「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/5スレ目短編/808」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/5スレ目短編/808 - (2010/03/07 (日) 23:38:17) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

#asciiart(){{{ 【上条当麻は電気娘の夢を見るか?】 「んもー、来るなら事前にいっとけっつの」  御坂美琴は、コートを着て寒空の中、足早に歩いている。  既に門限を過ぎているが、今回は許可を貰っていた。  母親、御坂美鈴が大学の講演を聞く側で参加するため学園都市に来ており、  それがさっき終わったので、一緒にゴハン食べよう~、という連絡を貰ったのが1時間前。  講演を聞いたらさっさと帰る可能性があったのか、美鈴からは事前連絡はまるでなかった。  実は仲の良い親子であり、また美琴は結構人恋しいタチなだけに、連絡なしは腹立たしかった。  まあ元々こういうサプライズ連絡の予定だったのだろうが… (用事入ってたらどうするつもりだったのよ!)とブツブツつぶやきながら、ずんずん歩く。  何度か来たことのある小料理屋である。学生の入りづらい雰囲気の居酒屋といった方がいいかもしれない。  美琴は引き戸の扉を開けると、その音を聞きつけたのか、小上がりから美鈴の顔がにゅっと飛び出してきた。 「あ、来た来た!」 「もー、なによ突然」  そう言いながら店に入り、靴をぬいで小さな雰囲気のいい部屋に入る。 「なんで2人なのにココなの?カウンターでいいじゃない。」 「んっふふ~」 …この美鈴の笑顔は、何か企んでいる時の顔だ。  他に、誰か来る? ――この学園都市で、美鈴が呼び出せる、美琴の知っている人間は。 「ア、アンタまさか、アイツ呼ぶ気じゃないでしょうね!!」 「ん~?アイツってだ~れ?」 「白ばっくれるんじゃないわよ!その笑いは私を困らせる顔だっ!」 「あー、あの子のこと?じゃあ、美琴ちゃんが来て欲しいって言ってるって、電話掛けるわねん♪」 「待たんかコラァ!」  美琴は赤くなりながら美鈴の腕を押さえる。 「んも~、素直じゃないんだから…。ま、誰も来ないわよ。」  美鈴は美琴を意味ありげな目で見つめながら、 「広い方がくつろげるでしょ?さ、食べよ食べよ!…メインディッシュはあの子の話になるけどね♪」 「あのね…」  『アイツ』が来ないと分かり、ちょっと残念な気分になった美琴だったが、首をブンブンと振ると、 居住まいを正して美鈴の前に座り、メニューを眺め始めた。 「…で、罰ゲームは何やってもらったの?」  美鈴は生ビール、美琴はカシスオレンジ(ノンアルコール)を飲んでいる。  小料理屋にしてはドリンクの種類が豊富なので、美琴は結構気に入っている店だ。  天ぷらをつつきながら、美鈴は早速美琴への攻撃に入っていた。 「別に。欲しいストラップを手に入れるのを、手伝って貰っただけ。」  美琴はそっけなく言う…が、顔が赤らむのを止められない。 「ふ~ん。どうすれば手に入れられるモノだったの?」 「あ、ある契約をしたらオマケで貰えるの」 「何の契約?」  美鈴は徐々に美琴を追い詰めて行く。  基本的にアドリブに弱い美琴は、ためらいながら結局まともに答えてしまう。 「携帯電話のね、とある契約をしたらね」 「だから、何の契約?」 「ペ、ペア契約っていう、その、男女でしかできない契約で、し、知り合いがアイツしかいなかったし、それで」  急に慌てだす娘を見ながら、美鈴はにや~っと笑う。 「ペア契約、ねえ?無料通話になったりするんだっけ」 「そ、それが目的じゃないわよ!目的はあくまでストラップ! そもそもアイツの番号もアドレスも知らなかったんだから、無料通話も何も、使う機会もないわよ!」  ますます饒舌になる美琴に、美鈴はにやにや笑いが止まらない。 「ああ、電話も掛けたこともない相手に、無料通話とかどうでもいい、ということね?」 「そ、そうそう」  美琴は矛盾の無い説明ができたと、カシスオレンジをぐいっと飲んで一息つく。 「…健気な美琴ちゃん見て、母さん泣けてきたわ…」  芝居っ気たっぷりに、ハンカチを目頭に当てる美鈴。 「…何が健気なのよ…」 「そもそも、ストラップ狙いってのが苦しすぎるわよ美琴ちゃん。ネットオークションでいくらでも転がってるでしょ」 「う…」  痛いところを突かれた美琴は押し黙る。 「それにペア契約なんてそうそう解約できないでしょ?美琴ちゃん、恋人できたら、どう言い訳する気?」 「こ、恋人なんて作らないわよ!女子中だと出会いもないし!」 「じゃあ言い方変えるわね。その契約やってると、あの子と恋人だと勘違いされそうだけど、そういう誤解は気にしないの?」 「別に他の人にそんな契約してるなんて言わなきゃいいだけでしょ!それに、誤解する人はさせとけばいいし!」 「…美琴ちゃん自身は?誤解されても気にしない、と?」 「…どうでもいいわよ、別に」  美鈴はわざとらしげに首を振り、 「あーあ、可哀想に。気の無い子にペア契約させられちゃってさ」 「な、何よ」 「逆に言えばあの子も恋人作れないじゃない?ペア契約なんて足かせがあると、さ。恋人に言い訳できないわよ」 「……別にイヤって言われなかったし…」  美琴はボソボソと言いつつ俯いた。 「あんないい子なのに、何で美琴ちゃんは嫌なのよ?」 「い、嫌なんて言ってないわよ!」  この流れはマズイ、と美琴は焦る。  美鈴は詰め将棋の流れを作ってきた。嘘を言えば、王手から逃げられるが、…嫌だ。  でも、このままでは。洗いざらい言わされてしまう。  しかし、美鈴は何も言わなくなった。  いつもなら、更に突っ込んでくるはずだが、少し考え込んでいる。 「ま、これぐらいでいっか。」 「…?」 「月詠センセー!そろそろ合流しましょーかー!」 「は~~い!」  返事と共に、美琴の後ろのフスマが両開きにスカーンと豪快に開き…  振り向いた美琴の見たモノは。  両手を広げて笑顔全開の幼女と、コロッケをくわえて箸を振って挨拶している上条当麻の姿があった。 「な、なんで……ぜぜ全部…聞こえてた!?」 「そっちの部屋の声なんて全然聞こえねーよ。小萌先生はちょっと聞こえてたかもしんねーけど」  上条は奥に座っていた。…確かに美琴も後ろの部屋の声はほとんど意識できなかったが、しかし…  美琴は母親に向き直り、 「まさかとは思うけど、あわよくば聞こえるんじゃないかと、そういうつもりで…?」 「当たりー!残念ながら聞こえてなかったみたいねー、あっはっはー!」 「こ、このバカ親…もし聞こえてたら、ど、どうするつもりよ…!」 「ウカツな事を話す前に止めたつもりなんだけどなー♪」 「…何の話をしてたんだよお前…」 小萌がパンパンと手を叩き、 「じゃあ上条ちゃん、あっち行きましょうー。上条ちゃんは美琴さんの横いくのですよー」 「へいへい」  ◇ ◇ ◇ (誰も来ない、なんて言葉遊びしやがってー!)  と美琴は美鈴を心の中でののしりつつ、横に座った上条に確認する。 「アンタ最初からいたのよね…?」 「ああ。最初3人で食い始めてたけど、親子で内緒話したいから、っつーんで一旦あーいう形に」 「美琴ちゃん、ラブラブになってないで…まず自己紹介が先でしょ」 「…! はじめまして、娘の御坂美琴、です。」  美琴はぐっと詰まったが、正論なので改めて幼女先生?に挨拶した。 「はじめましてですよー。月詠小萌です。上条ちゃんの担任やってるのですー」 「美琴ちゃん、今日の講演でね、この先生のが一番わかりやすくてね。お知り合いになろうと近寄ったら…」 「小萌先生の付き人やってた俺を見つけたらしくてさ。結果、こういう事になった」  上条は肩をすくめて、今度はメンチカツにかぶりついている。 「付き人?」  美琴はカシスオレンジのおかわりを頼みつつ、上条に問いかける。 「…色々あって出席日数足りねえからさ。手伝いでポイント稼ぎって奴だ」 「上条ちゃんはすぐ入院したりしちゃいますからねー。補習も宿題もサボりまくりの、困ったちゃんなのです」  あ、俺もカシスオレンジとやらで、と頼んでいた上条は、小萌先生の突っ込みに咳き込む。 「そ、そもそもレベル0の俺に補習ってのがおかしいんですってば!頑張ってレベル1になるならともかく!」 「え?絶対無理なのそれって?」  美鈴が当然の疑問を口に出す。 「私も聞きたい…コイツほんとにレベル0なんですか?」 「わずかな能力があっても、レベル1の条件を満たさなければレベル0なのですがー。 上条ちゃんの場合はシステムスキャンにかけても全く反応がないという、非常に稀なレベル0なんですねー」 「だからもう諦めましょう先生。俺は超能力なんていらないし」 「だめですよ上条ちゃん!すぐ諦める人には絶対に成功は訪れません!」  いわゆるいつものやり取りをし始めた師弟を、御坂母娘があきれた目で見ているうちに飲み物が届いた。  上条は美琴に向けてグラスを軽く上げると、美琴もグラスをコン!と合わせ、乾杯する。 (あー、こんな些細な乾杯程度で嬉しくなっちゃうとか!落ち着け私!)  美琴がちょっと幸せに浸りつつ、飲みながらチラッと上条を見ると…何やら眉をひそめている。 「? どしたの?」 「ん?いや…何でもない」  なにやらカシスオレンジの味に疑問を持っているような風情である。 「美琴ちゃん、このホッケ、上条くんに取り分けてあげて」 「コイツなら自分でできるでしょそれぐらい」 「女の子らしいトコ見せてあげなさい、って言ってんのよ。 そもそも美琴ちゃん、何で上条くんのこと、コイツとかアンタとか、偉そうなのよ?」 「ア、アダ名みたいなもんよ!コイツだってビリビリとか失礼な呼び方するんだから!」  話が変な方に向かい始めた気配に、美琴は慌ててホッケの皿を手許に寄せる。 「ほんとに仲いいのですねー」  小萌がにこにこしながら美琴と上条を見比べる。 「まあ上条ちゃん往くところ、いつも女の子とイチャイチャしてますけどー」  ホッケの取り分けに集中しているフリをしていた美琴の動きがピタッと止まる。 (い、いつもイチャイチャですって……!? この野郎…!ってあれ?)  ふと、上条がさっきから一言も発していないのに気付く。  小萌の発言にも突っ込もうとしない。  横を見ると、上条は自分の目の前の、もう7割は飲み干したグラスを見つめている。 「な…何をそんなに凝視してんのよ」 「いや~、何かでっかくなったり小さくなったりな…ははは」 …何を言ってるのか分からない。  美鈴がガバッと乗り出すと、上条の飲んでいたものを少し飲む。 「あら、ほんとのカシスオレンジだわ。しかもちょっと濃い目ね」 「え?」 「美琴ちゃんが飲んでるカシスシロップでのカシスオレンジじゃないわ。カシスリキュールを使った…」  女性陣の目が上条に注がれる。上条は目の焦点が合わないまま、何やらフラフラしている。  誰が見ても、上条は酔っ払っていた。  ◇ ◇ ◇ 「学園都市は学生が大半ですからー、お酒を出す店が少なくて、未成年者の飲酒は未然に防がれているんですよねー」 「外じゃ飲む学生なんて珍しくない話だけど、学園都市ならではだわねえ」 「モノの値段も嗜好品は高いですからねー、ここは。頑張って缶ビール手に入れようにも高いんですよねー」 「何のんきにお酒談義やってんのよ!コイツどーすんの!?」  美琴が母親に食ってかかる。 「介抱してあげなさいよ。隣にいるんだから」  美鈴はにやにやしながら動かない。  小萌は人差し指を立てて、美琴に教師モードで話しかける。 「アルコールは、まず大脳新皮質に影響を与えるのでーす。人間の理性を司るところですねー。 そこのコントロールが効かなくなると、押さえていた本能の行動が現れるのですー。さあ、上条ちゃんは…」 (コイツの…本性!?) 「泣くか怒るか、饒舌になるかエッチになるかは分かりませんけどー、普段何に我慢してるのですかねー」 「きゃあ、エッチになって美琴ちゃん襲ったらどうしようー!親として複雑だわー」  美琴が真っ赤な顔をして口を開きかけたその時、 「あのー、全部聞こえているんですけど。…ひたすらねみい…」  上条が意外にしっかりした口調でつぶやいた。 「…先生、眠いってのは、どういう判定になるんでしょうか?」 「とりあえず、普段からやりたい事やってるということですかねー?上条ちゃんは特に何も我慢してない、と。」  確かにコイツは人の都合も考えずに自分の信念で突き進むから、我慢も何もないでしょうよ。  それにしても。理性が飛びかけてても私には興味が無い、と。  こっちは必死で感情を押さえ込んでて、理性飛んだら何しでかすか自分でもわかんないのに。  ほんとに、コイツは…  理不尽な怒りに囚われた美琴は、上条の腕を思いっきり引き倒し、ツンツン頭を自分の膝の上… 正確には腰あたりにしっかりホールドしてしまった! 「あーもう!フラフラしてないでココで寝てなさい!ふにゃけた顔してんじゃないわよ!」  上条はびっくりした顔で美琴を見上げていたが、…やがてリラックスした顔になり、 「……いつもありがとな、御坂……」  そう言うと、目を閉じて寝息を立て始めた。 「…いつもありがとう、って何よ…?」 「上条ちゃんは、普段の美琴さんの行動一つ一つに感謝してるって事ですねー。 それが愛情によるものと感じていないのが、上条ちゃんの問題点なのですがー」 「…!」  美琴は真っ赤になってうつむく。視線の先には上条の顔がある。 「うーん、でも上条ちゃんの行動パターンからすると、酔ってるとはいえ女の子の膝枕でその反応は…う~んんん」  小萌は小首を傾げる。 「な、何か…?」 「上条ちゃんはですね、女の子との接触イベントに弱いのですよー。慌てふためいて逃げるか、 何か冗談言って取り繕うような気がするのですけど、あっさりそのまま寝てしまうというのは…? もう膝枕なんてとっくに経験済みなのですかー?」  ギクウッ! 美琴の表情がこわばる。 「これはいい考察が聞けたわあ、美琴ちゃん。な~に、膝枕なんていつやったの?」 「ちっ、ちが…」 「これはウチの子猫ちゃん達を一歩リードですねえ…」 「い、いやその!私がやりすぎてコイツをケガさせたことがあって!その時に看病しただけですから!」 「さあ、小萌先生。時間はたっぷりあるので、その辺りから聞き出しましょう。生2丁お代わりしときますね~」 「はいですよー!やっぱり若い子の方がいいのですかね上条ちゃんは…先生は寂しいのです」  追い詰められた美琴は、顔をひきつらせながら無意識に手許の上条の頭をいじっていた。  先のトゲトゲは固かったが、根元は普通に柔らかかった… ――美琴が酒飲みの保護者たちに弄られること、一時間弱。  美鈴が既につぶれて、突っ伏して寝てしまっていた。が、同じ量は飲んだはずの小萌はまだケロッとしている。 「せ、先生は強いですね…」 「毎日、ビールは欠かしてませんからねー。これぐらい余裕なのですよー」 「母は弱いのに、酒好きなんですよね…こうなると絶対に起きないので、私がホテルに連れてく羽目に…」  美琴がいつもこうなんですよ、とブツブツ不満を漏らす。 「上条ちゃんも起きませんねー」  さすがに足が痺れた美琴は、上条の頭を座布団の上に移動させており、膝枕からは開放されている。  尚、上条の耳にはティッシュペーパーが美琴によって詰められており、間違っても聞かれないよう細工されていた。 「もー、平和な顔して…いつもコイツに振り回されてる自分がバカみたい…」  美鈴が沈んだ後、黒い微笑を浮かべた小萌に、美琴は洗いざらい白状させられていた。  いままで数千人の生徒を見てきている小萌には最初から見抜かれており、  更に社会心理学・環境心理学・行動心理学等の専門家である。  本気になった小萌から、美琴が逃れられるはずもなかった。  しかし、逆に全部話せたことにより、美琴は幾分気が楽になっていた。 「超能力者が無能力者に恋する、いいですねー。ただ先生はちょっと気になることがあるのですー」 「気になること、ですか?」 「恋することはイイコトです。ですが、美琴さんのようにレベル5まで極めた後に、恋をしてしまうと…」 「…してしまう、と?」 「パーソナルリアリティの『揺らぎ』が心配なのですよー。 RSPK症候群は分かりますよねー」 「ええと確か、能力者が一時的に自律を失い、自らの能力を無自覚に暴走させる状態及び現状をさ…す、って!」  美琴はギクリとする。 「まんま、今の私の状態じゃないですか!こ、コイツと会うと、たまにやっちゃいます!」 「あららー、これは放置しておくとポルターガイストを誘発しかねませんねー」 「うぅ…」 「恋愛感情、特に失恋は自己の自信喪失から、築き上げた『自分だけの現実』まで崩れてしまうケースがあるのですー」 「先生、シャレになんないです…」 「うふふ~、大丈夫なのですよー。上条ちゃんが前に進路希望調査票に何を書いたか教えてあげましょうー」 「は、はい?」  いきなり話題が変わったような気がして、美琴は戸惑う。 「『しあわせになれればなんでもいいです』、ですよ?これが上条ちゃんの望みなのです。」 「しあわせ…」 「美琴さんのそばで、そんなしあわせな顔で寝てしまってるんです。ちゃんと叶えてますよー」 「そ、そんなの!全然大丈夫じゃないです!起きている時に相手して貰ってませんから!」 「上条ちゃんが起きているときは、全ての女の子が相手して貰ってませんから、大丈夫なのです!」  美琴は結局何の安心も得られず、力が抜けた。  小萌はそんな美琴を見て、にま~っと笑う。 「美琴さんは、先生に色々話してくれましたけど、一つだけ勘違いしているようですので、言っておきますねー」 「勘違い…?」 「先生も上条ちゃんが大好きなので、恋のライバルなのですよー!」 「!」 「ライバルに手の内を全部ばらすようでは、まだまだ……あ、ちょっと電話が…」  唖然としている美琴の前で、小萌は携帯を確認し、ちょっと驚いた顔をすると、電話に出た。 『もしもし小萌ですよ! うん、うん…帰ってくるのですか! 今ですか? 実はですねー、あのレベル5の御坂美琴さんと、そのお母様とお食事してるのですよー! 上条ちゃんという私の生徒もいますけどー。…うん、そうですか、わかりました、じゃあ待ってるのですよ!』 「美琴さんごめんなさい。お世話してる子が珍しく帰ってくるみたいなので、私はこれで、なのですよー」 「あ、分かりました。母には言っておきますので、お気になさらず~」 「上条ちゃんをよろしくですよー。もちろん、末永くという意味ではないですよ?」 「あはは……」  年齢不詳の幼女先生は、どこまで本気か分からない台詞で去って行った。 (コイツはどれだけ、女の子をその気にさせてんのよ!)  - - - 「……今、御坂美琴と上条当麻が一緒に御飯食べてるってさ。…やれやれ。」 「ほほー、カミやんめ。明日はそのネタで一日からかってやるかにゃー」 「……複雑な気分は否めませんね。なかなか想いというものは割り切れない…」 「ふン…」  キャンピングカーの中で、4人組は四人四様の思いを口にする……  ◇ ◇ ◇ 「しあわせ、かあ…」  美琴は上条の顔をのぞき込む。確かに幸せそうに寝ている。  まじまじと見つめていたが、不意に不埒な考えが頭をかすめた。 (だ、ダメダメ!もし起きたらどうすんのよ!)  美琴は首をブンブンと振り、心を落ち着かせて、改めて寝ている2人を見比べる。 「う~ん」  とりあえず、上条を起こしておしゃべりするのがベストだろう。  どうしようかな、と上条の寝顔を見てるうちに、そうだ!と思い付く。 (写真…撮ろう!)  フラッシュで目が覚めたなら、それはそれでいい。  調子に乗って撮りまくっても、上条は起きる気配を見せない。 (やた♪やた♪)  コレクションが増えて行く。 (2ショット…狙ってみようかな)  並んで寝てみようとしたが、…腕枕してもらう形しか、フレームに入らない。  意を決してやってみる。 (肩が邪魔ねえ…できるだけ詰めて…と)  もはや、上条が目を覚ましたら言い訳しにくい距離になっていたが、美琴は強引に密着した。  携帯を構え、フラッシュが光ったとき…  上条がモゾモゾと動きを見せ始めた。 (あ、ヤバ!起こしちゃった!? この距離はマズイ!)  と、美琴が思ったと同時に、上条が美琴側に寝返りをうった。  顔半分の距離で腕枕、の状態で寝返り。必然的に。  上条の右腕に美琴の身体は絡み取られ、…そして美琴の横顔にぴったりと、上条の顔が密着した。 (~~~~ッ!)  美琴は悲鳴を飲み込んだ。 (キ、キス?これはそういうことになるの?ほ、頬が…あたたかい…)  いつもならありえない感触と、呼吸のしづらさに身体が疑問を感じたのか。上条は意識が戻りつつあった。 (ん…)  薄目を開けると、電灯の光が目に入る。 (消さずに寝ちまったか…)  同時に、腕のしびれを感じ、なにやら芯のある柔らかいものを抱きしめていることに気付く。  というか、俺は何に顔を押し付けて…… … ……  顔をずらし、それを確認した上条当麻は、一気に目が覚めた。酔いは既に覚めていた。  上を向いて目を閉じ、口を固く引結び、顔を上気させた…御坂美琴の横顔を確認した瞬間に。 「…はい!?」  思わず短く叫んでしまった。あの口に残る柔らかい感触は、御坂の…頬!?  美琴が口元をひきつらせ、やや顔を上条の方へ向けて、目を合わせる。  上条は耳に詰まっているティッシュを取り除きながら、心を落ち着かせる。 「あの…」 「…」 「現実を受け入れたいんで、…何があったか教えていただけないでしょうか…」 「……抱きしめられて、キスされてた…口が当たってた、の方が正しいと思うけど」  横に自分からくっついたとは流石に言えず、結果だけを美琴は口ごもりながら口にする。  上条は天を仰ぎ、右手を目の辺りに置いた。左手はまだ腕枕状態だ。 「…………これは…謝って済む問題じゃねーな…」 「…謝る必要はないわよ。不可抗力みたいなものだって分かってるし」 「いや、そういうわけには…」 「…もしそういう気持ちがあるんなら、むしろ」  そういったまま、美琴は言い淀んでいる。 「…むしろ?」 「もう1回、ちゃんと、して」 「はい?」 「わ、私にとって初めて、その、キスされたのに、そんな口が当たっただけみたいな、中途半端じゃひどいわよ」 「…」 「そ、そんなひどい思い出じゃ嫌だから、上書きしてよ、って言ってるの! アンタだって、ちゃんと意識してやった事にした方が、納得するでしょ!?」 「言ってることは分かる、分かるけどいいんかよ? こうなっちゃった以上、何でもやってみせますけどさ!」 「深く考えると恥ずかしくなってくるから、さっさとやっちゃって!」  そう言うやいなや、美琴は再び仰向けになり、目を閉じた。胸の前に手を組み合わせて。 (こうでもしないと、後であれは事故だったと言われたら悲しすぎる…)  横で上条が、身を起こす動きを始めたのを感じる。 (あ、顔を横にして頬にしやすくした…方が…!?)  美琴は、上条当麻の唇が優しく触れたのを感じた――  ただし、頬にではなく……唇に。 「~ッ! こりゃ恥ずかしいな…凄まじい背徳感が襲ってくる…」 「な、何で…」  美琴は両手で顔を覆い、足をじたばたやりだした。 「く、口じゃないわよ!ほっぺでしょ!唇奪ってどーすんのよ!」 「お、お前、初めてのキスとか言ってたじゃねえか…口じゃなかったのかよ!」 「男の人にキスされた事が、よ!ほっぺにされた事言ってるの!」 「…それじゃ、今のは、ひょっとして…?」 「正真正銘、私の……あああ! こ、こんなシチュエーションで!あぁ…」  上条は腕枕をしていた左腕を引き抜き、正座した。反省してうなだれてみた。 「大きな花火の下でとか、綺麗な夕陽を背景にとか、夢見てたのに…ああああ」  上条は違和感に眉をひそめた。  さっきから…美琴の言葉に怒気が無い? 電撃の気配も無い。 「あの、御坂さん…?」 「なによもう! ちっくしょー…」 「…相手が俺だった事には…怒ってないんでせうか?」  じたばたしていた美琴の足が、止まった。 「お、怒ってるわよ!ものすごく怒ってますとも!」  やっぱり怒気がこもっていない。  上条は両手で顔を隠している美琴を見つめ…決断した。 「すまん、ちょっと顔見せてくれ」  痺れる腕にも構わず、上条は強引に美琴の両手を引き剥がした! 「…その変な顔は、怒ってるのか?」  美琴は、好きな人からのキスで表情が緩みっぱなしで、その上で怒りの表情を作ろうと、妙な顔になっていた。 「は、離してよっ!見るなムゴッ!」  上条は暴れだしそうになった美琴の口を右手で塞ぎ、ちらっと背後を見る。 「……落ち着け!母親が起きるぞ」  その一言で、美琴はおとなしくなった。  上条は腕を掴んだまま、美琴を起こす。  美琴は顔を赤らめたまま、口を引き結んで視線をそらしている。 「…俺も初めてだったけど。あの感触は…なんかゾクゾクって来たぞ…」 「…あのシスターとは?いつもベタベタしてたじゃない」 「あれは噛 ま れ て るだけだ」 「そ、そう…初めてね、ふーん」 「…怒ってるなら全力で謝るから、こっち向いてくれ」  美琴は、顔を動かさなかった。 「……馬鹿。ほんと馬鹿なんだから」  一瞬うつむくと、腕をつかまれたまま美琴は立ち上がった。 「とりあえず考えないことにする!…帰ろ!この酔っぱらい、タクシーに詰め込むから、手伝って!」  店の人にタクシーを呼んで貰っている間に、母親の鞄をまさぐる。 「財布、財布っと…あったあった」 「先生はいつ帰ったんだ?」 「30分ぐらい前かな。教え子っぽい人から電話があって、慌てて帰っちゃった」 「そか。さて、この人は…さっきの会話、寝たフリしてて全部聞かれてた、ってことはねーよな…?」 「大丈夫よー、こうなったら大声ぐらいじゃ絶対起きないから」 ――そのあと。  ホテルの部屋まで母娘を送り届け(美琴はちょっと残って世話して行くと言っていた)、上条は帰宅した。  …上条は、出迎えたインデックスの唇すら意識してしまうようになっていた。 (やべえ、あの感触が抜けきらねえ…夢に出そうだ…)  予想通り、バスルームの中で悶々とした一夜を過ごすことに… ――そして、一方の朝。  制服に着替えていた御坂美琴に、御坂美鈴から電話がかかってきた。 「おはよう美琴ちゃん。…毎度ながら、ありがとねえ」 「ほんと毎度毎度、よく潰れるわね!ちょっとは自重しなさいよ!…もう大丈夫なの?」 「二日酔いだから大丈夫じゃない…あー、気持ち悪い」 「まあゆっくりしてから帰ることねー。あ、先生にお礼言っといてね。んじゃ私学校あるから」 「うん、そうするー。そうそう美琴ちゃん」 「ん、なに?」 「こっちでピンバッジタイプのICレコーダー買ったんだけど、性能いいのねえ。50時間以上録音できるのねー」 「ああ、世界最小をうたってるヤツね。私はその手のは使った事ないけど」  そういえば畳んだコートに付いてたわね、と美琴はぼんやりと思い出す。 「大学の講演の時にスイッチいれたまま、さっきまで切るの忘れてたのよねー」 …え? 「私酔ってたから、食事の後半なに話してたのかほとんど覚えてないんだけど、こういう時便利ねえ」 「ちょ、ちょっと…」 「あの楽しい時間がまた蘇るのね~、うふふ、楽しみ~。あ、ごめん引き止めて。学校頑張ってね~。んじゃ♪」 「だ、だめ~~ッ!!!」  ブツッ  席を外していた白井黒子が戻ると、ベッドの上でのたうち回っている常盤台のエースの姿があった… おしまい。 }}} #back(hr,left,text=Back)
*上条当麻は電気娘の夢を見るか? #asciiart(){{{ 「んもー、来るなら事前にいっとけっつの」  御坂美琴は、コートを着て寒空の中、足早に歩いている。  既に門限を過ぎているが、今回は許可を貰っていた。  母親、御坂美鈴が大学の講演を聞く側で参加するため学園都市に来ており、  それがさっき終わったので、一緒にゴハン食べよう~、という連絡を貰ったのが1時間前。  講演を聞いたらさっさと帰る可能性があったのか、美鈴からは事前連絡はまるでなかった。  実は仲の良い親子であり、また美琴は結構人恋しいタチなだけに、連絡なしは腹立たしかった。  まあ元々こういうサプライズ連絡の予定だったのだろうが… (用事入ってたらどうするつもりだったのよ!)とブツブツつぶやきながら、ずんずん歩く。  何度か来たことのある小料理屋である。学生の入りづらい雰囲気の居酒屋といった方がいいかもしれない。  美琴は引き戸の扉を開けると、その音を聞きつけたのか、小上がりから美鈴の顔がにゅっと飛び出してきた。 「あ、来た来た!」 「もー、なによ突然」  そう言いながら店に入り、靴をぬいで小さな雰囲気のいい部屋に入る。 「なんで2人なのにココなの?カウンターでいいじゃない。」 「んっふふ~」 …この美鈴の笑顔は、何か企んでいる時の顔だ。  他に、誰か来る? ――この学園都市で、美鈴が呼び出せる、美琴の知っている人間は。 「ア、アンタまさか、アイツ呼ぶ気じゃないでしょうね!!」 「ん~?アイツってだ~れ?」 「白ばっくれるんじゃないわよ!その笑いは私を困らせる顔だっ!」 「あー、あの子のこと?じゃあ、美琴ちゃんが来て欲しいって言ってるって、電話掛けるわねん♪」 「待たんかコラァ!」  美琴は赤くなりながら美鈴の腕を押さえる。 「んも~、素直じゃないんだから…。ま、誰も来ないわよ。」  美鈴は美琴を意味ありげな目で見つめながら、 「広い方がくつろげるでしょ?さ、食べよ食べよ!…メインディッシュはあの子の話になるけどね♪」 「あのね…」  『アイツ』が来ないと分かり、ちょっと残念な気分になった美琴だったが、首をブンブンと振ると、 居住まいを正して美鈴の前に座り、メニューを眺め始めた。 「…で、罰ゲームは何やってもらったの?」  美鈴は生ビール、美琴はカシスオレンジ(ノンアルコール)を飲んでいる。  小料理屋にしてはドリンクの種類が豊富なので、美琴は結構気に入っている店だ。  天ぷらをつつきながら、美鈴は早速美琴への攻撃に入っていた。 「別に。欲しいストラップを手に入れるのを、手伝って貰っただけ。」  美琴はそっけなく言う…が、顔が赤らむのを止められない。 「ふ~ん。どうすれば手に入れられるモノだったの?」 「あ、ある契約をしたらオマケで貰えるの」 「何の契約?」  美鈴は徐々に美琴を追い詰めて行く。  基本的にアドリブに弱い美琴は、ためらいながら結局まともに答えてしまう。 「携帯電話のね、とある契約をしたらね」 「だから、何の契約?」 「ペ、ペア契約っていう、その、男女でしかできない契約で、し、知り合いがアイツしかいなかったし、それで」  急に慌てだす娘を見ながら、美鈴はにや~っと笑う。 「ペア契約、ねえ?無料通話になったりするんだっけ」 「そ、それが目的じゃないわよ!目的はあくまでストラップ! そもそもアイツの番号もアドレスも知らなかったんだから、無料通話も何も、使う機会もないわよ!」  ますます饒舌になる美琴に、美鈴はにやにや笑いが止まらない。 「ああ、電話も掛けたこともない相手に、無料通話とかどうでもいい、ということね?」 「そ、そうそう」  美琴は矛盾の無い説明ができたと、カシスオレンジをぐいっと飲んで一息つく。 「…健気な美琴ちゃん見て、母さん泣けてきたわ…」  芝居っ気たっぷりに、ハンカチを目頭に当てる美鈴。 「…何が健気なのよ…」 「そもそも、ストラップ狙いってのが苦しすぎるわよ美琴ちゃん。ネットオークションでいくらでも転がってるでしょ」 「う…」  痛いところを突かれた美琴は押し黙る。 「それにペア契約なんてそうそう解約できないでしょ?美琴ちゃん、恋人できたら、どう言い訳する気?」 「こ、恋人なんて作らないわよ!女子中だと出会いもないし!」 「じゃあ言い方変えるわね。その契約やってると、あの子と恋人だと勘違いされそうだけど、そういう誤解は気にしないの?」 「別に他の人にそんな契約してるなんて言わなきゃいいだけでしょ!それに、誤解する人はさせとけばいいし!」 「…美琴ちゃん自身は?誤解されても気にしない、と?」 「…どうでもいいわよ、別に」  美鈴はわざとらしげに首を振り、 「あーあ、可哀想に。気の無い子にペア契約させられちゃってさ」 「な、何よ」 「逆に言えばあの子も恋人作れないじゃない?ペア契約なんて足かせがあると、さ。恋人に言い訳できないわよ」 「……別にイヤって言われなかったし…」  美琴はボソボソと言いつつ俯いた。 「あんないい子なのに、何で美琴ちゃんは嫌なのよ?」 「い、嫌なんて言ってないわよ!」  この流れはマズイ、と美琴は焦る。  美鈴は詰め将棋の流れを作ってきた。嘘を言えば、王手から逃げられるが、…嫌だ。  でも、このままでは。洗いざらい言わされてしまう。  しかし、美鈴は何も言わなくなった。  いつもなら、更に突っ込んでくるはずだが、少し考え込んでいる。 「ま、これぐらいでいっか。」 「…?」 「月詠センセー!そろそろ合流しましょーかー!」 「は~~い!」  返事と共に、美琴の後ろのフスマが両開きにスカーンと豪快に開き…  振り向いた美琴の見たモノは。  両手を広げて笑顔全開の幼女と、コロッケをくわえて箸を振って挨拶している上条当麻の姿があった。 「な、なんで……ぜぜ全部…聞こえてた!?」 「そっちの部屋の声なんて全然聞こえねーよ。小萌先生はちょっと聞こえてたかもしんねーけど」  上条は奥に座っていた。…確かに美琴も後ろの部屋の声はほとんど意識できなかったが、しかし…  美琴は母親に向き直り、 「まさかとは思うけど、あわよくば聞こえるんじゃないかと、そういうつもりで…?」 「当たりー!残念ながら聞こえてなかったみたいねー、あっはっはー!」 「こ、このバカ親…もし聞こえてたら、ど、どうするつもりよ…!」 「ウカツな事を話す前に止めたつもりなんだけどなー♪」 「…何の話をしてたんだよお前…」 小萌がパンパンと手を叩き、 「じゃあ上条ちゃん、あっち行きましょうー。上条ちゃんは美琴さんの横いくのですよー」 「へいへい」  ◇ ◇ ◇ (誰も来ない、なんて言葉遊びしやがってー!)  と美琴は美鈴を心の中でののしりつつ、横に座った上条に確認する。 「アンタ最初からいたのよね…?」 「ああ。最初3人で食い始めてたけど、親子で内緒話したいから、っつーんで一旦あーいう形に」 「美琴ちゃん、ラブラブになってないで…まず自己紹介が先でしょ」 「…! はじめまして、娘の御坂美琴、です。」  美琴はぐっと詰まったが、正論なので改めて幼女先生?に挨拶した。 「はじめましてですよー。月詠小萌です。上条ちゃんの担任やってるのですー」 「美琴ちゃん、今日の講演でね、この先生のが一番わかりやすくてね。お知り合いになろうと近寄ったら…」 「小萌先生の付き人やってた俺を見つけたらしくてさ。結果、こういう事になった」  上条は肩をすくめて、今度はメンチカツにかぶりついている。 「付き人?」  美琴はカシスオレンジのおかわりを頼みつつ、上条に問いかける。 「…色々あって出席日数足りねえからさ。手伝いでポイント稼ぎって奴だ」 「上条ちゃんはすぐ入院したりしちゃいますからねー。補習も宿題もサボりまくりの、困ったちゃんなのです」  あ、俺もカシスオレンジとやらで、と頼んでいた上条は、小萌先生の突っ込みに咳き込む。 「そ、そもそもレベル0の俺に補習ってのがおかしいんですってば!頑張ってレベル1になるならともかく!」 「え?絶対無理なのそれって?」  美鈴が当然の疑問を口に出す。 「私も聞きたい…コイツほんとにレベル0なんですか?」 「わずかな能力があっても、レベル1の条件を満たさなければレベル0なのですがー。 上条ちゃんの場合はシステムスキャンにかけても全く反応がないという、非常に稀なレベル0なんですねー」 「だからもう諦めましょう先生。俺は超能力なんていらないし」 「だめですよ上条ちゃん!すぐ諦める人には絶対に成功は訪れません!」  いわゆるいつものやり取りをし始めた師弟を、御坂母娘があきれた目で見ているうちに飲み物が届いた。  上条は美琴に向けてグラスを軽く上げると、美琴もグラスをコン!と合わせ、乾杯する。 (あー、こんな些細な乾杯程度で嬉しくなっちゃうとか!落ち着け私!)  美琴がちょっと幸せに浸りつつ、飲みながらチラッと上条を見ると…何やら眉をひそめている。 「? どしたの?」 「ん?いや…何でもない」  なにやらカシスオレンジの味に疑問を持っているような風情である。 「美琴ちゃん、このホッケ、上条くんに取り分けてあげて」 「コイツなら自分でできるでしょそれぐらい」 「女の子らしいトコ見せてあげなさい、って言ってんのよ。 そもそも美琴ちゃん、何で上条くんのこと、コイツとかアンタとか、偉そうなのよ?」 「ア、アダ名みたいなもんよ!コイツだってビリビリとか失礼な呼び方するんだから!」  話が変な方に向かい始めた気配に、美琴は慌ててホッケの皿を手許に寄せる。 「ほんとに仲いいのですねー」  小萌がにこにこしながら美琴と上条を見比べる。 「まあ上条ちゃん往くところ、いつも女の子とイチャイチャしてますけどー」  ホッケの取り分けに集中しているフリをしていた美琴の動きがピタッと止まる。 (い、いつもイチャイチャですって……!? この野郎…!ってあれ?)  ふと、上条がさっきから一言も発していないのに気付く。  小萌の発言にも突っ込もうとしない。  横を見ると、上条は自分の目の前の、もう7割は飲み干したグラスを見つめている。 「な…何をそんなに凝視してんのよ」 「いや~、何かでっかくなったり小さくなったりな…ははは」 …何を言ってるのか分からない。  美鈴がガバッと乗り出すと、上条の飲んでいたものを少し飲む。 「あら、ほんとのカシスオレンジだわ。しかもちょっと濃い目ね」 「え?」 「美琴ちゃんが飲んでるカシスシロップでのカシスオレンジじゃないわ。カシスリキュールを使った…」  女性陣の目が上条に注がれる。上条は目の焦点が合わないまま、何やらフラフラしている。  誰が見ても、上条は酔っ払っていた。  ◇ ◇ ◇ 「学園都市は学生が大半ですからー、お酒を出す店が少なくて、未成年者の飲酒は未然に防がれているんですよねー」 「外じゃ飲む学生なんて珍しくない話だけど、学園都市ならではだわねえ」 「モノの値段も嗜好品は高いですからねー、ここは。頑張って缶ビール手に入れようにも高いんですよねー」 「何のんきにお酒談義やってんのよ!コイツどーすんの!?」  美琴が母親に食ってかかる。 「介抱してあげなさいよ。隣にいるんだから」  美鈴はにやにやしながら動かない。  小萌は人差し指を立てて、美琴に教師モードで話しかける。 「アルコールは、まず大脳新皮質に影響を与えるのでーす。人間の理性を司るところですねー。 そこのコントロールが効かなくなると、押さえていた本能の行動が現れるのですー。さあ、上条ちゃんは…」 (コイツの…本性!?) 「泣くか怒るか、饒舌になるかエッチになるかは分かりませんけどー、普段何に我慢してるのですかねー」 「きゃあ、エッチになって美琴ちゃん襲ったらどうしようー!親として複雑だわー」  美琴が真っ赤な顔をして口を開きかけたその時、 「あのー、全部聞こえているんですけど。…ひたすらねみい…」  上条が意外にしっかりした口調でつぶやいた。 「…先生、眠いってのは、どういう判定になるんでしょうか?」 「とりあえず、普段からやりたい事やってるということですかねー?上条ちゃんは特に何も我慢してない、と。」  確かにコイツは人の都合も考えずに自分の信念で突き進むから、我慢も何もないでしょうよ。  それにしても。理性が飛びかけてても私には興味が無い、と。  こっちは必死で感情を押さえ込んでて、理性飛んだら何しでかすか自分でもわかんないのに。  ほんとに、コイツは…  理不尽な怒りに囚われた美琴は、上条の腕を思いっきり引き倒し、ツンツン頭を自分の膝の上… 正確には腰あたりにしっかりホールドしてしまった! 「あーもう!フラフラしてないでココで寝てなさい!ふにゃけた顔してんじゃないわよ!」  上条はびっくりした顔で美琴を見上げていたが、…やがてリラックスした顔になり、 「……いつもありがとな、御坂……」  そう言うと、目を閉じて寝息を立て始めた。 「…いつもありがとう、って何よ…?」 「上条ちゃんは、普段の美琴さんの行動一つ一つに感謝してるって事ですねー。 それが愛情によるものと感じていないのが、上条ちゃんの問題点なのですがー」 「…!」  美琴は真っ赤になってうつむく。視線の先には上条の顔がある。 「うーん、でも上条ちゃんの行動パターンからすると、酔ってるとはいえ女の子の膝枕でその反応は…う~んんん」  小萌は小首を傾げる。 「な、何か…?」 「上条ちゃんはですね、女の子との接触イベントに弱いのですよー。慌てふためいて逃げるか、 何か冗談言って取り繕うような気がするのですけど、あっさりそのまま寝てしまうというのは…? もう膝枕なんてとっくに経験済みなのですかー?」  ギクウッ! 美琴の表情がこわばる。 「これはいい考察が聞けたわあ、美琴ちゃん。な~に、膝枕なんていつやったの?」 「ちっ、ちが…」 「これはウチの子猫ちゃん達を一歩リードですねえ…」 「い、いやその!私がやりすぎてコイツをケガさせたことがあって!その時に看病しただけですから!」 「さあ、小萌先生。時間はたっぷりあるので、その辺りから聞き出しましょう。生2丁お代わりしときますね~」 「はいですよー!やっぱり若い子の方がいいのですかね上条ちゃんは…先生は寂しいのです」  追い詰められた美琴は、顔をひきつらせながら無意識に手許の上条の頭をいじっていた。  先のトゲトゲは固かったが、根元は普通に柔らかかった… ――美琴が酒飲みの保護者たちに弄られること、一時間弱。  美鈴が既につぶれて、突っ伏して寝てしまっていた。が、同じ量は飲んだはずの小萌はまだケロッとしている。 「せ、先生は強いですね…」 「毎日、ビールは欠かしてませんからねー。これぐらい余裕なのですよー」 「母は弱いのに、酒好きなんですよね…こうなると絶対に起きないので、私がホテルに連れてく羽目に…」  美琴がいつもこうなんですよ、とブツブツ不満を漏らす。 「上条ちゃんも起きませんねー」  さすがに足が痺れた美琴は、上条の頭を座布団の上に移動させており、膝枕からは開放されている。  尚、上条の耳にはティッシュペーパーが美琴によって詰められており、間違っても聞かれないよう細工されていた。 「もー、平和な顔して…いつもコイツに振り回されてる自分がバカみたい…」  美鈴が沈んだ後、黒い微笑を浮かべた小萌に、美琴は洗いざらい白状させられていた。  いままで数千人の生徒を見てきている小萌には最初から見抜かれており、  更に社会心理学・環境心理学・行動心理学等の専門家である。  本気になった小萌から、美琴が逃れられるはずもなかった。  しかし、逆に全部話せたことにより、美琴は幾分気が楽になっていた。 「超能力者が無能力者に恋する、いいですねー。ただ先生はちょっと気になることがあるのですー」 「気になること、ですか?」 「恋することはイイコトです。ですが、美琴さんのようにレベル5まで極めた後に、恋をしてしまうと…」 「…してしまう、と?」 「パーソナルリアリティの『揺らぎ』が心配なのですよー。 RSPK症候群は分かりますよねー」 「ええと確か、能力者が一時的に自律を失い、自らの能力を無自覚に暴走させる状態及び現状をさ…す、って!」  美琴はギクリとする。 「まんま、今の私の状態じゃないですか!こ、コイツと会うと、たまにやっちゃいます!」 「あららー、これは放置しておくとポルターガイストを誘発しかねませんねー」 「うぅ…」 「恋愛感情、特に失恋は自己の自信喪失から、築き上げた『自分だけの現実』まで崩れてしまうケースがあるのですー」 「先生、シャレになんないです…」 「うふふ~、大丈夫なのですよー。上条ちゃんが前に進路希望調査票に何を書いたか教えてあげましょうー」 「は、はい?」  いきなり話題が変わったような気がして、美琴は戸惑う。 「『しあわせになれればなんでもいいです』、ですよ?これが上条ちゃんの望みなのです。」 「しあわせ…」 「美琴さんのそばで、そんなしあわせな顔で寝てしまってるんです。ちゃんと叶えてますよー」 「そ、そんなの!全然大丈夫じゃないです!起きている時に相手して貰ってませんから!」 「上条ちゃんが起きているときは、全ての女の子が相手して貰ってませんから、大丈夫なのです!」  美琴は結局何の安心も得られず、力が抜けた。  小萌はそんな美琴を見て、にま~っと笑う。 「美琴さんは、先生に色々話してくれましたけど、一つだけ勘違いしているようですので、言っておきますねー」 「勘違い…?」 「先生も上条ちゃんが大好きなので、恋のライバルなのですよー!」 「!」 「ライバルに手の内を全部ばらすようでは、まだまだ……あ、ちょっと電話が…」  唖然としている美琴の前で、小萌は携帯を確認し、ちょっと驚いた顔をすると、電話に出た。 『もしもし小萌ですよ! うん、うん…帰ってくるのですか! 今ですか? 実はですねー、あのレベル5の御坂美琴さんと、そのお母様とお食事してるのですよー! 上条ちゃんという私の生徒もいますけどー。…うん、そうですか、わかりました、じゃあ待ってるのですよ!』 「美琴さんごめんなさい。お世話してる子が珍しく帰ってくるみたいなので、私はこれで、なのですよー」 「あ、分かりました。母には言っておきますので、お気になさらず~」 「上条ちゃんをよろしくですよー。もちろん、末永くという意味ではないですよ?」 「あはは……」  年齢不詳の幼女先生は、どこまで本気か分からない台詞で去って行った。 (コイツはどれだけ、女の子をその気にさせてんのよ!)  - - - 「……今、御坂美琴と上条当麻が一緒に御飯食べてるってさ。…やれやれ。」 「ほほー、カミやんめ。明日はそのネタで一日からかってやるかにゃー」 「……複雑な気分は否めませんね。なかなか想いというものは割り切れない…」 「ふン…」  キャンピングカーの中で、4人組は四人四様の思いを口にする……  ◇ ◇ ◇ 「しあわせ、かあ…」  美琴は上条の顔をのぞき込む。確かに幸せそうに寝ている。  まじまじと見つめていたが、不意に不埒な考えが頭をかすめた。 (だ、ダメダメ!もし起きたらどうすんのよ!)  美琴は首をブンブンと振り、心を落ち着かせて、改めて寝ている2人を見比べる。 「う~ん」  とりあえず、上条を起こしておしゃべりするのがベストだろう。  どうしようかな、と上条の寝顔を見てるうちに、そうだ!と思い付く。 (写真…撮ろう!)  フラッシュで目が覚めたなら、それはそれでいい。  調子に乗って撮りまくっても、上条は起きる気配を見せない。 (やた♪やた♪)  コレクションが増えて行く。 (2ショット…狙ってみようかな)  並んで寝てみようとしたが、…腕枕してもらう形しか、フレームに入らない。  意を決してやってみる。 (肩が邪魔ねえ…できるだけ詰めて…と)  もはや、上条が目を覚ましたら言い訳しにくい距離になっていたが、美琴は強引に密着した。  携帯を構え、フラッシュが光ったとき…  上条がモゾモゾと動きを見せ始めた。 (あ、ヤバ!起こしちゃった!? この距離はマズイ!)  と、美琴が思ったと同時に、上条が美琴側に寝返りをうった。  顔半分の距離で腕枕、の状態で寝返り。必然的に。  上条の右腕に美琴の身体は絡み取られ、…そして美琴の横顔にぴったりと、上条の顔が密着した。 (~~~~ッ!)  美琴は悲鳴を飲み込んだ。 (キ、キス?これはそういうことになるの?ほ、頬が…あたたかい…)  いつもならありえない感触と、呼吸のしづらさに身体が疑問を感じたのか。上条は意識が戻りつつあった。 (ん…)  薄目を開けると、電灯の光が目に入る。 (消さずに寝ちまったか…)  同時に、腕のしびれを感じ、なにやら芯のある柔らかいものを抱きしめていることに気付く。  というか、俺は何に顔を押し付けて…… … ……  顔をずらし、それを確認した上条当麻は、一気に目が覚めた。酔いは既に覚めていた。  上を向いて目を閉じ、口を固く引結び、顔を上気させた…御坂美琴の横顔を確認した瞬間に。 「…はい!?」  思わず短く叫んでしまった。あの口に残る柔らかい感触は、御坂の…頬!?  美琴が口元をひきつらせ、やや顔を上条の方へ向けて、目を合わせる。  上条は耳に詰まっているティッシュを取り除きながら、心を落ち着かせる。 「あの…」 「…」 「現実を受け入れたいんで、…何があったか教えていただけないでしょうか…」 「……抱きしめられて、キスされてた…口が当たってた、の方が正しいと思うけど」  横に自分からくっついたとは流石に言えず、結果だけを美琴は口ごもりながら口にする。  上条は天を仰ぎ、右手を目の辺りに置いた。左手はまだ腕枕状態だ。 「…………これは…謝って済む問題じゃねーな…」 「…謝る必要はないわよ。不可抗力みたいなものだって分かってるし」 「いや、そういうわけには…」 「…もしそういう気持ちがあるんなら、むしろ」  そういったまま、美琴は言い淀んでいる。 「…むしろ?」 「もう1回、ちゃんと、して」 「はい?」 「わ、私にとって初めて、その、キスされたのに、そんな口が当たっただけみたいな、中途半端じゃひどいわよ」 「…」 「そ、そんなひどい思い出じゃ嫌だから、上書きしてよ、って言ってるの! アンタだって、ちゃんと意識してやった事にした方が、納得するでしょ!?」 「言ってることは分かる、分かるけどいいんかよ? こうなっちゃった以上、何でもやってみせますけどさ!」 「深く考えると恥ずかしくなってくるから、さっさとやっちゃって!」  そう言うやいなや、美琴は再び仰向けになり、目を閉じた。胸の前に手を組み合わせて。 (こうでもしないと、後であれは事故だったと言われたら悲しすぎる…)  横で上条が、身を起こす動きを始めたのを感じる。 (あ、顔を横にして頬にしやすくした…方が…!?)  美琴は、上条当麻の唇が優しく触れたのを感じた――  ただし、頬にではなく……唇に。 「~ッ! こりゃ恥ずかしいな…凄まじい背徳感が襲ってくる…」 「な、何で…」  美琴は両手で顔を覆い、足をじたばたやりだした。 「く、口じゃないわよ!ほっぺでしょ!唇奪ってどーすんのよ!」 「お、お前、初めてのキスとか言ってたじゃねえか…口じゃなかったのかよ!」 「男の人にキスされた事が、よ!ほっぺにされた事言ってるの!」 「…それじゃ、今のは、ひょっとして…?」 「正真正銘、私の……あああ! こ、こんなシチュエーションで!あぁ…」  上条は腕枕をしていた左腕を引き抜き、正座した。反省してうなだれてみた。 「大きな花火の下でとか、綺麗な夕陽を背景にとか、夢見てたのに…ああああ」  上条は違和感に眉をひそめた。  さっきから…美琴の言葉に怒気が無い? 電撃の気配も無い。 「あの、御坂さん…?」 「なによもう! ちっくしょー…」 「…相手が俺だった事には…怒ってないんでせうか?」  じたばたしていた美琴の足が、止まった。 「お、怒ってるわよ!ものすごく怒ってますとも!」  やっぱり怒気がこもっていない。  上条は両手で顔を隠している美琴を見つめ…決断した。 「すまん、ちょっと顔見せてくれ」  痺れる腕にも構わず、上条は強引に美琴の両手を引き剥がした! 「…その変な顔は、怒ってるのか?」  美琴は、好きな人からのキスで表情が緩みっぱなしで、その上で怒りの表情を作ろうと、妙な顔になっていた。 「は、離してよっ!見るなムゴッ!」  上条は暴れだしそうになった美琴の口を右手で塞ぎ、ちらっと背後を見る。 「……落ち着け!母親が起きるぞ」  その一言で、美琴はおとなしくなった。  上条は腕を掴んだまま、美琴を起こす。  美琴は顔を赤らめたまま、口を引き結んで視線をそらしている。 「…俺も初めてだったけど。あの感触は…なんかゾクゾクって来たぞ…」 「…あのシスターとは?いつもベタベタしてたじゃない」 「あれは噛 ま れ て るだけだ」 「そ、そう…初めてね、ふーん」 「…怒ってるなら全力で謝るから、こっち向いてくれ」  美琴は、顔を動かさなかった。 「……馬鹿。ほんと馬鹿なんだから」  一瞬うつむくと、腕をつかまれたまま美琴は立ち上がった。 「とりあえず考えないことにする!…帰ろ!この酔っぱらい、タクシーに詰め込むから、手伝って!」  店の人にタクシーを呼んで貰っている間に、母親の鞄をまさぐる。 「財布、財布っと…あったあった」 「先生はいつ帰ったんだ?」 「30分ぐらい前かな。教え子っぽい人から電話があって、慌てて帰っちゃった」 「そか。さて、この人は…さっきの会話、寝たフリしてて全部聞かれてた、ってことはねーよな…?」 「大丈夫よー、こうなったら大声ぐらいじゃ絶対起きないから」 ――そのあと。  ホテルの部屋まで母娘を送り届け(美琴はちょっと残って世話して行くと言っていた)、上条は帰宅した。  …上条は、出迎えたインデックスの唇すら意識してしまうようになっていた。 (やべえ、あの感触が抜けきらねえ…夢に出そうだ…)  予想通り、バスルームの中で悶々とした一夜を過ごすことに… ――そして、一方の朝。  制服に着替えていた御坂美琴に、御坂美鈴から電話がかかってきた。 「おはよう美琴ちゃん。…毎度ながら、ありがとねえ」 「ほんと毎度毎度、よく潰れるわね!ちょっとは自重しなさいよ!…もう大丈夫なの?」 「二日酔いだから大丈夫じゃない…あー、気持ち悪い」 「まあゆっくりしてから帰ることねー。あ、先生にお礼言っといてね。んじゃ私学校あるから」 「うん、そうするー。そうそう美琴ちゃん」 「ん、なに?」 「こっちでピンバッジタイプのICレコーダー買ったんだけど、性能いいのねえ。50時間以上録音できるのねー」 「ああ、世界最小をうたってるヤツね。私はその手のは使った事ないけど」  そういえば畳んだコートに付いてたわね、と美琴はぼんやりと思い出す。 「大学の講演の時にスイッチいれたまま、さっきまで切るの忘れてたのよねー」 …え? 「私酔ってたから、食事の後半なに話してたのかほとんど覚えてないんだけど、こういう時便利ねえ」 「ちょ、ちょっと…」 「あの楽しい時間がまた蘇るのね~、うふふ、楽しみ~。あ、ごめん引き止めて。学校頑張ってね~。んじゃ♪」 「だ、だめ~~ッ!!!」  ブツッ  席を外していた白井黒子が戻ると、ベッドの上でのたうち回っている常盤台のエースの姿があった… おしまい。 }}} #back(hr,left,text=Back)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー