美琴「うん…………」 当麻「…………あ、あれ? ええっと………、次」  161枚目――――小学校の学芸会だろうか。 何故か木の格好をした上条が舞台の真ん中にいる。 ぶっ飛んだ脚本なのか、 アクシデントなのかは分からない。  170枚目――――次は合唱会のようだ。 小学校高学年風の上条は目が半開きで眠そうである。 隣の女の子がどうにもそれ を気にしているようで向きが一人だけおかしい。  192枚目――――再び学芸会。 今度は良い役なのか、『西洋風』を最大限安っぽくしたような格好であった。 具体的に はハットを被りベルトを巻いて、玩具の剣を携えている。 しかし写真が捉えてきたのは丁度何かに躓いて転ぶ瞬間であった。  193枚目――――かなりブレているが、どうやら転んだ上条の上にベニヤで作ったセットが倒れたようだった。 美琴「………不幸ね」 当麻「はははは……はあ。 まあベニヤならたんこぶ程度だろ」  ちなみに小学校のイベントまで来ると本当に知っている人は皆無である。  徐々に『自分に似た誰かのアルバム』を見ている感じがしてくる。  204枚目――――授業参観の中の一枚のようだった。 もちろん機密事項である能力にはあまり関係しない授業であろうが、 何故か当てられて立たされている上条は物凄くテンパっているようだ。 お勉強は昔から得意じゃなかったのだろうか。  210枚目――――この家のリビングの写真であった。 親戚と思しき人も何人か写っている。 服装から見て恐らく今と似た ような時期だろう。 上条は小学校低学年くらいだろうか。 さすがに刀夜と詩菜も今より見た目が若い。  214枚目――――同じ服装で今度は台所。 上条は楽しそうに話をしながら母のお手伝いをしているようだ。  219枚目――――同じ時期に家の前で撮ったものらしい。 知らない親戚に知らない男の子と女の子。 車が今のと違い一回り 小さい物だ。 美琴「アンタにもこういう良い子な時期があったのねえ」 当麻「悪かったなこんなのに育っちまって」 美琴「…………………」 当麻「ん、何? 顔に何か付いてる? てか顔赤いぞ?」 美琴「べっつにー」 当麻「?」  232枚目――――神社の写真だろうか。 先程写っていた知らない子供と上条が出店で買ったらしいたこ焼きをほおばっている。  237枚目――――幼い上条が巫女さん(巨乳)に抱っこされて写っている。 上条は耳まで顔を真っ赤にして巫女さんの方を ジーッと見つめていた。 美琴「ねえ」 当麻「………はい」 美琴「思い出したことがあるんだけど」 当麻「何でございませう」 美琴「アンタが助けた娘の中に、確か巫女さんが居たわよねえ」 当麻「………巫女属性なんてありません」 美琴「私まだ何も言ってないんだけど?」 当麻「美琴属性ならあるけどな」 美琴「ッ!? ばっ、ななな何言ってんのよ馬鹿じゃないのどういう意味よ!?」 当麻「えーっと、さあ続き続き。 お、小学校の入学式かー」 美琴「……………何かはぐらかされた気がするんだけど」  238枚目――――小学校の門の前で親子三人が写っている。 両親はまだ青年と少女といった感じだ。 微笑んでいる刀夜の 顔が若干やつれて見えるのは、夏の終わりに過去の話を聞いたからかもしれない。 美琴「さすがにここまで来ると可愛いわね」 当麻「そうかぁ?」 美琴「そうよ」  242枚目――――再び家族三人の写真。 撮っているのは小学校の職員だろうか? 上条は目にいっぱい涙を浮かべ今にも 大泣きしそうなのを唇を噛んで必死に堪えている。 それを両親が慰めている様子だった。 美琴「アンタって小学校からなんだ。 大体私と同じね」 当麻「美琴は泣いたか?」 美琴「ぜーんぜん。 ………と言いたいところだけど、私の場合は時間差だったかな。 入って少ししてからホームシックになっ     ちゃってさ。 まあほら、学園都市に来る子なら必ず一度は掛かる麻疹みたいな物よ」 当麻「そっか」 美琴「と言っても、いっつも隠れて泣いてたから私が泣いてるところ見た人なんて滅多に居ないけどね」  その滅多に居ない内の一人が上条当麻であるらしい。  しかしそれを言ったらまた怒りそうなので触れないでおく。 当麻「なんつかお前らしいな。 けど、まあもう隠れる必要は無いんじゃねえの?」 美琴「え……………それって、『泣く時は俺の胸で泣けー』、とか?」 当麻「………せっかくぼかしたのに、お前は俺を赤面させて楽しいですか?」 美琴「んー、そこそこ?」 当麻「はぁ。 まー胸でも右手でも膝でも貸して差し上げますよ意外と泣き虫なお姫様」 美琴「う、うん………」  251枚目――――この家での、何の変哲もない家族団欒のひととき。 何のシーンかはよく分からない。 ただ食卓がやや 豪華で上条の好きな食べ物が並んでいるのに、その表情は浮かばないようだ。  254枚目――――先程と同様の部屋で、上条が園児の格好をして卒園証書を持って写っている。 しかし顔には泣きはら したような痕があった。 恐らくこれらは学園都市に行く直前の写真なのだろう。  260枚目――――最後の写真。 上条かどうかは分からないが、赤ん坊の写真だった。 畳の上に敷かれた小さな布団で、 どう考えても赤ん坊のお姉さんにしか見えない詩菜に寄り添われ、スヤスヤと眠っている。 美琴「あれ、幼稚園の頃の写真はあまりないのね」 当麻「んー、そうだな。 何か色々大変だったらしいからな」 美琴「色々って?」 当麻「………まあその話は今度にしようぜ。 結構重たい話だしさ」  美琴は迷ったが、話さないと言っているわけでは無いので追及するのはやめた。  それに端からは見えない、というか上条の性格からしてどうせ見せないだろうが、今上条の内心は様々な物がグチャグチャ と混ざり合っていて、きっと更なる刺激を与えられるような状況ではないように思える。  だから美琴はそれに合わせて言葉を選ぶ。 美琴「そう、じゃあアンタが話したい時で良いわよ。 それにしてもさ、結局アンタって昔から大して変わって無いんじゃないの?     実はもっと、例のアレ前後で別人っぽいのかなって思ってたけど」 当麻「うーん。 そうか? 俺は何だか別人のアルバム見てる感じだったぞ」 美琴「そりゃまあそうでしょうけど。 でも第三者からの視点で見れば何も変わってないわよ。 トラブル体質で女ったらしで     ツンツン頭だし」 当麻「え、ちょっと、俺の特徴ってそんだけですか? 他に無いのか?」 美琴「うん」 当麻「…………………泣きたいので美琴の胸を貸し…ふぐあ!!」 美琴「急に近づくな馬鹿!! 殴られたいわけ!?」 当麻「殴ってから言うなよ……、軽いジョークじゃねえか」 美琴「こっちもジョークよ!」 当麻「それじゃ俺の特徴は?」 美琴「え……?」  美琴は三秒ほど考える素振りを見せた後、俯いて両手の指を絡めつつモジモジし始めた。 美琴「さ、さあね」 当麻「なんじゃそりゃ」 美琴「うっさいわね。 じゃあ聞くけど、アンタは私の特徴言えるわけ?」 当麻「短髪ビリビリゲコ太」  即答。 美琴「……………………」 当麻「ってだからジョークだってお互い様だろ!? 無言で放電はこえーから止めなさい! 特徴だろ特徴、えーっと」 美琴「どうせだから良い点挙げてよ」 当麻「良いところ~? うーん………」  考える振りをして美琴から視線を逸らす。 当麻「た、例えば、思い出のないアルバムを………見ようか躊躇ってる奴に、傍に居るとか恥ずかしいセリフを平気で言う、     ような、意外と優しかったりする…………ところとかは、俺は…………」 美琴「…………俺は?」 当麻「な、何でもねえよ」 美琴「…………………」  二人が沈黙した時、丁度車の音と玄関のドアが開く音が聞こえた。  会社へ出かける予定だった刀夜はさっき既に出て行ったようだから、彼ではないだろう。 当麻「美鈴さんかな」 美琴「……たぶんね」 当麻「マズイな。 こんなとこに二人で居るところを見られたら何て言われるか」  二人の脳裏に体をクネクネさせながらからかう美鈴のニヤニヤ笑顔が浮かんだ。 美琴「どうしよ。 私先に降りよっか。 アンタまだそれ片付けなきゃならないでしょ?」  棚の前はまだ物が散乱している状態だった。  美琴の洗濯物もまだ乾いてはいないが、そんな部屋の状態で乾かしているのも妙だろう。 当麻「わりいけど頼む。 終わったら呼びに行くよ」 美琴「オッケー」  二人は立ち上がり、床や壁に奪われた体温を取り戻すかのように少しだけ伸びをする。 美鈴「美琴ちゃーん?」  階段下から美鈴の呼ぶ声がする。 美琴「んじゃ先行くわね」 当麻「おう」  美琴はそっとドアを開けた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)

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